再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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行った事ないのに何も考えずシーパラ行かせたからネットや動画でめちゃくちゃシーパラ調べてました。
シーパラ行ってみてえ……。

んでもって中編です。




44.男女が二人だけで出掛けるのはもうつまりそういう事

 

 

 横浜・八景島シーパラダイス。

 アクアミュージアム入口付近。

 

 自動ドアを抜けると一気に雰囲気が変わった。

 明るすぎる事もなく暗すぎる事もない、どこか水中にいるような落ち着くBGMと共に視界に広がるのは、全体的に青暗い照明と右の壁にある水槽群だった。一気に水族館へやってきたという実感が湧いてくる。

 

 のにも関わらず、つい三分前まで高揚感の化身と化していた俺のテンションは少し落ち着きを取り戻していた。

 いいや、正確に言うと落ち着かされたと言うべきか。雑に言うと喜多さんのありがたくも怖い笑顔で説教され若干涙目である。

 

 

「清水君、今回は時間がもったいないからもう許すけど、今度言ったらもっと長~くお話する事になるからね♪」

 

「ふぁい……」

 

 目からハイライト消えた女の子の怖さを舐めていた。二次元だとむしろ可愛いじゃんこれ羨ましいなおいとか思ってたけど、やっぱり理想と現実は違うね。

 もう超怖かった。何なら店長より怖かったかもしれん。下手に手を出してこない辺りが余計怖い。あと怖い。

 

 そういやライブの打ち上げの時に喜多さんの名前の事でひと騒ぎあったって言ってたな。

 俺と虹夏さんは外で話してたから分からなかったけど、どうやら喜多さんは自分の名前にコンプレックスを抱いてるらしい。何とも喜多郁代だから来た~、行くよ~みたいなダジャレ風に聞こえるのが嫌なんだと。良い名前だと思うんだけどなぁ。

 

 まあとにかく、そんな事もつゆ知らずテンション上がって出た俺の言葉が彼女の逆鱗に触れ、水族館の中と同等なくらい俺の顔色は真っ青になった。

 人間、どこに地雷があるかは分からないもんだね。みんなも誰かの名前をイジるような事はしちゃダメだぞ。生きていたいならなっ☆

 

 

「それじゃ気を取り直して水族館見て回りましょっ」

 

「お、おう」

 

 喜多さんの一言で我に返る。気持ちの切り替え早すぎないですかね。

 俺の気持ちなんて知らないで彼女は足早に水槽の方へと向かって行った。俺も慌ててその後を着いていく。

 

 

「ねえ見て! これキイロハギだって、可愛いわね~!」

 

「可愛い、のか……?」

 

 全身黄色でおちょぼ口の魚だってさ。可愛いかどうかはよく分からん。色は綺麗だと思うけど。

 

 

「あっ、チンアナゴもいるわよ!」

 

「なんだって!?」

 

 喜多さんの指差す方を見るとチンアナゴとやらはいた。

 おいおいマジかよホントにいるじゃん! もう喜多さんの説教なんか忘れて普通にテンション戻ってきたぜおい。

 

 すぐさま俺は両手を上げて体を真っ直ぐに伸ばす。

 そして。

 

 

「チンアナゴぉ~」

 

「……何をしてるの?」

 

「いやそこはほら、さかなぁ~ってやってくれないと。流行りだぞ」

 

「そうなの!?」

 

 分からないか。流行に乗り遅れてるなんて喜多さんにしては珍しいな。

 にしても俺だけやってるとただの恥ずかしい人みたいになってるじゃん。男がするもんじゃないわこれ。せめてコーカサスオオカブトぉ~とかやっておけば良かったか。いや良くはない。

 

 そこからはもうただただ水族館を満喫していくだけであった。

 あまりにも大規模すぎるのでダイジェストで行こうと思う。

 

 

「ホッキョクグマにセイウチ、ハイイロアザラシもいるのか。お、ペンギンもいっぱいいんじゃん」

 

「こんな近くでホッキョクグマなんて普通見れないんだから、シャッターチャンスを待つわよ清水君!」

 

「俺の一眼レフが輝く時が来たようだな……。収めてやるぜ、その一枚に!」

 

 ホッキョクグマ相手にカメラ連写させたり、

 

 

「すごく綺麗……!」

 

「まるで水中をそのまま散歩してるみたいだな」

 

 頭上180度を覆うチューブ型の水槽の中をエスカレーターで進んだり、

 

 

「オオグソクムシたん! オオグソクムシたんじゃないか!」

 

「でかいダンゴムシ……うぅ、映えないから私はちょっと無理かも……」

 

「そうか? 近くで見ると案外可愛いぞ?」

 

「足がいっぱいある時点で無理なのぉ!」

 

 深海生物でてんやわんやしたり、

 

 

「清水君、私コツメカワウソと握手したい!」

 

「別料金のやつだっけか。じゃあ俺が握手してるとこ写真撮ってやるよ」

 

「きゃ~! 可愛すぎるわー! ぷにぷにしてる~!」

 

「……喜多さんのほっぺの方が何故かぷるんぷるんになってるように見えるのは気のせいか?」

 

 喜多さんの頬が文字通り落ちそうになったりとしていた。とりあえずシャッターチャンスは逃さずに済んだ。

 

 

「すごーい! やっぱイルカって賢いのね~!」

 

「どんな風に覚えさせてんだろうなああいうのって。一番最初に覚えさせた人どんだけ凄いんだ」

 

「もうっ、そんな事考えないで純粋に楽しみましょうよ! ほら、トレーナーさんがイルカの上に乗ってるわよ!」

 

「……」

 

 楽しそうにイルカショーを見ている喜多さんの横顔をこっそりカメラに収めておいた。これはこれで映える……ってやつになんのかな? 

 続いてはドルフィンファンタジーへやってきた。

 

 分かる通りイルカがいる場所である。

 アクアミュージアムよりも小さい施設ではあるのだが、入ったらそこはもう別世界となっていた。

 

 アーチ状の水槽。頭上は全て水で覆われており、先ほどの水中エスカレーターを思い出させる。

 しかしここは上から太陽光が差し込み、自然の光が水中の情景をはっきりと映し出していた。

 

 

「幻想的ねぇ……」

 

「ああ、こりゃすげぇや」

 

 自分でも上手く言葉に言い表せない程に、目の前の景色は俺達の目を奪わせるのに十分だった。

 優雅に泳ぐバンドウイルカと群れで泳ぐ魚達。本当に海中に立っていると思ってしまうくらいには見惚れてしまう光景だ。

 

 そんなアーチ状の水槽を抜けた先には、円柱の水槽があった。

 小魚達が泳いでいる中、最も目立っていたのは見慣れないのに見慣れたフォルムのあいつ。

 

 

「マンボウだ」

 

「マンボウね」

 

「どう森でサメかと思って釣ったらこいつだった時の微妙な感情を今でも忘れねえ。ヒレ付きなのに安いんだよなこいつ」

 

「ゲーム感覚の話をここでしたらダメよ清水君」

 

 あつ森ィ!! 

 というか正面から見ると意外に細くないんだな。顔の部分だけ普通の魚みたいな厚さしてる。それはそれとしてでけぇや。あんなのやサメを片手で軽々と持てる村人ってやっぱ超人なんだなあ。

 

 ドルフィンファンタジーを出て時計を確認すると、時刻は昼過ぎになっていた。

 

 

「ちょうど良い時間帯だし、一旦昼食にするか」

 

「気付かない内に結構時間経ってたのねぇ。あっ、じゃあ私行きたいお店があるんだけどいい?」

 

「ん、いいぞ。先に決めてたんならそっちの方が楽だしな」

 

 という事で喜多さんに着いていく。

 やってきたのはハワイアンカフェ、メレンゲという店。あれよあれよという間に席に案内され注文を済まし、品が来るのを待っているのだが。

 

 

「ここに来てまで映えるの意識しなくても良かったんじゃねえの? もっと海っぽいもんとか色々あったろうに、海鮮バーベキューとか海鮮丼とかさ」

 

「女子高生は映えは映えでも基本的に可愛く映えるものがいいの。ここのパンケーキは見た目もオシャレだしうってつけなのよ!」

 

「さいですか……」

 

 まあ行き先を譲った時点で俺にとやかく言う資格はもうない。

 にしても昼食なのにパンケーキで腹を満たせるもんなのかね女子高生という生き物は。メニュー表の値段を見てびっくりした。

 

 俺が頼んだハワイの有名料理ロコモコが1440円なのに対し、喜多さんが頼んだハワイアンフルーツパンケーキが1640円と、まさかの俺のより高いという衝撃。

 パンケーキに1500円以上かけるってどうなんだ。俺の感覚がおかしいのか? これが普通だったりすんの? 

 

 どうやら女子高生は服装やオシャレ以外にもお金がかかるらしい。ぼくは映えが少し怖くなってきましたよ。やっぱ景色とか撮ってる方がお金もそんなかからないし健全なんじゃとまで思ってしまう。

 そうこうしてるうちに料理がやってきた。

 

 

「これよこれ~! いいわぁ~。この角度……いやこの角度からも……!」

 

「……先食べててもいい?」

 

「うん!」

 

 パシャパシャと色んな画角で撮っている喜多さんをよそに、俺はいただきますと言ってからスマホで一枚ロコモコをパシャってハンバーグとライスを一口頬張る。

 うん、美味である。ご飯の上にハンバーグと目玉焼きを乗せるだけで何でロコモコって言うんだろうとか細かい事は気にしない。美味けりゃ良いんだ美味けりゃ。

 

 

「つうか喜多さんそれで腹膨れんの? 見た目はボリュームあってもパンケーキって結構軽い方だろ?」

 

「ふふんっ、女子の体は便利にできてるのですっ!」

 

「さいですか」

 

「あ、心配してくれるんなら清水君のそれ少し分けてくれてもいいのよ?」

 

「まあ、別にそれはいいけどさ」

 

 四分の一ほどハンバーグとライスを分けてやる。どうせなら目玉焼きの黄身も割って絡めさせるか。

 小皿に乗せて喜多さんの方へ移動させる。

 

 

「やっぱり優しいわね、清水君っ」

 

「むしろそんな事言われて分けない方が印象悪いだろ」

 

「正直にそういう事ズバッと言っちゃうのも大概じゃない? 素直って感じで私はむしろ好印象だけど」

 

 何か知らんけどポイント高かったっぽい。

 適当に食事を進めながらも喜多さんの会話スキルが高いのか、俺達の間に沈黙はなかった。パンケーキを小さく頬張りながら喜多さんがスマホのフォルダを開いている。

 

 

「良い感じに写真もたくさん撮れてるわねぇ」

 

「喜多さんのスマホのフォルダ内って九割くらい写真で埋まってそうだよな」

 

「え? 写真以外って何かあるかしら? 行きたいお店とかのスクショくらいじゃない? あとは……動画とか?」

 

「え」

 

 いや、あれ……言われてみれば一般人や陽キャのスマホのアルバム内ってどうなってんだ? 

 俺のスマホはくだらないコラ画像やゲームのスクショ画面、アニメや漫画の公式トゥイッターから時々配布される素材的な画像ばかりだ。喜多さんとは逆で写真とか動画が全然ない。

 

 なるほど、俺もどちらかと言うと陰の者側だったか……。いや友人少なくて誰かと遊びに行く事がなかったから薄々分かってはいたけどさ。

 目の前の陽キャに言われる事で嫌でも実感してしまった。これが陽キャへの壁、でかすぎんだろ……。

 

 この話題は危険だ。後藤さん程ではないにしろ少なからず俺にもダメージが来る。

 

 

「時を戻そう」

 

「それもう古いわよ」

 

 別方向からダメージを負った。

 ロコモコ食べてるのに気分はボコボコだ。

 

 こうなりゃヤケ食いしかねえ。これ以上は俺の精神が持たない。ギャップに弱いと言ってもそれはビジュアルや言動であって、こういう陽キャと中途半端な自分とのギャップに関しては弱いどころの話じゃない。

 常に急所をやられてるような感覚になってしまう。

 

 

「急に急いでどうしたの?」

 

「他に見回る時間が惜しいと思って少しでも短縮しようかなと」

 

 噓である。

 

 

「そう? 水族館はもう見終わったし、他行くにしてもまだ時間はたくさんあると思うけど」

 

「……」

 

 くそっ、こういう遊ぶ時のスケジュールというか効率を考えるのは圧倒的経験者の喜多さんの方に分があるな。

 ここで友達と遊んでこなかった弊害が来るとは……。つうかどっちみち喜多さんも食べ終わらないとどこにも行けないから俺だけ食べ終わっても意味ねえじゃん! 

 

 

「でものんびり時間潰しながら歩くのも悪くないわねぇ。じゃあこの後はアトラクションの方に行って気になる乗り物があったら乗るって感じでどう?」

 

「異議なし」

 

「なら私も早くパクパク食べなきゃね!」

 

 パクパクですわ! ってこと? 違うか、違うな。

 マックイーンはそんな事言わない。いや言いそうではあるけど。

 

 とまあそんなこんなで昼食も食べ終わり、俺達はアトラクションのある方へ向かった。

 

 

「つっても基本的には子供や家族向けのアトラクションばっかだな」

 

「案外乗ってみたら楽しいかもしれないわよ?」

 

「ああいうのって男同士とか女子同士でその場のノリとかで乗るやつだろ。あとはアホなカップルが適当にわーきゃーするためだけのリア充空間だよ。俺には恥ずかしくて合わん」

 

「カップルに恨みでもあるの……」

 

 高校生が乗るにはメンタル的に恥ずかしいのばかりのように見える。

 もっとこう、何かちょうど良さそうなものとかないのかね。

 

 

「なら刺激的な物に乗りましょうよ! 私が連れてってあげる!」

 

「もうそれでいいや、頼む」

 

 そして俺は地獄を味わった。

 喜多さんに連れられやってきたのはバイキングという、いわゆる海賊船のような乗り物に乗り傾斜65度まで揺れ動く言わば絶叫マシン。

 

 今まで修学旅行や遠足でも絶叫系というものを乗った事がなかった俺はまさしく初体験。

 だけど高校生だしこういうのは余裕だろうと高を括っていた。絶叫マシンとかちょろいわwww

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 

「きゃ~! 風が気持ちいい~!」

 

「ぎぃぃぃいいいいいいいいいいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

 喜多さん曰く、あの時乗車していた中で俺が一番声を上げていたという。

 そして。

 

 

「今度はあれ乗りましょ! シーパラのアトラクション名物、サーフコースターリヴァイアサン!」

 

「そ、それって」

 

「簡単に言えばジェットコースターよ!!」

 

「えっ、ちょ、まっ」

 

 輝く陽キャパワーは時に男子の俺でさえも余裕で引っ張られるほど力持ちになるらしい。

 為す術もなかった。さようなら世界。おはよう天界。俺は今からそちらに羽ばたくよ。

 

 

「きゃあ~~!」

 

「あかぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんッッッ!?」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「ごめんなさい清水君、絶叫系ダメだったなんて知らなくて……」

 

「うぶふぅ……」

 

 時刻は午後十六時。人気アトラクション故に待ち時間も結構あったため、空はもう夕方に差し掛かろうとしていた。

 そんな俺はジェットコースター終わりに喜多さんに肩を貸してもらいながらベンチに移動。二人で休憩なうである。

 

 

「……や、俺もまさかこんなダメだったとか知らなかったから、気にしないでくれ……」

 

 絶叫系は文字通り絶叫系だった。少なくとも俺の中の宮川大輔が出てくるくらいには叫んだ。

 横回転しだした時はマジで死ぬかと思った……。こんな怖いのかよジェットコースター……もう絶対乗らんからな……。

 

 

「大丈夫……?」

 

「ああ、多分寝不足なのもあるんだと思う。ちょっと乗り物酔いしちまったかな……」

 

「そういえばそうだったわね。楽しくてつい忘れちゃってたわ……」

 

 それについては激しく同意だ。初めて誰かとプライベートでこういうとこに来たから俺も舞い上がってたのかもしれない。

 小学生や中学の時の修学旅行や遠足、江の島の時はほぼ後藤さんの介護だったから数えん。

 

 最初は映えスポットのためと思っていたけど、何だかんだ普通に楽しんでしまっていた。

 これも喜多さんが盛り上げ上手だからか。出掛ける際に関してはほんと頼りになるな。

 

 

「ふぅ……大分楽になってきたかも」

 

「そう? せっかくだからもう少し休憩していきましょ。ほとんど立ちっぱなしだったし、疲労も溜まってるんだから無理は禁物よ」

 

「ああ、悪い」

 

 寝不足のままジェットコースターダメ、絶対。

 九月といっても海が近いから風もあって結構涼しい。木々に囲まれ、人気も少ないここのベンチは絶好のポジションかもしれない。

 

 

「……あれ……?」

 

 ようやく落ち着いて座れたからか、心地良い風と太陽の光で一気に眠気が押し寄せてきた。

 あーそうだ……眠くならんために電車でも立ってたってのに、変に自覚してしまったら戻れなくなる。忘れた頃に来るとは、恐ろしいやつめ。

 

 

「清水君、もしかして眠い?」

 

「ん……ちょっとな。でも大丈夫だよ。次どこ回るか考え」

 

「だ~め」

 

「っと……喜多さん?」

 

 立ち上がろうとしたら喜多さんに手を引っ張られまたベンチに座らされた。

 

 

「こういう時は無理したらダメよ。疲れてるんでしょ? 休む時は休まなくちゃ」

 

「いや、そうは言ったって……」

 

「時間もまだあるし、幸いここはベンチだから。ちょっとくらい寝ちゃったって平気よ」

 

「…………ん?」

 

 寝ても平気……? 何を言っとるんだこの子は? 

 

 

「え……と、寝たらダメでしょ普通」

 

「この辺は人も少ないし他のベンチも誰も座ってないから迷惑はかからないと思うけど?」

 

「にしたって……」

 

「ほら、あくび我慢しても涙目になってるからすぐ分かるわよ」

 

 バレてた。ちょっと恥ずかしい。

 喜多さんは俺に向けていた体の向きを正面へと戻し。

 

 そして言った。

 

 

「私の肩貸してあげるから、少し寝る事。良い?」

 

「………………………………………………………………」

 

 思考が止まる。

 理解が遅れた。

 

 彼女の言った事はつまり、そういう事か? 

 いやいや、そんなの。

 

 

「むむむむむむむむむむむむむむむむ」

 

「後藤さんのが移ってるわよ。いいからほらっ」

 

「なっ」

 

 首を振ってたらほとんど強引に顔を掴まれ強制的に喜多さんの顔の横へ俺の頭が移された。

 後藤さんの技が効かないなんて……まさか抗体でもできたのか!? 

 

 

「少しでも良いから寝る事。拒否権はないから」

 

「でも」

 

「これ以上は言わせないで」

 

「……はい」

 

 一瞬悪寒がした。

 何故かアクアミュージアムに入る前の事を思い出す。恐怖を植え付けられるってこういう事なんだね……。

 

 すぐ横に喜多さんの顔があるという事を嫌でも意識してしまう。後藤さんの家でウイルスにかかり腰へ抱き付かれた事もあるけど、顔と顔がこんなに近いのは初めてな気がする。

 江の島で後藤さんをおんぶした時と何だか似てるなぁ。状況はだいぶ違うけど。

 

 

「何か慣れてる風だけどさ、友達と遊びに行った時もこういう事ってあんの?」

 

「え? ……うーん、そうね~……。たまに、ね」

 

「……そうか」

 

 なら問題もそんなになさそうだな。

 軽く香水でも振ってるのか、はたまた髪の香りなのか。喜多さんからは良い匂いがした。

 

 ほんのりと甘い、それでいて落ち着くような香り。眠気に襲われているからなのか、ふんわりと包まれる感覚があった。

 あぁ、そろそろ限界だ。

 

 ほんとに、寝ちま──、

 

 

 そうして、俺の意識は薄くなっていった。

 

 

 

 

「おやすみなさい、清水君」

 

 

 

 





勝手に動いたり喋ったりするもんだから中編になった。
喜多さんのターンは次回まで続く。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:紅魔慧さん、シオアメさん、もっちーやんさん、Zztyuさん、ワタ6729さん、やまっすさん

☆9:kioriさん、〆鯖の極みさん、けん0912さん、userlame_tanさん、秋缶さん、八頭型さん、鉢鯉さん、タスマニアさん、完全無欠のボトル野郎さん、ハヤッシーXGさん

☆8:luminous19さん、TDNを崇める会さん


本当にありがとうございます!
評価数☆10が200、☆9が500まであともう少し、お気に入りも5000までもう少し!
もし少しでも面白い、早く続き見たいと思ってくれた人がいたら高評価とお気に入りよろしくね!
感想ここすきもたくさんお待ちしてるよ!
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