再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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後編なのに長くなった件。

お気に入り5000突破、☆10評価200突破、☆9評価500突破。
ありがとうございます。皆さんのおかげでここまで続けられています。




45.悩みの捉え方なんて人それぞれでしかない

 

 

 

 清水君が寝た。

 私の肩に頭を乗せたまま。

 

 実際彼に無理矢理そうさせたのは私だけど、もっと抵抗してくるかと思ってたら案外すぐに受け入れてくれた。

 多分そこまでする気力も眠気のせいでなかったんだろうな。

 

 少し顔を左に向けようとすると、ツンツンとした清水君の髪が私の頬に当たる。ちょっとくすぐったい。

 夕方に近づいてきてるとはいえ空はまだ明るく、アトラクションや水族館の方にも人はたくさんいる。

 

 だけど私達がいるこのベンチの周辺だけは人気が少なく誰もいない。まあ、景色が良いという訳でもないしここから海が一面見れる訳でもないから、ポジションとしてもお世辞にも良いとは言えない。

 ただ、今の私達にとっては好都合というだけだ。

 

 ここから見えるシンボルは目の前にそびえ立つシーパラダイスタワーのみ。それ以外には特に目立った物はなく、人通りも少ないため私達をがっつり見てくるような人もいない。

 もし見えてるのならば、きっとシーパラダイスタワーの上からだろうと思う。私達以外にベンチに座っている人がいないから、そういう意味では逆に目立っているのかもしれない。

 

 あの上から見下ろしてる人達には、私達はどんな風に見えてるのかな……なんてちょっと考えてみたりして。

 再び清水君の方を見る。彼は綺麗な寝息を立てながらぐっすり眠っている。よほど疲労が溜まってたみたい。

 

 後藤さんったら清水君をこんなにするまで勉強見てもらってただなんて、彼の苦労が計り知れないわ。

 ……でも、それも何だかちょっと羨ましいと思ってしまう自分も少しはいる。

 

 家が隣の幼馴染。近しい距離にいて近しい関係性でいられる絶対条件を二人は満たしていた。

 引っ込み思案で遠慮しがちな後藤さんと、献身的で基本的に誰にでも優しい清水君。二人を見ていると本当に仲が良いんだなって思う。

 

 困っている人を見ると放っておけない清水君と、自分じゃ何もできないと思っている後藤さんは相性がいいのかもしれない。

 周囲から見たら清水君が介護してるだけのように見えるけど、私からすれば清水君も何だかんだ言いつつ満更でもなさそうだし、後藤さんも彼を信頼してるからこそ純粋に甘えてるようにも見える。

 

 どちらかの一方通行じゃなくて、お互いにとってあれが心地良い関係性なのかなって個人的に思ってたりもした。

 その点清水君の苦労が毎回凄い事になってるのはご愛嬌なんだろうか。なのに彼は後藤さんのお世話をする事に何の疑問も持たず、いつも側にいて支えようとしているのだ。それを過保護と言わずに何と言うのか。

 

 

「……ん」

 

「清水君?」

 

 肩を貸しているとはいえやっぱりこの態勢は寝づらいのかな。ドラマとかだとみんな普通にしてるけど、あれは結局演技だし……実際座って寝ると後で首とか痛めちゃうよね……? 

 右手をゆっくりと動かし彼の頬を軽く突いてみる。

 

 

「……起きない、わね」

 

 寝づらくはあっても眠りは深いようで、それだけ疲れていたんだと改めて実感する。

 せっかく寝たのにこのまま寝づらいのを分かってて放置はしておけない。解決策がない訳じゃないけど、少し心の準備が必要だ。軽く深呼吸をする。

 

 

「……」

 

 意を決する。

 清水君を起こさないようにベンチの端までゆっくり移動しつつ、少しでも寝やすいように彼の体を徐々に倒していく。

 

 

「……ふぅ」

 

 緊張感のある一分間だった。

 割と動かしたのにも関わらず清水君が起きる気配はない。ひとまずは安心、かな。

 

 私がしているのは、俗に言う膝枕だ。

 寝づらい態勢を解決するにはこれしか策が思い浮かばなかった。さっきとは顔の距離が遠くなったけど、これはこれでちょっと思うところがある。

 

 以前、江の島へ向かう電車内で私は清水君に質問した。気絶している後藤さんの頭を自分の肩に寄せていたのを見て、誰にでもそんな事をするのかと。

 彼の答えとしては、そんな恥ずかしい事はしない。何とも思わないふたりちゃんか気を失ってる後藤さんくらいでしかやらないと。誰にでもこんな事できるのはナルシストか勘違いイカレ野郎だけだと言っていた。

 

 私だってそうだ。自分の見た目に関しては努力してるから多少可愛いとは思ってるけど、誰にだってこんな事をしない。ましてや自分から強制的にさせるなんて普段は絶対にあり得ない。友達でもそんな事はしなかった。

 なら何故こんな事をしたのか。それも女子ではなく男子の清水君に。

 

 理由は単純。普段からの労いと感謝だ。

 清水君はいつも私達のために結束バンドの活動を支えてくれている。バイト代だって自分のために使えばいいのに、少しでも私達が機材などを買う時のために貯金できるようにと自分のバイト代全てノルマ代にあててくれるほどだ。

 

 普通に考えればあり得ない。男子高校生なら自分の私利私欲のために使うのが当然で、そのためにバイトのモチベーションも高くなるはずなのに。

 彼はそんな打算も欲も一切感じさせず、ただただそれが当たり前だと思っているかのように行動している。

 

 こんな人、今まで見た事も接してきた事もなかった。

 これまでも現在も、人と関わるのが好きな私はみんなのノリに合わせつつもクラスの中心点に立ってきた。その中で色んな男子と話す事も多かったけど、みんな下心見え見えだしあわよくば付き合おうとでも思ってるのか近づこうとしてきた男子も何人かいたと思う。その度さっつーが牽制してくれたけど。

 

 けど清水君からはそういう気持ちも下心さえ全然感じなかった。

 一度結束バンドから逃げ出した時も私の悩みにすぐ気付いてくれて、本当なら全く関係ないのに一緒に謝りに行こうともしてくれた。

 

 純粋な善意からの行動。それが私には凄く嬉しかった。

 後藤さんと一緒に引き留めてくれた事も、電話で色々話を聞いてくれた時も、清水君は真摯に私と向き合ってくれたのだ。

 

 少なからず他の男子よりも好意的に思っているのは確か。

 だけどその気持ちが何なのかは、自分でもまだよく分かっていない。

 

 友愛? 親愛? 敬愛? 

 それとももっと別の何か……とも思ったけど、答えは出てこない。ラブソングは大好きだけど、経験もない以上恋心というのがどんな気持ちなのかは分からない。

 

 

「……」

 

 ただ、清水君ともっと仲良くなりたいとは思っている。でもそれは後藤さんに対しても思っている事で、つまりそういう気持ちとはまだ結びついていないんじゃないかと思う。

 私にとって清水君も後藤さんも、それにリョウ先輩や伊地知先輩みんな大事な人だから。

 

 寝ている彼の髪を少し撫でてみる。

 いつもツンツンしている髪も、撫でてる間は当然のように倒れる。それが何だか新鮮で面白くて、ついつい両手で髪全体を倒そうとしてみたりした。

 

 

「ふふっ」

 

 男の子らしいツンツン髪からストレートっぽくすると、普段より少しだけ幼く見える。

 寝顔のせいもあるんだろうけど、それが余計にそう感じさせた。

 

 

「いつもは頼もしいけど、こういう寝顔は可愛いものね」

 

 スマホを手に取り、パシャリと一つ、二つ。

 撮れた写真を見る。清水君の寝顔だけのものと、自分も枠に入って収めたツーショット。

 

 

「……な、何やってるんだろ私……」

 

 正気に戻り顔を手で扇ぐ。普通に考えて恥ずかしい事をしてるんじゃないの私……。

 勝手に撮っちゃって清水君にも悪いし……でも消すのは何だか惜しい気もする。だってこんな写真、この先二度と撮れないかもしれないんだから。

 

 

「……秘蔵フォルダに入れとけば、ね」

 

 誰にも見せる事のない、私だけが見るフォルダに分けておく。この中身を開くにはロックを解除しないといけない。つまり文字通り私だけの秘蔵フォルダだ。

 万が一誰かに見られたら清水君に迷惑掛かっちゃうし、これが正解よね。ちょっと惜しいような気もするけど、私だけの秘密にしておく。

 

 ほんの少し体温が上昇しているのが分かる。

 気を紛らわすかのように、私は結束バンドの曲を子守歌のように歌う事にした。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

「……んっ、んぁ……?」

 

「あ、起きた?」

 

 適当に結束バンドの曲を鼻歌で歌いながらスマホを触っていると、清水君が小さく声を上げながら目を開いた。

 

 

「おはよう清水君。よく眠ってたように見えるけど、どうだった?」

 

「あぁ……思ってた以上に眠れ…………」

 

 清水君の言葉が途中で止まる。

 どうしたんだろう。寝ぼけているのかとも思ったけど、何やら目が点になっているような気がする。彼は半ば人形のような目で私を凝視していた。

 

 

「……何で俺は膝枕をされているのでせう……?」

 

「………………………………………………あ」

 

 そういえば忘れてた……。これは私が勝手にした事であって清水君からすれば態勢変わってるし状況的にはかなりおかしいんだったわ! 

 えと、ど、どう言えば……。

 

 

「あっえっと……そ、その、あれなの! 清水君ったらよっぽど寝づらかったのか急に私の膝に倒れてきちゃって……変に動かしたら起こしちゃいそうだし、もうこのままでも仕方ないかなって思ってね!?」

 

 恐らく私の目はぐるぐるになっている。自分でも苦しい言い訳かと思ったけどこれしか思い浮かばなかったんだからしょうがないじゃない……。

 

 

「あー……そういう事か。ごめん、すぐにどくよ。何か悪かったな。足動かせないし辛かったろ?」

 

「え? あ、や、大丈夫大丈夫っ! 私は全然平気だから気にしないで!」

 

 思ったより普通に納得してくれてほっとした反面、喜びも照れもしないでただ本当に申し訳ないとしか思っていなさそうな清水君の態度にちょっとだけ寂しさが募る。

 今更正直に言えば良かったと後悔した。

 

 

「そ、それよりどう? 一時間くらい寝てたし、少しは疲れ取れたかしら?」

 

「おう、おかげで多少マシになったよ。色んな意味で眠気も覚めたし」

 

 色んな意味でというところが少し気になるけど変に追及はしないでおく。

 

 

「にしても一時間も寝てたんだな俺。じゃあ今の時間は……五時過ぎか。さすがに陽も傾いてきたな」

 

 太陽は夕陽へ変わりつつあった。

 ずっとスマホ見てたから気付かなかったなぁ。

 

 

「喜多さんの帰る時間を逆算すると、もうアトラクション乗ってる時間もなさそうか……。悪い、俺のせいで時間潰れちまったよな」

 

「ううん! もう乗るアトラクションもないし私も休憩できてちょうど良かったから大丈夫よ! そもそも私が寝るように言ったんだから気に病むのはなしにしてちょうだい。その方が私も嬉しいから」

 

「……そう言ってくれるとありがたい」

 

「清水君起きたばっかだし、もう少しだけここで休憩してから帰ろっか」

 

「おう」

 

 二人で目の前のシーパラダイスタワーが上がっていくのを見送る。

 何てことのない、数秒間の沈黙。それを最初に破ったのは清水君だった。

 

 

「そういや俺が寝てる間どうしてたんだ? 暇潰しとかできたか?」

 

「あ、うん。スマホ見てたからその辺りは平気よ。クラスのグループロインとか色々来てたから見てたの」

 

「あーグループロインね。何だ、連絡しないといけない事でも送ってきたのか?」

 

 清水君は自分のスマホを取り出してロインを開くと、何やら少し眉間にしわが寄っていた。

 

 

「どうしたの?」

 

「……いや、別のロインが来てただけ。クラスのグループロインはっと……何々、あん? 何か写真ばっか貼ってんな」

 

「みんなも休日を利用して各々の思う映えスポットに出掛けてるって事ね。そこで撮った展示物とは関係ない写真をここに貼って、自分達はここに来たわよ~って共有したいんだと思うわ」

 

「わざわざ殊勝なこって。陽キャは何でもかんでも共有しないと気が済まないのかねぇ。思い出を自分の中だけに仕舞っておくのも尊い青春の一つだと思うんだが」

 

「私達の写真も載せとく?」

 

「俺を殺したいの?」

 

 何がどうなってその結論に至ったのかよく分からないけど、清水君の目が本気なのでやめておく事にした。

 ……でもちょっともったいないな。

 

 

「(でも喜多さんほどの陽キャが便乗せずにいるのも不自然か?  喜多さんなら真っ先に乗っかりそうだし……。いやけどシーパラの写真なんか上げたら俺の地元って事もバレるし何より俺もシーパラの写真展示するんだからほとんど自殺みたいなもんじゃねえかちくしょうどうすりゃ違和感なくこの場をやり過ごせるんだ……!? )」

 

 凄く小声で独り言を呟いてるけど何を言ってるのかまったく聞こえない。

 とにかく悩んでる事だけは確かね。

 

 数十秒間たっぷり悩んだ清水君は、覚悟を決めたような表情をしてこちらに振り向いた。

 

 

「適当に空の写真でも載せとこう。本番まであえてスポットは隠すけど写真は撮りに行ってますよ感を出すんだ」

 

「徹底してるわね……」

 

「あくまで延命措置だけどな。俺の」

 

 最後の強調が凄いんだけど……。

 

 

「間違ってもイソスタに俺とのツーショットとか上げないでくれよ。学校外でも怯えて歩くのは御免なんでね」

 

「え~」

 

「俺の生殺与奪の権は喜多さんが握ってると思ってくれりゃいい。俺を生かすか殺すかは喜多さんの選択にかかってる」

 

「写真投稿するかしないかだけなのに問題が深刻すぎないかしら!?」

 

 清水君が大袈裟に考え過ぎてるだけなんじゃ、とも思うけどここまで迫真に言われるとあながち噓でもないかもしれない。

 じゃあ清水君がしっかり写ってる写真は投稿しないでおこう。他の写真なら……まあ、大丈夫よね? さっそく今夜イソスタに上げる写真の厳選をしなくちゃ。

 

 ブワッと少し強い風が顔にかかる。髪を押さえ反射的に上を見上げると、空が明確に朱くなっていた。

 陽が沈み始める兆候だ。昼から夕へ切り替わる時間帯。世界が暗くなるカウントダウン。

 

 同時に、私の思考も少し変化していた。木々に囲まれたベンチは周囲と比べて夕陽には照らされず、少し暗い。

 今は清水君と二人きり。話しておくならちょうど良い機会かもしれない。

 

 

「清水君」

 

「ん?」

 

 本当なら先に後藤さんに話すべき事だけど、どうしても彼の反応も気になった。

 だから。

 

 

「この前の、後藤さんが間違えて捨てた申込用紙を私が代わりに出したって話をしたの、覚えてる?」

 

 私は切り出した。

 

 

「ああ。後藤さんが棺桶で死んでた事も含めて覚えてるよ」

 

「その事なんだけどね……。ちょっと話しておきたかった事があって……」

 

「どうしたんだよ?」

 

 ほんの少し息が詰まる。

 私がこんな事を言ったらどうなるんだろう。いくら優しい彼でも怒るだろうか。いいや、後藤さんを大切に思っている彼だからこそ怒るに決まっている。いっそそうされた方が私の気持ちも少しは楽になるはずだ。

 

 

「私ね……後藤さんがわざと申込用紙を捨てたの知ってたの。悩んだ末に諦めたのもくしゃくしゃになった用紙を見て何となく分かったわ。でも、それを知ってて私が勝手に出した。後藤さんの選択を無視して。だから先に清水君にだけでも謝っておかなくちゃって思って……ごめんなさい!」

 

 座りながらも頭を下げる。

 何を言われるか分からない恐怖感と不安で胸が張り裂けそうになる。清水君は後藤さんの事に関しては過保護になる面が多々あった。

 

 怖い。この人から本気で苦言を言われるのが。自分から話しておいて体が震えそうになる。

 でも素直に受け入れなきゃ。それが私にできる最初の償いなんだから。

 

 そして、彼が口を開く。

 

 

「え、話しておきたかったってそんな事?」

 

「……え?」

 

 いっそ素っ頓狂な声があった。

 思わず顔を上げてしまう。

 

 

「何だよ。ちょっと真剣な顔になるからこっちも身構えちまったじゃねえか。緊張して損したぁ……」

 

「えっ、え? 怒らないの?」

 

「あん? 何で俺がそんな事で怒るんだよ?」

 

 本気で疑問に思っている顔をしている。

 私の決意が簡単に崩れていく音がした。

 

 

「だって私、後藤さんに嘘ついて勝手に出しちゃって……」

 

「ああ、その点についてはむしろ納得がいったよ。この前後藤さんが死んだ時の説明で変な間とかあったし、申込用紙が間違って保健室のゴミ箱に入ってたとか言ってたからおかしいと思ってたんだ。意図的ならまだしも、どう間違ったら申込用紙が保健室のゴミ箱に入るんだよって話だし」

 

「あぅ……」

 

 やっぱり言い訳にしては酷かったのねアレ。

 後藤さんはあの時のショックのまま忘れてたけど、清水君はちゃんと覚えてたのね……。

 

 

「んな辛気臭え顔すんなよ。最後だってのにそんなんじゃせっかくの楽しいシーパラ巡りが台無しになっちまうぞ」

 

「で、でもぉ」

 

「むしろ俺は喜多さんに感謝してんだ。申込用紙出しといてくれてな」

 

「え?」

 

 軽く体を伸ばしベンチから立って彼は言う。

 

 

「直前まではやる気だったのに結局最後の最後で日和ってたし、あいつには喜多さんみたいに多少強引でも背中を押してやれる人が必要なんだ。そうじゃなきゃいつまでも前に進めない。それに、バンドメンバーの喜多さんだからこそ意味があるんだよ」

 

「私だから?」

 

「おう。同じ学校で、同じギターで、ギターの師弟関係という近い距離の喜多さんにしかできねえ事だ。何より後藤さんにとっちゃ初めての学校友達だしな。あ、俺は幼馴染だから友達という枠とはまた別だぞ?」

 

 変な補完をしつつも清水君は明るい声音で話してくれる。

 私の不安なんて知らずに、彼はいつも通りの調子で。

 

 

「ちなみに何で申込用紙出したか理由は聞いてもいいのか?」

 

「あっ、うん」

 

 不意な質問で後藤さんの口癖がうつってしまった。

 確かに後藤さんの代わりに出しといたと言っただけで、私の理由は何も言ってなかった。

 

 少し恥ずかしいけど、清水君にならいいかな。

 

 

「結束バンドの初ライブの時、あったじゃない?」

 

「ウッ、あ、ああ……」

 

 何故か清水君が少しダメージ受けてるけど、そういえば伊地知先輩から簡単に聞いたんだった。確か問題行動起こしかけて店長に説教されたんだっけ。

 

 

「私達が落ち込みかけてた時、後藤さんだけがいきなりギターソロを始めてあの場の空気を一変させてくれたでしょ」

 

「だな」

 

「あの時の後藤さんの姿がどうしても忘れられないの。どうしようもない空気を一気に自分のものにしてみんなを惹き込ませた後藤さんが……私には凄くかっこよく見えたから」

 

 ライブ本番中なのに、私はあの時客席でも自分の手元でもなく、後藤さんばかり見ていた。

 いいや、見惚れていたんだと思う。あのギターを弾く姿は、いつも私に教えてくれてる時の後藤さんのように、どうしようもなく輝いていた。

 

 

「みんなにも見てほしいの! 後藤さんが本当は凄くかっこいいんだって、大人しいだけじゃなくてこんなにも魅力的な人なんだって分かってほしいの!」

 

 これはあくまで私のエゴだ。我が儘だ。

 勝手な押し付けであって、後藤さんの気持ちには全然配慮していない。私の我が儘に、リョウ先輩や伊地知先輩までも巻き込んでる。先輩達は乗り気だったけど、本質的な理由については私は騙しているに過ぎない。

 

 決して褒められるべきではない事をしている私に対して清水君は、ニヤリと口角を上げた。

 

 

「同感」

 

「清水、君?」

 

「良い事言うじゃねえか喜多さん。そうだよ、後藤さんの演奏はみんなに見てもらうべきだ。でなきゃあいつのかっこよさは理解されねえ。ははっ、やっぱ近くで見てきた喜多さんは違うな」

 

 まるで自分の事のように嬉しそうにしている彼はそのまま続けて、

 

 

「良いか喜多さん。喜多さんのやった事はナイスプレーだ。罪悪感なんて持たなくていい。それでもまだ悪いと思ってんなら、後藤さんに謝ってやってくれ。あいつも怒る事なんか絶対ないと思うけど一応な。そんで、隣であいつをサポートしてやってくれ」

 

「サポート? 私が?」

 

「ああ。ステージ上じゃ俺は何もできないかもしれねえ。けど同じステージに立ってる喜多さんならギターとしてあいつのためにしてやれる事があるはずだ。そして忘れるんじゃないぞ。ステージの上では、後藤さんだけじゃなくて喜多さんもかっこいいとこ見せないとだぜ。まあ努力の才能ぶっちぎってる喜多さんなら大丈夫だろうけど」

 

「……うん!」

 

「よし、気分は晴れたようだな。言っとくけどシーパラに来てまで悩む事でもないからなそれ」

 

 ああ……清水君はやっぱりこういう時、私が一番欲しい言葉をくれる。

 それに応えたい。後藤さんのかっこいいところをみんなに見てもらって、私ももう一つレベルを上げていきたい。

 

 後藤さんにはまた機会を見計らって謝ろう。

 今は、

 

 

「んじゃ土産でも買って帰るか」

 

「ふふっ、そうね! 最後には楽しく終わらなくちゃ!」

 

 空は朱い。

 けど私の心は青く澄みわたっていた。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 喜多さんと別れ、俺は金沢八景駅から帰路についていた。

 やけに嬉しそうに手を振ってたけど、まあ最終的に良い思い出になったのなら万々歳だ。

 

 土産も結構買えた。

 自分家と後藤さん家用に適当な食えそうなサブレやらショコラやらと何個か。あとは物があんま置いてない殺風景な後藤さんの部屋用にしんかいメンダコのぬいぐるみだ。これで少しは女の子らしい部屋になるだろ。気休め程度だけど。

 

 とりあえず今日の目標、映えスポット写真は撮れたし喜多さんの悩みも多少は解消した。

 解決するかどうかは後の喜多さん次第だ。別れ際の表情を見るに心配はいらなそうだが。

 

 歩きながらもう一度ロインの画面を開く。

 ベンチで起きた時、クラスのグループロイン以外に別のロインが来ていたのだ。後藤さんから。

 

< 後藤さん

今日

ここから未読メッセージ

 

今どこ? 11:10
      

お昼はホットケーキでした 12:46
      

あっ、今日私の家でギター練習していく……? 13:33
      

お、お母さんが晩ご飯ウチで食べていくんだよね? だって 14:51
      

あの……へ、返事は…… 15:25
      

用事いつ終わる……? 16:09
      

ゆうくん……どこ……? 16:10
      

Aa          

 

 

 いつ振りかの連投である。

 怖い。怖いよ。あと怖い。超怖い。

 

 こんなの起き抜けに見たら誰だってまだ夢の中かもって思うじゃん。

 ヤンデレ適性あるんじゃないのあの子。用事終わるまで待てんのかまったく。一応さっき駅に着いてから練習ついでにそっち寄るとは送っておいたし大丈夫だろう。

 

 うん、既読になってるな。

 家も見えてきた。どうせ母さんも父さんも後藤さんとこいるだろうし、土産はそっちで一気に渡すか。

 

 後藤さん家のドアに手を掛けると鍵は開いていた。

 そのまま開けると、玄関の明かりは点いてないのに彼女がそこに直立していた。

 

 

「あれ、何でそこにいんの? もしかして待ってた?」

 

「あっうん……もう帰ってくるってロインで見たから、待っとこうかなって……」

 

「別にいいのに」

 

 まるで飼い主の帰りに勘付いてお座りしながら待ってる犬みたいだ。

 

 

「あっえっと、ゆうくん……」

 

「どした?」

 

「あの、お、おかえり……」

 

「ん、おう、ただいま。土産買ってきたぞ」

 

 挨拶の流れで持ってた袋を置いていく。

 

 

「お土産?」

 

「ああ。ほれ、殺風景な後藤さんの部屋もぬいぐるみ置いときゃ多少マシになんだろ。メンダコのぬいぐるみだって。どうだ、結構可愛いだろ。何か不思議と後藤さんに合うって思ったんだよなメンダコ」

 

「(ゆうくんの……お土産……)」

 

 よほど気に入ったのかメンダコぬいぐるみをギュッと抱き締めている。

 うむ、僥倖僥倖。

 

 

「あっ、でも何でメンダコなの?」

 

「俺のクラスは文化祭で映えスポットの展示するって言ってたろ。それで今日喜多さんとそこの八景島にあるシーパラダイスってとこ行ってきたんだよ。水族館とかあって色んな海の生き物いてさ、すげえ面白かったぞ」

 

「…………喜多さんとって……まさか、ふ、二人で……?」

 

「そりゃな。クラスでわざわざ俺の地元に来てくれるのは喜多さんくらいだし」

 

「あ、あぁぁ……あぁあぁあああぁぁ……ああぁぁぁああぁぁぁあぁああぁぁああ!?」

 

 

 

 土曜日。

 午後六時半。

 

 後藤さんがメンダコになった。

 

 

 

 





ちょうど良い機会だから他キャラ視点で清水優人がどう見えているかという深堀りもしてみた。
明確な好意はまだ芽生えてないという感じかな。

次回はアニメ本編に戻るよ。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:白部屋さん、けだま53さん、マンボウ!さん、山本の家バージョン2さん、平男さん、甘党@アッハ~さん、ゆうなんだなぁーさん、モリネズミさん、ゼルゼルエルさん、マウンテンゴリラさん

☆9:Reliteさん、とっとこハム四郎さん、とっとこハム十郎さん、文時さん、たほーさん、FUWA雷同さん、完全無欠のボトル野郎さん、赤茄子 秋さん、夜桜乃道さん、タスマニアさん、merkava314さん、1423-aさん、桜餅の化身さん、飛龍蒼龍さん、ドングリGAさん、R1zAさん、けん0912さん、fioruさん

☆8:ジースさん、ソメイヨシノさん、虚空のかもねぎさん、山田桐生さん、モンペさん

本当にありがとうございます!
総合評価20000まで地道に頑張るよ。マジで。
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