再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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過去最高文字数になっちまった。反省。




48.人を見かけで判断してはならない

 

 

 開場してから少し経ち、トイレから戻ると既に客は150人ほどまで入っていた。

 わーお、この感じを見るにまだまだ来そうだな。

 

 とりあえず分かりやすい髪色を目印に虹夏さん達を探す。

 後藤さんは意識的に影を薄くするので、探すなら虹夏さん達の方が見つけやすいのだ。さすがにこの人だかりだと半径十メートルの気配察知はできても的確な位置までは掴みにくい。

 

 おっ、いたいた。

 信号機トリオは目立つ髪色をしてるので分かりやすいな。

 

 

「あ、優人くんおかえり~」

 

「もう結構人入ってますね」

 

「うん、200人は余裕でいきそうだねぇ」

 

 別に疑ってた訳じゃなかったけど、本当にきくり姐さんのバンドは人気のようだ。

 行きの電車でもリョウさんがコアなファン多めとか言ってたっけか。じゃあある意味洗練された精鋭達って事だよなこの人達。顔面踏まれたり酒ぶっ掛けられたりとかしても平気な猛者の集まりという訳ね。そう思うとちょっと怖いな。

 

 

「あれ、虹夏さん達もうドリンク交換してたんですね」

 

「人が入場しきる前にしといた方がいいと思ってね。優人くんも今のうちに行ってきたら?」

 

「そうしてきます」

 

 と言ってもドリンクカウンターの方は人が結構並んでいる。少しかかりそうだな。

 こうしてる間にも人が入ってきているので、足早に列へ並ぶ。

 

 数分後にはドリンクを貰ったが、その時にはもう結構な人数がいた。

 ちなみにドリンクはレモンソーダだ。スターリーよりもソフトドリンクの種類が多くてちょっと迷ったレベル。スターリーももう少しレパートリー増やせばいいのに。

 

 そんな事を考えながら後藤さん達の元に戻ろうとした時だった。

 

 

「ねえ、そこの茶髪のツンツン頭」

 

 背後からそんな声がしたのだ。

 しかしここで振り返ってもし俺じゃなかった時の事を考えると、変に恥ずかしい思いはしたくないので振り返らないでおく。周囲には茶髪の人なんて大勢いるし、それこそツンツン頭なんてこういうライブハウスにはたくさんいるし、きっと俺じゃない。そもそも知らない声だしね。

 

 よし、戻ろう。

 

 

「ちょっとっ、貴方の事よ! 私を無視するなんてどういうつもり!?」

 

 今度はもっと近い距離、すぐ後ろで同じ声がした。え、マジで俺なの。知らない声なんですけど……。

 仕方なく恐る恐る振り返ってみる。まるでホラー映画のワンシーンのように。

 

 振り返った先に、声の主がいた。

 というか俺を睨んできてた地雷系(推測)ツインテールだった。うわーお、やっべ。

 

 

「いや、俺の事だとは思わなくてつい……」

 

「……ふんっ、まあいいわ。とにかく話があるからちょっとこっち来なさい」

 

「すいません、知らない人に着いていったらダメって親に教えられてるんばぁッ!?」

 

「いいから早く」

 

 ぐっ……おぉ……!? 

 な、何でバンドマンってのは人の話聞かずにすぐ襟掴んで引っ張るヤツばっかなんだぁぁぁ……ッ!? 

 

 

 連れてこられたのはメインステージとは逆にあるコミュニケーションラウンジ、ザ・ロフトという場所。通称『深海』と言うらしい。

 ソファなどが置かれており、休憩や文字通りコミュニケーションの場として使用されるスペースだ。ガイドマップに書いてあった。

 

 ライブがもう少しという事もあり客はみんなそっちに集中し、ここには俺とツインテールしかいない。

 奥にはバーフロアがあり、その奥にはバーステージもあるが、そこにも人はいなかった。本当に二人きりらしい。

 

 ずっと睨んできてたし嫌な予感というか、面倒な予感しかしないんだけど……。

 強引に連れてきたという事もあり、最初に切り出してきたのは向こうからだった。先ほどと同じように鋭い目つきのままで。

 

 

「貴方が清水優人よね」

 

「違います」

 

「やっぱりね。貴方に話が……ってえぇ!?」

 

「人違いのようなので俺はもう行きますね。失礼します」

 

 この際引っ張られた事に関しては不問だ。目先の事で食いかかるよりも、もっと先を見据えて面倒事から離れる方が最優先である。

 だって睨まれてたんだから絶対ロクな事にならないじゃん。変なイチャモン付けられるくらいならさっさと逃げた方が得策ってね。

 

 

「あっ、そうなの……それは、悪い事したわね……」

 

「じゃあそういう事なんで」

 

「……でも待って……貴方さっきゆうきゅんとか呼ばれてたわよね……? 自分でも清水優人って言ってたし……ってじゃあやっぱり貴方が清水優人じゃない!」

 

「チッ、バレたか」

 

「確信犯!?」

 

 訂正。この人意外とおもろいかもしれん。

 適当な嘘で乗り切れそうになるとか割とポンコツ系なのか? 

 

 

「噓付くとか私に失礼だと思わないの!?」

 

「初対面相手に睨みつけるわ強引に連行するわ強気のタメ口だわ自分の名前も名乗らんわで、どっちが失礼なのか考えたらすぐ分かりそうですけど」

 

「うぐぅ……!」

 

 レスバよっっっっっっっわ。

 会心の一撃、入っちゃったね。ちょっと涙目のまま睨みつけてきてるんだけど。くっころ女騎士みたいになってる。

 

 やっぱおもしれー女かもしれないこの人。

 面倒な予感は現在進行形でめちゃくちゃするけど。

 

 

「で、あなたの名前は? こっちはもう知られてるみたいですけど一応、俺は清水優人。高一です」

 

「……大槻ヨヨコ、高二よ。……って私の方が年上じゃない! タメ口でも問題なかったじゃないのよ!」

 

「そこは普通に初対面なら歳関係なく強気なタメ口とか言わんでしょ。最低限の礼儀ですよ」

 

「うぐぅ……!」

 

 何だこの人嚙み付くだけ噛み付いて来てすぐ何も言い返せなくなるじゃん。

 ちなみに虹夏さんとの初対面は向こうが先に名乗ってくれて年上だとすぐ分かったのでノーカンだ。あと天使だ。

 

 つうかこのままじゃ話が進まらない。

 

 

「ライブももうすぐなんで手短にいきましょう。大槻さん、俺に何の用ですか」

 

「そ、その前に……清水優人。貴方、その顔のケガとかはどうしたのよ……大丈夫なの?」

 

「ん? ああ、クラスの男子ほぼ全員と殴り合ったんですよ。その勲章です」

 

「なぐっ……!? そ、そう……やるじゃない……」

 

 何で一歩後ずさる。そっちから連行しといて今更怖がられてもこちらが困るんですけど。

 

 

「今から私の話を聞いても何もしないって約束はできる!?」

 

「話によりますけど、その言い分からしてそういう事言おうとしてるんですか?」

 

「女性を殴るのはダメなんだから!」

 

「俺は基本男女差別しない派なんで。結束バンドのみんなに何かしようもんならさすがに黙ってはいられないですよ。なーんて、冗談言ってみたりぃ!」

 

「ヒィッ……!?」

 

 あれ、冗談のつもりが余計怖がらせてしまった。俺また何かやっちゃいました? 

 最初はずっと睨んできてどれだけ気の強い人なのかと思ってたけど、ちょっとからかい甲斐あって面白いんだよなこの人。チワワかと思った。

 

 悪印象は既にない。むしろ今までいなかったタイプの女性でおもしれー女って感じがする。

 

 

「ほら大槻さん、何かするつもりなんて一ミリもないですから、用件を言ってください。そのために連れてきたんでしょう」

 

「うっ、そ、そうね……。なら言わせてもらうわ!」

 

「はいはい」

 

 ようやく本題だ。

 はてさて、何を言われるのやら。初対面から好感度マイナスっぽいし、多分きくり姐さん辺りかな。じゃないとここまで睨まれてる理由が分からん。

 

 大槻さんは俺に向かってまるで真実はいつも一つと言いたげ風に勢いよく人差し指を向けてきた。

 

 

「清水優人、貴方に廣井姐さんは渡さない!」

 

「いやいらんけど」

 

「なあっ……!?」

 

 そんな何を言ってるんだこいつは……みたいな目で見られても。

 

 

「最近は特に清水優人と後藤ひとりとかいう人の話ばかりするのよ姐さんは! 今まで私と仲良くしてくれてたのに!」

 

「……ちなみにどう仲良くしてくれてました?」

 

「シャワー貸してとかご飯奢ってとかお金貸してとか……ずっと私を頼ってくれてたのよ!? それを貴方と出会ってからはたまにご飯作ってきてくれるだのいつも介抱してくれるだの電車賃くれただのって……それってつまり私から姐さんを奪おうとしてるって事でしょ!? そんなの許さないんだから!」

 

「……」

 

「何とか言ったらどうなの! ……って、えっ、な、泣いてる!?」

 

 これが泣かずにいられるかよぉ! 

 この人めっちゃたかられてんじゃん! カモにされてんじゃん! しかもそれに全然気付いてないじゃん! こんなのってありかよ!! 

 

 

「失礼ですけど大槻さん、友達います?」

 

「えっ!? あ、当たり前じゃない! えっとぉ……ら、ライブに来てくれるみんなでしょ……あとは、トゥイッターのフォロワー……とかも入るわよね……?」

 

「入らんけど」

 

「……が、楽器屋さんの店員は……!?」

 

「ノー」

 

「うぅ……」

 

 彼女は崩れ落ちた。

 さっきから不思議と感じていた既視感の正体がようやく分かった。

 

 この人後藤さんとは別種のぼっちかもしれねえ。

 変に話せる分、口調と態度、目付きのキツさで誰も寄ってこないタイプのコミュ症だ。

 

 当時後藤さんのために色々調べてたから何となく分かる。

 人を傷付けない大人しいタイプの後藤さんと、攻撃的な発言で誤解を与えやすい大槻さん。同じコミュ症でも方向性が真逆なんだ。さっき俺の顔のケガを心配してくれた辺り、根は優しいのは分かったからいいけど。

 

 友達いないからきくり姐さんみたいな人でも頼られると承認欲求が満たされ、その関係が友達だと錯覚してしまう悲しい思考の持ち主。

 しかも当のきくり姐さんは最近スターリーに来ては俺が介抱という名の面倒ばかり見るせいで入り浸り、若干放っておかれてる始末。

 

 はっきり言って可哀想だ。さすがに同情してしまう。

 そして、何故俺の周りはこんな人ばかり集まってしまうのだろう。もっとマシな、普通の子はいないのか神様。

 

 

「大槻さん」

 

「何よ……」

 

「きくり姐さんに関しては俺も見たくて面倒見てる訳じゃないんだ。誰かが見とかないとどこで何しでかすかゲロ吐かれるか分かったもんじゃないから、仕方なく俺が面倒見てるだけなんだよ。別に大槻さんからきくり姐さんを奪おうなんてこれっぽっちも考えてない。マジで、ガチで。むしろ最近は店長と出禁にするか本気で話してた事もあったし、何なら今日警察に通報されてたんだ。だから安心してくれ。それと、金の貸し借りや一方的に奢るだけの関係は友達じゃなくてただのカモだから。そこは気を付けるべきだぞ」

 

 もうこれ以上ないくらい優しい目で慰める。

 この人は唯一の友達と思っているきくり姐さんが俺達に奪われると思ったからこんな事をした訳だ。そんな事はあり得ないのに。

 

 だが、つまりはその勘違いを正し、ついでにきくり姐さんとの関係を少し考えさせる事で改善に向かえばと思っている。

 これでわだかまりも消え、大槻さんの俺に対する態度も少しは変わ──、

 

 

「姐さんはそんな人じゃないわ!」

 

 らなかった。

 むしろちょっと地雷踏んだ説まである。

 

 

「いつも私を見つけると笑顔で近づいてきてくれるもの!」

 

「ご飯奢ってもらおうとしてるだけでは」

 

「駅まで一緒に帰ろって誘ってくれるんだから!」

 

「電車賃貰おうとしてるだけでは」

 

「家で音楽の話しようかって言ってくれるんだから!」

 

「シャワー借りてあわよくば泊まろうとしてるのでは」

 

「だから姐さんはそんな人じゃないわよ!」

 

 いやめっちゃそういう人ですよ。と言いそうになった口を閉じる。

 これ以上は火に油だ。余計に燃え上がらせる事はすべきではないだろう。

 

 唯一の友人関係と呼べる代表がきくり姐さんの時点で改心とか無駄な話だったかもしれない。

 そもそもの基準が違うのだから、そこにズレがあったとしてもデフォルトからは動かせないのだ。

 

 初対面の俺にいきなり睨みつけて連行するほどだもんな。

 きくり姐さんの事を友人先輩枠というか、ほとんど教祖扱いしててもおかしくないぞこれ。

 

 

「……姐さんは、かっこいい人なんだから!」

 

「ああ、それについては同感」

 

「……え? で、でも随分と見下すような事言ってたじゃないっ」

 

「普段はね」

 

 ほんと、普段はあんなにダメなのになぁ。

 

 

「けどふとした時にかっこいいとこ見せてくるからズルいんですよきくり姐さんって。確信めいた事っていうか、いきなり核心に迫るような事を突然言ったりとか、そういうギャップにやられたんですよ。路上ライブで演奏する姿も凄かったし。あとは雰囲気が幼馴染に似ててつい面倒見ちゃうって感じです」

 

「ふ、ふ~ん……少しは分かってるじゃない」

 

 別に噓ついてる訳じゃないけどちょろすぎやしませんかねこの人。

 後藤さんとは別の意味でちょっと心配になってきたんだが。

 

 

「でもそのきくり姐さんって呼び方は気に食わないわ! 私の方が先に廣井姐さんって呼んでたのに、何で清水優人の方が下の名前で呼んでるのよ!」

 

「オオツキンもきくり姐さんって呼べばいいじゃん」

 

「私は尊敬してるから姐さん呼びなの! あと急に馴れ馴れしいわね!」

 

 ふむ、こちらから一歩踏み寄ろうとすれば突き放すような言い方をしてくるのか。

 変に距離を詰めるのはこの人には逆効果なのかね。後藤さんならすぐ調子乗って心許すのに。

 

 

「とりあえずヨギボーさんが心配してるような事はないから安心してください」

 

「ヨヨコよ!」

 

「きくり姐さんもここがホームって言ってるし、何だかんだ新宿FOLTがあの人の居場所だと思うんでもっとヒヨコさんが構ってやればいいんですよ。もちろん甘やかすんじゃなくてもっと対等にですけど」

 

「ヨヨコよ!」

 

 何でこんな面白いのに友達できないんだろうこの人。ツッコミもできるし不思議でならないんだが? 

 多分こういう人なんだって理解される前に向こうから離れてしまうか他人を寄せ付けないのが原因なんだろうけど。

 

 それできくり姐さんの悪癖に騙されてるの不憫すぎん? 

 今までまともに関わってくれる人もいなかったのかな。下手すると後藤さんもこうなってた可能性があったとか? いや、あの子は優しい子だからこんな当たりキツイ話し方とか絶対しないわな。

 

 

「フンッ、まあ貴方の事については大体分かったわ。今日のところは見逃してあげる」

 

 リアルで見逃してやるとかそんなセリフ言う人本当にいるんだな。

 

 

「でも次はないからね! 私の方が姐さんと仲良いんだからもう調子に乗らないように!」

 

「乗った覚えないんだけどなぁ」

 

 レモンソーダを一口飲む。適度な酸っぱさと甘みが口に広がり、冷たい炭酸が刺激してくれる。美味え~。

 

 

「まあその話はもういいわよ。……それにしても貴方、結束バンドの何なの? メンバーではないんでしょ。マネージャーって訳でもなさそうだし」

 

「きくり姐さんから聞いてるんじゃないんですか?」

 

「詳しくは聞いてないもの。きょ、興味もないからね!」

 

「はあ」

 

 じゃあ聞かなくてもよくない? とか聞いたらまたツンツンしそうだよなあ。

 

 

「何なんでしょうね。一応結束バンドの手伝いといか、あの人達を支える立場にいるとしか言えないです」

 

「なにそれ。そんな中途半端な立ち位置にいて何がしたいの」

 

 う~ん、耳が痛いな。何がしたい、か。

 結局深く考えないまま今も結束バンドを支えるとか虹夏さんの夢を手伝うとか、そういう曖昧なポジションに収まったまま俺はあの人達の側にいるけど、俺の立ち位置は依然不透明のままだ。

 

 メンバーでもなければマネージャーみたいなものでもない。傍から見ればただ何となくいつも一緒にいるのは見るけど演奏はしない謎の人になっている。

 確固たる理由が自分でも見付けられないままなのだ。だけど、それでも何がしたいという問いに対して答える事があるとするならば。

 

 

「結束バンドみんなの笑顔が見たいから、とか?」

 

「はあ? そんなの勝手に喋って笑い合ってたらいいだけじゃない」

 

 おいそういうとこだぞ。

 

 

「それもそうっちゃそうなんですけどね。ライブが成功してみんなで笑い合う、休憩時間とかに他愛ない話をして笑い合う、何か嬉しい事があって喜び合う。あの人達のそういう顔が見れるなら、俺は何だってできるししてやるつもりです」

 

「変なの。結局貴方のポジションは曖昧なままじゃない。それで将来もしバンドが売れたところで、そこに清水優人の居場所はないかもしれないのよ」

 

「分かってますよ」

 

 店長にも同じような事を言われた記憶がある。

 それでいて、俺の返答は今も昔も変わらない。

 

 

「俺は望まれてここにいる」

 

 あの人達が言ってくれたからバイトを辞める事もなく、俺はみんなの側にいる事ができる。

 近くで後藤さんを見守る事ができる。

 

 

「だから色んな夢を叶えて、俺が手伝える事や支える必要なんて一つもなくなって望まれる事がなくなった暁には、俺は喜んで結束バンドから去ります」

 

 その時は、きっともう俺がいなくても後藤さんは結束バンドのみんなと一緒にやっていけるようになっているだろうから。

 適当にスターリーで働くか音楽系の仕事に就く事も視野には入れている。

 

 まあ、今のところはみんな俺を何かしらの形で養おうとしてるみたいだけど。

 それは男としてどうなんだ……。まあまだ深く考える必要はないかな。いうて高一だし。

 

 

「……思った以上にぶっ飛んだ考え方してるのね」

 

「褒めてます?」

 

「半分は」

 

 もう半分はどうなんだよおい。

 

 

「ったく、本当ならここで貴方をこてんぱんに言いくるめて姐さんにちょっかいかけないようにするつもりだったのに、何だか拍子抜けだわ。思ったよりも悪い人でもなさそうだし」

 

「こっちはヨポポさんが睨んでくるから逃げようとしてたんですけどね」

 

「ヨヨコよ! その流れいつまで続くの!?」

 

「ほら、ボケとツッコミって仲良くなるためにもってこいって言うじゃないですか。知らんけど」

 

「えっ、そ、そうなの……!? これをしてれば仲良くなれるの!? ふ、ふ~ん……貴方、私と仲良くなりたかったんだ……」

 

 大丈夫かこの人。

 人間関係築くのほんと下手そうだな。

 

 というかこの人の目を見てると何だか違和感がある。

 何だ……? もうちょっと近くで見ないと分かりづらいな。

 

 

「えっ? な、なにっ? 何で急に近寄ってきてるの!? 顔近い! な、仲良くって、もしかしてそういう意」

 

「あー、目付き悪いと思って勘違いしてたけど、ヨっさん寝不足なのか。目の下に軽い隈できてますよ」

 

「…………え? ……あっ、あ~~~うん、明日ライブだから……あんまり寝れなくて……というか寝てなくて……。というかヨッさんだけはやめて!?」

 

「徹夜かよ……。なるほどね、だから目がキマッて睨んでるように見えてたのか」

 

「貴方を見てた時は睨んでたわよ」

 

「ほんとそういうとこだぞ」

 

 確か俺の鞄に買ったばっかのやつがあったような。

 ガサゴソと自分のトートバッグを見ると、

 

 

「お、あったあった。はいこれ」

 

「? なにこれ」

 

「アイマスク。通学時間の問題でたまに授業中寝る時とか使うんだ。結構熟睡できるからオススメだよ。ちなみに使い捨てだから安心してくれ。まあないよりかはマシでしょ。女の子なんだからちゃんと寝た方がいいぞ」

 

「あ、えっと……ありがと……」

 

 うん、これで問題解決。

 俺も安心してライブが見れるってもんだ。……ん? ライブ? 

 

 

「あ、あの……もし貴方がどうしてもって言うなら……わ、私のロインID教えてあげてもい」

 

「うわっ!? もうライブ一分前じゃねえか!? 絶対人で埋まってるだろうし合流できんのかこれ!? 悪いヨホホさんっ、俺もう行くわ! またな!」

 

「いわよ……ってちょ、えぇ!? ねえ! わ、私のロイ」

 

 ヨボボさんの声も聞かずにメインステージの方に移動する。

 すると案の定、フロアは人で埋め尽くされていた。

 

 

「……これ合流できないやつじゃん」

 

 照明も暗くなり、観客の歓声が湧きたつ。

 せっかく一緒に楽しみにしてた後藤さんと見れると思ってたのに急なぼっち感が凄い。何だこの空間の中には確実に友人がいるのに会えないという心細さは。

 

 ちくしょう、大槻さんに付き合ってる時間が長すぎたか……。

 おもしれー女だったと同時にめんどくせー女という称号を勝手に進呈しておくとしよう。

 

 そうこう考えてるうちに、幕が上がった。

 きくり姐さんのベースから入り、イライザさんのギターと志麻さんのドラムが後を追いかけるように音を奏でていく。

 

 ……な、何だ? この音楽……いや、ジャンル? 

 聴いてると心が変に揺さぶられるというか、少しばかり不安や焦燥感を駆られるような曲調に聴こえる。ああもう、こういう時に後藤さんかリョウさんがいれば解説とか聞けるのに! あとで絶対聞いてやる……。

 

 それにしても、聴いてるとだんだん癖になってくる曲だ。

 あまり聴いたことない曲調、主観だがリズムも取りづらそうなのにみんな完璧に演奏できていて、何よりきくり姐さんが全てを支えているんだとひと目で分かるカリスマ性。

 

 誰も彼もが目を離せず、演者と観客全てが一体となれる空間。きくり姐さんが客席に飛び込み、みんながそれを支えているのがまた一体感を演じているように見えた。

 これがライブ。これがバンド。これが……音楽……! 

 

 自分の手が微かに震えてる事も自覚せず、俺はライブが終わるまでステージに釘付けとなっていた。

 

 

 ────

 

 

「……あれ? ライブ、もう終わっぶぇあっ!?」

 

 あまりにも集中して見ていたせいか、ライブが終わった事も気付かずに突っ立っていると客の波が押し寄せてきた。

 やばいっ、俺がいるのは後方だったから自然と客はこっちに来るんだった! 

 

 この流れに逆らえねえ。ていうか逆らったらむしろ危ないか!? 

 仕方ない、ここは一旦波が落ち着きそうなとこまで行くしかないな……! 

 

 

 

 と、一度出口付近まで戻された俺はようやく中に戻ってこれた訳なのだが。

 その間に揉みくちゃにされるわ、落ち着いたと思ったらまたヨヨヨさんと出会って無言でロインふるふるされて友達追加されるわ、それで彼女がぷるぷる震えながら喜びを噛み締めてるのを見てこちらがむしろ泣きそうになるわでボロボロであった。

 

 そして急いで楽屋に戻った俺は、

 

 

「え、何この空気。何できくり姐さん正座させられてんの? 何で壁ちょっとへこんでんの? 何で若干良い雰囲気なのみんな。……もしかして色々終わった? 後藤さんの文化祭いやいや期解決しちゃった?」

 

「したよ」

 

 虹夏さんの抑揚のない声を聞いて、俺は叫ばずにはいられなかった。

 

 

「何で!? 本当なら俺もいて心理描写とかこう、良い感じにまとめながらきくり姐さんと一緒に後藤さん諭して問題解決の流れになるはずだったのに! 大事なとこカットされたみたいになってるじゃん! 俺何もしてないじゃん! 不在の間に大事なこと解決してんじゃん!?」

 

「それより優人くんさ」

 

「くそう、やはり面倒事に巻き込まれるとロクな事がねえ。こっちはさっきのライブの余韻まだ残ってて後藤さんと一緒に語りたかったのに一人で見てたから不完全燃焼のままなんだよ! なのに正座してるきくり姐さんのせいで冷めつつあるこの気持ちどうすりゃいいんだ!?」

 

「オ~、ユウきゅん私と一緒にアニメの話しヨ~!」

 

「どこにいたの?」

 

「…………ふぇ?」

 

 あまりにも黒い声がしてそちらを見ると、笑顔を浮かべた虹夏さんが俺を見ていた。

 おっと……これはちょっと、俺がやばい状況かもしれない? 

 

 

「ドリンク受け取りに行くだけなのにそんな時間かかるはずないよね? どこにいたの? 誰といたの?」

 

「えっとぉ……に、虹夏さん? そんな、誰といたのって……俺は一人でライブ見てたって言ったじゃないですかやだな~も~」

 

 イライザさん空気読んで。今俺の手を握ってぶんぶん振ってる場合じゃないから。アニメ見ようじゃないから。こんな時でも天然可愛いですねあなた。

 

 

「嘘だよね?」

 

「噓でしょ?」

 

 喜多さん参戦しちゃった。

 どうしよう逃げ場ないかな。いっそここから全速力で逃げればワンチャンないか? ないな。おまけに俺の信用もないな。

 

 

「で、誰を引っ掛けてきたの?」

 

「めちゃくちゃ人聞き悪い言い方してません!?」

 

「あの、彼の言い分も少しは聞いてあげた方がいいんじゃ……」

 

 志麻さんナイス!! ナイスアシストですよ! 

 大人のあなたが言ってくれる事で虹夏さん達も冷静さを取り戻すはず。そうすりゃ俺にも助かる術が出てくるってもんだ! 

 

 

「そうですよ! まずは俺の言い訳も聞いてく」

 

「優人くんは何の理由もなくいなくならないし、突然消えた時は大抵女の子絡みなの知ってるんだからね」

 

「それに言い訳って言った時点で認めたようなものよ優人君」

 

 嫌な汗が止まらない。

 人の圧ってこんなにも目に見えるものなんだなー。

 

 

「「正座」」

 

「え?」

 

「「正座」」

 

 有無を言わせないとはこの事か。二人は腕組みしながら既に俺を見下ろそうとしている。

 くっ……こうなったら最終手段だ。背に腹は代えられねえ! いつだって俺の味方をしてくれるのはこの子だけだ。

 

 

「後藤さんヘルプ!!」

 

 幼馴染に助けを求める。

 彼女なら俺を優先してくれるはずなんだ。そう、俺は後藤さんを信じている! 幼馴染が困ってたらそれを助けるのが幼馴染だもんなあ! 

 

 そして、ピンク色の少女は小さく口を開いた。

 

 

「ゆうくん……せ、正座して」

 

「…………はい」

 

 神は俺を見放した。

 

 

「あはは~! ゆうきゅんも正座させられてる~! 私とお揃いだね~!」

 

「何も嬉しくねえ……」

 

 

 この後、俺はこってり絞られた。

 ヨヨコさんとの事は何とか知られずに済んだけど。

 

 

 

 





オオツキン良いよね。
短く出すつもりがガッツリ出しちった!


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:miya4miyaさん、リュティさん

☆9:コースさん、ガルシェさん、Toufuiinaさん、けん0912さん、タスマニアさん、シロ組さん豆腐隊隊長パイ~ンさん、KYBMさん、さんジーさん

本当にありがとうございます!
高評価はもちろん感想ここすき無限に欲しいので良かったらしてってね~!
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