再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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アニメ一期も終わりへ向かう。




53.夢を叶え夢を失う

 

 

 

 スターリーへ向かう道中の事。

 

 

「もっと貴重な素人メイドさん達を堪能したかったのに……何で塵になってたんだ俺は……!」

 

「さっきからずっと悔しがっては落ち込んでるね」

 

「よほど目に焼き付けておきたかったんでしょうね」

 

 もうっ俺のバカ! 後藤さんの名前呼んだくらいで灰になりやがって、もっと精神力鍛えとけよボケが! いや正式にはちゃんと名前で呼んでないけど。

 

 

「そんなにメイド見たいならどっかお店行けばいいじゃん」

 

「ノー! あなたは何も分かってないですぜ虹やん!」

 

「誰が虹やんだ」

 

「プロのメイド喫茶なんて行こうと思えばいつでも行けるけど、高校の文化祭という舞台でぎこちなさを感じさせつつも頑張って可愛く接客してくれるメイドさんはあそこでしか見れないんですよ! 分かりますかニジヘン!」

 

「ジミヘンみたいに言うな。う~ん、確かに分かるような分からないような……」

 

 きびきびと動いてご奉仕してくれるプロなんざいくらでもいるのだ。

 けど今日の俺はご主人様のために頑張ろうと緊張しながらご奉仕してくれるメイドさんを求めていた。それでもし失敗しちゃっても全然許しちゃう。ご主人様は寛容なのだ。

 

 

「それなのに俺はたかが後藤さんの名前を呼んだくらいで気絶するなんて……」

 

「呼べてなかったけどね。秘湯さんって温泉みたいに言ってたけどね」

 

「この際時戻しの能力とか会得するしかないか……?」

 

「今の優人君なら本当に会得しそうで怖いわ……というかそこまで執着してる事がちょっと怖いわ」

 

「これが可哀想なオタクだよ喜多ちゃん」

 

「哀れ優人」

 

 何か知らないうちに結束バンドからの好感度下がってるように思えるのは気のせいですかね。

 こっちは好きな気持ちに正直なだけでしょうよ! 引かれる覚えはない! 

 

 

「わっ私はゆうくんの好きなものへの気持ち、真っ直ぐで……良いと思うっ……」

 

「おー分かってくれるか後藤さんっ」

 

「ふへっ……だ、だからもう一回だけな、なま」

 

「君だけだよ俺の味方は……。よぉ~し、今度そっちの家で特大ハンバーグ作ってやるからな! 楽しみにしとけ!」

 

「えっあっ……」

 

 さすが毎日ギター六時間練習してる子は言う事が違う。

 好きなものに一直線って素晴らしいよな。俺の場合はメイドというよりも可愛いコスプレ系全般好きだけど、きっとバンドで言うロックの種類の違いみたいなもんだから実質一緒だよね! 

 

 

「……はぁ……ねえ、優人くん」

 

「はい?」

 

 何やらため息を吐きながら虹夏さんが俺のトートバッグに指を差してきた。

 

 

「優人くんのカメラのデータ、ちょっと見てみて」

 

「え、あ、分かりました」

 

 どういうことだ? まさか勝手にデータ見られたとか? 

 いやでも見られて困るようなものなんて撮ってないはず……。それこそ基本結束バンドのみんなかたまに景色撮るくらいだし。

 

 スターリーの入り口付近にやってきた辺りで、俺は自分のカメラを起動した。

 

 

「優人くんが灰になった後だけど、ぼっちちゃんのクラスの子に頼まれてあたし達もメイド喫茶手伝ったんだ」

 

「はあ」

 

 繁盛してたんだろうか。虹夏さん達ならライブハウスとはいえ接客対応はできるだろうし、それなら俺も邪魔にならないようゴミ袋に入れられていたのも納得できる。

 というか客の立場なのに手伝ってあげるの普通に優しいな。天使かやっぱ。

 

 おっと、今はカメラの確認だ。

 

 

「だからその時にね、あたし達も結局メイド服着ることになったんだよ。それで記念にその写真を優人くんのカメラで何枚か撮ってもらったの」

 

「神かッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「うるっせえ!? いきなり入ってくるなりやかましいんだよアホ優人!!」

 

 中に入りカウンターの方に下りてきたところで俺は崩れ落ちた。

 カメラのデータにあったのは俺の知らない写真。しかし、そこには確かにメイド服を着た虹夏さん、喜多さん、リョウさんがいた。あとついでに後藤さんも。

 

 なにこれ何のサプライズ!? こんな事あっていいの? 俺ゲームに負けたのに実質ご褒美貰ってるんですがいいんでしょうか!? 

 メイドさんの写真とかこんなんお金払わないといけないやつじゃん! ……お金? そうか、お金か。

 

 

「……え、いやこの千円はなに優人くん」

 

「献上品でございます。お受け取り願います」

 

「ご主人様がメイドに献上品渡してどうすんの。立場逆転してるじゃん」

 

 いやだってこんな素晴らしい物貰っておいて何もしないのは俺の流儀に反するから……。

 危ない危ない、カメラのデータでこの破壊力だもんな。後藤さんだって心の準備しながら少しずつ慣れていけたからまだしも、もしいきなり生で見ていたら俺はまた灰になってたかもしれん。ある意味助かったといえよう。

 

 

「メイド喫茶で働かされたのにギャラも貰えなかったしちょうど良い。苦しゅうない。虹夏、いらないなら私が虹夏の分も貰っといてあげる」

 

「どさくさに紛れて奪おうとするな! というかリョウほとんどイスに座ってて何もしてなかったでしょ! 貰う資格一番ないから!」

 

「何してんのお前ら……。男に貢がせてんの? ウチそういう店じゃないからやめてほしいんだけど」

 

「お姉ちゃん違うから! 優人くんの気持ちが爆発しちゃっただけでいつものぼっちちゃんとやってるコントと変わらないからね!?」

 

 俺いつも後藤さんとコントしてると思われてたの。そっちのが驚きなんだけど。

 

 

「リョウも返す! あくまで記念なんだからお金のやり取りはなしだよ!」

 

「推しに貢ぐのはファンとして当然なんですよ虹夏さん! スパチャと一緒です!」

 

「すぱちゃ……? はよく分かんないけど、とにかくダーメ。優人くんだってもっと自分のためにお金使いなさい。ほら、さっさと明日のライブの練習始めるよ~!」

 

「虹夏さんは聖母なのか……?」

 

「勝手にウチの妹を母にすんじゃねえ」

 

 スタジオに向かう後藤さん達を見送っていると頭上から軽い脳天チョップをお見舞いされた。

 

 

「姉は暴力的なのに……」

 

「おう私を目の前に良い度胸だな。褒美にヘッドロックの刑にしてやるよ」

 

「あががががががっぎ、ぎぶっギブギブッ!?」

 

「……あん? お前、この指……」

 

 何度もタップしてようやく解放された。

 普通こういうのって冗談ですぐやめるもんだろ!? 何でこの人本気で締めにきてんの!? しかもガチでキマッてたし! 

 

 

「はぁ、はぁ……なんすか……?」

 

「……や、何でもない。それより今日はお前バイト一時間くらいでいいから。それ終わったらスタジオ行ってあいつらの練習見てきていいぞ」

 

「え、何でまた急に?」

 

 どういう風の吹き回しなんだ? 

 

 

「別に今日は忙しくねえしな。お前がいなくても全然まわる」

 

「何か言い方トゲありません? ……いや、まさかツン発動中ですか? デレ発動なんですか? どっちですか?」

 

「うっせ。さっさと掃き掃除始めろっ」

 

「へーい」

 

 相変わらず素直じゃないんだから店長は。リアルな天然ツンデレなんて希少種だよなあ。

 うーん、ツンデレメイド喫茶もありだな。店長とかも結構似合ったりして……や、気に入らん客いたら容赦なく蹴り飛ばしそうだからなしか。

 

 その後も特に何も起こることなくフロアの掃除が終わり、控え室の掃除でもするかと思ったところでふと思い出した。

 

 

「店長~、楽屋の掃除ついでにちょっと電話してきてもいいですか?」

 

「スピーカーするなりイヤホンするなりして手を動かすならな」

 

「分かりました~」

 

 許可を貰ったのでさっそくまだ誰もいない楽屋へ。

 イヤホンをスマホに差して耳に着ける。ちなみに俺がワイヤレスイヤホンじゃないのは無くしそうで怖いからだ。高いのに無くしたらダメージでかいだろあんなん。

 

 とまあそんな事は置いといて、ロインを開いてから相手のアイコンをタップしロイン通話の画面になる。

 メッセージを送るだけでも良いんだけど、直接聞いた方が早いし通話にした。ライブは明日だし急すぎるかなとも思ったがまあ聞くだけ聞いてみよう。

 

 通話ボタンで相手にかけると、およそ二十秒くらい経ってから反応があった。

 よし、出たな。

 

 

『……あっ、えっと……も、もしもし!? いきなり電話かけてくるなんてどういう事よ! ……ま、まあ別にどうでもいいけど? ……で、貴方が私にいったいな、何の用なの!?』

 

「おー、ヨッちゃん。突然なんだけど明日用事ありますー?」

 

 そう、相手は後藤さんと真逆タイプの真性ぼっち、ボヨヨさんだ。あれ、ヨヨボさんだっけ。

 まあいいや。今日も当たりの強いお言葉でありますなぁ。

 

 

『ヨッちゃん言うな! 何よ……用事って』

 

「明日ウチの高校で文化祭があって、そこで結束バンドがライブするんですよ。だから良かったらヨーやんも来ないかなって思いまして。もちろん用事あるなら全然断ってもらって大丈夫ですよ。いきなり誘ったこっちが悪いんで」

 

 この前の会話から結束バンドに良い印象は持ってなくても、多少の興味くらいは持ってくれてるかなと思って誘ってみたが、さすがに急すぎたかな。

 数秒間の沈黙の後、ヨーやんからの言葉があった。

 

 

『……明日は曲作りの打ち合わせがあるの。だから行けないわ』

 

「あちゃ~、それは仕方ないですね。すいません、いきなり電話して用件言っちゃって。もしかして今も何か準備中でしたか?」

 

『インスピレーションが降りてこないかって思ってたとこだから別に気にしなくてもいいわよ。……それより、行けないって言ったけどそれは別に私が結束バンドに興味あったけど行けない訳じゃなくて予定があるから行かないだけだし……そこは勘違いしないでよね!』

 

「ああもうそういうのいいんで。分かってるんで」

 

『何が!?』

 

「曲作りの邪魔しちゃってすいません。陰ながら応援してます。では」

 

『ちょ』

 

 ティロンッという通話の切れる音がする。

 最後に何か言いかけてたっぽいけど、かけ直してこないという事はさほど大事なことでもなかったんだろう。

 

 きくり姐さんは後藤さんが誘ったってこの前聞いたし、ファン一号二号さんにはロインでもう伝えてあるから基本は大丈夫かな。

 ウチの家族も後藤さんの家族も見にきてくれると言っていた。直樹さん達は台風の時来られなかったから余計張り切ってたな。まあこれで少なくとも後藤さんが誰にも応援されないという残念な展開にはならなさそうだ。

 

 やる事も終わったしぱっぱと掃除終わらせて後藤さん達のとこに行くか。

 

 

 

 

「なにこの空気」

 

 スタジオに入ったら虹夏さんとリョウさんがお互い睨みあって火花をバチバチさせていた。

 

 

「あっに、虹夏ちゃんがMCでも上手く盛り上がらないかって話になったんだけど、リョウさんが面白いバンドのMCとかないって、ファンが空気読んで愛想笑いしてるだけとか言っちゃって……それで……」

 

 なるほど、つまり不毛な争いということか。

 あとリョウさん、言って良い事と悪い事がある。それ絶対一番言っちゃいけないやつだから。ちゃんとMC面白いバンドもいるからね。きっと。

 

 

「はいはい、両者睨み合いはそこまでです。虹夏さん、MCはもっと場数踏んでから色々考えましょう。明日はとりあえずその場に合わせて無難な感じが良いかと思います。ウチは基本ノリの良い学校なんで、リョウさんみたいにやらかさない限りはお通夜状態になる事とか多分ないですよ」

 

「今私の心にクリティカルヒットしたんだけど」

 

 知らん。

 因果応報だ。

 

 

「今は明日の練習しましょう」

 

「うん、それもそうだね。よし、そんじゃ最後に通しでやってみよっか! いくよー!」

 

 もはや俺がスタジオでみんなの練習を見ることも自然となり、今では誰も意識することがなくなった。

 虹夏さんの合図で練習が始まる。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 通しの練習が終わる。

 全員ひとしきりの汗をかき、それが集中していた事への説得力を増している。

 

 見ていた限りおかしなとこもなく、みんな以前より曲の完成度も上がっていてむしろレベルは上がってるように思えた。

 だけど、それより気になったのは。

 

 

「どうかした、後藤さん?」

 

 後藤さんも違和感に気付いたのか、俺と同じように喜多さんを見ていた。

 俺でも分かるほどに喜多さんのギターが上手くなっているのだ。この前リョウさんにもギターを教えてもらうって言ってたけど、その努力が如実に表れている。

 

 以前のようにギターを弾く事に集中しすぎて下ばかり向いていた頃とは違う。

 自信を持って演奏しながらちゃんと前を向いて歌えるほど余裕ができていた。この短期間でまさかここまで成長するなんて……喜多さん、家でも相当練習してるんじゃ。

 

 

「あっい、いえ、あの……ライブ、少しでも盛り上がるといいですねっ」

 

「うんっ絶対楽しんでもらえるって!」

 

 そういや後藤さんには隠れて練習してること言ってないんだったか。

 まあ後藤さんの場合そんなこと言ったら自分の教え方が下手だったんじゃ、とかネガティブモードに入るの確定してるし、喜多さんが言わないのであれば俺も黙っておこう。

 

 

「うんうん、ぼっちちゃん頼りにしてるよぉ~?」

 

「私達が自信持たなきゃだからね! みんな後藤さんにビックリしちゃうかも!」

 

「え、いや、それは……」

 

「絶対するわよ! だって後藤さんは凄く……」

 

 喜多さんが何か言いかけていた言葉を呑み込んだ。

 

 

「……ううん、何でもない! 明日頑張ろうね!」

 

「えっ……あ、はいっ」

 

 ビックリした。愛の告白でもすんのかと思った。

 俺の中の桜トリックが目覚めそうになったぞ危ねえ。俺には後藤さんはかっこいいって言えてたのに本人の前では言えないの、本心からそう思ってるって事なんだろうな。リョウさんにはすぐ言えるのに。

 

 

「優人くんも何かあったら頼りにしてるからね~!」

 

「何かってなんすか」

 

「何かは何か! それよりちゃんと最前列で見ててよね~!」

 

 意味が不明すぎる。ライブ始まったら俺何もできないんですが……。

 

 

「じゃあ今日はこれまで! 明日の本番に備えて各自早く寝ること!」

 

 そうして、文化祭ライブに向けた最後の練習が終わった。

 

 

 

 その帰り道。

 

 

「いよいよ明日か」

 

「う、うん」

 

 金沢八景駅に着き夜空を眺めながら歩く。

 

 

「文化祭でライブするって、後藤さんの夢だったもんな。どうよ、夢が一つ叶う気持ちは」

 

 ふとそんな事を口にした。

 理由や夢の大小はどうあれ、後藤さんの夢は一つ一つ叶えられている。だから単純に聞いてみたかったのだ。

 

 

「……す、凄く緊張するけど、今はみんなと演奏できるって思うと……夢がどうのというよりは、楽しみになってきた……かな」

 

「へえ、結構前向きな考えになってきたじゃん。良い兆候ですなぁ」

 

 バンドを組んで人の前に立ちたいのに立ちたくないという矛盾を抱えていた以前の彼女からすれば、今の言葉は紛れもなく成長した証だ。

 後藤さんからそんな言葉が聞けるなんて……俺も保護者として嬉しい限りですよまったく。

 

 

「……でも明日の事を考えると今でも心臓飛び出しそうなくらいドキドキする……」

 

「物理で出てきそうな雰囲気出すのやめて」

 

 君の場合マジで心臓出てきてもおかしくないからね。

 まあ数年拗らせた陰キャ思考が数ヵ月で元に戻る訳もないよなあ。

 

 

「あ、そうだ。今日は俺そっち寄らずに帰るから」

 

「え? ギターの練習していかないの……?」

 

「今日は明日のために早く寝ろって虹夏さんに言われたろ。俺はともかく後藤さんはステージに立つんだからちゃんと従うべきだ」

 

「あぅ……」

 

 小動物にみたいに落ち込まないでほしい。俺の中の庇護欲が暴れちゃうんで。

 

 

「俺は俺で今日はギターの弾き方とか色々見直す事にするよ。最近は譜面も少し分かるようになってきたし、簡単なものなら何とか弾けるからな」

 

「ゆ、ゆうくんの上達速度早すぎる気が……」

 

「そうか? まあ興味あるのとないのとじゃやる気も違ってくるからモチベの問題だろ。俺からすりゃ毎日六時間練習できる後藤さんや喜多さんの上達速度の方がすげえと思うわ」

 

「えぇ? そ、そんなことないよぉ……うへへ……」

 

 ほんとすぐ調子乗るなこの子。

 

 

「とりあえず明日のライブ、楽しみにしておくよ。ついでにギターヒーローの力も出せるように願っておくか」

 

「うっ……が、頑張る……あっ、急に胃と心臓が拒否反応を……!?」

 

 どうやら無理そうですね。

 初ライブ終えてまだ二ヵ月経ってないし、焦る事もないので現状今できる最大限の力を発揮できればそれでいいか。

 

 てかドッドッドッドッて聞こえるのもしかして後藤さんの心臓の音か。

 キングエンジンかと思った。

 

 

「落ち着け落ち着け。俺が悪かったから。そうだよな~、今の後藤さんは言うなればあれか。陰の実力者か。訳あって本当の力を発揮できない実力者」

 

「陰の……実力者……!」

 

 ちょっっっっっっっっっろ。

 サンキュー、シド・カゲノー。中二的ワードは後藤さんにとって大好物だったらしい。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 そんな訳で翌日。

 秀華祭二日目が始まった。

 

 他の軽音部がライブ中の中、俺達は体育館のステージ裏で最後の出番待ちをしていた。

 

 

「今日お姉ちゃんも来るってぇ!」

 

「そうなんですか! 私達がどれだけ成長したか見てもらえるって事ですね!」

 

 姉が来ると知ってちょっと嬉しそうにしてる虹夏さん可愛い。

 何だかんだ彼女も姉っ子なんだな。さすがママであり妹であり結束バンドの姉と全属性網羅してるだけある。もはや虹夏さんは概念。

 

 結束バンドの出番は13:30。

 もう次に控えてる中、一人イスに座っている後藤さんは目を瞑り瞑想している……はずもなく、どうせまた妄想してるんだろう。

 

 

「へへっ……にへへ~へへっ」

 

「また一人の世界に入ってますね~」

 

「優人、ぼっちは何の妄想してるの」

 

「おそらくこの体育館の中にレコード会社の人がいて、あわよくば見初められ現役女子高生バンドのメジャーデビュー。ニュースに取り上げられて伝説となり満員御礼の武道館ライブしてるとこかと」

 

「めちゃめちゃ細かい!?」

 

 俺クラスになると後藤さんの妄想世界を視る事ができる。

 その場のシチュエーションに合った妄想しやすいからおおよその見当もつくしな。

 

 

「優人君、後藤さん起こしてあげて。もう行かなきゃ」

 

「分かった。ほれ、起きろ後藤さん。サクセスストーリーはここからだぞ」

 

「んあっ!?」

 

 周りに他の人もいる状況でそんな声上げて起きるな。変な注目浴びるだろ。

 虹夏さん達は既に移動していて関係者は俺と後藤さんしかいなかった。普通に置いてかれてる件について。

 

 逃げるように後藤さんとステージ脇まで移動し虹夏さん達に合流する。

 前のバンドももうそろそろ終わる頃合いか。

 

 

「前のバンド盛り上がってるね~」

 

「この曲今年ヒットしましたしねぇ」

 

「バンドのライブでペンライト振り回すとか」

 

「そこは許してやってくださいリョウさん。このステージ出てるのバンドだけじゃないので最初からそのまま振ってるんですよ。むしろペンライトを振ってる=ノッてくれてるという解釈にしときましょうや。お通夜よりマシでしょ」

 

「ぐぬぬ、確かに……」

 

 よほどトラウマだったんだなマジで。素直にダメージ入るじゃん。

 

 

「うぅ、緊張してきた~!」

 

「喜多ちゃぁん深呼吸! ぼっちちゃんはぁ、大丈夫?」

 

「はいっ!!」

 

「ぼっちちゃん、半年前までは完熟マンゴーだったのにこんな強い顔できるようになったんだねぇ……」

 

「いやあの力強い返事的に絶対逆ですよ。こういう時の後藤さんボリューム調整できないんでおそらくテンパってます。ほら」

 

「え?」

 

 ドッドッドッドッ! という音と共に後藤さんの心臓がドラムみたいな音立ててる。

 キングエンジンならぬボッチエンジンだ。たまにマジの心臓出てる分、本家よりやばい。

 

 

「結束バンドさーん、間もなくですー!」

 

「はーい!」

 

 お、いよいよか。

 

 

「ぃよしっ! んじゃ円陣でも組んどくー!? 手合わせておーってやるやつしよっか!」

 

「いいですね!」

 

「えぇっ……」

 

「暑苦しい……」

 

 この二人ほんま。

 空気読む事に関してはド下手の領域超えてんな。

 

 

「みんな左手ね!」

 

「はい!」

 

 渋るリョウさんと後藤さんを虹夏さんと喜多さんが声をかけて促す。

 っと、俺もいつまでもここにいちゃマズいな。

 

 

「じゃあ俺は客席の方に移動するんで。頑張ってください」

 

「え? 優人くんも一緒にやろうよ!」

 

「俺は結束バンドじゃないんで場違いなだけですよ。代わりに最前列で見とくから最高のライブ見せてくださいね」

 

 そう言って返事を待たずにステージ脇から客席の方へと向かう。

 後ろのドアの向こうから小さくおー! という声が聞こえた。

 

 

 

「わお、結構いるな……」

 

 いざ客席へ来たらスターリーよりも遥かに多い人が集まっていた。

 そりゃ文化祭だし集まるかとも思ったが、みんな席を立ちステージの前の方へ寄っている。

 

 ははっ、変な心配とかは杞憂だったかな。

 俺も急いで最前に行かないと。

 

 何とか客をかき分けながら後藤さんがステージに立つポジション前まで移動していくと、何故かその付近でいきなり人混みがなくなっていった。

 んん? どゆこと? 後藤さんの負のオーラが周囲に人を寄せ付けなくさせたか? 

 

 そんな事を思いながら行ってみると、元凶がいた。

 

 

「うわでた」

 

「やっほーうゆうきゅ~ん! わらひも来たよ~!」

 

「店長何でこの人入れたんですか何で酒飲ませたんですか」

 

「会った時にはもう飲んでたんだよ……。しかも体中のそこかしこに酒を隠し持ってやがった」

 

 何やってんだよこの学校の警備員は! 酔っ払いとかある意味一番のトラブルメーカーだろ。

 ……いや、世紀末ボーイズが入れる時点でお察しか。こっちは酒飲んでないってのに頭痛くなってきた。

 

 そりゃ周囲の人が避ける訳だわ。こんな酒臭いヤツ例え女の人でも近くに寄りたくないもの。

 校内にいれば真っ先に不審者扱い待ったなしだよこれ。

 

 

「うぃ~、今日は楽しんでこぉ~!」

 

「せめて今日くらいはお酒控えてほしかったな~もぉ~!」

 

 そうこうしてるうちにステージの幕がゆっくりと上がっていった。

 当然いるのは結束バンドの面々だ。

 

 それにより、悪い意味で注目されていた視線はステージの上へと向けられる。

 

 

「「喜多ちゃ~ん!」」

 

 聞こえる声援はほとんどが喜多さんへ放たれている。

 さすが一年の人気者、ほぼ全部女子の声援なのが凄い。喜多さんも手を振ったりして程よく緊張は解けているようだ。

 

 でもって後藤さんは……うん、見るからに分かってましたよ感満載で口角が引き攣ってるね。

 誰からも声援がないと思ってるんだろうけど、そもそも彼女は忘れている。

 

 彼女自身の家族と俺の家族が来ている事に。

 

 

「おねえちゃ~~~ん!!」

 

 おそらく左の方。そこから後藤さんの家でよく聞く声が耳に入ってきた。

 

 

「がんばれ~~!!」

 

「ひーちゃんファイト~!」

 

「ひとりちゃんぶちかませー!」

 

 ふーちゃんと一緒に後藤家の皆さんと俺の両親が一緒にいるようだ。

 めっちゃ声でかい。父さんもっとボリューム落としてくれ頼むから。

 

 

「「ひとりちゃ~ん! 頑張って~!」」

 

 俺の少し後ろの方にはファン一号二号さんもいた。

 ロインでも絶対に行きますと返してくれた時にはさすが後藤さんのファンだと感嘆したものだ。

 

 そして。

 

 

「おぉ~いぼっちちゃ~ん頑張れ~! あ、見て見て、今日は特別にカップ酒ぇ~! かっこいい演奏頼むよ~! うぇーいうぇいうぇーい!」

 

「(酒臭っ……)」

 

「(やばい人入ってんじゃん……何で横の男子も止めないんだろ……)」

 

 やばい人認定された人が俺の隣で騒いでいる。

 どうしよう、一緒にいる俺まで評価下がっていきそうなんだが。

 

 これ以上好き勝手させるのはさすがに放っておけないか。

 

 

「店長、コブラツイスト!」

 

「これに関してはお前に全面同意だから言う事聞いてやる。テメェもそろそろいい加減にしとけ!」

 

「せ、せんばい……ギブ、ギブ……!」

 

 いいぞ、さすがシメるとなったら容赦がねえ店長だ。

 そのままやっちゃえバーサーカー! 

 

 どこかの骨が折れる音がしたと同時にようやく静かになった。

 それを合図にボーカルの喜多さんが口を開く。

 

 

「あー、私達結束バンドは、普段は学外で活動してるバンドです。今日は私達にも、みんなにとっても良い思い出を作れるようなライブにします!」

 

 校内でも人気のある彼女の言葉は、体育館にいる全ての人を惹き付けるように紡いでいく。

 

 

「それで、もし興味が出たらライブハウスにも見に来てくださいね~!」

 

 喜多さんの友人らしき人達が一斉に返事をし、それに続くように他の人達も声を上げていた。

 やっぱり陽キャな彼女は喋るのも得意らしい。しかもボーカルだし面白さはともかくとして喜多さんは案外MCに向いてるかもしれないな。

 

 声援が止む。

 空気が変わっていく。

 

 ライブ特有の、演者も客も静まる数瞬の沈黙。

 高揚感と緊張感が辺り一帯を支配し。

 

 結束バンドのギターボーカルが狼煙を上げた。

 

 

「それでは聴いてください!」

 

 俺の前に立っている少女もまた、前を見据える。

 そして。

 

 

「結束バンドで──」

 

 

 

 少女の夢が、産声を上げた。

 

 

 

 

 






次回からはアニメ最終回だぁ~。
11月から書き始めたからちょうど1クール分で終わりそう?


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:高雨さん

☆9:琺瑯さん、Ryonganさん、タスマニアさん、モチモチこしあんさん、完全無欠のボトル野郎さん、オヒゲさん、待宵月さん、週膳緋葉さん、イキョウさん

本当にありがとうございます!
高評価感想ここすきくれたらモチベ上がっちゃうぞー!


以前感想で主人公の髪がどれくらいツンツンしてるのかって聞かれたので、自分でもイメージしやすいようにキャラ作成メーカーで清水優人のイメージ画を作りTwitterの方に上げてみました。
もし興味のある方は軽い気持ちで覗いてやってください。
※あくまで大体こんな感じというイメージ画なので、こんなのは清水じゃねえ! というクレームは無しの方向で! 思ってても心に仕舞っておいてね!
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