再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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アニメ最終回突入!




54.転がるぼっち、落ちる後藤

 

 

 

 ドラムスティックがリズムを刻み、後藤さんのギターと虹夏さんのドラムが最初に助走を鳴らす。

 喜多さんが観客に手拍子を促しながら一体感を一気に作り出し、そこからリョウさんのベースと喜多さんのギターが合流してイントロの盛り上がりに拍車をかけていった。

 

 

「……よし、出だしは好調だな」

 

 顔を見る限りみんなさほど緊張はしていなさそうだ。

 後藤さんも相変わらず下を向きがちだけど、それがむしろ集中力を増幅させ普段よりも安定した演奏を可能にしている。

 

 そして喜多さんのボーカルが入る。

 一曲目『忘れてやらない』。

 

 歌詞はいつも通り少し暗めではありながらも、曲調はこれまでとは違い明るめでキャッチーな雰囲気。

 喜多さんが手拍子を促したように、初見の人でも馴染みやすく掴みとしてはバッチリな選曲となった。

 

 

「優人、前のめりになりすぎだ。お前が緊張してどうする」

 

「え? あっ」

 

 気付けば体が始まった時より前に出ていたらしい。

 彼女達の頑張りを側で見ていたからか、ライブを楽しむというより上手く演奏し終えるかが気になってきてしまう。

 

 

「もっとリラックスしろ。こういう時は純粋に楽しめばいいんだよ。あいつらだってお前には楽しんで見てもらいたいはずだぞ」

 

「店長……」

 

 きくり姐さんにまだコブラツイストかけたまんまなんですね。

 それがなかったら素直に感謝できたのに……。よくそのまんま見れるな。

 

 しかし勝手に強張っていた俺の体も無駄な力が抜けているのを感じた。肩にも変な力は入っていない。

 ある意味ショック療法だなこれ。何が悲しくて自分の学校で身内が酔っ払いにプロレス技かけてるとこを見なくちゃならんのだ。いや指示したのは俺だけどさ。

 

 再び視線をステージへ戻す。

 言われた言葉の意味を理解する。そうだよ、楽しもう。結束バンドの努力を見てきたからこそ、精一杯楽しむのが礼儀ってもんだ。

 

 店長達の方へ振り返った時にも見えたが、観客はみんなステージに釘付けになってペンライトを振り回すなり手を叩いていたりと、各々の楽しみ方でライブを見ていた。

 ライブとは、元々こういうものだと強く再認識する。楽しみ方は人それぞれ、自由だからこそ楽しめる。

 

 なら俺も楽しもう。自分なりの楽しみ方で。

 腕を振るだけが楽しむ事じゃない。声を出すだけが楽しむ事じゃない。俺の楽しみ方は、演奏しているみんなをただ見守るように見ていたい。バンドを楽しんでいる彼女達を見届けていたいのだ。

 

 サビでは喜多さんがリズムに合わせながら体を動かしたり歌い方にアレンジを入れるなどして、以前よりもだいぶ余裕ができている。

 これもひっそりとリョウさんに教えてもらったり喜多さん自身が頑張って練習していた賜物か。ギターの弾き方からして明らかに成長しているのが分かる。

 

 

「へぇ、結構上手くなってきてるな」

 

「でしょ!? 店長もそう思いますよね!」

 

「いちいちうるせえなっ。お前はあいつらの親か」

 

 どうよ、ウチの子達ちゃんと成長してるでしょ! これでも保護者気分です! 

 元バンドマンの店長からそう言われると俺の目と耳も間違いじゃなかったんだと実感する。そりゃそうだ、あれだけ練習したんだからみんな上手くなってるに決まっている。

 

 虹夏さんは気持ちがリラックスしているのが分かるくらいドラムのリズムも正確だし、証拠に表情も常に楽しんでいるのがここから見える。

 時折他のメンバーを確認しながらリョウさんとリズム隊としての息もしっかり合わせられていた。

 

 リョウさんはいつも通りクールにベースを弾きつつ、時に抑えられないのか好戦的な笑みを浮かべているのがまた様になっている。

 そんな彼女のコーラスは喜多さんの歌声ともマッチしており、その姿は見る者を男女問わず惹き付けるほどの妖艶さすら感じさせた。

 

 喜多さんは言わずもがな、おそらく今回一番の成長を見せていると言っても過言ではないほど演奏に自信の表れが見て取れる。

 演奏に余裕ができている分、元から上手い歌も今まで以上に自由さを解き放ち、生のライブ感を思わせる彼女自身のアレンジやアドリブが輝いていた。

 

 後藤さんに至っては俯いてはいても俺から見える限り演奏中に笑みを薄く浮かべていたレベルだ。

 それだけでもう前とは違うとすぐに理解した。彼女の夢だった文化祭ライブ。初ライブの時よりも演奏のレベルはアップしていて、人前だと強く意識しすぎないよう前傾姿勢で演奏する事により安定感もさらに増している。

 

 結束バンドは間違いなく、ここでまた一つレベルアップしているんだ。

 

 

 一曲目が終わった。

 同時に背後から歓声が上がり、驚いてつい俺も体が一瞬跳ねてしまう。

 

 

「うおっ……結構盛り上がってんな」

 

 少なくとも俺の視界に入っている人達はみんなステージに向かって歓声や拍手を届けている。

 その中にはあの世紀末ボーイズもいた。つうかまだいたんだ。しかもペンライト振ってるし本気で楽しんでんじゃん。実は良いヤツらだったの? 

 

 

「ありがとうございました~! 一曲目『忘れてやらない』でした!」

 

 歓声と声援が入り混じる。初ライブでは客がほとんどいなくて少なかった歓声達が、あの時よりも数十倍の音として結束バンドに向けられていた。

 これだよこれ。この景色が見たかったんだよ! 

 

 か~、ここまでくると後藤さんも様になって見えるなぁ。

 この前家で歯ギターとか背ギターとかスライド奏法を見せてもらった時は何でこんなの習得したんだこいつと思ってた時期もあったけど、もうこれ立派なギタリスト判定じゃダメ? 頑張ってるよこの子。

 

 

「……!」

 

「? ……分かってる。分かってるから無言でどうだこれがウチのバンドですよみたいな目で嬉しそうにこっち見んな。見えない尻尾振ってるのが丸分かりだぞ犬かお前は」

 

 いやだってさぁ、こんなん嬉しくもなるでしょうよ! 

 ウチの学校で結束バンドが大歓迎されてるようなものなんですよ? そりゃあ俺のテンションだって上がっちまうわよ! 

 

 しかも喜多さんとか最後にウインクしてちょっとしたファンサしてたし! 

 もし俺に向けられてたら危うく惚れちまうとこだったぞおい。そして勘違いして何もないまま素朴な人生を過ごしその気持ちを墓場まで持って行くんだ。絶対そうだ。

 

 あと店長いつまできくり姐さんに技極めてるんですか。

 もうこの人一点しか見つめないようになってるんですけど。開眼したまま気絶とかしてないよね。

 

 

「きくり姐さん? 生きてます?」

 

「……」

 

 返事がない。ただの屍のようだ。

 と思ってたら、

 

 

「ゆうきゅん」

 

「あ、生きてたんですね」

 

 きくり姐さんは技を極められたまま一点だけを見据えていた。

 

 

「ぼっちちゃんのギター。あれ結構年季入ってるよね」

 

「え? まあ、後藤さんの父親が若い頃から使ってたらしいんで、年季自体は相当入ってますけど……」

 

 きくり姐さんとの会話の裏では喜多さんからMCが虹夏さんに変わっていた。

 

 

「……」

 

 何だろう。会話できくり姐さんがふざけない。

 本来ならそれが普通で安心するはずなのに、この人の場合はそれが何かしらの異常であったり異変の前兆だと思わせるかのような雰囲気がしてくる。

 

 ……そうだ。さっきから俺と話しているのにきくり姐さんの視線はずっと俺を見ていないじゃないか。

 そして会話から察するに、おそらく後藤さんのギターの事で何かあるんじゃないかとおおよその見当がつく。

 

 

「ぼっちちゃん、一曲目の終了間際でギターに違和感感じてたっぽいんだよね」

 

「……まさか」

 

 俺は他に喜多さん達の事も見ていたから分からなかったけど、きくり姐さんはずっと後藤さんを見てたから気付いたのか? 

 だとしてもそれで違和感を感じてる事に気付くなんて、マジで何者だよこの人。

 

 

「なるほどな、最後の方だけ少し音に違和感あったのはそのせいか。多分チューニングが安定してないんだろ」

 

 店長も気付いてたの!? いや元々バンドやってた人なら分かるもんなのか……? 

 夏から後藤さんにギター教えてもらってるとはいえ、俺もまだまだだな。いや当たり前か、始めて一ヵ月そこらじゃひよっこ以前の問題だし。

 

 いいや、というか今はそれどころじゃないはずじゃ……。俺達の会話も周囲の歓声などに打ち消され後藤さんには聞こえていない。

 虹夏さんのMCも終わって再び喜多さんに返された事で、もう次が始まる合図なのだと嫌でも思い知らされる。

 

 

「それでは聴いてください! 二曲目で……『星座になれたら』!」

 

 始まってしまった。

 新曲の中でもこの曲は俺が凄く好きで楽しみにしていた曲でもある。

 

 思わず踊ってリズムを刻みたくなるようなイントロから、耳が心地良いベースとギターの音が聴く者の期待感をさらに増していく。

 喜多さんのボーカルが入ってAメロに突入した。

 

 確かによく聴いていくと一弦と二弦のチューニングが安定していないように思える。

 ずっと練習しているのを見てきたから俺も今ので何となく分かったけど、このままいけば客に変な違和感を与える事なく終えれるはずだ。

 

 だけどその途中で、重大な懸念が二ヵ所だけある。

 一番のサビ終わりと『あのバンド』に入る直前のギターソロ。後藤さんが一番輝けるパートなのに、チューニングが安定しないままいって大丈夫なのか? 

 

 ……いや、その前にチューニングがずっと安定しない時点でおかしい。

 まさか……ペグに何か起きてる? 

 

 後藤さんも異変にもう気付いてるからか表情に異変が表れてるな……。

 最悪チューニングが不安定でもソロは何とかなるか? 後藤さんの技術力なら上手く切り抜ける事も可能かもしれないけど……如何せん確信はない。

 

 そうこう考えているうちに一番のサビに入った。

 その時。

 

 

「ッ……!?」

 

 後藤さんのギター、その一弦が切れてしまった。

 同時にリードギターのメロディーが途切れる。無理もない、突然のトラブルだ。……まずはここからどうリカバリーするか考えなくてはいけないが。

 

 後藤さんが一旦しゃがみ込み二弦のチューニングを合わせようとしたとこで、またも負の連鎖は起きた。

 ペグの故障だ。

 

 

「あれじゃ二弦も使い物にならない。このままだとソロ無理だぞ……」

 

 きくり姐さんの言葉に俺の心臓も跳ね上がりそうになる。周囲も異変に気付きざわつき始めた。

 店長は黙って見ているだけだが、その視線も後藤さんを見つめたままだ。

 

 鼓動が激しくなり拳を強く握り締める。……落ち着け。下手に行動すると初ライブの二の舞だ。

 ステージ上で何かあった時、俺には何もできない。昨日はそう感じていた。本番になってしまえば所詮は見る側でしかなく、トラブル時には無力感に苛まれるだけの部外者でしかない。

 

 だけどそういった時、何かしてやれるのは同じステージに立つ仲間だ。

 俺は思わず喜多さんの方を見た。隣で後藤さんが座り込んでいる事には気付いてるはず。今フォローできるのは喜多さん達しかいないぞ……! 

 

 

 そして、一瞬俺と目が合った喜多さんは、小さく頷いて微笑んだ。

 

 

 ……そうだ。考えろ。俺でも何かできる事を。

 どんな小さな事でもいい。後藤さんのために何ができるかを考えろ。

 

 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!! 

 

 何かないか!? なけなしの経験からの引き出しは!? 後藤さんと一緒にいた日々で役に立てそうな知識はなかったか!? 

 こんな時だからこそ使える頭をフル回転させろ清水優人!! こんな時、ギターヒーローならどうする!? あいつの技術力で賄える方法がどこかにあるはずだ! 

 

 

「……これ、は……?」

 

 その臭いが鼻を刺激した時、俺はそこに置かれているあるモノに気付いた。

 これならあるいは……どうにか、なる……? 

 

 

 

 ──

 

 

 

 隣でピンク髪の少女が座り込んだのが見えた。

 

 彼女の奏でるメロディーが止まり瞬時に弦が切れている事も視認した。

 それ以外にもペグを何度も触っている事から他にもトラブルが起きているのだと理解する。

 

 一番のサビ途中。

 それが終われば後藤ひとりのギターソロが来てしまう。だが今の彼女にそれをする余裕がなく、このままでは頑張っていた少女の努力は無駄に終わってしまう事も想像できた。

 

 一瞬、右隣にいる山田リョウに目配せをしてアイコンタクトをとる。

 彼女も異変に気付いているのか軽く頷いてくれた。ライブでは本番何が起こるか分からない。だからそういう時のために結束バンド内である程度アイコンタクトで意思疎通ができるよう、何度か練習していたのだ。

 

 そして客席の最前列でこちらを見ている少年と目が合った。

 その表情は冷静さを失っていないように見えるが、同時に焦りも感じ取れるような顔だ。

 

 分かっている。彼にとっても大切な少女の晴れ舞台。

 こんなトラブルで失敗させてしまうのはもったいない。

 

 

(分かってる。大丈夫だから)

 

 何より、後藤ひとりという少女のかっこいい姿を見てほしいと用紙を出したのは自分だ。

 それなのにこれで終わっていいはずがない。こんなところで機会を失っていいはずがない。

 

 微笑む。

 少年に向かって。

 

 ステージに立ってないから何もできないなんて思っている彼に、彼女はフォローしておくから自分もやるべき事があるんじゃないのかと、そういう意志も込めて。

 

 

(だからそんな顔しないで、優人君)

 

 成長した自分を解き放つ。

 

 

(私も、後藤さんを支えるから!!)

 

 

 

 ──

 

 

 

(どうしよう……どうしよどうしよどうしよどうしよ……!?)

 

 弦が切れた。

 ペグも故障した。

 

 このままじゃギターソロなんて到底できない。

 せっかくの文化祭ライブなのに、彼も楽しみにしてくれていたのに、自分のせいで台無しになってしまう。

 

 

(弦を張り替えても意味ないし、替えのギターもないっ。私のせいでっ、みんなにも恥をかかしちゃう……ッ!)

 

 念願の夢が、途中で霧散してしまう。もはや目尻に涙が浮かびかける。

 もう頭が空っぽになりかけていた、その時だった。

 

 

(……え?)

 

 本来なら自分のソロパートだったところ。

 そこを、隣の少女が代わりに演奏し始めたのだ。どこかで覚えのある前傾姿勢、手元に視線を集中させて演奏するその姿は、まるで自分を見ているような感覚さえあった。

 

 

(喜多さん……打ち合わせしてないのにアドリブ……それに演奏も全然ブレなくなってる……!)

 

 そこで理解する。

 喜多郁代だけではない。山田リョウも、伊地知虹夏も、全員が自分のために時間を繋いでくれている。

 

 ギターボーカルの少女からアイコンタクトがあった。

 みんながそう語り掛けてくれている。こんなところで終わるなと。まだ終わっていないぞと。

 

 後藤ひとりはギターヒーローだ。

 その実力はソロだけであればここにいる誰よりもずば抜けている。想定外のトラブルには一時的に焦る事もあるが、咄嗟の機転をきかせるという点においても彼女は頭一つ抜けていると言っても過言ではない。

 

 音楽、それもギターの才能と努力の話をすれば、おそらく同世代で後藤ひとりの右に出る者はいないだろう。

 

 視界の端に、あるモノが照明の光に反射してひとりの視界に映った。

 そして、これだと行動に起こす直前。

 

 演奏の音と共に声がした。

 それは周囲の音に掻き消されるようなものだったけれど。目の前にいる少年の声だけは、ひとりは決して聞き逃さなかった。

 

 

「後藤さんッ! これだ!!」

 

 同じ事を考えてくれていた。

 いいや、必死に何かないかと少ない知識の中で導き出してくれたのだろう。

 

 自分ならこれでもできるだろうと。

 そう信じてくれているのだ。

 

 一瞬、思わず口角が上がったのを自覚した。

 それを手に取る瞬間にはもう、表情も元に戻っていたけれど、これならやれる。

 

 そんな確信があった。

 

 

(絶対に、諦めないッ!!)

 

 

 後藤ひとりが、ギターヒーローが、その片鱗を見せる(魅せる)

 

 

 

 ──

 

 

 

 きくり姐さんがステージに置き去りにしていたカップ酒を手に取って、後藤さんは一~二弦が壊れたままギターソロに入った。

 リョウさんも虹夏さんも後藤さんを信じてくれていたようで、ソロパートの部分をもう一度リピートしてくれた。

 

 以前、後藤さんの家でギターを教えてもらってる時の話だ。

 少しの休憩のあと、彼女が突然見ててと言うからどんな曲を弾くんだろうと思っていたところ、おもむろに歯ギターや背ギターをしだし、スライド奏法とかをやり始めたのだ。

 

 最初は頭おかしくなったのかと脳内が宇宙になりかけたが、思い返せばあれもギターとして立派な技術の一つだった。

 スライド奏法。別名はボトルネック奏法とも呼ばれるギター奏法の一つ。

 

 本来であればスライドバーと呼ばれる棒を指に装着、あるいは手に持ち演奏する技術だとネットで調べた事がある。

 そしてそれは元々酒瓶などのネック部分をカットして使用されていた事が由来だったのも分かった。

 

 詳しい事はまだ知らないが、過去に海外でライブ中一つの弦が切れた事により他全ての弦のチューニングが狂ってしまったという状況を、咄嗟にボトルネック奏法で演奏し音感を生かしながら乗り越えた女子高生ギタリストがいたという記事も見た事がある。

 要は弦が切れてしまっても関係なく、演奏技術があればボトルネック奏法でチューニングに左右されずに演奏できるのだと。

 

 俺だってそんなに知識を持っている訳じゃないから正しい判断なのかは分からない。

 だけど、目の前で一度演奏してくれた後藤さんなら、ここでもできると思った。

 

 だから信じた。

 それだけの話だ。

 

 そんでもって後藤さんは今、この文化祭のステージでカップ酒片手にボトルネック奏法を演じている。

 俺が声をかけた時にはもうカップ酒へ手を伸ばそうとしていた辺り、咄嗟の判断力はやはりギターヒーローの実力あってのものか。俺が声をかける必要もなかったって事か。

 

 周囲のざわつきも別のものへと変わっていく。

 

 

「あのギター何やってんだ?」

 

「よく分かんねえけどすげえ!」

 

 どうだ。すげえだろウチの後藤さんは。

 彼女の手にかかればこんなピンチどうって事なかったんだよ。……全部喜多さん達のおかげだけど。

 

 

「この土壇場でボトルネック奏法とか普通やるかぁ?」

 

「あれならチューニングズレてても関係ないもんね~」

 

 店長達はさほど驚いてるようには見えないが、感心はしているようだ。

 

 

「……つうか優人。お前ぼっちちゃんならあれができると踏んで声かけたろ。知ってたのか?」

 

「や、まあ……一応知ってましたけど、ぶっつけでできるかは分からなかったのが本音です」

 

「よくそんなんでこいつのカップ酒渡そうと思えたな」

 

「そもそも俺に後藤さんや結束バンドを信じろって言ったのは店長でしょ。だから俺はみんなを信じたまでですよ」

 

 最終的には俺にできる事なんてそれだけだしな。

 

 

「……おう、上出来だ」

 

「なっ何すかいきなり……」

 

 急に頭撫でないでほしい。

 演奏中だからみんなステージ見てて気付かれてないけど結構恥ずかしいんですって……。年上お姉さんの力ここで発揮してこないでよ! 

 

 少し照れくさくなりながらもステージを見る。

 何とかギターソロを終えカップ酒を床に置いた後藤さんは上を見上げていた。

 

 やりきったという感情か、乗り切れた安心感故かは分からないけれど、彼女の表情に何とも言えない感情になった。

 ピンチを乗り越える様は、まさしくヒーローそのもの。

 

 念願の文化祭で後藤さんは、間違いなくここにいる人達を盛り上げたのだ。

 ああ、ちくしょう……かっこよすぎてちょっと泣きかけたぞ……。

 

 終盤は一応一弦二弦がなくとも演奏できる譜面だったらしく、無事に二曲目を終える事ができた。

 そして、先ほどよりも爆発的な歓声が体育館の中に響いた。

 

 ひと通りの歓声が止んだ頃、虹夏さんがマイクを通して話し始める。

 

 

「えっとぉ……本当ならこのまま最後の曲に行くとこなんですけど……これだけ言わせてください! みんな、今日は本当にありがとう~!!」

 

 弦が切れてペグも故障したままラストの曲へは行けないから、おそらく結束バンドの出番はここで終わりか。

 でもまあ、この二曲目でだいぶ足跡は付けられただろう。今日はここらが潮時だなぁ。

 

 

「この日のライブを、みんなが将来自慢できるくらいのバンドになりまぁーす!!」

 

 虹夏さん、後藤さんがまたギターヒーローとして覚醒したからテンション上がってるなこりゃ。

 気持ちは分かる。だって俺も目が離せなかったからね。あんなん見惚れるに決まってる。

 

 観客の方も歓声と声援が入り混じっている。

 

 

「いいぞぉー!」

 

「武道館行っちゃえー!」

 

「ご……なんとかさんも良かったぞー!」

 

「弦切れたのに頑張ったね~!」

 

 おい誰だ今インなんとかさんみたいに言ったヤツ。出てこいコノヤロー。

 

 

「っ……ほら後藤さん! ひと言くらい何か言わなきゃ!」

 

「え」

 

「え」

 

 おいバカ喜多さん何言い出してんの? 

 いくらかっこいい後藤さん見せられて褒められたのが嬉しいからってそれは悪手すぎるぞ! 

 

 コミュ症は事前に台本作っとかないと喋れないのに、予想外の振りされたら頭真っ白になって何しでかすか分かんないんだぞおバカ! 

 これは後藤博士号剥奪だな……。後藤さん係も一時的に退任していただこう。公開処刑と変わらないよこれ。顔青ざめてんじゃん。

 

 

「何か面白い事なにかおもしろいことナニカオモシロイコト……」

 

 あ、まずい。あれ何か良からぬ事を考えてる時の目だ。

 後藤さんの視線がまず床のカップ酒に行く。そして、そのまま視線は俺の隣にいるきくり姐さんへ。

 

 はい、その時点で警戒レベルMAXです。

 考えろ清水優人。さっきと同じように脳内をフル回転させるんだ。あのアホピンクはこれから何をする? 

 

 面白い事をしようとしてきくり姐さんを見ていた。ならきくり姐さんに関する事? 

 いっそ飲酒? さすがにそれはない。ギター破壊? 直樹さんのだしそれもない。

 

 なら何だ。

 考えられる可能性としては、この前のきくり姐さんのライブ……いや、まさか……。

 

 そしてその予想は当たってしまう。

 後藤さんが一歩踏み出した瞬間に察したよ俺は。この子、ダイブする気だと。しかもよりによってわざわざ端にいる俺の方ではなく真ん中の方へ。

 

 あんのアホっ……! 

 ライブハウス以外でダイブしたところで受け止めてくれると思ってんのか!? そういう風習知らない連中ばかりなんだぞ!? 

 

 何とか人を掻き分けて落下地点まで急ぐも間に合うか分からない。

 俺の気持ちも知らないで彼女は飛び込んだ。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 やはり避けようと離れていく生徒の間を掻い潜り俺は前へ飛び込んだ。

 

 そう、この時、俺は一つの間違いを犯した。

 普通受け止めるならばせめてスライディングのように足から先へ飛び込むべきだったのだ。

 

 なのに俺は勢いに任せてビーチフラッグのように頭から飛び込んでキャッチしようとした。しかも縦ではなく横から飛んでしまったのだ。

 そんなので上手く受け止められるのはドラマかアニメの世界だけという事も忘れて。何なら急いでいたせいで距離感すら間違っていたんだろう。

 

 俺の手は後藤さんよりも前に出て、後藤さんは俺の背中に真上から落下。

 つまり、背中で後藤さんを受け止め重力のままに床に顔面直撃。そして後藤さんも勢いのままに顔面直撃。

 

 俺と後藤さんはお互いの体がクロスし『+』の構図で落下し床とキスをしたのだ。

 ドゴァッ! という音が響いた。

 

 

「ごぶぁッ!?」

 

「べぶぅッ!?」

 

 イキって飛び出すも受け止めること自体失敗し、後藤さんも結局顔面強打させてしまった。

 ミッション失敗である。俺も無駄なダメージを負うし誰も得しない時間がやってきた。

 

 

「後藤さん!? 優人君!?」

 

「二人とも大丈夫!? やばい音したけど!」

 

「お前は伝説のロックスターだwww 優人はダサいだけだけどぶふぅwwwwww」

 

「ぼっちちゃんもゆうきゅんもサイコー!!」

 

「お前ら少しは心配しろ!!」

 

「ほんとだよ!」

 

 あぁ、終わりだ……。

 あんだけ盛り上がったライブがお通夜になってしまうなぁ~。

 

 

「誰か担架持ってこい!」

 

「優人君! 後藤さん! しっかりして!」

 

 周囲が騒がしいのに対し、俺の意識は静かに遠のいていく。

 

 

 

 覚えてろよ……このアホピンク……。

 

 

 

 そこで、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 






かっこよく受け止めて終わると思った?
残念! イキった結果失敗してダサいまま終了だよ!!

あ、あとこの作品の名称というか略称何か良い案あった人とかいたら感想でもマシュマロでもいいので気軽に募集してるから言ってね!
例、『引きメン』とか『幼メン』など。
ぼざ二次小説とかで宣伝するとオリ主苦手な人にも誤解与えちゃいそうなので。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:ハジメの一歩さん、ark_wrさん、すごいブラジルさん

☆9:マイナさん、されりおんさん、hiro6106さん、ポトフGさん、ginngituneさん、2kaさん、タスマニアさん、完全無欠のボトル野郎さん、イキョウさん、待宵月さん、KYBMさん、修羅場好きさん

本当にありがとうございます!
最近は評価よりも感想の方がモチベ上がるから感想くれ~! ここすきも毎回みんなどの部分が好んでくれてるかとかも確認してっから!
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