再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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ぼっち生誕祭! ぼっち生誕祭!

本編から翌年くらいのお話。
こんな話もあったかもしれない、という軽い気持ちで見てくれると嬉しいです。
珍しく甘いかも?




58.後藤ひとり生誕特別番外編:メモリーズ・ラスト

 

 

 2月21日。

 

 今日は私、後藤ひとりの誕生日だ。

 といっても特別な事なんて何一つもなく、友達もいない孤独な私にとっては家族以外と過ごす事のない平凡以下のイベントである。

 

 家族以外からは存在自体まともに認識されず、私の誕生日を覚えてる人なんて誰一人としていない。

 だから自分が生まれた日に盛大に祝われる事などこの先も一生ないと思っていた。孤独で、親しい人なんていなくて、けどそれも毎年繰り返していると当たり前だと思うようにもなった。だってそれが私の普通だったから。いつしかそう思う事で寂しさすら感じなくなっていたんだろう。

 

 だけど、そんな当たり前を壊してくれた人がいた。

 

 少し話を変えよう。

 今の現状を細かく表現するには私と彼との過去の記憶を共有する必要があると思うから。

 

 

 私には幼馴染の男の子がいる。

 清水優人。

 

 高校の身体測定の日の帰り道で聞いた情報だと身長は168㎝。髪は明るめの茶髪で、セットしてないのにツンツンした頭が特徴っぽい? 寝癖対策でたまに軽くワックスを付ける時もあると聞いた事があるけど、今は分からない。

 顔は……私なんかが勝手に判断するなんて烏滸がましいにも程があると思うけど、個人的には整っている方だと思う。少なくとも私は嫌いじゃない。むしろ逆だ。彼の顔を見るととても安心する。こ、個人的に……。

 

 そんな彼は同い年で、優しくて、いつも一緒にいてくれるたった一人の友達……いや、家族みたいな人……? 

 小さい頃から家族ぐるみで仲が良く、私も彼と家で何度も話したり遊んだりもした……はず。あれ、どうだったっけ? 主に彼が積極的に話しかけてくれて、私も話してた覚えはあるけど……何して遊んでたんだろう。どうした、記憶の引き出しなさすぎるぞ後藤ひとり。

 

 ともかく、小学三年生まで私と彼は学校ではなく家で遊ぶ仲であり、お互いを『ゆうくん』『ゆーちゃん』『ひとりちゃん』『ひーちゃん』と呼び合う程の仲良しさんだったのだ、ふへっ……。

 それまでは私も今のように極度の人見知りとコミュ症を発揮してた訳ではなく、ゆうくんがいるからまだマシな方だった……と思う。

 

 だけど、ゆうくんが父親の都合で一緒に遠くに引っ越すと聞かされた時、子供ながらに頭が真っ白になって何も考えられなくなりずっと部屋で静かに泣きじゃくっていた記憶がある。あの日から心の中に穴が開いたような感覚にずっと襲われていた。

 自分の中の時計が止まり、そしていつも一緒にいてくれた人がいなくなって、その後はお母さん達もふたりが産まれて育児に奔走しながら忙しそうにしていた後に、いつの間にか私は今の私になっていた。

 

 ゆうくんと一緒にいれなくなった事で、ただでさえ大人しい性格がさらに暗くなり思考もネガティブな方へとシフトしていったのだ。

 今思えばショックの部分が大きかったんだと思う。それ故に友達なんて当然できるはずもなく、中学でギターを始めるまではただただ学校に行って帰るだけの作業のような毎日を送っていた。

 

 もはや懐かしい。今でも私は覚えている。学校の帰り道、あまりにも何もない自分が嫌になってつい出てきた独り言が『お腹の中に戻りたい』だった事。

 小学生の私、何言ってるんだろ。なんて思うけど実は今でもたまにそう思う時があるから根本的な所は何も変わってないんだと思う。

 

 中学では心機一転、ゆうくんと再会した時に少しでも良い格好を見せられるように、あと色んな人にちやほやされたくて陰キャでも輝けるというギターを始めた。

 そして、ヒーローが好きと言っていたゆうくんに影響されてギターヒーローという名義で動画投稿も始め、毎日練習漬けの日々がつづ「はいそこまでー」……え? 

 

 

「長い、なっがいわ。いつまで続くんだそのモノローグ」

 

「うぇぇあぁッ!?」

 

 ゆ、ゆうくんっ!? 何で私の独白の中に入ってきてるの!? 

 というかどうやって乱入してきたの!? 

 

 

「いきなり自分の世界入りだしたのはそっちだろ。何昨日みんなから貰った誕生日プレゼント眺めながらトリップしてんだよ。いい加減片付けなさい」

 

「うぅ……せ、せっかくこれから無限修行編に入るとこだったのに……」

 

「そういうのは友情努力勝利の三つを続けて言えるようになってから入れ」

 

 ゆ、ゆうじょ……ウッ、青春コンプレックスがぁ……!? 二つ目はまだしも最初のハードルが高すぎるぅ……! 

 

 

「まったく……いくら今日誕生日で主役といっても、俺がこっちに泊まってる以上ガサツな生活はさせんからな。飯食ってケーキも食べたんだし、さっさと片付けてのんびりしようぜ」

 

「はい……」

 

 今日は日曜日。でもってもう夜だ。学校もバイトもなく、本来であれば誕生日としては一番地味な休日になっていたかもしれない。

 だけど昨日はバイトがあって、一日早く結束バンドのみんなが私の誕生日を祝ってくれたのだ。もちろん店長さんとPAさんも祝ってくれた。

 

 どうやらゆうくんが私の誕生日をみんなに言っていたらしく、密かに準備してくれてたらしい。

 誕生日自体は日曜だしどうせ土曜は何もないんだろうなと思っていたとこに、みんなでサプライズをしてくれたのだ。

 

 前々からプレゼントを用意してくれていたようで、虹夏ちゃんからは女子高生に今人気らしい洗顔セット、喜多ちゃんからはギターのお手入れグッズを何個か。

 リョウさんからは多分そこら辺に生えてる草で作った冠、ゆうくんからはちょっと高いピンク色のワイヤレスイヤホンを貰った。

 

 店長さんとPAさんはケーキと出前を頼んでくれていて、昨日は私史上最も多くの人に誕生日を祝われた日になっただろう。

 本番は翌日だしまた家族以外の誰にも祝ってもらえないと思っていたから、本当に嬉しかったし私なんかのためにわざわざすみませんという申し訳ない気持ちにもなっていた。

 

 昨日のサプライズを仕込んでいた張本人は目の前で独り言を呟いている。

 

 

「洗顔セットは浴室として、メンテナンスグッズは押入れの中でいいか。草の冠は……一番どうしたらいいか分かんねえな……後藤さんをどこかの民族扱いでもしてんのかあの人」

 

 私の代わりに片付けをしてくれようとしていた。こういう面倒見の良さにどれだけ救われてきたことか。

 自分自身で諦めて受け入れていた当たり前をゆうくんはいとも簡単に壊してくれた。

 

 そもそもだ。去年の誕生日だってそうだった。

 ゆうくんと再会してから毎日会うようになって、彼が私の部屋にいる事がもう当たり前になっていたのだ。

 

 前回の私の誕生日、つまり再会してから初めての誕生日は前日から私の家に泊まり、日付が変わった瞬間に直接おめでとうと言ってくれた。

 たったそれだけの事が、私にとっては凄く非日常的で、甘受していた当たり前とは程遠くて、もの凄く嬉しかったことだ。

 

 その時に貰ったハンドクリームはありがたすぎて最初使うのももったいないから引き出しに入れたまま永久保存していたんだけど、後にゆうくんに見つかり使わなきゃあげた意味ねえだろと怒られてしまったとこまでが素敵な思い出になっている。

 誰が何と言おうと私にとっては素敵な思い出だ。

 

 そして今回もゆうくんは昨日からうちに泊まっており、昨夜も彼のギター練習に付き合っていると日付が変わったと同時に改めて誕生日おめでとうと言ってくれた。

 あの時の表情は今でも覚えている。去年とまったく同じ表情だったから余計に。私が生まれた事をちゃんと祝福してくれているような優しくて明るい笑顔。

 

 結束バンドのみんなもそうだったけど、ゆうくんの笑顔はまた格別だった。

 彼のあの笑顔からしか得られない栄養素は確かにある。一年にたった一度の誕生日。その日、私だけに送られるあの笑顔は誰のものでもない。紛れもなく私だけに向けられた私だけの笑顔だ。

 

 思い出す度に頬が緩みそうになるのをどうにか抑える。私の場合は本当に物理的に頬が溶け落ちるので、ゆうくんに迷惑をかける訳にはいかないのだ。

 いやでも今日は誕生日で主役だしたまには一日中面倒を見てもらうのも悪くないかな~なんてぇ……へへへっ。……あ、面倒はいつも見てもらってるんだった……。

 

 

「……よしっ、こんなもんでいいか。どうなるか分かんなかったけど、案外やってみればそれっぽく見えるもんだな」

 

「あっうん」

 

 リョウさんがくれた草の冠を一ヵ所だけ解き、ゆうくんはそれをそのまま壁に掛けてあった時計に飾り付ける事でちょっとした自然を感じるインテリア時計にしてしまった。

 私じゃ絶対思い付かなかった。多分そこら辺に置いといて終わりにしてたかもしれない。さすがゆうくん。略してさすゆう。

 

 

「じゃあ何すっか。もう夜だし長い時間はいれないけど、したいこととかある? 俺にしてほしいことでもいいぞ」

 

「してほしい……こと?」

 

「おう。何たって後藤さんの誕生日だからな。俺にできることなら何でもしてやんよ!」

 

「で、でも、昨日にもうプレゼント貰ったし……」

 

「あん? プレゼントとこれはまた違うだろ? それに今日が本番なんだから遠慮すんなって」

 

 ゆうくんの顔を見るにこれは冗談でも何でもなさそうだ。

 ほんとに何でもしてくれる……? 私の今したいことってなんだろう。ゆうくんとしたいこと……。

 

 ……夜だし膝枕とか? いやいやいやっ、そんなの私がする方でもしてもらう方でも原型留めていられる自信がないぃ! 

 なら今日も泊まってもらって、一緒の部屋で寝たり……無理無理無理無理! 昔は一緒の部屋で寝てた事もあったけどさすがに今はこっちの精神が持たない! いやでもふたりも一緒ならもしかすると……ああでも私なんかがこんなこと言える勇気ある訳なかったぁ~!! 

 

 うぅ……でもせっかく何でもしてくれるって言ってるんだし、もっと何か捻り出さないと……。

 何か、何か……ゆうくんとしたいこと……私もゆうくんも嫌な気持ちにならないで二人で楽しめそうなことは…………あっ。

 

 

「え、えっと」

 

「お、何か思い付いたか?」

 

「う、うん……」

 

 私の目線に合わすようにゆうくんが目の前に座る。

 結局、私にはこんな事しか思い浮かばなかった。

 

 

「ゆ、ゆうくんと一緒に、ギターの練習したいなって……」

 

「……はい?」

 

 目の前の彼はキョトンとした顔になった。

 うん、無理もない。ゆうくんの立場だったらきっと私だってそうなる。

 

 

「や、それっていつもしてる事じゃん。もっとこう、ないの? 今日くらいもう少しワガママになってもいいんだぞ?」

 

「うん……で、でもっ、私がゆうくんとしたいことはこれ、だから……」

 

「……」

 

 や、やっぱりダメかな……。もっと誕生日っぽいお願いにした方がよかった? 

 ……でもダメだ、あまりにも誕生日にお祝いされる事がなかった私には何も思い付かない。二人でやれる事といえばこれしかないんだし……あーもうっ、そういうとこだぞ後藤ひとりっ! 

 

 

「……分かった。後藤さんがそうしたいならそうすっか」

 

「え? い、いいの?」

 

「ああ。後藤さんが望んでんなら俺はそれに従うだけだしな。結局は俺の練習に付き合ってもらう訳だしむしろこっちがいいのかってくらいだよ」

 

「わ、私はっ……ゆうくんと一緒にギター弾けるの楽しいし、嬉しいから……全然っ大丈夫……」

 

「……そりゃ良かった」

 

 何だろう……いつものようにギター練習しようってだけなのに、何でこんなに恥ずかしくなってるんだ私っ……。

 調子に乗るな後藤ひとり、ゆうくんは妥協してお願い聞いてくれただけだぞ後藤ひとり、決して良い雰囲気になってるかもだなんて思い上がるなよ後藤ひとり! 私はただのミジンコ以下の存在なんだからな! 

 

 

「じゃあ準備するか」

 

「あっうん」

 

 慌ててギターを押し入れから出す。

 ゆうくんもゆうくんで自分のギターを用意していた。どうも去年の文化祭の後に一人で買いに行ったらしい。これで私のギターを借りずに一緒に練習できると意気込んでいた姿はちょっと可愛かった。絶対本人を前にしては言えないけど。

 

 

「どうせなら弾き語りでカバー曲を誕生日プレゼントにしようかとも思ったんだけどさ、よく考えたらああいうのってドン引きされる地雷プレゼントなんだってな。ネットで調べてて良かったわ。そもそもまだそんな事できるほど上手くないし危うく恥かくとこだった」

 

「そ、そうなんだ……ゆうくん上達速度凄いからいけそうだけど……」

 

 えっ、普通にゆうくんの弾き語り聴きたかったなぁ……。

 何でドン引きされるんだろ。自分のために歌ってくれるのって普通嬉しいものなんじゃ……? 私がおかしいのかな? 多分絶対そう。

 

 そんな話をしながらスコアを出して準備を進める。

 

 

「き、今日はどの曲練習する?」

 

「ん~『あのバンド』がいいかな。後藤さんのサビパートめっちゃかっこいいから早く俺も弾けるようになりたいし」

 

「え、えぇ~そうかなぁ……ふへへ……うへっ。じゃ、じゃあ今日は特別に歯ギターも教えちゃ」

 

「それはいいから」

 

「あっはい……」

 

 そうして、私達はいつも通りギターの練習を始めた。

 

 

 部屋に響くのはギターの音色と、たまに交える話し声のみ。

 

 私は、この時間が好きだ。

 ゆうくんと二人きりでギターに真剣に取り組んでいるこの時間が。

 

 私は、この時間が好きだ。

 誰にも邪魔されずにこの空間には私達しかいないと錯覚してしまうほどの濃密な時間が。

 

 私は、この時間が好きだ。

 大好きなギターを彼と一緒に演奏できる楽しい時間が。

 

 私は、この時間が好きだ。

 ギターを教えるという名目上、彼と自然に物理的な距離が縮まっても平気でいられる幸せな時間が。

 

 私は、この時間が好きだ。

 この時間だけは……彼を、ゆうくんを私のものにできるから。

 

 私は、この時間が好きだ。

 限られた時間の中だけどこの時だけに関しては、ゆうくんは私だけを見てくれるから。

 

 

 結局、私のしたいことはこんなものだ。ゆうくんが拍子抜けしてしまうような安直な願いしかできない。

 だけど、それでいい。個人の感じる幸福度なんて人それぞれなんだから。

 

 私にとっての幸せはゆうくんと一緒に大好きな音楽に触れること。

 それさえできれば、この部屋の中だって優しい世界に早変わりする。

 

 彼と再会してから暗かった世界は照らされて、巡り巡っていく季節に彼がいるのは私からすれば奇跡みたいなものになって、止まっていた時計は動き出した。

 多分、多分だけど、ゆうくんが去年と今年の誕生日にずっと一緒にいてくれるのは、離れていた空白の時間を少しでも埋めてくれるためだと思う。

 

 去年の誕生日、彼は私に言った。

 

 

『これから毎年、後藤さんの誕生日は俺がずっと一緒にいるよ。家族以外に祝ってもらえないとかそんな寂しい誕生日なんてもうなしにしようぜ。それに誰かが常に側にいりゃネガティブ思考になんてならないだろ』

 

 冗談かと思っていたあの言葉も、今ではもう本気だったんだなって思うくらいには一緒にいてくれる。

 ゆうくんのおかげで、私は自分の誕生日が来るのを少し楽しみになった。今ではもう結束バンドのみんなもいるし、一人だけだったあの頃とはもうおさらばだ。

 

 ああ、どうか。

 こんな優しい時間が、いつまでも続きますように。

 

 

 

 ────

 

 

 

「ふぅ……今日はこのくらいにしとくか」

 

「あ、うん、そうだね……」

 

 集中していると時間はすぐ過ぎ去っていく。いつもより遅く始めたから終わるのも早く感じた。だけどトイレに行ったりする以外はずっと練習できたので良しとしよう。

 時計を見たらもう夜の十一時五十分だった。日付が変わるまでもうすぐそこ。

 

 私の誕生日ももう終わって、主役ではなくなる。特別な時間が終わる。

 去年からかな。誕生日が終わってしまう事に寂しいと思うようになったのは。

 

 

「俺もそろそろ帰りますかね~。風呂入って明日の準備しなきゃいけねえし」

 

「ご、ごめんね、私のお願い聞いてもらっちゃって……」

 

「後藤さんの願いを聞くって言ったのは俺なんだから気にすんなって。というかいつも大体こんな時間だし、もっと遅い時もあるだろ」

 

「うっ、確かに……」

 

 いつもはゆうくんが教えてって言ってくれるから気兼ねなく一緒に練習できるけど、こうやって私からお願いして一緒にやるのは珍しいからちょっと引け目を感じてしまう。

 けどゆうくんは私のそんな気持ちさえ分かってるような様子で、

 

 

「また明日にでもやろうぜ。もちろん後藤さんが良いならだけどさ」

 

「……う、うんっ」

 

 ゆうくんの帰り支度が終わり、彼はギターケースを背負いお泊まり用の鞄を持って立ち上がる。

 

 

「こんなもんかな。まあ忘れ物あっても隣だし気にする事は何もないけど」

 

「な、何か忘れてる物あったら私の部屋に置いとくね」

 

「おう、頼むわ」

 

 ゆうくんが部屋を出ようとして、私も見送るために立とうとした時、彼はこちらに振り向いた。

 

 

「あ、そうだ。なあ後藤さん」

 

「な、何?」

 

「昨日今日と祝ったけど、今年の誕生日はどうだったよ」

 

 そう聞かれて、何故か咄嗟に時計を見た。

 時刻は十一時五十五分。あと五分で私の日は終わる。

 

 いつもなら何かとどもったりすぐに答えられない私だけど、この時は珍しく自分でも素直に言葉が出てきた。

 

 

「うん、凄く楽しかったっ」

 

「……そっか」

 

 彼は噛み締めるようにそう言って、私にとって一番ダメな笑顔でこう返してきた。

 

 

「そりゃ何よりだっ」

 

「っ」

 

 何で自分の誕生日じゃないのにそこまで自分の事のように笑ってくれるんだろう。

 そんな笑顔は、ズルい……。

 

 

「じゃあまた明日。玄関まで見送りはいいから、ちゃんとギターも押し入れの中に直しとくんだぞ。他の片付けもしっかりとな」

 

「あ、はい……」

 

 やっぱり最後はお母さんモードになるんだ……。

 あくまで私に対しては保護者的な立ち位置なんだなぁ。

 

 最後の確認も終えて満足したのか、ゆうくんはそのまま部屋を出ていった。

 まあ、二日連続でケーキも食べれたし、好きな食べ物もいっぱい食べれたから総合的に見れば今年の誕生日は最高のものになったと断言できる。

 

 明日片付けができていなかったら何言われるか分かったものじゃないので、おずおずと部屋の片付けを始める。

 まずはギターを押し入れに直そうと襖を開けると、

 

 

「……え?」

 

 私がいつも引きこもっているスペースに小さな紙袋があった。

 練習始める前はなかったはずだから……ゆうくん? でもいつの間に……私がトイレ行ってる間に置いたのかな。

 

 けど、誕生日プレゼントは昨日も貰ったし……何なんだろう。

 とりあえず紙袋を手に取り、中を覗く。

 

 するとそこには、

 

 

「ピンクの、マフラー……?」

 

 触るだけでもふもふと気持ちいい感触が手に伝わってくる。

 同時に、私のスマホからロインの通知音が鳴った。

 

 このタイミングで来るという事は、相手は一人しかいない。

 急いでスマホを取って画面を開く。案の定ゆうくんからだった。

 

 トーク画面には簡潔にこう書かれていた。

 

 

『本番は今日だって言ったろ』

 

 そうだ。ゆうくんは私のお願いを聞く時も言っていた。今日が本番だと。

 だとしたら、彼は二つもプレゼントを用意してくれていたのだ。私のために。

 

 思わずマフラーを抱きしめる。体が震える。寒いからでも怖いからでもない。ただただ嬉しくて、彼の優しさに溺れてしまいそうで。

 今までの誕生日が誕生日だったからか、その反動としてこんなにも嬉しい気持ちに包まれていいのか逆に戸惑ってしまう。

 

 呼吸が甘い。

 こんなにも満たされるような気持ちは初めてだ。こんな私でもその幸せを受け入れていいのだと言われている気がした。

 

 マフラーを抱きしめたまま倒れ込み足をジタバタしてしまう。

 この気持ちを簡単に押し留めることなんてできない。何ならこのまま寝られるのかすら分からない。明日ゆうくんの顔をまともに見れるかすら怪しい。

 

 時計を見る。

 十一時五十九分。魔法が解ける寸前。

 

 

 

 誕生日が終わるその瞬間まで……私の心は間違いなくゆうくんで満たされていた。

 

 

 





サブタイは一応元になった曲名があります。
本編との関連性はそんなにないやもしれぬ。

結束バンドのみんなも登場させてもよかったんだけど、せっかくだから今回はずっとぼっちのターンで。

たまにはストレートなラブコメ要素入れてもいいかなって。番外編だからかぼっちの気持ちも本編より結構強めだったりする。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:あかさたなはまやらわ、、、さん、サンキューさん、fairyalpさん、やとわれさん、ユートピア913さん、マウンテンゴリラさん、クラエノハマイトカケギリさん、待宵月さん、RotteNDollさん

☆9:folpsさん、アザラシ2038さん、BaCon3636さん、クティ333さん、Ryonganさん、完全無欠のボトル野郎さん、イエローケーキ238さん、KYBMさん、jonさん、モチモチこしあんさん、小型ハサミさん、タスマニアさん、イキョウさん、溺死体さん

本当にありがとうございます!
評価や感想くれるみんなのおかげでモチベ保ったまま書き続けていられます。
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