再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
休日は更新ペースが落ちると言ったな。あれは嘘だ。
いや、ただ小説が勢いある内に更新しといた方がいいかなって思っただけです。つまりみんなのおかげです。
あと今夜のぼざろアニメ最新話が楽しみでモチベ高かっただけです。
明日は更新できるか分からんけどがんばるますっ。
後藤さんにスタジオへ連行され、俺は隅に置いてあった木製の丸椅子に座ってからある程度の時間が経っていた。
僅かな打ち合わせを終え、一度通しで演奏した後の事。
「「ド下手だ」」
「マ゜ッ!?」
後藤さんが硬直した。演奏前は自信ありげにドラミングしてたのにな。何でしてたのかは一切知らんけど。
しかし伊地知さんと山田さんの評価にも後藤さんの演奏にも疑問があった。
俺は後藤さんのギターを何度も聴いている。自分の好きな曲をリクエストするくらいだし、実際その時はめちゃくちゃ上手かったはずだ。
なのに今の演奏ではいつも聴いてるそれとは随分とかけ離れていた。素人の俺が聴いてても違和感を感じるくらいだから、バンドをやってる伊地知さん達はすぐに気付いたのだろう。
何でいつもの実力が発揮できなかったんだ? 初めて人と演奏したから? もしくはいつもの陰キャモードでパ二クった? いきなりすぎてスピードとかその辺の調整をミスったか?
どれだ。全部の気もするけど。
「どうも、プランクトン後藤でーす……」
「売れないお笑い芸人みたいな人出てきた!?」
俺が推測を出す前に後藤さんは人間を辞めていた。さすがにプランクトンに失礼では?
「清水君の出番だよ! ひとりちゃんを何とかして!」
「時には諦める事も大事ですよ」
「初っ端から諦めてない!?」
ああ、何て気持ちの良いツッコミなんだ伊地知さん。これだ、これだよ。俺が求めていたのはこういうツッコミをしてくれる人だったんだ。
後藤さん相手だと会話すらままならないからいつも自分の心の中でボケてツッコんでを繰り返してたけど、逸材はここにいた。これで俺も安心してボケに回れるぞ。
そんな事をしている間に後藤さんがスタジオを出て可燃のゴミ箱の中へするすると移動していた。チィッ、プランクトンだから移動するとこ見えてなかった!
メタモンかよ。色似てるけど!
「ひとりちゃんどこ入ってるの!? ねえ、出てきてー! 本番始まっちゃうよ!」
「ややや、やっぱりできません~……!」
「しょうがないよ即席バンドなんだし。ほら、あたしだってそんな上手くないしっ」
「私は上手い」
そこで胸を張れる山田さんの度胸凄いな。後藤さん慰める気ゼロじゃん。
「とりあえずこっち向いて! 現実逃避しないでー! 清水君ひとりちゃんってたまにこんななるの!?」
「たまになんてもんじゃないですよ。年中無休の四六時中です」
「365日!? どうにかできないの!?」
「できたら俺がとっくにそうさせてます」
ここまで来るともう不治の病なんじゃないかって思えてきた。後藤さんが陽キャとまではいかないにしても普通になれる日なんて来るのだろうか?
少なくとも今のままじゃ到底無理だ。その場合、俺が一生後藤さんの面倒を見なくてはいけない。……ちくしょう終身刑と変わんねえじゃねえか! 常に要介護者だぞ。
だが伊地知さんが俺をスタジオに呼んだのも後藤さんの監視役としてだ。さすがに何もしないままというのは気が引ける。
ので俺はゴミ箱に入ったままの後藤さんの目線まで屈む。いわゆる子供の目線と同じ高さにする事で警戒心を解く技だ。
「後藤さん」
「っ」
彼女の身体がピクンッと跳ねる。
優しく、撫でるように言う。
「伊地知さん達は優しい人だ。だからそんな姿を見てたら後藤さんにこれ以上無理をさせるのは良くないって思わせてしまう事くらいは、分かるよな」
伊地知さん達の方へ視線を向けると首を縦に振った。やはり優しい人達だ。こんな後藤さんを受け入れてくれる人達は滅多にいない。だからここで諦めるのだけは絶対に間違っている。
無言で頷く後藤さんに俺は続けた。
「ならまずは後藤さんの素直な気持ちをちゃんと言うべきだ。誘ってくれたこの人達に、後藤さんはどうしたい? ちなみにこれだけは言っとくぞ。ここを逃せばこんな奇跡はもう二度と起きない」
「うっ……」
「その上で言ってみろ。どうしたいか、何をしたいかを。大丈夫だ、ゆっくりでいい。
「……私の、やりたい、事」
彼女が顔を上げた。
よし、この顔ならもう大丈夫だろう。何せ誰かに声を掛けられてバンドを組むなんて、それこそ後藤さんがずっと待ち望んでいた夢なんだから。それを自ら手放すなんてもったいない。
奇跡でも何でもいい。そこにチャンスがあるなら掴み取るべきだ。
「あ、あの、私、本当に嬉しかったんです……。声掛けられて、バンドずっと組みたいと思ってたから……で、でも、メンバー集まらなくて、だから普段はカバー曲とかネットに上げたり……」
え、それ初耳なんだけど。そんな事してたの? チャンネル名何か聞いたら答えてくれ……なさそうだな。今の今まで自分から言ってこなかったし。
まあ身内にも言えない事の一つや二つあるのは当然として考えておこう。
「普段は何弾くの」
「あっ、結成した時すぐ対応できるように、ここ数年の売れ線バンドの曲は大体……」
「え、すご!」
そうです。後藤さんはギターの腕前とちやほやされるための努力だけは凄いんです。
全部他力本願だから基本的に実を結ばないだけなんですよ。それが一番致命的なんですけどね!
「売れ線のカバーばっかって、何かギターヒーローさんみたいだね。って知ってる? 多分あたしらとそんな歳変わんないと思うんだけど。もう最高に上手いから聴いてみてよ!」
「私もオススメに出てくるから何度か見た事あるけど凄く上手かった」
「あ、その人俺も知ってますよ。俺が好きなバンドとか結構弾いてくれるから勝手にシンパシー感じてるんですよねえ。概要欄も何だか俺と似たような経験してて親近感湧いてます」
ガタンッ! とゴミ箱が揺れていた。ああ後藤さんか。
「ね! ネーミングセンスはちょっと痛いけど」
「カッ!?」
「そうですか? 俺は結構好きですよギターヒーローって名前。やっぱヒーローってとこに男は惹かれるんですかね」
「……うぇひ、うへへへへ……」
ちょっと後藤さん会話の中に自分の世界の声介入させてこないでくれませんか。どんな妄想してたらカッとか口から出てくるんだよ。
というかさっき良い表情になってたのに何でまた元通りになってんの。まともな顔を数秒も持てないのか。
再会した時もそうだったけど、やけにギターヒーローの話題になると反応するのも何なんだ。
自分もネットに投稿してるから意識してるのか? 確かに上手さで言えば多分同じくらいだと思うけど。素人だからちゃんとは分からない。
……ん?
「えっとね、つまり何が言いたいかっていうと、上手くて話題の人もね? あたし達が見てないところでたくさんギターを弾いてきたんだろうなって。後で見てみて! 動画見てると伝わってくるから!」
音楽をやってる人だから分かるものなんだろう。俺にはまだピンと来てないけど、今は俺よりも伊地知さん達の方が後藤さんを奮い立たせる事ができそうだ。
「今日がダメだからってバンド諦めるのは早いって! あたし達がアレなだけかもだし」
「アレ?」
山田さんがこちらを見てきた。やめてください。俺に振らないでください。ツッコんでいいとこかまだよく分からない関係性じゃないですか俺達。
「あ、立った」
「……」
「わ、私、その……」
「もしかして出てくれる気になったとか?」
後藤さんが立ち上がり、ジャージの裾を力強く掴んでいる。
彼女なりの努力と決意が垣間見えた。後藤さんも分かってるんだろう。こんな優しい人達は他にいないって。だから奇跡を掴むために立ち上がった。
ったく、まあここまで自力で立ったなら頑張った方か。
傍から見ればまだまだ甘やかしているように見えるかもしれないが、面倒を見ると誓ったのは紛れもないこの俺だ。であれば、多少は優しくしてやってもいいだろう。
静かに俺も立ち上がって後藤さんの隣に立つ。
「……え?」
「ん」
そっと右腕を差し出すと、後藤さんも俺の意図を察したのか掴んできた。右腕の袖を。
いまいち分からないが、こんなものでちっぽけな勇気が出るならいくらでも差し出してやろう。減るものでもないしな。
「わ、私も……い、一緒に……でっ、でで……」
いいぞ後藤さん。もうすぐだ。それさえ言う事ができれば確実に前へ進めるぞ。
俺に後藤さんの成長を見せてくれ。
「怖いならこれに入って演奏すれば?」
そう言って完熟マンゴーと書かれたどでかい段ボールを持ってきたのは山田さんだった。
あの、初対面なばっかで大変言いにくいんですけど、ちょっとそこは空気読んでほしかったです。後藤さんのなけなしの勇気と俺の手助けが無意味になってしまうんですがそれは。
いやでも待て。袖しか貸してないけど一応俺もフォローしてるし後藤さんも自分で頑張ってたんだ。
ならあんな段ボールなんてなくても後藤さんはちゃんと
「い、いつも弾いてる環境と同じです……!」
「どんな所に住んでんの?」
秒速でしっかり完熟マンゴー段ボールの中へ移動していた。
噓だろオイ。俺の助言は段ボールなんかに負けたのか。暗くて狭いとこがあるとすぐ入りやがって、猫かよ。
ちくしょう何だこの敗北感。わざわざアドバイスして袖も貸した俺がバカみたいじゃねえかよ。
無駄に恥ずかしい思いしただけじゃん。惨めになっちゃっただけじゃん。
「み、皆さん下北盛り上げていきましょう……!」
「少し気が大きくなった」
腹立つなこいつ。俺の気持ちをいとも簡単に踏み躙っておいてその態度かこの野郎。
段ボールを少し蹴ってやろうとしたら、その前に伊地知さんが声をかけた。
「と、そういえばライブで何て紹介すればいい? ひとりちゃん? 本名でいいかな?」
「い、いや、それは……」
パカッと窓みたいに段ボールを開けてきた。いやそこ開くんかい。
「あだ名とかはないの?」
「あ、伊地知さんそれは」
「ち、中学では「あの」とか「おい」とか言われてました……」
「それあだ名じゃなくない!?」
友達がいないのだからあだ名なんてある訳ない。伊地知さんにもこの雰囲気で察してあげてほしかった。
名字すら呼ばれてないのは本当に謎だ。あれか、名前呼んだら呪われるとか思われてんじゃないかな。奇行ばっかするし。
「ひとり……ひとりぼっち……ぼっちちゃんは?」
「またデリケートなところを!」
「ぼぼぼぼぼっちです!」
「喜んでるし……」
「今日一声が元気だな」
「あだ名とか初めてで……!」
「何か涙出てきた……」
初のあだ名がぼっちってそれはそれで良いのか後藤さん。
いやまあ本人が良いならいいんだけど。普通に喜んでるし。後藤さんのために泣いてくれるとか何て良い人なんだ伊地知さん。その涙はもっとちゃんとした時のために取っといた方がいいですよ。
「あっ、そういえばバンド名まだ聞いてないです……」
「確かに」
「うっ」
伊地知さんが何やら言いたくなさげな雰囲気を出している。
どうしたんだろう。ロックだしえげつい感じの名前なんだろうか。反社会的カニバリズムとかそんな感じかな。だとしたらやばいな。
「結束バンド」
「え」
思わず声が出てしまった。
「傑作……」
「寒いし絶対変えるからぁ~!」
「何で? 可愛いよね?」
「あっ、はい」
え、可愛いの? 結束バンドが?
ダメだ。俺にはさっぱり分からん。女子の感性がそうなのかとも思ったが伊地知さんは変えたいらしい。一時的なバンド名なんだろうか。
「バンド名は後回しで、そろそろ出番だよ!」
お、もうそんな時間か。
「じゃあ俺もそろそろ客席の方に行っときますね。頑張ってください」
「うん、しっかり見といてね!」
さて、ここから先は本当に俺無しでやらなきゃいけないぞ後藤さん。
バンド組んで一発目のライブ。ほとんどぶっつけ本番だけど、良い経験になる事を祈っている。
「あっ、うっ、ゆ、ゆう」
「後藤さん」
段ボールからこちらに手を伸ばそうとしていた彼女に声をかける。
「結束バンドの演奏、楽しみにしてるからな」
そう言って返事を待たずに俺は客席の方へ移動した。
最後に映ったのは伸ばしていた手をゆっくり下ろす後藤さんだったが、まあ大丈夫だろう。
今日会ったばかりの人達だけど、それでも良い人達なんだって事はこの短時間で分かった。
あの後藤さんを見て普通に接してくれる時点で等しくみんな聖人だ。伊地知さん達になら安心して後藤さんを任せられる。
不思議と気分も良い。
何だかライブが楽しみになってきた。
────
そしてライブが終わり、俺と後藤さんは帰路についていた。
STARRYを出てすぐ、俺は口を開いた。
「おい、何だアレ」
「あっ、いや、その……」
後藤さんからの返事はか細く歯切れの悪いものだった。
だがそれはいつもの事だしまあいい。俺が聞きたいのはライブの事だ。
「何で段ボールのままライブやったんだあれじゃ顔も見れねえし呼吸も合わせられないだろうが最前列で楽しみに待ってた俺の気持ち返せこの野郎!」
「うぅぅぅごめんなさいごめんなさいすみませーん……!」
マジで完熟マンゴーの段ボールがそのまま出てきた時は声を失った。出荷かと思った。
客はおそらく伊地知さん達の友人だけでまばらだったが、それ故余計に一人だけ最前で見ている俺の目立ち方が凄かった。
今回はボーカルのいないインストバンドだからどこでノれば良いかよく分からなかったし、あの段ボールを前に本当にノッても良いのか困惑したほどだ。
しかも最前でライブ中後ろを見るの躊躇うから他の客がノッてるかも分からなかったのが怖い。よく聴くと演奏もちゃんと合ってなかったし。
結論、俺の選んだ聴き方は棒立ちである。もはや障害物の気持ちになっていた。
初めての生ライブの感想が地獄か? と思ったのは多分この世界で俺一人だけだ。奇跡を掴んだ少女が段ボールとなってステージに立つなんていったい誰が予想できる。
あの流れは普通段ボールなしで出てくるとこだろ。いきなり人前で演奏できてすげえってなるとこだろ普通なら。
やはりというか当然というか、後藤さんはいつだって俺の予想を遥かに下回ってくる。底なしだ。沼以下だ。引きずり上げるにも限界がある事を分かってほしい。
結局初ライブは大失敗。俺から見ても無残な結果となった訳ではあるが。
後藤さんの顔を見るに何も得られなかった訳でもなさそうだ。
「……で、どうだったよライブは」
「たっ、楽しかった……」
「それだけか?」
「虹夏ちゃんとリョウさんと一緒に……こ、これからも結束バンドとして頑張っていきたいなって……」
「……そうか」
五月の夜空。寒すぎる事も暑すぎる事もない、平凡な夜空の下で聞くには十分すぎる回答だった。
彼女の中で答えは見つかったようだ。だとすれば、俺の言うべき事は一つ。
俯いて歩き女性とぶつかりそうになった後藤さんの肩をこちらに寄せる。
小さく「ぁ……」と声がしたのも無視して、
「よく頑張ったな」
これまで後藤さんの行動は全て裏目に出ていた。
努力が実を結ぶ事はなく、印象としては右肩下がりばかりで誰からも声を掛けられなかった。
本当はただ友達が欲しいだけなのに、そんな些細な願いも引っ込み思案な性格が災いして自分からは動けない。
他力本願でしか努力できなかったのが彼女だ。そんな彼女が、今日確実に一歩前へ踏み出した。
結果はどうであれ、バンドを組んでライブに出たのだ。
他の誰にも理解できないかもしれないけれど、それは後藤さんの中で数えきれない葛藤があり、逡巡し、悩んだ果ての行動だ。
今までにはなかった進歩。
少なからず一緒に歩んできたから俺には分かる。
段ボールのせいで変な説教をしてしまったが、実際には素直に褒めるのがむず痒くて照れ隠しだった。
しかし、ここはちゃんと言うべきだと思ったから。言う。
これからどうなるにせよ、可能性は無限に広がっている。
後藤さんの歩む道が、どうか明るい未来であれと願いながら。
「これからも応援してる」
「……は、はい!」
超絶簡単なオリ主紹介。
清水優人。
名前の由来は『優しい人であれ』。
その名の通り、基本的には優しくあまり怒る事はない。しかし親しくなった人や度を超えた者には普通にキレる。
果たしてこの設定が活きる時は来るのだろうか。
あれ、そういえば今日アニメに初登場する人って……?
では、今回高評価を入れてくださった
ハルカゼさん、月城 無月さん、ラグナカングさん、山茶花雪風さん、塩結びさん、キオンさん、。暇人さん、三角定規さん、爽花さん、黎継さん、siuwingkin15さん、たあんさん、LW_Lilyさん、エラントさん、Afuroさん、のろうみさん、回る鈴木さん、静養さん、ノボットMK-42さん、シュークリーム将軍さん、nohinohiさん、Krescentさん、samaeru3さん、ぽこじゃかさん、スーパーヤサイ人さん、田中太郎マークXさん、粉みかんさん、日陰者の長さん、スライム。さん、メヴィさん、煎茶555さん、けん0912さん、@98@さん、udo提督さん、tiniwitwさん、呪蛙さん、いわぬおさん、ミニドラ12さん、帰来鋼都さん
本当にありがとうございます!!
ここすき機能とやらをたまに覗いてみんなが大体どこのセリフや文が好きなのか見るのが更新した後の楽しみになってる。
明日の事は明日の自分に任せた。