再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
前回の推しCPアンケが妥当なとこもあれば意外なとこもあって面白い。
優ぼはまあだろうねとはなるけど、優星やら優きくが地味にあるのも驚きだし、何よりまだ面と向かって会ったのは一回であとは通話程度しか出てないオヨヨパイセンが四番人気なの笑う。
みんなヨッさんの事好きすぎか???
面白かったので定期的にあのアンケートしていくかもしれない。
そして今回は山田回。
優リョウ……とは程遠い。過去最長文字数かもしれん。
土曜日。
今日と明日はバイトもなく練習もない日なので俺は一人でとある場所へやってきた。
そう、つい先週も来たばかりの御茶ノ水駅だ。
理由はたった一つ。そろそろ俺も自分のギターが欲しくなったから。
後藤さんに教えてもらう時にいちいち彼女のギターを借りるのも申し訳なくなってきたので、思い切って買う事にした。
ギターや他の用品も買うと想定して予算はおよそ十万円。一応少し超えてもいいようにもう少し多めに持ってきたけど、大丈夫だよな?
まあ最悪お金下ろせばいいしこのまま楽器店に行こう。
ちなみに後藤さんにはこの事も伝えており、社交辞令で一緒に行くかと聞いたら、
『あっ……い、行ってらっしゃい……。私はゆうくんの無事を祈りつつ笑顔で帰りを待ってるので……』
と、まるで戦地に向かう夫を信じて待つ妻のような物言いで断られた。
やはり聞くだけ無駄だったようだ。できれば音楽経験者の助言も借りつつ選びたかったのだが仕方ない。ここは店員さんに聞けばいいか。
実はというと行く店も気になるギターも前回と同じ場所にあるので、まずはそのイシバシ楽器という店へ向かう事にする。
どうせなら他にも楽器店はあるし色々見て回るのもいいけど、さすがに初心者なのに一人で堂々と店をはしごしても俺の知識じゃデザインの良し悪ししか区別できないから、こういうのはいっそバシッと店を一つに絞りパパッと決めて買うというのが男のやり方だ。……多分。メイビー。
後藤さんにも帰る時は連絡してと言われてるしすぐに買って帰るのも悪くないが、せっかく遠出したんだしギターはすぐ買うとして適当にそこら辺をぶらり旅するのも悪くない。
……けどそうすると先にギター買えば荷物になっちまうか。うーん、悩みどころだなぁ。
そうこう歩いている内に目的地の楽器店の近くまで来てしまい、練習もしたいし買ったらすぐ帰るかと決意しようしていたところであった。
俺の前方に見覚えのある美少女がいたのだ。
「げっ……」
ああいうのが好みなのか、オシャレな私服というよりかはダウナー系の古着でまとめており、だがそれがまた彼女の雰囲気と存在感をより一層際立たせている。
男性ならまだしも、女子高校生で古着をあれほど着こなせるのはルックスの良さと纏う雰囲気が一致していないとできてない芸当だ。
そしてそんな事が可能なのは俺の知る限りではただ一人だった。
あのキラキラ陽キャな喜多さんすら目を光らせて憧れる女子高生。彼女でもなく娘になりたいとぶっ飛んだ事を言わせてしまうほど見た目
山田リョウが前方にいた。
まさかこんな所で出会うと思っていなかったが故に、次の行動に出るのが遅すぎた俺。その間にこちらの存在にハッと気付き目を輝かせてきたやべー女は、驚きの速さで俺に近づいてきた。
「優人? 優人が何でここにいるの? ……もしかして優人もとうとう自分の楽器買いに来たっ? いや待て私、そんな都合の良い話があるか? 自分の良いように解釈するのは良くない。分かった、当ててみるから優人はちょっと黙ってて。……私の推測はこう。先週のぼっちがギター関連で買い忘れた物があって、仕方なく優人がそれを買いに来たとか? どう、あってる?」
「というかいちいち近え!! 何一人で自問自答して勝手に納得した上に推測始めてんだアンタは!? 音楽関係の事になるとほんとよく喋るな!?」
ここでぐいぐい来るのやめてほしい。普通に恥ずかしいから。
いつもは制服で会ってるからたまにこういう私服とかで会うとちょっとドキッとするんで。ボーイッシュというかユニセックスというか、こういう服装ほんと似合うなこの人。
「で、どう、あってる?」
「や、まあ……不正解、というよりは惜しいですかね」
「惜しい?」
「はい、むしろ最初のままだったら正解だったんすけど」
「というと?」
だから近いって。
「……結束バンドの演奏とか見てる内に興味が出てきて、最近俺も始めたから自分のギター欲しくなって買いにきた……って感じです」
そういや後藤さん以外の人には俺がギター始めたって言った事ないんだよな。
バンド組む予定はないし、後藤さんは上達早いって言ってくれるけど個人的には全然見せられるレベルでもなくて、結束バンドの演奏を見てから興味持って始めたって言うとミーハーっぽく聞こえそうで何だか気が引けてくるのだ。
しかも一番音楽にうるさ……げふんげふん、詳しいリョウさんなら余計である。ペチャクチャ音楽知識をひけらかしながらまくし立ててきそう。
だがしかし、そんな俺の予想に反して彼女の反応は至って真逆であった。
「ふうん……」
むしろ静かに右手を顎に当て考え込む素振りをみせていた。
「あの、リョウさん?」
「優人」
「は、はい?」
「今は何時?」
自分のスマホでも見ればいいのにと思いながら、この人の事だからそれさえも面倒に思ってるのだと勝手に納得して自分の腕時計を見る。
「十三時過ぎですね」
「私はお腹が空いた」
「え」
正直時刻を聞いてきた時から嫌な予感はしていたが、まさか……。
「奢って優人。私はパスタが食べたい」
「お金貸してでもなく奢って、だと……!? しかもよりによって自分からパスタ食べたいとか要望出してくるヤツなんて初めてだぞ!? というか何でいきなりそんな流れになってんの!? 質問からの会話ぐちゃぐちゃになってんじゃん! いったいどういう思考回路して」
「これは取引」
「……とり、ひき?」
分からん。この人の考えてる事も少しは分かってきたと思ってきたけど、やっぱり分かんねえとこはさっぱり分かんねえ。
いつもリョウさんの相手してる虹夏さんってやっぱり凄い人なんじゃあ? 後藤さんとは別ベクトルで常人には荷が重すぎるぞ。
「優人、ギター買いに来たのはいいけど、知識自体はそんなにないからお店を一本に絞って決めようとしてるでしょ」
「え? まあ、そうですけど……よく分かりましたね」
「でも運良く私と会えたのはラッキーだと思っていい」
「たかられた時点でアンラッキーではあるよ」
「私ならギターの知識もバッチリあるし、アドバイスも完璧にできる。本当なら初心者すぎて一人で決めなきゃいけないとこに私がいる事で知識も蓄えつつ、優人に合ったギターやサブ用品もしっかり見てあげられる。それをお昼ご飯一食で等価交換できるなら、安いものだと思うけど」
「う、うーん……?」
安いかどうかは置いといて、一考の余地はあるかもしれない。
確かに後藤さんが無理だから仕方なく一人で来たけど、本来なら経験者の知識を借りたいのが本音だ。
ギターはどうにかなるとしても、チューナーやらシールドとか何を選べばいいのかまではよく分かっていない。事前にある程度調べはしたが、所詮は初心者の付け焼刃だ。
そこにリョウさんという楽器に関しては知識の塊みたいな人が近くにいてくれれば、そこら辺の難易度はガクッと下がるだろう。
この人の事だから色々懸念は拭えないが、まあ……いないよりかはマシと考えるか?
これから長い間世話になるギターと今日一日分だけの昼飯代と換算すれば、安いと思うのが妥当なのかなあ。
「……分かりました。昼飯は俺が奢ります。それで手打ちにしましょう」
「フッ、さすが優人。身の程を弁えておるな」
「めっちゃ癪に障る言い方だな」
「善は急げ。さっそくパスタ食べに行こう」
「ちょっ、背中押してこなくても歩けるからっ、つうかもう行く店決まってるんですか!?」
「駅の周辺ブラついてる時に美味しそうなとこがあったからそこに行く」
いつもは気の乗らない気分だったら亀みたいに鈍いのにこういう時の行動力だけはチーター並に早えな!?
とまあ、こんな感じで遠出したら思ったより世間は狭くてリョウさんに遭遇し、想定外の時間を過ごす事になったのだった。
──―
「そういやリョウさんは何で御茶ノ水に来てたんですか?」
リョウさんの言っていたパスタ店でお互いに注文したパスタを頬張りながら質問してみる。
ちなみに俺が食べているのは梅としらすを使ったさっぱりと食べられるパスタで、リョウさんのは紅ズワイガニと帆立のクリームソースに温泉卵が添えられたパスタだ。しっかり俺より高い物を頼んでやがる。いやいいけどさ……。
「この前みんなでここに来たでしょ」
「はい」
「その時に色々見たくなってここに来た」
「ほんと好きなんですね楽器」
「あわよくばベース買おうかと思ってる」
「全力で止めるわ」
金欠になられたらまた俺がお金貸さないとダメになるやつじゃんそれ。
「あとは試奏しまくって次に買う候補を決めておくみたいな感じ」
「結局買う気満々なんすね」
「ギターとベースは何本あってもいい。見栄えが良いってだけで買う人も世の中にはいる」
「それを金欠になってまで女子高生がするのはどうなんですかね」
おい目を逸らすな。山田、おい山田コラ。山田ァ!!
「にしても優人もわざわざここに買いに来るなんて珍しい。それこそ今時はネット通販で楽器も買える時代なのに。初心者向けセットとかお手頃価格で色々あったでしょ。あまりオススメはできないけど、あれじゃダメだったの」
「露骨に話題変えてきたな……。あー、まあ最初はまとめて買えるならそれもありかなって思ったんですけど、やっぱりこういうのって自分で触って確かめてみたいというか、その方が自分で選んだって感じがして愛着も持てると思ったんですよ。ああいうのが悪いとは思いませんけどね。後藤さんみたいに店員が苦手って人からすればありがたいと思うし、知識があって通販で済むならそれに越した事はないので。あくまで個人的な感想です」
元々後藤さんも最初は音ハウスっていう通販サイトで買おうとしてたしな。
今日も最初の方は通販サイトで一緒に選ばない……? とか言ってきたし。この前ので相当疲れたらしい。あれは当分楽器店に行けない体になってそうだ。
「なるほど。優人は結構良いセンスしてる。実際試奏してみたり持った時の感覚でしっくり来るか来ないかってのも大事だったりするから、そういうのも含めて自分で触ってみるのが一番良い」
「やっぱそういうもんですよねぇ」
リョウさんほんと楽器の事になると真面目に返してくるから頼りになる。
ずっとこれでいてくれたらいいのに。無理か。無理だな。
「ちなみに予算はどのくらい?」
「一応十万とちょっとです。後藤さんの買ってたのが六万前後だったので、俺もそれくらいでいいかなって」
「ふむ……大丈夫。私がいるからにはその予算内でちゃんとしたものを手に入れられるようにする」
これほんとにリョウさんか?
余った分の予算を私に貢げとか後から言ってこない? 大丈夫? 影武者とかじゃないよね?
「……何」
「いや……リョウさんの割には真面目だなって」
「音楽と楽器に関しては私はいつだって本気。それ以外がダメなだけ」
「う~ん、ダメかぁ」
ならもう手遅れですねぇ。
この人につける薬はないらしい。末期である。
「ん? 何してんですか?」
「写真撮ろうと思って」
「そんなキャラでしたっけ? つうかもうパスタ食べてる途中ですけど、セーフに入んのこれ。さすがに映えないんじゃ」
「別にどこかに投稿する訳でもない。優人と偶然会ったから一緒に撮って結束バンドのロインに貼ってみるだけ」
そう言ってリョウさんはスマホを手に取り自撮りモードで自身と俺にカメラを向ける。
まあ、待ち合わせてもないのにこんなとこで友達といきなり会ったらこうなるもんなのかね。リョウさんも意外と女子高生っぽいとこあるんだな。
「何でまたそんな事を?」
「ぼっち達の反応が気になるから」
「はぁ……?」
反応っていっても、普通に後藤さんの場合は何もリアクション起こしてこないと思うけど。グループロインの時はいつも業務的な返事だけだしなぁ。
虹夏さんと喜多さんも何となく予想はできる。おー珍しい組み合わせだね~とか、リョウ先輩と一緒なんて優人君ズルい! とかって感じで来そうだ。
何ともまあ平和な想像だ。これ以上の事なんて予想できん。
とりあえずパスタを一口頬張る。その瞬間だった。
「優人」
「んぁ?」
パシャッという音がリョウさんのスマホの方からした。
「……何で今撮るんすか」
「ベストショット」
人がものを口に入れた瞬間を撮る事のどこがベストショットなんだ。
自分はちゃっかりピースしてるし。
「よし、結束バンドのグループに送る」
「へーへー」
もはやこの人のマイペースさにいちいちツッコんではいられない。
俺は俺のペースで食事を済ませよう。
ピロンッと俺のスマホの通知音が鳴る。
リョウさんが送ってきたからだろう。別に内容は知ってるものだし見る必要もないのだが、一応確認という事でロインを開く。
そこには撮影した通りの写真と、リョウさんの一言が添えられていた。
『お忍びデートなう』
と。
それを見た俺は、冷ややかな視線を対面に座っている彼女へ向ける。
「写真貼った時点で忍んでねえじゃん」
「意外、優人なら吹き出して思いきりツッコミ入れてくると思ってたのに」
「リョウさんのやってる事に全部ツッコミ入れてたらこっちの息が持たなくなりそうなんで」
「むぅ、ちょっとつまらないけどいいか。本命はぼっち達の反応だし」
「後藤さんなら多分反応しないですよ。今まで結束バンド関連以外の事で返事きた事ないでしょ。虹夏さんは家事してるから返事遅れるだろうし、喜多さんはそもそも休日は友達と出掛けてるはずなんでスマホ見てない可能性高いです」
念のため自分のスマホの通知をオフにしてバイブレーションにしておく。
他意はない。決して。
「くっ……私渾身のボケが……」
「反応来るまで待っとくのも面倒だし早く食べて買いに行きましょうよ。本来の目的はそれなんだから」
「ぐぬぬ、仕方ない」
といっても俺はもう食べ終わるからリョウさん待ちだ。
食欲旺盛の男子高校生にパスタなんてあまりにも軽すぎる。こんなの俺の手にかかればすぐペロリだ。もはや飲み物まである。
ごちそうさまでしたと手を合わせたのも束の間、スマホのバイブが反応した。
黙々と食べているリョウさんからは見えないようにテーブルの下でスマホを確認すると、後藤さんからの個人ロインだった。
『何で』
『どうして』
『リョウ先輩と一緒にいるの?』
『今、私は冷静さを欠こうとしています』
どこで覚えたそんなネットスラング。いやネットか。
それに後藤さんの場合は冷静な時の方が珍しいでしょうが。何自分を棚に上げてんだこの子は。
ちょっとめんどいけど返信しとくか。
『御茶ノ水歩いてたらリョウさんと出くわしたから、そのままギター買うのとか色々手伝ってもらうわ』
こんなもんでいいだろう。
あ、すぐに既読になった。ロインだと反応早かったり流暢になるんだよなぁ。
『私が着いていかなかったばっかりに……』
ロインを閉じてスマホをポッケに入れる。
着いてくる気更々なかっただろうというツッコミは胸に仕舞っておこう。今は目の前のマイペース少女にリソースを割かなくては。
「食べましたか?」
「
「お行儀」
これで良いとこの娘さんてマジ?
──―
昼食も食べ終わり、その後俺はリョウさんに色んな楽器店へと連れられた。
ギターを売ってる店はもちろん、何故かギターと関係ない店だったりベースばかり売ってるような店まで。
果てにはウクレレ専門店とか連れて行かれた。いや、この場合はもう連行されたに等しいのでは?
で、結局。
「何だ、気になってるギターがあるなら最初からそう言えばいいのに」
「言ったよ!? 途中で俺それ言ったよ!? けどどうせなら色んな楽器も見とくといいって言ったのそっちじゃん! 俺の手引っ張ってずっと離さなかったのそっちじゃん! 絶対自分の気になる店行きたかっただけだろ!? 手とか今も繋いだままだし!!」
「はいちーず」
「そこで自撮りする度胸だけは認めてやる。あとで覚えとけよ……」
「またグループロインの方に貼っといた。デートの続きなうって」
虹夏さん達で遊ぶ気満々だなこの人。面白さ優先とか大阪人かよ(偏見)
そしてポッケのスマホがバイブレーションを奏でる。後藤さんからだった。
『ゆうくん、今、私は冷静さと書こうとしています』
誤字ってる。誤字ってるよ後藤さん。
冷静じゃないのバレバレだよ。
すると続けざまにバイブ通知が鳴った。
結束バンドのグループロインだ。虹夏さん達もようやく見たか。一応俺も反応気になるし見てみよう。
『リョウ先輩と優人君が手を……?』
『どういう事か詳しく説明しなさい』
『『今』』
『『私達は冷静さを欠こうとしています』』
もしかしてこの流れ流行ってんの?
打ち合わせしてないよねこれ。何でこの二人も息合ってんだよコントかよ。そんなブームの兆しトゥイッターでもなかったぞ。もはや俺に対してドッキリ仕掛けてきてるんじゃないかと思うレベル。
「フッ、計画通り」
「バカ言ってないで行きますよイシバシ楽器店に」
今度はこちらから手を引っ張って店に向かう。
虹夏さん達には悪いが相手するのは後回しだ。リョウさんを放っておくとまたどこか違う店に連れて行かれちゃかなわん。
「ギターを買うなら他にもチューナー、シールド、ストラップ、ピック、アンプ、ギタースタンドとケースも必要。家で使うアンプなら小さめでも良いのは結構ある」
前回来た店に入った途端、リョウさんの態度がまた一変した。
というかいきなり真面目モードになったっぽい。一分前まであんなふざけてたのに……。
店員さん達も前回と同じ人達で、俺達を覚えていたのかいらっしゃいませ~と言ってからゆっくり見ていってねと優しい笑顔を送ってくれた。
やはり年上のお姉さんって良いな……。
「優人、聞いてる?」
「聞いてますよ。予算内で買えそうな物は全部買っていくつもりです」
「初心者なら一応替えの弦も買っておくといいかも。最初は結構切っちゃう人もいるから」
「へえ、そうなんですねぇ」
文化祭ライブの時の後藤さんみたいになる時があるのか。
「切れ方によっては弦が勢いよく跳ねて顔とか指をケガする事もあるから気を付けて」
「はい」
思ったより丁寧に教えてくれる。
ただ買うだけじゃなくてこういった予備知識を教えてくれるのはとてもありがたい。普通にためになる。
「粗方説明は終わり。大体買う物が決まったなら、次は優人が気になってるギターを見に行こう」
「あるのは二階ですね」
何かサクサクしてんなリョウさん。
もっとふざけてグダるかと思ってただけに意外だ。
俺の案内の元、二階に行って目的のギターがある所へ向かう。
「お、まだあった。これです」
前に来たのが先週だったからまだあるか不安だったけど、普通に置いてある。
ギターとかそういう楽器ってホイホイ売れる訳じゃないのか。まあ値段が値段だからな。
「……優人、これって」
「何です?」
「ぼっちと同じシリーズ、それも色違い。何、ぼっちとお揃いのやつが欲しかったの?」
「何か言い方に含みあるように聞こえるのは気のせいかな?」
ちょっと無表情ながらに口角少しだけ上げてんじゃないよ。
なんか俺がちょっと意識してるみたいで恥ずかしくなってくるでしょうが。いや間違ってる訳じゃないけどさ……。
「……単純に見た目がかっこいいと思ったからですよ。……あと、やっぱ憧れてる人の真似ってちょっとしてみたくなったりするでしょ。あれと同じです」
「え、優人ってぼっちに憧れてるの?」
「絶対に他の人には言わないでくださいよ。ギターの技術力もそうですけど、いざとなるとピンチをチャンスにして乗り越えてく姿を間近で見てる身としては、その……やっぱ惹かれるんですよね。俺がそういう展開みたいなのが好きだからってのもありますけど、こういう所から少しでも憧れに近づきたいってだけです」
そのために選んだのがこのギター。YAMAHAのパシフィカ、後藤さんが買ったギターの隣にある同じシリーズで、全体的に黒を基調としたカラーリングだけどピックガードの部分だけがレッドカラーになっているギターだ。
俺からすれば色違いだからこそ意味がある。スタートを切るにはもってこいの代物だろう。
「ふぅん、そっか」
「そっちから聞いておいて全然興味なさそうな声で返すのやめません?」
「別にそういう意味じゃない。ただギターを買うだけじゃなくて、ちゃんとそこに意味を見出してるなら良い事だなって思っただけ」
「あ、そうなんすね。すいません」
「別にいい。その方がギターも報われる」
リョウさん……やっぱこと楽器に関してはアンタが一番信頼できる人や……!
「じゃあギターと他の用品も買って今日は解散にしよう。優人も早くそのギター弾きたいだろうし」
「……はい!」
いつもがいつもなだけに、今日のリョウさんがとても頼もしく思えた。
──―
ギターと他の部品も買い揃えて店を出る。
とりあえず駅まで一緒に行く事になった。
隣を歩くリョウさんの足取りが不思議と軽く見えて、表情もいつもより明るく見えるのは気のせいだろうか。
「リョウさん、何か機嫌良くないですか?」
「ん? まあね」
否定しないという事は、つまりそういうことなんだろう。
「優人は覚えてる?」
「何をです?」
「バイト初日の時にした会話」
よく思い出してみる。
確かリョウさんに受付教えてもらった時だっけ。
「何となくは」
「あの時さ、私は優人にも楽器に触れて音楽に関わってほしいって言ったよね」
「ですね」
「だから今日、優人がギターを始めて自分のを買いたいって聞いた時、嬉しかった」
「そうなんですか?」
「うん」
そう答えながら空を見るリョウさんが、何だかとても美しく見えた。
「私達の、結束バンドの音楽を見てそう思ってくれたんだとしたら、それは私にとっても本望だから」
「本望?」
「少なくとも私達の音楽が一人にでもそういう影響を与えたって事だし」
言われてみると確かに、バンドマンからすれば自分達の音楽で誰かに影響を与える事ができるってのは誇れるものの一つになるのか。
しかもまだライブ自体は初ライブと文化祭ライブの二回だけだしな。
「それにいつも側にいる優人に影響与えられたってのが、一番嬉しい事かな」
「っ」
噓偽りのないリョウさんの純粋な笑顔があまりにも眩しくて思わず顔を逸らす。
正直今の顔は、反則だ……。ちくしょう、この人こんな顔もできたのか。やっぱ顔が良いってズルいわ……。
「? どうしたの」
「何でもないです……」
しかもこういう時に限って鈍いのなんなの。ラブコメ主人公かよ。
不意に見せるギャップはダメだって言ったでしょうが! いやリョウさんには言ってないけども!
「じゃあ私はこの辺で」
「え? あ、あぁ、分かりました」
そうこうしてる間に駅の近くまで来ていたらしい。
前半で散々振り回されていたから、リョウさんも楽器店を見て回るという自分の目的を果たせたって事かな。
「今日は本当にありがとうございました。何だかんだリョウさんのおかげで色々知れたし、楽しかったです」
「私も、たまには誰かと楽器を見るのも悪くないって思った。もっと上手くなった時にはそのギターで結束バンドの曲弾いてみてよ」
「……頑張ります」
地味にハードル上げないでほしい。
「じゃあまた月曜日」
「はい」
お互い軽く手を振って別れる。
最初はどうなるかと思ったが、予定通りギターも買えたし結果的には上々だ。
あとは帰るのみ。
これで後藤さんとの練習ももっとしやすくなるしこれから充実しそうだなぁ。あ、今日は後藤さんに俺のカメラを持たせてちょっとだけ様になってるか写真撮ってもらお。
何せマイギターだ、少しくらいテンションが舞い上がったっていいでしょ。
ギターケースも背負ってるしもう気分は生粋のギタリストである。やべえ、もしかして今の俺って周りからしたらちょっとバンドマンっぽくてかっこいいんじゃないか?
と、ルンルンしながら改札に向かおうとした時だった。
急に背後から誰かに腕を掴まれたのだ。
「あのっ!」
「はい?」
振り向くと小柄な女性……いや、女の子? とにかく小さい女の子がいた。
前髪はパッツンで後ろはツーサイドアップ、ファッションなのか首に包帯だか何だかを巻いており、袖が余り散らかしているのか両方の手が袖の中に隠され萌え袖の究極版かと思ってしまうほど。
何だろう。人を見た目で判断しちゃいけないのは分かってるんだけど、何かこう……関わると面倒そうな気がプンプンする。
格好がちょっと地雷系というかメンヘラ系というか、いや見た目通りの年齢なら別にいいんだが……俺の嫌な予感センサーがレベル4まで上がってきてるような。
「ギター持ってるって事はバンドマンの人ですかっ?」
「……え?」
彼女の第一声に素っ頓狂な声が出てしまう。
や、確かに今の今まで俺ギタリストっぽくねとか思ってたけど、まさか本当にそう見えてたなんて……やだ、ちょっと照れちゃう。俺そんなバンドマンに見える?
「あっ、あたしばんらぼっていうバンド批評サイトで記事書いてるぽいずん♡やみって言います! ちなみに十四歳ですっ☆」
おっと、これは危険な香りがしてきましたよ。
十四歳でライターやってるって何。怪しさMAXなんですが……。つうか喋り方からしてこれぶりってんな。アニメ好き舐めんなよ。そういうのはすぐ見抜けるんだからな。
「実はあたし記事になりそうなネタを探してるんですけどぉ、御茶ノ水付近うろついてたらバンドマンにも遭遇するかなって思ってたのに全然いなくて……でもようやくあなたに出会えたので良しとしましょう☆ 良かったらあなたのバンド経験から面白そうなネタとか気になってるバンドの話とか聞けたらと思ってるんですけど、何かありませんか!?」
なるほど、バンドマンのネタ探しってとこか。
この際十四歳とか痛々しい格好については触れないでおこう。人には決して踏み入れてはいけない領域があるのだ。
しかし気になるバンドか。結束バンド……の話をしたところで今はまだ二回しかライブしてないし無名も無名だからなぁ。
この人に言ったところで絶対相手にしなさそうだし、何よりまだ後藤さんがこういう人を相手に上手く話せるはずもないからまだ黙っておくか。話すにしてももう少し経験値を増やしてからじゃないと。
「すいません、ギター背負ってるから勘違いさせてしまったようですけど、俺バンドマンでも何でもないんです」
「……え、そうなんですかぁ?」
「はい、最近始めたばかりでようやく今日ギターを買ったばかりですしバンドも組んでる訳じゃないので、期待に応えられるようなネタはないと思います」
中学生じゃないのは当然として、ライターをやってるならおそらく成人して働いてると見越して接する。
むしろ成人済みでこんな格好する人リアルにいるんだな。首に包帯が気になりすぎる。いっそコスプレかと思っちゃう。
俺の言葉にどう反応するかと思っていたら、さっきまでのぶりぶりかまってちゃんオーラがすぐさま消え去った。
明るい表情も消えあからさまにガッカリした雰囲気を出している。
「あぁ、そうなんですね。なら大丈夫です~。時間取らせちゃってすいませんねぇ。じゃああたしは忙しいので失礼します~。あ、ギター頑張ってくださ~い」
「あ、はい」
流れるように別れを告げられた。
めっちゃ分かりやすく豹変したな……。リアルぶりっ子ってあんなんなのか?
「はぁ……せっかくネタの手がかりになると思ったのにハズレ……どこかに記事になりそうなバンドネタはないの……」
背中からちょっと哀愁が垣間見える。
うわぉ、ライターって大変なんだな……。あんな若い人でも苦労しまくるのか。力にはなれなかったけど密かに応援くらいはしておいてやろう。南無。
「思ったより嫌な予感的中しなかったな。勘が外れたか?」
結構警戒してたけど向こうから離れてったし、嫌な予感ほど当たる俺からすれば珍しく何もなかった。
いや何もないならないでそれが一番いいんだけど。まあいいか。
「よし、帰ろう」
最後に謎の出会いがあったけれど、そんな事は気にも留めずに俺は帰路についた。
近い時、今の女性と再会するなんて事も知らずに。
おまけにぼっちにギターを自慢して見せびらかす清水と、買ってきたギターが色違いのお揃いという事で違う意味で嬉しくなっちゃうぼっちを描写したかったけど、あまりにも尺が長かったので苦渋のカット。見たかった人は妄想で補完してくれ……。
最後にぬるっと出てきた知る人ぞ知るやべーと見せかけて苦労人のあの人の伏線も若干入れつつ、原作編も書き続けていくよと自分から逃げ場を塞いでいくスタイル。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:Tの決戦兵器※支援絵配り隊さん、シャックスさん、混沌の闇さん、ハッスルワンさん、週膳緋葉さん、KULK8576さん
☆9:KTB局さん、悠久の支配者さん、タスマニアさん、スローイングさん、ハインツ・ベルゲさん、氷英さん、ザラメ雪さん、イキョウさん
本当にありがとうございます!
みんなの評価が養分だよ。感想とかたくさんくれると調子に乗るよ。