再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
コロナ療養から回復して解き放たれました!!
シャバの空気気持ちいい~!(マスク二枚重ね)
「来ちゃった☆」
「来ちゃったかぁ……」
リョウさんとギターを買った翌日の日曜日。
今日もバイトはないので後藤さんの動画投稿の手伝いをする予定だったのだが……。
今目の前にいるのはみんな大好きラブリーマイエンジェル虹夏さん。
しかも俺の家の玄関である。母さんに呼ばれて下に行くと彼女はいた。これなんてデジャヴ? 結束バンドのTシャツデザイン考える時もいきなりウチ来たよね。来ちゃった☆ で済ませられる距離でもないよこれ。
「あの、もし忘れてたら申し訳ないんですが……俺にアポとりましたっけ?」
「とってないよ~! 優人くん家には思い付きで来たんだ!」
「そっか~」
んん~~~~無邪気な笑顔が可愛いから許すっ!
思い付きで来たなら仕方ないよね。俺だって思い付きで行動する事あるもん。しゃあないしゃあない!
「で、何しに来たんですか? 一応俺は今日後藤さんとこで予定があるんですけど」
「知ってるよ~。あたしもぼっちちゃんに昨日の夜連絡したからここに来る事になったしね。優人くんの家に来たのはついでに迎えに行こうかなって思ったわけ」
「昨日の夜って、だいぶ急ですね」
「まあね~。ぼっちちゃんに聞いたら今日はギターヒーローの動画を撮影するって言ってたから、見学してみたくなっちゃったんだ。元々あたしってばギターヒーローのファンだからねっ」
言われてみれば確かにそうか。
せっかく好きだったギターヒーロー本人がバンドメンバーにいるんだから、その作業風景を見てみたいと思うのも道理だ。まあ虹夏さんだけなら後藤さんもそんなに緊張せずに撮影できるかな。
「あとは結局昨日リョウと二人きりでデートしてた説明何にも聞いてないし、直接問い詰めた方が早」
もの凄い早さで虹夏さんの口を俺の手で塞ぐ。あ、あっぶねぇ……今の母さん達に聞こえてないよな……?
……よし、大丈夫そうだ。もし聞こえてたらドア蹴破ってきて詰められるの確定だし、何とか命拾いした。できるだけ俺は声を抑えつつ虹夏さんの近くで言う。
「に、虹夏さん……その話はここでされると色々マズいので、後藤さんの家に行きましょうか~? 俺もすぐ準備してくるからちょっとだけ待っててもらえますよねぇ?」
「ぷはっ……う、うん……」
「三分、いや一分で済ませてきます!」
言って階段を駆け上がっていく。単純に虹夏さんを待たせたくないのもあるが、その間に母さんが虹夏さんに話しかけてボロを出されるのが怖いからだ。
間違ってリョウさんとデートしただなんて誤解しかない事を言われると、おそらく俺は三ヶ月くらい家を放り出され後藤家に放り込まれるだろう。その未来しか見えない。
こういう時ほど男で良かったと思う事はない。何せその気になれば準備なんて一分でできるのだから。
そしてこの時急いでいたせいか、俺は虹夏さんのその声を聞く事は叶わなかった。
「何で平然とああいう事してくるかなぁ……」
──―
宣言通り一分で準備を済ませた俺は虹夏さんと共に後藤家へと向かった。
何故だか虹夏さんがさっきよりも大人しい気がしたけど、母さんと会話した訳でもなさそうだから大丈夫だろう。
ものの数秒で後藤さんの家に着き、俺は鍵を出していつものように鍵穴に差した。
「……え? 優人くん? 何それ?」
すると虹夏さんが素っ頓狂な声で俺に聞いてきた。
「何それって言われましても……普通に鍵ですけど」
「それは見れば分かるよ!? 何でぼっちちゃん家の鍵を優人くんが持ってるのって話!」
「ああ、そういう事ですか。合鍵ですよ。ほぼ毎日後藤さんの家行ってるからと、いつもインターホン押すのも面倒そうだから合鍵あげるって後藤さんのご両親がわざわざ作って俺にくれたんです」
「もう完全に家族扱いだね……」
信頼されてるようで俺としては普通に嬉しいんだよなこれ。もちろん悪用なんて一切しないけど。
よく考えたら自分の家より後藤家にいる時間の方が長いし、割とマジで第二の家になってるとこある。
「ほら、入りましょ」
「慣れてるな~」
「あら、ゆう君も虹夏ちゃんもいらっしゃ~い! あっ、ゆう君の場合はおかえりなさいかしらぁ、なーんて。ふふっ、ひとりちゃんは上にいるから、二人共ゆっくりしていってね~。ふたりは下にいさせてるから安心してちょうだいっ」
「「あ、お邪魔します」」
サッと出迎えてくれた美智代さんは簡単に言ったあとすぐリビングの方へ戻って行った。
おそらく直樹さんと一緒に家事したりゆっくりしてたんだろう。それに撮影する事も昨日の内に言ってあるからその辺の気遣いもしてくれてるっぽい。あまり邪魔するのも悪いし、さっさと上に上がるか。
「上行きましょう、虹夏さん」
「何で優人くんはおかえりなさいなの?」
「さあ、ここは自分の家だと思えって事じゃないですかね?」
「外堀の埋め方が凄い……」
まあこういう手法には俺も慣れてきたから今更何か思うところとか特にない。
もはや日常なのでスルー安定である。
どうせ成人した後も一緒にいるだろうし、その後も何やかんや面倒見るのは俺なんだから何も言ってこなくてもいいのにね。
結束バンド続けている間は虹夏さん達もいるのでそこは安心できる。できれば人気出て一生続けてほしいところだ。
二階に上がってすぐそこにある引き戸をノックもなしに開ける。
部屋の主がいた。
「おいっすー後藤さん。虹夏さんも一緒に来たぞー」
「あっゆうくん、虹夏ちゃんもこんにちは……」
「ちょっと優人くん、一応女の子の部屋なんだからノックくらいはしないと」
「今更見られて困るようなものなんて俺達の間にはないですよ。なぁ後藤さん」
「え? あっう、うん、そうだね……」
どうやら困るものがあるらしい。次からは気を付けるか。
部屋を見れば作業準備の最中だったようで、テーブルにはノートパソコン、周りにはギターはもちろんカメラやアンプなど録音撮影に使う機材などが置かれていた。
「お~ぼっちちゃんの新しいギターやっぱりかっこいいね!」
「あっありがとうございます……」
「じゃあ今日はこれで動画撮るんだね」
「あっはい」
「宅録一度は見てみたかったから楽しみだな~! って、あれ?」
部屋を見渡していた虹夏さんの視線がある一点に集中する。
それは後藤さんがいつも引きこもっているもう一つの巣……じゃなくて部屋。押し入れの中だ。
「このギターって、ぼっちちゃんの前のギターでもないよね。ていうか新しいやつとピックガードの色だけ違うって事は、色違い? ぼっちちゃんもう一つ買ったの?」
「あっ、いや、それは違くて……」
そうだった。昨日後藤さんが今日だけこのお揃いギターを一緒に並べて寝たいとか言い出したから、舞い上がってた俺もその場でオーケーしたの忘れてた……。
今日虹夏さん来るだなんて思ってなかったからすっかり失念してたな……。何で押し入れ閉めてねえんだよ。
しかし見つかってしまったものはしょうがない。まだ言い出すつもりはなかったけど、リョウさんにも知られたしあの人の事だからいつボロ出すか分からないので、もういっそ自分から言ってしまう方が後腐れも悪くはないか。
「あー、そのギター俺のなんです。夏休み辺りから始めて、昨日御茶ノ水で買ったんですよ」
「……えー!? そうなの!?」
「結束バンドの演奏を見て興味持ったんで、後藤さんに教えてもらいながらやってたんですけど、そろそろ自分のも欲しくなっちゃって」
うん、虹夏さんらしい反応すぎてむしろ安心感すら覚える。
なんかこう、分かりやすくリアクションしてくれる人がいるというのは良いね。こっちも気持ちよくなってくる。
「う~ん……そっかそっかぁ~。あたし達の演奏見て優人くんも楽器始めちゃったか~!」
凄く満足そうに虹夏さんがにんまりしている。やはりリョウさんと同じで、自分達の音楽が誰かに影響を与えた事実に喜びを感じているんだろう。
それはそれとしてとても可愛い。
「じゃあいっそのこと優人くんも結束バンドに入っちゃ」
「それはないです」
「即答!?」
虹夏さんの事だから多分言ってきそうだなと思ってたら本当に言ってきた。
「実力的な理由もありますけどそもそも俺が好きなのは四人の結束バンドであって、その中に入りたいからギター始めた訳でもないですし、俺が入るのは絶対に違うと思ってるんで」
「え~、そうなの?」
「例えるなら推しのアイドルグループがどんなに好きでも、その輪の中に入ってずっと一緒に歌って踊りたい訳じゃないみたいな感じです」
「結構分かりやすい例え来た!?」
「あっ、私も何度か言ったことあるんですけど、いつもああやって断られます……」
「俺は結束バンドを陰から手伝えればそれでいいんですよ。何せ結束バンドのファン零号なので」
というか女子四人の中に男一人入ってるバンドとか肩身狭すぎて無理。
あと謎の力が働いてるか知らんけど、一切バンドメンバーに入りたいとかそういう気持ちが一ミリも出てこないのだ。謎の力ってなに?
「なーんだ。優人くんのギター聴いてみたいのにな~」
「あくまで俺は趣味の範疇ですから。もっと聴かせられるようになって後藤さんに認めてもらえたらその時にでも戯れだと思って聴いてやってください」
「ゆうくん、もう結構上手いんだけどな……」
お世辞はよせ。後藤さん程の人が始めたばかりの俺如きの演奏を上手いだなんて言うはずないだろ。
調子に乗って初めて後藤さんが虹夏さん達とセッションした時みたいに下手だって言われて終わりだよ。泣くぞ。
「はいはい、俺の話はこれくらいにして今日の目的を果たしましょう。後藤さんも撮影準備してくれ。俺も手伝うから」
「あっうん」
「ん? 優人くんも手伝ってるの?」
足を延ばしていた虹夏さんが聞いてきた。
「はい。と言っても今回が初ですけどね。俺のやる事は準備の手伝いと撮影した後の編集作業が主です。そのために今日まで色々勉強して練習もしてたんで」
「はえ~、そうなんだぁ」
それはもう、ただ映像を編集するだけなら簡単かなと思っていたのだが……弾いてみたの動画には打ち込み作業などもあるらしく、カラオケトラックや著作権問題にも配慮して色々やらなければならない事が多かったりするのだ。
オーチューバ―の動画編集とはまた全然違うやり方なので結構苦労した。おかげで最低限の知識は付いたから結果的にはプラスになったけど。
「じゃあぼっちちゃんがもっと人気出たらギターヒーローのマネージャーにもなれる訳だね」
「まあやってる事はいつもと変わらないですしね。変わるとすれば投稿頻度上げさせるくらいでしょうか」
「そ、そのくらいなら私でも頑張れそう、かも……」
曲のジャンルはともかくギター弾くこと自体は好きだもんな。編集は相談しつつ俺がすればいいし後藤さんは好きなギターを弾くだけでいい。
……あれ、これってもしや俺は常に後藤さんの面倒見れるし、後藤さんは結束バンドの活動しつつ動画ではギター弾くだけで済むから結構良い案では?
「……うん、このままいけば絶対調子乗ってどこかで躓く未来が見える。他の人ならともかく後藤さんだからな。誰にも想像できない事やらかして炎上からのチャンネルBANされてそう」
「ウッ……!?」
「優人くーん、心の中の本音口に出ちゃってるよ~」
しまった。俺とした事がなんて初歩的なミスを……。
危うく後藤さんが棺桶の中に入りそうにしていたところを引っ張り出して何とか現世に留まらせる。
撮影準備も終わる寸前というところでだった。
「そういや他の二人にはギターヒーローの事伝えてないんだっけ?」
虹夏さんが客出し用のジュースをストローで飲みながら聞いてきた。
「あっなんか言うタイミング逃しちゃってるというか……今はまだ三人だけの秘密という事で……」
「機会が来れば俺も一緒に立ち会って言うんで、待ってやってください」
「マンガだとこういう秘密からバンド解散とかに繋がるよねぇ」
「ふっ不吉な事言わないでください……」
なんて事言うんだこの天使。たまに毒吐いちゃうとこも姉そっくりだな。
そういうところも素敵ですっ! 時には堕天しちゃってもいいじゃない!
まあ虹夏さんがいる時点で結束バンド解散なんてあるはずもないけど。こんな優しい人いてバンド辞めるバカとかいる訳ないじゃんね。
リョウさんは虹夏さんがいる限り辞めないだろうし、喜多さんはリョウさんに憧れてるし何なら後藤さんを支えるために頑張ってる最中だ。後藤さんは虹夏さんの夢を支える事と高校中退……は関係ないか。とにかく虹夏さんがいれば大丈夫だろう。
さすがバンドの潤滑油。むしろ虹夏さんがいないとどうなるか分かったもんじゃないね。
俺ももっと信仰しないと……。
「これから毎日虹夏さんにお供え物した方がいいか」
「急に何!? 不吉な事言ったからあたし消されるの!? ぼっちちゃんっ、たまに優人くんもヤバイ発言するんだけど!?」
「えへへ、さすが私の幼馴染ですよね……」
「それは褒め言葉なの!?」
後藤さん的にはそうなんだろうけど、不思議な事もあるもんですね……全然嬉しくないや!
しかも虹夏さんから遠回しに後藤さんと類友扱いされてるし。ちょっと体の形変えられて幼馴染ってだけで似てる訳ではないでしょうに。
いい加減気を取り直して後藤さんにギターを持たせる。
録画準備もバッチリだ。
「よし、いつでもいいぞ」
「う、うん」
先ほどまでのふざけた雰囲気はどこへやら。
虹夏さんもいよいよギターヒーローを目の前にして少し萎縮したようにちょこんと座っている。
俺は後藤さんにアイコンタクトで合図を送った。
虹夏さんがいるからって緊張はしなくていい。手元に集中するんだぞと。
彼女が小さく頷く。
そして。
ギターヒーローの撮影が始まった。
「ぶぁっくしょい!!」
「その流れで優人くんがNG出すの!?」
前回のデート?について虹夏は忘れてないよ。
ちゃんと次回か次々回に色々聞かれるはずだよ。喜多ちゃんは分かんない! みんな冷静さを欠かないで!
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:すーぺるさん
☆9:タスマニアさん、カミカゼバロンさん、イキョウさん、ひねもす1119さん、完全無欠のボトル野郎さん、グデーリアンさん、KYBMさん、キヨシさん、ザラメ雪さん
本当にありがとうございます!
ひな祭りだってさ。まったく関係ないけど高評価と感想ここすきいっぱいくださいな!