再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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サブタイはもう適当に思い付いたものでいこうかなって(思考放棄)




65.来たる嵐

 

 

 

 昼休み、俺は後藤さんと喜多さんと共に誰もいないいつもの薄暗い物置きの踊り場に来ていた。

 俺だけ正座で。

 

 

「いやほら、修羅場って言ったのはあのさr……田中でしてね? 何ならわたくし清水さんは謂れのない風評被害を喰らわされた訳なんですよ。何か変な女性が学校に来てたらしくてそれが俺の知り合いなんじゃないかとか勝手言うもんだから、俺も反論しただけで決してやましい関係なんて誰とも築いてないしむしろ逆に築いてみたいという淡い願望さえ抱いてるのに酷いと思いません? つまり何が言いたいかというとわたくし清水優人は無罪を主張致します!」

 

「最後の願望がなければ無罪だったのに余計な一言だったわね。有罪よ優人君。ねっ、ひとりちゃん」

 

「えっ、いや、あっはい……」

 

 流されるんじゃない後藤さん。そこは控え目にでも俺を擁護してくれるとこじゃないのか? 

 俺達の関係ってそんな軽いもんじゃないでしょう!? なあおい!! 

 

 

「じゃあ罰として優人君のお弁当のおかず一つずつ貰うわね。ひとりちゃんは何がいい?」

 

「あっじゃ、じゃあミニハンバーグを……」

 

「分かったわ。私は卵焼き貰うわね、優人君♪」

 

 うぉぉぉ……俺のメインのおかず達がぁぁぁ……! 

 何たる惨い罰なんだ。男子高校生の無限の食欲にハンバーグと卵焼きは欠かせないってのに……後藤さんめ、昨日だってハンバーグ一個半食ってたくせに残り物のミニハンバーグまで食うとか相変わらず好きすぎだろ。自分に正直か。

 

 俺のおかずが減っていく。これはスターリー行く前にコンビニで軽食買っていくの確定かなぁ……。

 卵焼きを頬張りつつ、ニコニコ笑顔の喜多さんはお箸を持ったまま人差し指を頬に当て考える素振りをみせた。

 

 

「それにしても変な女性の人か~。私も友達から聞いたけど、あんまり見ない格好してたのよね?」

 

「え? ああ、俺も改めて聞いたら首に包帯巻いて手が見えないくらいの萌え袖、何故か天使の羽が生えてる鞄、身振り手振りはぶりっ子そのもので地雷臭が凄かったらしい。女子の観察力に徹底してるウチのクラス男子が言うんだから情報は正確なはずだよ」

 

「悲しい才能ね……」

 

 俺もそう思う。ただ後藤さんの観察をよくしてる俺もそんなに人のこと言えないとこあるけど。

 

 

「後藤さんは教室で何か聞いてないか? いつも寝てる振りして盗み聞きしてるんだろ?」

 

「なっ何でそれを知って……!? あっいやっうん……私も聞いてる感じだとそれくらいしか話してなかった気がする……。ただ、女の人でもそういう人が学校に侵入して、い、今も近くをうろうろしてるって考えたら……怖い……」

 

 そういや後藤さんはお化けとかそういう類のモノは平気だけど、それこそ人間に対しては極度に怖がる子なんだ。

 普通の人でさえビビるのに、それが不審者ともなると怯えるのも無理はない。痺れる前に正座していた足を崩し、彼女の目を見る。

 

 

「まあそこは大丈夫だよ。先生達も一応下校時には校門近くで見張っててくれるし、そもそも相手は女性なんだ。俺の近くにいればよっぽどの事がない限りは追い払えると思うぞ」

 

「そうよひとりちゃん。優人君なら顔を異形に変えてヤクザだって追い払っちゃうんだから。大丈夫よ!」

 

 ヤの付く人達はその場合チャカとか出してきませんかね。あり得ない話じゃないからそんなの普通に逃げるぞ俺は。

 変に話盛るのはお止めなさい。

 

 

「じゃ、じゃあ今日も腰にしがみ付いててもいい……?」

 

「それは目立つから普通にやめて」

 

 ケンタウロスモードは周りの視線が痛すぎて俺の心にダメージ入るから。新しいプレイなのかとか思われそうで嫌だ。

 普通に羞恥プレイだよ。俺が。

 

 

「でもその人、誰かを探してたのよね?」

 

「聞いた話だと探してるのは中国人留学生っぽかったけどな。ウチにいたっけ?」

 

「さあ……少なくとも私は聞いた事ないわね」

 

 喜多さん程の人脈があっても聞いた事がないのか。

 となると……やっぱ引っ掛かるよなぁ……。

 

 ご……なんとかさん。見方を変えれば影の薄い後藤さんがうろ覚えで言われた呼び方とも取れる。

 それだと完全ではないが辻褄も少し合う。文化祭ライブを経て後藤さんは色んな意味でちょっと有名になったし、もしかするとそれ関連の可能性という事もあり得てくるんじゃないか? 

 

 それに……首に包帯と手が隠れるほどの萌え袖。

 ……なぁーんか覚えがあるようなないような気がしないでもないような……。いかん、さっきから何だか小骨が喉に引っ掛かってずっと取れないような違和感をずっと感じてるぞ。

 

 そしてこの違和感、同時に嫌な予感も少しあったりする。俺の場合は幸か不幸か、嫌な予感ほど当たったりすることが多い。

 今回はそんな事あってほしくないのがめちゃくちゃ本音だけど、後藤さんといるとこれまた不思議なもんで……やべー女の周りには類友でやべー女が集まってきたりしちゃうのだ。何ともまあはた迷惑な話である。

 

 

「……俺の考え過ぎって事で祈っておくか。とにかく今は明後日のライブに集中しよう。それまでにノルマも捌かないとだしな。喜多さんは順調そうだったけどもうチケットは配り終えたのか?」

 

「うんっ、自分の分のノルマは終わったわ。他の友達も来たがってたくらいよ」

 

「さすがだな。後藤さんは……まあ、うん、聞くまでもないか」

 

「あっへへ……ごめんなさい……」

 

 大丈夫、分かってるから。

 一応せめてもの確認しただけだから。

 

 

「つっても後藤さんのノルマの内二枚は一号さんと二号さんにチケット取っておいてくれってロインで言われてるから正確にはあと三枚だな。それが鬼門っちゃ鬼門だけど」

 

「うぅ……」

 

「良かったら私がその三枚貰ってもいいかしら? 他にも来たがってた子いたしちょうどいいんじゃない?」

 

「確かに、ノルマって言っても別に他のメンバーに任せちゃダメって訳でもないもんな。捌ける人がいるならその人に任せるのも悪くないか。頼むわ喜多さん」

 

「任せて!」

 

 後藤さんには荷が重すぎるしね。

 もっとファンを増やして一号さん二号さんのような、後藤さんからでもチケット買ってくれる人ができればいいんだが。これも適材適所というところか。後藤さんには本番で頑張ってもらおう。

 

 

「ゆ、ゆうくん……私も一つ卵焼き食べたいな、なんて……」

 

「ええいこの際一つや二つ減ったくらいじゃ何も変わんねえ! 食いたきゃ食え! その代わり後でコンビニ寄るからなぁ!」

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 そんなこんなでライブ当日。

 開店前のスターリーでは俺達の前に顔以外タオルで包まれた虹夏さんがいた。

 

 

「え~今日はライブの日ですが……その前にみんなに発表がありまーす!」

 

 にししと企み顔で笑う虹夏さん。可愛い。ただただ可愛い。

 発表というのはこの前言ってたサプライズの事だろう。タオルで隠してるという事は、結束バンドTシャツみたいなやつかな。

 

 

「じゃーん! 寒くなってきたからバンドパーカー作ってみたよ!」

 

「かっっっっっっっっっっっっっっ」

 

 わいいぃぃぃ~~~~~~~。

 おいおい、死んだわ俺。天使が迎えに来たのかと思ったらニジカエルでした。うん、大天使だね。

 

 

「大変! 優人君が口から泡吐いて死んでるわ! 店長どうしましょう!?」

 

「ぼっちちゃんの隣のゴミ箱にでも捨てとけ」

 

 何か運ばれてるような気もするけどいいか。きっと天国に上ってる最中なんだ。

 我が生涯に一片の悔いなし。俺はもう、死んでいる。

 

 

「あ~ちょっとゴミ入ってるけど別にいいだろ。お前らはさっさとそのパーカーに着替えてこい。私がこのアホ捨てとくから」

 

 

 

「……ハッ!? 俺はいったい何を……?」

 

 てか何でゴミ箱に入れられてんだ俺。全然天国じゃねえじゃん、むしろ地獄じゃん。

 

 

「うぎゃあ!? しかもゴミ入ってる方のゴミ箱じゃねえか!? 誰だ俺をこんなとこに入れたのは!?」

 

「私だが?」

 

「でしょうね! アンタ以外俺をここに入れようとする人いないもの! つうか入れるならせめて後藤さんがいつも入ってる方にしてくださいよ!」

 

「あれはぼっちちゃん専用だからダメだ」

 

「贔屓だ! 店長が贔屓してる! 俺知ってんだからな! 店長何だかんだ言いつつ後藤さんが入るゴミ箱だけ毎日入念に布巾で掃除してるって!」

 

「ぶっ……ちょ、おまっ、何でそれを……!? というか黙れぇ!!」

 

「俺が黙って殴られると思ったら大間違いだぜ。ただ立ち上がるだけじゃねえってとこを見せてやぶぅあばッ!?」

 

「減らず口もここまで来ると清々しいなオイこら……!」

 

「べふぅ……」

 

 店長もう俺殴るの遠慮なくなってません? 

 まさか右ストレートで来るとは思わなかった。これガチで恥ずかしくなって思わずビンタじゃなくてグーパンやっちゃったパターンだな。俺には分かるぜ店長。可愛いとこあんじゃん。

 

 

「はいそこで意識途絶えないで優人君! あっちはあっちでリョウ先輩が伊地知先輩にプロレス技かけられてるの!」

 

「……どういう状況?」

 

「かくしかまるうまなの!」

 

 なるほど。どうやら俺がゴミになってる間にみんなはパーカーに着替え後藤さんはパカつむりになり、リョウさんが後藤さんで良からぬ商売を考えたところで虹夏さんに技をかけられたと。

 ふむ、そういうことね。…………うん。

 

 

「それっていつもの事では?」

 

「優人君も店長とのやり取りで麻痺してきてるんじゃないかしら……」

 

 天使でも一応あの店長の妹だしね虹夏さん。

 魔王の血を引く天使って何か凄そう。マンガでいうハイブリッド的な感じで最強になるやつ。虹夏さんは最強、店長は最凶。

 

 

「おい優人今失礼なこと考えなかったか?」

 

「やだな店長、そんなの考えた事一度もありませんよぼかぁ」

 

 平然と心読んでくるのやめて。

 

 

「んで後藤さんはいつまでパカつむりになってんだよ」

 

「ぱ、パーカーは全てを包み込んでくれるから……」

 

 あーね、つまり安心感が違うと。

 にしてもそこまでなるかね。視界狭くしても全体の景色は変わらんぞ。

 

 慌てて虹夏さんを止めに行く喜多さんを見送りつつ、もう一度後藤さんの様子を窺う。

 

 

「……何かあったか?」

 

「……え?」

 

「いや、勘違いならいいんだけど、何かいつもと違うなって思ったから」

 

 ちゃんと顔を覗き込めば表情の違いも大体分かる。これも彼女の意思を汲み取れるように観察していたおかげか。

 俺の言葉に反応してか、後藤さんは俺にしか聞こえないようなボリュームで話し始めた。

 

 

「……お、お客さんを増やす工夫を色々話してる内にね、私がギターヒーローだって事を公表した方が結束バンドのためになるんじゃないかとか、でもそれも何か違うような気がして……私もまだ結束バンドではちゃんと演奏できる訳じゃないし、みんなもそれで客が増えても喜ばないんじゃないかって、ずっと自分の中で考えてた……」

 

「……」

 

 そういう事か。ギターヒーローの知名度を考慮するなら公表するメリットは確かにあるだろう。

 しかし、その分デメリットも後藤さん自身にあるのでそうすべきではないと彼女は考えている。初めて俺が後藤さんにギターヒーローなのかと聞いた日からまだ考えは変わってないようだ。

 

 なら俺も何も変わらない。

 

 

「結局打ち明けるかどうかは後藤さん本人の自由なんだ。自分の納得がいく時が来たらそん時に言えばいいさ。それまでは俺も虹夏さんも協力するしな」

 

「う、うん」

 

 その日がいつ来るかは分からんけど。

 もっと場数踏んであまり緊張しなくなったら実力発揮できんのかなこの子。俺が願うのはそれまでに他のメンバーももっとレベルを上げて全体的な演奏技術が上達してる時だったら良いんだけど。

 

 

「さて、ぼちぼち客も外に並びだす時間帯だし俺も準備するかねぇ」

 

「……あ、ゆ、ゆうくんっ」

 

「ん?」

 

 先にトイレを済ましておこうと思い移動しようとしたら裾を掴まれた。

 

 

「その……あ、ありがと……」

 

「……」

 

 振り返ると後藤さんはフードを被りながら目を逸らして言ってきていた。

 照れるくらいなら言わなくたっていいのに。だから俺は普段通りにこう返す。

 

 

「気にすんな。いつもの事だろ」

 

 そう言って今度こそトイレに行こうとする俺。

 しかし、再び裾を掴まれた。

 

 

「え、まだなに」

 

「優人くんっ」

 

 わおっ、天使が目の前に現れた。

 可愛すぎて目玉破裂するとこだったわ。

 

 

「はいこれ!」

 

「……えっと、これは?」

 

 突然手渡された黒い生地で作られた何か。

 その厚さとゴツさである程度の予想はできたが、思わず聞かずにはいられなかった。

 

 

「優人くんのバンドパーカーだよっ。ちゃんと着替えてきてね!」

 

「……はい」

 

 自分は結束バンドのメンバーとはまた違うんじゃないかとか、たかがサポート役にこれはやりすぎではという疑問もあったが、虹夏さんの笑顔を見てそんな言葉を言う訳にはいかなかった。

 いやこんなキラキラ笑顔にツッコミとかできませんて。今の今までリョウさんにプロレス技かけてたのに俺の前じゃこれですよ。こんなんもうほぼ小悪魔ですやん。小悪魔虹夏さん、最高か? 

 

 仕方ない、ついでにトイレで着替える事にしよう。

 

 

 ────

 

 

 着替え終了。

 

 Tシャツ同様、真ん中に結束バンドと書かれた冬用パーカー。

 鏡の前で自分を見る。今日は普通に学校だったので下は制服ズボンのままだが……うん、まあ、これはこれでいいな。

 

 どうしよう、普通に気に入っちゃったかもしれない。

 しかもちょうどいいサイズだし着心地も良い。この上に制服羽織って登校すれば今流行りのパーカー男子の完成では? 

 

 後藤さんも学校指定じゃないピンクジャージで登校してるし、俺も明日からパーカーの上にブレザーだけで登校しようそうしよう。

 ありがとうカーディガン、お前とは今日までだ。また春先で会おうな。

 

 思った以上に気に入ってルンルン気分でフロアに戻ろうとした時だった。

 フロアの方から「こんにちは~!」と知らない声が聞こえたのだ。

 

 あれ、まだ開場時間でもないのに誰か来たのか? 

 いやけどこんにちはって事は関係者? 今日出演する他バンドの人? だが変に甘ったるい媚びたようなあの声、どこかで聞いたような気が……。

 

 急いでトイレを出てフロアへ戻る。

 すると、知らない人がいた。

 

 いいや、正確には変な女性がいた。

 そして一つ一つを確認していく。

 

 首に包帯、手が隠れるほどの萌え袖、天使の羽が生えたイタい鞄、いかにも地雷臭が漂うオーラ。

 それとは別に、ツーサイドアップの髪型が特徴的というべきか。

 

 そうだ。ちゃんと思い出すべきだった。

 俺は一度御茶ノ水駅で会ったじゃないか。インパクトはあったのに記憶の隅に追いやって思い出さないようにしていたのは、嫌な予感がしたから無理に脳が拒絶していたからか。

 

 もう一度女性を見る。

 あくまで彼女は明るい笑顔でこう言った。

 

 

「ばんらぼってバンド批評サイトで記事書いてる者ですが、今日は結束バンドに取材したく~……って、あっ」

 

 そして、彼女は俺の方を見て固まった。

 もちろん俺も固まってる。どうしてって? ははっ、そんなの分かり切ってる事じゃん。だって知り合いだとか勝手に決め付けられてキレてたのに、ふたを開けてみれば思いっきり見た事ある人だったんだもの。

 

 そりゃあこう思うでしょ。

 

 

「あ~! この前声掛けた駆け出しのギター男子~!!」

 

「「「「え」」」」

 

 

 

 あ、俺終わったなって。

 波乱が始まりそうだなぁ。

 

 

 





さあ、来た。来たぞ。波乱の根源が。全ての元凶が。
どうなる次回。多分一気に雰囲気変わるぞ。シリアスになりそうな予感しかしないぞ。
着いてこれるか読者諸君! ポイさんには思いっきりヘイト買ってもらおうじゃないか!!


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:蒼天桜猫さん、ロキウスさん、他力本願寺さん、白オカメさん、イミミミシシンさん

☆9:TRIGUNさん、モチモチこしあんさん、蘭童さん、小型ハサミさん、サバの砂糖煮さん、鳩兎さん、タスマニアさん、完全無欠のボトル野郎さん、KYBMさん、イキョウさん

本当にありがとうございます!
高評価くーださい!!(直球)


次回は早めに投稿したいけど、しっかり書きたいからどうなるかなぁ。


マシュマロ
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