再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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自分の誕生日の日にせっせと執筆して小説更新してるヤツがいるらしい。
アタイだよ。

まだギリコメディー保った回。




66.嫌な予感ほど当たってしまうもの

 

 

 前回のあらすじ。

 やべー女がやってきた。終了。

 

 

「なんで君がここにいるのー! もしかしてここで働いてたり?」

 

 さて、どうする。みんなの視線は俺に一点集中している。

 ここを上手く切り抜ける方法はなんだ。もう助からないような気もするけど、今こそ成績上位者の頭をフル回転させる時だぞ清水優人。何が何でもピンチを乗り切れ清水優人。死にたくないよ清水優人! 

 

 

「……あー、えっとぉ……実はここでバイトさせてもらってる清水優人って言います。それで、あなたは確か……え~、あのぉ、うん、あれ、あれですよね……? 言いたい事も言えない世の中に毒吐いてそうな名前でしたよね?」

 

「ぽいずん♡やみよ!! ……あっ、自己紹介遅れちゃってすいませ~ん! あたしぽいずん♡やみっていいま~す! 14歳でぇ~す☆」

 

 ……よし、空気が死んだな。冷たい視線の標的変更完了。

 痛い格好してるから逆手にとって正解だった。ぶりっ子はキャラを守る事に徹底するから、こちらから逆に仕掛ければ簡単にぶっ飛んだ発言してくれるのありがたい。あと凄い、痛いのてんこ盛りだわこの人。

 

 そしてさすが大人。いち早く正気に戻りGTOならぬBEO(ぶりっこエグい女)に向かって行ったのは我がスターリーの謎多き美女、PAさんであった。

 すげえ、この世の終わりみたいな雰囲気をものともせず行ったぞ。

 

 

「あの、アポとかとってらっしゃいますか?」

 

「ごめんなさ~い、とってないですぅ☆」

 

 さて、PAさんが相手してくれてる間に俺は別の問題にとりかかろう。

 標的変更させたけどどうせ後々詰められるならさっさと楽になった方がマシだ。ぼくあたまいい。

 

 

「よし、殺せ」

 

「優人君、駆け出しのギター男子ってどういう事かしら?」

 

 バカな……俺の覚悟を決めたセリフをフル無視して普通に問い詰めてきた……だと……!? 

 

 

「あれ、喜多ちゃんはまだ知らなかったの? 優人くん、夏休み後半辺りからギター始めたんだって。まああたしも知ったのは最近だけどね」

 

「私は御茶ノ水で一緒にギターと他の機材とか見てあげた時に知った」

 

「わっ私は最初から頼まれてたので……」

 

「……」

 

 おっと、喜多サンブラック再びだこれ。笑顔がくっろいですわ。これは間違いなく金スキルの『迫る影』とってるやつじゃん。逃げウマなのに追込スキルとってどうすんだよ。

 あ、喜多さんはヒトだから関係ないか。

 

 

「何で私だけ知らされてないの?」

 

「いっいやっ、別に俺が勝手にギター始めただけで結束バンドとは関係ないし、言う必要も特にないかな~って思っただけでね? 虹夏さんとリョウさんに知られたのも偶然というか事故みたいなものだったからやむなしと言いますか…………なんか黙っててすいませんでしたぁ!」

 

 圧が怖くてもう謝るしかなかった。

 何言ってもダメそうな気がして耐えられなかったでやんす。三人知ってるなら喜多さんにもちゃんと言っておけばよかったと今更後悔してる。そうだよな、仲間外れっぽくなるのは嫌だもんな。

 

 

「……なら今度学校でひとりちゃんも含めて一緒に練習しましょ。それなら許してあげる」

 

「えっ、さすがに学校にギター持ってくのはめんどく」

 

「それなら許してあげる」

 

「……ハイワカリマシタ……」

 

 尻に敷かれる世のお父さんってこんな感じなのかな……。だったら結婚はあんまり期待しない方が良さそうだなぁ……。

 何とか無事にこの場も収まった(?)ところでぽ、ぽい……ぽ、ホイポイカプセルさんがこっちに近づいてきた。

 

 

「実はあたし今~、下北沢で活躍中の若手バンド特集記事を書こうと思ってまして~! ちゃちゃっと終わらせますんで取材いいですか~☆」

 

 正直開場前に勝手に入ってきた時点でちょっとアレなのだが、仕事として記事を書こうとしてるのは本当みたいだな。

 もっとちゃんとしたやり方あったでしょうに。何でわざわざ怪しまれるようなキャラ設定してまで来たんだよ。実は結構ライターとして追い込まれてんのか? 

 

 俺の嫌な予感センサーがビンビン反応してるのと、胸に渦巻くモヤモヤを抱いているのとは裏腹に、虹夏さん達は意外と乗り気な態度になっていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!? うわぁ~、ありがとうございます!」

 

「伊地知先輩凄いですね! これでもっと知名度上がっちゃうかもですよ!」

 

「……」

 

 虹夏さんの言葉に拭いきれない違和感を覚える。

 よく考えてみると所々おかしい部分があるのだ。

 

 結束バンドはまだ数えられる程度しかライブをしていない。それも客だってノルマを捌けるギリギリの状態でだ。

 初ライブは台風で散々だったし、文化祭ライブも結局は後藤さんのギターの弦が切れたのとダイブをしたせいで最後までライブができずに終わった。校内では確かに色んな意味で少し有名になったかもしれないが、所詮は校内だけの話だ。知名度なんてまだ皆無のはず。

 

 なのにこの人が結束バンドを活躍中のバンドとして取材しに来る理由が分からない。

 アポをとってるならまだしも、ライブハウスを片っ端から突撃して色んなバンドを取材してるように見えないし……何よりうちの学校にも来てタイミング良くスターリーに来た時点で不審点しか出てこない。

 

 客の誰かがSNSで広めてくれていたとしたらもっと客も増えてるはず。

 それもまだ特にないという事は、どこかから結束バンドの情報を聞き出してスターリーを特定してきた……? 結束バンドのSNSを見た可能性はあるかもしれないけど、だとしても学校まで特定されたのは何でだ? あの時だって軽い宣伝はしたが学校名までは載せていなかったのに。

 

 ……ちょっと警戒しておくか。

 

 

「じゃあ早速しつも~ん! 今後の結束バンドの目標は?」

 

 俺が一人で考え込んでる間に取材が始まってしまっていた。

 まだ何か怪しい素振りは見せてないし、今は少し様子見しておこう。

 

 

「メジャーデビュー!」

 

「エンドース契約してタダで楽器もらう」

 

「みんなでずっと楽しく続ける事かしら?」

 

「あっ世界平和……」

 

「……夢がいっぱいなのは素晴らしいですよネ☆」

 

 うん、相変わらずこういうとこの結束感は全然ないな結束バンド。

 虹夏さんだけがまともだ。あと後藤さんはまだそれで通すつもりなんすね。

 

 

「あっ、その質問優人くんにも聞いてくださいね!」

 

 ……ん? 虹夏さん? 

 急に何を仰っておられるのでしょうか? 何故そこで俺に振る? 

 

 

「え、どうして?」

 

「彼はメンバーじゃないんですけど結束バンドの大切な一員なので!」

 

 そこはできれば大人しくしておいてほしかったかなぁ虹夏さん。

 天使の気配りも行き過ぎると困惑しちゃいますよわたくし。

 

 

「うーん、じゃあまあ一応聞いとこっかなぁ。清水くんだっけ? 君の目標は~?」

 

 ちょっと腑に落ちない顔をしながら彼女は俺の方へ向いてきた。

 仕方ない、ここまでされちゃ質問に答える他なさそうだ。

 

 

「えっと、そうですね……。一応結束バンドのサポート役をやらせてもらってるので、彼女達が望むまでは俺なりにこれからも彼女達を支えていければなと思います」

 

 リョウさんみたいなふざけた答えを聞いて俺もふざけた方がいいかとも思ったが、同類にはなりたくなかったので普通に答える事にした。

 そして俺の答えを聞いた不審者予備軍の人は、

 

 

「……ふぅ~ん、そうですかぁ」

 

 あまりにも興味なさそうな表情でスマホにメモだか録音だかした後、すぐさま俺から離れていった。

 ……うん、分かってた。分かってたよ。バンドメンバーじゃないヤツから聞いたところで記事にならない事くらい俺も分かってますよ。にしても反応ドライすぎじゃない? 店長だってもっとマシな反応するよ? 

 

 ちょっと不貞腐れて地雷系ライターの人に睨むような視線を送った時だった。

 彼女が俺に質問し最初からどうでもいいと思っているような目をしていた時とは裏腹に、後藤さんに対しては目をキラキラさせながら近づいていったのだ。

 

 

「あっ! そういえばちょっと調べたんですけどぉ、ギターの方って少し前にダイブで話題になった人ですよね!?」

 

「えっ……!?」

 

 ……なんだって? 

 

 

「あのっすいません、話題になったってどういう事ですか?」

 

 思わず話しかけると、意外にも彼女は素直にスマホで一つの投稿画面を見せてくれた。

 

 

「知らないんですか? スレにもトゥイッターにもダイブした時の画像が転載されてるんですよぉ。ちょっとバズってるくらいには話題になってましたよねぇ☆ ……ってあれ、そういえば君……どこかで見た事あると思ったら、もしかしてこのダイブで下敷きにされてた子?」

 

 トゥイッターには後藤さんがダイブに失敗し、俺諸共うつ伏せ状態で床に倒れ込んでいる画像が投稿されていた。

 しかももう一つ見せてくれたスレの画面には動画付きで後藤さんが上から飛んでくるのと、それを受け止めようとして横からカットインしてくる俺が映し出されている。

 

『【悲報】女子高生と男子高校生、文化祭ライブで衝撃の展開にwww』という丁寧なタイトル付きだ。

 幸い顔にぼかしが入ってて特定はされにくくなっているが、このピンクジャージの色が目立ち過ぎてあんまり意味を成していないようにも見える。

 

 というか学校とバンド特定された理由これやないかーい!! 

 まじかよ。思いもよらないところで拡散されてんじゃん。しかも肝心のライブとかは切り抜かれてないのに、ダイブのとこだけしっかり切り抜かれてるの何なんですかね。これじゃ結束バンドじゃなくて後藤さんしか目立ってないぞ。

 

 つまりこの人は拡散された動画とか記事を見て俺達を特定してきたって事か。それなら大体の辻褄も合ってくる。

 トゥイッターに投稿した人や書き込み入れた人に聞き込みをしたのなら特定されるのも無理な話ではない。おそらく動画投稿した人はうちの学校の生徒だろう。まったく、もっとネットリテラシーを持てよ。口軽すぎんだろ。

 

 

「それより何であの時ダイブしたんですかぁ~? 普段のライブでもダイブしてるんですかぁ?」 

 

「あっえっ……」

 

 そして気付いたらターゲットは後藤さんへ戻っていた。

 なるほど、あのダイブが割と話題になったから取材に来たって訳か。それも()()()()()()をネタにするつもりで。

 

 さっき結束バンドに質問してた時よりも活き活きしてるし。

 さてはこの地雷系、結束バンドはついでで音楽にも曲にもメンバーにも興味なし。本命は後藤さんだけを中心としたネタ記事書くつもりだな。

 

 幸い後藤さんが初めて見る人種に心閉ざしてるからまだいいけど。

 めっちゃ虚無の顔してる。お口チャックってレベルじゃないくらい絶対口を開かないという意志を感じた。いいぞ、まだそのままを保っててくれ。

 

 

「優人くん、もしかしてあの人……」

 

「はい、おそらく後藤さんだけをネタにした記事を書くつもりですね。ちょっと店長に言ってきます」

 

 虹夏さんもおおよそ察したらしい。控え目に俺の裾を掴んできた。

 結束バンドの取材じゃなくて後藤さんのネタ部分しか取り扱わない記事というなら悪いがお断りだ。知名度を上げたいとはいってもさすがにこんな形で上がるのは虹夏さんも不服のようだしな。

 

 という事で困った時の店長である。

 今まで対応をPAさんに任せてPCで作業してた店長に話しかける。

 

 

「店長、思った以上に変な人来たんで何か言ってやってくれませんか。この際注意でも何でもいいので」

 

「あん? そんなのお前が言ってやりゃいいだろ。スターリーの狂犬なんだから」

 

「ちょっと待って何そのダサい二つ名。聞いてないんだけど」

 

「私とPAでこの前暇な時に決めた。キレたら手が付けられなさそうだからって。ちなみにぼっちちゃんはスターリーの座敷童だ。形変わるし神出鬼没な時あるからな」

 

 その座敷童たまに胞子モードになると周囲をネガティブにしてくるデバフ持ってるけど大丈夫ですかね。

 あと俺のは勝手な想像で決められてるの納得いかねえ。普通にダセーし、やだし。

 

 

「つうかそんな事言ってる場合じゃなくてっ、バイトの俺よりも店長の方が効果あるからお願いしてるんですってば。今は店長お得意のしかめっ面ヤンキー脅しが必要なんですよ。ほら見てください、後藤さん困って固まったままなんです」

 

「お前あとで覚えとけよ?」

 

 そうは言いつつも行ってくれる店長ってやっぱツンデレなんだなって。後藤さんダシにしたら大抵の事聞いてくれそうだな。

 兎にも角にも店長が注意してくれるならこっちのもんだ。さすがにあの人も店の長から苦情を言われれば大人しく引き下がるだろ。

 

 虹夏さんと共に期待しつつ店長を見守っていると、予想通り店長はいかにもヤンキー風なオーラを出しながら眉をひそめてライターの人に言った。

 

 

「すみませんうちでの迷惑行為はやめてもらえま」

 

「ふぇ……ごめんなさぃ……」

 

「ッ!? せ、セツドアルコウドウオネガイシマスネ……」

 

「はぁ~い♡」

 

 なん……だと……!? 

 あの店長を言葉だけでドン引きさせて打ち負かすだなんて……なんてヤツだ……。

 

 リアルでふぇ……とか言うヤツほんとにいるんだな。やべえ、アニメなら可愛いってなるのにリアルだとあざとすぎてまったく何も思わん。むしろ俺もちょっと引いてるまである。

 でもって店長にはこうかばつぐんだったようで、俺達のところに戻ってきた時には何故か顔が青ざめていた。

 

 

「私あいつ無理だ……近くで同じ空気吸ってると頭おかしくなりそう……何だあの女……」

 

「もうっお姉ちゃんの役立たず!」

 

 店長でも無理とか強すぎるだろあのぶりっ子。

 どうしたもんか……。

 

 

「優人くん、もう開場時間も近いしとにかくそれを理由にぼっちちゃんをあの人から離そう。とりあえずはライブが優先だからっ」

 

 問題の先送りではあるけど背に腹は代えられん。何ならライブ終わったら何やかんやうやむやにして帰ってもらう事も視野に入れておこう。

 さすが虹夏さん、店長より頼りになるな。

 

 と、その前に。

 

 

「店長、PAさん、一応あの人の事警戒しておいてもらってもいいですか。何となくですけど、嫌な予感がするんで」

 

「私ん中であいつはもう十分に要注意人物だよ……」

 

「分かりました。こちらで少し調べてみたりしますね~」

 

「ありがとうございます」

 

 一言礼を述べて後藤さん達のところへ向かう。

 ジライターの人が何とか質問をぶつけるも後藤さんはずっと直立不動のまま地蔵と化していた。いつもなら厄介だが、今だけはナイスだ後藤さん。よく持ち堪えた。

 

 

「みんな! 今日はトップバッターなんだからそろそろライブの準備しなきゃだよ!」

 

「あっそうですね」

 

「ほら、後藤さんも起きろ。さっさと顔直して楽屋で準備してこい」

 

「……あっうん」

 

 あれだけ無反応だったのに俺の声に反応した後藤さんがすぐさま返事を返してきた。

 

 

「すみません、あとはライブ後でいいですかっ? 優人くんも、お客さんの列整理頼むね!」

 

「分かりました」

 

 他のバンドの客もいるから外に出て列整理をしなくてはならないのだが、いつもは他のスタッフさんがやってくれている。

 しかし今日はうちの学校の生徒も何人か来るので、案内ついでに俺も列整理を手伝う事になっていたのだ。喜多さんの友達というかほとんど俺のクラスの女子だし、まあ俺の顔が目印代わりくらいにはなるだろう。

 

 少し慌てている雰囲気をわざと醸し出しながらぽいずんの人から話しかけられないようその場を離脱する。

 最初はどうなる事かと思ったが、とりあえずは切り抜けられてよかった。あとはこのまま何事もなければ万々歳だな。

 

 さてと、ここからしばらくは業務の時間といきますか。

 

 

 

 ────

 

 

 

 その日のライブ自体は滞りなく終了した。

 

 

 他のバンドの客もいる中、トップバッターを務めた結束バンドは初めて悪天候や機材トラブルなどのトラブルに見舞われる事もなく出番を全うしたのだ。

 喜多さんの友人達もノッてくれていたし、他のバンドの客もちゃんと見てくれていた。演奏レベルとしてはまだまだかもしれないけど、それだって最初に比べれば凄くマシになった方だと思う。

 

 ただ少し気になったのは……ライブ中、後ろでつまらなそうにスマホを弄っていた包帯首の人が途中から信じられないような目で結束バンドのライブを見だした事だ。

 思っていたより結束バンドの演奏が良かったのか悪かったのかは分からないが、少なくともバンド記事を書いているライターの琴線に触れたのなら喜ばしいものだけど、実際はどうか分からない。

 

 しかし彼女の視線がずっと後藤さんに向いていたのは確かだ。

 ある意味文化祭ライブのリベンジ。『星座になれたら』のギターソロを後藤さんが弾いていた時は釘付けになっていたと思う。懸念があるとすれば、感動して見ているというよりも何かを確かめて確信するような表情にも見えた。

 

 結局真意は分からないままライブは終了し、客も去ってクラスの女子達も一言二言満足そうに伝えて帰って行ったが……どうも気が休まらないのは何故だろう。

 謎の違和感と焦燥感さえ感じてしまう。まるで見えない何かにいつでも潰せるぞと言われ直接心臓を握られているかのような感覚だ。

 

 そんな中、フロアに残っている客もまだチラホラいる中で、結束バンドの側には一号さんと二号さんが駆け寄っていた。

 

 

「今日のライブ良かったです~!」

 

「あっありがとうございます……」

 

「これ差し入れです! 鈴カステラなんで後でみんなで食べてください!」

 

「あっどうも……」

 

 え、一号二号さん差し入れまで持ってきてくれたの。

 良い人達すぎんだろ……。俺ももうドリンクコーナーの担当を終えたので駆け寄る事にする。

 

 

「一号さん二号さん、どもです。あと後藤さん達も、お疲れさまです」

 

「あっゆうくん……」

 

「ん? ……何してんの?」

 

「充電……お、落ち着くから……」

 

 俺の背中を充電器代わりにすな。でも何でだろう、後藤さんが俺の背中にいるのが少し落ち着いてしまう自分がいる。慣れって怖いね。

 不思議と先ほどの焦燥感も消えてるし、実は後藤さんには人のネガティブ要素を吸い取ってくれる機能付いてるとかない? 

 

 

「おぉ、優人君もおっつかれ~! 今日もチケット確保しておいてくれてありがとね! ロインで早くライブの日程教えてもらえるとこっちも予定合わせやすくなるから助かってるよぉ。さすが零号~!」

 

「お二人は結束バンドの最初のファンですからね。結束バンドのファンが少ない間は俺の特権でチケット確保も優先的にしますんで任せてください」

 

 まあ後藤さんのノルマ二枚を消化できる貴重な人材でもあるし。

 それに一号さん達は美大の映像学科生という事をロインで教えてもらってから、最近はカメラや撮影についてご教授願う事もあり個人的に仲良くさせてもらっている。いわば俺のカメラの師匠的存在だ。これも後々優先的にチケット確保するための取引材料として扱っており、つまりはお互いWINWINという訳である。

 

 

「頼りにしてるよ優人君! あ、それとひとりちゃんっ、私演奏の事とかはよく分からないんですけど、最近何だか凄く良い感じです!」

 

「あっ大体同じお客さんだから最近慣れてきて……」

 

「ぼっちちゃんそこ慣れないで!? お客さんもっと増やさなきゃじゃん!」

 

「ま、まずは今いるファンの人達の前で最高のプレイができるようになる事が先なんじゃないかって……」

 

「正論ぶちかましてきた!」

 

 虹夏さん、後藤さんの肩揺らすとガッツリ裾掴まれてる俺も必然的に揺れるのでできればやめてくれるとありがたいです。

 振り子みたいになってるよ俺。そんでもって意地でも離さねえのな後藤さん。まだ充電終わらんのか。

 

 と、いつものような雰囲気でライブの余韻に浸っている時だった。

 

 

「あのっ!」

 

 割って入ってくるような声があったのだ。

 その声にみんなが反応する。もちろん俺も声の主を見た。

 

 

「その……まさか……まさかとは思ったんですけど……」

 

 震えたような声色だった。

 そして俺はすぐ後悔する事になる。あの違和感に正直に向き合い、彼女の真意を確かめようとしなかった事を。

 

 

「その歌うようなギタービブラートのかけ方、所々に滲み出る演奏のクセ……絶対そう! 間違いない!」

 

 本来、後藤さんの演奏についてそこまで言われた時点で彼女の口を抑え込むべきだったのだ。

 蘇る焦燥感。嫌な予感ほど当たると自分で分かっていたはずなのに、さすがにそんな事はないだろうと目を背けていた末路があった。

 

 

「あなた……」

 

 これまで必死に守っていたはずの何かがいとも簡単に崩れ去っていく音がした。

 

 

 

 

「ギターヒーローさんですよね!?」

 

 

 

 冗談抜きに、時が止まったような気がした。

 

 

 





前回の次回予告詐欺と呼んでくれ。
けど確実に次回はシリアスMAXになる、という予告をしておく。

あとリアルに今日誕生日なので誕プレくれると超喜びます。
お気に入り登録してくれててまだ高評価入れてないって人とか、どう? 軽率に評価あげる絶好の機会ですよ???

じゃあ誕プレあげる


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:ザワシさん、魚の練り物さん、ふるもっふさん、氷英さん、ルーチン短足さん

☆9:キメらさん、タスマニアさん、神影アルマさん、髙やんさん、モチモチこしあんさん、かぶとさん、ハピエン好きさん、けん0912さん、鳩兎さん、イキョウさん、完全無欠のボトル野郎さん、五月時雨さん

本当にありがとうございます!
あなたの評価が、感想が生きる糧です。

マシュなどで話のネタ募集とかやってます~。

マシュマロ
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