再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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一週間もお待たせしてしまいましたァ!!
代わりに過去最大級の文字数でお送りします。




67.らしさ

 

 

 

 まず最初に、背後から裾を握っていた手に力が入っているのを清水優人は知覚した。

 

 

 しかしそれよりも早く口を開いたのは、何の事情も知らない喜多郁代だった。

 

 

「えっと……何の話?」

 

「まさかアンタ達知らないの!?」

 

 信じられないものを見たせいか、ぽいずん♡やみと名乗る女性はもはや自分の作っていたキャラを維持する事さえ忘れ、後藤ひとりの正体を何の容赦もなく言い放ってしまう。

 優人が気が付いて口を抑え込もうとした時にはもう間に合わなかった。

 

 

「このギターヒーローさんはねぇ! 超凄腕高校生ギタリストで! それでいて男女問わず学校の人気者でロインの友達数は1000人越え! しかも彼氏は自分の面倒をいつも見てくれてスポーツ万能成績優秀家事炊事完璧という超スパダリ持ちのリア充女子なのよッ!!」

 

「人違いじゃないですか?」

 

「即答!?」

 

 そして口を抑え込もうとしていた清水優人はズザザァッと勢い良く顔面からズッコケていた。

 ぽいずん♡やみの言葉から一切の疑心を感じないのは、彼女がギターヒーロー元い、後藤ひとりのオーチューブ動画概要欄に書いてある虚言ワールドを何の疑いもなく信じているからだろう。

 

 そういえば優人が手伝った先日の動画の概要欄ではシンプルな説明文だけで投稿したが、それ以前のものは虚言癖全開のままだった事を思い出す。

 起き上がりながら結束バンドの面々を見ると、事情を知らない喜多郁代と山田リョウは何のこっちゃという顔。正体を知っている伊地知虹夏は何とも言えない気まずそうな顔で優人から目を逸らしている。後藤ひとりに関しては緑の液体を口から垂らしながら直立不動で死んでいた。普通にただの地獄絵図である。

 

 因果応報というべきか自業自得というべきか、ひとりが作り出した架空のリア充女子なんてこの場にいるはずもなく、同時にスパダリ彼氏なんてものもいない。

 ただそれを生み出した本人が一番ダメージを受けてそれどころじゃなくなっているのが幸いか。ぽいずん♡やみの言葉に頷く人物は誰一人としていなかった。

 

 つまりまだ完全にひとりがギターヒーローだとバレた訳ではない。

 今なら相手の勘違いという事にだってできるはずだ。そうと決まれば優人はすぐさまひとりの近くに寄り、ある意味真実を言い放つ。

 

 

「そうだ! そのギターヒーローって人とうちの超絶コミュ症ド陰キャ引きこもり予備軍の後藤さんが同一人物な訳ないでしょ! 見る目ないんですか言いたい事も言えないこんな世の中にぽいずんしてる人!」

 

「ウッ……!?」

 

「ぽいずん♡やみだってば!」

 

 グサリと何かが陰キャ少女の胴体に刺さった音がしたが気にしない。

 最優先はいかにぽいずん♡やみからギターヒーローという解を遠ざけるかが肝だ。それに優人は嘘偽りなく事実を述べてひとりを紹介した。誰がどう見ても疑いようのない見た目とオーラまで添えてだ。

 

 しかし、普通ならこの時点でギターヒーローと後藤ひとりを結びつけるものは何一つないと理解するはずなのに、首に包帯を巻いた女性はしばらく考えこんでから、もう一度こう言った。

 

 

「やっぱりギターヒーローさんですよね!?」

 

「なんっ……!? いや、どう見たって違うでしょ!? これのどこがリア充に見えてんですか! 香水とかじゃなくて防虫剤の匂いするような子なんだぞ後藤さんは! 学校じゃロクに友達もいねえし昼食だって人のいない階段の物置きにされてる踊り場でしか食えねえ。ロインの友達も俺達や家族に何かの公式アカウントくらいで知り合いだけで言えば両手で数えられるんだぞ! そして何よりこんなずっと一緒にいる俺だから言えるが、後藤さんにそんな無双ラブコメ系主人公みたいな彼氏なんていねえ!! これに関しては俺の命と花京院の魂を懸けてもいいぜッ!!」

 

「ステイっ優人くんステイ! ぼっちちゃんハチの巣にされちゃってるから!! オーバーキルにも程があるよ!? いくら何でもトドメ刺しすぎだって!」

 

 最後の一撃は信頼している幼馴染からだったらしい後藤ひとりはもう泡拭いて痙攣していた。

 後ろで何とか蘇生を試みている少女達をよそに、優人の言葉を聞いたぽいずん♡やみはそれでも答えを改める事はしなかった。

 

 

「だってその伸びっぱなしの髪は抜け感出してるともとれるし、普段のジャージもあえて世間のトレンドから外してよりカリスマ性が目立ってるとも言えるでしょ! そう、カリスマというのは一般人とは違うの。きっとレモンとかパプリカが好きでフラミンゴ飼ってますよね!? それに好きなポーズはピースサインでたまにトラックにも轢かれますよね!? やっぱりギターヒーローさんはカリスマなのよ!」

 

「誰津玄師の話してんだ!? おい後藤さん言ってやれ! そんな人知らんし私とは無関係ですってな!」

 

 もういっそ本人が否定した方が早いし相手も納得してくれるだろうと、そんな淡い希望を持ってギリギリ蘇生したピンクの少女に言う。

 すると話は聞いていたのか、後藤ひとりは俯きつつ体を少し震わせてから顔を上げる。

 

 結論付ける言葉があった。

 

 

「あっいやぁ……えへぇ……違いますよぉ……へへへ」

 

「絶対この子~~~!!」

 

「ああもうバカっほんとバカ! おだてられるとすぐ顔に出るとこほんとバカ! どんだけ流されやすいんだよ!? お前マジで将来そそのかされて変な商売引っ掛かったら承知しねえからな!! 俺と虹夏さんの努力返せこの野郎!!」

 

 調子乗ったバカが褒められてボロを出して証明完了。

 以上、努力は水の泡と化したのであった。

 

 ひと通り正体が露呈してしまった事で優人は四つん這いでダウンしていたのだが、結局話を分かっていない者からすると何が何だかという話でもある。

 つまりは喜多郁代が痺れを切らしてこう言った。

 

 

「あの、ひとりちゃんがギターヒーローってどういう事ですか……?」

 

「ほんとに知らないの!? いいわ、ならてんで無知なアンタ達にも教えてあげる! これを見なさい!」

 

 と、スマホでギターヒーローの動画を見せ得意気に説明しているぽいずん♡やみとそれを聞いている郁代とリョウがやいのやいのしてる間に。

 

 

「おい優人、説明」

 

「……あ、はい」

 

 店長の伊地知星歌に呼ばれて事の経緯を話すこととなった。

 

 

「……なるほどねぇ。たまに虹夏から動画を見せられた事があったけど、まさかあれがぼっちちゃんだったとはな」

 

「ソロだとやっぱり凄く上手ですね~」

 

 特に驚いた様子もなく店長とPAはすんなりと受け入れた様子。

 むしろあっけらかんとしすぎて戸惑うのは優人の方だ。

 

 

「ぜ、全然驚かないんですね……」

 

「前からソロの時は上手いって思ってたからな。これで合点がいったってもんだ」

 

「登録者数も多いですし何か参k……げふんげふんっ、長い事こういうのをやってると手癖とかでも誰が弾いてるのか大体は分かったりもするんですよ」

 

「? そうなんですね」

 

 PAの言葉に少し疑問を持つも特に気にはしなかった。

 向こうの方では「ぼっちが上手いのは何となく分かってた」や「私も何かあるんだろうなって薄々思ってたので」とか「もっと驚いてよ~!」などとあっちはあっちで各々の反応を示しているようだ。ファン一号二号もそれぞれリアクションしている。

 

 

(万が一気まずくなる可能性も考慮してたけど、やっぱあの人達にそんな心配は必要なかったな)

 

 ひとまずは安心といったところか。

 不本意な形ではあったが、正体がバレて結束バンドの空気が崩れるといった事はなさそうだ。というよりもぽいずん♡やみという人物がイレギュラーすぎて他があまり重要視されていないようにも思えるが。

 

 

「ところで優人」

 

「? はい」

 

「あいつの事、調べたぞ」

 

 優人とPAにしか聞こえないボリュームで店長が言った。

 

 

「そしたらこれが意外にも出てくる出てくる。なあ?」

 

「はい。ああいった格好とさっきからの言動といい、性格があまり良くないのが影響してるかもしれませんねぇ。ネットじゃそれなりにアンチもいるようで、本名とか連絡先も晒されてますね~」

 

「怖すぎだろネット情報網……」

 

 個人情報とかプライバシーとかあったもんじゃない。ネットで大勢を敵に回すとどうなるか他人越しに思い知ってしまった気分だ。

 ともあれ、思った通りぽいずん♡やみに関しては良くない評判の方が断然に多かった事が分かった。

 

 要注意人物扱いなのは継続でいいだろう。彼女は自分をライターと言っていたが、それこそ書く本人の意思によってこちらの言動が好き勝手に歪曲され捏造記事などが出回ってしまう事にもなる可能性がある。

 それもあんな痛い格好をして痛い名前をしているのなら尚更だ。見た目で人を判断しちゃいけないというが、言動と行動で物語っている時点で黒である。

 

 一応ぽいずん♡やみの情報をあらかた教えてもらい、優人はひとり達のいるところへ戻ることにした。

 

 

「喜多さん、リョウさん」

 

「あ、優人君」

 

「どした」

 

 一号と二号に向かって何やら熱弁している誇張萌え袖女を尻目に、二人に声をかける。

 

 

「後藤さんがギターヒーローだって事、俺も知ってたのに黙っててすい」

 

「ストップ、優人君」

 

 せめてもの誠意で頭を下げようとしたら、その前に郁代から人差し指で軽く唇を抑えられた。

 急なことに照れる事も焦る事すらできず、ただ二人を見る事しかできない。

 

 

「私もリョウ先輩もひとりちゃんがどういう子なのかもう知ってるから、言わなくても大丈夫よ。ちゃんと納得もしてるしね」

 

「で、でも」

 

「優人君だってひとりちゃんを思っての事でしょ? だから気にしないで、ね?」

 

「それでもまだ負い目を感じるなら牛丼一杯分奢ってくれたらいい」

 

 郁代に優しく諭され、リョウには冗談交じり(半分本気)で遠回しに気にするなと言われ、優人は肩の荷を下ろす。

 二人の目を見る限り本当に何も気にしていないようだ。

 

 

「こらリョウ! まったく……まあそんな訳で優人くん、みんな大丈夫だから変に背負い込むのは禁止ね!」

 

「まあぼっちの普段からする面白い奇行に比べれば全然驚く事でもなかったし」

 

「それは……そうですね」

 

「あっへへへ……」

 

 多分褒められてる訳ではないぞと言いたい気持ちを底へ押し込んでおく。

 隠し事がなくなった分、不思議と気持ちが楽になった気がした。なんかリョウがひとりに対して動画の収入管理は自分に任せてほしいなどとのたまっているが今はどうでもいい。どうせ承認されないんだし。

 

 なし崩し的ではあったがギターヒーローの正体打ち明け問題も解決となり、残す面倒事はあと一つ……いいや、一人だけとなった。

 その女性はひと通り熱弁し終えた後、こちらに戻ってくる。もちろんひとりの元へ。

 

 

「あっそうだ! ギターヒーローさん、さっきは何であんな酷い演奏を?」

 

「……結束バンドの演奏を酷いだぁ……?」

 

「優人くんステイ。あの人ライターだから色んなバンドの音楽とか見てきてるんだよ。だから多分、耳は確かだと思う」

 

「……」

 

 そういうものか。

 言動からするにギターヒーローのファンなのは確定だろう。そしてだからこそ動画とライブのギャップがありすぎて違和感を抱いたのかもしれない。だとすると手のクセや演奏の仕方だけでひとりをギターヒーローと看破したのは、本当に目と耳が確かだという証拠になり得たという事か。

 

 

「あっわ、私人見知りで……だからバンドだと目も上手く合わせられなくて……。動画は家でひと……二人で作ってるから……」

 

「……いいんですよっ。天才にだって欠点はあるもんですぅ! むしろ逆にプラス要素☆」

 

「ぼっちちゃんにだけとことん甘いな……」

 

「恋は盲目ならぬファンは盲目ってとこですかね」

 

 好意の対象に欠点があっても許容してくれる包容さは素晴らしいと思うが、あそこまでおだててるともはや妄信レベルだ。

 多分何を言ってもプラスに変換してくるに違いない。一番厄介なタイプのファンである。

 

 そんなギターヒーローの厄介ファンはもう一つ何かを思い出したように萌え袖から微かに見える指を一本立て、

 

 

「そうそう! うちの編集長にかけあって業界の人に紹介してもらえるように言っておきますね! 良い人がいるって!」

 

「……え?」

 

 何を言い出すのかと思ったら、結束バンドにとって無視できない発言があった。

 優人でさえ素っ頓狂な声を出してしまうほどの爆弾発言。要注意人物と警戒していた女性が、まさかのバンドマンにとって最上級の言葉を放ってきたのだ。

 

 

(業界の人に紹介してもらえるって……まさか音楽業界にありがちな演奏を見てからのスカウト案件って事か? いやでもさっき後藤さんに対して何で酷い演奏をとかって言ってたし……一旦紹介してもらってからライブの場数を踏んで経験値を増やす算段? 結束バンド全体のレベルを総合的にアップさせてワンチャンデビューの流れ? そんな都合の良い話なんてあるのか……?)

 

 甘い言葉の裏には何かが潜んでいる。音楽業界をまったく知らない優人からしてもそんな印象を抱いてしまうほどには、そういうニュースやらネットやらでは不祥事や被害が出ている事を知っている。

 ただこの女性は妄信レベルでギターヒーローのファンだという事も分かった。だから騙すはずがないと思いたいというのが優人の本音か。

 

 まさに半信半疑。

 だがさすがに鵜呑みにするのはまだ早いか……と思ったところで別の反応があった。ファンの一号二号の二人だ。

 

 

「え~デビューできるかもって事!?」

 

「すご~い!! 一気に結束バンドが遠い存在に思えてきました!」

 

 あれを聞いて純粋な反応ができるなんて正直羨ましいと思う。

 自分でさえ完全に信じてもいいのか迷っているのに、あんな反応をしていたら自分もその言葉を信じて甘い蜜の中に溺れてしまいたくなるではないか。

 

 この判断は決して簡単に出していいものではない。

 果たして甘い金色の蜜か。または泥臭い灰色の沼か。

 

 そう思いながら結束バンドの面々を見ると、

 

 

「うへへ……」

 

「もう、ひとりちゃん顔たるんでるわよ~」

 

「そういう喜多ちゃんもねぇ」

 

「虹夏もね」

 

 全員頬が物理的にたるんでいた。

 ついでに顔もピッカピカであった。

 

 まさかの誰一人として疑っちゃいねえ。何ならひとりのあの顔は未来の武道館ライブを妄想でしているやつだ。

 自分以外のみんなが信じて疑わない。だから、清水優人の思考にも変化が生じる。生じてしまう。

 

 

(……もしかして、俺の考え過ぎだった?)

 

 そして一度変化し始めたものはそのまま流れていく。

 

 

(やってる事はやばいけど、あの人は後藤さんの、ギターヒーローのファンなんだよな。なら裏があるとか騙すとか、そんなの考えるはずがない、か……? むしろ俺の考えがニュースやドラマとかアニメみたいな展開になるかもって卑屈に捉えすぎてるだけかもしれないのか)

 

 結局は媒体を通した向こう側の事象。不祥事や何かしらの被害があるのはそういう展開の作品を見てきたからか。

 優人が思ったよりこの世界は普通で優しいのかもしれない。素行のやばさと善意はまた別と考えるべきだと、考えを改める事にした。

 

 

(そうだよな。この人だって普通に結束バンドに見出せるものがあったからそう言ってくれた。ただシンプルにそう捉えるだけでいいじゃないか。虹夏さん達の夢が少しでも叶えられる近道があるなら、そっちを選んだ方がいいに決まってんだ)

 

 今も喜んでいる結束バンドのメンバーを見て自分も混ざろう、純粋に認められたのだと喜ぼう。甘い蜜という名の希望へ溺れよう。

 そうやって、一歩踏み出した時だった。

 

 蜜を垂らした本人からの一声があったのだ。

 

 

「え? 結束バンド? 何の話?」

 

 上がった口角がそのまま硬直した。引き攣るという形で。

 あれだけ騒いでいたメンバー全員が一斉にぽいずん♡やみを見る。

 

 希望は、容易く絶望へと反転する。

 

 

「あたしが言ってるのはギターヒーローさんだけ。他のメンバーの事までは知らないわ」

 

 その言葉に先に反応したのは、何を言われているのか理解できず固まっている結束バンドのメンバーではなく、清水優人だった。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよっ。それってつまりあなたがスカウトしてるのは結束バンドじゃなくて、後藤さん一人だけって事ですか……?」

 

「そうだけど?」

 

 何の気なしに目の前の女性は返してくる。

 そしてそのまま彼女は続けて言ってきた。

 

 

「そもそもあたしは最初からそのつもりで言ったしね。さっきの演奏見た感じだと結束バンドは良く言えば高校生にしてはまあ上手い方だとは思うけど、悪く言うなら下北によくいるバンドって感じでパッとしない。全体的にレベルが中途半端なの」

 

 一瞬にして全てを理解した。

 そうだ。この女性の目には最初からギターヒーローしか映っていなかった。

 

 口から出る善意も優しさも、全て結束バンドではなく後藤ひとりだけに向けられたもの。スカウトの話ですら、ギターヒーローのみに掛けた甘い蜜だった。

 それ以外のメンバーの事なんて端から眼中になかったのだ。

 

 

「ていうかさ」

 

 最後に、決定的な一言があった。

 

 

「ガチじゃないよね?」

 

「…………え?」

 

 ぽいずん♡やみの言葉にいち早く反応したのは優人ではなく伊地知虹夏だった。

 だからだろうか。一瞬で沸騰しかけた優人の脳内が怒りよりも早く冷めていったのは。ここで相手の胸ぐらを掴んで怒鳴るくらいならいつだってできるが、肝心の場所がスターリー内だということを忘れてはならない。

 

 店長の言葉を胸に刻む。もうあのような問題は起こさないと決めたのだから。きっとショックを受けているのは虹夏だけではない。だから無理はさせないよう、今は自分が前に出るべきだと判断する。

 代わりに、口から出たのは自分でも驚くほど低い声だった。

 

 

「どこを見て、そう思った……」

 

「ん?」

 

「あの結束バンドの演奏を見て、何でそんなふざけた事を言い切れるんだ……」

 

()()……? ごめんね、君の主観なんてこっちも別に興味ないから。ただ客観的に見てそう思っただけ」

 

「……は?」

 

 あくまで彼女はつらつらと悪気もなく自分の言葉だけを述べていく。

 

 

「言っておくけどあたしは仕事柄アンタ達より多くのバンドマンを見てきてる。だから大体そのバンドが何をどう目指してるかって事くらいは見てて大体分かるのよ。でもって結束バンドの実力は中途半端で下の上、良くて中の下。これで声が掛かると思ってる辺りが夢の見すぎ。自分達の実力をちゃんと客観視してる? それもできてないようじゃギターヒーローさん以外は論外。さっさと他のリードギターを集めて身内だけで楽しくわちゃわちゃやっとけば?」

 

「…………………………………………」

 

 そこまで、言えるのか。

 ただでさえ希望から絶望へ落とされて、灰色の泥沼に沈められた彼女達を目の前にして、どうして平然とそんな事が言える? 

 

 

「……みんなメジャーデビューを目指して頑張ってる」

 

「頑張るだけなら誰だってできる。努力だってそう。何ならバンドマンなんてみんなメジャーデビュー目指して頑張ってるわよ。何もアンタ達だけの話じゃない。あたしが見てきた中で結束バンドはプロになるために必死で努力してるようには見えない」

 

「……みんながみんな歩むスピードや歩幅が一緒な訳じゃない。それぞれの思いや理由があって、例え小さな一歩で地道だろうとコツコツ夢に向かって進んでいくんだ。結束バンドには結束バンドなりの進み方がある。それをアンタにとやかく言われる筋合いはない」

 

「だぁからそれじゃギターヒーローさんがダメになっちゃうんだってば。素晴らしい才能を()()()()()()()()()()()()()()()()()。いつまでも身内ノリでしか輝けない()()()()()()じゃなくても、あたしなら多少なりとも業界にツテがあるしギターヒーローさんの才能を最大限に活かすにはこれがうってつけなの。分かる? 結束バンドじゃギターヒーローさんは宝の持ち腐れって事」

 

「だからって後藤さんだけを引き抜こうなんざこっちが認めるかよ。こいつの意思を無視して好き勝手に話進めてんじゃねえぞ」

 

「バンドマンの引き抜きなんて普通の事でしょ。欲しいギタリストがいたら何がなんでも引き抜く。有能なベーシストがいたら了承するまで毎回会いに行く。バンド界隈じゃ至って当たり前に行われてる行為なの。それで売れるバンドが出来上がるなら最高じゃない」

 

「とことんこっちの意思を尊重してねえ言い方だな」

 

「適材適所って知ってる? ギターヒーローさんにはギターヒーローさんしか輝けない場所があるの。人見知りでバンドだと上手く演奏できないんでしたっけ? なら早めに新しいプロのバンドに入れてもらって慣れてもらう方がいいでしょ。それに他のメンバーにはここでずっと小さな幸せでも掴んでいてもらう方がよっぽど身のためじゃない」

 

「な、にを……?」

 

「だってギターヒーローさんが本来の演奏をできるようになったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「っ」」」

 

「テ、メェッ……!!」

 

 この女、どこまで人の神経を逆撫でする事を言い続けるつもりなんだ……? 

 そんな問題はギターヒーローの正体を知ってからずっと考えていた。だからこそいつかちゃんと打ち明けてみんなでひとりに追いつけるように、ひとりもちゃんと本来の力で演奏できるようにと話し合うつもりだった。そう決めていた。

 

 なのに。

 それなのに。

 

 この女が全てを台無しにした。

 怒りは逆効果。そうと分かっていても、心の内には果てしない灼熱があった。

 

 どこまでもペースを乱してくる地雷女を前に清水優人は軽く深呼吸をする。

 

 

(吞まれるな……こいつの音楽に対しての知識は俺より遥かに多い。だから何を言っても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今俺に求められているのは結束バンドのみんなへの精神ダメージを最小限に抑えつつ、こっちにヘイトを向けさせた上で引き抜きの話を終わらせる事だ)

 

 もう一度深呼吸を繰り返す。

 どうにかなりそうなくらいに沸騰していた感情は少しずつ冷めていった。ただ、正しい怒りの感情だけはそのままに。

 

 

(ふざけやがって)

 

 清水優人は知っている。

 伊地知虹夏が志半ばで夢を諦めた姉のためにバンドを始め、結束バンドの知名度が広まった際にはスターリーをもっと有名にするといった夢があり、そのためにバイトも含めバンド活動を頑張っている事を。

 

 清水優人は知っている。

 山田リョウが音楽性の違いにより前のバンドを辞めた際、虹夏に誘われ結束バンドに入り今度こそ自分の音楽を貫き通すために、表には出さずとも作曲活動に力を入れている事を。

 

 清水優人は知っている。

 喜多郁代が一度逃げた罪悪感からも向き合い一番の初心者なのに必死にギターの練習に励み、半年近くでボーカルをも務めるほど努力の才能を持っているという事を。

 

 清水優人は知っている。

 後藤ひとりが何をやってもダメでギターしか取り柄がなく、それを見出してくれた虹夏の夢のために作詞や結束バンドを最高のバンドにすると初めて誰かに宣言し、いざとなればどんなトラブルだって乗り越える力を持っているという事を。

 

 そう、清水優人は知っている。

 知っているのだ。

 

 だから、彼女達の努力を少しも理解しようとしていないこの女の言葉を全て受け入れるなんて事は到底できない。

 まずは否定から入るために口を開こうとした時だ。優人よりも先に、もはや呆れたような口ぶりでぽいずん♡やみが少年の後ろへ指差した。

 

 

「というかさぁ」

 

 標的が彼女達へ向けられる。

 それが分かっていて尚、止める事も間に合わず言葉が発せられた。

 

 

「あたしにここまで言われて結束バンド本人達が何も言ってこない時点でお察しな訳なのよね。何で何も言ってこないの? 悔しくないの? 言い返せないのはあたしの言ってる事が事実だから? それでも普通思うことがあるなら自分で言ってくるのが普通でしょ。それともこの清水君ってのが少女を守る騎士(ナイト)的な役割で肝心なお姫様達はだんまり決め込むだけで安心してんの?」

 

「ッ、それはアンタが好き勝手言」

 

「ああそうそう、さっきからずっと思ってたんだけど」

 

 何かを思い出したかのように微かに見える人差し指を上に上げ、ぽいずん♡やみの視線が清水優人へ向けられた。

 またも標的が変わる。それも先ほどとはまったく違う視線だった。明らかに攻撃的な目をしたぽいずん♡やみは、その名の通り毒を持った言葉を解き放つ。

 

 

「清水優人君、君がいるから結束バンドが余計ダメになってるのかもね」

 

「……ッ」

 

 真正面から放たれた言葉が、少年の勢いを一瞬で削り取る。

 

 

「そもそもバンドのサポート役って何? マニピュレーターやマネージャーみたいなものでもないんでしょ? まあ無名バンドのマネージャーって何って話だけど。サポート役でやれる事は……バンド活動の宣伝とかかな。さっきSNSを見たところだと最近ようやく宣伝に力を入れ始めたように見えるけど、まだまだ全然ね。ライブの客も常連ばっかだし同じ学校の制服の子達がほとんど。新規を取り入れようっていう気概が見えない。そんなんでやる気あるの? 今まで何してた訳? あのね、正直に言わせてもらうけどさ」

 

「……」

 

 少年は何かを言い返そうとして、止める。

 それを良い事に、ぽいずん♡やみがスターリーで一番言ってはいけない事を口にした。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………………………………………………………………………………………………………」

 

 冗談抜きに、フロアの空気が凍り付いた。

 いいや、あるいは焼き付いたか。

 

 しかし彼女の言葉に真っ先に反応したのは、今までずっと優人の後ろにいた伊地知虹夏と喜多郁代だった。

 

 

「ちょっ……それはいくら何でも言い過ぎじゃないですか!?」

 

「そうですよ! 彼は……って優人君っ、どうして……!」

 

 ぽいずん♡やみに歯向かおうとする少女達の前に左手をやって二人を制す。

 自分のために怒ろうとしてくれたのだろう。心の中で感謝しつつも視線は向けない。実際止めたのもただ、こいつにそんなのは無意味だと判断しただけだ。怒るだけ無駄。

 

 だから。

 

 

「俺が結束バンドにいる必要性がないって、アンタは言ったな」

 

「少しはオブラートに包んだつもりだったけど、まあそう受け取ってもらっていいわ」

 

 取り繕う事すらしなくなった女性を前に、清水優人は言う。

 

 

「なら言ってみろ。俺のどこがダメで、必要性が感じられないのか。アンタの言いたい事を全部言ってみろ」

 

 睨む。もはやお互いを敵と認識しつつ、それでも退く事はない。

 それを彼女も受け取ったのか、少し目を細めてから、

 

 

「なら遠慮なく。前提としてまず役割が意味不明、サポート役の定義も曖昧。楽器もギター始めたてならいざって時に代役で役に立てる事すらできない。SNSでの宣伝回数がアピールポイント含めて少なすぎ、話を聞いてる限りじゃ新規の客を取り入れるための努力が感じられない。今はSNSの時代なのよ? どうせならもっとライブの動画やリハの動画を撮影して広めるべきなのに、一切やってないんだもの。それで本気だって言われてもこっちが信じられるはずがない。それに、バンドを有名にするためのサポート役だか何だか知らないけど、それならもっとプロデュース力とか付けた方がいいんじゃない? 今のままだと素人の頑張りなんてたかが知れてるんだし、まあそんな事も思いつかない時点で真面目かどうかも怪しいけどねぇ。てかバンドメンバーならまだ分かるけど君はメンバーじゃないんでしょ。そこが一番謎なのよ。結局何をどうしたいの? 結束バンドにいる君の存在意義は何? 普通ならバンドマンにそんな変なサポート役なんていらないし無駄なの。そういうのも含めて最初は自分達だけで試行錯誤しながら這い上がっていくのがバンドマンなのよ。力もツテもない君はただのお飾り、バンドにとってのお邪魔虫ってところかな。悪い事は言わないからお手伝いなんて夢見がちな事は辞めてバイトに専念したら?」

 

「だからそんっ……優人くんっ! ここで言い返さなきゃ……」

 

 自分より前に行こうとする虹夏を止める。

 ただ視線はぽいずん♡やみだけを見据えたままだ。

 

 

「何? 清水君まで何も言ってこないの? だったら拍子抜けかも。結局君達はバンド活動に対して真摯に取り組んでな」

 

「言いたい事はそれだけか」

 

「い……え?」

 

「言いたい事はそれだけかって聞いてんだよ」

 

 多分、ここまで本気で誰かに対し敵意を向けた視線を送ったのは初めてだろう。

 それだけの事をこの女は結束バンドの面々に言ってきたのだから。もう遠慮も容赦も必要ない。

 

 

「な、何よ……あたしは事実を」

 

「佐藤愛子」

 

「びぎゃあ!? だ、誰!? あたしの本名呼んだの……何か重装備してるんだけど!?」

 

 優人が何かを言おうとしたところで横からの乱入があった。

 何故かガスマスクをしてこちらに近寄ってきたのはスターリーの店長、伊地知星歌だ。

 

 

「ったく、さっきから黙って聞いてりゃ私の妹と大事な弟分に好き勝手言いやがって」

 

 おそらくぶりっ子への対策としてガスマスクをしてるのだろうが、それが有効なのかは不明といったところか。

 先ほどのように苦手意識満々だった店長の表情が普通に戻っているのを見ると効果はありそうな気もする。

 

 

「店閉めるからお前はもう出てけ。ハッキリ言ってお前がいると気分が悪い」

 

「なっ、こっちはまだ話終わってないから帰りません~!」

 

「……しゃあねえな。じゃあ実力行使でいくか」

 

「な、何……暴力でも振るう気!?」

 

「正直言うとそれも悪くないんだが……うちの狂犬はそれより惨い事を普通にしてくるぞ。おい優人、もういいだろ。遠慮なく言っちまえ」

 

 ガスマスク越しに店長が悪い笑みを浮かべたのが微かに見えた。

 

 

「ボロカスにされてもただで立ち上がらねえのが清水優人ってヤツなんだよ。言っておくけどこいつを怒らせたのはお前だからな。最初に引き金引いたんなら、その責任も結果もお前が受け入れるべきだ」

 

 それが合図だった。

 今の今まで我慢していた清水優人がようやく口を開く。

 

 

「本名佐藤愛子、23歳」

 

「ぴぃぎゃあッ!?」

 

「23歳って事は立派な成人女性だよな」

 

「そ、それがどうしたのよ!?」

 

 ここで、初めて清水優人の口角が不気味に上がった。

 

 

「アンタみたいなアクの強いライターには必ずアンチがいる。だからアンタの事を店長達に調べてもらったよ。そしたら色々出てきた。嫌われ者ってのも大変だよなぁ? さっき俺に対して今はSNSの時代って言ったのはアンタだろ。ああ、全くもってその通りだ、認めるよ。ぽいずん♡やみって調べるだけで本名も出てくるし、今までやってきた痛い行動とかやらかし行為がバンバン書き込まれてるぞ。このご時世だ、本名調べたら実家の連絡先も分かるよな?」

 

「うっ……な、何、あた」

 

「ああそうそう、目立つ服装してくれてたから確信持って言わせてもらうけど」

 

 ついさっきの意趣返しだった。

 

 

「この前うちの学校に不法侵入したの、アンタだろ」

 

「………………………………………………………………………………………………………………」

 

 完全にぽいずん♡やみの動きが止まる。

 

 

「そして今日の営業時間前に勝手に店内に入ってきたのも不法侵入。店長が注意しても聞こうとしなかったし散々喚いてみんなに迷惑かけてくれたよな。それに関しては営業妨害か業務妨害のどっちかになったりするのか? ああ悪い、そこら辺は詳しくないからさ。帰らねえってんなら一旦通報した方が手っ取り早いよな」

 

「なぁ!? ちょっ、まっ」

 

「うちの学校が許してもスターリーで好き勝手やった事に関しちゃ店長の意思次第だ。それで店長は俺に決定権を委ねてくれた。はぁ、成人してる立派な女性が一週間もしないうちに二回も不法侵入だなんてな。こっちに説教だか引き抜きだかする前に、そっちが社会の常識を身に着けた方がいいんじゃねえのか?」

 

 年上の女性に対し、少年は三本指を立ててこう言った。

 

 

「アンタに三つの選択肢をやるよ。一つは大人しく帰るか、もう一つは親にアンタの痛い名前とこれまでやらかした行為を伝える、最後の一つは警察に通報されてお縄頂戴のどれかだ。さあ、どうする。なけなしの理性はまだ残ってるか?」

 

「ぎゃああああああああ帰ります帰ります~! だから通報と親に連絡だけは勘弁して!? はいそれじゃさよならぁ~!!」

 

 さっきまで好戦的に突っかかってきたのが噓のように、ぽいずん♡やみはダッシュでスターリーから出ていった。

 あれだけ無駄に騒がしかったスターリーが一瞬で静寂に包まれる。

 

 重い空気だけが流れていた。

 そこでふと、優人は自分の右手が誰かに握られていた事に今更気付く。

 

 

「……後藤、さん?」

 

「あっゆうくん……その、あんまり強く握り過ぎたらダメだよ……痛めちゃうかもしれないし……」

 

 ひとりの両手が優人の右手を優しく包み込んでいたのだ。

 ふわりと離された右手をゆっくり開くと、どれだけ強く握りしめていたらこうなるのかと思うほど、右手は震え手の平には爪の跡が赤くくっきりと付いていた。

 

 

(気付かなかった……後藤さんに握られてた事すら)

 

 それだけ表面には出さないようにしていたつもりでも、結束バンドをバカにされた優人の怒りがそうさせていたのか。

 ともあれ、だ。

 

 

「……ありがとな、後藤さん」

 

「あっうん……」

 

 微笑みかける。きっとあの険悪な雰囲気に一番やられていたのは後藤ひとり自身だ。

 相手の目的が自分で、それを中心に結束バンドのみんなと優人が好き勝手言われていた。ただでさえ基本的に自分が悪いと思い込んでしまう彼女にとって、今回の出来事はあまりにも酷すぎる。

 

 それなのに、自分を守るのではなく優人を優先的に思いやって手を握ってくれていたのか。

 

 

(後藤さんは誰よりも優しい。だからこそ今回の件で自分を責めてしまう事もあるかもしれない。なるべくメンタルケアしてやりたいとこだけど、問題はまだ全部終わった訳じゃないもんな……)

 

「お前らもあんな奴の言葉真に受けなくていいからな。所詮は犯罪者予備軍の戯言だと思っとけ。今日はもう全員上がっていいぞ」

 

 気を利かせた店長が言葉を掛けてくれた。

 さすがにこのまま作業を続けるのは厳しいと判断したか。各々が小さく返事をして帰りの支度を始めた頃、店長が優人の肩に手を置いた。

 

 

「悪いな、もっと早く止めるべきだった」

 

「……いえ、ああ言われても仕方ないとこは確かにあるので」

 

「それでもだよ。あそこは大人としてお前らをちゃんと守ってやる場面だった。うちに不法侵入かましてんだ。一発くらい殴ってやっても私は見逃したぞ」

 

 本気で言っているのかこの店長は、と思いながら軽く笑う。

 

 

「だとしても、もう店長達の大事なスターリーで荒事は起こしたくなかったんですよ」

 

 虹夏の夢のためにも、という事は言わないで。

 

 

「……バッカ」

 

「あでっ」

 

「もっと子供らしくしときゃいいんだよお前は。弟分守んのも私の立派な仕事なんだぞ」

 

 そう言って伊地知星歌は自分の定位置のカウンターまで戻っていった。

 ああいうとこは、本当に尊敬するものだと心底思う。小さく、だけどしっかりと清水優人はスターリーの店長に頭を下げた。

 

 

 

 

 ────

 

 

 

 

 帰り道。

 結束バンドの面々とも別れ、後藤ひとりと清水優人は二人で夜道を歩いていた。

 

 その最中。

 

 

「ゆ、ゆうくんは、大丈夫なの……?」

 

「ん、何が?」

 

 思い切ってひとりが優人に声を掛けるも、意外と普通に返してきた少年に対して困惑してしまう。

 

 

「あの、えっと……あの人にゆうくんが色々言われて……」

 

「ああ、そのことか」

 

 もう冬だからか、少し肩を上げながら歩く少年は前を見る。

 

 

「正直俺個人に対して言われた事については全然怒りの感情なんて湧いてこなかったよ」

 

「……そう、なの?」

 

「ああ。さすがに()()()()が何も知らねえくせにみんなをバカにした時は腹立ったけどな」

 

(あっこれゆうくんめっちゃ怒ってるやつだ)

 

 基本的に仲の良い人以外に対しては柔らかい言動をする事を知っているひとりとしては、ほぼ初対面の女性に対し優人が()()()()などと乱暴な口調が出るという事に色々察してしまう。

 

 

(ゆうくんは誰よりも優しい。だけど……もっと自分の事も大事にしてほしいな……)

 

「まあ」

 

 まるで遠くを見つめるような瞳で、少年は続ける。

 

 

「あいつの言ってる事が概ね正しいって事も理解してる」

 

「え?」

 

「結束バンドのサポート役。ちゃんと考えなくても誰だってよく分からねえ役割だろうなとは思ってたからさ。実際俺も最近まで何をどうすりゃ結束バンドのために動けるのかって思ってたし。悔しいけどあいつの言葉が全部刺さったのも事実だ。結束バンドに俺がいる必要性ないってとこも含めてな」

 

「……そっ、それはちが」

 

「分かってる」

 

 ひとりの言葉を遮るも、清水優人の視線はこちらに向いていない。

 ただ正面だけを見据えている。

 

 

「あんなこと言われたから辞めるなんて事はしないさ。試合に勝って勝負に負けたって感じかな。ただ痛感したんだよ。ああ言われないとちゃんと自覚してなかったかもしれないってな。あそこである程度冷静になれたのは大きかった」

 

「……?」

 

 ふと、よく分からない発言があった。

 

 

「帰り際、虹夏さんに言われたよ。何であんなこと言われて言い返さなかったのかって。いつもの俺ならちゃんと言い返してたでしょ、らしくないじゃんってさ」

 

「うん……聞いてた。私もちょっと、ゆうくんらしくないなって思ってたから……」

 

 そう、他のメンバーもひとりも思っていたこと。

 普段の清水優人ならハッキリ言える事はちゃんと言い返す強さを彼は持っている。それは相手が年上だろうと関係ない。現に途中までは返していた。

 

 なのに優人本人の事について言われるとただ黙って言われるだけだったのだ。

 反論しようとした虹夏と郁代を抑えてまで。そうした意味が誰にも理解できなかった。

 

 ()()()()()

 ただそう思われるまでの大きい評価をされている事に、果たしてこの少年は気付けたか。

 

 ひとりの言葉に清水優人が微かに笑う。

 

 

「何も考えてなかった訳じゃない」

 

「……え?」

 

 またも優人は前だけを見ていた。

 

 

「確かに俺の役割に対して痛いとこばかりを突かれたし、何が良くて何がダメなのかすら曖昧でちゃんと分かってなかった。そういうとこを指摘されて納得しちまった部分の方が多かったってのもある。あんなんでもさすがは業界に詳しいライターってとこか。俺よりも遥かに知識量が多いのも頷ける」

 

「う、うん……」

 

 弱い部分を突かれ、それをちゃんと正しく理解した上で、次に少年はこう言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

 思わずひとりの足が止まる。

 隣を歩く少年の足もまた止まった。

 

 

「さっき言ったろ。俺個人に対しての言葉には何も思わなかったって。俺よりも詳しいあの野郎なら俺のどこがダメなのかをちゃんと指摘してくると思ったからな。反論してくれようとした虹夏さん達には悪かったけど、あそこはどうしてもあいつの言葉を全部聞き出す必要があったんだ」

 

(まさかゆうくん、あの時怒ってたはずなのに自分の事になった瞬間からそこまで考えて……?)

 

「そして俺の着眼点自体は間違ってなかった。もっと早くから活用すべきだったのと、宣伝の仕方を工夫していく事。あとはある程度のプロデュース力も必要か。新規の客を取り入れていく事を重点的に考えると、やる事は山積みだな。ああ、あの野郎のおかげなのは癪だけど何だか楽しくなってきた」

 

「ゆう、くん……?」

 

 彼の横顔にはやる気が満ち溢れていた。

 好戦的な目。自信を取り戻していく希望。

 

 

「後藤さんもあんな好き勝手言われて本当は悔しかったんだろ」

 

「……うん」

 

「大事な仲間をバカにされて悔しかったんだろ」

 

「……うんっ」

 

「ならお前も多少の覚悟を決めろよ。あんだけボロカスに言われたんだ。俺達がただ立ち上がるだけじゃ何の意味もねえ。結束バンド全員で立ち上がるんだ。その上であいつを見返す」

 

 多分、この時自分は見惚れていたんだろうと後藤ひとりは自覚する。

 ギターヒーローと自分で名付けた名前の由来。その張本人が目の前にいた。

 

 ヒーローが大好きで、憧れて、そうありたいと願っていた小さき頃の少年の面影が街灯越しに少女の瞳に映っていた。

 そしてそんな少年に憧れて自分もギターという分野でヒーローになりたいと願った少女がいた。

 

 二人して正面を見据える。

 見えない何かを確かに捉え立ち向かうように、清水優人が宣言した。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「うんっ」

 

 

 

 確かな火を瞳に宿し、二人のヒーローが動きだす。

 

 

 

 

 





ぽいずんさん、原作よりもヘイト買わせるの巻。
ただ原作だと非常に珍しい初期のヘイトキャラなので、ここで一気にヘイト買っておいてもらおうかなと。基本的にこの作品に悪役はいないのでね。

そんでバチバチやり合ってもらいましたよええ。二次創作特有のオリ主いるかいらない問題に遠回しに言及しつつ、やらかしを指摘されて小悪党みたいに去ってくぽいずんさん嫌いじゃないよ。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:カルカッタさん、Rodríguezさん、クロセさん、桜井大和さん、ゆっくり紅玉さん、症魔さん、とのぬぬにふさん、キリタチさん、O.Yさん、イルカおいしいさん、こにさん、すずしきさん、遊技林さん、モカフラッペさん、kazusinさん、カクリツさん、でるしおんさん、にゃてぃさん、スルメ以下さん、飯坂 飛揚さん、まめしばくんさん、マシュマロ犬さん、Saーがさん、堅あげぽてぃとさん、クロスオーバー大好き人間さん、雑用係さん、ユニ房さん、やとわれさん、灰猫さん、(GRAY CAT)さん、トッシュさん、白銀蜥蜴さん、狗神さん、白花 遥さん、I'sさん、黒乃輝さん

☆9:三文小説家さん、Financerさん、鳩兎さん、@LANさん、ネムッチさん、ルドルフ主任さん、神子原さん、タスマニアさん、モチモチこしあんさん、氷の騎士団さん、グランアースさん、もちこめさん、星空ナインさん、回復してさん、お前は誰だ!さん、熾烏さん、転凛虚空さん、奏近さん、高崎陣さん、サボテンテンさん、白桜太郎さん、◯岳◯さん、座右の銘は天衣無縫さん、キヨシさん、りんごあめさん、しゅんんさん、たん炭素さん、イキョウさん、フイさん、上見 香林さん、アパCCCさん、けん0912さん、完全無欠のボトル野郎さん、猫ホルンさん

☆8:eudaimonia36さん、神影アルマさん、ジャガイケメンさん、柊連さん

本当にありがとうございます!
こんなにたくさんの人達に誕生日を祝ってもらえて幸せ者だぁ……。
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