再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
今回からはいつものノリに戻っております。
前回が特別すぎたのじゃ。
「最後に確認するけど、いいんだな」
「う、うん……」
「明日になったらやっぱ無理とか言わないな」
「う、うん……」
「その覚悟に噓はないな」
「う、うん……」
「……よし、よく言った。じゃあ明日これ持って虹夏さん達に提案しよう」
「うん……っ」
────
翌日。
スターリーにやってきた俺と後藤さんはいつも通り階段を下りて入口のドアを開ける。
昨日別れる際、当然だけどみんな普段のような明るさは微塵もなかった。表には出さなかったけど、落ち込んでいたのは明白だろう。
かくいう俺も明るくはなかったが、考え事をしていたから落ち込んでいたのとはまた違う。あとはあの女への怒りくらいだ。
昨日の今日だからか少し気まずい……というよりかは緊張していると言った方が正しいか。
みんな変に引き摺ってなけりゃいいけど。ちなみに後藤さんは常に俺と一緒にいるからそんなに気にしてない。
昨夜もお互い寝る寸前まで一緒にいたし、何なら一緒の部屋で寝落ちしてた。
目開けたらすぐ隣で俺をメンダコぬいぐるみの抱き枕代わりにして後藤さんが寝息立ててるわ、何故か一緒の布団掛けられてたわで身動きできねえし思わず現実逃避からの二度寝しそうになったのである。布団掛けてくれたのはおそらく美智代さんだろう。どうせなら俺だけ起こしてくれれば家に帰ったのに。
その後の事は言うまでもない。後藤さんが起きて寝ぼけながら俺を上目遣いで見たと思ったら突然我に返り朝から爆発オチだ。
魔人ブウみたいに破片を集めて再生させるのに一苦労しながら一度自宅に帰り、再度準備を済ませてからここに来た。
俺の隣を歩く後藤さんの手には一枚の紙、フライヤーが握られていた。
昨夜色々話し合って決めたものだ。これを虹夏さん達に見せてある提案をしようと思う。一番の難関である後藤さんはもう乗り越えたし、あの三人なら普通に受け入れてくれそうだけど、果たしてどうなるか。
階段を下りると既に結束バンドの三人が集まっていてテーブルを囲みながら何かを話していた。
「あっ、ぼっちちゃん、優人くん!」
ドアと階段を下りる音で俺達に気付いた虹夏さんが急に立ち上がる。
その際、俺の視界にテーブルの上に置かれていた一枚のフライヤーが映った。自然と口角が上がる。
「……どうやら考えてた事はいっ」
「結束バンドでフェスに出てグランプリ獲りましょうっ!」
虹夏さんに向けて話しかけようとしたらいきなり隣の少女がキリッとした顔で持っていたフライヤーを前に突き出した。
……何だろう、良い表情なのにちょっともうオチが分かったかもしれない。
ほら見たまえ、虹夏さん達もポカンとしておられるぞ。
珍しく後藤さんが声なんか張り上げるから脳の処理が追い付いてないんだよきっと。脳内ダウンロードを先に終えたのはさすが結束バンドのリーダー、虹夏さんだった。
彼女は後藤さんの持ってるフライヤーとテーブルの上に置いてある物を一度交互に確認した後、こう言った。
「あのぉ、ぼっちちゃん……あたし達もね、ちょうど今その話してたとこなんだよね……」
「………………え?」
「キメ顔で言ってるとこ悪いけどほら、テーブルの上見てみ。答えはそこにあるぞ。僕はキメ顔でそう言った」
俺の言葉通りにテーブルの上を見る後藤さん。
そこにはまったく同じフライヤーが置いてあったとさ。凄い偶然だね。
そして当然、キリトも驚くほどキリッとしたキメ顔でキメていた後藤さんは、髪と服装だけでなく顔色もどんどんピンク色になっていく。
らしくない事するから……あーあ、全身ピンクになってる。それはもうただの魔人ブウだよ。朝の伏線回収しなくていいから。
という訳で羞恥心から俺の腰にしがみ付いてきた後藤さんのケンタウロスモード再びであった。
もうめんどいからこのまましばらく放っておこう。
「じゃあ改めて確認しよう! 優人くん達もそれ持ってきたって事は提案しようとしてくれてたんでしょ?」
「はい。後藤さんにも昨日50回くらい確認したんで覚悟はできてるかと。そうだろ、後藤さん」
「……」
俺の腰に頭押し付けながらおそらく縦に首を振っている。
うん、肯定のようだ。この子の事だし一夜明けると覚悟がどっか行ってるなんてのは普通にあるからね。さすがに今回は思うところがあったらしい。俺の問いにフライヤーを何度も握り締めて葛藤しながらもやると決めた思いは強かったようだ。
ぐしゃぐしゃになったフライヤーをテーブルに置く。
そこにはこう書かれていた。
「『未確認ライオット』。10代アーティスト限定のロックフェス。つまりは学生ばかりが出るであろうこのイベントに結束バンドも出る。虹夏さん、これはもう決定事項でいいですよね」
「うん、あたしと喜多ちゃんも同じ事考えてたみたいでね、ぼっちちゃん達も同じ気持ちなら出ようって話し合ってたとこなんだ」
「……実は私もそのフライヤー持ってきてたから仲間入れて……」
「むしろ何で黙ってたんだよ……」
クールぶってんじゃないよ。もうアンタ表に出さないだけで内心ビビったり焦ったりする事多いの優人さん知ってんだからね!
うちのギターとベーシストはよくイキって滑る。ここテストに出ますよ~。
咳払いを一つ。
「じゃあ説明は俺がしますね。まず審査の順番ですけど、最初に音源を録ってデモテープを送るデモ審査。これはライブハウスのオーディションに似たようなものですかね。しかし通過できるのは100組のみ。調べたところによると、応募数は毎年3000は軽く超えるらしいので100組なんてのは実質狭き門ですね」
「10代なんて一番ピチピチで熱くなれる時だからねぇ。実際の応募数なんてもっといるんだろうなぁ」
「でもそれを乗り越える気概がないと通過できるものもできませんよ!」
「よく言った喜多さん。そうだ、そんくらいやる気がないと応募する意味がねえ。んでもって今の結束バンドのやる気はフルMAXだ。怖いモンなんてないと思え」
俺のコシギンチャクになってる後藤さんもそうだそうだと頭をぐりぐりしてきている。喋れ。
一応きっぱり言っておくがコシギンチャクだからと言って共存してる訳ではない。コシギンチャクが俺を掴んで離さないだけだ。
「で、それが通るとウェブ審査……いわゆるネット投票ですね。デモ審査を通過したアーティストの曲や動画を見た人に気に入ってもらえたら投票してもらうちょっとした選挙みたいなもんだな。これは一人一回のみの投票じゃなくて一日一回投票できる形式だから、友達や家族に頼んで毎日投票してもらう事もできる訳です。んでこれを通過できるのが100組の中から30組だけ。これまた一気に絞られますね」
「つまり動画やSNSの使いどころって感じかしら? ならデモ審査を通過すれば私の腕の見せ所ね!」
「喜多さんギターボーカルだから常に本気で腕見せてくれな。広報に関しては俺も今以上に手伝うから、そこは二人で話し合って頑張ってこう」
「もちろん!」
ちょっとせっかく説明してるのに一向に離れる気配のない後藤さんの腕を掴んで離そうとするも何故か全然離れない。
こういう時だけ腕の力強くなりすぎだろ。ガッチリホールドされてんだが。何なの、俺の口から臓物出させる気か?
仕方なく諦めて昨夜ネットで見たルールを並べていく。
「30組の中に入れたら次にあるのがライブ審査。いよいよ人前での演奏になります。これは各地の会場で集められた数組のバンドが観客の前で演奏し、その観客と審査員の投票によって上位2組だけが最後のファイナルステージに進む事ができるって感じですね。そんで最終審査のファイナルステージはフェス形式でやるので数千人規模の前で演奏する事になります。そしてそこで勝てば晴れて優勝、確定でメジャーから声がかかるはずです。とまあ、審査の流れはこんなもんですかね」
「当たり前だけど夢のある話だよね~。そのためなら余計頑張れちゃうかも!」
その夢を掴むために半端ない数のバンドが応募してくる事を考えると、当然生半可な努力じゃダメだろう。
結束バンドの実力がどんなもんかは昨日あの女に散々言われた通りだ。今のままでは必ずどこかの審査で躓くのは確定、最悪デモ審査すら通らない可能性だってある。
でも。
だけど。
「道は険しい、壁だって高い。それでもみんなで優勝目指すなら俺も全力でサポートします。俺にできる事なら何だってするつもりなんで思う存分パシッてください。あ、奢るとかは極力なしなんでそこはリョウさん弁えてくださいね」
「くっ、先手を打たれたか……」
一瞬で目を光らせたのバレバレだからな。
「優人君も気合い入ってるのね」
「まあな。昨日あの野郎に言われた事は納得してないけど、理解はできた部分もある。主に俺の必要性とかな」
「でも、それはっ」
「分かってる。そこはもう昨日の時点で解決済みなんだ。だから見返そう。胸倉掴んで怒鳴るなんて事しなくたって、あの野郎を見返すには結束バンドの音楽が手っ取り早い。それに、俺の必要性はあいつが決めるものじゃなくて結束バンドのみんなが決めるものだ。ぽっと出の他人なんかに決められてたまるかよ」
「そうだよ! その点あたし達なら優人くんのこと必要ないなんて絶対言わないし一生一緒にいてもらうから安心だね!」
ええ、ええ、俺もできる限りの力で結束バンドを支え……ん? あれ……? この天使今一生一緒って言いませんでした?
三木の道山的なこと仰ってない? 何か霊圧的な重さ感じるんだけど気のせいかな。ああ、後藤さんが腰からずり落ちていく重さだったわ。もうこっちは掴んでないのに離されまいとずっと力を入れてたのが仇になったらしい。体力の限界だったようだ、バカめ。そしてよく持ち堪えたな俺の臓物達。
いまだに俯いて立ち上がろうとしない後藤さんを猫を抱っこする時みたいに持ち上げ、何とか特等席らしい後ろに配置させ服の裾を掴ませつつ、
「勝ち上がるためにもまずはデモ審査を乗り切らないといけません。〆切は来年の4月、約半年くらいか。できればそれまでに活動数を増やして新曲作り、MVも作っておきたいですね」
「それはあたしも思ってた。スターリーでの月1ライブだけじゃ足りないし、路上ライブとかもしていこうよ! お金もそんなにかからないし!」
「いいですねそれ。ただ路上ライブだと許可申請がいるので、無許可でやるのは極力なしにしときましょう。許可なしでも基本注意で済むとは思いますけど、罰則がある場合もあるからそこは避けたいですね。他のバンドがよくやってて人が集まりそうな場所と時間帯の把握もしときたいので、良さそうな場所は俺が探しておきます。その間皆さんは練習に集中してもらってて大丈夫ですよ」
「おぉ、頼りになるね~優人くん! よろしく頼むよ! これから半年忙しくなりそうだね~!」
「曲作りにMV作成、路上ライブもするとなるとバンド活動がメインになりそうですしね」
「あの~、うちのシフトだけはちゃんと入ってくれよ……特に優人は」
俺だけ名指しですかい店長さんや。
「いくらでもここでライブさせてやるって展開じゃないんだ……というか優人くんだって一員としてやる事いっぱいあるんだからそっちに集中してもらわないとダメ!」
「えぇ~うちのシフト増やしてたくさんライブすりゃいいじゃん」
「一回三万するのに無理だよ! バイト時間だって土日以外は短いんだからね!」
まあ厳しいよな。ライブ代だけじゃなくて機材代も溜めておかないといけないってなるとそう毎月何回もライブしまくれる訳ではないのだ。
そこが学生の辛いとこである。
「じゃあ優人の今までの給料分からいくらか出してライブするってのは? 働いてる時間もお前らより多いから給料も幾分か多いし、こいつなら全然許してくれるだろ」
「うっ、それは……」
「え? 俺の給料って毎回ライブ代に使われてたはずじゃ? 虹夏さんともそういう話でケリ付いてたと思うんですけど」
「こいつ、お前の給料袋初バイトの時からずっとご丁寧に引き出しに仕舞ってあるんだよ。勝手に使うのはやっぱり申し訳ないんだとさ。ずっと返そうとしてたみたいだがああ言った手前、返しそびれてたんだって」
「うぅ……」
まじかよ。全然気にしてないから何とも思ってなかったんだけど。
むしろ結束バンドの力になれてると思ってたから喜ばしいとさえ感じてたんだが、もしかして虹夏さんずっと悩んでたの?
「ごめん優人くん! お姉ちゃんの言う通りなの! 実は優人くんの給料、やっぱり自分のために使ってほしくて一度もライブに充ててないんだ……」
「そうだったんですか……。や、俺としては気にしてないので全然使ってもらって構わないんですけど」
「最初は厚意に甘えようと思ってたんだけどね……自分達のライブをするために優人くんのお金を使うのはちょっと違うかなって思っちゃって。他の事で頼るならまだしも、ステージに立つライブだけはあたし達だけのお金で何とかしたいって思ったの。だけど、それだと優人くんの気持ちを無駄にしちゃうかもって考えたら返そうって思っても中々行動に移せなくて……」
「……」
なるほど、そういう気持ちもあって当然か。
優しい虹夏さんの事だ。頼りたい事と自分達だけで何とかしたい事は別で弁えておきたいんだろう。厚意に寄せすぎて逆にずっと気を遣わせてしまってたのか。これは反省だな。
「分かりました。じゃあせっかくの機会だし、今までの分は貰っておく事にします」
「ほんと!? なら今日終わったら持ってくるね!」
「はい、
お金が虹夏さんから俺の手元に戻ってくるだけで、結束バンドのために使うという当初の目的は何一つ変わっていない。
確か路上ライブの許可申請には手数料がかかるんだっけか。路上ライブの許可はほとんど通る事がないらしいからみんな無許可でやってて、警察も相応のクレームやトラブルがない限りは黙認か注意程度で済むとネットで見たけど、許可がとれるとれないにせよ一応筋はちゃんと通しておきたいもんな。
「良かった~。何気に自分の引き出しに誰かのお金が入ってるって結構気が気じゃなかったからさ~」
「俺としてはお金の管理を虹夏さんがしてくれてて安心しましたよ。リョウさんなら今頃私用で全部使い果たしてそうですしね」
「してそうというか絶対するよリョウは」
「今私サラッと巻き込み事故喰らった?」
日頃の行いだと思います。
「ちょっと伊地知先輩!!」
「何、どしたの喜多ちゃん?」
俺の給料の件も解決したし話を戻そうとしたところで喜多さんが大きな声を上げた。
未確認ライオットのフライヤーの裏側を見て何やら慌てている様子だ。
「昨日フライヤー取った時はちゃんと見てなかったんですけど……ここここれ優勝賞金100万円もあるんですか!?」
「うん、そうだよ~」
ちゃんと見てなかったんかい。
「凄いですね……。去年優勝した人達は何に使ったんでしょう……」
「そりゃ楽曲制作とかにじゃない? クオリティーの良いものを作るにはお金かかるからね~」
「おいお前ら、思う存分ここでライブしろよ。分け前は50万で手を打とう」
「「結構です」」
スターリーの店長ちょっと現金すぎやしないですかね。
スタッフも俺達含めて割といるしそんなお金困ってないでしょ。可愛い妹もいるのにこれ以上何が欲しいんだアンタ。
「つうか後藤さんもいい加減復活したらどうだ? みんな未確認ライオットに向けての話してんだからお前も入らなきゃダメだろ?」
「……あうー」
「……………………………………………………………………………………」
「びゃうっ!?」
とりあえず赤ちゃん化したアホピンクに脳天チョップだけしておいた。
今回ぼっちちゃんほとんど喋ってないのにボディタッチというか体に触れてる時間は一番多い不思議。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:helix2412さん、サメ内くんさん、諸凛さん、待宵月さん
☆9:魄鋼さん、タスマニアさん、モチモチこしあんさん、イキョウさん、強炭酸サイダーさん、リュウヤさん、完全無欠のボトル野郎さん、鳩兎さん
本当にありがとうございます!
ここ最近忙しくて執筆時間中々取れないけど、みんなの感想とかを糧に頑張って生きてます。