再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
70話到達~。
12月。
月が進むのは早いもので、もう今年最後の一ヵ月に入った。
確かライブ映像を完成させたのが11月17日だから、割と結構たったと言える。
結局あれから自分達の投稿したライブ映像を見た後藤さん達の反応はといえば、微妙の一言だった。
演奏している本人達からすれば思っていた以上に衝撃だったらしく、直前まで他の人気バンドの曲を見ていたせいもあってか客観的に見ると全体のレベルが低いのだと言う。
最初から聴いていた俺は彼女達の成長を知っているからそこまで酷いとまでは思わなかったが、まさにそのせいで感覚がズレ違和感も少なく感じてしまっていたのかもしれない。
ただ、あの日投稿した動画を見たのは間違いなく正解だった。
4月の〆切までの間、各々の課題が見えたからだ。
後藤さんなら単純に場数を踏んで慣れる事。ギターヒーローと知られた以上、求められる技術も高くなってくるからだ。あとはペースに振り回されすぎないようにするのも大事か。
あとは虹夏さんも喜多さんもリョウさんも、自分の課題を見つけたようでこれまでの練習にも熱が入っていた。
そしてそれは俺もだ。
サポート役として何ができるか。まずはもっと音楽や機材に関しての知識を身に着け、バンド全体のバランスを聞き分けられるようになるまで耳を肥えさせる事。そうすることで練習の場にいても客観的に見られる俺がみんなにアドバイスできる事だってあるかもしれないと考えた。
他にはSNSなどで使えそうな宣伝の仕方や動画撮影に良さそうな機材を可能な範囲で揃えた。
あとはプロデュース力だが……これに関してはまだ勉強中だ。今はできる事をやり尽くしていくしかないだろう。それに俺達の戦いはまだ始まったばかりなんだ。4月まで時間も猶予もあるから、その都度着実に成長していけばいい。
「すっかりクリスマスモードね~」
「あっはい」
隣を歩く喜多さんと後藤さんが何やら話している。
視線に釣られて俺も右方面を見ると、商店街の通りにクリスマスツリーが置かれていた。
いつの間に置いてたんだあれ。ここ最近は歩いてる途中も結束バンドの事ばかり考えてて全然周りの景色見てなかったわ。
12月ともなればすっかり寒さで肌が凍るんじゃないかと思ってしまうほど冷気がそこらじゅうを支配している。そんな寒さを遮断するコツは体を動かす事の他にこういうのがある。
集中だ。正確には思考力を高めると言った方が正しいか。
考え事に集中していれば寒さも暑さもあまり気にしなくなるというものだ。逆にそれで集中できない人もいるみたいだが、俺は前者である。
結束バンドの事で最近は考え事ばかりしていたおかげであまり気にしていなかったけど、今ってこんなに寒いの?
雑談始めちゃった辺りから空気がくっそ冷たいんだが。よく平気でいられたな昨日までの俺。心頭滅却すれば何とやらってか。
一応制服の上にコートとマフラーをしているが、寒いものは寒いのである。
ええい、こうなったら最終手段だ。
「後藤さん、もっと近う寄れ。湯たんぽじゃ。お主を湯たんぽ代わりにするのじゃ」
「えっあっうん」
手招きすると同じくコートにマフラーのピンク少女が俺のすぐ横にくっついてきた。
……あれ、ちょっと思ってたんと違う。俺の予想ではいつも通り背中にくっついてきて暖をとるつもりだったのに、横に来られてはあまり意味がない……事もない? やっぱ人と人って密着すれば案外寒さもマシになるのかね。やけに腕にくっついてきた後藤さん側があったかい気がする。
「……」
「……え? ひゃっ」
「ああ、どうりであったかいと思ったらカイロか」
一部分だけに熱が集中していて怪しいと思っていたので、後藤さんのコートのポッケに手を突っ込むとカイロが入っていた。
なるほど、直前までポッケに手を入れて手袋ごと温めてたから後藤さんの手も温かいのね。さすが去年の冬も俺の湯たんぽ代わりになってただけあるな。ちゃんと俺の温め方を心得ているじゃないか。優秀優秀。
「優人君、いったいひとりちゃんに何させてるの?」
「何ってそりゃ……後藤さん説明して」
「えっわ、私……!?」
だってなんか喜多さんすげえにっこり笑顔でこごえるかぜしてきてるんだもん。
寒さに弱い清水さんにとってはこうかばつぐんですの事よ。あとちょっと怖い。最近の喜多さん少し圧が強いような気がする。
「あっえっと……ゆうくんは寒がりなので、この時期になったらいつも体温高めの私がくっついて……ゆうくんを温めてあげるのが日常なんです……これしか私は役に立てないから……」
「……優人君は卵か何かなの?」
「人を勝手に卵生扱いすんじゃねえ」
これ以上どう産まれろってんだ。普通に生まれ変わるだけですよそれ。
もしそうなら俺も推しの子になりたいです! あわよくば好きなアニメキャラの子供に生まれ変わりたいです! そんでもって特別な才能受け継いじゃうやつ! 無理かな!? 無理だな!!
と、ここで俺のスマホからロインの通知音が鳴った。
後藤さんと喜多さんのも同時に鳴ったという事は、結束バンドのグループロインからか。
「ん、虹夏さんからだな」
一番早く気付いた俺が代表でスマホを取り出し画面を開く。
そこにはこう書かれていた。
「何々……12月24日、新宿FOLTで行われるSICK HACKのワンマンライブに結束バンドがゲスト出演しないかきくり姐さんから誘われたって……え、マジ? きくり姐さん直々に?」
「凄いじゃない! 私達の知名度を上げるチャンスにもなるわね!」
いや、そうかもしれないけどさ……あなた達先月FOLTではライブしたくないって言ってませんでしたっけ?
最前列でうるさいきくり姐さんも今回はライブに出る方だから別にいいのかな。決定権は虹夏さん達にあるし出ると決めたなら何も言わないけど。
「詳しい話はスターリーで聞こう。あとは明日のライブの打ち合わせも忘れずにな」
「ええ!」
「うっ……別の箱でライブ……」
バイブレーションモードになってしまった後藤さんのせいでくっつかれてる俺まで震えてきたんだけどやめてくんないかな。
湯たんぽにそんな機能はいらんぞ。
────
「あ、おはよーみんな。ロイン見てくれた?」
「おはようございます。見ましたよ、きくり姐さんのライブにゲスト出演誘われたって。出るんですか?」
「うん、そのことも含めて今日は軽い練習と打ち合わせにしとこうかなって」
「分かりました」
テーブルの側まで移動するとリョウさんが一人でペンを片手に考え込んでいた。
曲の構想が浮かんでこないって言ってたけど、あの調子だとまだ難航してるみたいだな。テスト勉強の時みたいに家でしか集中できないはずなのに、ここでも頭を捻っているのは相当だ。
作曲に関しては俺も完全に無知もいいとこだし、下手なこと言って混乱させてしまうのも本意ではないから何もできないのが歯痒い。
〆切はまだだから信じて待っておくしかできないか。
「お~、何だか優人くんもギター背負ってるのが様になってきたねぇ」
「茶化さんでください。そういうのはもう学校のヤツらに散々言われたんで勘弁っす」
「茶化したつもりないのに~……」
背負っていたギターケースを降ろして壁際に置く。
喜多さんから一緒に練習しようと脅はk……せがまれた数日後くらいから俺はギターを持って登校する事が多くなった。
放課後の練習に俺も混ざり、メインの邪魔にならない程度に技術を身に着ける日々を送っているのだ。
そしてギターを持って学校に行くという事は、クラスのバカ共(主に男子)に色々からかわれたり喜多さんがうっかり一緒に練習するとか言うもんだからまた地獄の鬼ごっこが始まったりと大変であった。いやほんとマジで。
「聞いてくださいよ伊地知先輩! 優人君ってば始めてまだ三ヶ月くらいなのにもう結構上手いんですよ! 私追い抜かれそうで怖いです!」
「始めて三ヶ月くらいでギターボーカル務めた喜多さんが言う事か?」
始めてみて分かったけど割かし喜多さんも上達速度バケモンだと思う。
まあ、俺達が上手くなるのが早い理由には少なからず後藤さんの教え方が上手いってのもあるだろう。後藤さんは言葉をめちゃくちゃ選ぶタイプだから、その分複雑な言葉も少なく簡略化された説明で分かりやすいからかもしれない。
「あっうへへぇ……」
「何笑ってんだ?」
「な、何だかゆうくんに褒められたような気がして……」
「え、こわっ」
口に出してないのに何で分かったんだよ怖えよ。怖い。あと怖い。
「よし、じゃあ雑談もこれくらいにして打ち合わせから始めよっか。ほら、リョウも一旦ノート仕舞って」
リーダーの言葉によってみんなが席につく。
「ではでは第……え~、何回かの結束バンドミーティングを始めま~す」
何回か忘れたならもう言わなくてもよくないですかね。
「さっそくだけど今日廣井さんから12月24日、クリスマスイブだね。新宿FOLTでやるワンマンライブのゲストで私達に出てくれないかってお誘いを頂きましたっ」
「さっきの反応を聞いた限り、出るんですよね?」
「うん、廣井さんはあんなんでも新宿じゃ人気のバンドだってこの前のライブで分かったしね。お客さんも前と同じくらい入るなら結束バンドの知名度も上がりそうだし、良いタイミングだと思うの。ちなみに優人くんはどう思う?」
「俺は賛成です。こんな絶好の機会逃す訳にはいかないでしょうよ。ただ……」
「ただ……?」
俺はあらかじめスマホで開いていた画面をみんなが見やすいようにテーブルに置く。
「……新宿FOLTの公式サイト?」
「そこに書いてあったお知らせの部分です。その日、本来予定していた前座のバンドの2組のうち1組が急遽出られなくなったって書いてますよね。おそらくその空いた枠を埋めるために結束バンドが誘われたんだと思います。きくり姐さんからのロイン、多分ですけどその日にゲスト出演しないかとだけしか送られてきてないんじゃないですか?」
「おぉ、正解」
「あの人の事だから絶対言葉足らずだと思って調べて正解でした。突然送ってきたって事は、酔っぱらってたか寝ぼけて送ってきた可能性も考慮すべきですね。きくり姐さんならやりかねん」
「確かに……」
シラフの時あんのかなあの人。
あったらむしろ見てみたい。俺の予測としてはシラフ時は意外と大人しい説を唱えたい。だから酒飲んでブーストしてるみたいな感じとかありそう。……くそ厄介だな。
「でも出るって決めたって事はきくり姐さんにロインの返事したんですよね?」
「ああ、うん。嬉しくてその場ですぐ返事しちゃったよ」
「むしろ好都合です。それなら万が一きくり姐さんから誤送信だって断りの連絡が来てもロインのメッセージを材料にして逃げ場を無くせる。あの人アホだから少し脅せばすぐ手のひら返してくるでしょうし」
「優人君ってたまにえげつないわよね……」
「結束バンドのためなら何でもするって決めてるからな。それに例え寝ぼけてたとしてもわざわざ虹夏さんのロインにメッセージ送ったんだ。あんなこと言った手前だけど、寝ぼけてなくても結束バンドを誘ってきた可能性は十分にあると考えていいと思う」
「……うん、そうだよね! あたし達と廣井さんの仲だし!」
虹夏さん結構きくり姐さんに容赦ないことばっか言ってたような気がするんですが……。
いったいどの口が言ってるんだろう。ああ、天使の口か。それなら許せるぞおい!!
おっといかん、勝手に天使に惑わされてる場合じゃない。
「ですが、これを忘れてはいけません」
「何を?」
「
「っ」
そう、実力が認められているならば最初から誘われているはずなのだ。たとえ拠点が違っていたとしても。
簡潔に言ってしまえばまだ結束バンドの実力が認められていないという事になる。普段から酔っぱらっているあの人だが、いざ音楽の事になるとふとした時に真面目になるのを俺は知っている。
だからこそ、今のこの空いた枠を埋めるために誘われたという事実が結構刺さる。
SICK HACK程のバンドなら他に知り合いのバンドだっているだろうし、ただ予定が合わなかったか、もしくは消去法で結束バンドが選ばれたか。
どちらにしても一番手ではなく二番手でようやく選ばれる程度の存在という事だ。
虹夏さん達自身も自分の実力はこの前客観的に見て思い知ったばかりだから、余計にそう思ってしまうかもしれない。
しかも。
「それに前座のバンドが2組。結束バンドの他に出るもう一つのバンドは……今みんなが目標にしてるシデロスです」
「……まあ、拠点だし人気もあるからそうだよねぇ」
「プレッシャー凄そうね……」
「……」
「あ、ああ、あああああっ、ま、またあの人に睨まれる……!?」
若干一名違う意味で怯えてるが放っておこう。
むしろ彼女だけ通常状態で安心した。怖がるとこそこなんだ。
俺としてはとうとう結束バンドのみんなとヨヨさんが邂逅してしまう事に結構穏やかじゃないんだが。
ヨヨさんも結束バンドを敵視してるとこあるからなぁ。よくロインしてるから勘違いしがちだけど、ヨヨさんは後藤さん達と話したことないし面識もないに等しいからどんな展開になるか予想もつかない。
あの人のコミュ症っぷりと話し方は誤解与えかねないし、もし何か起きそうだったら全力でフォローしないと……。
特に後藤さんとか下手するとその場で物理的に弾けるかもしれんしな。変な化学反応が起こる気しかしねえ。
「箱的にも知名度もこっちは圧倒的アウェーですもんね……」
「でも出る価値は十分にある。実力が足りないなんてのはもう知ってんだ。そのために今も必死に練習して経験積もうとしてるんだろ。なら怯えてる場合じゃない。弱さを認めた上で強くなろうとする気持ちがありゃ怖いもんなんてねえよ」
何もみんなを怖がらせるためにこんなことを言ったんじゃない。
自分達の弱さを知って、認めて、這い上がるために言ったのだ。もちろん、俺自身も。
その意味を汲み取ってくれたのか、いの一番に席を立ちあがったのは虹夏さんだった。
「そうだね! むしろ逆境こそ超えてのロックバンドだよ! 未確認ライオットだってそうだし、バンドを続けていく以上はこれからもこういう逆境ばかりなのは確定してるようなもんだしね。そのための前哨戦だと思って頑張ろう!」
「その意気です。みんなも以前投稿した動画よりも確実に上手くなってるので間違いなく成長してますよ。クリスマスイブのライブを成功させるためにも、まずは明日のライブで勢いつけましょう。今回は俺は撮影メインなのでちゃんとは見れないですけど」
「大丈夫、その代わりにあたし達の勇姿をしっかりカメラに収めてね!」
「了解です。カメラ諸々は今日ここに置いていきますね」
「じゃあこのまま明日のライブの打ち合わせに入ろっか!」
こうして、俺達のミーティングはこの後も滞りなく進み、練習も順調なまま終える事ができた。
────
翌日。
今日は結束バンドのライブの日だ。
ざっと見るに客は20人前後。
一号さん二号さんは確定で来るから20人超えは確定かな。文化祭ライブがあってから少しずつだが客足も増えてきている。
順調、とまでいかないにしても一歩ずつ進んでいるのは確かだ。
それに今日からは本格的に俺も撮影するため力を入れなくてはならない。まずは準備を進めるか。
と、三脚とカメラを持ってフロアの後ろの方に移動すると、
「あっ優人君やっほ~! 今日のライブも楽しみにしてるよ~!」
「お、一号さん、二号さんもどうもです」
もはやファンの人というか普通に友人レベルに仲良くなった一号さんと二号さんがやってきた。
「ゆうと君、何だか今日は一段と気合い入ってるね?」
「もちろん。本格的に力入れてから一発目のライブですからね。ファンをもっと増やして知名度を上げるためにも、まずはここでバッチリ決めて良い再スタート切ってみせますよ」
「おお、いいね~。でねでねっ、そんな優人君に朗報でぇ~す!」
「朗報?」
何だろう。一号さん達もちょっと嬉しそうにしてる。
分からん、全然予想もつかない。
何かあったっけと思っていると、二人してニコニコしながら隣り合っていた一号さん達が間をあけた。
まるで二人で背後の何かを隠していたように見えたその正体が判明する。
「じゃじゃーん! 何と新しいファンの子連れてきました~!」
「ちょうどそこで会ったんだぁ」
そう言った二人にいきなり前に出された人は、突然の事にあたふたしていた。
茶髪に眼鏡をかけ、マフラーにコートという特徴的な特徴もない少女。いかにもザ・普通の見た目であった。
「あっえっと……」
何だかどこぞのピンクから何万回も聞いたどもり台詞と共に若干頬を赤らめながら少女がこちらを見る。
一号さん達は新しいファンの子だと言っていた。
ならば結束バンドの手伝い役として俺も相応の態度で接しないと失礼にあたる。
よって。
「ひ、久しぶ」
「どうも初めまして、結束バンドのサポート役をしてます。清水優人です。今日はスターリーでのライブ、楽しんでいってくださいね!」
「ゔぅァッ!?」
可愛らしい文学系少女が何やら変な声を出した。
ヨヨさん再来。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:ドリアスピスさん、Lycoris radiataさん、鳩兎さん、綿本流さん、アガードさん
☆9:Ryonganさん、sisyooさん、山本の家バージョン2さん、黒威道化師さん、ライジングホッパーさん、コーヒーさんさん、namogiさん、イキョウさん、タスマニアさん、猫宮カラスさん、モチモチこしあんさん、藤の道さん、
☆8:あかいぬさん
本当にありがとうございます!
ちょーーーー嬉しい!
最近はグリッドマンで脳内が埋め尽くされてます。