再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

8 / 143

一つの事をひたすら努力で上手くなる人間ってそれだけで尊敬できますよね。

やっぱ何か一つでも極めてるぼっちちゃんってすげえや!(欠点から目逸らし)




8.女の子の名前を呼ぶのが恥ずかしいのは最初だけ

 

 

 

 やめて! 伊地知さんからバイトしようと言われまともに話を聞いてなかったせいで一度ははいと答えたものの、よくよく考えれば自分にとって一番経験したくないものトップ3に入ってそうな(俺調べ)事を思い出した後藤ひとり。

 このまま事が進んでいけばバイトをやる羽目になっちゃう! お願い、死なないで後藤さん! アンタが今ここで死んだら、結束バンドで頑張っていくって言ってた言葉はどうなっちゃうの? 時間はまだ残ってる。ここで代案を出せたら、バイトしなくて済むんだから! 

 

 次回、『後藤 死す』デュエルスタンバイ! 

 

 死ぬんかい。

 

 

 隣で何を考えてるのか分からないままずっと震えて明日を絶望しているあだ名がぼっちちゃんこと後藤さん。

 彼女の中では今緻密な計算と思考能力によって、どうにかバイトを回避できる手段を考えてるに違いない。無駄な足掻きとはこの事よな。

 

 

「えっと……ぼっちちゃん?」

 

「ああ、ちょっと待ってください。多分今は話しかけても無意味です。自分だけの現実(パーソナルリアリティー)に入ってるんで」

 

「ぱ、ぱそ……ん?」

 

 伊地知さんが可愛らしく首を傾げている。マンガやアニメのネタが通じない時は中々に照れ臭いぜ。まあ純粋に分かってない反応をしてる伊地知さんが可愛いので良しとしておこう。

 あと後藤さん、そろそろ戻ってきてくれ。座ってるからイスにまで振動伝わってガタガタいってるぞ。ガタガタいわすのは奥歯だけにしときなさい。

 

 やがて後藤さんは我に戻りトートバッグからある物を出して伊地知さんに差し出した。

 ジャリンッという音を豚が響かせていた。

 

 

「……ブタさん?」

 

「あっ、お、お母さんが私の結婚費用に貯めてくれてて……これでどうか、バイトだけはぁ……!」

 

 いきなりすげえ爆弾発言しやがった。

 

 

「あたし達を鬼にする気!?」

 

「ありがとう。大事に使わせていただき」

 

「いただかないいただかない! 返すの!」

 

 山田さん怖いものなしか。これがベースは変人が多いと言われる所以だったりする? 

 変人度で言ったら後藤さん超えれる人いないと思うけど。自称超えれる人いたら出てきてほしい。こっちは塵とか液状化するんだからな。人間辞めてんだよ後藤さんは! 

 

 というか後藤さんママいつの間にそんなの貯めてたんだ。一応まだ高校一年生なんだから貯めるには早いんじゃ。……あ、そうか、今のバイトすらまともにできなさそうな後藤さんを見越してあらかじめ貯めておいたんだな。

 後藤さんママ、あなたの娘はあなたの優しさをバイトしたくないがために簡単に差し出しました。これもロックなんでしょうか。

 

 

「こんな大事なお金使えないから~! それにこういうのはそういう時のためにちゃんと取って置かないとダメなんだよ!」

 

「あっうっ、で、でも……」

 

「美智代さんが貯めてくれてたものをお歳暮渡すみたいに出してんじゃねえっつの」

 

「ぁだっ……」

 

 軽いチョップをお見舞いする。めちゃくちゃ軽くしたつもりなのにじわりと目尻に涙を浮かべてるのは、きっとバイトをしなくちゃいけない現実から目を背けたいからだろう。

 もはや趣味が現実逃避の人なのかもしれない。

 

 

「つうか何で後藤さんがんな大事なモンを常備してんの? 普通美智代さんが持ってるもんだろそれ。ブタ貯金箱てっ、いつの時代だ。無駄に重い物を学校においそれと持ってきてんじゃねえ」

 

 二重の意味で重いっつってね。さすがにこんな事口では言えない。俺までブリザガ放ちたくないし。

 貯金箱の中からは小銭の音しかしない。結婚費用なのか……これが? 

 

 

「あっ、何でか知らないんですけど……お、お母さんがいざとなったらゆ、くんに黙って渡しなさいって……」

 

「今おもっきし言っちゃってんじゃねえか」

 

「押し付ける気満々だ!?」

 

 美智代さん、あなたまさか晩ご飯食べに行くといつも快く出迎えてくれてたのに、腹の中ではそんな事企んでたんですか。そもそも結婚費用なのにライブ代の代わりにしようとするくらい軽い気持ちなんですが。

 娘さんはまず人とコミュニケーション取る練習をして普通に会話できるレベルにならないと、誰かと交際なんて難しいんじゃないですかね。

 

 それがいつになるかは分からん。だって大きな岩も水に何十年何百年打たれないと形変わらないって言うし。

 つまり後藤さんは岩と変わらない……ってコト!? 

 

 

「いらん。今度は俺に差し向けてくんな。いざって時でもねえだろ今」

 

 おずおずと俺の方に貯金箱を差し出してきたので取り返しがつく内に押し返しておく。もし受け取ってしまったらもう二度と平穏な日々には戻ってこれなさそうだし。

 

 

「今はバイトの話してんだから伊地知さんの話をちゃんと聞けバカ」

 

「……はい」

 

「あはは……それでね、提案なんだけど、ぼっちちゃんもここでバイトしたらどうかなって!」

 

「……ここで?」

 

 ほう、それは結構良い案かもしれない。

 

 

「うんっ。あたしもリョウもいるから怖くないよ!」

 

「アットホームで和気あいあいとした職場です」

 

 完全にネットでネタにされてるようなブラック企業のテンプレ紹介文なんだけど。

 何でどこのブラック企業もアットホームで和気あいあいとしてるんだろう。最初は仲良くして距離を詰めてから逃げられないようにどん底へ引きずり下ろすのが目的なんだろうか。

 アットホームより圧と法無な職場に変えた方がいいぞ。ただのトラップじゃん。

 

 

「ドリンクスタッフとか、掃除しながら色んなバンド見れるし、ねっ? どうかな?」

 

 確かにそれは良い経験にもなるし学ぶ事もありそうだ。バンドをやっていく上では全然ありだと思う。

 で、肝心の後藤さんはと言えば。

 

 

「………………がんばりましゅ」

 

 イエスマンの再来となっていた。断れない性分がこんな時でも問答無用に発揮されるのは少し同情してしまう。

 頑張れない事や覚えられない事でも「はい」と言ってしまうのはぼっち特有のものなのか。しかしここでのバイトなら後藤さんも何だかんだ上手くやれそうな気もしてくる。

 

 伊地知さん達がいるだけ何倍もマシだろう。

 ……マシ、なのかな。そうであってくれ。

 

 

「やったー! これでこのライブハウスももっと楽しくなるね!」

 

「あっ……だ、だったら優、くんも一緒にが、いいです……」

 

「……ん? 何で俺も一緒にバイトする流れになってんの。ライブ代のためのバイトなら俺はいらんだろ。メンバーじゃないんだし」

 

 急に何言い出すんだこの子。あわよくばすぐ俺を巻き込もうとする癖どうにかした方がいいぞ。

 それにお金に困ってる訳でもないし。父と二人で暮らしてた時は家事とか家にいる事が多いせいか、お礼とお詫びに小遣いは結構貰ってたし貯めてるのでね。最近のゲームは基本無料で遊べるからコスパめちゃ良い助かる。

 

 そんな俺の意見をよそに後藤さんに同調したのは伊地知さんだった。

 

 

「お、それいいねえぼっちちゃん! 清水君も一緒にバイトしようよ! 男の子がいると何かと心強いし機材の持ち運びとか任せたいしねっ!」

 

「何でそこで賛同してんですか。つかこき使う気満々じゃん。下心しか見えてこないんだけど!」

 

「まあまあ~。それにほら、バイトするならSTARRYにいつ来てもいい訳だしさ、ぼっちちゃんの事も常に見とけるよ?」

 

 俺がここにしょっちゅう来る前提で話進んでるのは何でなんですかね。後藤さんの事も俺がいなくても大丈夫になってほしいんですけど。

 金魚のフ……ずっとピクミン状態だよ? 全身ピンクだから羽もがれた羽ピクミンみたいになってるんだが。笛吹いて解散とかできませんか。

 

 いつまでも保護者枠でいるのも後藤さんのためにならない。たまには突き放す事も彼女の将来のためだと思う。

 そう思い続けて早数ヵ月。重症化してんじゃないのこの子。やっぱ俺のせいなのこれ。マシになるどころかどんどん離れてくんなくなってるし。

 

 いやでも、ちゃんとした子になるまで面倒見るって誓っちゃったもんなあ。

 

 

「……あーもう、分かりましたよ。俺もここでバイトさせていただきます。結束バンドがどう成長していくかも気になるので」

 

「んもうっ、素直じゃないなあ優人くんは~!」

 

「いや別にそういう訳じゃ……って、は? 優人? 何でいきなり名前呼び?」

 

「だって一緒にバイトするしもっと親交深めれる訳じゃん? それにぼっちちゃんだけあだ名で呼んでるのに、優人くんだけ清水君なのも何だかなあって思ってたし!」

 

 それはバンドのMCで名前呼ぶからあだ名にしたんであって俺は関係ないのでは? り、理由がめちゃくちゃすぎる……。こじつけってレベルじゃないぞ。

 

 

「えっと、山田さんはどう思ってます……?」

 

「何ならリョウって呼んでくれても構わない。みんなマブ、それがロックだよ優人」

 

「あたしも虹夏で良いからねー!」

 

 ロックは別に万能な理由付けとして使っていい訳じゃねえぞ。

 何でもロックと言ってたら許されると思ってるんじゃないだろうなこの人達。後藤さんは隣でずっと「ゆ、うくん……優、くん……」とか小声で呟いてて怖えし。ほんとに呪ってきてないよな? 

 

 伊地知さんから笑顔で見られ、山田さんから無表情で見られ、後藤さんは俺の名前をちゃんと呼ぶ練習をしてて。

 一人だけ何か違うけど、この人達といると何か調子狂うな……。いつも後藤さんとばかり話してるから、人と普通に会話できる事自体ちょっとしたレア体験になってきてるとこある。

 

 後藤さん以外だと基本右隣の席に座ってる喜多さんくらいしか喋らないし。毎回向こうから話しかけてくるからそれがちょっとした日課にもなっている。

 超絶陰キャと極限陽キャと交互に喋る事で、俺は平凡な人間としてバランスを保っているのかもしれない。

 

 ところで期待の眼差しが痛い。こちらが折れないとこれからちょくちょく弄ってきそうだし、仕方ないか。

 

 

「じゃあ、虹夏さんにリョウさん。……これで良いですか」

 

「おぉ……男の子に名前呼ばれるの初めてだから何か新鮮だ……」

 

「マブ」

 

「あっ、あの、わ、わた、わた、わわわわわ……」

 

 こっちだって一つ上の先輩を下の名前で呼ぶなんて初めてだから結構勇気いるんですが。同年代の女の子でさえ名前で呼ぶ事ないのに。こちとら思春期男子って事を理解してほしい。

 後藤さんは後藤さんで壊れたNPCみたいにバグってた。デバッガー呼ぼうか? 

 

 

「ほら、もういいでしょう。さっさとミーティングの続きしてください。できるだけ後藤さんの通訳はしますから」

 

「ぼっちちゃん専用の翻訳家だ!」

 

「あっ、へへ……」

 

 何でそこで笑う。

 とまあ、色々あったがミーティングは何事もなく終わりを迎えた。時々後藤さんが作画崩壊してたのを除いて。

 

 

 

 

「じゃあバイトは来週からね! 学校終わったらウチに直行で!」

 

「ぼっち、優人、ばいばい」

 

「あっ、はい」

 

「失礼します」

 

 別れを告げて駅まで歩き出す。

 来週からSTARRYでバイトが始まる。バイト経験はないが業務内容自体は難しくないって言ってたし、まあ大丈夫だろう。

 

 後藤さんは凄くガクブルしているけど。今からもうバイトの事を考えて怯えているらしい。

 無理もない。伊地……虹夏さん達と一緒とは言っても後藤さんにとっては初バイト。ただでさえ人と話せない彼女が接客なんてしようものなら、正面から向き合うだけで石化し相手に自分はメドゥーサだったかと錯覚させてしまう恐れがある。

 

 こうなってしまえばライブハウスのレビューサイトでSTARRYは☆1評価ばかり入れられてしまう。そんなサイトあるか分からないけど多分入れられてしまう。

 だが未だに人と話せないのも今後バンドをしていくなら直していかないといけない。お世話になる人やチケットを売る時など、どうしても誰かと話さないといけない時は必ずやってくるものだ。

 

 この際ショック療法でも多少無理矢理でもいいからどうにか少しでも克服してほしい。

 せめて俺がいなくても大丈夫なくらいには、虹夏さん達といれば何とかなるくらいマシになれば俺の負担も多少は減るはずだ。

 

 

「そんなに不安か?」

 

「あっ……その、どうしても、やっぱり……」

 

「そうだよなあ」

 

 今までろくに人と関わってこなかった彼女だ。いきなり接客だなんてハードルが高すぎるというのも理解はできる。

 

 

「でも頑張るって決めたんだろ?」

 

「うっ……」

 

「だったら怖がる前にやってみようぜ。流れで俺もバイトする事になっちまったけど、その分可能な限りのフォローはするし、虹夏さん達もしてくれるはずだ」

 

 焦らなくたっていい。何もすぐに全部克服しろなんて誰も言わない。

 足並みなんて人それぞれなのだから。

 

 

「ゆっくりで良いから慣れていけばいいさ。高校じゃスタートダッシュは遅れたけど、確実に後藤さんは成長してるよ。それは傍で見てきた俺が保証する」

 

「そ、そう、かな……」

 

「後藤さんは後藤さんのペースでいいんだ。今まで後退と悪化しかしてなかったんだから今の現状は上々だよ」

 

「ゔッ……」

 

 あ、やべ、良い事言ったつもりがトドメさしちゃった。

 

 

 

 

 後藤、次回に続く前に死す。

 デュエルスタンバイ!! 

 

 

 





承認直球モンスター「高評価と感想くれ」

すれば喜ぶぞ。モチベ上がるぞ。投稿頻度保つぞ。感想絶対返すぞ。書き手と読み手でWINWINになれるぞ。してくれたら超嬉しいぞ。内心泣いて叫ぶぞ。


では、前回と今回高評価を入れてくださった

☆10:エルフィンさん、サカナクシャイさん、腹ペッコさん、hakuyulumiさん、ガルシェさん、RoLeRuLiRAさん、抹茶味の人さん

☆9:胡瑪柘弧さん、長奏さん、白小麦さん、bfluweさん、Pre民さん、木埜 一さん、gbomufさん、まんじゅうがにさん、問知さん、ツバメ1号さん、kat tasさん、芝虎さん、LW_Lilyさん、ラーストさん、マサキングⅡさん、ワイドキングさん、俺の右手はタケノコさん、kito1255さん、つづきな氏さん、世紀末敗者寸前さん、虚数・大嘘憑きさん、爆弾さん、950さん、明日のやたからすさん、Hydendさん、Fiona Glintさん、CARAさん、久住大河さん、ステラ・グローリアさん、Sakuyaさんさんさん、篠原 野明さん、サルノトラさん、普通の人々さん、メヴィさん、ヴィラン・シラユキさん

☆8:一方通報さん、焼き魚の出汁さん、三須小さん、takumiさん

本当にありがとうございます!
ちょっとは分かりやすくなったかな?



何気にこんな毎日投稿してるの初めてかもしれない。感謝感謝。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。