再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
サブタイ通りシデロス編です。
シデロスのメンバーを少しずつ掘り下げたいところ。
「それじゃ今日から一週間、よろしくお願いします……」
「よろしくっす」
「よろしくね~!」
「どうもぉ~」
「……」
俺がいるのは下北沢近辺にあるライブハウス、スターリーではない。
ここは新宿にあるライブハウス、きくり姐さんなどが主に拠点として活動している新宿FOLTだ。
学校終わりの放課後、本来なら後藤さん達とスターリーに向かう俺が何故新宿にいるのかというと。
「……許可、貰ってきたのね」
「まあ……はい」
「何でちょっとぎこちないのよ」
「や、えーと……少し気になる点があったと言いますかかなりショッキングな事があったと言いますか……」
シデロスをサポートさせてくれと頼んでから翌日の今、俺はここにいる。
俺だってピシッと許可貰ってきましたってはっきり言いたかったよ。けど色々あったのよ。
あれから俺は銀さんにも事情を話して一週間ここで世話になる事を伝えてからスターリーに戻った。
後藤さん達からすれば買い出しから戻ってきたら俺が不在になっていてしばらく戻ってこない状況だったので、どう説明しようものかと考えつつ店長に適当な言い訳を言っといてくれと頼んでおけばよかったと後悔もしていたのだ。
きっと虹夏さん達の事だから問い詰められるに違いないと思ってはいても、よく考えたらいきなり別のバンド、しかも同じ地区の対戦相手になるかもしれないバンドのサポートしに行きますとかマジで言い逃れできない事を言おうとしてる自分に冷や汗が止まらなかった。
そして本気で一発殴られるかもしれないと覚悟してスターリーに戻り事情を話してみれば、だ。
これが意外や意外。みんな思ったより穏便に納得してくれたのである。
もしや店長がそれとなく説明してくれてたのかと思って見てみたが、ツンデレ店長は顔を横に振っていたので何も言ってなかったぽいし普通に謎だった。
あの後藤さんでさえ『ゆ、ゆうくんがいなくても頑張れるって私も証明して安心させたいから……が、頑張ってきてね……。あっ、でもやっぱり一週間じゃなくて三日じゃダm』と言ってくれた時は思わず感動で涙が出そうになったよ。最後のは感動しすぎて何言ってたか聞こえなかったけど。
喜多さんもリョウさんも理解を示してくれて普通にファイトとか言われたから、あとはもう理解力しかない虹夏さんだけだしこりゃ余裕っしょと思っていた時期が俺にもありました。
いいや、正確には虹夏さんも分かってくれて頑張ってきなよって言ってくれたんだけど……。
何故か一度も虹夏さんが目を合わせてくれなかったのである。そんな事これまで一度もなかったのにだ。あの時はもうショックで寝込みそうになった。
俺が目を合わそうとして見るも絶妙に逸らして回避される。お前らに分かるか? 突然優しかった天使が目を合わしてくれなくなった恐怖とショック度が。
実は俺が一人でどっか行ってた事を怒ってるならまだ分かるが、声音的には全然怒っているようには聞こえなかったのだ。なのに態度が一変していた。
挙句の果てには『今こっち見ないで!』とか強めに言われたんだぞ。
つまりはガチの避けられという事。あーダメだ、今思い出しても口から内臓出そうなくらいショックでどうにかなっちゃいそう。ここまでくると逆に涙は出てこないんだね。純粋に落ち込んだ。それはもう昨日の夜の後藤さんとのギター練習に力が入らないくらい。
そんな訳で心のモヤモヤが取れないまま今に至るという訳だ。
シデロスのサポート一日目だというのに気分は下がっていく一方なんだけど。思い出させんなよくそう……。
「まあ何があったか知らないけどそんなのはどうでもいいわ。清水優人、貴方が今いるのは新宿FOLTよ。一週間とはいえ今日からしばらくはここで活動して私達をサポートするのが貴方の役目。言っておくけど一から十まで丁寧に教えるつもりはないからね。最初はどうすればいいか、まずは貴方の意見を言ってみなさい」
「辛いんで帰ってもいいですか……」
「昨日までのやる気どこ行ったの!?」
いやだって……虹夏さんの事考えるとテンション下がってくんだもの。気付かない内に避けられるような事したかな俺。
お詫びに高級フルーツ買ってけばワンチャン許してもらえるか? 心当たりがない以上とにかくこっちから全力で詫びれば何とかなるはず。こうでもしないと俺のメンタルは持ちそうにない。カムバック優しい天使。
「いーいーかーらー! しゃんとしなさい! 何今にも死にそうな顔してんのよ! 今更怖気づいても帰してあげないんだからね! まずはちゃんと成長して結束バンドのためになる事を考えなさい!」
「……ハッ!? 結束バンドのために、なる事……?」
そうだ、忘れるとこだった。今より結束バンドの役に立てるようになったら虹夏さんも機嫌を直してくれるかもしれない。
気持ちを切り替えろ清水優人。これは俺のためにも結束バンドのためにもなる。つまりは一石二鳥で万々歳。虹夏さんも普段通りになってハッピーエンド間違いなしだ!
「よっしゃ、手伝い頑張りますぜヨヨさん!」
「え? あ、ああ、そう。なんかよく分からないけど元に戻ったんならそれでいいわ……」
「清水くんってたまによく分かんなくなって面白いよね~」
「後ろのアレと喜怒哀楽が連動してますね~。生霊の類か何かでしょうか~?」
奥の方で何やら怖いこと言われてそうだがよく聞こえなかったので不問。
虹夏さんへのお詫びは一週間の間に考えておくとして、今はこちらに集中だ。
「で、まずは俺の意見を聞かせろでしたっけ」
「何よ、そこはちゃんと聞いてたのね。そうよ、何をすべきか貴方から言ってみなさい」
「ヨヨコ先輩、清水さんには後々のためにマネージャー業みたいにも接してもらうって言ってたっすよ」
「どうしてそうすぐにバラすのよ!?」
「なんかまどろっこしかったんで」
すげえな長谷川さん、さすが応募してシデロスに受かるだけの事はある。
ヨヨさんの扱いにも既に慣れてるし、これはシデロスのメンバー入れ替えの心配ももう必要なさそうだな。普通に相性良さそう。
さて、それはともかく、だ。
長谷川さんのおかげでヨヨさんは俺にマネージャーのような振る舞いを求めているという事が分かった。長谷川さん曰く後々のためにもなるらしいけど、今後マネージャーになるつもりは今のところまだないが、それが結束バンドのためにもなるのなら喜んで引き受けよう。
といってもマネージャーの仕事というのがいまいちよく分かってないとこある。大まかな役割は何となく理解してるけど、細かいとこまでは把握してないし。
けどまあ、マネージャーでなくとも手伝いの上で最初にやる事の基本は大体分かっているつもりだ。
今日の活動は始まったばかり。それにヨヨさんはさっき
おそらく答えは……。
「ヨヨさん、今日のスケジュールってもう決まってますか」
「……」
ワンマンライブができるほどの人気を有しているシデロスなら結束バンドとは違って忙しいか、あるいは事前にこの日はこういう活動をするみたいにやる事が決まっているはずだ。
マネージャー風に言うならスケジュールの確認。今日一日の段取りを確認しつつ、時間を見ながらその都度適切で柔軟な対応をしていく。これが最初にすべき事、だと思うけど……。
「今日は次のライブのミーティングをしてから近くにあるスタジオを借りていつもの練習。まあまだ一日目だし最初はこのくらいのスケジュールで良いかしらね……」
あ、これ正解だったっぽい。俺が思った通りの正解を言ったからちょっと目を逸らしながらニヤケそうなのを隠してる。
マジ分かりやすいなこの人。すぐ顔と言動に出るからババ抜きとか一生勝てなさそう。
「え、このくらいのスケジュールって割と毎日こんな感むぐーっ」
「いいからあくびはちょっと黙ってなさいっ」
うん、バンド仲間で仲良しなのは良いことだね。
だから男子の前で女の子同士がくんずほぐれつするのは止めようね。どうしたの、ユリリン・モンローなの。オタクとしてはそれを見ないでいろってのはムリリン・モンローだからね。オタクとして(強調)
「さあ、今日も一日ビシバシやってくわよ!」
「「「お~」」」
せっかくヨヨさんが決め顔で言ってるのに他のお三方は大層緩んだ返事をしておられる。
まさか毎回こんな感じなの。確かに性格的にヨヨさん以外はみんなマイペースに近いけど。
と、長谷川さんがこちらに近づいてきてボソッと俺に言ってきた。
「(ヨヨコ先輩、
「(なるほどオーケー理解した)」
可愛いとこあんじゃんかヨヨさん。実は内心ウッキウキだったのね。
俺が来るまでそわそわしてたらしいし、待たせちまってた俺にも一応カスほどの非があるのは認めよう。ということで彼女の茶番に付き合ってあげようじゃないか。
「ヨヨさん俺にしてほしい事なら何でもお申し付けくださいませ! わたくしめは今あなた方のサポート兼マネージャーでもあります故、できる事であれば全力で取り掛からせていただく所存です!」
「よく言ったわね清水優人! なら今日一日はずっと私の隣にいてサポートしなさい! リーダーである私の動きを見て奉仕するのが貴方の役目よ!」
「清水さんは別に執事ではないっすよ」
「違うの!?」
「ヨヨコ先輩頭良いのにたまにIQめっちゃ下がるっすね」
そんな訳でミーティングが始まった。
「この曲はベースが特徴的だし、次のライブの時幽々はもっと前に出てもいいからね。バンドは楽器隊も含めて全員で作り上げるライブよ。ソロパートや見てる人に印象が残りそうな演奏をする時は派手に動いたり前に出たりして客の目線を引きなさい」
「じゃあ私も目立つ時は客席に降りて演奏しますねっ」
「それはやりすぎだから!」
「ウチはどうしたらいいんすか? ドラムだから前とかには行けないっすけど」
「……スティックパフォーマンスとか? ほら、ドラマーがたまによくやってるスティック回しとか真上に投げてキャッチするみたいなやつ」
「カメラでスクリーンに映してもらわないと客側からほぼ見えないやつじゃないっすか」
なんか真面目なミーティングもしつつたまにコントをやっている印象だった。
何だろう、凄く既視感があります。主にうちの結束バンドで。
基本的にリーダーのヨヨさんが仕切りながらミーティングを進め、ヨヨさんが意見を仰いだり言いたい事がある人は挙手したりしながら話は進められていく。
大体の内容はこうだ。
同じ曲でも前回のライブとは違う演出を考えたり、反省会の時に見付けた改善点を考慮しながらポジションやアレンジなどを加えるか、セトリでトリの曲は定番化させるかなど、バンドマンならではの個性が出ているミーティング内容。
真面目かわざとなのか分からないが、たまにふざける本城さんや長谷川さんはピリピリした空気を中和させる結構ありがたい存在っぽい。ヨヨさん自体も天然ボケは入ってるけどね。
そして思った以上にミーティングの時の俺ってやる事がないのに気付いた。
それはもうシデロスのメンバーじゃない時点で当然なのだが、ステージに立つ彼女達とそもそも今さっきサポート開始した俺にシデロスのルールや勝手なんか知る由もなく、発言権もないのだからマジでヨヨさんの隣で突っ立ってるだけの執事みたいになってる。
よく思い返してみれば結束バンドのライブミーティングの時だって俺はほとんど横で聞いてたまに意見挟むか普通にバイトしてただけだったな~。
音響や演出、セトリなんてのは実際にステージに立つ本人達が考えないと結局のところ意味ないし。
こんな俺の雰囲気を感じ取ったのか、ヨヨさんが頬杖をつきながら、
「貴方も何か言う事ないの。意見があるなら早めに言っておかないともうこれで決定にするわよ」
「……いや、サポートするっつっても俺は一応部外者の立場でしてね? さすがにここで発言するとかできないですって」
「違うでしょ」
「はい?」
「一週間だけだとしても今の貴方はシデロスのマネージャー。向こうの時はどうしてるか知らないけど、ここにいる以上はここのルールに従ってもらうわ。どうせ貴方ならシデロスの曲もライブ映像も事前に見てきてるでしょ」
「つまり客観的意見も欲しいので提案か意見があれば遠慮なく言ってくれって事っすね」
「……まあ、そういうことよ」
なるほど、長谷川さんの翻訳とても分かりやすくて助かる。
ヨヨさんと知り合ってからシデロスの事も調べたり曲と映像も何度か見聴きしてきてるのもバレてるのは驚きだけど。
「セトリ、演出、アレンジの有無、そういうのも含めて貴方にもミーティングに参加してもらう。知ってる? マネージャーってスケジュール管理や宣伝活動の他に演者に対してのメンタルケアや力を最大限に発揮できるようサポート、またはアドバイスもしなくちゃならないの。そのためにまず貴方はもっと知識をつけてしっかり話し合いにも取り組む必要がある。結束バンドを想うなら尚更、これからは部外者なんて言葉でミーティングに参加しないのはもってのほかよ」
「……」
正直言葉を失った。この人がステージに立つ演者にも係わらずここまで知識を付けているという事に。
バンドとしての実力が高いだけじゃない。リーダーの素質の有無でもなし。本気で這い上がるために本気で活動に取り組んでいるのがよく分かる。こりゃ普通の人が着いていけない訳だ。意識の高さが違いすぎる。
「今の全部ネットの付け焼き刃で身に付けた知識っすよ。ここ数日必死にスマホで調べてたの知ってるんで」
「あくびィ!?」
「何となく説明がWikiっぽいと思ったらそういう事か」
なんかもうこの流れにも慣れてきた。
あと長谷川さん容赦なさすぎてヨヨさんがちょっとかわいそうだよ。メッキがガリガリ剥がれてきちゃってるからね。自分を大きく見せようと威嚇してきてるけどただ可愛いだけのレッサーパンダみたい。
「ち、違うからね! メジャーデビューとかスカウトされた時に少しでも知識持ってた方がそのマネージャーが有能かどうか見極めるためのものだから! 将来見据えてるだけだから!」
「まあまあ、実際ヨヨさんの言ってる事は正しいし俺も納得できたんで大丈夫ですよ。それに将来見据えて頑張ってるなんて凄いじゃないですか。さすがヨヨさんです」
「……ふ、ふんっ、分かってればいいのよっ」
「(ほんとチョロいっすね)」
「(いや俺は結構本気でそう思ってんだけどな……)」
チョロいのは違いないけど。
「ほらっそういう事だから貴方も早く椅子に座りなさい。私の隣にいれば分からない事あったら教えてあげなくもないから!」
そこは素直に教えてあげるって言ってくれてもいいんじゃないですかね。
ただツンデレを地で良くのは高ポイントです。ツインテールも良き。オタク心をくすぐります。
とまあ、こんな感じで俺もちょっと話し合いに混ざりながらミーティングは進んでいった。
大体がヨヨさん主体で他のメンバーはほとんど相槌ばかりだったけど、そこは仕切りがしっかりしてるからという事にしておこう。
そして時間も経ち。
「次のライブについてはこんなものかしらね」
「俺結局ほとんど何も言えなかったですけどね」
「まだ初日だし別にいいわよ。最初から全部完璧にやれなんてさすがに私も言わないわ。最終日までにマシになってればいいだけの話」
「はあ」
うっす。助かるっす。うっす。
「じゃあ次の議題ね」
「は~い、私お菓子焼いてきましたよ~」
「鉄分摂取しますぅ」
「あ、清水さん、もう楽にしていいっすよ」
「え、いいの? まだ議題あるっぽいけど」
ヨヨさんが言った次の瞬間にはもう本城さんが手作りらしいクッキーを出し、内田さんが鉄分サプリをバリボリと摂取し、長谷川さんがスマホを弄り出した。
えっと……何これ? ミーティングは? いきなりみんなサボりだしたんだが。そんなんだとヨヨさん怒るんじゃないの? 大丈夫なの? 結束バンドでももうちょっと緊張感あっ……たりはしないか。しないな。
俺の不安をよそに長谷川さん達はマイペースなままだ。
おいおいおい、まさかこれをどうにかするのもマネージャーである俺の仕事とか言われるんじゃないだろうな。もしかしてこれ俺試されてる? まだヨヨさん以外は親交深めてないけど叱咤できるのかを試されてたりする?
「次の議題はこれよ」
ヨヨさんがテーブルに置いたのはスマホ。
画面にはオーチューブと書かれていた。……オーチューブ?
「……ヨヨさん、これはいったい何でしょう?」
「見て分からない? オーチューブに決まってるじゃない」
「いや、それは分かるんですけど……何でここでオーチューブ?」
画面をよく見るとチャンネル名に大槻ヨヨコギターちゃんねるとあった。
まさかヨヨさんのアカウントかこれ。でも何でわざわざこれを議題に?
そして、次にヨヨさんはどこからともなくメントスとコーラをドンッとテーブルに置いた。
「メントスコーラで私のオーチューブチャンネルを伸ばすわよ!」
「バカなんか?」
シデロスだとしてもまあずっと真面目な訳がないよねって。
ちなみに裏話、清水が通知オフにしてるだけでぼっちからは数十分おきに何件もロイン来てるらしい。
では、今回高評価を入れてくださった
☆10:Lotus0727さん、ノーツさん、鳩兎さん、クコナさん、待宵月さん
☆9:っtさん、CottonBladeさん、たたかかさん、モチモチこしあんさん、完全無欠のボトル野郎さん、イキョウさん、小型ハサミさん、ザラメ雪さん
☆8:雪音久遠さん
本当にありがとうございました!