再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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一万字超えちゃったぁ……。




82.新宿シデロス編~ライブの巻~

 

 

 

 あれから四日が経った。

 

 

 結局あの後、俺の制止も聞かずメントスコーラを実践したヨヨさんは満足気に動画を投稿。

 見事に大爆沈したのである。それも脅威の52回再生だ。ヨヨさんのギター演奏やその辺を期待していたであろうシデロスファンは気の毒でしかなかった。俺がもっと本気で止めるべきだったね……。

 

 んでもって見兼ねた長谷川さん達がヨヨさんのチャンネルを乗っ取……新宿FOLTの共有アカウントにしてチャンネル名も改名し、それぞれ趣味のコーナーを曜日担当で投稿していくという路線で落ち着いた。

 途中で銀さんやきくり姐さんも参入し、本格的に新宿FOLTのアカウントとして活動が始まったのである。

 

 もちろんマネージャーである俺も後藤さんの編集作業を手伝っているというのもあり、シデロスだけではあるが個々の撮影の手伝いや編集をサポートした。

 そこでシデロスのメンバーとも個々人で親交を深める機会があり、ヨヨさん以外のメンバーの人となりも大体掴めてきたのだ。

 

 例えば長谷川さんはゲームが好きで、過去に家でずっと一人でゲームしていた俺と趣味が似ているという事もあってか合間の話も弾み、お互いこの短い期間でおすすめゲームを貸しあう仲にまでなった。

 貴重なゲーム好きの同士が異性にいるとは、この関係を大切にしていきたい所存である。

 

 本城さんに関してはお菓子作りなどが趣味だそうで、料理は得意でもお菓子作りはそんなにしてこなかった俺は単純に興味が湧き、二人でキッチンスタジオを借りて彼女の動画撮影をサポートしながらお菓子作りの手伝いをさせてもらった。

 本城さん自体ほんわか系女子だから話しているとこちらまで気が緩みそうになるのは注意が必要だ。あといちいち距離が近いせいか常に甘い香りがして一番女の子って感じする。

 

 内田さんはやはりといえばやはりで、どうやら霊感(正しくはサタンに魔力を貸してもらってるらしい)のようなものがあるらしく動画でも事故物件(きくり姐さんの家)を訪れたりお化けがいそうな場所で霊視しようとしたりと、あんまりそういうのを信じてない俺でもこれは本物だと言わざるを得ない現象に何度か巻き込まれた。

 事あるごとに俺の背後や上の方を覗き込むのでそれだけは少し止めてもらいたい。怖い。

 

 ヨヨさんは……もういいか。言うこと特にないわ。ツンデレツンデレ。メントスコーラ。

 以上回想終了。

 

 とまあこんな感じで毎日ミーティングや練習を終えるとこういう自由な時間を使って各々好きな事をしていたりした。

 シデロスのサポートをするようになって四日。そこで俺の抱いた感想はといえば。

 

 

「なんか思ってたのと違うな~」

 

 新宿FOLTの楽屋でノートPCを開き動画の編集作業をしている真っ最中のわたくし清水優人のぼやきを一つ。

 結束バンドより忙し……くはあると思う。練習時間も多いし、結構頻繁にライブもやるらしいからミーティングも割としっかりしている。この前のオーチューブの話だってメントスコーラ(笑)がバカだっただけで、新宿FOLTにもシデロスにもプラスになるくらいのチャンネルができた。できた(強調)

 

 のだが、誠に勝手ながら俺のイメージとしては最初から最後までみっちりぎゅうぎゅうにバンド活動に精を出すものだと思っていたのだ。

 まさに休んでる暇もなくこき使われるのも覚悟していただけに、少し拍子抜けの面もある。現に今も俺はオーチューブにアップする動画の編集をしているだけなのだから。

 

 

「このままでいいのかって顔ね」

 

「ヨヨさん……着替え終わったんですね」

 

「ええ」

 

 扉を開けて出てきたのはシデロスのメンバー全員であった。

 黒をメインとした服装であり、メンバー全員女子でありながらメタルロックを主軸としたバンドならではの攻めた漆黒の衣装。

 

 そう、今日はシデロスのワンマンライブの日だ。

 

 

「あ、私の動画だぁ。ゆうと君今編集してくれてるんだね~。ありがとぉ~」

 

「会場の準備はここのスタッフの人達がやってくれてて俺は暇だからな。ふうさんの動画ももうちょいで終わるよ。……あと少し離れてくれると助かるんですが」

 

「ゆーさん、そういえば昨日言ってたゲーム持ってきましたよ。あとこれ一昨日借りてたやつっす。やってみたらハマって一日でクリアしちゃいました」

 

「おう、サンキューハッセ。つか一日でクリアってめちゃくちゃ早えな。夜更かしは乙女の肌に悪いぞ」

 

「相変わらずユウトさんもそのヒトも両方元気そうで何よりですぅ~」

 

「幽々さんや、そろそろ俺達以外の幻のシックスマンを見つめるのは止めようか」

 

 もうお気付きだろうが、俺とシデロスメンバーはこの四日間でこうなるくらいには親交を深めた訳である。

 ヨヨさんはヨヨさんなのに何故自分達はずっと苗字呼びなのかと、仲良くなるにあたってすぐ距離詰めたがる女子特有の小さな苦情を頂いた結果だ。

 

 正直いまだに慣れないので心の中では基本苗字呼びになってしまうが、どうせ心の中だしそこは別にいいよね。

 というか結束バンドに至っては後藤さんは後藤さん呼びだし、喜多さんは本人からの強い要望で喜多さん呼びなんだけど。名前呼びの親密度に関してだけで言えばシデロスの方が仲良いみたいになってる。

 

 

「……ほーん、随分と短期間で仲良くなってるじゃない」

 

「ヨヨさん? なんで普段より目つきが鋭くなってるのでせうか?」

 

「自分の胸に手を当てて聞いてみれば?」

 

 言われた通り自分の胸に手を当ててみる。

 ……うん、一ミリも分かんね。

 

 

「ゆーさん、ライブ前恒例のアレっすよ」

 

「あー、アレね」

 

「何よ……」

 

 そういやヨヨさんはライブ前になると緊張で三日間くらい寝れなくなるんだったな。

 一応メイクで目元の隈は誤魔化せてるみたいだが、目つきの鋭さだけはどうしようもないらしい。あんなんで見られたら大抵の人は怖気づいてしまうわな。

 

 

「ヨヨさん、ライブまでまだ時間あるし横になっときます? 一応使い捨て用のアイマスク持ってますけど」

 

「いらないわ。……その、自分の買ってあるから」

 

「ヨヨコ先輩、あの時から自分もゆーさんと同じアイマスク買ってライブ前に可能な限り横になるようになったんすよ」

 

「へえ、そうだったのか」

 

 そりゃ初耳だ。付け焼き刃の対策だけど何もしないよりはマシだろうと教えたつもりだったが、今も続けてくれているのは普通にありがたい。

 こちらとしては前日くらい普通にちゃんと寝ていてほしいのが正直な気持ちだけど。改善できそうな策がないかあとで調べてみるか。

 

 すると長いソファなのにヨヨさんはわざわざ俺の隣に座った。

 

 

「ライブまでの時間は?」

 

「あと三十分ですけど、ギリギリ入店してくるお客さんも考慮に入れると四十分くらいですかね」

 

「なら二十分くらいは横になれそうね」

 

「じゃあどうぞ。俺は五分前くらいまで編集しとくんで好きにしててください」

 

「えっ!?」

 

 長谷川さん達はもう俺から離れてスマホを見たり雑談したりしている。

 自分より緊張して上がってるヨヨさんがいるから逆に落ち着いてられるって前に言ってたもんな。ある意味メンバーの役に立ってるよヨヨさん、良かったね! 

 

 と、ここで座っている俺の足の上にぽふんっと軽い重量感が圧し掛かってきた。

 んん??? 

 

 

「……あのう……姫? いったいぜんたい何をしておられるのでしょうか?」

 

「な、何って、横になってるだけよっ」

 

「や、だからなんで俺の足の上に? これじゃ膝枕になってるんだけど……」

 

「なっ……ど、どうぞって言ったのは貴方でしょ!? 好きにしていいって言ったじゃない!」

 

 それはどうぞその辺で横になっててくださいって事だったんだけど……。

 俺の言い方そんなに伝わりづらかったか? 長谷川さん達みたいに自由にしていいよって言ったつもりなんだが、ヨヨさん寝不足すぎて認識能力低下してるとかじゃないよね? 

 

 どうしよう。既に俺の太ももの上に収まっているヨヨさんを強制的にどかすのはさすがに悪いような気がする。というかそんな事しようものなら取り返しがつかないくらい機嫌が悪くなる可能性大だ。

 ああ言った手前ヨヨさん自身も自分から退く事はしないだろう。下手すると多分恥ずかしさと怒りで俺に矛先向くに決まってる。

 

 であれば答えはこのまま膝枕続行。

 さすがの俺も年上女子に膝枕するのは思う所がある。あ~これがふーちゃんだったらいつもみたいに頭撫でるだけですぐお昼寝してくれるんだけどな~。ヨヨさんだもんな~。

 

 

「……男の足なんであんまり心地よくはないと思いますけど、気の済むまでそうしてていいですよ」

 

「……」

 

 せめて何か言ってほしい。返事がないと俺が自分から勧めたみたいになるじゃん。

 しかし沈黙は肯定とも言う。黙って動かないヨヨさんを見るに、彼女も続行を選んだようだ。そそくさとアイマスクをして目を隠しおったわい。ついでに耳栓もし始めた。喉を閉めてしまうから寝る事はないだろうが、落ち着いて集中力を高めるためだろうか。

 

 幸い膝枕をしていてもテーブルとPCへの隔たりはなく、このまま編集も問題なく続けられそうだし気を紛らわすついでに俺は作業に没頭しましょうかね。

 カタカタとタイピングしながら字幕を入れていると、こんな面白い状況を逃すまいとこれまで雑談していた長谷川さんと本城さんがこちらに近寄ってきた。嫌な予感しかしねえ。

 

 二人は一応声を抑えながら、

 

 

「シャッターチャンスっす」

 

「飼い主の足元で安心して寝ちゃう子犬みたいだねぇ~」

 

「俺が身動きできない事を良いことに好き勝手するのやめてもらえませんかね……。あとヨヨさんリラックス中だけど一応起きてはいるから派手な事はしないでくれよ」

 

「つまり何でもしていいって事ぉ?」

 

「言ってねえよ」

 

 ゆるふわ女子は頭の中もゆるふわで出来ているらしい。

 

 

「つまり身動きできなくて逃げられないからじっくりユウトさんのモノを観察していいって事ですよね~」

 

「言い方が大変誤解を招きかねないトンデモ発言になってる事に気付いてくれ幽々さんっ。そしてまじまじ背後の壁を見つめ続けるのもやめてくれると嬉しいなって」

 

「何度見ても立派なモノをお持ちですねぇ~」

 

「だから言い方ァ!」

 

 ダメですよ。女の子がそんな勘違いさせそうなこと言っちゃあ。

 しかも君達は特にあれでしょ。きらきらきらら的なMAX的な存在放ってんだから間違っても変なことは言わないように。健全でたまに謎の力働いてそうな気がするんだよこの世界。

 

 

「……清水優人」

 

「あ、はい、大きな声出してすいませんわたくしめはあなた様の忠実な枕でございます」

 

 ヨヨさんが口を開くとちょっかいモードだった長谷川さん達がそそくさと楽屋を離れていった。

 おいずるいぞせめて言い訳というかフォローの一つくらいしてってくんない? これ俺だけ怒られるパターンのやつ? つうか耳栓してるから俺の返事もちゃんと聞こえてるか不安なんですが。

 

 

「その……ひ、膝枕……わ、わりゅく、ないわよ……」

 

「……ああ、そっすか」

 

 噛んだなぁ……。

 しかもアイマスクに耳栓に膝枕の状態で噛むもんだからこっちも生返事しかできなかった。え、コントじゃないよねこれ。

 

 言った本人はじっとしたまま何も反応しない。恥ずかしさでだんまりを決め込んでるのか、そもそも自分が噛んだ事に気付いてないのかどっちだ。

 ……や、まあ、深堀りはしないでおこう。ヨヨさんが何も言ってこないなら俺も触れはしない。ただ可愛い女の子が可愛い嚙み方をした、という事実だけが残る。何とも平和的じゃないか。

 

 ……うん、耳赤くなってるって事は自分で噛んだの気付いてますねぇ。

 

 

 

 

 さて、ライブの時間ももうあと五分というところまで迫っていた。

 編集も区切りの良いとこまで終わらせ、膝枕も結局ぎりぎりになるまでヨヨさんが居座ってたから今も若干足が痺れてる状態だ。

 

 ワンマンライブができるほど人気なのもあってフロアは既に客でいっぱいになっている。

 マネージャー役ではあるけどサポートも兼ねてる俺はフロア後方でライブ映像の撮影をする予定だ。スターリーとはまた別だし客足も相当違うからカメラの高さも細かく調整しないといけない。

 

 

「じゃあ俺フロアの方に行っとくんで」

 

「よろしくっすー」

 

「ゆうと君も頑張ってね~」

 

 カメラと撮影機材を持って楽屋から出ようとする。

 その直前にヨヨさんから声をかけられた。

 

 

「ねえ」

 

「はい?」

 

「この四日間の経験が自分が思ってたのと違うから少し不安になってるでしょ」

 

「……」

 

「もっとスパルタだと思ってた訳?」

 

 おそらくさっきの話の続きってとこか。

 

 

「まあ、そうですね……。ヨヨさんの性格からしててっきり厳しいものだとばかりと勝手に想像してはいたってところが正直な気持ちです」

 

「だと思った」

 

 だってそっちから誘ってくるもんだから相当厳しい修行やらされるんだと思ってたし。

 

 

「言っておくけどね」

 

「?」

 

「最初から最後まで厳しい練習とか数時間拘束されるようなミーティングとかっていうのは、人によるけどバンド全体としてむしろモチベの低下になりかねないの。何事もメリハリが大事なのよ。私達の場合はちゃんと練習してちゃんと息抜きしてちゃんとミーティングもしてちゃんと休みも入れる。上を目指すならどちらかに一辺倒になってもダメなの」

 

 こやつもしや亀仙流の使い手か。

 

 

「あとは……時にメンバーとのコミュニケーションも忘れず、にね……」

 

「説得力あるなー」

 

 そこはちゃんと学んでんのね。偉い、偉いよ。

 

 

「貴方のしなくちゃいけない事はそれをしているメンバーをどれだけ的確にサポートするかって事よ。初日にも言ったわよね。体調やメンタルに異変がないかを細かく見たり、メンバーの手を煩わせずに自分からどれだけ動けるか。私達が貴方に求めているのはそれよ」

 

「つまりどれだけ効率良く全てをこなしてメンバーをサポートするのか、それが今の俺のやるべき事、ですか」

 

「そう。そしてこの四日間貴方を見ていたけど、あくび達とも結構……まあそれなりには? 仲良くなって一緒にいたみたいだし、メンバーへのサポートや手伝うポイントも正確だったから特に何も言わなかっただけ。マネージャーとしてはもう既に及第点……よりもう少し上くらいはあげても、いいと思ってる……」

 

 うん? これはもしや……褒められてる? 

 なんか後半腕組んで顔逸らしてるし、ヨヨさんツンデレのデレ部分発動してないか? まじか、ここにきて素直に褒められるとさすがに照れ臭いんだけど。しかもさっきの膝枕のせいでちょっとお互い変な空気だし。

 

 

「あ、あーっと、ありがとう……ございます?」

 

「ふ、フンッ!」

 

「けどもうライブ直前なのに何でいきなりそんな事を?」

 

「そ、それは貴方がそこで悩んでる風な顔してたからでしょ!? 私だって別に放っておいてもよかったんだけどっ? ま、まあ一応今は私のマネージャーでもあるし?」

 

「私達のっすよ。いきなり独占専属にしないでください」

 

「っ……私だって自分から誘ったんだし自分のマネージャーを放置しておくのもかわいそうって思っただけよ!」

 

「貫いたなー」

 

 貫いたね。

 

 

「……ま、そうですね。何かそう言ってもらえて腑に落ちましたわ。何だかんだ言って周囲を見る事も増えて視野広がってる感じもありますし、シデロスを見てるおかげか別の側面で発見できる事も多くなりましたからね。これでもじわじわ成長してるんだなって今分かった気がします」

 

「……分かればいいのよ」

 

「ヨヨコ先輩何か嬉しそうっすね」

 

「う、うるさい! ほらっ、貴方もカメラのセッティングとかあるんでしょ! さっさと行きなさい! これで上手く撮影できませんでしたとかなったらもう一週間延長だからね!」

 

「げえっ!? そっちから呼び止めておいて強制延長はずるくないか!? さすがにそれは嫌だから俺もう行きますからね! 話もここで終了打ち切り次回作にご期待くださーい!」

 

 言って足早に楽屋を出る。

 ライブまであと三分弱かっ。とにかく急がねえと! 

 

 

「……嫌だなんて言わなくてもいいじゃない……」

 

「おーよしよーし。結束バンドさんの事情もあるから今回は延長無理ってだけで、他意はないと思うっすよ~」

 

 

 

 

 ライブが始まった。

 銀さんが撮影するのに良いポジションをあらかじめ確保しておいてくれたおかげで、セッティングもスムーズに進められて無事に間に合った。

 

 カメラ越しに演奏しているシデロスのみんなを見る。

 

 

「……やっぱこんだけ集客できるってすげえな……」

 

 結束バンドだけではまだ到達できない所にシデロスはいる。

 演奏技術、パフォーマンス力、集客率、演出、全てにおいてまだまだ敵わないのだとライブを見てまじまじと実感させられた。

 

 それぞれの圧倒的な存在感もさることながら、どの曲でも楽器の音が死んでいない。むしろ活き活きしていて音の暴力が耳から体全体に響き渡ってくるようだ。

 メタルロック。まさに言葉通りのジャンルの演奏は客を無条件に高揚させ、ライブハウス自体を一つの別世界として日常の空気から切り離している。

 

 世界で一番熱い場所はここだと、今一番盛り上がっている場所はここだと、そう魂から言われているような感覚にさえなってしまう。

 それにシデロスは激しい音楽だけが魅力ではない。

 

 高い技術力と爆発的な演奏力。それにヨヨさんの歌声が妙にマッチングしているのだ。

 メタルといえば激しくてどちらかというと男性ボーカルのイメージが多いけど、ヨヨさんはまさにそのギャップを行く。

 

 殴りかかってくるような激しい曲にヨヨさんの美しい声が乗って脳内を揺さぶられる気分だ。

 歌唱力が高いだけじゃない。歌詞をそのまま歌う訳でもなく、訴えるようなものであったり叫ぶようなものであったり、自分の気持ちをそのままぶつけているような表現力があった。

 

 おそらく、そういうのが客層にも刺さっている部分だと思う。

 メッセージ性のある歌詞は共感を呼び、人を惹き付ける。それにこの高い実力なら尚更の事、自然とファンが増えていくのも納得だ。

 

 

「この経験は……持ち帰らないとな……」

 

 時々カメラを確認しながらも、俺はシデロスから目を離せなかった。

 

 

 

 

 ライブも終わりスタッフの人達が閉店作業をしている中、俺は俺で撮影機材を片付けヨヨさん達に飲み物を渡してから何もしないのも悪いと思いフロアの掃除を手伝っていた。

 ライブが終わると掃除しなきゃって思うの、もはや職業病なんじゃないかって思う。まだ高1なのにね俺。

 

 まあ今はバイトではなく手伝いって感じだから気持ちも楽だけどさ。

 こんな感じでゴミ袋を整理していると、ポケットに入れていたスマホのバイブ通知が震え出した。

 

 ずっと震えてるって事はロインじゃなくて電話か。

 誰からだろ。邪魔にならないようフロアの隅に移動してスマホの画面を確認すると。

 

 

「なん……だと……!?」

 

 俺は目を疑った。

 着信画面、そこにはありえないはずの名前が表示されていたからだ。

 

 

()()後藤さんから……()()……!?」

 

 過去に俺から後藤さんに何回か電話した事があったが全ての電話に彼女は出なかった。

 そして後藤さんからも電話をかけてくるような事も一切なく、彼女の性格的に電話は相性悪すぎだと判断し連絡事項は全部ロインか直接会って済ますようになった経緯があるのだ。

 

 だから後藤さんからの電話などありえない。いわば都市伝説のような扱いに俺の中でなっていたのに……もしやロインと電話間違えたとか? 

 にしては一向に向こうから電話を切る気配はない。出たら実は呪いの電話でメリーさんとか出てこないよな。大丈夫か、むしろ怖いのはメリーさんよりヒトリーさんだもんな。奇行に関してはそこら辺のお化けより怖いと思う。

 

 仕方ない……出てみるか。

 意を決して着信ボタンをタップして耳元にあてる。

 

 

「えっと、もしもし……?」

 

『……あっうっ』

 

 うん、後藤さんだな(確信)

 良かったお化けじゃなかった。

 

 

『ゆ、ゆうくん……?』

 

「おう、心配しなくてもあなた様の幼馴染でご存知ゆうくんだぞ~」

 

『ほ、ほんとにゆうくんだ……声が似てる人とかじゃなくて本物の……!』

 

 人を希少生物みたいに言うな。

 

 

「どうしたんだよ急に電話してきて。後藤さんから電話とかこの先一生ないと思ってたからびっくりしたんだが。急用か?」

 

『わ、私も一時間くらいかけて勇気出したから……』

 

 安い勇気だな。

 

 

『あっえっとね……お母さんが週末晩ご飯に使う予定のマヨネーズ切らしそうだから、帰りついでに買ってきてくれると助かるって……』

 

「おう、そうか。じゃあ帰りに買って帰るよ」

 

 もう毎日のように後藤家で飯食ってるしそのくらいは喜んで引き受けますよ。

 何の用かと思えばおつかいか。確かに後藤さん一人じゃコンビニにもスーパーにも行けないもんな。

 

 

「……ん? けどそのくらいの用ならロインでも良かったんじゃないか? 何も無駄に勇気出して電話してくる事もなかったろ?」

 

『……あ、う……その、ゆ、ゆうくんの声が聞き』

 

『あー! ひとりちゃんが電話してますよ伊地知先輩リョウ先輩! 絶対自分からは電話しないしこっちからしても出ないひとりちゃんが誰かと電話してます!』

 

『明日は槍の雨が降ってくる。もしくは隕石』

 

『あー、ぼっちちゃんの事だからきっと優人くんでしょ。ぼっちちゃんは用があっただろうから分かるけど、向こうで頑張ってるんだしあんまり迷惑かけちゃダメだよ喜多ちゃんリョウ』

 

『私達セットで迷惑かけると思われてるんですか!? それはそうとひとりちゃんスピーカーにして!』

 

『それは心外。迷惑かけるなら直接会ってかける。主に金銭面で』

 

『余計最悪だよ!』

 

『あ、う……』

 

 何かいきなりうるさくなってきたな……。

 せっかく一生に一度あるかないかくらいの電話が後藤さんから来たのに。まあいいか、虹夏さんも俺の事あんま気にしてなさそうな雰囲気だし、あの時は一時の思春期でも発動したんだな。

 

 電話の向こうでわいわいがやがやしていらっしゃる。

 あー、何か謎の安心感凄いな。体がもうこれこれぇ! って結束バンドの空気感を体内に取り込んでいってる。いつの間にか結束バンドは俺の心の栄養素になっていた……? 

 

 っと、いかんいかん。

 手伝いだとしても今は閉店作業のお手伝い中だ。いつまでも手を止めてたら迷惑かけちまう。

 

 

「名残惜しいけど用が終わったんならもう切るぞー。こっちはライブ終わりで今閉店作業の途中なんだ。喜多さんはまた学校で、虹夏さんとリョウさんはこの期間が終わったらスターリーで、後藤さんは……どうせあとで家で会うか。じゃあまたな」

 

『あ、うん……また家で……』

 

 果たして俺の声が喜多さん達に聞こえてたか分からないがまあいいか。

 通話を終了してスマホの画面を見る。後藤さんと表示されていた通話画面からいつものホーム画面へと変わった。

 

 まったく……いつでも向こうは騒がしいまんまだな。

 

 

「何スマホ見ながら笑ってんのよ」

 

「……え、そんなにニヤついてましたかね……」

 

「どうだか」

 

 ヨヨさんに見つかった。

 サボりは減点対象かな。普通はそうだな。

 

 

「あ、そうだヨヨさん。この後ですけど俺おつかい頼まれたからスーパー行かなきゃなんですぐ帰りますね」

 

「ふうん、スーパーか。いつ出発する? 私も買いたいものあるし同行するわ」

 

「大槻院」

 

「大槻院って何よ! 貴方はちゃんとヨヨさんって呼びなさい!」

 

 あ、ジョジョネタ知らないのね。

 無自覚でそれを言うとはセンスあるじゃあないかヨヨさん。

 

 

「ところでライブ、めっちゃ良かったですね。大成功じゃないですか」

 

「フンッ、当たり前でしょ。失敗しないために普段頑張ってるんだから。……けど百点ではないわね」

 

「帰ってく客見てましたけど、みんな満足そうでしたよ」

 

「バンドやってる上で大切なのは実力もそうだけど、何より大事にしなきゃいけないのはライブに来てくれるファンよ。宣伝やグッズを買ってくれるみんながいないと活動もしづらいし成功に繋がる確率はグッと減るからね。ファンを失望させるライブだけは絶対にしちゃダメなの。少なくとも私達にはファンのみんなを笑顔にして帰らせる責任がある」

 

 とことん志が高いのはさすがとしか言いようがない。

 ファンを大事にか。確かにそれも活動していく上で重要な事だ。

 

 

「やっぱここに来て正解でしたわ」

 

「急に何よ」

 

「さあさ、ヨヨさんも一緒にスーパー行くなら早く衣装着替えてきてくださいね。俺も掃除すぐ終わらせるんで」

 

「分かってるわよ! 貴方がスマホ見てニヤニヤしてたのが悪いんだからね! 覚悟の準備をしておきなさい! 残りの三日は今まで以上にしごいてやるんだから!」

 

 何でいきなり俺に対してスパルタ思考になってんだあの人……。やっぱニヤニヤしてたの俺。それは普通に恥ずかしいんだけど。

 ……ほんとにジョジョ知らないんだよね??? 

 

 

 

「(ライブ中私達には向けなかった笑顔してたくせに……だから百点にならなかったんじゃないのよ……)」

 

 

 

 その後宣言通り、俺は残りの三日間をパシリみたいなレベルでこき使われ(全部ヨヨさん主犯)、無事地獄のシデロスサポート期間を終える事ができたとさ。

 

 

 

 






という事で新宿シデロス編終了。
シデロスは地味に趣味などで清水と相性良い子達が多いんだよね。今回はシデロスに集中したかったのできくり姐さん達には我慢してもらいました。

次回から本編に戻るかも。
あと天使回もそろそろ近いよ。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:斜陰さん

☆9:Bibaruさん、ドードリオゲンガーさん、タスマニアさん、絶対零度θさん、DDDD4さん、小型ハサミさん、モチモチこしあんさん、完全無欠のボトル野郎さん、ザラメ雪さん、イキョウさん

☆8:通りすがりのハーゼさん

本当にありがとうございます!
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