再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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トゥイッターはトゥイッターのままでいてくれよ……。




84.MV会議

 

 

 

「じゃあどんなMVにするのか企画会議を始めましょう~! 何かこういう風にしたいみたいなイメージとかってありますか?」

 

 さて、スターリーで会議が始まった。

 司会進行は主に映像制作で作品も作った事ある結束バンドのファン一号二号さん、もとい俺の師匠達だ。

 

 

「リョウ結構バンドのMVとかチェックしてるでしょ? お決まりのやつとかないの?」

 

「特に関係ない女が出てきて泣くか踊るか走ってる」

 

「あ~見るわ」

 

「俺も結構見ますけど、何でああいうのって女性ばっかなんでしょうね」

 

「さあ、共感性とか?」

 

 確かに男が泣いてるのと女の子が泣いてるのとじゃ見てる側の印象も変わってくるか。

 

 

「あと顔の良いメンバー以外サブリミナル程度しか映らない。特にドラムとベー」

 

「すぐ偏見言うのやめろぉ!」

 

 そういうもんなの? 俺が見てるバンドのMVは基本ボーカルメインだけど他も結構平等に映ってたような気もするけど。

 まあそこはバンドそれぞれの方向性とか考えがあんのかね。歌詞や曲に集中してほしくてボーカルの顔一切出さないバンドとかもいるし。

 

 ん~、というか……。

 

 

「それで言うなら結束バンドはみんな顔良いしMVも普通にメンバーがメインでも良さそうですけどねえ」

 

「「「「……」」」」

 

「私もそれは思うけど君はいきなりそんな事言っちゃダメだと思うよ弟子君」

 

「え、なんで……ってぎゃあ!? なになんなのいきなり後藤さんから蒸気出てんだけど!? てか普通にあっちぃし! 何度あんだよこれ!?」

 

「あーもう優人くんが変なこと言うからっ。お姉ちゃんちょっと冷えビタある!?」

 

 何でみんなして俺が変なこと言ったみたいな認識なの。おかしくない? 

 左半身ほぼサウナ状態なんだが。こんなとこでするより真冬の外でやってくれると助かるのにっ。てかライブハウスに冷えビタなんて置いてる訳──、

 

 

「あるよ」

 

「あんのかよ」

 

「ぼっちちゃん対策用にな」

 

 店長が普通にキッチンの冷蔵庫から出してきた。

 この人の事だからそのうち後藤さんのためだからって何でも用意してきそう。過保護か。

 

 虹夏さんが俺に対して小さくぶつくさ言いながら後藤さんの額に冷えビタを貼るとあら不思議。今の今まで高温まき散らしサウナストーンだった後藤さんがだんだん回復していった。それで治るのね。

 一度溶けかけたおかげでようやく後藤さんを引きはがす事ができ、気を取り直して会議を再開する。ちなみに俺の発言についての謎は解明される事はなかった。

 

 

「あとMVでありそうなのは……あ、みんなで踊るとかは? 最近だとそういうのも流行ってきてるもんね」

 

 踊りの案自体は良いかもしれないが、生憎うちの後藤さんはそういうのと無縁なので虹夏さんが思っているようなダンスは多分……いや確実に踊れない。

 でも逆に一人全然踊れてない方が面白くて注目浴びる可能性もあるか? ……ダメだ、注目浴びたら浴びたでこやつ死ぬわ。

 

 

「私ダンスとか振り付けあまり得意じゃないですけど……」

 

「大丈夫、どのMVも一夜漬けみたいなキレのないダンスしてるから」

 

「偏見ばっかだなアンタ」

 

 どんな目でバンド見てんだよ。えっと、何だっけ、SEKAI NO HAZIMARIのホビットだかハグリッドだか忘れたけど、あれのダンスとかは面白くて良いと思うけどね。踊れるか踊れないかは別として。

 けどもしダンスするとして振り付けとかどうすんだろ。経験者いないし踊れない子もいるから普通に詰みなのでは? 

 

 

「え~分からないなぁ。こんな感じですかね? K-POPみたいなのって」

 

「喜多ちゃんめっちゃキレキレじゃん!」

 

「普通に踊れんのかい」

 

 出た出た、できないとか謙遜してても実は結構余裕でできちゃいます的な陽キャムーブ。

 しかもジョニーズとかSKZ48とかの曲じゃなくてK-POP選んで踊るのがまた陽キャポイント高い。なんかK-POPダンス特有の腰くねくねしたりしてる。ちょっとやだ、喜多さんスカートだから直視できないわ。

 

 

「うーん、でも喜多ちゃんのダンスは難しそうだなぁ。ぼっちちゃんは何かできる?」

 

「えっあっ……!?」

 

 俺を見ても助け船とか出してやれんぞ。ダンスに関しては俺も専門外だから何も知らんからね。

 ということで静観させてもらう。万に一つの可能性として後藤さんが何かしら踊れるという世界線がこの世界かもしれないという奇跡を願ってみる。

 

 

「あっへへ……」

 

「……」

 

「あ、もういいよぼっちちゃんありがとありがとっ。なんか……ごめんね?」

 

 気遣って謝るのが一番ダメージ多いと思うんですがそれ大丈夫ですかね。

 いや俺もまさかドジョウ掬いしだすとは思わなかった。あれを喜多さんのダンス略して喜多ダンの後にやるのは逆に勇気ありすぎだろとは思ったけど。

 

 

「(陰キャの私にダンスなんて無理だったんだせめてロボットダンスみたいに段ボール拾う動作とかその辺にしとけばまだ笑いに繋がるかもしれなかったのにもうダメだ私はダンスもまともにできないくそ雑魚人間なんだゆうくんお願い慰めてしくしくずびずびずびび~……)」

 

「おーよしよーし、大丈夫だからなー。誰も後藤さんに期待してなかったからハードルは元々低かったぞ~。何なら今回に限ってはいきなり無茶ぶりした虹夏さんが悪いから。あと今俺の服で鼻かみやがったなキサマ?」

 

 急いでティッシュで拭くもちょっとカピカピになった。

 この野郎……人が優しく慰めて撫でてやってるってのに仇で返してくるの早すぎだろ。俺に何の恨みがあるんだ。

 

 

「すいません。ちょっとキッチンの方で軽く服濡らして洗ってくるんで、続けててください」

 

「わかった~」

 

「ずびびむぎゅっ」

 

 とりあえず仕返しとして鼻に丸めたティッシュ突っ込んでからドリンクコーナーにあるキッチンへと移動する。

 当然カウンターには作業中の店長がいる訳で、

 

 

「ん? どうした、喉でも乾いたか?」

 

「いや、ちょっと服を洗いに」

 

「ジュースでも零したかぁ? 一応飲料系も店のもんなんだから無駄にすんなよ~」

 

「後藤さんの鼻水です」

 

「……」

 

「後藤さんの鼻水です」

 

「……うん、何か……すまん」

 

「いえ」

 

 色々察してくれたっぽい。

 良かったな後藤さん、理解者が徐々に増えていってるぞ。

 

 

「あ、あとカメラとか機材貸してくれてありがとうございます。一応俺のカメラも持ってきてるけど店のやつの方が性能も良いし、同時に別アングルから撮影する時があったら便利なので助かりました」

 

「おう、気にしなくていいから好きなだけ使え。他にも困った事があったら私に遠慮なく言えよ」

 

 え、やだ、なんか店長いつもより優しいんですけど……もしかして明日空から隕石でも落ちてくる? 

 

 

「そ、それと今月の給料はバイトだけど臨時にボーナス付けといてやるからな。お前が新宿に行ってた間は有給扱いにもしてるしっ」

 

「……?」

 

 ん? 何か流れ変わった? 

 

 

「店長、何かあったんですか?」

 

「えっ? い、いや? 別に、何も……?」

 

 きょどり方が何もない人には見えないんだが。

 

 

「正直に言ってくれたら後藤さんの写真一枚あげます」

 

「実はこの前お前らが私に無断でリョウの家に行ってバイトバックレたりお前が事情はあれど一週間も新宿に行った時とかもしかしたら実は私微妙に避けられてたり嫌われてるのかなってちょっと不安になったんだが見てる限りそんな風には見えないしでもこっちとしては毎日のようにシフト入ってくれる貴重な人材のお前が新宿の方に惹かれてバイトだけでもあっちに行っちまうんじゃないかって思うと他のシフトの融通きかなくなりそうだから何が何でもお前をここにいさせるための手段なら出来うる限りの事はしようと思ったんだ」

 

 早口すぎて饒舌オタクみたいになってるよこのチョロ店長。ちょろすぎて心配になるレベル。

 しかも息継ぎなしによく言えたな。どんだけ後藤さんの写真欲しいんだよ。

 

 いや、まあ? そういえば確かにリョウさんの家行った時は店長に何も言わず出てったな……。てっきり虹夏さんが連絡してるものだと思ってたけどしてなかったんだね。

 ちょっと不安になってる店長も中々可愛らしいところあるじゃん。三十路だけど。

 

 

「大体は理解しましたけど、別に店長嫌ってる人とかおそらくこのスターリーで働いてる人の中にはいないと思いますよ。表情や態度がヤンキーっぽくてもツンデレって思えば微笑ましいですし」

 

「褒めてんのかそれ」

 

「少なくとも俺からすれば極上に」

 

 ツンデレは王道にして至高なのだ。

 逢坂大河然り、御坂美琴然り、古手川唯然り、中野二乃然り、西木野真姫然り、市ヶ谷有咲然り、ベジータ然り。あと大槻ヨヨコとか。あ、その人は現実にいるわ。とにかく俺からすれば最上級の褒め言葉である。自信持って店長。

 

 

「それに結束バンドがいる限りスターリー以外で長く働くつもりは毛頭ありませんよ」

 

「根拠は?」

 

「後藤さんとある少女の夢」

 

「ハリーポッターのタイトルみたいに言うな」

 

 ヒトリ―ポッターってか。何そのちょっと疎外感ありそうなタイトル。

 

 

「まあそういう訳で安心してください。俺もみんなも好きでここにいるだけなんで」

 

 後藤さんは人気出たらバイトだけ辞めるって言ってたけど。何度か未遂もしてるしな。

 

 

「……なら大丈夫か」

 

「あ、けど臨時ボーナスはくださいね。貰えるものは喜んで頂く主義なんで」

 

「ほんとがめつくなったよなお前」

 

「信用の表れって言ってくだせえ」

 

 店長と適当に話しながらカピカピになった部分を洗うこと数分。

 水で濡らしてタオルで服の水分を可能な限り吸い取って終了。ここにはドライヤーないし乾かすのは諦める。

 

 一部分だけ若干濡れてる服のまま会議中のテーブルへと戻ると、何やら話が進んでいた。

 イスに座るついでに正面の喜多さんに話しかける。

 

 

「何か進展あった?」

 

「今のとこサムネは子供と犬で釣ってタグも引っかかりやすいのつけて、動画タイトルは『【神回】楽器屋さんで100万円使い切ります【プレゼント有】』って事になってるわ!」

 

「却下だ馬鹿野郎共」

 

 何をどうしたらそんな地獄釣り炎上不可避なタイトルと手法になってんだ。

 ブレーキ役はいないのかブレーキ役は。

 

 

「何でこのカオスを止めなかったんですか師匠」

 

「いや、結束バンドのMVだしみんなの意見を大事にした方が良いのかなって思ってたら想像以上の速度でここまで堕ちちゃったっていうか……」

 

 どうやら傍から見れば結束バンドはアクセル全開で自ら地獄に向かっていったらしい。

 あの虹夏さんでさえMVを作る事に夢中になっていて無意識にテンション上がってるせいかツッコミポジション放棄してるし。

 

 二号さんの方は俺と目が合うと苦笑いしかしなかった。大丈夫か、結束バンドのイメージマイナスとかになっちゃってないだろうな? 

 とはいえ大体の元凶は分かっている。こういうのに悪ふざけだったり真剣だけどダメな方に行ってしまうおバカが二人ほどいると。

 

 

「よし、リョウさんと後藤さん今から発言禁止。作詞作曲で疲れたでしょ。今は黙って会議を見守っててください」

 

「ふむ、そういう事なら仕方ない」

 

「な、なんか棘を感じるような……」

 

「優人君あれ遠回しに戦力外通告してません?」

 

「言うほど遠回しでもないよ。言葉の端々にブチギレが見え隠れしてるよ」

 

 真の脅威は有能な敵ではなく無能な味方だ。

 音楽にステータス極振りしてるせいか作詞作曲担当の二人はそれ以外がカスなのである。ロクな案とか出してこない。

 

 

「ということで虹夏さんと喜多さんで会議続けましょう。サムネとかタグについては追々決めてく事にして、ロケ地とかその辺の事を話しましょうか」

 

「そうだねぇ。ロケ地ならどこがいいかな? 駆け出しバンドだと浜辺とかネオン街はよく見るけど」

 

「オシャレだし映像映えしそうでいいですね~!」

 

 そうそう、こういうのだよちゃんとしたミーティングってのは。

 俺の中のこういうのでいいんだよおじさんも「こういうのでいいんだよ」って言ってる。

 

 シデロスの時はヨヨさんが基本仕切ってテンポ良く進めてたから早めに終わった分、その後の練習時間を多く取って成長に繋げてたからな。

 多分結束バンドはツッコミよりもボケが強すぎていつもコントになるのがダメなんだ。下手するとさっきみたいに収拾つかん場合もあるから注意しておかないと。

 

 

「ねえねえ、海なら前言った江の島とか良さそうじゃない? 優人くんはどう思う?」

 

江の島()自体は悪くはないと思いますけど、この時期だとまだめちゃくちゃ寒くないですか?」

 

「うっ確かに……」

 

 真冬の海に腰まで浸かりながらMV撮ってたバンドとかいたけどね。

 さすがにそれをロックだからといって彼女達に強いるのは到底できん。いやそもそも海に入る訳ないか。

 

 

「優人君は何かないの?」

 

「あー、そうだなあ……。例えばほら、下北ってサブカルの街でもあるし劇場とか古着屋とか並んでてちょっと他の地域とは違う側面も持ってるだろ。結束バンドは下北メインに活動してるし、そこの商店街とかの風景とか利用するのも味があって良いかもな」

 

「ほほう、それもありだねえ」

 

 結束バンドの宣伝にもなるし下北の宣伝にもなるし、ネットで色んな人に見付けてもらえれば上手くスターリーに来てもらえる事もあるかもしれない。

 未確認ライオットの審査が通る通らないに関わらず、これからも活動を続けていくならMVにだって力を入れていかなくてはならないのだ。予算がなくともそこから自分達のやりたい事や表現したい事をMVに抽出して視聴者の心にどうすれば響くのかを考える。これもサポート役としての俺の役割だ。

 

 

「ただ今回の曲の歌詞に合わせるなら他にも候補は出てきそうですけどね」

 

「あっ私良いMV思いつきましたよ!」

 

 なんか目が大変キラキラしておられるのですが……。

 清水優人は知っている。経験則で知っている。こういう時の喜多さんは陽キャオーラ満載でとんでもない事を言い出すのだ。

 

 普段の彼女なら気にしないのだが、江の島の炎天下の中階段全部上ろうと言った時といい、そもそも結束バンドを一度バックレた時といい、喜多さんは度々ぶっ飛んだ事を言い出したりやったりする事から、彼女の背後にキターンのオブジェクトが出たらそれはつまりレッドコール。いわゆる危険信号の合図である。

 その対象は主に陽キャオーラを喰らってダメージを受ける後藤さんだ。

 

 

「あ、俺ちょっとバケツ持ってきますね」

 

「え、なんで?」

 

 虹夏さんの疑問に答えず俺は足早に掃除用具入れからバケツを持ってきてスタンバイ。

 これでいつでも後藤さんの対処ができる。くくく、これが用意周到というものよ。

 

 さあ来い喜多さん、どんな陽キャ成分増し増し発言でも俺は一向に構わんッ!! 

 

 

「高校生カップルが浜辺デートで喧嘩してるんですけど、私達の演奏を見て何やかんやで仲直り。それで曲の終わりにキス! それを祝福する結束バンドっ、みたいなの良くないですか~!?」

 

 ……あれ、思ってたより割とありそうなコンセプトだな。おかしい、喜多さんならもっと過激なこと言うのかと思った。

 浜辺でタオル振り回しながらBBQして真夏なジャンボリーするとか言い出しそうだったのに。

 

 まあこれならMVにありがちなやつだし後藤さんも大丈夫だろ。この前リョウさんの家でBBQしてほんの少しは陽キャ成分に耐性ついたかもだし。

 バケツも用具入れに直し──、

 

 

「あっ、良いと思いまおぇっ、ぶぇっおぼろろろろろろろろろろろろろろろろッ」

 

「あああああああああああああああああああああああああああああ俺の服がァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 

 

 見事に後藤さんに引き止められ、バケツを手に持っていたにも関わらずアホピンクは俺の服に真正面からマーライオンしたのだった。

 

 

 

 





オチに便利な女、ぼっち。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:ポンの助さん

☆9:松竹梅684さん、華ミズキさん、裏向きカードさん、タスマニアさん、モチモチこしあんさん、小型ハサミさん、イキョウさん、すのーどろっぷさん、shia.さん、ザラメ雪さん、完全無欠のボトル野郎さん

本当にありがとうございます!
感想高評価ここすきとかたくさんくれ~!!!!!!
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