再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る 作:たーぼ
祝! UA100万突破!!
たくさんの人に見られたっぽい!!
すごい!!
「MVも結構再生されてるし、やっぱり本格的な映像になると全然違うもんだね~」
「曲が良いからじゃん?」
「はいそこ自分だけ棚上げしない。この様子だと次のライブから人も増えてくれるかも。頑張ろうね喜多ちゃん!」
「えっあっはい!」
いつものスターリーでスマホやPCを使いSNSチェックや動画確認をしている俺。
その後ろには虹夏さん達が画面を覗き込んでははしゃいでいる。
無理もない。何せ先日投稿した結束バンドのMV動画『グルーミーグッドバイ』の再生数がなんと10000再生を超えたのだ。正確には19329回も視聴されている。
何ならもうちょいで20000再生に届きそう。トゥイッターとかイソスタなどで色々駆使しながら宣伝に力を入れた甲斐があったというものだ。
「ん~でも動画投稿しただけだとこれ以上は伸びないかなぁ。どっかが紹介してくれたらいいんだけど」
「ライブをするのは大前提として、他にももっと手段を増やさないと厳しいかもですね。オーチューブを見てたとしてもキーワード検索で偶然引っかかったりオススメに出てくるとかじゃないと見るきっかけすらない訳ですし」
虹夏さんのぼやきが耳に入る。
約20000再生に届きそうなのはこれまでの動画再生数からすればよく出来ている方ではあるが、所詮それだけに過ぎない。
そう、SNSやクラスの友人に頼んだりしてようやっとそこまでの再生数になったのだ。
今のところ出来うる限りの手段は尽くしている。だからこそ今以上の伸びしろがほとんどない状態というのは、結構痛い。
他に結束バンドを知ってもらうのに良い宣伝は……やっぱりライブだろう。
それも予算が掛からないとなれば、路上ライブ……か。今のうちに良さそうな場所とか許可取れそうなとこを調べといてみるかな。
「うおっ……喜多さん?」
「ごめんなさい優人君、私もちょっと近くで動画見てもいいかしら」
「そりゃ全然いいけど……」
後ろでは後藤さんとリョウさんが動画のコメント欄についてぼやいていた。主に自分達の曲に変なエピソードつけて日記帳やら私物化されてるのが気に食わないらしい。そこはほっといてやれ。
そんな会話に混ざる事もなく喜多さんは俺のすぐ横まで顔を覗き込ませMVの動画をずっと見ていた。
そういやMVできたのが嬉しくて何度も聴いてるって教室でも言ってたっけ。
余程気に入ってるんだな~と、何となく横で見ている彼女の顔を見た瞬間、自分自身の抱いた感想を即座に否定した。
嬉しいなら、何度も聴くくらい気に入ってるのなら何かしら顔に出るはずなのだ。
例えば自分達の曲だから喜んだりとか、嬉しくて口角が上がってしまうとか、そういう風に表情が柔らかくなるはず。少なくとも喜多さんはそういう女の子だと俺は知っている。
だからこそ、気になった。
喜多さんの表情が喜んでいるというより、思い悩んでるように見えたのが。
そしてこういった場合、サポート役の俺がそのまま放っておける訳もなく。
「喜多さん、どうかしたのか?」
「……えっ? な、何が?」
「いや、何かMV見てる割には悩んでそうな顔してるから」
「あっ……そ、そう、かしら……」
これは……ビンゴですねぇ。
この様子だと虹夏さんとかには相談してないか。普段の喜多さんならちゃんと相談しそうだが、もしかしたらメンバーのみんなには言いにくい事なのかもしれない。
「少し向こう行くか」
「え? ちょっゆ、優人君っ?」
誰もいない方へ喜多さんの手を引っ張り連れて行く。
虹夏さん達はまだコメント欄についてぎゃいぎゃい(後藤さんは静かに頷いてるだけ)言ってるのでこちらには気付いてない。こういう時何もしてなくても自分達だけで騒がしくなってくれるのはありがたい。
階段を少しだけ上って受付までやってきた。
ここなら誰かに聞かれる事もないだろう。
「で、何に悩んでんの?」
「え?」
「何かなきゃMV見てあんな顔しないっしょ」
「……優人君は私が悩んでるかどうかすぐ分かっちゃうのね」
「まあほぼ毎日顔見てるし教室でも席が隣だからな。そのくらいの事なら分かるよ」
「ふふっ、何それ。いつも私の顔見てるって事?」
言い方ァ!!
「……あのね、この際だから優人君に聞きたいんだけど」
「あ、うん」
「優人君は私の歌って、どう思う?」
「喜多さんの歌?」
「ええ」
喜多さんの歌をどう思っているか。
いや、普通の質問であれば普通に返すのが正解なんだろうけど、果たしてそのまま答えるのが良いのか悪いのかの判断がつかない。
だったこれはただの質問ではなく、喜多さんの悩みが絡んでいるのだ。
MVをあんな顔で見ていたのも、自分の歌に対して何かしら思うところがあったんだろうという軽い推測くらいはできる。
しかし悩みの本質を理解するためにはまず喜多さん本人から言葉を引き出すのが一番手っ取り早い。
ここは素直に言うべきだ。
「うーん、あくまで俺の主観だけど……普通に上手いと思うぞ」
「……そう、かしら」
「おう、俺も新曲何回も聴き返すくらいだしな」
「優人君はそう言ってくれるのね」
「俺はサポート役だぞ。こういう時に嘘は言わない。……だけどそれだけじゃ何か違う。多分だけど自分自身の歌声に違和感を持ってたりするってとこか?」
「えっ何でそれを……よく分かったわね?」
「や、まあ色々ありまして……」
どこぞのツンデレツインテールにマネージャーなら演者の感情や心境をある程度読めるようになっとけって、『マネージャーの心得』とか『人間の心理・感情の読み方』とかそういう本を一日中読まされた日があったので……。
まさかこんなとこで役に立つとは思わなかったよ。ヨヨさん、やっぱアンタすげえや。ほぼ毎日天気デッキから始まるロインしてくるのさえどうにかしてくれりゃもっといいのに。
「実はそうなの。せっかくの良い曲なのに私が歌ってると何かいまいちっていうか……」
「自分の声だからそう思ったって感じでもなく?」
「うん、聴けば聴くほど違うような気がしてきて」
自身から聞こえる自分の声と他者に聞こえている声が違うというのはよく聞く話で、実際に録音した自分の声を聞いてみると思ってた以上に違ってて違和感を覚えるのはありふれた話の一つだ。
しかし喜多さんの違和感はそれとはまた別らしい。もっと根本的な、それこそボーカリストとしての問題が浮かび上がってきているのかもしれない。
ギターの練習とかで音楽についての勉強はそこそこしてきている俺だが、歌に関してはまだそんなに詳しくない。
後藤さんと家で弾き語りの練習をしてる時も彼女からギターのアドバイスはあっても歌のアドバイス自体はされないからだ。後藤さん自身も歌に関しては自分で自信がないのだろう。
喜多さんが感じているモノを俺から上手く伝えられる確証はどこにもない。
とすれば。
「虹夏さん達には言いにくい事なんだよな」
「うっ……まあ、せっかく曲ができてようやくみんな落ち着けたのにここで水を差すようなこと言っちゃうのも気が引けちゃって……」
「分かった。じゃあ他の人に聞いてみようぜ。メンバーじゃない人ならまだ大丈夫だろ?」
「それは、そうだけど……誰に聞くの?」
「困った時は分かる大人に頼る。それがゴールへの近道だ」
ということでPAブースに移動した。
「喜多さんの歌、ですか?」
「です。PAさん的にはどう思ったのかなって」
実は今回の新曲『グルーミーグッドバイ』のエンジニアをPAさんにお願いしていたのだ。
この人なら間違いないと頼み込んでみたらOKしてくれて超頼もしいと思ったのは記憶に新しい。
そんな本名も知らない美人お姉さんは少し考えてからこう言った。
「あー……補正しがいがあって私は楽しかったですよ?」
「えっ」
ぜ、全然フォローになってねえ……。今の話をカウンターで聞いていたのか、店長ですら気まずい顔でこちらを見ている。
PAさんって実はオブラートに包むの下手だったりする? なんかもう包むどころかえげつない中身そのままぶん投げてきてるけど。
しかしほぼ直球で言われたのもあってか大体の問題は把握できたかもしれない。
補正しがいがあったという事は、それだけ喜多さんの歌に何かしらの修正点やら問題点があったという事。
でも喜多さんの歌は決して下手なんかじゃない。
ライブで聴いていても正月にクラスの連中と無理矢理連れていかれたカラオケでも下手だなんて思った事は一度もなかった。むしろあの中でも一番上手かったと思う。そう、喜多さんは上手いのだ。
なのにどこがダメなのか。喜多さん本人も違和感を覚えてたし、必ずそこに何かがあるはずだ。
例えば、ただ歌うだけのカラオケと、レコーディングやライブでのパフォーマンスの違いなど。
歌が上手いだけじゃ、意味がない……?
新宿に行った時の事を思い出せ。あそこで俺は何を学んだ。ただパシらされていたりメンバーの趣味に付き合っていただけじゃないだろ。
万全にサポートするための知識だって一週間の急ごしらえだとしても少しは身に付けただろうが。
それは楽器面だけじゃなく、歌の方面でもヨヨさんから確か聞いてたはず。
確か……、
「惹き込まれるかどうか、あるいは感情の昂りや気持ちを乗せられるか、だったか……?」
比較対象なら既にあった。
同年代で結束バンドよりも上の立ち位置にいるシデロス。そのリーダーでもありギターボーカリストでもある大槻ヨヨコ。
色々聞かされたあの人こそ見本になり比較対象としてもうってつけの人物だ。
けどそれをそのまま伝えていいものなのかが悩ましい。ゴールへの近道を教えてもらうとはいってもただ楽をさせるだけじゃ成長には繋がらない。テストの答えを教えるのではなく、ヒントや解き方を教えて自ずと答えを導き出すのも一つのサポートだと俺は思う。
とすればきっかけを与える必要があるけど……どうしよ。
何か上手い言い方とかあるっけ?
そんな事を考えていると、視界の前に赤いのが舞い込んできた。
喜多さんの顔と髪だ。
「優人君っ、付き合って!!」
「んぎゃぶるぼばあッ!?!?!??!?」
「ぼっちちゃんがいきなり発狂しだしたんだけど!? なに!?」
「それは割といつもの事」
なんか向こうの方でピンク色のナニかが弾けている。爆発した? スプラボムかな?
いや、まあ俺も一瞬はビックリしたけどさ。すぐ冷静になって考えてみるとあまりにも唐突すぎて「えっ告白?」とかにもならなかった。
「落ち着いてくれ喜多さん。言葉が色々抜けてるから。どこに付き合ってほしい訳?」
「カラオケに着いてきてほしいの! よく考えたら私ってみんなから歌上手いって言われててギターの練習しかしてないし、それに甘えて歌に怠けてたのかも。だから私に足りないのは歌の練習かもしれないわ! お願い!」
自分が下手だって考えになるならそう思うのも当然か。ただ喜多さんに限って甘えてるなんて事は絶対にない。めちゃくちゃ頑張ってるじゃんね。
とはいえカラオケか……きっかけを与えるにはちょうど良い場所かもしれないな。
「分かった。じゃあこの後行くか。それと俺も行くなら必然的に後藤さんもセットになってくるけど、よろし?」
「ああ、帰り一緒なんだしそうなるわよね! ならひとりちゃんも誘ってくるわ!」
言うや否や颯爽と向こうへ行った喜多さん。あの行動力は素直に凄いと思う。あれが陽キャのスキルの一つ、フッ軽ってやつか。
何の脈絡もなく遊びに誘われたり巻き込まれるって考えたら末恐ろしいな。喜多さんの場合は一人でどこかに行くというよりも、誰かと一緒に行くというのが大前提だろうし。
ほら、いきなりカラオケ誘われた後藤さんがさっそく餌食になっておられる。
愉快な表情で顔面崩壊してるし、おそらくまたコンプレックスを刺激される事を言われたんだろう。喜多さんってナチュラル鬼畜なとこあるもんね。まるで鬼畜こけしだ。それはきんモザ。
こっちに命乞いの手を伸ばしてきてるし、そろそろ助けに行ってやりますか。
一歩踏み出したその時、ポッケの中でスマホのバイブ通知が振動した。ロインだ。
「……ヨヨさんから?」
今日は珍しく送ってくるのが早いな。いつもは夜で『今日の夜空は澄んでるわね』とか同じような天気デッキから始まるけど。
とにかくロインを開いて見てみると。
『貴方って今日空いてたりするかしれ』
最後誤字ってるよヨヨさん。ら行のフリック入力ミスってるよヨヨさん。
天気デッキからじゃないから感心してたのに惜しいな。
放課後のタイミングだから俺に用でもあったのかな。
だがまさにタイミングが悪い。ちょうど今予定が決まったとこなので、ヨヨさんには悪いがまた今度にしてもらおう。
『すいません。今日は予定があるのでまた次の機会にでも埋め合わせしませ』
送信っと。
これは俺もあえて最後に誤字をする事で相手のミスによる羞恥心を和らげてあげる作戦だ。ふふん、これが優しさってやつよ。
『煽ってんじゃないわよバーカ!』
返信まで十秒も経たずにキレられた。
おかしい、お互いの羞恥心をプラマイゼロにしてヨヨさんの脆いメンタルを気遣ってあげたというのに……どうして怒ってんだこの人。煽るだなんてそんなバカな事を俺がする訳……まあちょっとはあったけど。
予定の有無についてはもう伝えたんだしこれ以上の返信はしなくていいだろう。
ヨヨさん、何気にあなたからのアドバイスが今日役に立とうとしてますぜ。俺頑張るよ! だから次会った時は胸張って会えると思います!
────
場所を移してカラオケ店に来た俺達。
今日のミーティングは終えたので虹夏さんとリョウさんはいない。そもそも喜多さんの意向で今回は誘ってない。
「二人共三時間でいい?」
「よく分かんないけどいいんじゃね」
「あっはい」
カラオケに来たのは正月のを合わせて人生二度目だ。
だからまだカラオケ店のシステムとかはちゃんと理解してないので喜多さん任せである。もちろん後藤さんもよく分かってない、と思う。過去に後藤家で行った事はあるらしいけど、何歌ってたのか超気になるわ。
「ゆ、ゆうくん……」
「どした」
「ヒトカラって、何のためにあるんだろうね……」
一人でも楽しめるからじゃないでしょうかね。俺も分かってないけど。
この感じだと喜多さんは後藤さんに事情説明してないっぽいな。ただいきなり陽キャにカラオケ連れてこられた陰キャの構図になってる。
テレビとかネットで流行っているような曲が店内放送で流れているのを適当に聴き流してる内に慣れている喜多さんが手際よくプランとかその他諸々の機種とかを決めてくれて、俺と後藤さんはピクミンのように忠実に着いていき部屋へと移動した。
そしてさっそく。
「よ~しせっかく来たんだしまずは楽しみましょ~! 人少ない分私が盛り上げるから!」
「あっへへっ……うぐっ!?」
陰キャ少女がタンバリンとマラカスの両手装備陽キャに殺されかけていた。
攻撃力高っけえや。鬼に金棒だぜまったく。シャカシャカシャカシャカうっせえな。うっせえうっせえうっせえな。
「じゃあ最初は私が入れるわね!」
こうして始まった放課後カラオケイベント。
まだ人生二度目のカラオケとはいえ大体どんなものかは分かっていたつもりだったが、それは俺の予想を遥かに超えてきた。
まず喜多さんが歌っている最中に店員がドリンクを持ってきてくれたのに後藤さんが立ち塞がり対峙するというドラクエエンカウントが発生し。
陰キャでも歌えるんだぞと意気込んだ後藤さんが『ミッドナイトピーポーへべれけサンバfeat.ハメ外し隊/湘南のMANIMA』とかいう初めて自分の小遣いで買ったらしいCDの曲を歌って自傷ダメージを受け。
挽回しようと今度は盛り上げる方でマラカスを振り回していたらコップに当たり床にジュースを撒き散らかして落ち込む始末。
店員に雑巾を持ってきてもらい一緒に謝りつつ慰めていると「私に友達とカラオケなんて早すぎたんだ……」と悟りを開いて昇天しようとしていたところを必死に魂を食い止める羽目になったりと。
およそ普通のカラオケでは体験できない出来事を一気に体験したのだった。
うん、全部後藤さんが原因ですね。いつも通りの空回りだ。今は隣で喜多さんの歌を聴きながら大人しくストローでコーラをちゅーちゅー飲んでいる。何気に友達とのカラオケを後藤さんなりに楽しみにしていたのかもしれない。ここは大目に見てあげようじゃないか。
「あ、悪い。ちょっとトイレ行ってくる」
「……えっちょっ、ゆ、ゆうくっ……カラオケで二人だけはまだちょっと気まず」
「いやトイレくらい普通に行かせてくれって。大丈夫、ただ大人しく聴いとくだけで良いから。スマホ弄るのは一応NGな」
「うぅ……」
忠告だけを済ませ部屋を出る。
トイレは……あっちか。
特に何事もなく用を足し、トイレを後にしようとすると。
ちょうどトイレの横にある部屋から大音量と大声量の音圧が聞こえてきた。
カラオケって一応防音対策はされてるんだよな? めちゃくちゃ大人数で来て騒ぎちらかしてんのか。
まあカラオケだしうるさくてなんぼみたいなとこもあるだろうから、これもまた醍醐味というやつなのかねえ。
にしてもこの歌声、何か聞き覚えあるような……。
ははっ、いやいや、まさかね。
きっとただの聞き間違いだと、そう思って盛り上がっている部屋のドアを少しチラ見する程度で見てみたのだ。
すると。
なんかいた。
黒っぽい服装がメインで見覚えしかないツインテールの少女がドアのガラス越しにいた。
そして。
目が合った。
「………………………………うん、気のせー気のせー」
俺は笑顔で見なかった事にした。
UA100万とかいう大台に行っちゃったらしいよ。
なんかもう、ありがとうございます。
ところでどう
?記念に高評価ポチッてかない?こう、軽く祝うつもりでさ!
では、今回高評価を入れてくださった
☆9:タスマニアさん、ザラメ雪さん、モチモチこしあんさん、イキョウさん、yuzupon_hamburgさん、オティレニヌスさん、完全無欠のボトル野郎さん
本当にありがとうございます!
モチベ上がってきた! 祝え!!!!
来週はお盆だからちょいと投稿遅くなるやもです。