再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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ひと通り個人回も終えたから本編に戻るズェア。




92.路上ライブは箱とはまたひと味違う

 

 

 そうこうしているうちに路上ライブ当日がやってきた。

 

 

 場所はもちろん下北沢の駅前である。

 結局路上ライブの許可申請はせずにそのままやっちゃおうという事になり、注意されたら撤退する流れになったのだ。路上ライブは基本的に申請しても許可が下りる事は少ないので、それならもういっそ無許可でやってやろうぜそれこそがロックでしょ! 怒られる時はみんなでね! みたいな感じ。

 

 赤信号みんなで渡れば怖くない理論であった。

 一人だけめちゃくちゃ怯えてる子がいるのはもちろん後藤さんだ。今から路上ライブをするという事ともし警察に見つかったら今度こそ捕まるとか不安を漏らしてた。こういう事があるから一応許可申請して少しでも不安を払拭させておこうと思ったんだけどなあ。

 

 時刻は六時半。ちょうど会社帰りの人達もたくさんいる時間帯だ。

 今日は先客もいないからこのスペースは結束バンドが使わせてもらおう。

 

 

「ライブはここでするよー! 昨日優人くんと決めたからきっとお客さんもたくさん見てくれるはず!」

 

「結局無難な駅前なんだ。……でもそれならこんな場所すぐ決めれたはずだけど。二人は昨日すぐに場所決めして帰ったの?」

 

「えっ!? い、いや? 下北周辺を見回って色々話し合いながらここに落ち着いた感じだけどっ?」

 

「……虹夏、目が泳いでる。優人吐け」

 

「おぼろろろろろろろぉぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」

 

「そういうのいいから」

 

「あ、うっす」

 

 渾身の吐き芸をないがしろにされるの結構ショックなんですが。

 

 

「つっても虹夏さんの言う通りですよ。良い場所ないかこの辺見て結局ここが一番見てもらえるし場所的にもちょうど良いってなったんです。それ以上でも以下でもありません」

 

「そんなことどうでもいい。私は二人だけで美味い料理店に行ってないかだけが気になってる。もし行ってたらズルいから私にも奢るべき」

 

「気にするとこ金と飯しかねえのかキサマッ!!」

 

 家で出てくる料理の方が絶対豪華でしょうが。富豪の娘のくせになまいきだ。

 とりあえず事なきを得たので気付かれないよう虹夏さんに軽くウインクしておく。すると向こうもお礼のウインクを返してきた。ウッッッ!? 

 

 

「優人がいきなり崩れ落ちた」

 

 ふっ膝に矢を受けてしまってな……違う目にウインクを受けてしまってな……。危うく失明するとこだったよ。

 

 

「ところで伊地知先輩、ドラムはどうしたんですか? 車がないと持ち運べないですよね?」

 

 もうこんな光景も見慣れたのか俺に見向きもせず虹夏さんに質問する喜多さん。

 完全スルーしていくその姿勢、嫌いじゃないぜ。

 

 

「ん? ああ、それはね~。ハイハットとスネアとバスドラがあれば充分なんだよ~! そしてバスドラはこれ! はい出して優人くん!」

 

「御意!」

 

 言われた通りに傍らに置いてあったキャリーバッグを取り出す。

 

 

「ぬるっと復活したわね優人君。けど、キャリーバッグ?」

 

「キャリーバッグにキックペダルを取り付けたら簡易バスドラムになるんだよ! 荷物も運べて一石二鳥って事!」

 

「何でも代用できちゃうんですね~」

 

 ……あれ、そういや荷物はもう出したのにキャリーバッグが何か重かったような? 

 

 

「ちょっと素朴だけど意外とそれっぽい音なんだー」

 

「へ~、何か人間っぽい音がするんですね~」

 

 言いながら試しにキャリーバッグのバスドラムを鳴らす虹夏さん。

 その音は喜多さんの言う通り「ヴッ、ヴッ!?」と人間が腹パンされた時のような音にも聞こえる。キャリーバッグだからこんな音になってんのかね? 

 

 つうか後藤さんどこ行った? 十メートル以内にいるのは気配で分かるけど、正確な位置まで掴めん。最近気配消すの上手くなったな。

 まさか透明になってたりは……さすがにしないか。いくら人間辞めててもそこまではな。……ないよね? 

 

 それから虹夏さんはあらかじめバッグから出していた物をレジャーシートの上に置いていく。

 

 

「あとは物販も少しだけど持ってきたよ~」

 

「あっ結束バンド普通に売る事にしたんですね」

 

「原価率いいからって優人くんが……」

 

「売れそうな物は売る。例えそれがちょっとアレなやつでもだ。それにどちらにせよ需要があると判断したらファンは買ってくれるからな。メンバーカラーを模した結束バンドなら購買意欲も高まるはず。高まればいいな。高まってくれるかな?」

 

「最後でちょっと自信なくさないでよ」

 

 だってよく見たらただの結束バンドだしこれ。いやよく見なくてもただの結束バンドだわ。

 

 

「私は投げ銭箱作ってきた!」

 

「こいつこういう事だけは準備いいな……」

 

「まあ一応は必要な物でもありますし、設置するだけしときましょう」

 

『投げ銭してね♡』と書かれた箱を目キラキラさせながら見せてくるリョウさん。絶対ハート書く時何も思ってなかったよこの人。お金の事しか考えてないよこの人。

 そのままリョウさんはスケッチブックを取り出してこれ見よがしに俺達の前へ出してきた。

 

 

「あと結束バンドのマスコットキャラクター作ってきた」

 

「えっ、何か死にかけだけど……」

 

 描かれているのは結束バンドのマスコットキャラクターだから名前はけつばんちゃんと言うそうな。

 なんか謎の着ぐるみ感溢れる生物が結束バンドを首に巻いているのだが、その表情は今にも死にそうなほどやつれている。というか普通に「餓死する……」とか台詞に書いてある。あれ、マスコットキャラクターって喋るもんだっけ? 

 

 

「投げ銭一万円貯まるごとに餌が与えられて元気になってく設定」

 

「トゥイッターで最近よく見るやつ!」

 

「これ結束バンドのイメージがマイナスになる可能性ありません?」

 

 金にがめついバンドって思われるかもしれないよこれ。「シャトーブリアンうめ~」とか台詞のせいで印象最悪なんだけど。

 

 

「こういうのはダメっ。あたしがちゃんと可愛い感じに直しておくから一旦このキャラはお蔵入り!」

 

「私のけつばんが……」

 

「絶対愛着持ってないでしょうがアンタ。つーかいい加減後藤さんはどこ行」

 

 そうやって探そうと周囲を見渡した時。

 どこからともなくこちらに近づいてくる影があった。

 

 

「うええええなsbヴjbvjsjdwみんなやってdのsんs応援に来dmヴぉえじょjvなs」

 

「なん……だと……!?」

 

「今日のライブ終わったああああああー!!」

 

 妖怪キクリン襲来。一升瓶を片手に予測不能回避不可能の災厄がやってきた。

 

 

「ちくしょう何でバレた!? SNSでやるとは呟いたけど常に泥酔してるきくり姐さんが見るはずもないのに!!」

 

「いや~結束バンドがライブやるって先輩から聞いたからさ~!」

 

 同時にスマホの通知が鳴る。見ると店長から『うちに居るのが耐えられなくてお前らを売った。すまん……』と謝罪も一緒に送られてきた。

 まだ審査待ちとはいえ少しでも知名度広げようとしてる大事な時期だってのにこんな簡単に俺らを売ったのかあの店長。何てことしてくれてんだ。

 

 

「でも箱でのライブかと思ったけど路上ライブか~。打ち上げねーなこりゃ。せっかくただ飯にありつけると思ったのにぃ」

 

「……きくり姐さん、それってつまり飯さえ渡せば帰るって事ですか?」

 

「お酒もね~!」

 

「未成年だから買えねえよ詰んだちくしょうッ!!」

 

 ハイエナ精神しかねえのかこの酔っ払い。

 しかし野放しにしてしまうと却って周囲に絡みに行かないか心配だな……。いっそここに繋ぎとめて監視しておくのが得策か? 何この究極の二択。超迷惑。

 

 

「虹夏さん達はライブの準備しててください。俺は呼び込みときくり姐さんの足止めしとくんで今のうちに早く!」

 

「何かそれ死亡フラグ立ってない!? でもありがとっ、そこは任せた!」

 

「ごめんね優人君!」

 

「グッドラック」

 

 そんな訳で準備を始める虹夏さん達から少し離れたところにきくり姐さんを連れていく。

 ……ん? 後藤さんの気配が離れた? 見たところ周りに隠れられる場所はないし…………まさかキャリーバッグの中なんて事はないよな。いやけどさっき虹夏さんがバスドラの代わりに鳴らした時人間みたいな声したような……。

 

 

「……まあいいか。あとは虹夏さん達でどうにかするだろ」

 

「ん~どしたんゆうきゅん? 独り言なんて呟いてないで私と喋ろうぜ~!」

 

「今から呼び込みすんだから少しは黙っててくれませんかね!? 酔っ払い連れて声かけるのリスクでしかねえんだからな!?」

 

「うぃ~まあまあそう言わずにさ~。私だって邪魔しにきた訳じゃないんだしそこら辺は弁えてるよ~ん!!」

 

 弁えてる人は大ボリュームで話さないんすよ。既にもう悪目立ちしつつあるんすよ分かってんのか。

 

 

「はぁ……きくり姐さん、アンタ容姿は良いし少しだけ黙っててくれりゃ集客に繋がってプラスに働く可能性あるんだからちょっとは協力してください。報酬として牛丼の特盛くらいは奢りますから」

 

「マジで!? きゃっほうゆうきゅん愛してるぅ!! やっぱ持つべきものは優しい年下男子だね~! 君の愛情が私を救うぜ!!」

 

「アンタにあるのは苦情だよ」

 

 酒臭えからくっつかないでほしい。夜の駅前で年上の酔っ払い女性に抱き着かれてるシチュエーションとかちょっとイケない匂いがぷんぷんしま……っていやマジで臭えな!! 

 あとどこからともなく視線が痛い! 主にライブの準備してる方面からとんでもない威圧感と視線ぶつけられてるような気がする!! 

 

 何とかきくり姐さんを引っぺがし黙らないと報酬なしと言ったらちゃんと口を閉じた。

 その間に軽く呼び込みをしつつ虹夏さん達の方を何回か確認しておく。

 

 十分もすれば準備も進み、その雰囲気と空気を感じ取ったのか周囲には自然と人が集まってきていた。

 ……あ、キャリーバッグの中から後藤さん出てきた。やっぱりあの中にいたのね。バカなのか? バカだった。

 

 何やら喜多さんと話しているようだが当然こちらまで声は聞こえない。表情からして後藤さんなりにアドバイスしてるみたいだけど、こっから見ててもキャリーバッグの中にいるせいで説得力の欠片も感じねえ。

 何となく見てたら後藤さんと目が合った。うわぁ……ゾンビみたいにこっちに手伸ばしてきてる……。おそらく助けを求めてるか近くに寄ってこいという意味だろうけど、よく俺がいるとこすぐに見付けたな。

 

 えっと、空いてるスペースはまだありそうか。

 

 

「きくり姐さん、あっちならまだ前も空いてるんでそこに行きましょうか。呼び込みはもう終わったんで喋ってもいいですよ。もちろん迷惑かけない程度に」

 

「ぷはぁ~っ、黙ってるあいだ酒も飲めないからしんどかった~!」

 

「減点方式だから何かやらかす度に牛丼の量ランクダウンさせますね」

 

「今から一滴も飲めないじゃんそれ!?」

 

「やらかすの分かってて飲んでたのかアンタ!?」

 

 はいもう俺に迷惑かけたので特盛から大盛にランクダウンね。

 うぎゃ~と喚くキクリン怪獣の首根っこを掴みながら前の空いてるスペースへと向かう。酒臭いのが原因なのかは分からないが、俺達が前に行くほど自然と人が避けていったのはきっと気のせいじゃないだろう。

 

 演者と観客の距離感は箱の時よりも近く、およそ一~二メートルくらいしか離れていない。

 観客は扇形で演者を囲むように集まり、一人一人が極力通行人の迷惑にならないよう暗黙のルールの中で路上ライブという領域を展開している。

 

 箱とは違う雰囲気というのもあり、結束バンド……特に喜多さんはいつもより表情が強張っている様子だ。

 またも後藤さんと目が合う。今度はお互い意思疎通をするように。……なら特に心配はいらなそうだな。

 

 

「ゆうきゅん」

 

「何ですか、酒飲むのは禁止d」

 

「ちゃんと見ててあげなよぉ」

 

「……分かってますよ」

 

 というかみんな立って見てるのに一人だけ地べた座って見てんじゃないよ。この人個人が持ってる世界があまりにも強すぎて着いていけねえ。

 ため息一つ零しながら前を見ると、今度は喜多さんと目が合った。

 

 いつもより近くて、箱とは違いステージの上に立ってる訳でもないから目線もほぼ同じ。そのせいか今の彼女を演者というよりかは等身大の女の子として見る事ができた。

 初めての路上ライブ、そもそもライブ自体が久しぶり、以前まで抱えていた不安と悩み、克服していたと思っていたのがまたじわじわとぶり返してきたのかもしれない。

 

 そういえば新宿でしごかれてた時、ライブ前にヨヨさんが言ってたな。プロでさえライブが怖くなくなるなんて事はないはず。上を目指してバンド活動を続けていくなら絶対にその先も緊張し続ける。だからその不安を少しでも払拭するために練習するのだと。

 別にそれが全てだとは思わないが、納得できる部分も多々あった。

 

 つまりその理論で言うなら、きっと問題はないと俺は思う。

 練習だってしてきた。悩みと向き合い多少なりとも強くなった。そういうのを身近で見てきたから、俺は真っ直ぐと喜多さんを見つめた。

 

 後藤さんとのアイコンタクトで大丈夫という確信もあった。

 だから俺のした事はとてもシンプルだ。

 

 強張っていた喜多さんに向けて、大丈夫だという意志を込めて軽く頷き微笑む。

 ライブを楽しみにしてるファンと同じような気持ちで、届ける。

 

 彼女から、強く頷く動作があった。

 

 

「あとはグッズ買いに来る人がいないか見つつライブを楽しむだけですね」

 

「さすがだね~ゆうきゅん。もう立派なサポーターだ」

 

「全然ですよ。今回俺は何もしてません。そこはメンバーが補ってくれたんで、俺は何も気負う必要ないぞって伝えただけです」

 

「そういう細かいとこをフォローできるようになってるとこがさすがだって言ってるんだけどねぇ」

 

 こんなのは近くで関わってる人なら誰だってできて当然でしょうよ。

 きくり姐さんの場合はフォロー入れる前に自分から喜んで全部壊していきそうだけど。

 

 全員の準備が終え、それぞれスタンバイに入る。

 第一声は我らがギターボーカルだった。

 

 

「みなさんこんばんはー! 私達は結束バンドです。よろしくお願いしまーす! それではさっそくですが一曲目聴いてください! 『ギターと孤独と蒼い惑星』」

 

 初の路上ライブが始まる。

 

 

 

 端的に言えば路上ライブは成功を収めた。

 最初は緊張していた喜多さんもいざ始まってしまえば何の心配もいらなかったと思ってしまうほど歌もギターもよくできていた。というか歌めっちゃ良くなっててこっちも驚いた。レコーディングの時の歌声とほぼ変わらないんじゃないかあれ。

 

 他は言わずもがな、虹夏さんとリョウさんはリズム隊としてその実力を遺憾なく発揮し、後藤さんも路上ライブにしてはちゃんとやれていたと思う。

 それは二曲目三曲目になっていくにつれて緊張が解れてきたのか、みんなの音もどんどん良くなっていった。

 

 途中から客足も増え、無粋になってしまうが投げ銭箱にもお金を入れてくれる人が何人かいて貴重な収益を得たのは大きい。投げ銭箱にお金が入れられる度リョウさんがチラチラ箱の方を見ていたのが一番の無粋だけど。

 周囲からはこんな声もあった。

 

 

「あーこの曲好きだわ」

 

「ね~声も良いね~」

 

「あんまり聞かない歌詞だけど所々刺さる~」

 

「バンドやってた頃思い出すなー」

 

「うん、あの子達には頑張ってほしいねぇ」

 

「結束バンドか、ダジャレみたいな名前でおもろいけど聴いた事ある?」

 

「ない。こんな名前のバンドあったら逆にすぐ覚えるっしょ。けど気に入ったしCDとか売ってるみたいだから買ってこうぜ」

 

 とまあ、こんな感じでおおよそ好印象であった。

 何故かきくり姐さんに「ゆうきゅん嬉しいのは分かるけど尻尾ぶんぶん振りすぎだって~」とか言われたけど無視した。人間に尻尾は生えないからきっと酔ってて幻覚を見ただけだろう。

 

 ライブが終わると見ていた客から盛大な拍手が送られた。ライブ中にもいくつかグッズが売れ、売り上げも初の路上ライブにしては好調。

 途中で警察などに注意される事もなく、つくづく下北はバンドマンにとってありがたい場所だという事も再認識した。

 

 

「今日のライブは終了です。ありがとうございましたー結束バンドでした~!」

 

「これから毎週ここでライブするんでよろしくね~!」

 

 ライブが終われば自然と人も散っていくもの。

 それぞれ感想を話しながら帰っていく観客を見つめていると、誰かと目が合った。後藤さんと喜多さんと合わせると今日で三人目。しかしその人物は結束バンドの誰かでもなく、関係者でもない。

 

 観客側に突っ立っていた女性は、見た事のあるツーサイドアップで首に包帯、天使の羽が生えた鞄を背負いこちらを見ていた。

 つーかめちゃくちゃ因縁のある相手だった。そう、俺達をボロクソに言ってくれたぽいずん何某である。

 

 幸い結束バンドの面々は片付けの最中で向こうに気付いていない。向こうは向こうで俺と目が合った途端、ビクッと体を跳ねさせ慌てるように背を向け去っていった。

 ……まあ突っかかってくる様子もなかったし別にいいか。さて、そんな事より俺もみんなが片付けてる間に物販を売り捌いて貢献していくかね。

 

 

「や~みんな良かったよ~」

 

「あ、廣井さん、ありがとうございます!」

 

 割かし順調にグッズを売っていると、ようやくライブが終わって酒が飲めるようになったきくり姐さんが近寄ってきた。もう飲んでる……。

 

 

「みんなの初ライブから見てる身としてはこみ上げてくるもんがあったよ~」

 

「お買い上げありがとうございましたー。ふぅ、グッズはこんなもんかな。虹夏さん、物販はもう終わ」

 

「主に胃からおぼろろろしゃぁぁぁぁぁぁ」

 

「俺の結束バンドパーカーがァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!? せめてズボンにしろやこの酔っ払いッ!! 最後の最後でやらかしおって……報酬なしじゃボケェ!!」

 

「うあああああああそんなあああああああああ~ッ!!」

 

「吐瀉物汚いとかじゃなくてそこなの優人くん!?」

 

「あっこの前私がゆうくんの服に吐いたのもあるからそれで少し慣れちゃったのかも……」

 

「嫌な慣れすぎるっ!」

 

 後藤さんの面倒を見てる以上今更ゲロなんて特に気にもせんが、この結束バンドパーカーに吐かれるのはさすがにダメージが大きすぎる。

 きくり姐さんには路頭に迷ってもらおう。たまには罰も必要だ。

 

 

「……トイレで着替えてきます」

 

「ああ、うん。あたし達ここで待ってるね……」

 

 

 

 

 トイレで私服に着替え、汚れたパーカーを水道でなるべく洗い流してから袋に入れて臭いがしないよう何重にも袋を重ねて封印。

 駅前に戻り後藤さん達と合流。俺が着替えてる内に報酬なしと言われたのがショックだったのか、一升瓶を空になるまで飲み路上で無様に寝ているきくり姐さんを一瞥してから放置……する訳にもいかず、知人という事を伏せて交番に預けてから俺達は打ち上げにファミレスまで来ていた。

 

 

「いや~初めてだったけど上手くいってよかったね~」

 

「投げ銭五千円になった。優人、グッズも合わせていくら?」

 

「グッズとCDもそれなりに売れたんで全部合計すると一万いくかいかないかくらいですかね」

 

「なるほど」

 

「おいこらちょっと待て。何で自分の財布に投げ銭入れてんだ?」

 

「? 私が作ってきたからだけど」

 

「虹夏さん拘束」

 

「よしきた」

 

「殺生な……」

 

 どの口が言ってんだこの野郎。

 

 

「それにしてもお客さん結構見てくれてましたね~。立ち止まってくれた人も多かったですし!」

 

「あっゆうくん、ポテト……」

 

「あいよ。俺のやるからそれで我慢しろ。そういや遠くで聴いてくれてた人もいたもんな」

 

 控えめにねだってくる後藤さんの鉄板プレートの上に自分のポテトを全部置きつつ答える。

 

 

「新曲が良かったのかしら!」

 

「郁代の声がよく通ってたからじゃない?」

 

「それは俺も同感です! 喜多さんの歌声すげえ良かったもん! めちゃくちゃ成長感じたよあれ! ちょー最高だった!」

 

「優人くん尻尾振りすぎ。喜んでるのは伝わってるからもうちょっと落ち着こ」

 

 もし俺が無関係な人の立場だったとしても立ち止まって聴いてた自信ある。

 そんでグッズとCD破産するまで買ってたと思う。ごめんちょっと盛った破産寸前まで買ってたと思う。

 

 

「えっ、いやぁ……そんな……ふふっ、名前呼びやめてくださいよ~」

 

 おうおう、照れちゃって可愛いとこあんじゃんか喜多さん! 

 てっきり頑張ったんだから当然ですって自信持った態度で来ると思ってた。

 

 

「郁代」

 

「やめてくださいってばぁ~」

 

 褒められてるからか名前呼びなのに喜多さんがいつもより柔らかい反応になってるだと……? 

 よし、今の流れなら俺もノリでいけるか!? 

 

 

「かっこよかったぜ郁y」

 

「やめてって言ったわよね?」

 

「マジでごめんなさい産まれてきてごめんなさい」

 

「まったくもうっ……」

 

 近い近い、近いです。あと照れて顔赤くなってんのか怒って顔赤くなってんのか判別できねえ。

 ただ怖いのだけは確か。マジ調子乗ってすいませんでした。

 

 怯えている俺をよそに、後藤さんは俺のポテトを満足そうに食べていた。

 食への集中力すげえな。

 

 

 あと余談ではあるが、交番に預けていたきくり姐さんは志麻さんにブチギレられながら連れて帰られたそうな。

 

 

 

 





清水優人がスターリーの狂犬と名付けられた理由として、スターリーと結束バンドの事になると犬のように感情が大きく揺れて分かりやすいからとの事(星歌・PA談)


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:フレイドさん、Rodríguezさん、遊技林さん、狩り兎さん、あったかモコモコさん

☆9:豊寿丸さん、Esuty3510さん、タスマニアさん、おにぎりぃさん、モチモチこしあんさん、イキョウさん、ザラメ雪さん

thank you!!
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