再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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ちょい長め。

それとあらすじ部分に幼メンの表紙代わりとなるイラストを掲載したので良かったら見てみてね。
以前Twitter(X)でご厚意で描いていただいたファンアートを再度許可を貰い今回幼メンの表紙として使わせていただく事になりました。

幼メンの小ネタとか詰まっててめっっっっっちゃ素晴らしいイラストだから是非とも閲覧する事をオススメするよ。
清水優人の容姿も見れるぜ!




95.ある意味ちょっとしたフェスと考えればまだマシかもしれない

 

 

 

 あれからというもの、俺は何度か虹夏さんに考え直さないかと言ってみたが頑なに拒否された。

 

 リョウさん曰く、姉妹喧嘩した時の虹夏さんほど意地っ張りな人間は中々いないとの事。普段俺達と話す時は普通なのだが、話がライブの件になった途端店長の顔が脳裏に浮かぶのか一瞬で頬が膨れるのだ。

 それはそれでハリセンボンみたいで可愛いが、耳を貸してくれないと説明するにもできない。

 

 いっそ強引に向こうのライブハウスの悪評を脈絡もなく言おうとした時もあったが、何故かそういう時に限って虹夏さんのアホ毛がセンサーのように激しく揺れ、それを合図に虹夏さんは両手で耳を塞ぐのである。

 どうなってんだあのアホ毛。

 

 ロインで送ろうとした時も先にメッセージが送られてきて、『ライブハウスの件だったら大丈夫って言ったでしょ。もしそれでもまだ折れないんだったらいくら優人くんでも一週間は口聞かないからね! ロインならいいけど!』と言われた。

 折れた。それはもうポッキーのように簡単に折れた。だって女の子にリアルで一週間口聞いてもらえないとか地獄じゃん。しかも虹夏さん相手だと尚更。

 

 そんなこんなで手詰まりであった。

 さすがにこんな意固地な虹夏さん初めてで俺も少々戸惑っている。何なら伊地知虹夏ならぬ意固地虹夏だ。うん、相当戸惑ってるわ俺。

 

 俺が折れて話を振らなくなったからか虹夏さんのテンションはここ最近高く、練習も路上ライブも好調っちゃ好調だった。

 例の件を変に気にして集中できないよりかはまあ良いかなとポジティブに考えつつ、時間は過ぎていく。

 

 

 ──―

 

 

 

 で、あっという間にライブ当日がやってきたとさ! 無常だね!! 

 

 

「よーし! 今日は頑張ろ~! 未確認ライオットに向けての前哨戦だよ!」

 

 悪名高いライブハウスの中で虹夏さんはテンション高めになっておられた。

 はいはい、ここまで来たら俺だってもう何も言いませんとも。精々結束バンドのみんなが上手くやれるようフォローに全力を尽くす所存ですよ。

 

 

「ゆ、ゆうくんシールドっ……」

 

「人を勝手に盾にしてんじゃねえ」

 

 後藤さんは見知らぬ箱に警戒心を露わにしていた。

 意外と今回に関してはその警戒心もあながち間違ってないからきつく言いづらいとこある。

 

 

「優人くん軽く挨拶回りしてこ!」

 

「分かりました。ほれ後藤さん、俺に引っ付いたままだと逆に他人と物理的な距離が縮まっちまうぞ」

 

「うっ……で、でもまだゆうくんの後ろにいれば何とか耐えられるかも……」

 

 なんですと? まさか……これも路上ライブで人前にいてもある程度大丈夫になったという成長の一種なのか……!? 

 すげえ、路上ライブの成果出てんじゃん! 

 

 

「喜多さんっ、後藤さんが成長してるかもしれねえ! どうしよう、今日は赤飯かな!?」

 

「良かったわねー」

 

「はいはいとりあえず今は挨拶行くって言ってるでしょ」

 

 ああ、虹夏さんっ、今襟首掴んで引っ張られると俺というより後ろにくっついてる後藤さんが体勢きつくなって……ないわこいつめちゃくちゃホールドしてきやがる! コアラか? 

 特にする事もないのか虹夏さんと俺の他に喜多さんやリョウさんも着いてきた。

 

 

「おはようございます! 結束バンドです!」

 

「あっはよっす……」

 

「?」

 

 なーんかしらけるような挨拶が返ってきましたぞ。

 というよりかはあの人達も周りの雰囲気を上手く掴めずに他の人を観察しているように見える。まるで思っていたのと違っていたような、そんな空気を纏っているのだ。

 

 そういや虹夏さんとの件で折れてから詳しく調べてなかったのを思い出し、スマホで今日の出演者を調べてみる。

 ライブハウスの名前を入れサイトに飛んだところで、俺達に近づいてくる足音と共にやけに軽そうな雰囲気で声をかけられ振り向く。

 

 

「あ~っ、え~とどちらさんでしたっけ?」

 

 何となくだが確信した。

 この男性が結束バンドにメールしてきたブッカーなのだと。だって見るからに軽そうだもの。すぐヘマしそうな雰囲気醸し出してるもの。顔だけ無駄にイケメンでなんかムカつくんだもの。

 

 

「あっあたし達」

 

「輪ゴム? じゅげむ? あっけっそく? バンド? さんっすね~」

 

「あ、えっと」

 

「……」

 

「出演頂きありがとうございます~。ブッキングマネージャーの柳でーす。そんじゃリハやるんで準備お願いしますね~」

 

 そう言ってへらへらと手を振りながら去っていくブッカー。

 つうかあの男結束バンドの事を何と言った? 依頼してきておいてなんかふざけた間違いしてなかったか? 

 

 

「あァん……?」

 

「優人くん出てる。顔のそこら中に青筋出てるから抑えてっ」

 

 おっといかんいかん、いくら失礼な態度を取られてもこっちまで同じ土俵まで落ちたらあのブッカーと何も変わらない。

 あくまで平静を保っていないと。変に俺が騒いで虹夏さん達に迷惑をかける訳にはいかない。こういう時は心に礼儀も作法も上品な京都人を憑依させるんだ。

 

 

「ちなみに優人君、今の気持ちを素直に表すなら?」

 

「死ねどす」

 

「全然抑えれてない!? あとそれ京都弁のつもり!?」

 

 だってあいつ結束バンドの名前ちゃんと覚えてないもん! ブッカーなら依頼するバンドの名前くらい覚えてるのが普通でしょ! 

 何だよ寿限無って! ぽんぽこぴーのぽんぽこなーかよ。最低限の礼儀もなってねえじゃん! 

 

 

「うっあっ……あァ……ッ!?」

 

「それよりも優人君やばいわ! ひとりちゃんが今の柳さんって人のせいで酸欠になってる! きっとへらへらしたチャラ男オーラがひとりちゃんの空気を全部持ってったのよ!」

 

「何だって!? なら必要なのは酸素か! 酸素だな? 酸素持って来ーい!」

 

 こんな事もあろうかと酸素スプレーを持ってきていたのであった。

 とりあえず後藤さんを元に戻して事なきを得る。スターリーならまだしもここで人死はさすがに洒落にならんのよ。大騒ぎ不可避よ。

 

 ブッカー柳への憤りもまだ多少はあるが今はどうでもいい。

 そんなのより今日出演する同じバンドの人達へ挨拶をしなければならない。よく考えたらサイトで今調べるよりもみんなここにいるんだから直接会話すればいいじゃないと結論付けた次第。

 

 という訳でひとまず結束バンドTシャツに着替えてから楽屋に挨拶回りする事にした。

 

 

「あ~おはようございます! 私達地下アイドルの『天使のキューティクル』です! 今日はよろしくお願いしまーす! ちなみに私はミカエルですっ☆」

 

「え? あ、あ~と……け、結束バンドです~! よろしくお願いしまぁすっ」

 

 バンドじゃなくて地下アイドル来ちゃった。

 しかも結構位が高い方の天使の名前だ。どういう事だってばよ。……いやダメだ吞まれるな清水優人、ここはサポート役として俺もちゃんと挨拶しなきゃだろう。

 

 

「あ、どうも、結束バンドのサポートをしてる清水です。皆さんは天使がモチーフなんですねぇ。おっと、そういえばこちらにも天使がいるんですよ。ご紹介しますね。この方は大天使ニジカエルって言うんですけど」

 

「優人くんもういいからッ! ほんとそういうとこだよ!?」

 

 お隣の天使様に何故かダメ出しされて怒られた件。

 どうして。

 

 

「みんな行くよ! 女の子ばっかのとこにいると優人くん何しでかすか分かんないから退避しないと危険だ!」

 

「あれ、俺ってばいつからトラブルメーカー扱いになったんですか?」

 

「了解です! 誰引っかけてくるか分かったもんじゃないですもんね!」

 

「喜多さん最近当たりきつくない?」

 

「あっはい」

 

「後藤さん???」

 

「依頼してくるならせめてお菓子くらい用意してないのかね。不親切な箱、ブッカーもアレだしやっぱり怪しい」

 

 うん、山田はむしろ興味なさげで逆に安心した。

 けどスターリーでも別にお菓子ないでしょうが。

 

 その後も何組か挨拶しに行ったのだがこれまた不安は的中した。

 さっきの地下アイドルの他に全員閣下っぽい姿をしたデスメタバンド、定年退職したいかにもヅラっぽいおじさんなど、まさかのジャンル被りが一つもないアーティストばかり集められていたのだ。

 

 これじゃまるで仮装大会である。

 しかもある意味普通の格好をしている結束バンドが一番浮いてる始末。定年おじさんのスーツ姿もこの中だと衣装っぽく見えて馴染んでるようにも見える。見えるか? 

 

 

「いや~私は弾き語り初めてまだ半年くらいなんだけどここから絶賛のメールが届いてねぇ」

 

「あっはい……」

 

 何故か定年おじさんの話に付き合わされている後藤さん。歳を取ったら話好きになる傾向でもあんのかな。でもって基本黙ってる後藤さんは話し手からすれば格好の的だ。おいたわしや。

 

 

「自分ではハードロックじゃないと思ってるんだけど、最近はこういう曲もロックに分類されるのかなぁ」

 

 退職おじさんのスマホを見せてもらうと、宛て名以外全て結束バンドに送られてきたメールと同じ文面だった。

 これには喜多さんも不審に思い始めたようで、

 

 

「えっ私達のと同じ文面ですけど……」

 

「み、ミスっただけでしょ!」

 

 虹夏さんの往生際は悪かった。実際定年退職の人の曲を聴いてないからまだどうも言えないが、弾き語りでハードロックとはさすがに思えない。

 そもそもこの人……臼井さんっていうのか。持ってるのアコギですやん。これでハードロックは無理ないか? 

 

 つうかこのメールを見るに……あり得ない訳ではなさそうか。

 ちょっと気になったので地下アイドルの人達の方へ向かう。

 

 

「あの、すいません。結束バンドのサポートをしてる清水ですが、ちょっといいですか」

 

「はい、何でしょう?」

 

 適当に天使っぽい衣装を着てる人に声を掛けると、くるくるツインテールの子がこちらに振り返った。

 見た目的には年下っぽいけど、高校生くらいかな。ツインテールのせいであの地雷系女のシルエットが脳裏に浮かんだがすぐに排除する。

 

 

「失礼でなければこの箱から送られてきたブッキングのメールを見せてほしいんですけど、大丈夫ですか? あ、こういうのってマネージャーとかそういう人に聞いた方がいいのかこれ? マネージャーの方とかいます?」

 

「う~ん、そのくらいなら大丈夫だと思いますよっ。私が聞いてきますね!」

 

 そう言うとくるくるツインテールの子は他の子と話していたマネージャーらしき女性の人と話し、スマホだけを借りてこっちに戻ってきた。

 せっかくなので会釈をしておく。

 

 

「はい、これが出演依頼のメールだそうですっ」

 

「どうも」

 

 だそうって事はこの子達は直接メールを見た訳じゃないのか。まあこういうのは普通マネージャーとか事務所の人が見るから不思議でもない。というかなんかやけに甘い匂いすんなこの子。もしかして天使のイメージとかでそういう香水つけてんのか? どんなイメージなんだ天使。

 いや心の中でツッコミしてる場合じゃない、メールを見ないと。

 

 …………あーね。

 

 

「やっぱりか……」

 

「どうしたんです?」

 

「えっと、質問なんですけど天使のキューティクルって曲のメインジャンルとかありますか?」

 

「う~ん、普通にアイドルが歌って踊るようなJ-POPですよ? 曲名はギャップを狙って時々強い単語を使いますけど!」

 

 ギャップを狙った強い単語というのが気になるけど、今は聞かないでおく。うん、後で個人的に調べてみよう。

 

 

「それがどうかしたんですか?」

 

「……いえ、何も。スマホありがとうございました」

 

 文面はやはり結束バンドと同じだった。地下アイドルがハードロックなんて……まああり得ない話ではないだろうが、少なくとも天使をモチーフにしてるアイドルの曲がハードロックはないと思う。

 ギャップが気になるけどそれは曲名の話だったし、多分関係はないはずだ。この子達自身が何も知らなそうという事は、多分マネージャー辺りがどんな依頼でも法外な仕事以外なら受ける方針なんだろう。地下アイドルは厳しいなんて話はよく聞くし。

 

 ここは普通に去るのが得策かな。

 

 

「じゃあこの後のライブ客席の方から応援してるんで頑張ってください。え~っと……」

 

 さっきのリーダーっぽい人がミカエルだったって事は、それに近い名前だよな? 

 

 

「ガブリエルさん?」

 

「惜しいぃ~! 私はラファエルでした~! これからはちゃんと覚えてくださいね!」

 

 惜しいは惜しいけど良いのかそんな名前で。天使モチーフでも名前までそんな寄せなくたっていいと思うぞ。

 ニジカエルみたいに本名からもじるだけでも個性出そうだけどな~。

 

 

「ラファエルさんね。覚えた覚えた」

 

「本当ですか~? ステージの方から目が合うか確認しますからねぇ!」

 

 何このアイドル押しが強すぎない? なるほど、こうやってファンを落とし込んで沼らせてから一緒にお金も落とさせるのか。

 なんて卑劣な商売なんだ地下アイドルってのは。どれ、ラファエルの物販くらいは買ってやるか。

 

 

「そういうのは俺よりも推してくれてる人達にファンサしてあげなきゃじゃん」

 

「新規ファンの獲得も大事なんですよっ」

 

 それはそうだね。

 結束バンドもそのためにここに来たからね。正論すぎてぐうの音も出ねえわ。

 

 

「天使のキューティクルさん、そろそろ準備お願いしまーす」

 

「あ、呼ばれてますよ。じゃあ俺行きますね。ではっ」

 

 また何か言われる前に去る事にした。

 こういうのはしつこく勧誘してくるのが常だから離れるに越した事はない。あばよとっつぁん~! 

 

 

「ああっ、ちゃんと私を推してくださいね~!」

 

 普通に去ってる最中に言われたわ。

 

 

 

 ────

 

 

 

 で、ライブが始まった。

 

 

 最初は定年退職おじさんで、聞くに堪えないほど不幸な人生を送ってきたMCを聞かされてからの弾き語りはもう胸中を酷く刺激した。

 友達に裏切られ一億の借金を背負い娘は非行に走り三回も家が全焼して娘が成人したと思ったら妻に離婚を切り出されたとか、自分の人生じゃないのに思わず泣きそうになったもん。可哀そうすぎるよあのおじさん、しかもカツラズレてきてるし。

 

 

「じ、人生がハードだからハードロックなのかも……?」

 

「無理がないですかそれ……?」

 

 おいどんもそう思います。

 

 次は地下アイドルの天使のキューティクル。何気に今日の出演者の中で一番客を集めているのはこのグループだろう。理由は単純、観客の声すっげえから。

 あとアイドルオタクにありがちなハチマキとか法被着てる人が多い。まるでオタク専用の特攻服だ。

 

 

「この世からダメージヘアを無くしたい! 天使のキューティクルです! みんな~いつものいくよぉ~! シャンプー? リンス? ヘアオイル~!」

 

「「「「「ヘアオイル~!!」」」」」

 

 掛け声というかコーレスというか、グループ名称にキューティクルと入ってるのはグループとしてのテーマみたいなものなのだろうか。

 アイドルは専門外なのでよく分からんとです。

 

 

「じゃあ聴いてね☆『黒髪以外くそビッチ!』」

 

 なんてこと言うんだあのアイドル達。

 黒髪以外も認めてあげて。じゃないともれなくうちの結束バンド全員そういう風に見られちゃうから。あ、くるくるツインテールのラファエルさんと目が合った。マジで俺のこと探してたんだな。

 

 

「何か独特な盛り上がり方だね……」

 

「独特というか完全にアイドルノリですね。そのせいで後藤さんとリョウさん地蔵と化してますけど」

 

「女子がしちゃいけない顔してる!?」

 

 仕方ないよ、だってそういうのに耐性ない人達だもの。

 

 

「ま、まああたし達とは一番縁遠いジャンルだしね……」

 

 今ジャンル違いなの完全に認めましたよね虹夏さん? 

 

 

「何言ってるのか全然分かんないですけどお祭りみたいで面白いですね!」

 

「喜多ちゃんさすがの適応能力……」

 

「楽しむを見出すプロだな」

 

 その陽キャ力が羨ましい限りです。

 

 

「……とはいえ、このお客さん達が私達のバンドに興味持ってくれるのかしら……今まででのライブの中で一番異質ですよね」

 

 ピクリッと虹夏さんの体が反応するのを俺は見逃さなかった。

 この現状を見てさすがに誤魔化し切れないと思い始めたか。ジャンルめちゃくちゃだもんな。

 

 と、ここでアヘェ~な顔をしていたリョウさんが突然元に戻った。

 

 

「結束バンドのファンも来てくれてはいるけど、こんなにジャンルがバラバラじゃ新しい箱でする意味はないかも。いくら何でも怪しすぎる」

 

「ですね。さっき色んな出演者の人に確認しましたけど、全員のメールの文面が全て同じでした。知り合いがいない分、穴埋めで呼ばれたクリスマスライブの時より酷いかもです」

 

「うっ……で、でもっブッカーさんも何か狙いがあってそうしてるかもしれないし……」

 

 虹夏さんがそう言った時だった。

 ライブ中にも関わらず後ろの方で何やら大きな声が聞こえた。

 

 

「柳さんブッカーが寝るのはまずいですよ! 起きてください!」

 

「代わりに見といて~……」

 

「「……」」

 

 虹夏さんと二人で音源の方を見ると、へらへらブッカー柳が思いっきり座ったまま寝ていた。

 なるほど、そりゃレビューサイトでも評価が悪い訳だ。あんなの見たら誰だって良い思いはしない。むしろそっちが呼んでおいて何様なんだと思うだろう。

 

 リハなどの時もそうだったがこの箱で特に評判が悪いのはあのブッカーだけで、それ以外は特に悪いとこはなかった。

 他のスタッフの人達は至って真面目で出演者にも誠実に向き合ってくれてた方だ。だからあのブッカーには苦労させられてるんだなと思う。

 

 界隈全体の割合で見ればルールを守る善人が九割を占めてるのに、残り一割のマナー悪いヤツが目立ちすぎて全体が悪く見られがちというのはよくある話だ。

 バンドのファン然り人気配信者のファン然りマンガのファン然り。そしてこのライブハウスも然りだった。

 

 一人の愚行のせいでここのライブハウス全体の評価が落とされるのは大変お気の毒でしかない。

 立場的にも上の方なのか、ただのスタッフやアルバイトの人だと何も言えないのがまた可哀そうだ。まあ、ここで働いてない俺からすると無関係だからどうこう言うつもりもないが。

 

 

「……」

 

 あからさまに落ち込みそうになってる虹夏さんを見る。

 ……俺は無関係かもしれないし、ちゃんと話を聞かずに承諾した虹夏さんにだって問題はないかと言われればそうではない。もっと話を聞いてればこうなる事は回避できてたはずというのも今の現状を見てみれば確信できる。

 

 だけど、こうなった以上結束バンドは立派な穴埋めに利用された被害者みたいなものだ。

 ライブ終わりにでも直接クレーム言ってやる事くらいはしてもいいだろう。

 

 

「とりあえずそろそろ準備しましょうか」

 

「……うん」

 

 

 

 楽屋に移動し各々が準備に入る。

 その最中も虹夏さんは黙ったままだった。ライブも目前だというのにリーダーがああだと少し心配になる。

 

 ので少し声をかけようと虹夏さんに近づいたその時。

 

 

「……ゔっ」

 

 ……ゔっ? 

 虹夏さんの漏らした声に結束バンド全員が振り返る。傍から見れば虹夏さんの近くにいるのは必然的に俺という認識になる。

 

 そして。

 

 

「みんなごめん……」

 

 ぶわっと虹夏さんが涙目になり、ここに男女の亀裂が入った。

 

 

「伊地知先輩!? ちょっと優人君何したの! 先輩を泣かしたの!?」

 

「ぶっ!? ち、ちがっ、違うって! わたくしめは落ち込みそうになさってた虹夏しゃんを励まそうと声をかけようとして近づいただけで一ミリも触れてないし言葉もまだ発してなかったんですのよ!?」

 

「口調が崩れてる! クロよ!」

 

 あーもうっちょっとテンパっただけなのにクロ判定されてる! こんなのってないよ! 

 

 

「優人……キサマよくも虹夏を……」

 

「いやぁー! 普段力が抜かれたような顔しかしないリョウさんが一段と力の篭った顔してるぅ!?」

 

「ゆ、ゆうくんは虹夏ちゃんが泣いちゃうような事は絶対しない……と思います……」

 

「よく言ってくれた後藤さん! やっぱ最後の良心はアンタだ!」

 

 持つべきものは理解のある幼馴染だよね! 

 あとお構いなしにじりじり寄ってくるリョウさんマジ怖いので踏みとどまってくんないかな。

 

 

「ち、違うの……っ」

 

 虹夏さんの零すような言葉に全員の動きが止まる。

 近くにいたからか彼女の手は縋りつくように俺の手を握っていた。

 

 

「私がちゃんと確認せずに承諾しちゃってみんなを散々のせちゃったから……。優人くんもあんなに何度も話そうとしてくれたのに、あたしがお姉ちゃんとの事で意地張ったせいでこんな事になっちゃったし……呆れちゃうよね……」

 

「……」

 

 うりゅうりゅお目目になった虹夏さんが口もうにょうにょになりながらみんなにごめんなさいしていた。

 とりあえず俺への誤解が解けたようで何より。リョウさんの視線はとっくに俺から虹夏さんへ向けられている。まるでターゲットを変更したかのように。

 

 

「だからみんな気持ちが萎えちゃったかなって……ぶほぅッ!?」

 

 そのままリョウさんは虹夏さんに割とえげつない脳天チョップを喰らわした。

 どすって言ったけど。チョップでしちゃいけない音したけど大丈夫? 

 

 手刀の形をすぐにほぐしリョウさんは余計に涙目になってる虹夏さんを撫でながら、

 

 

「まったく……何? 思ってたようなライブじゃなかったから責任感じてんの? 確かにこの箱は怪しいと思ってたけど、その程度で萎える私達な訳ないじゃん。ここにいる全員をファンにするライブしてやりゃいいんでしょ。そんなの余裕だよ」

 

「そうですよ! むしろ別ジャンルのお客さんもファンにできたら凄いですよね! 頑張るわよひとりちゃん!」

 

「あっはい!」

 

 何というか、言いたい事全部言われた感あるな……。

 メンタルケアもサポート役として大事だとヨヨさんに言われたからそうしようと思ったんだが、別に俺なんて必要なかったか。メンバーだけで解決できてんじゃん。嬉しい限りだね。

 

 なら俺はいつも通りでいきますか。

 

 

「……」

 

「何も問題なかったようですね。それじゃあ準備進めましょっか」

 

「……優人くんは?」

 

「……はい?」

 

 はい? 

 

 

「何も言ってくれないの?」

 

「いや……だって言いたい事は大体みんな言ってくれたし俺は別にいいかなぁって」

 

「大体って事は全部じゃないでしょ? ならちゃんと言ってよ」

 

「うっ、ま、まあ……虹夏さんがお望みとあらば……」

 

 仕方ない、ほとんどはリョウさん達が言ったし省略して伝えればいいか。

 てかいつまで手握ってんですかね。言うまで逃がさんとばかりに離さないし。

 

 

「あー……俺の言いたい事はあれです。確かに虹夏さんが突っ走った結果こうなっちゃいましたけど、これも経験って訳ですよ。生きてりゃ失敗から学ぶ事の方が多いんですし、ポジティブに考えるなら今リョウさんが言ったように全員をファンにさせてやればいいだけです」

 

「……経験か」

 

「ですです。それに他ジャンルファンがいてもライブに関しちゃ圧倒的こっちが有利っしょ。何たってどこにいても適応力の高い盛り上げ上手の喜多さんがいるし、圧倒的な自信で満ち溢れてる実力者のリョウさんもいる。それにギターに関しては頭一つ抜けてる後藤さんだっているんです。そこに全員をまとめられる包容力を持ったリーダーの虹夏さんがいれば最強でしょうよ。結束バンドに惹かれない人なんていません。それは俺が保証します」

 

「みんなを巻き込んで盛り上げるなら任せてください! さっき天キュルのライブ見て良い事思い付いたんで!」

 

「全員私のベースにひれ伏させる」

 

「あっうっえっと……が、頑張りましゅっ……あ、噛んだ……」

 

 噛んだね。

 

 

「優人くん……みんな……うん、ありがと! あたしも頑張るよ!」

 

 うむうむ、これでうちの天使担当も元通りだ。

 勝ったな、風呂入ってくる。

 

 

「よし! 超盛り上げてこのふざけたライブハウスぶち壊そう!」

 

「虹夏さんがお望みとあらば!!」

 

「そこまでは思ってません! 優人君も便乗して自分のギター振り上げないの!」

 

 満面の笑みでクレイジーな発言する天使も悪くないと思います! 

 天キュル達に見せてやろうぜ! 本物の大天使ってやつをよォ!! 

 

 

 そして俺は喜多さんに楽屋から追い出されたのだった。

 しくしく、大人しくフロアの後方に移動しますよ……。あ、撮影の準備もしないと。

 

 

 

 ──

 

 

 

 ほぼ同時刻。

 結束バンドが出演するライブハウス、その受付にて。

 

 

「当日券一枚」

 

「はーい、本日はどのバンド観に来られました~?」

 

「……けっ、結束バンド……」

 

 もう一人、天使を象徴とする羽を携えたリュックを背に、首に包帯を巻いた女性がやってくる。

 

 

 





ヤツがまた出てくるけど特にシリアスになる予定はないです。
お目目うりゅうりゅ虹夏ちゃん可愛いね。


では、今回高評価を入れてくださった

☆10:みゆさいさん、vongolaさん

☆9:タスマニアさん、モチモチこしあんさん、完全無欠のボトル野郎さん、イキョウさん、ザラメ雪さん、ユキR2さん

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!!


そろそろぼざろアニメから一年とかいう事実。
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