再会した幼馴染が引きこもり寸前だったから面倒見る   作:たーぼ

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ぽいぽいずん、ぽぽいずん!




96.人はいつだって変われるものだ

 

 

 

「あれ、店長?」

 

「あん? ああ、お前か」

 

 結束バンドのライブが始まる直前に最後方でカメラ撮影の準備をしようと移動したらウチの店長がいた件について。

 

 

「何でここに? スターリーはどうしたんですか?」

 

「PAとかその辺のヤツらに任せてきたから特に心配はいらねえよ」

 

「で、自分は虹夏さんと仲直りできないままライブ当日来ちゃったから心配で来たと。ほんと素直じゃないですね」

 

「ばっ、ち、違えし! 別にそういう訳じゃ」

 

「はいはい、撮影準備するんで横失礼しますよーっと」

 

「なんっ……はぁ」

 

 ここで強く否定してこなかったのを見るにガチで心配して来たんだな。

 まあそうじゃなきゃわざわざ一人で池袋まで見に来ないか。

 

 撮影準備の片手間にフロアを見渡すと結束バンドのファンも何人か確認できた。次の番だからちゃんと最前の方に移動してくれてるみたいだ。

 むしろよくここまで残ってくれたな。さっきまで定年おじさんや地下アイドルとかジャンル違いにも程がある人達が演ってたのに。

 

 直前まで機材を扱わないアイドルの天キュルがいたので、ステージ上では今スタッフの人達が暗転の中急ピッチで機材などの準備をしている。

 つまり今フロアはほぼ静かな状態。それ故か、周りの客が話す声も結構はっきり聞こえてきた。

 

 

「次は?」

 

「結束バンド……って事はロックバンドかな」

 

「知らないバンド名だね。商品としてはよく見るけど」

 

「ロックはあんま聴かないんだよな~」

 

「というかこのライブ何でジャンルがこんなにバラバラなの?」

 

「そのせいで盛り上がりも何か統一感ないよねー」

 

 こんな意見がちらほらと。

 見に来た客の人達でさえこのライブのやり方に疑問を持ち始めてる始末。依頼された側からすりゃメールで当店一押しのアーティストが出るとか言われて来てみれば、訳の分からないおじさんにデスメタに地下アイドルとかいてもう頭の中が宇宙になりかけたくらいだ。

 

 ともすればライブが進むにつれて全体の雰囲気がこういう風になるってのも必然と言えば必然。

 当のブッカーはイスで寝ててまともにライブを見てもいない。

 

 

「結束バンドの事、結構言われてるっぽいけど大丈夫そうか?」

 

 隣にいる店長から一言があった。

 危惧というよりかは、念のための確認程度の声音だった。

 

 

「今更どうも思いませんよ。むしろワクワクしてます」

 

「……ワクワクだぁ?」

 

「だって結束バンドを何も知らない人達が今から結束バンドを知れるんですよ。ジャンルが違うからロックを今まで聴いてこなかった人達が初見で結束バンド見れるとか最高じゃないですか」

 

「……」

 

 記憶を消してもう一度見たいバンドは何と聞かれたら問答無用で結束バンドと俺は答える。

 そのくらいオーディションと初ライブの時に聴いた彼女達の演奏は印象に残っていた。上手い下手とかそういう技術レベルの話ではなく、ただ純粋に惹き込まれたから。

 

 

「それにほとんどの人が結束バンドを知らないのって、何となく初ライブの時を思い出すんですよね。ノーマークから全ての視線を釘付けにしちまうパフォーマンス力。何ならあの時よりも成長してるし、だからこそこの逆境をどうひっくり返すのか、逆にそっちの方が楽しみになってます」

 

 あの衝撃を味わえる人達がここに何人もいるんだぜ。羨ましいに決まってんじゃん。

 さっき裏でもリョウさんが全員をファンにさせるライブをすればいいと言ってたんだから余計に気になるってもんでしょ。

 

 内心のワクワクを抑えながら撮影準備を終える。

 すると不意に俺の頭の上に店長の手が乱暴に置かれた。

 

 

「ははっ、んだよ。良い方向に進んでんじゃねえかお前」

 

「だぁー! 髪が乱れるって! 何すかいきなり!」

 

「弟分の成長を間近で見てると抑えらんなくなった。許せ」

 

「なら弟分だけじゃなく妹とも今の感じで仲直りしてきてください」

 

「げふん」

 

 このシスコン、咳払いで誤魔化しやがったな……。

 

 

 と、ステージ上のライトが点灯したと同時にドラムの音が鳴り響いた。

 見れば準備も終えてメンバーも出てきている。後藤さんは……うん、大丈夫そうだな。路上ライブのおかげか知らない箱でも思ったより堂々としてる。

 

 さあ、今の状況は完全アウェーだけど、どうする。

 

 

『こんばんは! 結束バンドです! 今日は来てくれてありがとー!』

 

 まずはいつも通り虹夏さんの挨拶から始まった。

 他の客も様子見といった感じでステージを見つめている。よし、ナイス笑顔だ虹夏さん。こういう場はとりあえず笑っときゃおおよそプラスの印象を持たれる。特に地下アイドルファンのオタク達みたいな人は天使のような虹夏さんのスマイルにさぞ魅了されるだろう。何なら俺はもうされてます。

 

 本来ならここで曲に入るところだが、今回は違った。

 

 

『今日はあたし達を見るの初めてって人も多いと思うから、いきなりだけどメンバー紹介いきますっ!』

 

「……へえ」

 

「なるほど、最初にメンバー紹介する事で興味を引きつつロックバンドへの怖い印象に即時性の耐性を持たせる方向でいったか。さすが虹夏さん、オタクの割合が多い客への配慮完璧だな」

 

 店長も口角を上げておるわい。バレバレですぞ。

 

 

『ベース、山田リョウ!』

 

 しかもソロ演奏で楽器にも興味を持たせにいくか。

 実力は確かなリョウさんが弾くベースは重低音が心地良く、スラップも披露したところで客が湧いた。そうだ、リョウさんは真面目に音楽してる時はめちゃくちゃかっこいいんだぞ。それ以外がクソカスレベルなだけだ。……ダメだなそれ。

 

 

『リードギター、後藤ひとり!』

 

「……ははっ」

 

 やるじゃん……やるじゃねえか後藤さん。アウェーの中でも臆さずソロ演奏をこなせてる彼女を見て思わず声が零れた。

 まだまだ本気の実力とまではいかないにしろ、この箱のレベルを鑑みれば十分すぎる程に客の目線を引きつけている。やっぱりソロだと一気に頭一つ抜けるな。

 

 しかし。

 

 

「ぼっちちゃんやっぱ上手えな」

 

「はい。けどそろそろ限界来ますねアレ」

 

「何が? 見られすぎて変な事でもすんの?」

 

「いえ、この場合はとことん調子乗って悪目立ちするタイプです」

 

 言うと同時に後藤さんはニヤケながら客に背を向けてずっとピロピロ弾きだした。

 案の定まだちゃんと始まってもないのに虹夏さんから背を向けるなと注意されてる。言わんこっちゃねえ。ある意味注目の的だから結果的には美味しいか? 

 

 

『ぼっちちゃんもういいから長いって! 次いくよ! え~ギターボーカルの喜多ちゃん!』

 

『は~い!』

 

 喜多さんだけフルネームじゃなくて喜多ちゃん呼びなの、絶対裏で名前は言うなって釘刺したんだろうな~。

 

 

『何だか今日は不思議なライブだけどこれも何かの縁! 今日はみんな一緒に楽しみませんか! 東武? 西武? 池袋~!』

 

 でもって陽キャの化身は盛り上げ方も上手かった。

 天キュルがやってたフリを真似て一気に天キュルファンを味方につけたのだ。さっき裏で言ってた良い事思い付いたってのはこれの事だったのね。

 

 持ち前の明るさとアドリブ力で他の客をも楽しい空間に引きこむ喜多さんはさすがとしか言えねえや。

 何だかんだやっぱり陽キャのコミュ力って大事なのかもしれない。あんなの誰とでも仲良くなれるでしょ絶対。

 

 

「ん? あっ」

 

「?」

 

 そろそろメンバー紹介も終わりライブが始まるから撮影開始のボタンを押そうとしたところで、店長の思わず漏れた声が聞こえてもう一度ステージを見る。

 すると突然ギャリギャリギャリという歪な音と共にアホピンクが歯ギターを披露し始め客をドン引きさせていた。

 

 ほら、だから言ったじゃん。とことん調子乗って悪目立ちするって。

 俺は一度家でいきなり歯ギター披露された事もあったから別に何ともないが、初見の人が多いのにそれはもはやテロ行為だよ。後で説教だな。

 

 アホピンクの暴走で色々あったが、喜多さんのアドリブ力のおかげで何とか会場の空気も良い感じに解れてきた。

 頼むからもう余計な事すんなよ後藤さん。この箱は気に入らんけど結束バンドの評価を落とすのだけは許さんからな。

 

 おっと危ない危ない。

 撮影開始、と。

 

 

『では一曲目やりまーす!』

 

 それを合図に贅沢だが個人的に聞き慣れたイントロが始まる。

 一曲目は『星座になれたら』。曲調的にも激しすぎる事もなく大人しい訳でもない、比較的誰でも聴きやすいし楽しめる曲となっている。掴みとしては良い選曲だろう。

 

 ここから二曲目三曲目と徐々にボルテージを上げていけば客もめっちゃ盛り上がり方を理解してノッてくれるはずだ。

 隣の店長は相変わらず後方彼氏面で腕組みながら見てるけど。

 

 

 と、そんな時だった。

 店長の肩に誰かがぶつかったのだ。俺も反射的にそちらを向いた。

 

 おそらくライブを見ながら良いポジションがないか探してる間の不注意。

 故に謝ってきたのは向こうからだった。

 

 それは首に包帯を巻き、天使の羽が生えたリュックを背負い、ツーサイドアップの髪型をした女性であった。

 というか割と因縁ある系のヤツだった。

 

 

「あっごめ」

 

「げっ、ぶりっこメルヘン年齢鯖読みライター……」

 

「げっ、不法侵入威力業務妨害地雷系ライター……」

 

「出会い頭にそんなすらすら暴言出る!?」

 

「「いや全部事実だし」」

 

 まさかのぽいずん♡やみ改め佐藤愛子、俺達の前に現る。

 

 

「それはそうと何でお前が来てんだよ」

 

「へへへ、こいつどうしやしょうか店長。処す? 処す?」

 

「ち、ちぬ……」

 

 何となく聞いてみたら既に店長がチョークスリーパー決めてた。

 いやあの店長、さすがに違う箱でその技はまずいんじゃないかと思うんですが……。一周回って俺の方が落ち着いてきちゃったよ? 

 

 とりあえず荒ぶる店長を宥めて事なきを得る。

 この人スターリーじゃなかったら結構好き勝手やるな……。さすがはヤンキー思考なだけある。

 

 

「げほっ、うぇ……あ、あたしは暇があれば色んなライブを見るようにしてんのよ……!」

 

 マジで苦しそうなんだけど店長本気でやったな? 妹を馬鹿にされたもんだから気持ちは分からんでもないけど。

 ここは俺が仲裁に入ってこれ以上シスコンが暴走しないように努めますか。

 

 

「だからってわざわざ評判の悪いライブハウスにゃ来ねえっしょ。アンタこの前結束バンドの路上ライブも見に来てたよな。って事は今日も結束バンド目当てか?」

 

「うっ……バレてたんだあれ……」

 

「そんな無駄に目立つ服装してたら嫌でも目に入るんだわ」

 

「ていうか何であんたあたしに敬語じゃないの!」

 

「目上で尊敬してる人にはちゃんと使うっての。ですよね店長っ☆」

 

「そういう事だ。分かったか犯罪者予備軍」

 

「お願いだからその呼び方だけはやめてっ!?」

 

 ほんと妹絡みの事になると容赦ねえなこの人。

 まあその本人は絶賛妹にそっぽ向かれてる最中だけど。ツンデレも時と場合によっちゃ毒ですな。

 

 

「うるせえな。お前が余計なこと言ったせいでこいつら気にしてたんだぞ」

 

「いや結束バンドの事を言われたからムカついただけであって俺自身に言われた事については別に何とも思ってませんからね」

 

「な、何よ……別に嘘は言ってないでしょ! ギターヒーローさんが才能を無駄にして結束バンドで燻ってるのもったいないって言っただけだし!」

 

 だから言い方ってもんがあるでしょ言い方ってもんが。

 

 

「あんな才能持ってる人は稀なのに、絶対周りのメンバーだって差を感じて……ってあの時は思ってたけど」

 

 ん? 何? 過去形? 

 まさか路上ライブとか今のライブを見て以前とは気持ちに変化でも出てきたか? 

 

 

「今はもう」

 

「え~そろそろお店以外でも会おうよ~……いつも同伴してるのにぃ~……」

 

 ちょうど一曲目が終わりある程度静かになった時、そんな寝言が聞こえた。

 今日のライブの全ての元凶、ブッカー柳である。ライブが始まってるってのに呑気に寝ていられる腐った根性だけは認めてやろう。よし、有罪だ。

 

 さすがの俺も注意くらい言ってやらねば気が済ま、

 

 

「殺るか」

 

「殺るわよ」

 

「ちょいちょいちょーい」

 

 ツッコミ混じりの制止も敵わず。

 

 

「良いライブやってんだからちゃんと見ろ!」

 

「真剣にやってんだからちゃんと見ろ!」

 

 おっかねー女性二人組の方が早かった。

 何なら二人してブッカーの頭を鷲掴みにしておられる。手出るの早えっすね……。店長、あなた前に俺に向かって説教してくれたのに他の箱だからって自分は手を出すの何なんすか。あの時口頭注意しようとしてた俺より過激じゃん。ヤンキーじゃん。

 

 さすがにアイアンクローをされて強制的に目が覚めたブッカーが今度は立たされていた。

 

 

「あのさぁ、この箱あんたが適当なブッキングするから評判最悪よ? たまにいるのよねー! スケジュール埋め優先でバンドの事なんて考えてないブッカー! 真剣にやってる人達のこと考えられないなら辞めれば? あんたのせいでここのスタッフみんなにも迷惑かかってるんだからね!」

 

「すっすみません……」

 

 おおう、相変わらずの正論パンチで相手をボコボコにしてる。さすがぽいずんと自分で名付けるだけの事はあるな。

 物理攻撃の次は精神攻撃だった。こちら側の陣営にいたらめちゃくちゃスカッとするくらい口撃してくれるの聞いてて気持ちいい。こんなもん相手からすればぐうの音も出ないだろ。悪いのは百パーブッカー柳だから何とも思わんが。

 

 

「いい? ちゃんと見ときなさいよ。そんで終わったら出演者に軽くでもいいから感想と謝辞を伝える事。ブッカーだとしても音楽業界に少しでも関わってる身なら最低限の礼儀くらいは身に付けなさい」

 

「最低限の礼儀をお前が言うか」

 

「人って少しでも自分が優位の立場だと過去の愚行も美談にして正当化させるかそもそも白紙化させようとしますよね」

 

「うっ……と、とにかく分かったら最後までライブ見ときなさいよね! あとここにいられると目障りだからどっか行って!」

 

「ご、ごめんなぁい……!」

 

 一応はこの箱じゃ割と上の立場っぽいのに情けなく違う場所に追いやられる姿には同情するぜ。嘘だぜ、全然同情しないZE☆

 

 

「ふぅん、お前って意外と嫌味なだけのヤツじゃないんだな」

 

「失敬なっ、あたしはバンドに対してはいつだって真面目よ!」

 

「だから後藤さん、ひいては結束バンドのみんなに対して自分の正義に逆らう事なくあんなこと言ったと?」

 

「ぐっ……そ、そう、なるわね……」

 

 軽いMCのあと、結束バンドは二曲目に入った。

 一曲目より他ジャンルの客もノリ方が分かってきたのか、はたまた結束バンドの曲に興味を持ち始めたのか徐々にステージの方へのそのそと移動していく。

 

 だから念のためカメラをもっと見やすい方へ移動させた。

 一応カメラとの距離は少し離れてたから、俺達の会話は入ってないはずだと思う。カメラ移動を終えて元の位置に戻る。

 

 するとぽいずんさんが俺の正面に向き直ってきた。

 

 

「えっと、何か?」

 

「……うん、そうよ。やっぱり、ちゃんと言わなくちゃいけないって思ってた」

 

 え、何この雰囲気、言わなくちゃいけないって何? 

 まさかあの時まだ言い足りない事でもあったの? 悪いけど俺に対しての暴言はノーダメだからな? 

 

 そんな風に思っていると、不意にぽいずんさんは俺に頭を下げてきた。

 

 

「……は?」

 

「あの時……あんたの事を悪く言ってごめんなさい……今更かもしれないけど、前に言った言葉は全部撤回させてもらうわ」

 

 結束バンドのライブ中だというのにも関わらず、俺の頭の中は空っぽになった。

 

 

「路上ライブで見かけた時に思ったの。あんたも、結束バンドも、前より格段に成長して良くなってる。SNSで宣伝とかの回数も増えて積極的に路上ライブで新規ファンを取り入れようとしてるのも分かった。正直……この短期間で結束バンドはもの凄く成長してる。ギターヒーローさんだけじゃない、他のメンバーみんなもそう……だから」

 

「ちょ待てよ」

 

「……え?」

 

 話を聞いてるうちにだんだん理解してきて俺の中のキムタクが待ったをかけた。

 つまりこの人はあの件について俺に謝罪してる訳だが。

 

 

「それってさ、俺に言う事じゃないよな」

 

「……で、でもあんたにも色々言っちゃったし」

 

「そこだよ。さっきも言ったろ。アンタから俺に言われた事については別に何とも思ってないって。むしろそういう風に引き出させたのは俺だし謝罪なんていらねえよ。されても困るだけだ。つうか謝るなら俺にじゃなくて結束バンドの方だろ」

 

「けどあんたも結構怒ってたじゃない……」

 

「それは結束バンドを馬鹿にされたからであって、俺個人に関しては何も言ってないだろ。何ならそん時の怒りも今は全然ない」

 

 これは本音だ。確かに結束バンドを悪く言われてムカついていたのは事実で、あんなにも誰かに対して敵意を向けたのは初めてだったけど。

 さっき会った時にもっとこの野郎とか頭が沸騰するのかなって思ってたら案外そうでもなかったのだ。

 

 人間、感情のコントロールとして怒りのピークは六秒間だと何かで見たような気もするが、それが本当だとしたらもうあの日から何日経過したかなんて考えるだけ無駄だろう。

 つまり俺のぽいずんさんへの怒りなんてのはとっくに冷めていたという事になる。最初に処す? とか言ったのも完全にノリだし。

 

 だからあの時のような怒りの感情はもうどこにもなかった。

 それに、

 

 

「……アンタのバンドに対する熱意はもう分かってるつもりだよ」

 

「え?」

 

「アンタが書いた記事っての、読める範囲のやつは全部見させてもらった」

 

「ぜ、全部!?」

 

 そりゃあんだけボロカスに言われたら相手の事も気になって調べるのが普通だ。

 敵情視察とはまた違うが、見返す相手がどんな事をしているのか個人的に気になってネットの海を色々彷徨った訳である。

 

 最近はもっぱら色んなバンドを題材にした炎上してもおかしくない記事ばかり書いており、むしろ炎上商法みたいなアクセス稼ぎのためにわざと過激な言葉選びをしていたり擁護のしようのない記事もたくさんあった。

 これは本名晒されたりやらかし行為が出てきまくる訳だと家でPC見ながら苦笑いもしたものだ。

 

 でも。

 だけど。

 

 この人が音楽ライターを始めて間もない頃の記事を見ると、炎上記事を書いているのが嘘だと思ってしまうほど真面目な記事ばかり書いてあった。

 良いバンドを広めたい。色んな人にバンドの良さを知ってもらいたい。そんな純粋な気持ちが最初の記事からは見て取れた。

 

 多分、記事が真面目すぎてアクセスが稼げなかったのか徐々に文章は過激になっていき、いつしか今みたいな炎上商法に切り替えていったんだろうと思う。

 ある種、彼女も挫折していたのだ。自分が本当に書きたいモノと他者が求めているモノが違いすぎて、悪い方向にシフトチェンジしてしまった。そうしないとアクセスもろくに稼げず生活も苦しいから。

 

 まあ、それでクソ記事ばかり書いてる事に対しては擁護する気も一切ないけど。ほとんど自業自得というか因果応報みたいなとこある。

 ただ、この人にもこの人なりの信念と熱意があったのは確かだと全ての記事を見て分かった。基本的に伝え方や言い方がクソみたいに悪いだけだ。いや悪すぎるな。

 

 

「結果だけ言うとあの時のアンタの言い分は尤もだったし、それで俺も納得できる部分の方が多かった。皮肉だけどアンタの言葉がなかったら結束バンドは今も特に大きな行動を起こさないままスターリーで燻ってただけかもしれない。こう言っちゃ何だが、アンタのおかげで未確認ライオットに出る決意もできたし路上ライブやMV、SNSでの宣伝の方と色んなとこにまで力を入れるきっかけにもなった。だから結束バンドがあの時からどれだけ成長してるかは、アンタが一番分かってるんじゃないのか」

 

「……うん、そうね」

 

『じゃあラスト! 新曲やります! 「グルーミーグッドバイ」!』

 

 虹夏さんのMCで最後の曲が始まった。客の方は自ら腕を上げてノッている人も結構いる。

 ん? 虹夏さんとリョウさん、ちょっと走り気味か? ……でも、これはこれで良いな。緊張のせいで走ってる訳でもなさそうだ。みんな楽しそうに演奏してるのがここからでも見える。

 

 

「良いドラムね……」

 

「ん?」

 

「本来なら完全アウェーなライブの空気を一変させたわ。それにベースの子もリズムをすぐに合わせて対応できてる。息がピッタリだわ。あとボーカルの子、前よりもギターが上達してるし歌声にも自信が表れてる。成長してるのはギターヒーローさんだけじゃなかったって事ね……」

 

 前回あれだけボロクソに言ってきた彼女が結束バンド全体の成長を認めていた。

 それは、少なくとも虹夏さん達の努力が決して間違っていなかった事を意味している。彼女達の努力は一人の意見をひっくり返したのだ。

 

 ぽいずんさんの言葉に店長と顔を見合わせる。

 そして、二人で自慢気にしながら自然と声が重なった。

 

 

「「分かりゃいいんだよ」」

 

 

 ──

 

 

 アウェーの中ライブも無事終わり、そそくさと帰っていくぽいずんさんを一瞥した後、俺は結束バンドの物販を担当していた。

 

 というのもライブ終了後に結束バンドファン以外の人達が結構な数で押し寄せてきたのだ。

 主に天キュルのファン達がメインだが。

 

 買いに来てくれる人達は皆天キュルと一緒に推していきますとかギターかっこよかったですとか様々な感想を一言添えていってくれる。

 会計などは俺がやっているが、グッズを渡すのは虹夏さん達がやっているので一言二言客と交わす様はちょっとしたアイドルの握手会みたいになってた。

 

 

「後藤さんは話さなくてもいいのか?」

 

「あっ、あのブッカーの人だけでもうダメ……」

 

「あーね……」

 

 ライブの最後、締めくくりにテンションが上がったのか結束バンドのみんなが曲の終わり直後にパフォーマンスとしてジャンプした際、壊滅的な運動神経の後藤さんは見事にノミみたいな直立ジャンプを見せてある意味注目を集める事になった。

 それをスマホで撮影していたブッカー柳に絡まれ、挙句虹夏さんにはライブ中はもうギター弾いてるだけでいいから一歩も動かないでくれと言われる始末。とりあえずブッカー柳には一言クレームだけ言ってどっか行ってもらった。

 

 物販も一通り終えて客もいなくなった頃。

 今日の出演者の人達が声をかけてきた。

 

 

「あの~ライブ良かったです! よかったらなんですけど、この後みんなで打ち上げしませんか?」

 

「やった~! ぜひやりましょ!」

 

 天キュルのリーダーの人だ。あとデスメタの人もいる。

 ライブ終わったんだからせめてメイク落としてくんないかなぁ。後藤さん怯えて俺の背後でずっと固まってるんだけど。

 

 と、ここで天キュルリーダーの隣にいたくるくるツインテールの子と目が合った。

 確かラファエルさんだっけか。一応ライブ中でも目が合ったけど、あんなんで良かったんだろうか。俺が知ってるアイドルは基本スクールアイドルかアイマスくらいしか知らないから、リアルアイドルの応援ってどうすればいいのかよく分からん。

 

 

「っ! っ!」

 

 なんかめっちゃ手を振ってくるけど何。あれがファンサってやつ? 

 どうしたらいいの。振り返せばいいの? 客はみんな帰ったけど過激派ファンとかに殺されない? 大丈夫? 

 

 けど一応振ってくれてるし返すだけ返そうと思い目立たない程度に手を振ろうとしたら、ラファエルさんとやらはもうこっちを見てなかった。何だよ、こっちがちょっと恥ずかしい思いしたじゃねえか。

 いったいどこ見てん……あれ、あの子もしかしてリョウさん見てない? めっちゃ熱烈な視線で見てない? 目がハートマークになってんだけど。まさかリョウさんに魅了された? あの借金クズに? マジかよ、正気か。

 

 いや、うん……まあいいか。好みは人それぞれっていうしね。ダメ女に引っ掛かるのは虹夏さんだけじゃないって事だ。もはや何も言うまい。

 と、そこで思い出した。虹夏さんどこ行ったんだろ。店長はっと……お、いたいた。

 

 何やら二人で話してる様子だ。

 二人の表情を見るに無事仲直りはできたっぽいな。良い良い、あの姉妹には今の光景が一番似合うってもんよ。

 

 そういや店長からはぽいずんさんが来たという事は今はまだ黙っておけと言われたので言っていない。

 今調子も良くノッてきてる結束バンドに変なわだかまりを残すのは良くないからとの事。まあ俺はともかく虹夏さん達はぽいずんさんに言われた事が結構気にしてたし、今言ってこの空気を乱すのは俺もしたくない。

 

 だから今は今日のライブを無事に終われた事を素直に喜ぼう。

 

 

「うぅ……打ち上げ……他の人達もいる……う、うぐぉがががががが……!」

 

 

 

 ……さて、まずはこのコミュ症モンスターをどうしようか。

 

 

 

 






うん、ほんと言い方と炎上記事が悪いだけなんだよなぽいずん。
それ以外はまあ……服装もアレか。


では今回高評価を入れてくださった

☆10:ナポリオンさん

☆9:美少女の使用済み靴下くださいさん、タスマニアさん、鳩兎さん、モチモチこしあんさん、ザラメ雪さん、イキョウさん、完全無欠のボトル野郎さん、

いつも感想高評価お気に入り登録ここすきthank you!
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