【凍結】混沌に雑ざるは、如何なるオモイか。 作:Cross Alcanna
今回は、前回より少し短いです。近頃、どの話の文量が丁度良いか(又はまだ足りないか)をアンケートする予定ですので、是非。
では、どうぞ。
「結局、また来たな。しかもそこまで経ってないっていうね。」
「ね。私ももう少し時間を置いてから来ると思ってたよ。」
中央の自然のある空間まで歩いてる俺の横に、いつの間にか並んで歩いてるミクは、そう答えた。
正直な話、俺も暫くはここに来ないでおこうかと思っていた。こんなフィクションみたいな世界に高頻度で身を置くのが、俺的には少々変に感じていた。今以上にこのセカイに訪れるようになり、現実世界を疎かにしてしまえば、俺は
それをさて置き、俺はミクの言葉に耳を傾ける事にした。ミクも、俺が返事をしない事から察したようで、話を続ける。
「そうだ、目的の場所に着いたら紹介したい子がいたんだ~。」
「紹介したい奴?…バーチャルシンガーの誰か、とかか?」
「う~ん、当たらずとも遠からずって所かな?」
と言う事は、だ。鏡音の2人でもKAITOでも無ければ、巡音ルカやMEIKOでもない訳か。この中の誰かなら、バーチャルシンガーに該当する筈だし。…このミク、あまり長い時間話をしてないから憶測の域を出ないが、随分と頭がきれる奴だと思っている。だからこそ、言葉に大きな差異はないと考えるのが妥当だろう。そうすると……VOICEROIDの誰か、とかか?それはそれで、どうしてバーチャルシンガーじゃないのにセカイに現界出来ているって話になる訳だが(バーチャルシンガー関連についても、最初の時にミクから聞いた)。
…口に出すのは止めておいた方が良さそうだな。やはり根は初音ミクなんだろう。俺を驚かせたいという雰囲気が若干漂っている。俺のセカイのミク(おそらく他のバーチャルシンガー達も)は頭もきれる冷静なイメージだが、こういう所は変わらないんだな。少し、安心した。冷静過ぎる初音ミクは、見てて違和感があるからな。これくらいのギャップはあっても良いだろう。
「そういえば刹那。どうしてこのセカイに来ようって思ったの?」
「あぁ、ここで歌ってみようかなって。ここなら騒音とか気にしなくていいだろ?それに、ミク達なら聴かれても問題ないかなって。」
「…私達以外には、聴かれたくないんだね。」
…………痛いトコを突いてくるじゃないか。思わず、怒りが表面に出るところだった。
そう、俺は誰かに自分の歌声を聴かれたくない。自分の歌に自信が無い、というのは、強ち間違いではないだろう。とあるトラウマのせいで歌えなくなったのだが、それ以前から俺は自分に関する事はとことん自信が無かった為、トラウマが自信の喪失を助長した、という言い方の方が正しいかもしれない。
俺にも色々嫌いな事だったり苦手な事だったりがあるが、歌は特別嫌いだ。歌う事は好きだ。でも、それを聴かれたくない。きっと誰かが、笑っているだろうから。
「……お前らはこのセカイから出られないだろうし、言いふらす性格でもないだろ。オリジナル経由で広められたら、どうしようもないが。」
「そんな事はしないよ。私も、刹那の歌声聴いてみたかったし。」
電子の歌姫と呼ばれるだけあり、誰かの歌を聴く事にも関心が強いのだろうか。真相はミクのみぞ知る、といったところだろうか。
正直、自分の歌声が上手い部類に入らないのは、自分が1番よく知っている。主人公補正のかかったメインキャラである訳でもあるまい。そんなのは、フィクションに過ぎない。或いは、才能の持ち主だったり、努力が報われた奴だったり。
…………何とまぁ、憎らしい事で。
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「んで?アイツが俺に会わせたい奴か?」
「うん。可不ちゃんだよ。」
「…宜しく。」
着いてみて会わせたい奴に会ってみると、何とまぁ可不だった。最近になって名前を聞く機会が増えたが、まさかセカイに現界出来るようにまでなるとは。…認知度か知名度が関係してそうな気もするな。
「バーチャルシンガーの定義が分からなくなるな、これは。」
「正直、結構曖昧だと思うよ。何となくではあるけど。」
だろうな。道中で聞いたが、セカイによっては結月ゆかり等も居る事があるらしい。結月ゆかりはVOICEROIDに分類されていて、どちらかと言うとミク等よりシンガー味は薄い。俺らが思う以上に、バーチャルシンガーの定義は定まってないんだな。
ミクと可不を見ていると、ふとバンドをやろうとした時の事を思い出す。
あんな青春を味わってみたいと思った時期があり、バンドに憧れていた。しかし、ソレをやるには存外ハードルが高い。求められるレベルは高く、知名度もなければ話にすらならないだろう。即興で組んで観客を湧かせられるのは、歌や楽器の下積みがあった者や司会進行の嗜みがある者くらいに限られる。
最終的に、俺はバンドの選択肢を捨てた。現実的でないと思ったから。才能がないと知っていたから。
「…?どうしたの?刹那。」
「いや、何でもない。少しだけ、昔を思い出しただけだ。」
そんな自分の言葉を聞いて、俺は自身に爺くささを感じた。まだまだ10代なんだけどな。精神だけ年老いてる様な気になる。それとも、身体が子供のままなのか。そんな夢気分の様な考えが止まらない。
「俺はそこらで歌ってるからな。お前らは好きにしてたら良い。」
「じゃあ、刹那の歌を聴いてるね。」
「…………」
周りに伝播(必ずの保障は無いが)しないとはいえ、誰かに聴かれる事に、こんなに抵抗があるとは。余程堪えたんだなと、どこか他人事な思考。
さて、何を歌おうか。最近の曲はダーティーでありながらリズムが独特なものが多いので、何を歌おうか悩んでしまう。ヴィランはこの前カラオケで歌ったし、ロウワーはまだ練習段階。ミク達が聴いているとなると、歌うのは少し気が引ける。
……廃墟の国のアリスはどうだろうか。最近、漸く歌詞を見ないで歌えるようになったし、俺の好きな曲でもある。うん、悪くない選曲じゃないか。そうしよう。
歌う曲を決めた俺は、音源を流す準備に取り掛かる。俺は、歌う時はいつも音源を流す。イヤホンで聴くとかではなく、そのまま流す。その方が、曲の世界観に入れる気がして。
そうして俺は、音源を流す。一時の夢の、始まり始まり。
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「…全然、上手い。」
「うん。あそこまで卑下する必要なんてないように感じるけどね。」
刹那が歌う曲の音源が聴こえ、その後を追う様に刹那の声が聴こえ始める。…正直、驚いた。普通に上手い。確かに、大物歌手や有名な歌い手のような、心に響く歌かと言われると、少し考える時間が生まれるけど、あそこまで拒絶する程でもないと思う。
…過去に色々あったせいなんだろう。このセカイに現界して、彼について情報がある程度インプットされたから分かるけど、アレは謙遜なんかじゃない。素でああゆう風に思ってる。
彼と話す度、彼の事を悲しく思う。どうして、あのようになってしまったのだろう。本来、今頃は青春を謳歌して、人生を楽しんでいべきなのに。…きっと、これを本人に伝えたら、「べきなんて言うな。その言葉は、人を縛り付ける。」とか言い返してきそう。彼は、頭が回るから。
「……悲しい、歌声。」
ふと、隣の可不が、そう言った。私はソレに対し、心の中で同意する。
彼の歌声は、決して下手では無いが。悲しそうな声色であって、壊れてしまいそうな声色であって。消えてしまいたいなんて思いが、乗っかっているように感じて。壊れそうな自分を、無理矢理繋ぎとめようとしている様に感じて。世間からは滑稽にも見える彼の姿勢は、私には、諦めたくないという意思に従っている泥臭さに見えて。
このセカイに来て、彼を見て。世界とは、酷く理不尽に感じている。報われていい位の努力や研鑽を重ねて、挙句の果てに呆気なく弾ける事なんて、そこら中に転がっている。
私はそんな経験をしてこなかった。誕生した時から歌を歌って、想いを探す手伝いをして。今までの軌跡に、霧消していった経験なんて無かった。
だから、彼を最初に見た時、私は困惑した。彼程の努力をした者は、見てきた。そうして報われていった者だって、見てきた。けれど、彼は報われていない。今の今まで一度も、とまでは言えないにしろ、努力と報われの釣り合いがおかしいのは、何を見るよりも鮮明に映った。
「…きっと、ああやって歌ってる時は、刹那は良い気分なんじゃないかな。」
「…そう、なのかな。」
そうなんだろう。
でも。彼には。せめて、報われて欲しいと。今まで感じた事のない原動力が、私をそうさせる。
──あんなに苦しそうな刹那を見続けるのは、辛いから。
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──限りのある消耗品なんて僕は 要らないよ
彼の、刹那の歌声が聞こえる。ソレに合わせて、私も歌う。……うん、どこか心地が良い。彼がこのセカイで歌ってる時は、私も一緒に歌おうかな。
この曲は、奇しくも彼の境遇にどこか通じている気がした。不器用で、臆病で、貪欲な性格。無償で思いを向けられるのが、怖い。どうしようもなくなっていくのが分かるのに、どうしようもできない自分を悔いる。歌ってる私まで、切なくなる。
──言葉の裏の裏が見えるまで待つからさ 待つくらいならいいじゃないか
セカイの住人だから、分かってしまう。彼の思いが。彼の感情が。彼の、遣る瀬無さが。
もういいじゃないか、やりきっても何も無かったんだから。そんなオモイが、セカイや私達に巡って来る。私達は、ソレを知らないし、理解出来てあげられない。私の周りにはミクや可不ちゃんが居たから。私には、明確なやるべき事があるから。
誰か、彼の周りにいる誰か。どうか、どうか。
──この両手から零れそうなほど 君に渡す愛を誰に譲ろう?
彼を、助けてあげて。
────そんなんどこにも 宛があるわけないだろ
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「…さて、今日の夕食は……」
あれからかなり時間が経ち、今は家で食材と格闘中。つまるところ、夕食を何にするのか決めあぐねている所だ。割と豊富な食材の量を買ってしまったために、逆に何を作ろうか悩んでしまう。いい加減直したいんだけどね、この癖。最近肉料理が続いたし、野菜メインの夕食でいいかな?
けれど、明日は学校に行こうと思っているから、せめて魚料理にするべきかな。うーん、悩ましい。…今日はこのまま夕食を決めるのに時間を食う事にならないかな。怖い。ここまで優柔不断な自分が怖い。後で優柔不断を治す方法とか調べようかな。うん、そうしよう。
「そうと決まれば、早速夕食作りに取り掛かろうかな。」
トントンと、広い空間に寂し気にそんな音が拡がっていく。
…うん、やっぱりちょっと寂しいなぁ。一人暮らしを決めたあの時には覚悟していた筈だったけれど、いざ実際に過ごしてみると、家の喧騒が懐かしく感じ、学校の騒がしさをも懐かしんでしまう。ホームシック、と言うよりは、単に寂しいと言えば良いんだろうか。あーあ、誰か一緒に暮らす人が居ればなぁ。
きっと楽しいだろうな。一緒に料理して、一緒に趣味の事を楽しんで、時に笑って、時に喧嘩する。思い出の場所を、ただ歩く。そんな楽し気な妄想を広げど、それは空しく消えていく。……何か、良い出会いとかないかなぁ。
「……ちょっとずつ、頑張ってみようかなぁ。」
俺のそんな情けない一言は、誰の耳にも届かずに、空気に溶けていった。
はい、いかがだったでしょうか。
皆さんは歌を歌う時、どう歌いますか?
音程を間違えない様に丁寧に歌いますか?その時の感情のままに歌いますか?楽しみながら歌いますか?私は、歌詞の意味を考えながら登場人物やその場面に該当する時を想像して歌います。色んな歌い方があるのは、個性の面白い所ですよね。
では、また次回。