月の薬師は魔法使いの夢を見るか?   作:十六夜××

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巻頭小話「負けるなクローンちゃん」

クローン「出来ました」
スラグホーン「どれどれ……ふむ、素晴らしい出来だ。二年生でこれほど上手に魔法薬を調合する魔法使いを私は他に見たことがない。セブルスやリリーが霞むほどだ」
クローン「恐縮です」
スラグホーン「セレネ、君のこの才能は是非伸ばすべきだ。君には特別に課題を与えよう……」

バーティ「どんな課題が出たんだ?」
クローン「この小瓶の中身を解析する課題です」
バーティ「スラグホーンもえげつない課題を出すな。それもうふくろうの範囲じゃないぜ? 総合成績じゃ俺が勝ってるけど、魔法薬学だけはセレネが突き抜けて成績いいよな」
クローン「……そうですね。興味のある教科が魔法薬学ぐらいしかないので」
バーティ「他は片手間かよ。自信失くすぜ」


第十八話 不老の魔法使い

 一九七四年、一月。

 私は研究室の机の上に広げた資料と睨めっこしながら小さく唸る。

 

「何か決め手に欠けるわ」

 

 蓬莱の薬というのは、原料にそれほど貴重な素材を使わない。

 ありふれたとまではいかないが、比較的容易に手に入る素材で構成されている。

 月の石だけが地上では少々ネックではあったが、それも運良く入手することができた。

 だが、やはりというか、月のレシピは地上の技術では不可能な行程がいくつか存在している。

 いくら同じ素材を使っても、製法がそのまま適用できないなら意味がない。

 となれば、その行程を変更させても問題ないように薬の成分を変えるしかないだろう。

 

「エバンス、少し出るわ」

 

「いってらっしゃいませ」

 

 私は今まさに私の元にコーヒーを運んできたエバンスにそう告げると、椅子にかけていたローブ代わりの白衣に袖を通す。

 そして研究室の隅にあるキャビネットの扉を開け、その中に入った。

 キャビネットを抜けた先はノクターン横丁にあるヴォルデモートの隠れ家の一室だ。

 私は体についた埃を軽く払うと、部屋の中を見回す。

 普段ならロジエールやドロホフが酒を飲みながらポーカーで盛り上がったりしていたりするが、今日はその二人の姿は見えない。

 代わりに、金髪の長髪を後ろで結んだ青年がこちらを見ながら口をポカンと開けていた。

 

「あら、新人?」

 

 そう声を掛けたが、私はその肌が青白い青年に見覚えがある。

 去年までホグワーツに在学していたルシウス・マルフォイだ。

 闇の魔法使いと繋がりがあるという噂は聞いていたが、まさかそれがヴォルデモートだったとは。

 

「昨年ホグワーツを卒業したルシウス・マルフォイです。貴方は?」

 

「魔法省魔法法執行部闇祓い局所属アメリア・テイラーよ」

 

 私がそう名乗った瞬間、ルシウスがわかりやすく硬直する。

 私は小さく肩を竦めながら続けた。

 

「マルフォイと言ったわね。聖二十八一族のマルフォイ? このボロ屋は貴方の家の所有かしら。このボロ屋を死喰い人が根城にしているというタレコミがあってね。まさかこんなロンドンの街中に拠点を構えるはずがないから多分ガセ情報だとは思うけど一応調べないといけないでしょう? というわけで家宅捜索させて貰うわよ」

 

 私は一方的に捲し立てると普段ヴォルデモートが使っている部屋の方へと歩き出す。

 ルシウスは私が背を見せたことでようやく我に返ったのか、慌てて私を引き留めた。

 

「ま、待ちたまえ。勝手に漁られては困る。それにタレコミだと? 一体誰から?」

 

「勝手に漁らないと家宅捜索にならないでしょう? あ、この部屋から見るわね」

 

 私はルシウスの制止を払い除けると、ヴォルデモートの部屋のドアノブに手を掛けると、ゆっくり押し開く。

 部屋の椅子にはヴォルデモートが腰掛けており、机に広げた地図に羽ペンで書き込みをしていた。

 

「ヴォルデモート、この新人早々に処分したほうがいいわ。何の役にも立たないじゃない」

 

 私はルシウスの肩をバンバンと叩きながらヴォルデモートに告げる。

 ヴォルデモートは少し顔を上げると、すぐに地図に視線を戻した。

 

「あまり新人を虐めるなホワイト。何か用か?」

 

「薬の素材で必要な物があるのよ。少し相談に乗って欲しくてね〜」

 

 私はルシウスを解放すると、部屋の中に入っていく。

 ルシウスはわけがわからないと言わんばかりの表情を浮かべると、そっと部屋の扉を閉じようとした。

 

「次は無いぞルシウス」

 

「──ッ!? 申し訳ございません我が君……」

 

 ルシウスは急いで扉を閉めると走って逃げていく。

 ヴォルデモートは既にルシウスに興味を失くしたのか、手に持っていた羽ペンを机に置いてこちらに向き直った。

 

「必要な素材と言ったな。生きた人間か?」

 

「それは今のところ間に合ってるわ。私が今欲しいのは賢者の石よ」

 

「なるほど、賢者の石か……賢者の石だと!?」

 

 ヴォルデモートは思わずと言った様子で座っていた椅子から立ち上がる。

 

「蓬莱の薬の調合法を見直そうと思ってね。魔法界で一番使えそうな素材が賢者の石なのよ。入手法に心当たりはない?」

 

「そう簡単に入手できるものなら、今頃魔法界は不老者で溢れている」

 

 ヴォルデモートは小さくため息をつきながら椅子に座り直す。

 

「今現在、賢者の石を所有しているのはニコラス・フラメルだけと言われている。やつについては知っているか?」

 

「本で読んだことがあるわ。有名な錬金術師よね? まだご存命なの?」

 

「ああ、まだ生きている。既に六百歳を超える老齢だ」

 

 六百歳。マグルと比べて長生きする傾向にある魔法使いと言えども、二百歳に届く者は少ない。

 賢者の石から生成できる命の水による延命効果がなければ到底ここまでの長生きは出来ないだろう。

 

「まだ生きているなら話は早いじゃない。ドロホフあたりを派遣してサクッと製法を聞き出してきて貰いましょう」

 

「そう簡単な話ではない。今現在、賢者の石が全くと言っていいほど世に流通していない理由はわかるか? 卑金属を黄金に変え、老いることがなくなる命の水を生成することができる石だ。誰もがその石を狙うだろう。だが、今現在ニコラス・フラメルは襲撃を受けることなく平和に暮らしている」

 

「何かトリックがあるのね?」

 

 ヴォルデモートは私の言葉を鼻で笑うと、愚かなことだと言わんばかりに口を開いた。

 

「トリックなんて大層なものではないさ。もっと馬鹿げた話だ。やつは精製した賢者の石をグリンゴッツに預けると、その製法を綺麗さっぱり頭の中から忘却したのだ」

 

「製法を忘却した?」

 

 私は思わずヴォルデモートに聞き返す。

 

「ニコラス・フラメル、やつは知識の探求者ではなかったという話さ。死にたくないという私利私欲のために石を作り上げ、自分の身が危険に晒されないように製法を完全にこの世から消し去った。フラメルを襲っても意味がない。やつはもうただ長生きしているだけの老人だ」

 

「でも、生きているということは賢者の石の現物はあるわけでしょう? それを奪うことはできないの?」

 

「まあ、それは出来るだろうな。だが、それに関しても万全の備えをしているはずだ。そう簡単にはいかないだろう」

 

 確かに守りが万全でなければ、今頃ニコラス・フラメルは老衰により死んでいる。

 今も生きているということはすなわち、五百年以上は石を守り抜いているということだ。

 

「どのように管理しているかは知らないのね?」

 

「流石にな」

 

「私としては、一瞬でも賢者の石の実物に触れることが出来ればそれでいいのよねぇ。成分さえ判れば再現できるでしょうし」

 

 ニコラス・フラメルほどの高名な魔法使いを襲うのはそれ相応のリスクが伴う。

 ニコラス・フラメル自体六百年を生きるベテラン魔法使いであるし、人脈もそれなりに広いため多くの魔法使いを敵に回すことになる。

 ニコラス・フラメルを殺すこと自体はそう難しくもないだろう。

 だが、死ぬまで拷問にかけたところで石の在処がわからなければ何の意味もない。

 マグルを相手にする時とは違う。

 慎重に動かざるを得ないだろう。

 

「今回に関しては任せっぱなしというわけにも行かないわね。私自らが動くとしましょう」

 

「何か作戦が?」

 

「ええ。誰も不幸にならない。それはそれは素敵な作戦よ」

 

 私はヴォルデモートの向かい側の椅子に腰掛け、今思いついた作戦の詳細をヴォルデモートに話して聞かせた。

 

 

 

 

 一ヶ月後、私はダイアゴン横丁の入り口になっているパブ、漏れ鍋を訪れていた。

 もっとも、店主は私の幼年期の姿を知っているため、多少の変装はしている。

 白い髪はブロンドに染め、後ろで一つに纏めている。

 服装もいつもの白を基調としたものではなく、茶色っぽい落ち着いたものだ。

 それに大きな鼈甲の眼鏡をしてしまえば、いつもの私の面影はなくなる。

 魔法で全くの別人に変装することもできるが、今回に限ってはそれをする方がリスクが伴うだろう。

 魔法界には、相手の変装を暴く魔法が無数に存在している。

 もしそのような魔法で変装が解けてしまえば、何かやましいことがあると言っているのと同義だ。

 だとしたら、変装は魔法を使わずに出来る範囲に留めておいたほうがいい。

 私はカウンターで紅茶を注文すると、テーブル席に腰掛ける。

 待ち合わせの時間は既に過ぎているため、もうそろそろ待ち人も店にやってくるはずだ。

 そんなことを考えていると、店の奥が一瞬緑色の光で照らされる。

 私がそちらに視線を向けると、かなり老齢の男性がローブについた埃を払いながらこちらに歩み寄ってきた。

 

「日刊予言者新聞の記者というのはアンタか?」

 

「はい。お待ちしておりました。フラメル様」

 

 私は椅子から立ち上がると老齢の男性、ニコラス・フラメルに向かって頭を下げる。

 フラメルは私のお辞儀に軽く手を上げて応えると、私の前の席へと腰掛けた。

 

「本日は遠いところご足労いただきありがとうございます。私はルナ・ホワイト。日刊予言者新聞で記者をやらせて頂いております」

 

「わしのような古い人間の記事に需要があるとは思えんがな」

 

「とんでもない。フラメル様は生きる伝説ではありませんか」

 

 私はカウンターに合図を送り、フラメルの紅茶を用意させる。

 

「取材の内容は手紙でお送りした通りです。錬金術の終着点である賢者の石とはどのような物質なのか。そして、それを調合してみせた天才錬金術師は現在どのような生活をしているのか。そのような内容の記事を書かせて頂こうと思います」

 

「手紙では、簡単な取材のあと、実際に石の現物や命の水の生成風景まで写真に収めたいという話じゃったな」

 

 フラメルは少し悩むような仕草で私の顔を見る。

 

「はい。あらゆる金属を黄金に変える石。不老不死の薬を作り出す石。読者へのインパクトは絶大です。忘れ去られた錬金術という分野に新たなる人材を引き込むチャンスでもあります」

 

 私は近くに他の客がいないことを確かめると、少し声を潜めて言った。

 

「それに、石の守りがどれほど万全なのかを今一度人々に知らしめることこそ、窃盗犯や闇の魔法使いに対する大きな抑止力になるとは思いませんか? 現在、ヴォルデモートと呼ばれる凶悪な魔法使いが影響力を広げています。もし彼らが石を求めたとしたら、一番初めに襲われるのはフラメル様、貴方です。そうならないためにも石がどこに、どれほどの守りで保管されているかを世間に周知した方がいいと思いませんか?」

 

「口が上手いのう……じゃが、利害は一致しておるようじゃな」

 

 フラメルは私の言葉に何度か頷く。

 

「今日、お主の取材を受けようと思った一番の理由はまさにそれじゃよ。石の守りが盤石であるという事実を広く世間に知らしめようと思っておる。お主の言う通り、強盗犯の矛先をわしから保管場所へと移すためじゃ。わしも妻も長い時を生きるベテランではあるが、二人で対処できる人数には限りがあるからの。自宅を襲われたら堪ったものじゃないわい」

 

 フラメルは店主からティーカップを受け取ると、静かに口をつける。

 

「それに、錬金術が現在メジャーな学問ではないというのも確かな話じゃ。賢者の石には、人々を惹きつける魔力がある。この記事をきっかけに錬金術に興味を持つ魔法使いが増えればわしとしても嬉しい限りじゃ」

 

「よかった。取材をお受けしていただけるんですね」

 

 私はほっと安堵の息を漏らして見せる。

 

「では、初めにフラメル様の簡単な経歴と、錬金術に興味を持ったきっかけなどお話頂ければと」

 

「よかろう。わしが錬金術に興味を持ったのは、わしがボーバトン二年生のとき……」

 

 フラメルは今まで何度も似たような取材を受けてきたのか、まるで台本でもあるかにように流暢に話し始める。

 私は時折メモを取りながらフラメルの話をさも興味があるように聞いた。




プチコラム

ルシウス・マルフォイ
 ホグワーツを卒業した若き天才。入学時からヴォルデモートと繋がりがあったが、卒業を機に本格的に死喰い人となった。拠点でお留守番をしていたところ、セレネに絡まれてしまう。可哀想。

賢者の石の製法を忘却したニコラス・フラメル
 オリジナル設定。

魔法使いにはとことん慎重なセレネさん
 セレネ自身、とてつもない魔力を持っているとか、凄まじい魔法を使えるというわけでもないのでリスクの高い行動はちゃんと慎む。マグル相手の場合はリスクが低いのでやりたい放題やる。そのようなスタンスのため、ヴォルデモートからは魔法使い至上主義者だと思われているが、セレネにそんな気は一切ない。
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