月の薬師は魔法使いの夢を見るか?   作:十六夜××

20 / 33
巻頭小話「負けるなクローンちゃん」

セブルス「確かにいいアイディアだとは思うが、それではあまりにも材料の入手が難しすぎる。多少調合に手間が掛かっても既存の材料を使う方が利便性が高いのではないか?」
クローン「そうは言いますけど、その既存の素材自体ホグワーツには備蓄があるというだけで世間一般では採取難易度はそんなに変わらないと思います。だとしたらこの調合法の方が有用なわけで」
セブルス「採取難易度の話ではなく、入手経路の話をしているつもりだ。結局のところ、販路が無ければ材料の入手は困難だ。そういった面から考えれば──」
ジェームズ「おい見ろよ! スニベルスがシリウスの妹を引っかけてるぞ!」
セブルス「っ! ちが、そんなんじゃ──」
シリウス「おいスニベルス。俺の妹がお前の油でベタベタになる前にトイレにでも失せるんだな」
セブルス「お前たちのような愚か者にはわからないだろうがな。さっきまで高度な魔法薬学の議論を──」
ジェームズ「愚か者? 去年の学年末テストの結果をもう忘れたのかよ。お前が俺に勝ってるのはそれこそ魔法薬学だけじゃないか。おっと、アホだからそんな昔のことは覚えてないか」
リリー「ちょっと! またセブルスを虐めてるの!? いい加減にしなさい!」
ジェームズ「やべ。リリーだ。おいシリウス逃げるぞ」
シリウス「たっく、お前もあまり人のこと言えないよな」
ジェームズ「どういう意味だよ」


第二十話 人間牧場

「はい。これ上げるわ」

 

 ノクターン横丁にあるヴォルデモートの隠れ家の一室。

 私は目の前に座るヴォルデモートに対し賢者の石を差し出した。

 ヴォルデモートは私から石を受け取ると、しばらく不思議そうに見つめる。

 

「なんだこれは」

 

「なにって、賢者の石だけど」

 

 賢者の石という単語に、ヴォルデモートの目の色が変わる。

 私はその表情を見て内心ほくそ笑んだ。

 

「成分さえ分かれば再現は難しくはなかったわ。それは研究用の予備としていくつか作成したうちの一つ」

 

「それじゃあ、その石を使えば不老が手に入る。そういうことだな」

 

 ヴォルデモートは賢者の石をランプに透かし、ニヤリと笑う。

 私はそれを見て大袈裟に肩を竦めてみせた。

 

「残念だけど、そこまで美味しい話ではなかったわよ。賢者の石を使って延命を図ることは出来るけど、真の意味で不老不死を手にすることは叶わない」

 

 私はヴォルデモートに賢者の石が魔力の変換器であること、大容量の魔力タンクとしての性質があることを説明する。

 ヴォルデモートは私の話を聞き終わると、少しむすっとした顔でため息をついた。

 

「なるほどな。自分の魔力で命の水を生成し続けるというのはあまり現実的ではなく、他者の魔力を奪う必要があるということか。それに、延命と怪我の治療程度の効果しかなく、肉体が大きく損傷した場合は死に至ると」

 

「そういう意味では吸血鬼になった方がよっぽど不老不死と言えるかもしれないわね。命の水による延命はあくまで老化しないだけで、不死を保証するものではない」

 

 ヴォルデモートは少し残念そうに賢者の石を机の上に置く。

 私は鞄の中から少々大きめのボトルを取り出しながら言った。

 

「でも、貴方の場合は命の水を飲み続けたほうがいいわ。貴方、あまりにも魂が希薄すぎるもの。それ、何かの呪い? 魂を引き裂かれたりでもした?」

 

 私がそう言った瞬間、ヴォルデモートが勢いよく立ち上がり、私を仰向けに押し倒す。

 ヴォルデモートはそのままの勢いで私の上に馬乗りになると、私の眉間に杖の先端を押し付けた。

 

「まさか感付かれるとは。いつから気が付いていた」

 

 打ち付けた背中がジンジンと痛む。

 右手に持っていたボトルは私の手から零れ落ち、床を転がっていった。

 

「初めて貴方に会った時から。月ではね、魂や生命という概念さえも研究し、ある程度自由に操作できるレベルにまで達している。貴方の魂は一人の人間としてはあまりにも希薄。まるで半分以上が既に死んでいるか、もしくは分裂でもしたかのよう」

 

 私は杖が眉間に食い込むのも躊躇わず、ゆっくりと体を起こす。

 そして先程までボトルを持っていた右手でヴォルデモートの後頭部に触れた。

 

「……いや、違う。貴方、自分で自分の魂を千切ったわね。目的は……分霊箱か」

 

 分霊箱という言葉にヴォルデモートは表情を固くする。

 私はヴォルデモートにニコリと微笑むと、ヴォルデモートの頭部を自分の目の前へと引き寄せた。

 

「分霊箱は殺人という行為によって自らの魂を引き裂く。ふふ、少し意外だわ。かのヴォルデモート卿に罪悪感があったなんて」

 

「罪悪感だと?」

 

「ええ、そうよ。貴方は殺人に罪の意識を感じている」

 

 私は両手でヴォルデモートの顔を包み込みながら、ヴォルデモートの目を見る。

 ヴォルデモートの固く閉ざされた心はまるで新月の森の中のようだ。

 

「罪の意識があるからこそ、魂が傷つく。例えばだけど、アリを踏みつぶした時に魂が傷つくと思う? 思わないわよね。アリ一匹を殺す程度のことでは罪の意識は生まれない。貴方が人を人だと認識し、殺人という行為が許されないことであると理解しているからこそ、貴方の魂は傷つき、そこから二つに割くことができるのよ」

 

 優し気な笑みを浮かべ、ヴォルデモートの頬を撫でる。

 ヴォルデモートは小さく身震いすると、私の上から立ち上がり、杖を仕舞った。

 

「……このことは他言無用だ。分霊箱のことも絶対に他人に漏らすな」

 

「話すつもりはないわ。っと、本題に入っていい?」

 

 私は背中についた砂を魔法で綺麗にすると、地面に転がっているボトルを拾う。

 そして改めてヴォルデモートに手渡した。

 

「とにかく、貴方の魂はダメージを受けている。それを癒すためにも命の水は飲んだ方がいいわ」

 

「命の水は魂の傷にも作用するのか?」

 

「元通りとまではいかないけれど、多少は修復させることが出来る」

 

 ヴォルデモートはボトルの栓を開け、少し匂いを嗅ぐ。

 そして意を決したようにボトルの中身を一気飲みした。

 その瞬間、崩れかかっていたヴォルデモートの魂の形が整い始める。

 ヴォルデモート自身実感があるのか、ボトルを取り落とし何かを確かめるように自らの手のひらを見つめていた。

 

「これは……凄いな。というか、僕の魂はここまで疲弊していたのか」

 

「一人称崩れてるわよ」

 

 私のそんな指摘が聞こえているのかいないのか、ヴォルデモートはもう一度杖を引き抜き、私が渡した賢者の石を調べ始める。

 

「素晴らしい触媒だ。ただの水にここまでの効果を付与するとは……この命の水はセレネが生成したのか?」

 

「まあ、そうね。今貴方が持っている石と同じものにマグルの魂を吸わせて、その石で生成した命の水よ。人間一人の生命力をそのまま魔力に変換した」

 

「マグルの生命力を魔力に……なるほど、そういうことも可能なんだな」

 

「だからって、大規模マグル狩りなんてやめなさいよ? それに関してはちゃんと考えがあるんだから」

 

 ヴォルデモートは視線を賢者の石から私へと移す。

 

「考え? ホワイト、次は一体何を──」

 

「簡単な話。資金集めも兼ねて人間牧場を作ろうと思っているわ」

 

「にんげ……は?」

 

「生命力を魔力に変換できることはわかった。後は数を用意するだけでしょう? マグルの女を複数用意して、無理矢理十つ子を出産させる。生まれた子供には成長魔法をかけ、一年で十歳ほどの大きさに育て、収穫。生命力は賢者の石に。肉は吸血鬼や人狼に売るって寸法。吸血鬼や人狼も何のリスクも冒さず人肉を食べれるならそれに越したことはないだろうし、需要はあると思うのよね」

 

「蓬莱の薬の研究で忙しいんじゃないか? そんなことしなくとも──」

 

「いえ、これに関してはシステムだけ構築して、運営は貴方の部下にやってもらおうと思っているわ。その方が貴方にとっては都合がいいんじゃない? 命の水を生成するために必要な魔力集めと資金集めが同時に出来るんですもの」

 

 実際のところいいことずくめだ。

 蓬莱の薬の研究にそこまで大量の命の水は必要ない。

 人体実験用の人間が少しと、少量の命の水の提供さえ受けれれば十分だ。

 

「……そうか。なら配下の人狼に声を掛けておく」

 

「人狼ってグレイバックのこと? 施設を管理できるほどの知能があるの?」

 

「お前は人狼をなんだと思ってるんだ。人の姿の時の知能は人間と変わらない。それに、奴らも馬鹿じゃない。満月の夜に本能に任せて管理している人間を全て食い尽くしてしまうようなことにならないようにはするはずだ」

 

「人狼がってよりかはグレイバック本人の知能を疑っているんだけど……まあいいわ。貴方の言うことなら従うでしょうし」

 

 管理を人狼に任せるなら、それに合わせて施設を設計したほうがいいだろう。

 

「施設の場所に希望が無ければこっちで適当に選定するけど……どこかいい場所ある?」

 

「特にない。お前に任せるよ、ホワイト」

 

 ヴォルデモートはため息交じりにそう言うと、どこか疲れたようにソファーに腰かける。

 私は空のボトルを鞄に仕舞い直すと、ヴォルデモートのいる部屋を後にした。

 

 

 

 

 一九七四年、八月。

 私はエバンスを連れて完成した人間牧場の視察に来ていた。

 牧場といっても放牧地があるわけではなく、施設の殆どは地下に建設されている。

 そのためどちらかと言えば牧場というより工場に近いかもしれない。

 私は白で統一された清潔感に溢れる施設の階段を下り、母体が収容される予定の部屋へと入る。

 

「なんというか。まさか事業を本格的に始める前に出資者が現れるなんてね。どう思う? エバンス」

 

「怪しさ満点ではありますが、出資者は吸血鬼なのでしょう?」

 

「事業を横から搔っ攫おうとしているようにしか見えないのよねぇ。まあ、私としてはそれでもいいんだけど」

 

 出資を申し入れてきたのはスカーレット家の当主、レミリア・スカーレットだ。

 一体どこから人間牧場の話を聞きつけてきたのかはわからないが、責任者ということになっているグレイバックに相当な金額を出資してきたらしい。

 グレイバックもアホなので二つ返事でその出資を受けてしまった。

 

「この事業に関して、私は表向きには関与していないことになってるし、実際に私に大きな利益があるわけでもない」

 

「では、どうしてこのような面倒くさいことを? 蓬莱の薬の調合に必要な命の水の分量を考えても、人間牧場を作るほどではないでしょう。牧場の設計や母体を多胎させるための魔法薬の開発などにも少なくない時間を割いています」

 

「半分は保険。攫ってきた人間を使うのもリスクが付きまとうし」

 

「もう半分は?」

 

 私は足を止め、エバンスにニコリと微笑む。

 

「彼のためよ」

 

 そう、人間牧場の一番の目的は、ヴォルデモートに命の水を飲ませ続けることだ。

 彼自身が思っている以上に彼の魂は傷ついている。

 今のままでは彼は蓬莱の薬が完成するよりも前に自我を崩壊させるか、歪な化け物へと変貌してしまうだろう。

 

「少なくとも、蓬莱の薬が完成するまでは生きてもらわないと。薬を処方する前に患者に死なれるなんて三流もいいところでしょう?」

 

「そういうものですか」

 

「そういうもの。まあ、ここまでの規模になるのは少し予想外だけど」

 

 レミリア・スカーレットの思惑がどうであれ、経営権を取られることだけは避けなければ。

 人間牧場の一番の目的は育てた人間の生命力を魔力へ変換することだ。

 経営権を取られてしまったらそれを行うのが困難になる。

 

「まあ、その辺はヴォルデモートからグレイバックに釘を刺しておいてもらいますか」

 

 私は母体の体を固定する器具や栄養を流し込むためのホースが設計通りに部屋に設置されているかを確かめた。

 

「ふむ。まあ及第点かしらね。母体は母体としての機能以外は切除する予定だし、問題なく機能するでしょ」

 

「研究室で導入しているような培養槽ではいけなかったのです? わざわざ本物の人間の母体を使う必要はないのでは?」

 

「貴方最近質問が多いわねぇ。そろそろ潮時かしら」

 

 脳に直接服従の呪文を掛けているため、エバンスが私を裏切るということはあり得ない。

 だが、エバンスの脳が服従の呪文に慣れきってしまい、かなり正常な思考を取り戻しつつあるのは確かだろう。

 

「でも貴方かなり優秀だし、もう少し使ってあげる。そうね。確かに培養槽を用いて人間を複製することも出来る。でも、それはあまりにも管理にコストが掛かりすぎるのよ。母体を使えば、母体の体調にさえ気を使っていればあとは母体が勝手に赤子を生産してくれる。私が付きっ切りで管理するならまだしもね」

 

 あれからグレイバックとは何度か話したが、やはり知能は高いとは言い難い。

 施設の管理もある程度自動化しておかなければならないだろう。

 

「母体の改造は私が手掛けるとして、母体に与える栄養などは栄養価の高い魔法薬を使用する予定。そのための実験も研究室で行っているでしょう? 胃袋に直接管を通して、巨大なタンクから一定量の魔法薬を母体へ投与する。グレイバックたちはタンクの魔法薬が無くならないように補充さえすればいい。それなら魔法薬を与え忘れるということもないしね」

 

 まあ、初めのうちは何らかの手違いで母体を殺してしまったり、産まれてきた赤子が成長しきる前に死んでしまったりといった事故が多発するだろう。

 人狼たちが仕事に慣れ、生産が軌道に乗り始めるには少なからず時間が掛かるはずだ。

 

「さて、視察はこの辺にして帰りましょうか」

 

「はい」

 

 私は階段を上り、地下から地上へと戻る。

 そして最後に視察が終わった旨を伝えるために施設の事務所へ顔を出した。

 事務所の中にはグレイバックと、その配下だと思われる人狼が机の上でチェスにいそしんでいる。

 グレイバックは私が顔を出したことに気が付くと、シメたと言わんばかりにチェス盤の駒をぐちゃぐちゃにした。

 

「おっと、お偉方の登場だ。このゲームはお流れだな」

 

「あ、ズルいぞグレイバック! 負けてるからって」

 

 グレイバックは悪びれる様子もなく私の元までやってくる。

 私はそんなグレイバックに施設が設計通りに完成していることと、もう研究所に帰る旨を伝えた。

 

「おっと、そうですかい。そいつはなによりなことで」

 

「ええ。今度顔を出すのは施設を稼働させるときかしら。それまでに若いマグルの女を十人以上は攫っておくのよ」

 

「そいつらが、初期の母体になるわけだな。へへ、にしてもホワイトさんよぅ。あんた綺麗な顔して相当な鬼畜だな」

 

「あら、誉め言葉として受け取っておくわ」

 

 私はグレイバックにニコリと微笑むと、事務所を後にする。

 そしてエバンスの右腕を掴み、そのまま付き添い姿くらましで研究所へと帰った。




プチコラム

人間牧場
 ヴォルデモートを生かし続けるために作られた人間繁殖場。効率を上げるため、母体には可能な限り多くの子供を同時に出産させ、産まれていた子供にも魔法を掛けて成長を早める。

死喰い人の資金源
 今までは金を持っている構成員が資金を出し合っていたが、これからはこの人間牧場が大きな資金源となる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。