月の薬師は魔法使いの夢を見るか?   作:十六夜××

24 / 33
第二十四話 高みを目指して

「と、そういうわけなの。仲間に入れてもいいわよね?」

 

 研究室から死喰い人のアジトへと移動した私たちは、真っ直ぐヴォルデモートのいる部屋へと向かい、事の経緯をヴォルデモートに話した。

 ヴォルデモートは私の話を最後まで聞くと、口元を隠すように顔の前で指を組む。

 そして明らかに機嫌が悪そうな声色で言った。

 

「お前の話はよくわかった。ドロホフ、クラウチ、席を外せ」

 

「仰せのままに、我が君。おい、行くぞ」

 

 ヴォルデモートの機嫌が良くないことを察したのか、ドロホフは慌てた様子でクラウチの首根っこを掴み、部屋の外に引きずっていく。

 クラウチは心配そうな視線をクローンに向けたが、特に抵抗することなく部屋の外へと出ていった。

 ヴォルデモートは部屋から出ていく二人を見送ると、指を組んだまま深いため息をつく。

 そして明らかに疲れた顔で口を開いた。

 

「なぜそれがそこにいるんだ……こいつ、お前のクローンだろう?」

 

 クローンという言葉にクローンがピクリと反応する。

 

「クラウチの小僧と仲がいいことは知っていたが……まさかこんなことになるとは。おいホワイト、どうするつもりだ?」

 

「どうするつもりって?」

 

「お前とクローンの関係の話だ。まさか、本当に母親として通すつもりか?」

 

「それが一番真実に近いっていうのが笑えるわね」

 

 私がクスリと笑うと同時に、ヴォルデモートは大きなため息をつく。

 

「笑い事じゃないぞ。とにかく、こいつが死喰い人になることは認めよう。だが、それによって生じた不都合は全部お前が責任を持って処理するんだ」

 

「それはいいけど……不都合なんて起こるかしら?」

 

「今は大切な時期なんだ。お前の家族のいざこざを俺の組織内に持ち込むな」

 

 話は以上だと言わんばかりにヴォルデモートは椅子を回転させて背中を向ける。

 クローンはどうしていいかといった表情でオロオロとしていたが、私が部屋を出て行こうとすると慌ててヴォルデモートに対し頭を下げた。

 

「こ、これからよろしくお願いします!」

 

「──え? 今なん」

 

「アホなことやってないでいくわよー」

 

 私はクローンの腕を掴んで部屋の外に引っ張り出す。

 そして姿をくらますキャビネットが設置されているリビングルームへと歩き始めた。

 

「とりあえず、今後はホグワーツに通いながら、死喰い人としての活動も行うこと。死喰い人内には優秀な魔法薬師が少ないし、それなりに重宝されるとは思うわ」

 

「わ、わかりました。おか……ホワイト様のお手伝いをするわけではないのですか?」

 

「貴方程度に手伝えることなんてないわ。雑用はオリオンで足りてるし。貴方を使い捨てるわけにはいかないでしょう?」

 

 私の研究に深く関わった者を生かしておくつもりはない。

 オリオンも、必要がなくなった時点で処分する予定だ。

 

「まあとりあえず、貴方の直属の先輩には挨拶しときなさいね。私は研究室に帰るから」

 

「直属の先輩って──」

 

「スリザリンに魔法薬学が得意で闇の魔術に陶酔していた先輩がいたでしょう?」

 

 クローンは心当たりがあったのか、ハッとした表情をする。

 私は軽く手を振るとキャビネットの中に潜り込んだ。

 

 

 

 

 クローンが死喰い人入りして一週間ほどが経ったある日。

 私はクローンの様子を見にキャビネットを通ってアジトへとやってきていた。

 今頃はスネイプと一緒にポリジュース薬の量産でもやっているだろうか。

 それとも満月が近いこともあり、人間牧場で働いている人狼向けの脱狼剤の調合でもしているかも知れない。

 そんなことを考えながらリビングへと向かうと、室内の様子が普段と大きく異なることに気がつく。

 なんというか、全体的に小綺麗になっているのだ。

 埃の溜まっていた窓の桟は本来の色を取り戻しているし、床に散らばっていた食べカスなども存在しない。

 多くの魔法使いが滞在していることもあって、ついにこのボロ屋にも屋敷しもべ妖精がついたのだろうか。

 そんなことを考えていると、奥の廊下からクローンが顔を出す。

 その手にはトレイとティーセットを持っており、私の顔を見た瞬間ビクンと跳ねてその場で固まった。

 

「あ、そのホワイト様、よくいらっしゃいました……お茶でもいかがですか?」

 

 クローンはおずおずといった様子で廊下の陰から出てくると、そっと私の前にティーカップを置く。

 私はその紅茶を一口飲んだ後、クローンに聞いた。

 

「何やってるの? 家事手伝い? 私は魔法薬の調合を手伝えと言ったはずだけど」

 

「そ、それがその……スネイプ先輩に『俺一人で十分だから部外者は消えろ』って言われてしまって。仕方なくここの掃除や帰ってきた人へのお茶出しとかを……」

 

「自分の仕事を奪われると思ったのかしらね。そんな大した仕事もしてないくせに。でも、だからって屋敷しもべ妖精の真似事をしなくてもいいんじゃない? 外回りの仕事も沢山あるでしょうに」

 

 私がそう指摘すると、クローンはしゅんと縮こまる。

 

「危険だからついてくるなってみんな言うんです」

 

 まあ、クローンはまだ学生ではあるし、それにブラック家本家の人間でもある。

 みな何かあった時の責任を取りたくないのだろう。

 

「だったら尚更スネイプを蹴り飛ばしてでも魔法薬の製造を──」

 

「いや、セレネはそれでいい」

 

 その時、私の言葉を遮るようにヴォルデモートが顔を出した。

 

「それでいいってどういうことよ」

 

「そこまで人手が足りないわけでもない。セレネにはそのまま家事をしてもらいたい」

 

 クローンはヴォルデモートにペコリと頭を下げると、トレイを胸に抱えてパタパタと走り去っていく。

 ヴォルデモートはそんなクローンを目で追いながら言った。

 

「人は育つ環境で変わるものだな」

 

「どういう意味よそれ」

 

「どうもこうもそのままの意味だよ。あの子にお前と同じ血が流れているとは到底思えない。やはり子供の頃の情操教育というのは大事だな」

 

 ヴォルデモートはしきりに何度も頷く。

 

「お前もホグワーツに通った方がよかったんじゃないか? ……いや、お前の場合はもう手遅れか」

 

「散々な言いようじゃない。そんなにあの肉人形が気に入った?」

 

「ああ、あの子は天使だな。俺の下に舞い降りた天使だ」

 

「あほらし。まあセレネのことは貴方に任せるわ。好きに使って。ワイフにしてもいいわよ」

 

「ああ、それもアリかもな」

 

 そこまでか。

 私は大きく肩を竦めると、キャビネットへと踵を返す。

 この様子なら放っておいても問題はなさそうだ。

 私がキャビネットの扉に手を掛けた瞬間、ヴォルデモートが思い出したように言う。

 

「おいホワイト、薬の方はどうなんだ?」

 

「九割ほどは完成しているわ。決め手に欠けている感じよ」

 

 私はそれだけを伝え、キャビネットを潜った。

 研究室に帰ってきた私は、背もたれ付きの回転椅子に座り脱力する。

 アレが今現在魔法界で恐怖の対象になっているヴォルデモート卿の姿だと思うと笑えてくる。

 あの様子では、半年もしないうちに結婚して子供でもこさえるんじゃないだろうか。

 

「育児に追われるヴォルデモート……もうパパ、赤ちゃんの様子ちゃんと見てて……ふふ」

 

 考えるだけで滑稽だ。

 

「オリオン、お茶を淹れなさい」

 

「ああ」

 

 部屋の隅で待機していたオリオンは私が命じた瞬間動き出し、紅茶の準備を始める。

 私はそんなオリオンの背中に向けて話しかけた。

 

「そういえば、貴方とヴァルブルガは恋愛結婚だったの? それとも見合い結婚?」

 

「子供の頃に親が結婚相手を決めた。子はそれに従うだけだ」

 

「それじゃあ、私の結婚相手もある程度目星はつけていたわけ?」

 

 私の問いに、オリオンは首を横に振る。

 

「お前は俺の子ではなく、ヴァルブルガが不倫相手と作った子供だろうとずっと考えていた。故に、結婚相手を決める気はなかった」

 

「私が産まれた時に大喧嘩したって話は聞いていたけど、まだ納得していなかったわけ? この際だから言うけど、私は正真正銘二人の実子よ。容姿が二人に似ても似つかないのは、私が月からの転生者だから」

 

 そう、私は月の都から地上へ落とされた転生者だ。

 故に、私の体にはブラック家の血は流れておらず、遺伝子情報も月の都にいた時と変わっていない。

 そういう意味では、二人の子供ではないというのもある意味正しいかもしれないが。

 

「そう、私には月の民の血が流れて……」

 

 そうだ。私の体には月の民の血が流れている。

 そして遠縁ではあるが、蓬莱山輝夜も祖先を辿ればいずれ私の家系と合流するのだ。

 

「何かしらの方法で遺伝子情報の中に眠る輝夜の能力を引き出すことが出来れば……」

 

 もしかしたら、時間を操ることも可能かもしれない。

 私は机の上に広げていた資料を脇へどかすと、新しいコピー用紙を引き出しの中から取り出し万年筆を走らせる。

 

「私の中に眠る蓬莱山輝夜の能力のルーツとなった遺伝形質を上手く取り出して発現させることが出来たら……輝夜の能力は昔お師匠様と二人で散々研究したことがある。完全に再現出来なくてもきっかけさえ掴めれば」

 

 そのためには、まずは私の遺伝子を詳しく調べる必要があるだろう。

 私は必要な機材をリストアップすると、手元にある受話器を持ち上げる。

 そして服従の呪文で操っている会社の人間に必要な機材を準備するよう内線で指示を飛ばした。

 

 

 

 

 

 数週間ほど私の遺伝子を調べた結果、私の中にも微かに時間を操る能力が秘められていることがわかった。

 まあ、力が弱過ぎて体感出来るほどの時間操作を行うことは不可能だが。

 だが、今重要なのは私の力の強さではない。

 この微かに発現している時間操作の能力を、どうにかして極限まで高めなければならない。

 そもそも、時間操作の能力は血液に発現する。

 身体の中を巡り続ける血液を時間の流れに見立て、それを操作することで相対的に時間の流れを操るのだ。

 血液中に含まれる時間操作の因子が多ければ多いほど、時間に大きな影響を与えることができる。

 つまりは、血液中のその因子の濃度を極限まで高めることができれば、輝夜を超える時間操作者を作ることができるのだ。

 

「私の血中にあるごく僅かな因子を効率よく増やす方法さえ見つかれば……私は時間操作の能力を手に入れることが出来る」

 

 そうなれば、私は自分一人の力で蓬莱の薬を完成させることが出来る。

 輝夜の力を借りなければ薬を完成させることが出来なかったお師匠様を超えることができるのだ。

 

「はは、あはははは! それって凄い素敵!」

 

 月の都に居ては、絶対に成し得なかっただろう。

 私はもしかしたら、お師匠様を超えるために地上へ落とされたのかもしれない。

 とにかく、道は見えた。

 あとはその道を辿るだけである。




プチコラム

クローンを追い返したスネイプ
 純粋な魔法薬学の能力を比べると、クローンの方が頭一つ抜けている。学生時代にクローンの魔法薬学の能力を見てきたスネイプからしたら、自分の存在価値を全て奪っていきかねない人物なので、必要以上に警戒している。

時間を操る程度の能力
 時間操作の能力は、血中に含まれる因子の濃度によって左右される。本家本元の輝夜はその因子の濃度が濃く、ある程度自由に時間を操ることができた。分家も分家、かなり血が薄いセレネはごく微量しか時間操作の因子を持っていないため、原子時計で測れば微かに時間がズレている程度の時間操作しかできない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。