月の薬師は魔法使いの夢を見るか?   作:十六夜××

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第三十一話 告白

 一九九一年、七月。

 私は、自分の部屋でサクヤの身体的データを眺めていた。

 サクヤの成長は順調だ。

 健康状態良好、精神状態も安定。

 能力のほうも順調に覚醒している。

 少し懸念点があるとすれば、同年代と比べて発育が少し悪いところだろうか。

 身長が同年代の平均値よりかなり低い。

 私がこのぐらいの歳の頃はもう少し身長が高かった記憶がある。

 トム・リドルの血の影響か、はたまた培養槽の中で育った影響か。

 成長魔法をかけてもいいだろうが、それによって血中の時間操作の因子にどのような影響が出るかわからない。

 そっとしておくのが吉だろう。

 

「プライマリー・スクールも今日で卒業。九月からはストーンウォールに入学するけど……共学じゃなく女子校のほうがよかったかしら」

 

 孤児院の子供たちの殆どは学費が安いストーンウォール校に入学する。

 その例に漏れずサクヤもストーンウォールに入学するのだが、ストーンウォールは治安が悪いことで有名だ。

 サクヤの容姿は少し目立ちすぎるところがあるので、いじめなどに合わないかだけが少し心配である。

 まあもっとも、サクヤは私に似て要領がいい。

 いじめっ子の素質はあってもいじめられっ子の素質はないだろう。

 そんなことを考えていると、コンコンと部屋の扉がノックされる。

 私は手に持っていたサクヤのデータを机の上に置き、鍵を開けて部屋の扉を開けた。

 そこに立っていたのはこの孤児院の院長である初老の男性、ジャック・テイラーだった。

 テイラーには服従の呪文をかけているが、ある程度の条件付けをしているだけで普段は自由にさせている。

 だが、このように私の部屋を訪ねてくるということは、何らかの条件に引っかかったのだろう。

 

「どうしたの?」

 

「手紙だ」

 

 テイラーは私に向かって一通の封筒を差し出す。

 封筒にはエメラルド色のインクで宛名が書かれており、切手などは貼っていなかった。

 そして、手紙に書かれている宛名は──

 

「サクヤ宛て……そして、この特徴的な封筒は……」

 

 私は便箋をひっくり返し、裏側を見る。

 そこには紫色の蝋で封印がなされてる。

 私はその封印のデザインに見覚えがあった。

 

「ホグワーツからの手紙……」

 

「私は院長室に戻る」

 

 テイラーは操られている時特有の若干虚ろな目で私の部屋を出ていく。

 サクヤ宛ての手紙は一度私の手を経由させるようにテイラーには条件付けをしている。

 きっとその条件にひっかかり、手紙を渡しに来たのだろう。

 

「……な、なんで」

 

 私は茫然としながら部屋の鍵をかけ、机の前にある椅子に腰かける。

 そして封筒の封印を解き、中に入っている便箋を取り出した。

 

 

『ホグワーツ魔法魔術学校 校長 アルバス・ダンブルドア

 

マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会長

 

親愛なるホワイト殿

 

 このたびホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

 新学期は九月一日に始まります。七月三十一日必着でフクロウ便にてのお返事をお待ちしております。 

 

敬具

 

副校長 ミネルバ・マクゴナガル』

 

 

 間違いない。ホグワーツへの入学案内だ。

 私は手紙を机の上にそっと置き、両手で頭を抱える。

 サクヤのことは魔法省、ひいてはホグワーツには感づかれていないと思っていた。

 だが、この手紙が来るということは、サクヤの名前が魔法省に登録されているのだろう。

 

「一体いつの間に……」

 

 少なくとも、サクヤが培養槽の外に出てから私の管理のもとを離れたのはクローンがサクヤを奪って逃げた数日しかない。

 その数日のうちに魔法省への登録を済ませるとも思えない。

 そもそも、サクヤ・ホワイトが魔法使いの子供であるという情報を知るものはこの世界で私だけのはずなのだ。

 

「どこまで情報が漏れている? ……でも、下手に探ると藪蛇になりかねない」

 

 魔法省は『十七歳未満の者の周囲での魔法行為を嗅ぎ出す呪文』をイギリス全土にかけているが、サクヤがそれに引っかかったとは思えない。

 私が自由に魔法を使えるようにこの孤児院には特殊な結界を張っているし、サクヤ自身も魔法の力はまだ自覚していないはずだ。

 

「なんにしても、ホグワーツに入学させるわけにはいかない」

 

 私はすぐさま便箋を取り出し、手紙の返事を書き始める。

 だが、しばらく書いたところでボールペンを走らせる手を止めた。

 

「いや、そもそもマグルがどうやってホグワーツまで手紙を送れってのよ。住所も書いてないのに」

 

 手紙の返信の仕方がわからなかったということで、無視してもいいのではないだろうか。

 私はホグワーツへの入校案内を机の引き出しにしまい込む。

 手紙は確認したが、返信の仕方がわからなかった。

 そういうことにしてしまおう。

 

「穏便に断るのが一番だけど……でも、入学しない自由もあるはずよね」

 

 ホグワーツへの入学は推奨されているだけであって義務ではない。

 中には国外にあるダームストラングへ子供を入学させる魔法使いの親だっているのだ。

 サクヤにはホグワーツのことを知らせず、うまくホグワーツへの入校を回避しなくては。

 その時、またもや部屋の扉がノックされる。

 ノックの音が軽い。

 きっとテイラーではなく、孤児院にいる子供の誰かだろう。

 

「はーい。ちょっと待ってねー」

 

 私は気持ちを切り替え、鍵を開けて部屋の扉を開ける。

 そこには、ホグワーツからの手紙を左手に持った状態でこちらを見上げるサクヤの姿があった。

 

 私は、頭を抱えた。

 

 

 

 

「プライマリースクールのロッカーにこれが入ってたんです。でも、きっと悪戯ですよね? だってこれ、住所が学校のロッカー宛てになってるし、切手だって貼ってないし」

 

 孤児院の二階にあるサクヤの部屋に移動した私たちはそれぞれベッドと勉強机に備え付けの椅子に腰かける。

 サクヤは半信半疑な表情で私に手紙を差し出してきた。

 手紙の内容は先ほど私が受け取ったものと全く同じだ。

 

「魔法の学校なんて聞いたことないし、そもそも、私は魔法使いなんかじゃないし……」

 

 私はサクヤの顔を見る。

 ホグワーツのことを疑ってはいるが、まんざらでもないという顔だ。

 この手紙が本当ならと、内心かなりワクワクと心躍らせている。

 ホグワーツが現実にあると知れば、喜んで入校を希望するだろう。

 

「そうねぇ……私もホグワーツなんて聞いたことないし。それに、サクヤちゃんはストーンウォールに入校が決まってるでしょう? そもそも、ホグワーツが魔法の学校なのだとしたら、魔法使いじゃないと入校できないんじゃない? サクヤちゃんは普通の女の子だし、ホグワーツへの入校はできないかも──」

 

「で、でも! 私、時間止めれるよ」

 

 サクヤはそう咄嗟に口走り、少しして若干後悔したような表情になる。

 私はため息をつくと、サクヤに聞いた。

 

「そのこと、学校で話したりしてないわよね?」

 

「今まで内緒にしてた……でも」

 

 私は開心術でサクヤの心を覗く。

 どうやらホグワーツからの手紙をクラスで仲のいい女子に見せ、時間停止の能力のことも話してしまったようだ。

 

「わかったわ。もう、しょうがないわね」

 

 私は小さく苦笑すると、椅子から立ち上がる。

 

「ついてきなさい。私の秘密を教えてあげるわ」

 

「え? それってどういう」

 

 サクヤは私の顔を見上げてきょとんとする。

 私は服の内ポケットから黒く細長い指揮者のような杖を少し覗かせて言った。

 

「私も魔法使いなの」




プチコラム

十七歳未満の者の周囲での魔法行為を嗅ぎ出す呪文
未成年の魔法使いの周囲での魔法の使用を魔法省は感知することができる。サクヤも例に漏れずその魔法に引っかかるため、ホワイトがサクヤの周囲で魔法を使うには一工夫必要。

ホグワーツの入校案内
今年十一歳になる魔法使いのもとへ送られてくる。基本的にはホグワーツに入学することになるが、海外にある魔法学校へ入学するという道もある。魔法学校へ入学しないという選択肢は存在しない(魔法の使い方を学べないと非常に危険なため)
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