TS淫魔の俺が寝取られ勇者に聖女と勘違いされ、世界を救うまで 作:科学式暗黒魔女
「ほらご飯ですよ。食べてください」
「うん……」
この数週間、あの日から自分で食事すらしなくなったレーヴァの食事などの面倒を見続けていた。
性的な行為もその時から一切していない。
そのせいでずっと性欲だけが溜まり続けているが、彼にそれを向けて良いのか分からないまま、独りで処理する毎日だ。
(……性欲は抑えられない物ですけど、このタイミングでレーヴァにそれをぶつけてしまえばあの女共と同じになってしまう。それは……嫌ですね)
淫魔の肉体は持て余しており、何度も彼と身体を重ねたい、もう一度唇に触れたいという欲望が延々と渦巻いているが矜持で何とか耐えている。
性欲以上に今の"私"は彼の愛が欲しい。一体これが女の身体になった影響か、それとも私となった自分の心の影響なのか、未だに答えは出ない。
その答えが出るまで、彼を世話し続ける事にしたのだが……。
「今日はゆっくり食べられそうだ」
「あんまり無理はしちゃいけません、消化の良い物は用意しましたが苦しいならすぐに吐いてもいいですからね」
レーヴァは食事をあまり受け付けなくなっている。上手く寝る事も出来なくなって、身体の筋肉は衰えて細くなり続けている。
流石に動いた方が良いと思い、散歩にも連れてっているのだが、レーヴァは既に外の風景を見ても何も反応しなくなりつつあった。
「……今日は良い天気ですね」
「……え? あ、ああ……うん……」
今のように意識が飛んでしまう事がよく有り、うわ言のように、魔王を殺さねばと呟き続けている。その時は正気を失っており、一度剣を持ち暴れた事すらあった。
その時の出来事で彼から剣を引き離してしまった。それが原因か分からないが、常に剣を手探りで探す動作を無意識で行い続けているが、それはつまり……。
彼がこの生涯の中、一時も剣を手放す事が出来なかったのを意味する。
一体いつから彼は戦い続けていたのだろう。それを考える度に、彼が日常を生きる事がドンドン難しく感じられてしまい、一生このままの姿を思い描き恐怖してしまう。
戦いが終わったらなんて簡単に言ってしまったが、確かに終わらせる事は出来るだろう。
それだけ私と彼の力は強く、魔王であろうと負けはしないと思う事が出来る。だけど、その結果は両親殺し以外に何もないのだ。
「……どうしたらいいんでしょう、ユダ」
「私もわかんないわよ……」
ユダはこの生活を手伝ってくれており、料理なども彼から教えてもらってから僅かだが一通りミスなく作れるようになっている。
「とは言いつつもね。不可能という点を除けば、彼をこれ以上苦しめずに済む方法はあるのよね」
「……やはり」
「そう。私と二人だけで魔王を倒すことよ」
私が魔王を倒す。彼の話では大陸を干上がらせるくらい訳無いという魔王を二人で。
そんな自殺にも等しい行動を前に、私の心は揺らぐ事はなかった。最初から決めていたのだ、それくらいは成し遂げみせると。
寧ろ中々言い出してくれないから私から言ってやろうと思ったくらいだ。やっとかと、笑いかけるとユダは何とも悲しそうな表情で──。
「……君達の姿を見てたら、もしかしたら私が独りで行くべきなんじゃないってね。でもそれでは勝てないのよ、だからこそ君を誘う必要があったんだけど……、中々決心が付かなくてね」
彼は何処までも大人であった。
子供を巻き込まんとする理想とそれでは不可能と断ずる現実、その両方を理解し妥協点を見出そうと苦悩している。
ならばこそだ。彼に言うべきなのだ、それはそれでこれはこれだと。
ユダが関わった研究のせいで魔王が生まれたとしても、全てを彼が独りで背負うべき罪ではない。だが同時に彼に罪がないわけでもないのだ。
その罪に向き合い、清算が出来るのはただ一人、貴方だけであり、途中で死んでしまってはただの逃げだ。
「死んで逃げようだなんて思わないでくださいよ。最後まで魔王を倒す旅に着いてきてくれないと困るんですから」
「心配しないで頂戴。そんなやわな生き方なんてしてないのだわ」
宿屋にはたった独り、レーヴァが置いてかれ、ニュクスとユダは既に旅立っていった後であった。
今の状態では彼は食事や睡眠すらせずに衰弱死してしまうからか、ユダは宿屋に大金を払い彼の介護を命じていた。
金を貰った以上は仕事はしっかりこなす、信用の出来る宿主だ。彼女達が旅立って早数日だが、彼の健康面が損なってはいなかった。
そんな約束を遵守する宿主であったが、どうにも今日はレーヴァの前に姿を見せずにいたのだ。
彼を知っている者であれば、遅刻は有り得ず、放ったらかすなど以ての外。何か事情があったのだと思うだろう。
それもその筈、彼は宿の事務所で気絶をしていたのだ。
気絶した宿主を見下ろし、眠った事を確認すると泊まっている客の情報のメモを漁る"胸の大きな褐色の女"が一人。宿主を気絶したのも彼女である。
その眼には強い憎しみと殺意が込められており、その憎しみと殺意の矛先を向ける相手を見れば、すぐにでも殺してしまいそうな程の剣幕だ。
「此処だ……」
ギラギラとした眼でメモを見回すと目標の敵の名を見つけ出す事に成功したのか、ニヤリと笑い、女は駆け出す。
敵は此処に居る、俺をこの身体にした復讐を成し遂げる為に。
そんな身勝手な欲望の主人はドアを勢い良く開け、レーヴァの元へ現れたのだ。
「よぉ……、久しぶりだな……」
「……誰?」
「あー、そうかそうか。確かによぉこの姿じゃ分かんねえよなぁ……」
すると男は上半身の人の顔よりも大きな褐色の乳房を見せつけ始める。
レーヴァはその行動に何の意味があるのかが、最初は理解が及ばなかったのだが少しずつ記憶が掘り返されていく。
そう、その乳房にはほくろがある。それは"光の聖女エレナの物と同じ……"。
「あの性女の魔力を吸収しといて良かったぜ……。俺はこんな身体にしたあの馬鹿女共の復讐の為によぉ! まずは八つ当たりにテメエに会いに来た!! テメエの女共を寝取った男なんだよぉ!」
「……嘘だろ?」
この褐色爆乳女はなんと聖女の魔力によって女体化、蘇生を自らの意志力と才能で果たした間男であったのだ。
腰痛めて養成してました。