ふたたり   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 くにむらせいじです。

 『ふたたり』始まります。

 このおはなしは、別の作品『メタメタバースデイ』の別バージョンというか焼き直し……のつもりで書いていました。
 物語の芯は同じで、設定を削り、キャラを変えて、過去作品のパーツを流用し……結果的に別物になりました。本作の方が明るい内容だと思います。


 横書きです。PC版の見た目を意識して書いています。
 マウスオーバーで脚注が出ますが、ウィンドウの幅によっては右にはみ出して切れます。
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第1話 「出会い」

 

 わたしは、何も無い場所にいた。

 

 『場所』ってなんだろう?

 何も見えない、聞こえない。暑さ寒さも、カラダの重さも、においも……何も感じない。

 でも、『わたし』がいるから、虚無とは言い切れないね。

 

 怖い…寂しい…普通はそう感じる状況。でもわたしは平気。何のしがらみも無くて自由だから、とってもラクで心地いい。

 好きなことを想像できる。言葉を浮かべて遊んだり、数を数えたり、物語を考えたり。それができないときは、空っぽになる。

 

 わたしは記憶を持っている。自分の過去は忘れてしまったけれど、言葉を知っている。これは助かる。言葉を使わずに考えるのは難しいから。

 

 考えられる、ってことは、時間が流れているのだろう。

 

 『時間』って何だろう?

 時計も太陽も無いけれど、100年と1秒の違いくらいは分かる。思考の速さを基準にすれば、『間延びして退屈』か、『考えをまとめる猶予が無い』かで区別できる。つまり、時間を測るには、曖昧な主観で比較するしかないのだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 何も浮かばなくて退屈なとき、唐突に『他人』と出会った。びっくり。

 

 この子、甘いミルクコーヒーの香りがする。ちょっと幼い感じだ。

 わたし、ヒマすぎて、イマジナリーフレンドを作ってしまったのかな?

 と思ったけれど、違うみたい。

 

 ふわふわ浮遊していた誰かが、わたしにくっついたのだ。

 ふたりは、触手が絡まったクラゲのよう。ぷにぷに気持ちいいけど、チクチク痛い。

 クラゲというより生卵かな。ココロの外側の透明な部分が『白身』で、ココロの奥のプライベートな部分が『黄身』。 *1

 ふたりとも、自分を守る『殻』が無いから……

 

*** 「……?」

 小さな鈴のような声がした。

 いや、声ではなく、つん、っと頬を触れられた感触だった。『疑問』とか『不思議』とか、そんなものを感じた。

 

わたし 「ダジャレじゃないよ!」

 

 わたしの『殻が無いから』に対して、この子は『それはダジャレ?』とたずねたのだ。

  恥ずかしい……。

 

 なでなでされた。元気が出るオレンジの香りと共に。 *2

 『恥ずかしい』わたしを、慰めてくれたみたい。

 

 この子は、わたしの想定外の反応をする。つまり、わたしの分身ではないのだ。

 本当に他人なのか、わたしの妄想なのかは、第三者がいないと確かめられないけどね。

 

 ふたりの境目は曖昧で、思いが透けて見えて恥ずかしい。でも、ふたりはふたりのままで、混ざらない。この子は言葉を使うのが苦手みたいだけど、においや感触をくれる。考えがくるくる回っていて、かわいい。

 

 わたしは、この子を好きになるしかない。そう思った。

 

 ふたりしかいないのだから、好きになった方が良いよね。嫌いな人とふたりきりなんて嫌だ。

 でも、好き嫌いはコントロールできない。好きになろうと努力しても難しいものだ。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

わたし 「名前が欲しいね」

 わたしは、そう提案した。

 

 『あなた』と『わたし』でも通じるけど、名前があった方が楽しいから。

 

 ひらがな3文字にしよう。2文字だと組み合わせが少ない。4文字以上は、組み合わせが多すぎるし、この子に負荷をかけてしまいそうだ。

 

 スロットマシンみたいに、ランダムに文字を回して…… *3

わたし 「ほら 止めて止めて!」

  ……この子に止めてもらう。 *4

 

 この遊びができるのは、『ふたり』いるからだ。ひとりでサイコロを振ると、何の目が出るか事前に分かってしまうのだ。 転がすのも止めるのも自分だからね。 *5

 

 できた組み合わせから、名前になりそうな言葉を選ぶ。

 

 『なみみ』『まこと』『いちご』『ゆうき』『つばさ』『やまと』『むりや』『かなや』『ふじみ』『ひえん』『ゆうほ』『えんご』『すばる』…………。

 

 この子が、『みかん』を拾い上げてくれた。

わたし 「それ、くれるの? かわいくて甘酸っぱいにおいだね」

 

 わたしの名前は『みかん』か……それに合わせるなら……。

わたし 「あなたは『おもち』! もちもちしてるから……」

 

 強めの酸味とほろ苦さが伝わってきた。これは拒否感だ。

 

わたし 「嫌? おもちは嫌なの?」

 

 うすい柑橘系のにおいが揺れた。こくこく うなずいてる。

 

わたし 「嫌なら、交換しようか」

 

*** 「……?」

 この子、首をかしげた。首なんてないけれど、かわいらしい音がした。

 

おもち 「あなたは『みかん』で、わたしは『おもち』。決定!」

 

 柑橘系のにおいが甘くなった。よろこんでくれたみたい。

 

 

 …… みかん&おもち ……お正月っぽいふたりだね……。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 みかんと離れたくない。

 

 名前を交換しただけなのに、どうしてこんなに感傷的になるのだろう?

 

 ふたりが離れたら、お互いを認識できなくなって、たぶん二度と会えない。それに、くっついた部分は溶け合っているから、切り離すだけで痛いはず。 *6

 『永遠にいっしょに居たい』と思うのは、自分の中に、重い『好き』が生まれたから。それはとても幸運なことだ。こんな場所で出会えたことも含め、出来すぎだと思う。

 

 『お気に入り』のガラスケースの真ん中に、みかんを飾った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 みかんとふれ合いたい。一緒に遊びたい。言葉の触手で、深く深くつながりたい。

 わたしは、そんなことばかり考えていた。

 『好き』の感情は、ココロの黄身の裏に隠してある。お熱がすごいから バレバレだろうけど。

 

 ……そうしたら、向こうからアプローチしてきた。

 

 ドキドキする心臓を、ぎゅっと握られて、もっとドキドキした。

 

  心臓?

 

 わたし心臓があるの? 心臓があるってことは、血が流れるカラダもあるってことだ。

 わたしには『心臓』が、みかんには『手』がある。他人とつながって、カラダを意識できたんだ。いや、たった今、カラダが生まれたのかもしれない。

 

 重さを感じる。物理法則が生まれて、時間が規則正しく流れている。難しいことは分からないけど、粒子や物質も生まれたのだろう。

 

 胸がズキズキ痛み始めた。

おもち 「痛い痛い痛い!! 手を離して!!!」

 

 当たり前だ。心臓を握られたら痛い。痛みを伝える神経、骨や筋肉、皮膚……。あんまり意識できないけど、脳や内臓も生まれたのだろう。

 

 みかんが、わたしの心臓を放し、ズブッ! と胸から手を引き抜いた。

おもち 「がはぁっ!!」

 ……痛いを超えて気持ちよかった。……って、そんなバカな。この神経はニセモノ?

 

 どうなってるの? 何も見えない。明かりが欲しい。

 

  ……光が無い?

 

  苦しい!! 息できない!!

 

 胸を上下させ、必死でおなかを動かした。意味が無い。ここには空気が無いのだ。

 

みかん 「おもち!」 *7

 切迫した言葉。呼んでくれたのはうれしいけれど…………

 

 

………こういうとき、その名前、間抜けだなぁ………

 

 

…………声出ない……思考がこわれていく…………

 

 

みかん 「おもち!! おもちっ!!」

 

 

…………み……か………ん…………

 

 

…………ばいばい…………

 

 

 

………………………………………………………

 

 

 

  …………死んだ? わたし、死んじゃったの?

 

 

 

 カラダは消えたけど、わたしとみかんはくっついたままだ。

 まあ、ふたりとも幽霊みたいなものだし、ここには死の概念が無いのかもね。

 

 薬みたいな苦味を感じる。みかんは、わたしが突然消えたように感じたのだろう。

 

おもち 「ごめんね。怖かったよね」

 たっぷり なでなでした。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 記憶を巻き戻し、リピート再生してみよう。

 

 わたしがドキドキして……

 

 ……みかんが心臓を連想し……

 

  ……反射的に握って……

 

   ……物質と物理法則が生じ……

 

    ……わたしの心臓と、みかんの手ができた。

 

 『モノゴト』には順序がある。ふたりは、世界をイメージする前に『心臓』と『手』だけを作ってしまった。順番が逆だ。

 さらに、わたしとみかんの思い描くイメージが違った。わたしが感じたのは、『胸の高鳴り』と『恥ずかしさ』。ところが、みかんは、わたしの思いから連想した『心臓のイメージ』を、無意識に挿入してしまった。

 その結果、矛盾が生じて、せっかくできた『モノゴト』が崩れてしまったのだ。

 この失敗は、ふたりが『他人』だから起きたこと。コミュニケーションって難しい。

 

 

 もっと記憶を掘り起こしてみよう。

 

 わたしがブラックアウトする直前、ほんの一瞬だけど、みかんが隠している『好き』が見えた。

 熱々で、ずっしり重い、ハート形の『おもち』。ホカホカのお米のにおいが、ガッチガチの『好き』で几帳面に包装されていた。わたし、オカズじゃなくて主食にされてるっぽい。

 

 残念なネタバレだ。ドキドキしながら告白するイベントが欲しかった。

 とろけて泣いちゃうくらい嬉しいけどさ。

 

 

 おかしなふたりだねぇ……。

 

 普通、恋に落ちる前に性別を意識するんじゃないかな? 異性愛も同性愛もそこからだ。でも、わたしも みかんも性別が無い。だから、ふたりの関係は恋愛ではないのかもしれない。

 じゃあ何? 友情とは明らかに違う。こんなにドキドキ熱いから。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 この、ココロを『黄身』と『白身』に例える表現は、主人公が勝手に考えたもので、心理学とは無関係です。科学的根拠はありません。

 心理以前に、このふたりが人間なのかも不明なのです。

*2
 この『なでなで』は、『なでたような感覚の送受信』です。ふたりともカラダが無いので、実際に『なでる』ことはできません。

*3
 思考の中で行っているため、完全なランダムではありません。

*4
 実際にふたりが行っているのは、もっとぼんやりした曖昧なやり方です。分かりやすくするために『スロットマシン』と書きました。こっくりさんのように、50音の表から選ぶ方法もあります。

*5
 ここには世界が無く(?)、物理法則自体が無い(薄い?)ので、物理的な運動を利用して乱数を得るのはほぼ不可能です。ふたりの思考のやりとりだけで乱数を得るのも困難かもしれません。

*6
 この痛みは、『カラダの痛み』ではありません。『ココロの痛み』とも少し違います。

*7
 空気が無いと音が伝わりません。このセリフは、『音声』ではなく、『言葉』として伝達されました。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 始まりました。

 本作は、全8話+『あとがき・設定』1話 を予定しています(変わる可能性あり)。
 次回は、ふたりで仲良く、かりそめの世界とカラダを作ります。ちょっとえっちです。


 [ 初投稿日時 2022/11/11 11:11 ]
 
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