まえがき
くにむらせいじです。
『ふたたり』始まります。
このおはなしは、別の作品『メタメタバースデイ』の別バージョンというか焼き直し……のつもりで書いていました。
物語の芯は同じで、設定を削り、キャラを変えて、過去作品のパーツを流用し……結果的に別物になりました。本作の方が明るい内容だと思います。
横書きです。PC版の見た目を意識して書いています。
マウスオーバーで脚注が出ますが、ウィンドウの幅によっては右にはみ出して切れます。
ウィンドウをディスプレイの幅いっぱいに広げるか、文の幅ギリギリまで狭めるかすれば、全部見えるはずです。
わたしは、何も無い場所にいた。
『場所』ってなんだろう?
何も見えない、聞こえない。暑さ寒さも、カラダの重さも、においも……何も感じない。
でも、『わたし』がいるから、虚無とは言い切れないね。
怖い…寂しい…普通はそう感じる状況。でもわたしは平気。何のしがらみも無くて自由だから、とってもラクで心地いい。
好きなことを想像できる。言葉を浮かべて遊んだり、数を数えたり、物語を考えたり。それができないときは、空っぽになる。
わたしは記憶を持っている。自分の過去は忘れてしまったけれど、言葉を知っている。これは助かる。言葉を使わずに考えるのは難しいから。
考えられる、ってことは、時間が流れているのだろう。
『時間』って何だろう?
時計も太陽も無いけれど、100年と1秒の違いくらいは分かる。思考の速さを基準にすれば、『間延びして退屈』か、『考えをまとめる猶予が無い』かで区別できる。つまり、時間を測るには、曖昧な主観で比較するしかないのだ。
何も浮かばなくて退屈なとき、唐突に『他人』と出会った。びっくり。
この子、甘いミルクコーヒーの香りがする。ちょっと幼い感じだ。
わたし、ヒマすぎて、イマジナリーフレンドを作ってしまったのかな?
と思ったけれど、違うみたい。
ふわふわ浮遊していた誰かが、わたしにくっついたのだ。
ふたりは、触手が絡まったクラゲのよう。ぷにぷに気持ちいいけど、チクチク痛い。
クラゲというより生卵かな。ココロの外側の透明な部分が『白身』で、ココロの奥のプライベートな部分が『黄身』。 *1
ふたりとも、自分を守る『殻』が無いから……
*** 「……?」
小さな鈴のような声がした。
いや、声ではなく、つん、っと頬を触れられた感触だった。『疑問』とか『不思議』とか、そんなものを感じた。
わたし 「ダジャレじゃないよ!」
わたしの『殻が無いから』に対して、この子は『それはダジャレ?』とたずねたのだ。
恥ずかしい……。
なでなでされた。元気が出るオレンジの香りと共に。 *2
『恥ずかしい』わたしを、慰めてくれたみたい。
この子は、わたしの想定外の反応をする。つまり、わたしの分身ではないのだ。
本当に他人なのか、わたしの妄想なのかは、第三者がいないと確かめられないけどね。
ふたりの境目は曖昧で、思いが透けて見えて恥ずかしい。でも、ふたりはふたりのままで、混ざらない。この子は言葉を使うのが苦手みたいだけど、においや感触をくれる。考えがくるくる回っていて、かわいい。
わたしは、この子を好きになるしかない。そう思った。
ふたりしかいないのだから、好きになった方が良いよね。嫌いな人とふたりきりなんて嫌だ。
でも、好き嫌いはコントロールできない。好きになろうと努力しても難しいものだ。
わたし 「名前が欲しいね」
わたしは、そう提案した。
『あなた』と『わたし』でも通じるけど、名前があった方が楽しいから。
ひらがな3文字にしよう。2文字だと組み合わせが少ない。4文字以上は、組み合わせが多すぎるし、この子に負荷をかけてしまいそうだ。
スロットマシンみたいに、ランダムに文字を回して…… *3
わたし 「ほら 止めて止めて!」
……この子に止めてもらう。 *4
この遊びができるのは、『ふたり』いるからだ。ひとりでサイコロを振ると、何の目が出るか事前に分かってしまうのだ。 転がすのも止めるのも自分だからね。 *5
できた組み合わせから、名前になりそうな言葉を選ぶ。
『なみみ』『まこと』『いちご』『ゆうき』『つばさ』『やまと』『むりや』『かなや』『ふじみ』『ひえん』『ゆうほ』『えんご』『すばる』…………。
この子が、『みかん』を拾い上げてくれた。
わたし 「それ、くれるの? かわいくて甘酸っぱいにおいだね」
わたしの名前は『みかん』か……それに合わせるなら……。
わたし 「あなたは『おもち』! もちもちしてるから……」
強めの酸味とほろ苦さが伝わってきた。これは拒否感だ。
わたし 「嫌? おもちは嫌なの?」
うすい柑橘系のにおいが揺れた。こくこく うなずいてる。
わたし 「嫌なら、交換しようか」
*** 「……?」
この子、首をかしげた。首なんてないけれど、かわいらしい音がした。
おもち 「あなたは『みかん』で、わたしは『おもち』。決定!」
柑橘系のにおいが甘くなった。よろこんでくれたみたい。
…… みかん&おもち ……お正月っぽいふたりだね……。
みかんと離れたくない。
名前を交換しただけなのに、どうしてこんなに感傷的になるのだろう?
ふたりが離れたら、お互いを認識できなくなって、たぶん二度と会えない。それに、くっついた部分は溶け合っているから、切り離すだけで痛いはず。 *6
『永遠にいっしょに居たい』と思うのは、自分の中に、重い『好き』が生まれたから。それはとても幸運なことだ。こんな場所で出会えたことも含め、出来すぎだと思う。
『お気に入り』のガラスケースの真ん中に、みかんを飾った。
みかんとふれ合いたい。一緒に遊びたい。言葉の触手で、深く深くつながりたい。
わたしは、そんなことばかり考えていた。
『好き』の感情は、ココロの黄身の裏に隠してある。お熱がすごいから バレバレだろうけど。
……そうしたら、向こうからアプローチしてきた。
ドキドキする心臓を、ぎゅっと握られて、もっとドキドキした。
心臓?
わたし心臓があるの? 心臓があるってことは、血が流れるカラダもあるってことだ。
わたしには『心臓』が、みかんには『手』がある。他人とつながって、カラダを意識できたんだ。いや、たった今、カラダが生まれたのかもしれない。
重さを感じる。物理法則が生まれて、時間が規則正しく流れている。難しいことは分からないけど、粒子や物質も生まれたのだろう。
胸がズキズキ痛み始めた。
おもち 「痛い痛い痛い!! 手を離して!!!」
当たり前だ。心臓を握られたら痛い。痛みを伝える神経、骨や筋肉、皮膚……。あんまり意識できないけど、脳や内臓も生まれたのだろう。
みかんが、わたしの心臓を放し、ズブッ! と胸から手を引き抜いた。
おもち 「がはぁっ!!」
……痛いを超えて気持ちよかった。……って、そんなバカな。この神経はニセモノ?
どうなってるの? 何も見えない。明かりが欲しい。
……光が無い?
苦しい!! 息できない!!
胸を上下させ、必死でおなかを動かした。意味が無い。ここには空気が無いのだ。
みかん 「おもち!」 *7
切迫した言葉。呼んでくれたのはうれしいけれど…………
みかん 「おもち!! おもちっ!!」
…………死んだ? わたし、死んじゃったの?
カラダは消えたけど、わたしとみかんはくっついたままだ。
まあ、ふたりとも幽霊みたいなものだし、ここには死の概念が無いのかもね。
薬みたいな苦味を感じる。みかんは、わたしが突然消えたように感じたのだろう。
おもち 「ごめんね。怖かったよね」
たっぷり なでなでした。
記憶を巻き戻し、リピート再生してみよう。
わたしがドキドキして……
……みかんが心臓を連想し……
……反射的に握って……
……物質と物理法則が生じ……
……わたしの心臓と、みかんの手ができた。
『モノゴト』には順序がある。ふたりは、世界をイメージする前に『心臓』と『手』だけを作ってしまった。順番が逆だ。
さらに、わたしとみかんの思い描くイメージが違った。わたしが感じたのは、『胸の高鳴り』と『恥ずかしさ』。ところが、みかんは、わたしの思いから連想した『心臓のイメージ』を、無意識に挿入してしまった。
その結果、矛盾が生じて、せっかくできた『モノゴト』が崩れてしまったのだ。
この失敗は、ふたりが『他人』だから起きたこと。コミュニケーションって難しい。
もっと記憶を掘り起こしてみよう。
わたしがブラックアウトする直前、ほんの一瞬だけど、みかんが隠している『好き』が見えた。
熱々で、ずっしり重い、ハート形の『おもち』。ホカホカのお米のにおいが、ガッチガチの『好き』で几帳面に包装されていた。わたし、オカズじゃなくて主食にされてるっぽい。
残念なネタバレだ。ドキドキしながら告白するイベントが欲しかった。
とろけて泣いちゃうくらい嬉しいけどさ。
おかしなふたりだねぇ……。
普通、恋に落ちる前に性別を意識するんじゃないかな? 異性愛も同性愛もそこからだ。でも、わたしも みかんも性別が無い。だから、ふたりの関係は恋愛ではないのかもしれない。
じゃあ何? 友情とは明らかに違う。こんなにドキドキ熱いから。
つづく
心理以前に、このふたりが人間なのかも不明なのです。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
始まりました。
本作は、全8話+『あとがき・設定』1話 を予定しています(変わる可能性あり)。
次回は、ふたりで仲良く、かりそめの世界とカラダを作ります。ちょっとえっちです。
[ 初投稿日時 2022/11/11 11:11 ]