まえがき
ふたたり 第2話です。
つながるって、うれしい……。
みかんのココロの白身に、キラキラの泡がたくさん浮かんでいる。
猫に噛まれた痛み。巨大なビルの間を抜ける風。ジェットエンジンの排気のにおい。マーガリンがしみたパンケーキ。電車の架線の擦れる音。熱いスマートフォン。唾液の味。
これは、知識と記憶のカプセルだ。数も大きさも、わたしをはるかに超えている。でも、言葉や文章が少ないのが不思議。
わたしの、なけなしの記憶もさらけ出す……というか初めから丸見えだ。見るのは楽しいけど、見られるのは恥ずかしいなぁ……。
苦くて酷い記憶とか、悲しすぎる知識もある。肋骨の隙間を彫刻刀で削るような感覚。大好きな相手だと、羞恥心も苦痛も、気持ちよく感じてしまうから困る。
わたしは、すごいことに気がついた。
わたしが好きな遊びは、言葉を組み立てて、物語を作ること。
みかんが得意なのは、光、音、感触、におい、味……感覚を描くこと。
そして、この子は私よりも物知り。
物語を作るのは、世界を創ること……神様になることだ。
五感をあやつるのは、想像を体感に変えることだ。
つまり……ふたりなら、何でもできる!!
みかん 「なに笑ってる?」
ニヤニヤしてしまった。
真っ青な空。
今度は、ちゃんと『光』と『空気』を用意する。そして、時間の流れを設定。
おもち 「『海』も作ろうか」
数瞬後、眼下に広大な海が現れた。細かな波や、海面のキラキラまで再現されている。
おもち 「すごいすごい!! みかんが作ったの!?」
もう一つ気付いたことがある。
『何でもできる』と言っても、『ふたりの記憶と想像力の範囲内』という制限があるのだ。
海ってどんなだったっけ? と思っても、図書館もネットも無いから調べられない。
その点、みかんはわたしより知識が豊富。この前、限定的とはいえ人体を再現できたのも、みかんのおかげだったのだ。
おもち 「もう! 天才だよー! かっこいい! 大好きっ!!」
ぎゅーっと、ハグの感触をプレゼントした。
みかん 「…………」
ぽわーんとした熱と、完熟リンゴの甘い香り。すごい照れてる。
おもち 「とりあえず、背景はこれでいいかな」
みかん 「……海の底……」
ツーンとわさびの味がした。ちょっと怒ってる?
わたしは、子供に言い聞かせるように言った。
おもち 「海底は見えないし、作ると、ものすごーく疲れるから、やめようね」
みかん 「……おさかな……」
残念そうな細い声だった。
おもち 「生き物は、もっともーっと大変だから、後にしよう」
大陸とか、イワシの大群とか、がんばればいくらでも作れる。でも、この子凝り性だから、放っておくと、『 地球をまるまる作ろう 』いや、『 宇宙を作ろう 』に、なりかねない。
でも、いつか、そういう『 でっかいもの 』にも挑戦したいね。
おもち 「次は、カラダを作ろう」
この前、『神経』を意識したのは失敗だった。そんな複雑怪奇なモノはいらない。感覚を送って受け止めればいいだけ。カラダは、単純な記号の組み合わせで十分だ。
おもち 「みかんは、女の子と男の子、どっちがいい?」
そのくらいは決めておこう。
みかん 「……ひみつ……」
恥じらいを隠す鈴の音のような声と、かわいいお花のにおいがした。
おもち 「そうだ! わたしのカラダ作るの手伝って! 性別は好きにしていいから!」
わたしが目を開けると、海面から100メートルほどの高さに浮かんでいた。
全身の肌に、冷たいサラサラを感じる。えっちな潮風だ。解放感ありすぎて恥ずかしい。
わたしのすぐ目の前に、裸体が浮かんでいた。すらっと立った姿勢。
繊細で、ふっくらした曲面を持ったカラダ。目のやり場に困る
恥ずかしい部分にモザイク……いや、ボカシを入れて隠した。こんな映像的表現もできるのだ。
おもち 「こんな生々しく再現しなくていいのに……」
『お人形遊び』みたいなものなんだからさ。
カラダを得たみかんが、いたずらっぽく笑った。
みかん 「……にひひ……」
わたしは痛いほどドキッとした。これは人形じゃない。明らかに生きている。
頬の赤みが、天真爛漫さを強調していた。髪は漆黒のロング。自然なボサボサ感が、寝起きみたいでかわいい。
みかんのカラダは、『もう大人だよ!』と言えるくらいの年頃に見えた。
触れなくても、ぷにぷにを感じさせるお肉。透明感のある薄い皮膚が、ほんのり紅潮している。
性別は……どっちだろ? 顔は女の子っぽいけれど、かわいい男の娘にも見える。
恐る恐る視線を下げて、みかんのカラダを観察してみる。
……胸は、少しふくらんでいる。
ボカシ修正の向こう側は……男の子?
パッと見は、かわいらしい男の子なんだけど、不思議な違和感があった。
おもち 「ごめん。ちょっとだけ調べさせてねー……」
お互い、恥ずかしくてたまらないのを我慢して……
……………………………………。 *3
みかん 「っ!」
みかんがぴくっ! っと反応して、目を、ぎゅっと閉じた。
みかん 「……えっちっちぃ……」
そして、謎の言葉をもらした。酔っぱらったような熱を感じる。
………………………………………………。
みかんのカラダは、女の子と男の子の『両方』だった。
……まあ……このくらいは想定内だね……。
みかん 「……むぅ?」
みかんが、わたしをじーっと観察してる! 妙に熱い視線で!
自分のカラダも、ぺたぺた さわって、観察してみよう。みかんよりも大人っぽいね。
……………………………………………
……………………………………………
…………なるほど。わたしも『両方』だ。
みかん……マニアックな趣味してるねぇ……。それに欲張りだ。
うどんとそばで迷った末、両方を一つのどんぶりに盛ってしまった、みたいな……。
まあいいや。わたしが『好きにしていい』って言ったんだから。
海面近くまで下りた。自分を映してみよう………
………波が邪魔でよく見えない。
突然、風が止んだ。波が消えて海面が鏡になり、世界が天地対称になった。
……全裸の自分の直下に鏡がある状況は、すごく変態的で気持ちい……じゃなくて恥ずかしい。
みかんが、わたしを追って高度を下げてきた。
おもち 「ありがと……」
目が合うと、みかんが誇らしげな顔をした。その顔も悶絶級にかわいい。
しゃがんで、水面を覗き込んでみる。
わたしの顔は……
おもち 「ぅぼわっ!!」
わたしの声で、水面にきれいな波紋が広がった。
水面に、とんでもない美形が映っていた!
上空の みかんに向けて叫んだ。
おもち 「ちょっとみかん!! わたしを美化しすぎ!!」
みかん 「……むふ……」
やはり、みかんは誇らしげだった。『作品』に自信があるらしい。
再び、鏡の中の自分を見てみる。中性的な顔だ。少しカールした、ショートの薄茶色の髪がキラキラしている。……まずい……ナルキッソスになってしまう……。
よく見ると、美形特有の鋭さや冷たさが無く、少々間が抜けた顔にも見える。温厚で人が良さそうな感じだ。
『 みかんの中のわたし 』は、こんな人なんだ……。いたずらで美化したのではなく、素直な想像なのだろう。 *5
ぽーっとカラダが熱くなった。出来立てほやほやの心臓が、ちょっぴり痛い。
熱くなった頬を冷やすように、両手を当てた。
わたしの頬、もちもちで血が流れてる。このカラダも、生々しく生きている。
おもち 「とりあえず、服を着ようね……」
着せ替えだけで、無限に遊べるだろう。
つづく
実は、おもちが、これを読んでいる読者(つまりあなた)の視点で見るという反則技も可能なのです。文章で表現するのは不可能ですが。
おもちのカラダの制作割合は、みかんの思い8割 : おもちの思い2割。
みかんのカラダの制作割合は、みかんの思い3割 : おもちの思い7割。
過剰に美形でかわいくて、性別が『両方』なのは、ふたりが欲張ったせいです。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
次話は、ふたりが新しい遊びを始めます。
[ 初投稿日時 2022/11/12 13:14 ]