まえがき
『ふたたり』 第4話です。ちょっと汚いネタが入っているかも。
不思議に思っていたことがある。
おなかいっぱい食べても、『 大きい方 』が出ないのだ。……なぜか『 小さい方 』は出る。
一応、おしりに出口があるけれど、本来の機能は果たしていない。
みかんがトイレに行くのも見たことがない。
カラダの中はどうなっているのだろう?
みかんのおなかを見つめた。
今日のみかんは、丈の短い水色のシャツに、黒いスパッツ。おへそがチラチラ見える。
シャツには、四角い餅が焼き網に乗っているイラストがあり、毛筆風の書体で『やきもち』と書かれていた。これには触れないでおく。
おもち 「みかん、ちょっと内臓見せて」
なかなか猟奇的なセリフだねぇ……。レントゲンみたいなものだよ。
みかん 「や!」
みかんが両手でおなかを隠した。同時にピリッと唐辛子の味がした。
内臓を見られるのは恥ずかしいらしい。裸を見られるのは平気なのに。
みかんが嫌がるなら、自分のを見ればいい。CTスキャンみたいに透視してみよう。
上から順番に……
肋骨に守られるようにして、心臓と肺があった。少しかわいくデフォルメされている。
感動ものだ。みかんが作ってくれた心臓が、どくどく動いてるなんて。
……胸の痛みや うずきは、ここから来るんだ……。
今の目的はそこじゃない。
わたしの胃は、風船のようだった。腸は無い。様々な臓器があるはずの部分には、ぷにぷにの脂肪が詰まっていた。
行き止まりだから、『 大きい方 』が出ないのだ。食べたものは、胃を膨らませたあと、ゆっくり消えてしまうのだろう。質量保存の法則なんて無視できるからね。
手抜き工事……ではない。お人形に内臓なんて不要だ。これでも凝りすぎなくらいだろう。
ふたりのカラダで再現しているのは、外見と、コミュニケーションに必要な部分だけ。その他は省略しているのだ。それに、みかんは物知りだけど、医者や学者ではないから、人体を完璧に再現するほどの知識は無いのである。 *1
仮に、『 大きい方 』を正確に作るとしたら、臓器だけではなく、何億個もの腸内細菌や、複雑な化学反応まで再現する必要がある。正直、ふたりの手に負えない。
まあ、見た目と臭いだけなら作れるけど、ふたりとも、そういう趣味は無いからね。
骨盤付近の臓器は、かなり複雑なつくりだった。欲張って『両方』詰め込んだからだろう。
というか、これ…………が、できるのでは……。
下腹部の中央に膀胱があった。『 小さい方 』が出るのはこれが原因か……。膀胱から左右に管がのびて、腰の左右にある丸いもの……単純化された腎臓につながっていた。お水を出すだけなら腎臓まで必要ない。こういう変なこだわりが、みかんらしい。
ちょっといたずらしてみよう。
みかんのおなかに意識を向けて、岩の隙間から湧き出る水を想像する。
みかん 「お?」
みかんが、股間をおさえた。
もじもじ している。
今度は、水道の蛇口をひねるところをイメージする。
みかん 「わ! わあぁ!!」
みかんが、とてとてーっと走り去って行った。かわいい。
みかんは、遠くの草むらに入って、スパッツを下げ……じゃなくて消去し、しゃがんだ。
立ってするんじゃないのか……。
ジョロジョロ音がする……。
しばらくして、みかんが戻ってきた。
目に炎が宿っている……。
『反撃のみかん』が、わたしを指差した。
みかん 「カプサイシン!」
おもち 「え?」
なにその呪文。カプサイシンって、唐辛子の……
3秒ほど遅れて、口の中が炎上した。
おもち 「うがあぁ!! いらひいぃ!!」
口の中を切り裂くような激痛。真っ赤に焼けたカミソリを大量に頬張ったみたいな……。
加虐的な唐辛子だ。汗と涙と鼻水が噴き出した。
おもち 「ぐごぅぇっ!」
炎を飲んでしまった。というか強引に流し込まれた。
喉元過ぎれば……と言うけれど、口内の痛みは変わらない。謝ろうとしたけど声が出ない。
……みかん、いたずらしてごめん!! 助けて……。
ぐりぐりと、おなかに蠕動運動を感じる。熱が移動している……
……バカな! こんな短時間で腸を作ったのかっ!
わたしは、ここでようやく、みかんの企みに気づいた。
行き止まりだったわたしの消化管が、めでたく全面開通したのだ。
燃えるカプサイシンが、おなかを急降下していく。
速すぎる!! でも腸はコントロールできない。
あわてて洋式便器を生成した。
壁なんか作っている場合じゃない!!
ズボンと下着を消去! 着座!
……………………
…………すっごーく気持ちよかったぁ…………
…………射出直後、数秒間だけは。
おもち 「おしり痛い……ヒリヒリするぅ……」
わたしは半泣きになっていた。情けない……。
みかん 「ごめん……やりすぎた……」
みかんが、わたしのおなかに触れると、全ての痛みが、スーッと消えた。
……おなかスッキリ気持ちいい……。
おもち 「……えっと……」
わたし、脳がこんがり焼けたのだろうか。頭の中は空洞のはずなのに。
おもち 「 もう一回やって? 」
なぜかそんなことを口走ってしまった。笑顔だったと思う。
みかん 「…………」
この時、わたしは初めて、みかんの、ドン引き顔を見た。
ふたりの間にテーブルが現れて、私の前に、カレーライスが現れた。
スパイスが効いた、食欲をあぶり出すにおいだ。
みかんは、不安そうな顔で私を見た。『 これでいい? 』って。
わたしの『激辛責め おかわり』に困った末、妥協案としてカレーを作ってくれたのだろう。
おもち 「ありがと」
わたしは、スプーンで一口食べてみた。ごく普通の辛口チキンカレーだ。
一口食べたら、止まらなくなった。
具材がごろごろ入っている。カレーの味が染みた、ホクホクのじゃがいも。うま味が強い鶏肉。歯ごたえがあるニンジン。トロトロに甘い玉ねぎ。そして、少し硬めに炊いたごはん。
……やさしすぎる……。
カレーライスをコピーして、みかんの前に置いた。
おもち 「ほら、みかんも食べて食べて」
この子は、自分が好きなものを作ったのだろうから。
ふたりでカレーライスを頬張る。言葉は無い。
涙がこぼれた。熱くて辛いから……ではなく、おいしいから……でもなく。
『食事』って、尊いものだったんだ……。食べ物にも、このカラダにも感謝しよう。
カレーの隣に、グラスに入った牛乳が置かれていた。さっきまで無かったはず。
水よりも牛乳の方が、カプサイシンの辛味を抑えられるんだっけ……。
わたしは参った。
ひどい目に遭わせた後、こんなに優しくされたら、惚れてしまうじゃないかっ! もう十分すぎるほどみかんが大好きなのに、これ以上沼に沈めてどうするのさ……。
『現実的なカラダ』に飽きたら、『ぼんやりしたココロ』に戻ろう。
辛いものに飽きたら、あまーいものを食べよう。
全身……というか全心が、トロトロの果肉入りメロンジュースにまみれた。
甘酸っぱい いちごの香りが、鼻先をくすぐる。
みかん 「ほしい?」
……いちごの先っぽで唇をくすぐられ、じらされる。
みかん 「んふっ……ちゅっ」
本当に目の前で、みかんの唇が、ちゅぷん! と、いちごを吸い込んだ。
みかん 「……もぐもぐ……」
普段は天使なのに、今日は小悪魔なみかん。その姿は、霧のように不定形だ。
わたしは、両手首をベッドに縛り付けられている。桃色のリボンでふんわりと。
ココロの柔らかいトコロに、硬いバナナを突っ込まれた。皮はむいて欲しかったな……。
バナナの皮から、ぶちゅっ! と、中身が飛び出して、スルッと……。
おもち 「んほあっ!」
……変な声出ちゃった。
おいしいバナナが、ココロの黄身の深みに入ってしまった。もう取れないだろう。
みかん 「ふひひ……」
みかんがバナナの皮を宙に浮かべて、何か企んでいる。
おもち 「なぁに? バナナの皮どうするの? ……ぷふ……」
笑いを必死でこらえた。このシュールな状況を台無しにしないように。
バナナの皮を顔に乗せられた。ひんやりしていて甘い香りがする目隠しだ。わたしは上を向いて大人しくする。バナナの皮が滑り落ちないように。
細くてしなやかな指で、頭をホールドされる。頭皮へのやさしい刺激がくすぐったい。
わたし何されちゃうのかな? たのしみで胸がうずく。
今度は、丸いものを口に突っ込まれた。大粒のぶどう、甘酸っぱくて独特の香り……巨峰だ。皮が渋い。これもむいて欲しかったな……。
コロン、コロン、コロン……っと、いくつもいくつも押し込まれる。息が苦しい。
おもち 「んんぅ……むご、んむぅ……」
こんなにいらないよ! 容量制限ないけどさ!
ぶとうとは別の、マシュマロのようなふわふわが、唇に吸い付いて、こすれる……
ほんのりしょっぱい……
……唾液?
うわあぁ!!! 巨峰くちうつし!?
……どさくさに紛れて、みかんに 唇を奪われちゃった……。
わたしの後頭部……やわらかい小脳を、ぎゅっと握って、もみもみ されるような感覚。
しびれて、とろけちゃう……
みかん 「かぷっ!」
……なんだか様子がおかしい。
みかん 「……もぐもぐ……んく……」
フルーツ責め(?) されていたわたしは、いつの間にか、みかんにココロを食べられていた。
甘いところだけじゃなくて、苦いところも汚い部分も食べてくれる。
じゅわじゅわーっと嬉しくて……意識が飛んじゃうほど気持ちいい……。
……たぶん、わたし……ヘンな声とか においとか、あふれてるよ……恥ずかしい……。
食べられてもココロは減らない。ココロに大きさは無いから。記憶には数や量があるけれど。
むしろ思い出が増えるのだ。
つづく
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
将来的には、VR(仮想現実)で『におい』や『味』も体験できるようになるのではないかと、筆者は思っています。『触覚』は、限定的ですが既に再現する技術がありますね。
ですが、『痛み』と『排泄』は、リアルさを追及したVRでもまず再現されない(再現されるかもしれないが、後回しにされる可能性が高い)部分だと思います。VR空間でアバターを着てトイレに行きたい……と思う人は少ないでしょう。『痛み』は、ひょっとしたら需要があるかもしれません。ゲーム内で撃たれると本当に痛いとか……。
次話は、ごちゃごちゃっとしたおはなしです。みかんに、キツネ耳としっぽが生えます。
[ 初投稿日時 2022/11/13 15:17 ]