まえがき
『ふたたり』 第6話です。
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旅に出よう。季節は夏に設定。
旅とは移動。観光は おまけ に過ぎない。わたしはそう思う。
その気になれば、目の前に温泉旅館を作ったり、中世ヨーロッパの街にワープしたりできる。
でも今日は、わざと目的地を遠くに設定して、そこに至る過程を味わおう。
全知全能はつまらない。
能力を制限して、不便さとトラブルを楽しむのが、『 神様の たしなみ 』なのだ。
おもち 「渋いねぇ……」
みかんが作ったのは、白い軽トラックだった。
ふたりで旅するなら、スポーツカーとかじゃないの?
みかん 「サンバートラック、スーパーチャージャー」
みかんは、いつものドヤ顔をした。シンプルな白いワンピースがまぶしい。*2
おもち 「よく分からないけど、かっこいい名前だね」
よく見ると、ホイールが、軽トラとはミスマッチな デザインだった。アルミかな?
その他は、ごく普通の軽トラックに見えた。みかんのことだから、中身をいじってるかもしれないけれど。
まあ、ゆるゆるな旅には、これがいいかもね。
わたしの運転で、海上のまっすぐな高速道路をひた走る。マニュアル車は難しい。みかんと運転を交代したら、細く曲がりくねった酷道に変わった。シフトレバーをあやつる手の動きに、ちょっと見とれてしまう。みかんは、真顔だけど楽しそうだった。
好き勝手に
軽トラが最強なのがよく分かった。荷物がたっぷり積めて、悪路も坂道もスイスイ進む。2シーターのMTだから、農道のスポーツカーと呼べなくもない。意外と眺めもいい。
欠点は、直角に固定されたシートと、ふわふわすぎるサスペンション。長距離移動には不向きな車だ。
そう思って苦い顔をしていたら、シートが、体を包み込む形に変わった。レーシングカーのようなデザインだ。
みかん 「レカロ風味」
おもち 「れかろ?」
いつの間にか、ヘッドランプが丸目になり、ホイールが、黒くて渋いスチール*3 に変わっていた。心なしかサスペンションが硬くなって、車体が安定した気がする。車内は ほんのり機械油のにおいがした。
さらに、荷台の前側……キャビンの後ろに、四角い缶のようなタンクが追加された。
みかん 「増槽」
おもち 「ぞうそう?」
わたしは車に詳しくないけれど、これが変態カスタムなのは分かった。
夜は、何もない高原でキャンプ。
軽トラの荷台の積荷を端に寄せて、キャンプ用のマットを敷けばベッドになる。タンクが邪魔で狭いから、荷台の後ろと横の壁……
みかん 「あおり」 *4
……を、全開にする。
寝袋もあるけど使わない。
一度やってみたかったんだ。『 寒さを言い訳にして温め合おう 』ってやつ。
ふたりで一枚の毛布にくるまって、星がひしめく空を眺めた。
わたしが、みかんの耳元で、恥ずかしすぎる言葉をささやくと、みかんは、ちょっとクサい、艶やかな お花のにおいをくれた。
ふたりは、疲れて寝てしまうまで、もぞもぞスリスリ じゃれ合った。
もちろん、ふたりとも裸で。
翌朝。
みかんがコーヒーを淹れてくれた。すごく濃くて苦いブラック。
ホワイトガソリンのシングルバーナーって、趣があっていいよね。 *5
おもち 「はぁー……こういう場所で飲むと、すっごくおいしいねぇ……」
みかんが、コーヒーを一口飲んで、眉をよせた。
みかん 「……むぅ……」
おもち 「いつも甘いのばっかりなのに、どうして今日はブラックなのかなぁ? みかん?」
そう言って、笑いかけてみると……
みかんは、不機嫌そうな顔を、思いっきり近づけてきた。
みかん 「……んっ!」
そして、顔を離し、ぷいっ と、そっぽを向いてしまった。でも、赤い頬は隠せていないよ。
朝から、温泉に寄り道。
こんな時間に営業中? ってツッコんではいけない。そこはご都合主義である。
女湯に入るか、男湯に入るか……迷った末、混浴にした。貸し借り状態だから、この設定にあまり意味は無いけれど。
お湯に浸かる前にカラダを洗う。
おもち 「さっぱり気持ちいいねぇ……
……って、みかん?」
みかんは、無駄に泡まみれになっていた。一生懸命カラダを洗っている。
おもち 「みかんの汗のにおい、好きなんだけどな……」
わたしはそう言って、みかんに後ろから抱き着き、首すじのにおいを嗅いだ。
おもち 「……すんすん……まだ残ってるかなぁ……」
みかん 「……おもちのえっちっち」
おもち 「もう、えっちっち でいいよ! 認める!」
でもさすがに、ここで いちゃいちゃするのはNGだよね。 *6
大人しく、ふたり並んで、白く濁った温泉に浸かった。
おもち 「……はぁ~……」
みかん 「……ぶくぶくぶく……」
みかんが消えて、泡だけが残った。
おもち 「みかん! 潜っちゃだめ!」
水中にうごめく何かが……。
おもち 「……ふわああ! なにしてっ……あぅっ!!」
……みかんも、えっちっち だった。
つづく
この軽トラのモデルは、『農道のポルシェ』こと、6代目のサンバートラック (2005年頃) です。ダイハツのOEM(ほぼハイゼット)になる前の、スバル製サンバーです。
あくまでも『モデル』であり、実在の自動車とは異なる可能性があります。サンバーのようでサンバーにあらず……。『実物大の動く模型』のようなものです。
ホンダのアクティクローラ(ハーフトラック仕様)を登場させようか……とも考えましたが、もはや軽トラではない気がするのでやめました。
思いっきり女の子の服です。でも男の子が着てもいいのです。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
次話は、旅の続きです。中途半端なアクションシーンがあります。
[ 初投稿日時 2022/11/09 21:25 ]