ふたたり   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 『ふたたり』 第7話です。
 ラブラブです。


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第7話 「旅のおわりに」

 

 帰りの高速道路も、広ーい海の上。

 今回はみかんの運転だ。

 

 みかんが、ぽつりとつぶやいた。

みかん 「えんぷてい……」

 

おもち 「なに? ガス欠!?」

 燃料切れの警告灯が点灯していた。

 

おもち 「ここ海しかないよ? どうするのさ……」

 疾走する軽トラ。なぜか停車しないみかん。この子の性格上、ガソリンスタンドが現れるような展開は無いだろう。

 

みかん 「きたきた!」

 ブォーン……と、軽トラの後方からハチの羽音のようなものが近づいてくる。見ると、UFO的な物が飛んでいた。オレンジ色の大きな風船みたいな……ドローン?

 

 ドローンが近づいてきた。結構大きい。流線型の飛行船に翼とプロペラが付いたようなデザインだ。軽トラの右で並走している。

 ドアの近くまで来ると、ドローンの下に付いた棒が、軽トラの方を向いた。

 

おもち 「空中給油!?」

 いや、『走行間給油』と言うべきか……。

 

 さわやかなユズの香りがする……これは肯定のサインだ。

 なんでこんな危険なこと? って、聞くだけヤボだろう。

 

みかん 「ふた、あけて」

 みかんは気軽な感じで言った。『缶ジュースのフタ開けて』、のように。

おもち 「……給油口って、どこ?」

みかん 「増槽の右上」

 みかんが、左手の親指を立てて、くいくいっと後ろを差した。

 *1

 わたしは、チラッとメーターを見た。70km/hオーバー。

 後ろの窓は開かないから、ドアから外に出て荷台に移るしかない。

 死なないとはいえ、落ちれば悲惨なことになるし、下手するとガソリンが漏れて爆発する。そうなれば、みかんも無事では済まない。

 

おもち 「ふ……んふふふふ……」

 楽しそうじゃないか。

 

 意を決して、左のドアを開けた。重い……風圧で押し戻されそうになる。

 川のように高速で流れるアスファルト。びゅんびゅん通過していく道路のフェンス。

おもち 「みかん! もうちょっとゆっくり……」

 

みかん 「うしろ」

 

 恐る恐る後方を見ると……

 

 巨大な茶トラネコが追いかけて来ていた。

 

 体長は50メートル以上ありそうだ。人相……猫相が悪い。かわいいけど。

 この軽トラは、あの巨大猫にとっては魅惑的なおもちゃだろう。

 巨大猫の後ろで、高速道路が崩壊を始めた。巨大猫を追うように、橋げたが次々に海へ落ちていく。猫が走る衝撃に耐えられないなんて脆すぎる……。

 

 こんな危機的状況に追い込まなくても……。

 

 わたしは、車外へ思い切り身を乗り出した。

 冷たい風がビュービュー当たる。高速回転する前輪が怖い……。

 完全に車外に出た。下を見てはいけない。

 荷台の側面下にあるステップに足をかけ、強引に荷台へ……

 ……ダメだ……足が震えて動けない……。

 軽トラが左カーブに突入。ギュルー!! っとタイヤが鳴いた。

おもち 「うわあぁっ!!!」

 一瞬カラダが浮いた。

おもち 「げふっ!!」

 わたしは荷台に転がり込んだ。というより、遠心力で荷台に放り込まれた。

 

 後方を見ると、巨大猫との距離が開いていた。カーブで引き離したようだ。

 みかんも軽トラもスゲエ。

 

 巨大猫が、高速道路の崩壊に追いつかれた。

巨大猫 「み゛ぃや゛ア゛ァーーーー!!!!」

 そして、怪獣のように叫びながら海へ落ちていった。かわいそうに……。

 

 ……まだ足が震えている。

 わたしは、タンクに抱きつくようにして、上に付いているキャップを回して外した。

 ドローンが棒を伸ばしてきた。

 高速道路の崩壊は止まらない。

 

 わたしは、思い切って荷台から身を乗り出し、ドローンの棒を、がしっ! とつかんだ。

 

みかん 「くふっ!!」

 つかんだ瞬間、なぜか みかんがビクッと反応した。

 わたしは気にせず、ドローンの棒を引っ張って、タンクの給油口に突っ込んだ。

みかん 「ふあぁっ!! やめっ!!」

 みかんとドローンがシンクロしてる……。

おもち 「ほら、給油するんでしょ! みかんくん!」

みかん 「ううっ!」

 昨夜と同じ声がした。同時に棒がビクッと震えた。ガソリンが流れているのを振動で感じる。

 10秒ほどで、ガクンと流れが止まった。たぶん満タンには程遠いけど……。

 ズブッ! っと棒を給油口から引き抜いた。

みかん 「はうぅっ!」

 昨夜と同じお花のにおいがした……。いや、ガソリンのにおいだよ。

 急いでタンクのキャップを閉めた。ドローンが上昇しながら右後方へ離れていく。

 

 ブオーーーン!! っとエンジンのうなりが聞こえた。ベタ踏みだろう。

 急加速する軽トラ。だが道路の崩壊の方が速かった。

 

 強い衝撃。走っていた道路のジョイントが離れ、ジャンプ台のように傾いた。

 エレベーターのような、宙に浮く感覚がした。

 アクション映画なら、車が大ジャンプしてギリギリで助かる流れだ。

 ギュルギュルギュルーー!! っとタイヤが滑る。

 

 コココッ! っとノッキングの音。

 

みかん 「お?」

おもち 「え?」

 

 エンストした。終わりだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 夕方の海岸。

 

 わたしとみかんは、ボコボコになった軽トラの荷台に並んで腰かけ、海を眺めていた。

 ……なんか場面をすっ飛ばした気がするけど、気にしない気にしない。

 

 心地よい沈黙……。

 みかんと遊ぶまで知らなかった。好きなひとと過ごす時は、無言でも良いんだって。

 

 ……………………。

 

 違和感があった。

 なんと、みかんが服を脱がないのだ。開放的な砂浜なのに。最高に気持ちいい場面なのに。シンプルな白いワンピースを着たままだ。

 

 なにやら物思う様子のみかん。いつも以上に幼く美人だ。

 それを正視できず、目を泳がせてしまうわたし。

 

みかん 「………はぁ……す……」

 みかんが軽く深呼吸をして、ぽつりぽつりと、話し始めた。

 

みかん 「みかんは、おもちが、すき……すきで……だいすきです」

 

 うわぁ……ですます調……。

 

 みかんは、まっすぐにわたしの顔を見た。

みかん 「わたしに、名前とカラダをくれたから。いっしょにいると、安心するから」

 

 恥ずかしくてたまらないけれど、わたしも目を合わせた。

 

みかん 「いなくなられたら、とても困ります。そんなの……想像するだけで痛いです」

 

 胸に両手を当て、ひと呼吸置いて。

 

みかん 「だから、おもち、ずっとずっと、ずーーーっと……いっしょにぃ……」

 

 言葉に詰まって、涙をこらえていた。

 

みかん 「永遠に、そばにいて、くらさい……」

 みかんはそう言って、わたしに寄りかかった。いつもより整った黒髪がくすぐったい。

 

 わたしは、みかんを抱きしめて、頭をやさしくなでてあげた。

 泣きたいのはこっちだ。みかんが、どれだけ言葉が苦手なのか知っているから。この長いセリフは難しかっただろう。

 

 でも……。

 

おもち 「……わたしのセリフ、取らないでほしいな……」

 

 この愛おしいお姫様は、カンペを読んでいたのだ。

 みかんが後ろに隠しているのは、わたしが書いた台本だろう。期待通り、みかんは脚本を大幅に改変して、全く違う物語を作ってくれた。

 指輪まで用意していたんだけど、そんなの、もうどうでもいいや。

 

 わたしは、軽トラの荷台……リアのエンジンがあるあたりを なでながら言った。

おもち 「サンバーちゃん調子悪いし……もう一泊していこっか?」

 そして、にっこりと笑ってみせた……つもり。

 

 機械油とガソリンのにおいがした。

 

 分かりやすい嘘だ。サンバーちゃんのエンジンは、元気いっぱいなのだ。

 

 

 

 夕日でキラキラした海を、ふたりで眺める。

 

 

   静かな波音を聴きながら、

 

     目と目を合わせ、

 

       顔を近づけて、

 

          ふたり同時に目を閉じ……

 

  ……なんか、バシャバシャ とか ブーン とか 音がする……。

 

 ふたり同時に遠くを見た。

 沖の方で、例の巨大猫が泳いでいた。荒々しいバタフライで、飛行船型のドローンを追いかけ回していた。 *2

  ……台無しである。

 まあ、あの猫も元気そうで良かったけどさ。

 

 

みかん 「おもちっち……」

 みかんがこちらを見た。頬を赤くして、ちょっといじらしい上目づかいで。

 

みかん 「みかん、むいて?」

 そう言って、もじもじしながら、ちょっとだけスカートをつまみ上げた。

 完熟みかんの、えっちっちな においがした。

 

 やばい……鼻血が出そうだ。

 

 

 皮をむくのも、みかんを食べるときの楽しみだよね。

 

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
 ↓ 設定画です。

*2
 猫がバタフライで泳ぐのは、体の構造的に無理だと思います。




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 次話では、『3人目』らしき何かが現れ……ません。


 [ 初投稿日時 2022/11/16 21:26 ]
 
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