まえがき
『ふたたり』 第8話、本編の最終話です。
事件が発生したようです。
おもち 「みかん……卵産んじゃった?」
みかん 「×××!!」
みかんは、お手上げ! の仕草をして、ぶんぶんぶんっと首を横に振った。
つい最近現れた、直径50センチメートルほどの丸い物。色はぼんやり変化している。みかん色? ピンク? うっすら光っているようにも見える。
表面は硬くて暖かい。中はもちもち……じゃなくて、トロトロに柔らかいのだと思う。
わたしもみかんも知らない、分からないもの。でもなぜか、既視感や親しみを感じる。
『卵(仮)』の、においを嗅いでみる。
おもち 「すんすん……」
予想通り、みかんのにおいがする。
おもち 「やっぱりこの子、みかんの卵でしょ? においが えっちっちだよ?」
みかんは、否定も肯定もせず、卵に顔を近づけて……
みかん 「……ぺろっ」
……ちょっと舐めた。
みかん 「おもちの味」
おもち 「わたし!? わたしも産んでないよ!!」
この卵『 3人目 』なのかもしれない。ふたりとも知らないなら、他人の可能性が高い。
でも、わたしやみかんと違って、硬い殻がある。恥ずかしがり屋さんなのかな?
殻に向かって呼んでみても、返事が無い。
おもち 「ほら、みかんも呼びかけて!」
みかんが、卵を指でなぞった。
みかんは、声ではなく『文』を殻に浸透させた。器用なことするね。
おもち 「あれ?」
みかん 「見てる!」
確かに、殻の中から、『文』を読む視線を感じる。感覚が一方通行なのかな?
殻を割って、中の子と話ができたらいいのに。
おもち 「わたしとみかんの子供……なのかな……」
あれだけ、いちゃいちゃラブラブしたのだから、子供ができてもおかしくない。
どうしても、そういう『希望的結論』に行きついてしまう。
そんなはずない。ふたりが子供を作っても、その子はあやつり人形にしかならない……はず。
もしも、この卵が『 産まれたばかりの他人 』なら、ふたりの間に『 本物の子供 』ができちゃったってことだ。そんな奇跡……ぼろぼろに泣いちゃうよ。わたし。
でも、残念だなぁ……。おなかが大きくなっていくとか、痛い思いして産むとか、そういうイベントが欲しかった。どっちがお母さんになってもいいからさ。
みかんのまねをして、卵の中の子に『文』を送ってみよう。
じーっと視線を感じる。読んでるね。
うーん……これじゃ、ナンパか怪しい勧誘みたいだなぁ……。
ギュイーン!! とモーター音。
みかんが、大きな電動ドリルを、サブマシンガンのように両手で構えていた。
おもち 「そんなので穴あけちゃダメ!!」
みかんの背後には、ディスクグラインダーとか、つるはしとか、対戦車ミサイルとか、いろいろ置いてあった。
おもち 「たぶん……どうやっても壊せないよ」
みかんも分かっているはずだ。物理的にこの殻を壊すのは不可能だってことを。これは物質とは呼べないし、わたしたちが作ったものではないのだから。
おもち 「ダジャレじゃないよ?」
みかん 「 ? 」
みかんが首をかしげた。かわいいんだなこれが。
おもち 「この子に名前を付けてあげよう」
名前があれば、親しくなれる気がするから。わたしとみかんがそうであったように。
本当の名前は、すでにあるのかもしれないけれど。
あの時と同じやり方で…………ランダムに文字を回して…………止める! 止める! 止める!
『こすも』『らんぷ』『てよみ』『だいや』『たると』『だいち』『かのん』『さきら』『まるみ』『ひかる』『こんべ』『みきな』『もにた』『きめら』『わせみ』『きぼう』…………。
みかん 「おかき」
おもち 「お! ぴったりだねぇ」
『おもち』の子供だから『おかき』。でも『おかき』だと、みかんの要素を反映していない。
おもち 「『なつみ』とか、どうかな?『なつみかん』の略で」
みかん 「…………」
珍しく、みかんが無味無臭だった。
おもち 「そんなに嫌なの? なら、『おかき』にしよう」
殻の向こうから、熱々のハンバーグみたいな、おいしそうなにおいがした。ちょっと むずがゆい感じだ。照れてるのかな?
卵(おかき)が、みかんの背丈ほどに成長した。
いや、正確には成長していない。わたしの感覚で、大きくなったように見えるだけ。
この卵には、大きさの決まりが無い。おかき がサイズを定義していないのだと思う。
内と外の区別も曖昧だ。卵の中が外の世界で、わたしとみかんがいる方が内側の可能性もある。つまり、この卵には体積も無いのだ。殻は丸く見えるけど、実は、無限の平面がループ……
……頭が痛くなるから、考えないようにしよう。
みかんは、おかき を大事そうになでている。おかきからは、甘いバターのにおいがする。すっかり仲良しだ。ちょっぴり嫉妬してしまう。
わたしとみかんは、アダムとイブになるつもりは無いし、神様としても中途半端だ。
とてもとても悲しい事実。この不思議な関係は、いつかどこかで終わる。お別れは必ずやってくる。時間が流れているのなら、永遠なんてありえない。
おかきも、いつかは消える。
おわり
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
次話は、あとがきと設定のまとめです。
[ 初投稿日時 2022/11/17 21:11 ]