ふたたり   作:くにむらせいじ

8 / 9
 
 まえがき

 『ふたたり』 第8話、本編の最終話です。

 事件が発生したようです。
 


第8話 「卵産んじゃった」

 

おもち 「みかん……卵産んじゃった?」

 

みかん 「×××!!」

 みかんは、お手上げ! の仕草をして、ぶんぶんぶんっと首を横に振った。

 

 つい最近現れた、直径50センチメートルほどの丸い物。色はぼんやり変化している。みかん色? ピンク? うっすら光っているようにも見える。

 表面は硬くて暖かい。中はもちもち……じゃなくて、トロトロに柔らかいのだと思う。

 わたしもみかんも知らない、分からないもの。でもなぜか、既視感や親しみを感じる。

 

 『卵(仮)』の、においを嗅いでみる。

おもち 「すんすん……」

 予想通り、みかんのにおいがする。

 

おもち 「やっぱりこの子、みかんの卵でしょ? においが えっちっちだよ?」

 

 みかんは、否定も肯定もせず、卵に顔を近づけて……

みかん 「……ぺろっ」

 ……ちょっと舐めた。

 

みかん 「おもちの味」

おもち 「わたし!? わたしも産んでないよ!!」

 

 この卵『 3人目 』なのかもしれない。ふたりとも知らないなら、他人の可能性が高い。

 でも、わたしやみかんと違って、硬い殻がある。恥ずかしがり屋さんなのかな?

 

 

「おーい! あなたはだあれ?」

 

 

 殻に向かって呼んでみても、返事が無い。

おもち 「ほら、みかんも呼びかけて!」

 

 みかんが、卵を指でなぞった。

 

 

『 きみは何者? 』

 

 

 みかんは、声ではなく『文』を殻に浸透させた。器用なことするね。

 

おもち 「あれ?」

みかん 「見てる!」

 確かに、殻の中から、『文』を読む視線を感じる。感覚が一方通行なのかな?

 

 殻を割って、中の子と話ができたらいいのに。

 

おもち 「わたしとみかんの子供……なのかな……」

 あれだけ、いちゃいちゃラブラブしたのだから、子供ができてもおかしくない。

 

 どうしても、そういう『希望的結論』に行きついてしまう。

 そんなはずない。ふたりが子供を作っても、その子はあやつり人形にしかならない……はず。

 もしも、この卵が『 産まれたばかりの他人 』なら、ふたりの間に『 本物の子供 』ができちゃったってことだ。そんな奇跡……ぼろぼろに泣いちゃうよ。わたし。

 

 でも、残念だなぁ……。おなかが大きくなっていくとか、痛い思いして産むとか、そういうイベントが欲しかった。どっちがお母さんになってもいいからさ。

 

 

 みかんのまねをして、卵の中の子に『文』を送ってみよう。

 

 

『 そこのあなた! こっちの世界に興味ない? 』

 

 

 じーっと視線を感じる。読んでるね。

 

 

『 この殻を破って、いっしょに遊びましょ? 』

 

 

 うーん……これじゃ、ナンパか怪しい勧誘みたいだなぁ……。

 

 

 ギュイーン!! とモーター音。

 

 みかんが、大きな電動ドリルを、サブマシンガンのように両手で構えていた。

 

おもち 「そんなので穴あけちゃダメ!!」

 

 みかんの背後には、ディスクグラインダーとか、つるはしとか、対戦車ミサイルとか、いろいろ置いてあった。

 

おもち 「たぶん……どうやっても壊せないよ」

 みかんも分かっているはずだ。物理的にこの殻を壊すのは不可能だってことを。これは物質とは呼べないし、わたしたちが作ったものではないのだから。

 

おもち 「ダジャレじゃないよ?」

みかん 「 ? 」

 みかんが首をかしげた。かわいいんだなこれが。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

おもち 「この子に名前を付けてあげよう」

 名前があれば、親しくなれる気がするから。わたしとみかんがそうであったように。

 本当の名前は、すでにあるのかもしれないけれど。

 

 あの時と同じやり方で…………ランダムに文字を回して…………止める! 止める! 止める!

 

 『こすも』『らんぷ』『てよみ』『だいや』『たると』『だいち』『かのん』『さきら』『まるみ』『ひかる』『こんべ』『みきな』『もにた』『きめら』『わせみ』『きぼう』…………。

 

 

みかん 「おかき」

 

おもち 「お! ぴったりだねぇ」

 『おもち』の子供だから『おかき』。でも『おかき』だと、みかんの要素を反映していない。

 

おもち 「『なつみ』とか、どうかな?『なつみかん』の略で」

 

みかん 「…………」

 珍しく、みかんが無味無臭だった。

おもち 「そんなに嫌なの? なら、『おかき』にしよう」

 

 

『 あなたの名前は、おかきだよ! よろしくね! 』

 

 

 殻の向こうから、熱々のハンバーグみたいな、おいしそうなにおいがした。ちょっと むずがゆい感じだ。照れてるのかな?

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 卵(おかき)が、みかんの背丈ほどに成長した。

 

 いや、正確には成長していない。わたしの感覚で、大きくなったように見えるだけ。

 この卵には、大きさの決まりが無い。おかき がサイズを定義していないのだと思う。

 内と外の区別も曖昧だ。卵の中が外の世界で、わたしとみかんがいる方が内側の可能性もある。つまり、この卵には体積も無いのだ。殻は丸く見えるけど、実は、無限の平面がループ……

 

 ……頭が痛くなるから、考えないようにしよう。

 

 みかんは、おかき を大事そうになでている。おかきからは、甘いバターのにおいがする。すっかり仲良しだ。ちょっぴり嫉妬してしまう。

 

 

 

 わたしとみかんは、アダムとイブになるつもりは無いし、神様としても中途半端だ。

 

 とてもとても悲しい事実。この不思議な関係は、いつかどこかで終わる。お別れは必ずやってくる。時間が流れているのなら、永遠なんてありえない。

 おかきも、いつかは消える。

 

 

『 でも、ちょっとの間だけ覚えていてね 』

 

 

『 えっちっちなふたりが、好き同士でいたってことを 』

 

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 次話は、あとがきと設定のまとめです。


 [ 初投稿日時 2022/11/17 21:11 ]
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。