勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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やっと…なんとか執筆できる纏まった時間が出来ました……


第4話

 

 13:25。

 

 

 

「──皆、急いで!」

 

「──ラピ!指揮官様は!?」

 

 突然の襲撃だが、ラピが臨時に指揮を執って非番の量産型ニケ達を含めた全員を宿舎から退避させて間もなく、アニスが彼女へ尋ねた。

 

 宿舎から飛び出す前に聞き慣れた銃声が聞こえ、続けて手榴弾らしき爆発音。

 

 ムーアがトライアングル──人間の兵士達と交戦に及んだと察せられたアニスは彼が気掛かりで仕方ない。

 

「指揮官なら大丈夫!だから私達は早く合流地点へ!」

 

 また銃声が司令部庁舎の方角から立て続けに響いた。それに反応し、マリアンが足を止めてしまう。

 

「マリアン、急いで下さい!」

 

「で、でも指揮官が…!」

 

「師匠なら大丈夫です!師匠はラプチャーとだって戦える人間なんですよ!!」

 

 散弾銃をスリングベルトで吊るすネオンが彼女を促して再び走らせる。

 

 一先ずはムーアから指示があったビル──建築途中で放棄されてしまい、鉄骨等が剥き出しのそれ──へ向かう必要がある。

 

 そこで合流した後は──

 

「──アークへ行きますか?」

 

「──アークはもっと危険よ。至る所に中央政府軍の部隊が展開されている可能性が高いわ」

 

 突撃銃を構えるラピは前哨基地内の施設から施設へ、或いは道路を挟んだ反対側に移動する際、クリアリングを済ませながら彼女達を導いて行く。

 

 その最中、ネオンから今後の行動を問われた彼女が首を横へ振って否定を示した矢先のことだ。

 

「──ラピさん、待って下さい!あれ…!」

 

「どうしたの──ッ…!」

 

 ちょうど彼女達は警衛所の付近へ差し掛かった。その際、目撃してしまったのである。

 

 一方的な暴行を受けた量産型ニケ(スタッフ)達が赤い触媒を流しつつ、舗装された路上を這いながら道路の脇へ移動しようとしている姿があった。

 

 あのチタンマター製の手錠を掛けられ、対人用とはいえ実弾も喰らった影響か、彼女達の動きは遅々として進まない。

 

 幸いにも非番であり、無傷の量産型ニケ達が駆け寄り、傷付いて身動きが思うように取れない彼女達を担ぎ上げた。

 

「大丈夫!?何があったの!?」

 

「イーグル!あなた…!」

 

「だ、大丈夫…脳は…無事…ですから…!それより…指揮官は…!?」

 

 運ばれて来たスタッフ達──今日の警衛勤務上番となった彼女達の変わりようにアニスが息を飲む。気丈にも警衛隊司令として上番したイーグルが唇の端から赤い触媒を垂らしつつ指揮官である彼の姿が何処にも見えない点を危惧して問い掛けた。

 

「指揮官もご無事の筈よ。きっと今は私達に追い付こうとしているわ」

 

「良かった…!…なんて…お詫びすれば…!」

 

 警衛隊の主たる任務は前哨基地内の警備だ。敷地内へ出入りする者の監視やラプチャー侵入の際は第一線へ立っての応戦等が挙げられる。

 

 むざむざと警衛所を制圧されたばかりか、任務を満足に果たせなかった。持ち回りとはいえ、警衛隊を任せられた彼女は信頼して司令の任務を預けてくれたムーアへ会わせる顔がないと言わんばかりに瞳を伏せる。

 

「指揮官は任務を全うした相手を叱責することはないわ」

 

「ですが…!」

 

「言い合いは後にしよう!早く行かないと!」

 

 ラピが慰めるも任務を全う出来なかったという意識が強いイーグルが異を唱える。しかしアニスはこの場にいるのは危険と判断したのだろう。彼女達を急かして移動を促した。

 

 身動きが満足に取れない者を担ぎ、或いは肩を貸しながら彼女達はやっとの思いでクリアリングの訓練に使用されているビルの前へ到着する。幸いにもこの付近に敵の気配はない。

 

 それは一安心だが──イーグルを始めとした何名かの警衛隊上番者達の容態が気掛かりだ。ニケであるので早々に重篤となることはないが、リペアセンターでの検査や処置が必要であるのは変わりない。

 

 一刻も早くなんとかしなくては。

 

 焦燥にすら駆られそうな中、ラピは赤い瞳を四方へ間断なく向けつつ携える突撃銃を強く握り込んだ。

 

 

 

 

 

 13:27。

 

 

 ヘルメットとボディアーマーの隙間から覗く頸部。その頸動脈の上から宛てがわれ、肌と肉を切り裂きながら押し込まれるナイフの冷たい感触に伍長は明確な命の危険を嗅ぎ取っていた。

 

 呼吸が荒くなり、血の気が引く伍長から戦意はとうに喪失している。怯え切った様子のまま彼は眼前で半包囲をしようとする自身の同僚達や上官達へ視線を向ける。

 

「助け──」

 

「──誰が話して良いと言った?その口を閉じてろ」

 

 直ぐ真後ろから低い声が警告を発し、同時にナイフが更に深く食い込んだ。恐怖が勝っているから不思議と痛みを感じない。

 

 きっと息を吸うかの如く殺される。

 

 それを察した伍長は唇を硬く結んで呻き声すら漏らさぬように努める他なかった。

 

「──ニケ マリアンを確保せよ、との命令が上層部から下されたんです!どんな手を使ってでも、と!大人しくマリアンを私達に渡して下さい!」

 

「──そんな命令や通達は聞いた覚えはないが?」

 

 伍長を人質に取られてはトライアングルの実質的な指揮官であるプリバティもムーアへ対する射撃命令を出せない。兎に角、彼を落ち着かせなければならないと考えた彼女は任務の目的を告げるのだが──生憎とムーアはこれ以上ない程に冷静である。

 

 低い声音のまま淡々とした口調でプリバティへ応答しているのが何よりの証拠だろう。

 

()()()とは何処の部署だ?まさかニケ管理部ではあるまい?キミ達に命令を出せる権限はないからな」

 

「副司令官様の命令です!」

 

「何処の副司令官だ?そもそもこれは正規の手続きに則って承認された作戦か?」

 

 組織こそ異なるが、広義の意味で捉えれば同じ軍部同士だ。同士討ちそのものの作戦が認可されるならば──暗殺や拉致・略取といった非正規戦を前提とした作戦の可能性が高い。

 

「答える必要はありません!」

 

「そうか。なら、俺の答えもNOだ。悪いな、()()()()

 

「お、お嬢さん!?」

 

「何か問題でも?()()()()?」

 

 この場に彼の部下達──特に分隊の面々がいた場合、珍しくムーアが相手を煽っていると感じるだろう。

 

 合流予定の目的地まで残り数百mだ。なんとか時間を稼がねばならない。

 

「──少尉!!こいつが…!!」

 

 その時、フェンスで四方を囲まれた覆土式弾薬庫の脇からトライアングルの隊員達が現れる。その内の1名は右手首が喪失し、腕へ止血帯が巻き付けられているではないか。

 

 激痛に耐えている隊員を目撃したムーアの濃い茶色の瞳が限界まで開かれ、瞳孔が再び開き切り──突撃銃へ腕を絡ませたまま関節を極めている伍長の身体ごと銃口を隊員へ向けて指を乗せた引き金を引き絞った。

 

「──おい、その野郎と伍長を交換しろ。今直ぐ射殺してやりたいが…楽しみは後に取っておいてやる」

 

 止血帯が巻かれても出血が止まらない。心臓よりも上へ腕を上げている隊員には処置が必要なのだ。いきなりの提案にプリバティが何を言い出すのかと憤慨する。

 

「──俺の大切な部下を代わる代わる痛め付けやがって…そこの全員、ここから生きて帰れると思うなよ?」

 

 どうやら右手首が喪失した隊員だけではない。アスファルトの破片で負傷したらしい他の者達へもムーアの殺意をこれでもかと込めた視線と言葉が向けられた。

 

「痛め付けた…?」

 

「…命令は()()()()()使()()()()()だったか?なるほど…俺の部下達を代わる代わる痛め付けることも含まれる訳だ」

 

 彼の語る内容の意味をプリバティは最初こそ理解出来なかった。しかし──ややあって()()()()()()()()彼女の瞳が大きく開かれる。

 

「なんて…ことを…!」

 

「アイツら、ただの鉄屑──」

 

 右手を喪った隊員が痛みを誤魔化すかの如く、大声を張り上げようとしたが──その瞬間、引き金が引き絞られた突撃銃の銃口から火が噴く。

 

 撃ち出された弾頭が隊員が被るヘルメットごと頭部を粉砕し、弾けた肉片や頭蓋骨の欠片、脳漿を周囲に撒き散らした。

 

 さながら限界まで膨らんだ風船が耐え切れずに弾けた瞬間のようにも見えただろう。

 

 人質の交換を申し出たが、やはり受け入れられるとは考えられないと思い至ったのか。ムーアはこれ以上、あの隊員から吐かれる発声の一音すらも聞きたくなかった。

 

 或いは──この世界に存在し、同じ空気を吸っていることに我慢ならなかった、というのが正しいのかもしれない。

 

 大口径の弾頭の直撃を受け、粉砕された頭部は跡形もない。残された首から下だけの身体から力がなくなり、そのまま重力へ引かれて仰向けとなって倒れる光景を半ば呆然とプリバティを始めとした隊員達は見送る他なかった。

 

「──次は誰だ?まだ全員を殺せるだけの弾は残ってるぞ」

 

 続けて銃口が顔が引き攣ったプリバティに向けられる。それを見たからか──彼女の前へ隊員の数名が立ち塞がり、怪訝な様子でムーアの眉間へ皺が寄った。

 

 

 

 

 13:35。

 

 

「──火力!!」

 

「──万歳!!師匠!!」

 

 合言葉に答えたネオンの表情が綻んだ。同時にビルの前で待機していた彼女達もである。

 

 間違いなくムーアの声だ。ラピが彼女達を先導し、声の聞こえた方向を目指して進み始める。

 

 放棄されたビルが密集している区域を抜け出た矢先──彼女の視界に映ったのはトライアングルの隊員を人質に取ったムーアが握った突撃銃の銃口を半包囲するプリバティや隊員達へ向けている姿だ。

 

「──指揮官!」

 

「──大丈夫だ。一応、話は付いた。スタッフ達は全員、ニケ管理部に出頭。アンダーソン閣下に報告を頼む。…監視付きだがな」

 

 彼へ危険が及んでいる、と判断したラピが突撃銃の引き金を引く寸前、ムーアがそれを制する。

 

 ここへ来る道中、何かしらの交渉でもあったのか。

 

 両手を挙げ、武装はしていないと示すような仕草でユルハとアドミが進み出て来ると、彼は量産型ニケ達に命令を下した。

 

「──護衛、と言って欲しいわね」

 

「…フン…」

 

 ユルハが濃い隈が浮かび、据わった瞳を彼へ向けるもムーアは鼻をひとつ鳴らしただけだ。

 

 歩み寄って来るユルハとアドミを警戒するラピが銃口を向ける。しかしその銃口を下ろすよう彼が視線で促した。

 

「負傷者に手を貸してあげて」

 

「私達が同行します」

 

「…信用して良いの?」

 

 怪訝な様子でアニスも擲弾発射器を握り直す。それに少女姿の彼女が頷きを返した。

 

「…ムーア大尉と約束しましたから」

 

「…アイツとの約束を破ったら…後が怖そうだから。それにこっちも隊員が人質に取られているから仕方ないわ」

 

 溜め息を吐き出すユルハは、やれやれと言わんばかりに首を左右へ振った。

 

 どんな手を使っても──という至上命令を受けた割には真剣さがあまり感じ取れないのは気の所為だろうか。

 

「──指揮官…!」

 

 量産型ニケに肩を貸されたイーグルが腹部を手で押さえつつムーアへ声を掛ける。それを聞き取った彼の濃い茶色の瞳が向けられると、彼女は意を決して口を開いた。

 

「申し訳ありませ──」

 

「──御苦労だった。礼を言う。ありがとう」

 

 謝るな、と告げられているかの如き勢いにイーグルは唇を真一文字に結び直すと、漏れ出そうになるしゃっくりを耐えようと努力する他なかった。

 

「──新たな命令を下す。イーグルは現時刻を以て警衛隊司令の任を解き、爾後のスタッフ達の指揮を任せる。別命あるまでアンダーソン閣下の保護下で養生するよう命じる。復唱は省略」

 

「…了解しました」

 

「それと…復帰したら直ぐに警衛隊への上番を命じる予定だ。構わんな?」

 

 ──嗚呼、ダメだ。

 

 しゃっくりを耐えようとするが、鼻を啜ってしまう。イーグルは何度も頷きを返して了解を彼へ伝えるしかない。

 

 量産型の代替はいくらでもいると言うのに、任務を全う出来なかった自分はそれこそ廃棄処分となっても不思議ではないのに──。

 

 量産型ニケに肩を貸され、彼女は耐え切れないしゃっくりを漏らす。彼が隊員達を牽制する間、ユルハやアドミを同行者として量産型ニケ全員を伴い、アークへ向かうエレベーターに乗り込んだ。

 

 扉が閉まる瞬間──イーグルの滲む視界へ映った背嚢を背負う彼の背中はいつにも増して大きく見えた。

 

 背後でエレベーターの扉が閉まった様子を感じ取り、ムーアは安堵こそするが、直ぐに引き金へ乗せる人差し指へ力を込め直す。

 

 これで残っているのは彼を始めとした分隊の面々のみだ。

 

「──約束は守るだろうな?」

 

「──はい。量産型ニケ達の護送、そしてムーア大尉達が前哨基地から脱出するまで手出しはしない、と約束しました。ムーア大尉も約束はお守り下さい」

 

 言われるまでもない。ムーアは頷きを返した。

 

 ラピへエレベーターを呼ぶよう促すと、彼女が操作盤へ手を伸ばして液晶画面をタップする。例外こそあるが、基本的にエレベーターは指揮官の個々へ付与された認識番号を入力せねば起動しない。その為、彼女はまずムーアの認識番号を打ち込んでから認証を済ませ、やっとエレベーターの呼び出しをタップした。

 

「…逃げられるとお思いですか?」

 

「少尉、忘れたか?言った筈だぞ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

 

 睨むように双眸を細めるプリバティへ彼も負けず劣らずの鋭い視線を投げつつ、背後でエレベーターが到着したと注げる電子音が響くや否や、ラピやマリアンを始めとした全員に乗り込むよう促す。

 

 彼女達がエレベーターに乗り込んだ気配を察し、伍長の頸動脈を切り裂こうと宛てがっていたナイフを離した。

 

「そのまま進め。ゆっくりとだ」

 

 突撃銃に絡ませた右腕を解くと、関節は悲鳴をあげていたのだろう。頷いた伍長が右腕を庇いつつ、ゆっくりと前へ歩き出すのに合わせ、ムーアは銃口をその背中へ向けながら後退する。

 

 彼がエレベーター内へ辿り着くや否や、ラピの手で地上へ向かうようボタンがタップされた。

 

 扉が閉じ、ややあって一瞬の浮遊感と共にエレベーターが上昇を始めた感覚を捉える。

 

 安堵の溜め息を微かに漏らしたムーアは左手へ握ったままのナイフ──僅かだが血で濡れている刃の腹を纏った戦闘服のパンツへ擦り付けて拭き取ると鞘へ納めた。

 

「…全員、無事か?」

 

「はい。欠員なし、全員に損害はありません」

 

「…良かった」

 

 ラピ、アニス、ネオン、そしてマリアン──全員が揃っていると改めて認めた彼は改めて安堵を口にする。

 

「…あの師匠?……ヘルメットと上着は?」

 

 一安心したところで──という訳ではないが、ネオンは普段の彼とは異なる装いをしている点を尋ねる。半袖のシャツの上からボディアーマーを纏っているのは構わないのだが、普段の任務ではしっかりと上着やヘルメットも身に付けている筈なのだ。

 

 そこでやっとムーアも自身の格好に気付いたらしい。

 

「……済まん。忘れてきた。あぁ、煙草とライターは持って来たから大丈夫だ」

 

 言うが早いか、彼はポケットからソフトパックを取り出し、軽く振り出した一本を銜えるとオイルライターの火を点けて一服を始めた。

 

 

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