勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第2話

 

 

 オフィスへ辿り着くと、まずは彼が二体のニケも含めて秘書の女性へ命令に従って出頭した旨を告げる。それに頷いた秘書が内線で取り次ぎをして直ちに入室の許可が出たと彼等へ知らせた。

 

 感謝を述べ終わると副司令官室の扉の前へ移動し、ドアが自動的に開くのを合図に入室する。

 

 視線の先にある執務机で端末を片手に仕事中の副司令官であろう人物を認めると、彼は踵を合わせる音を響かせて不動の姿勢を取り、被った軍帽の庇へ五指を揃えた右手を翳した途端──頭蓋の内で痛みを覚える。

 

 なんとか耐えようと眉間へ縦皺が刻み付けられるも、眼光が鋭くなったお陰で敬礼が様になったのは幸いだろう。

 

「──ムーア少尉、並びに他2名は命令に従い、0930に出頭致しました」

 

「──結構。姿勢を楽に」

 

 視線だけを向けて答礼の代わりにした副司令官が休めを命じる。それに従ってムーアは軍帽を脱いで左脇へ挟むと後ろ腰に両手を回しつつ肩幅程へ脚を開く。彼女達も同様に楽な姿勢となった。

 

「…ようこそ。司令部副司令官を務めるアンダーソンだ。まぁ好きに呼んでくれて構わない」

 

 好きに、とは言うが彼の両肩にある肩章(階級章)は少将である。任官したばかりのムーアがクソ生意気にも好みの呼称が許される筈もなく彼は沈黙を保つ他ない。

 

 それに困った様子なのはアンダーソンの方だ。場を和ませる為のジョークのつもりだったのだが──と思うも早く本題へ入ろうと軽く咳払いする。

 

「…君達をここに呼んだ理由なんだが、ひとつテストをしたくてね。まぁ難しくはないから気楽に臨んで欲しい」

 

「テスト、でありますか?」

 

 随分と急な命令だ。彼が確認の為に繰り返すとアンダーソンが頷く。

 

「今の状態のままシミュレーションルームへ行って貰いたい。詳細はそこで聞くように。──それとムーア少尉は2名とシミュレーションルームでテストを終えた後、ただちに中央大学病院へ」

 

 これまた急な命令である。追加で彼には別のタスクが用意されているようだ。しかし何故こうも急に、と疑問が生じてしまう。

 

 前向きに考えるとすれば精密検査の類だろう。しかし実験用のモルモットとなりそうな気がしてならないのは邪推しすぎであろうか。

 

「──以上だ」

 

「え?その話をしたくてここへ呼んだの?」

 

「アニス…!」

 

 相手は副司令官である。言葉に気を付けろ。ラピはそう言いたいのかアニスを嗜める。

 

 しかしアニスとしても納得がいかない。わざわざ書面で済むような話をする為に足を運んだのだ。それも副司令官が名指しで直々にである。

 

「何よ?気になることは聞かなきゃ」

 

 胃がキリキリと痛くなりそうな話を側でしないで欲しい。ムーアは眉間へ思わず皺を寄せてしまう程度には緊張はしているようだ。

 

「君達に直接会ってみたかったのだ。それだけでは不服かね?」

 

 微かに苦笑を浮かべたアンダーソンの返答を聞いてさしものアニスも反応に困ったのか押し黙ってしまう。

 

 話は以上だろうか。そう思っていた矢先、アンダーソンが「おっと」と呟く。

 

「忘れるところだった。ムーア少尉。こちらへ」

 

 名指しされた彼は濃い茶色の目を何度か瞬かせた後、一定の歩幅を保ちつつアンダーソンが腰掛ける執務机の前へ立った。それを認めた副司令官が椅子から腰を上げ、彼の眼前に移動する。

 

 両者とも体格は似ているが、背丈はいくらか彼の方が高くムーアが副司令官を見下ろす形となった。

 

「──おめでとう。中尉へ昇任だ」

 

「…は?」

 

 昇任したと告げるアンダーソンは両手をムーアが纏う軍服の上着、その肩章へ伸ばすと対になった銅色の縦に細長い長方形の階級章を外し、続けて銀色の同じ形状をした中尉の階級章を両肩へ付けていく。

 

「…有り難い事ではありますが、私は任官してまだ日が浅く…」

 

「…ニケ達と肩を並べ、戦場で敵と砲火を交えられるばかりかブラックスミスと戦って生き残った。そんな指揮官を遊ばせておく余裕は政府にはないのだ」

 

 迷惑料の先払いだと思え。などと幻聴が彼の耳には聞こえた気がした。

 

「昇任の祝いと言ってはなんだが…これを君に返すとしよう」

 

 アンダーソンはおもむろに机上へ置いていたアタッシュケースの蓋を開くと、中から45口径の自動拳銃を取り出した。

 

 言うまでもなく先の作戦中にムーアが発見したそれだが、帰還後にパイロット達の遺品と共に中央政府へ提出していたのだ。

 

 地上で発見した代物は基本的に中央政府が所有権を有する、という規則からである。

 

「調査をしたそうだが、型式が古いだけの拳銃だ。何かしらの新しい技術の肥やしとなる事もない。頑丈さだけが取り柄、とのことらしい。という訳で私の所へ回って来たのだ。君へ返すとしよう」

 

 自動拳銃を元へ戻し、蓋を閉じたアタッシュケースを副司令官が差し出せばムーアは受け取ると無意識に言葉を紡いでいた。

 

「閣下。質問しても宜しいでしょうか」

 

 怪訝そうな様子のアンダーソンは左手首に巻いた腕時計を見て時刻を確認してから小さく頷き、先を促す。

 

「マリアン──私が先の作戦で指揮を執り、処分の措置を取ったニケですが、侵食はアーク内にいた頃から始まったのではないかと愚考しております。閣下にお尋ねするのは筋違いかと思いますが、何か御存知であれば是非とも」

 

 彼が質問した内容に背後で待機するラピとアニスが息を飲む。まさか尋ねるとは思ってすらいなかったのだろう。

 

 しかし彼は質問した事に満足していた。何せ──

 

「…その質問には答えられないな。ひとつだけ確かに言えるのはアークの防護壁は堅固だ。()()()()()()()()()()()()

 

「…不躾な質問にお答え下さり感謝致します閣下」

 

 ──外部からではなく、内部による犯行。それを副司令官自らが保証してくれたのだ。満足する他ないだろう。

 

 アンダーソンはこれから会議に出席せねばならぬとの事で彼と彼女達は退室を促された。

 

 綺麗な回れ右をして、再び一定の歩幅を保ったままラピやアニスの元へ戻り始めた時、不意に副司令官がムーアを呼び止める。

 

「──待ちたまえ中尉。ひとつ聞かせてくれ」

 

 ちょうど彼女達と副司令官が立っている中間地点で彼は止まるとその場で回れ右。アンダーソンへ身体を向けた。

 

「なんでしょうか閣下」

 

「もしもの話だ。誰かが何らかの意図をもってニケへ侵食コードを埋め込んだとしよう。その誰かとは君が手も足も出ない程の巨大なモノだったとしたら──中尉。君はどうするかね?」

 

「…何故そのようなことをお尋ねに?」

 

「ちょっとした興味という奴だ」

 

「…おそらくは……いえ、対価を払って貰うよう私なら努力するかと思います」

 

「…対価?対価とは?」

 

 彼の口にした言葉をアンダーソンは繰り返す。その対価とは何か、と続けて尋ねようとするよりも早く──ムーアの口角が緩く釣り上がり、濃い茶色の瞳の瞳孔が細くなった。

 

「──無論、その者の命であります」

 

「…そうか。分かった。下がって構わない」

 

「失礼致します」

 

 本来なら扉の前ですべきなのだろうが、身体をちょうど向けている。その場で軍帽を被ると彼はアンダーソンへ挙手敬礼し、軽い答礼が返ってくるとアタッシュケースを左手へ下げたまま彼女達と共に退室する。

 

 その後ろ姿を見送り、ドアが閉まったのを認めたアンダーソンは軍服のポケットからハンカチを取り出すと蟀谷(こめかみ)から流れ落ちる冷や汗を拭った。

 

「…流石は、といったところか」

 

 

 

 

 

「──()()()も参加するのはなんだかなぁ」

 

「…不満か?」

 

「そうじゃなくて。なんて言うのかな…この前の作戦では色々あって余裕なかったんだけど、なんでニケ用の火器が使えるの?やっぱり変だよ」

 

 今更そんな事を言われても困る。苦言が表情に浮かんでいる彼はラピやアニスと共にシミュレーションルームへ隣接する武器庫にあった。

 

 ラピが製造された会社のCEOであるイングリッドによる説明をブリーフィングルームで受け、現在はシミュレーションへ臨む前の準備を行っている最中である。

 

 彼女達は既に武装している為、用意されたシミュレーション用の弾薬──ゴム弾を弾倉へ込めている中、ムーアは使用する火器を選んでいる途中だ。

 

 棚へ所狭しと鎮座する火器の種類は豊富である。その一挺一挺を手に取り、馴染むかどうかを確かめるが──どれもしっくり来ない。選り好みするのもどうかと思うのだが、やはり馴染む物を選んだ方が得策だろう。

 

「…変と言われてもな。使えるんだから仕方ない。……悪くないが微妙」

 

 エリシオン製の火器はどれも素晴らしいのだろうが、どうにも彼の手に合わない。手に馴染まないのだ。やはり先の作戦で使用したテトラライン製の突撃銃はないかと棚を見渡すが、ここには無いようだ。

 

 ──尚、彼が微妙と口にして棚へ戻した突撃銃はラピも使うモデルである。それが耳へ入った彼女が少しばかり気分を害したようで紅い瞳を細めたのをアニスは見逃さなかった。

 

「口に気を付けなよ()()()。ラピに後ろ弾されても知らないからね」

 

「む?俺がか?」

 

 悪戯っぽく笑いながらアニスが彼を、ついでにラピもからかうのだがムーアは首を捻っている。

 

「…早くして下さい()()。時間が押しています」

 

 何故、ラピの言葉から棘を感じるのだろう。何かしてしまったのだろうか。

 

 ますます訳が分からなくなる彼だが──

 

「…これにしよう」

 

「…って、それさっき微妙って言ってなかった?」

 

「それなりに手に馴染んだからな」

 

 結局、選んだのは棚へ戻したばかりの突撃銃だ。外見はラピが自身の好みに合わせて換装した擲弾発射器を取り外しただけのそれである。

 

 突撃銃を掴むと、その規格に合う弾倉も棚から拾い上げて彼もゴム弾を詰め始める。

 

 幾分か機嫌を直したらしいラピの様子を隣にいるアニスは当然見逃さなかった。

 

 





他人から自分の使っている銃を貶されると嫌な気分になりますよね?いや……なるんですよ(迫真

シミュレーションルームでは実包を使っているような気がしますが…良く考えたら室内なのでやたらめったら撃ったら跳弾が起きそうに思えましたのでゴム弾としました。悪しからずにお願いします。
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