勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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A.I.にイラスト描いて貰ってもダメ…かと言って自分は絵心がないと分かっているのでダメ……うーん…(ムーア大尉のイメージ絵に尚も挑戦し続けている作者です


第2話

 

 

 重厚な扉を構えた一軒のBar──ここが待ち合わせ場所として指定された店舗であるようだ。

 

 その扉には【本日貸切】のプレートが掛けられている。

 

 どうやら間違いないらしい。重厚な扉を握り、押し開くとドアベルの軽やかな鈴の音が鳴り響いた。

 

「──申し訳ありません。本日は貸切の予定でして…」

 

「こちらで商人連合(タレント)の皆さんと待ち合わせの予定なのですが…」

 

「それは失礼致しました。お名前をお伺いしても?」

 

 店内はそれほど広くはない。カジュアルとハイクラスの中間──といったところの内装だ。奥にはダーツの設備が置かれている。

 

 カウンターの内側でグラスを磨いていたカマーベストにネクタイを締め、スラックスを纏った初老のバーテンダーが入店してきた彼へ暗に退店を促したが、この貸切を予約した客の一人だと察して応対の態度を改めた。

 

 念の為に持参してきた名刺入れを取り出したムーアはカウンターへ歩み寄ると、自身の所属や階級、姓名が綴られた名刺の一枚をバーテンダーへ差し出す。それを恭しく受け取り、素早く目を通した初老の男は深々と頭を下げる。

 

「──お越しをお待ち申し上げておりましたムーア様。申し遅れました。私、アジトのマスター、ボードレールと申します。以後、お見知り置きを」

 

 挨拶はこれぐらいにして、と初老のバーテンダー──もとい、マスターがムーアへ席を勧める。

 

 勧められたスツール席へ腰掛けた彼の眼前へ素早く灰皿が差し出された。

 

「──何故、煙草を吸うと?」

 

「お煙草を召し上がる方は多かれ少なかれ、香りがお召し物に残りますので」

 

「…確かに…」

 

 商人連合の者達もシュガーの話ではニケ──つまりは女性だと聞いている。少し気配りが足りなかったか、と思いつつもそこまで気を遣う必要もなかろうと割り切ることにして、有り難く差し出された灰皿を受け取った。

 

「さて、何を御用意致しましょう?」

 

「…WOLF KILLERは?」

 

「ございます」

 

「では、ストレートで。チェイサー()は要りません」

 

「畏まりました」

 

 深々とした一礼の後、マスターが背後の棚に並べられた酒瓶の中から彼が好む銘柄のそれを取り出した。良く磨かれたグラスへ40度を超える琥珀色の酒精が香る蒸留酒が注がれ──やがてコースターに載せて眼前へ差し出される。

 

 そのグラスを掴み、一口をゆっくりと嚥下する。飲み慣れた味。それが無性に落ち着いた。

 

 ここ最近は一日の喫煙量を8本と決めている。既に今日は4本目を灰としているが──今、吸わなければいつ吸うのか。ソフトパックを取り出し、振り出した煙草を銜えると慣れた手付きでオイルライターの火を点ける。

 

 アルコールと煙草は相性が良い。それを改めて感じさせる一時の始まりである。

 

「──お邪魔するで〜」

 

「──おっ邪魔っしまぁす☆」

 

「──貸切の予約をしていた…あぁ、来ていたのか」

 

 ムーアがグラスを傾けだして10分は経過した頃だろうか。唐突にドアベルが来店の報せを奏で上げる。その音色に続けてマスターと彼の耳朶を打ったのは声色がそれぞれ異なる、しかし妙齢を感じさせる3名分の高い声だ。

 

「お待ち申し上げておりました。お連れ様はお先に…」

 

「随分と早いな」

 

()()を待たせるのはマナー違反と理解していますので。──はじめまして、ショウ・ムーア大尉です」

 

 どうやら彼女達がシュガーが仲介してくれた商人連合(タレント)の面々らしい。ムーアはスツール席から降りると、3名へ歩み寄る。

 

「──わっ…写真で見るより背高い……待って待って…かっこいい…マジでイケメン…」

 

 3名の内で最も派手な外見──金髪にエメラルドの垂れ目がちの瞳が特徴的なニケが反応を見せる。やたら瞳を輝かせ、頬が軽く紅潮しているのが気に掛かるも、挨拶としてムーアは右手を差し出した。

 

「──ル、ルピーだよ!」

 

「お見知り置きを」

 

「──うちはヤン。よろしゅうな」

 

「こちらこそ」

 

「──私はドラーだ」

 

「どうぞ宜しく」

 

 灰色がかった薄茶の髪を特徴的に纏め、薄紅色の瞳を持つのがヤン──纏う衣装が旧時代のアジア方面で見られた意匠の旗袍にも似ていて、名前からしてもルーツはそちらにあるのだろうか。尤も一番気になったのは話し方()なのだが。

 

 彼女とも握手を交わし、最後の一人──ドラーと右手を握り合う。彼女が最も3名の中で、あくまでも一般論だが()()()()()()装いだ。細身の肢体をジャケットとスラックスで包み、壺菫色の長髪をポニーテールに纏め上げている。

 

 どうやらルピーを始め、彼女達はムーアの素性を知っているらしい。だからこそ、彼へ頼める仕事がある、とシュガーに語ったのだろうが。

 

 挨拶もそこそこに彼女達はマスターにカウンター席を勧められた。各々が腰掛け、注文を始めるのを横目にムーアは元の席へ再び座る。彼の隣はルピーだった。

 

「──ムーア様は如何しましょうか?」

 

「…同じ物を。先に彼女達の分をお願いします」

 

「ありがとうございます。少々お待ち下さいませ」

 

 彼女達が注文したのはいずれもカクテルである。時間が掛かるだろうと考え、先に3名のそれを済ませてからで構わないとムーアは告げた。

 

()()()()()()()()()は何を飲んでたの?」

 

「………お兄ちゃん?」

 

「あ、ごめん。馴れ馴れしかった?」

 

「あぁ…いや…別に構わないのでお気になさらず。WOLF KILLERを5杯ばかり」

 

 隣の席へ腰掛けるルピーが妙な響きを感じさせる呼称を使ったが、自身へ対する呼び方はそれほど頓着しない性格のムーアだ。気を悪くさせたかと不安そうに眉尻を下げる彼女へ安心するよう告げながら、酒の銘柄を教えると──エメラルドの瞳を驚きで大きく開ける様子が伺えた。

 

「WOLF KILLERって…アルコール度数が高くなかったっけ?え、酔ってないの?全然?」

 

「えぇ、全く」

 

 何の因果か酔えない体質である。肝臓が相当に頑丈かつ働き者──なのかもしれない。実際、外見からも酒に酔った雰囲気は見受けられないのだ。

 

 「酒に強いんやね。会食で酒に飲まれないっちゅーのは大きなアドバンテージや──あぁ、どうも」

 

 手際良くカクテルが作られ、それぞれの眼前にコースターへ載せられていく。

 

「──キス・オン・ザ・ビーチでございます」

 

「ありがとう」

 

「──ん?」

 

「…どうした?」

 

「……あぁ、いや……」

 

 ──()()にある名前とは違う。

 

 ルピーを挟んだ先の席へ座るドラーが注文を口にした際、最初は聞き間違いかと思ったが──マスターが彼女の眼前へ差し出したカクテルの名前がムーアの知るそれと異なったのだ。

 

 寸胴型のタンブラーグラス、カクテルの全体的な色合いはオレンジのそれ。間違いなく外見は一致するのだ。

 

「…セックス・オン・ザ・ビーチでは?」

 

「──セッ…!?」

 

「──随分と古いお名前をご存知ですね」

 

 ムーアが何気なく疑問を口にすると、ルピーが愕然と口を開けて目を泳がせる。貸切とはいえ、公共の場で使うには少々考え物の言葉ではあるのだが、そこまで驚くことなのか、と彼としては不思議である。

 

 逆にマスターは年齢もあってか驚くこともなく、ムーアの眼前へ蒸留酒が注がれたグラスを差し出した。

 

「ムーア様が仰られる通り、約半世紀ほど前まではその名前で通っておりましたが…」

 

「知らんの?いかがわしい名前、っちゅーことで中央政府の指導もあって名前が変わったんよ」

 

「…カクテル一杯にも歴史はあるというのに…あぁ、失礼致しました」

 

 飲食業の中でも特に酒を提供する専門家である初老のマスターとしては思うところがあったのだろう。一番端の席へ腰掛けたヤンの説明に釣られ、少しばかり口が滑ったらしい。ムーアの身分を思い出したのか、発言は無かったことにして欲しいのか頭を下げた。

 

「お気になさらず。私は何も聞いていません。…かくいう私も、酒を飲める年齢にもなって、いかがわしい表現云々は少しばかり考え物とは思いますが」

 

 酒の名前ですら規制の対象か。そこまでする程でもなかろうに。ムーアは鼻を軽く鳴らすと6杯目のグラスを掴んだ。

 

「じ、じゃあ…乾杯しよっか!」

 

 咳払いの後、ルピーがカクテルグラスを掲げて一同を促す。既に飲み始めていた彼にとっては今更でもあるが、ここは素直に応じるようで掴んだばかりのグラスを口元へ運ばず眼前に掲げた。

 

 やがて音頭を取ったルピーの合図で乾杯が紡がれる。彼女達と軽くグラスの縁同士を接触させ、音色を奏でた後、彼は乾燥気味の唇へグラスを向かわせ──グイッと一息に琥珀色の蒸留酒を飲み干す。

 

「──ほんま、酒強いんやなぁ」

 

「──それはそうと…本題に入りましょう。私もそうですが、皆さんも時間があるとは言い難い筈だ」

 

 コースター上へ乾いたグラスを置いた彼がソフトパックをポケットから取り出した。煙草を銜え、6本目のそれへオイルライターの火を点ける。

 

 紫煙を左隣へ腰掛けているルピーや彼女達が浴びないよう逆方向に向かって燻らせ始めたムーアが今回の本題を切り出せば、情緒がない奴、と呆れ気味にヤンが肩を竦めた。

 

「──それもそうだ。なら早速、本題に入ろう」

 

「…あかん。こっちにもいたわ…」

 

 情緒がない奴、がこの場にはもう1名存在していると思い至ったヤンが溜め息を漏らす。その情緒がない奴──ドラーが一口嚥下したタンブラーグラスをコースターへ置くと、今回、このような場を設けた本題を語り出した。

 

「前哨基地の件は私達の耳にも入っている。その被害の大きさも。復旧の為の費用が至急、必要なのだろう?」

 

「正しく仰られる通り」

 

「…普通に喋ってくれて構わない。あなたは指揮官だ」

 

「堅苦しいのは無し。ここからはお互いに()()()()()()()、ざっくばらんに行こうや」

 

 吸い込んだ紫煙を唇の端から吐き出したムーアはドラーとヤンが促すと、やがて小さく頷きを返す。

 

「──俺にも出来る仕事があるとか」

 

「正確には、大尉の率いる分隊に、だな」

 

「…分隊、カウンターズに?」

 

 ルピーを挟んだ先の席へ腰掛けるドラーへ細めた左眼の視線を向けるのだが、何故か金髪を持ったニケの方がエメラルドの瞳を泳がせ始めたのは如何なる理由か。

 

待って待って…目力ヤバいって…

 

「………大丈夫か?」

 

「ルピーは気にせんでええよ。舞い上がってるだけやさかい」

 

「…舞い上がる…?」

 

「──話を元に戻そう」

 

 ドラーがカクテルを傾け、唇を湿らせる。

 

「要約すれば、だ。私達を地上へ連れて行って欲しい」

 

「……地上へ?」

 

「あぁ。──マスター、彼にもう一杯。彼の分は全て私に付けてくれ」

 

 頷いたマスターがムーアの乾いたグラスを机上から除くと、新しいそれを用意し、彼が好む銘柄の蒸留酒を注いで差し出した。

 

「…酒代ぐらいは払えるぞ」

 

「これも気分良く話を聞いて貰う為の()()だ」

 

 苦言を呈する彼へドラーが薄く笑みを浮かべつつアメシストの瞳を向ける。

 

 無料(タダ)ほど高い物はない、とも言う。この一杯が高く付くのか否か──いずれにせよ、こうして話を聞いている時点で、なにより早急に資金を得たい身の上だ。

 

 断る選択肢は残されていない、と彼女は踏んでいるのだろう。

 

 やや業腹だが──ムーアは灰皿へ吸いかけの煙草を置くとグラスを掴んだ。

 

「…続きを聞こう」

 

 彼女が語るにはムーアや、彼が率いる分隊へ護衛を依頼したいとの事である。

 

 その目的は商人連合の3名がそれぞれ別々のルートから得た地上のとある座標──頬が薄く紅潮したルピー曰く“とてつもない宝物”が埋まっている座標だという。

 

「…なるほど。()()としてニケは指揮官がいなければ、地上へは上がれない。勿論、逆もまた然り、だが」

 

「理解が早くて助かる。まぁ…後者の()()を例外にしそうな指揮官なら…私達の前に座っているが」

 

「…買い被るな。あっさりと死ぬのが関の山だ」

 

 琥珀色の蒸留酒を半分ほど嚥下した彼がコースターへグラスを置き、灰皿に預けていた煙草を摘み上げると唇へ運んだ。

 

「…危険性は?」

 

「それは行ってみなければ分からない。正規の任務ではないからな。オペレーターは付かないだろう。リスクはあるが……なに、そう難しい仕事ではない筈だ」

 

「……いつ頃に地上へ行きたい?」

 

「明日にでも」

 

「急だな」

 

「善は急げ、という奴さ」

 

 肩を竦めるドラーへ呆れた眼差しを向けながら彼は紫煙を燻らせ──やがて根元近くまで吸い切ると、名残惜しく灰皿に煙草を押し潰した。

 

「…ちょうど今日、弾薬が届いたばかりだ。…予想外の消費となる。危険性も不明、想定されるラプチャーとの交戦頻度も不明、部下達への事情説明、なにより急な話だ。取り分は50:50」

 

「あぁ、それで構わない。乗るか?」

 

「……乗った」

 

 ドラーが薄く笑みを浮かべ、足下へ置いていたブリーフケースを持ち上げたかと思えば──中から取り出した契約書とペンをムーアへ差し出す。

 

「──しっかりと内容を読んで署名してくれ」

 

「……元々の取り分も50:50で決めていたのか?」

 

「私達なりの()()という奴さ。長く付き合って行く為のな」

 

 こんなことはこれっきりにして欲しいが──などとムーアは考えつつ書面に綴られた文章を上から下まで読み込む。

 

 問題は見受けられなかった。

 

 ペンを握り、自身の姓名をしっかりと綴る。

 

 

 

Shaw Moore

 

 

 

 署名を終えた契約書がドラーへ返された。

 

 受け取った書面の署名を見た彼女──そして両隣のヤンとルピーは率直な感想が内心で漏れる。

 

 顔に似合わず字は綺麗、と。

 

 

 

 




カクテルの名前

ドラーのキャラエピソードで「ん?キス・オン・ザ・ビーチ?なにそれ?」となった作者でございます。
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