勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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え〜……体調不良でお休み頂きまして…体調が悪いのに書きたい衝動に抗えず書いてしまいました


第10章
第1話


 

 

 前哨基地を出発したのはシュエンとの面会、そして相互の利益の為から協力を結んだ翌日のことだ。

 

 久しぶりの北部である。ムーアの装いもいつぞやの如く、寒冷地仕様のそれであった。

 

「──指揮官。たった今、アンリミテッドから地図情報が届きました」

 

「ルドミラからか。…あぁ、いや…正確にはアリスか」

 

 乗り込んだエレベーターの中で地上へ向かう上昇の感覚──なんとも言えない浮遊感に苛まれていた最中、傍らのラピがムーアへ彼女自身の携帯端末の液晶画面を見せた。

 

 以前に譲られた情報──2ヶ月以上は前の北部での任務でルドミラから譲られた情報は流石に古い。

 

 おそらく彼女達であれば追加の情報を持っていると予想したが──それは幸いにも正解であったらしい。

 

 アンリミテッド分隊で情報のアップロードや遭遇の確率が高いであろう地点の洗い出しを済ませてくれていたらしく、ラピの携帯端末へ送られて来た地図情報には北部の一点へ白い光点が点滅していた。

 

「…彼女達には足を向けて寝られないな」

 

「ですが問題があります。──通称、The mage's zone(魔の地帯)。エブラ粒子の濃度が低い北部でも平均値が100%に達しています」

 

「わぁ…スノーホワイトと連絡が取れない訳ね」

 

「それだと近距離でも通信が出来ませんね」

 

「しかも吹雪もあるんだろう。…無線も役に立ちそうにないな」

 

 仮に身動きが取れなくなった場合──大きな負傷や損傷を負って救難信号を発したとしても、それを受信させることは不可能に近いのだろう。

 

 そのような場所に好きこのんで行くような者は余程の命知らずか、狂人、或いは致し方なくのいずれかだ。──いずれにせよ、常識を語るとすれば避けて然るべきの地域だろう。

 

 溜め息を漏らすムーアに釣られてか、アニスとネオンも揃って同じ類の息を吐き出してしまう。

 

「…遭難だけはしないよう気を付けよう」

 

「そうだね。私達は兎も角、指揮官様が悲惨なことになっちゃうから」

 

「ですね。──そういえば…誰なんでしょうね?」

 

「支援部隊のこと?」

 

 思い出したようにネオンがいまだに姿も形もない()()()()の存在を尋ねる。

 

 彼もいまだに部隊名をシュエンから聞かされていないのだ。メッセージでは《地上で合流するよう手配している》という旨が送られて来ていたが、そろそろ正体を明かしてくれても良い頃合いだろう。

 

「メティス…はこの前、目を覚ましたばかりだから外部には出さないよね?」

 

「えぇ。私もそう思うわ。シュエンも当分はメティスをメディアの方に集中させるだろうし」

 

 アニスとラピが交互に語り合う。となれば──果たしてどの部隊なのか。M.M.R.か。それとも以前に行動を共にしたワードレス分隊か。

 

「何かを探す任務なら…スカウティングが適任だわ」

 

「あの子達はミシリスの所属ではないけどね。まぁシュエンがプライドを捨てて頼み込めばイングリッド社長も許してくれるんじゃない?」

 

「アニス、面白い冗談ですね。それは無理だと思います」

 

「だよね〜」

 

「…スカウティング?エリシオンの所属か?」

 

 どうやら彼女達はスカウティングの面々と多かれ少なかれの面識はあるようだが、生憎とムーアはその経験がない為に首を傾げる。名前の響きや意味からして斥候等の任務が専門の部隊と思われた。

 

「はい。あ、師匠はご存知じゃありませんでしたか?」

 

「…済まないが生憎と…」

 

「たぶんだけど…指揮官様はデルタと凄く気が合うと──指揮官様?どうしたの?」

 

「…いや、済まん。なんでもない」

 

 不意に彼の眉根へ三本の縦皺が刻まれ、左手がヘルメット越しに頭を押さえた彼の様子を見てアニスが気遣いの声を掛ける。

 

 軽い頭痛が脳裏に駆け巡っただけだったので、彼は直ぐに姿勢を元へ正した。

 

 そんなに気が合うというのなら会ってみたいモノだが、と考え始めたムーアの視界の隅で液晶画面が残り数分で地上へ到達する表示を点灯させる。

 

 間もなく地上ともなれば、最終点検である。

 

 彼女達へ指示を出し、彼自身も携えた突撃銃の最終的な細部点検を始めた。

 

 弾倉を抜き、槓桿を引き、引き金を引く。カチンと撃発の空撃ちを認め、問題なく作動すると確信したムーアは──弾倉を再び叩き込んだ。

 

 槓桿を引き、薬室に初弾を装填。流れるような動作でボルトフォアードアシストをグローブが嵌められた片手の掌底で叩いて薬室の強制閉鎖を実施する。

 

「…指揮官。以前から気になっていたのですが…何故、アシストノブを?正規の教範には載っていませんが…」

 

「……なんでだろうな?…()()()()()()()()()()気がして…」

 

 ふとした疑問が湧いたラピが普段と同じく、間もなく開くだろう扉の前へ移動したムーアの横へ立ちつつ質問を述べる。

 

 思えばムーアと初めて会った時から──彼は突撃銃に弾薬を装填する際、ほぼ必ず同じ動作を実施している。

 

 しかし彼の行動と動作はラピが知る限り、いずれの教範にも記載されていない流れだ。

 

 ムーアが独自に実施している癖なのか、とも思ったが──それにしては些か()()()()じみた意識からの行動らしい点が発言から伺えた。

 

 とはいえ、銃そのものの作動に支障を来たさなければ些末な疑問なのだろう。

 

 疑問を打ち消すラピの隣で彼はボディアーマーへ差していたサングラスを摘み上げ、テンプルを広げると両耳へ嵌めたヘッドセッドのハウジングの奥へ突っ込んで、耳に引っ掛けた。

 

 これで彼も準備完了である。

 

 徐々に上昇が緩むエレベーター。やがて上昇が停止した矢先、眼前の閉ざされていた扉が開け放たれる。

 

 それと同時にムーアとラピが安全装置を外した突撃銃を構えつつ外へ飛び出した。

 

 寒冷な空気が全身を包み込み、息が白く吐き出される中、彼と彼女──そして遅れて出てきたアニスとネオンも周囲の索敵を念入りに行う。

 

「──クリア」

 

「──了解」

 

 全員が四方へ向けて間断なく実施した索敵にもラプチャーは捉えられなかった。一先ずは安心である、と思った矢先──やや離れた場所からだろう銃声の残響が彼等の耳を擽った。

 

「──銃声?」

 

「──スカウティングでしょうか?」

 

「──いいえ、違うわ。エリシオンの火器の銃声じゃない」

 

 近くもなければ遠くもない地点から響いた連射で射撃されたのだろう銃声。それを聞き取った彼女達が顔を見合わせる。

 

 特にラピは自社で製造された火器の銃声や発射音には敏感だ。知識としてあるそれらとは異なる銃声に違和感を抱いたのだろう。綺麗な柳眉の根を寄せていた。

 

「…いずれにせよ、支援部隊の可能性が高い。ラピ、先導を頼む」

 

「ラジャー」

 

 エレベーターが到着したのは雪に覆われた市街地の外れだ。そして銃声が聞こえて来たのは郊外の白銀に輝く丘の向こうである。

 

 ラピが分隊の先頭へ立ち、携えた突撃銃の銃口を視線の先へ向けながら進み出すとムーアや彼女達も続いた。

 

 

 

 

 

「──うへへ〜!楽し〜!天国だ〜!!」

 

 銃声に続いての爆発音が雪原へ響き渡ると同時に狂ったような歓喜の声音が木霊した。

 

「──もう…気持ち悪いな。なんでこんなにモゾモゾしてるの?」

 

 ギギギッと金属が擦れる音と共に半壊したラプチャーが破断されて残り少なくなった脚を使い、逃げようとするもその上から細い脚が振り下ろされた。踏み付けられたラプチャーの点滅する核の間近へ散弾銃の銃口が向けられ、立て続けに引き金が引かれる。

 

 ──その光景を雪が覆った丘の頂上から伺うカウンターズ一行はどんな反応をすれば良いのか判断に困った。

 

「…一応、聞いておくが…スカウティングか?」

 

「いいえ、違います」

 

「それは良かった。あんなに派手にぶっ放す斥候が居て良いのか不安になっていたところだ」

 

 ラピがムーアからの疑問に答えると、彼は皮肉混じりに返しつつ丘を下り始めた。その後に続く彼女達の存在は──丘の下で少数のラプチャーの群れを嬉々と破壊している3名のニケであろう者達も捉えた。

 

「──隊長、隊長!なんか来たよ!」

 

「──情報通り、ね…」

 

「──来たか」

 

 3名の色違いの瞳から注がれる視線を真正面から受け止めることとなったムーアは、指先を動かして外していた突撃銃の安全装置を掛けてみせる。

 

 それを見た彼女──濡羽色の髪を真紅のインナーカラーで所々を染めたニケが上下の瞼を彩ったアイシャドウの中でも存在感を放つ鮮やかな翠色の瞳でムーアの姿を捉える。

 

 一歩、また一歩と彼女は丘を降りて来る彼へ向かって歩き出し──やがて互いの距離が一歩程度のそれとなる。

 

「──カウンターズか?」

 

 問い掛けにムーアが頷きを返す。

 

「──お前達の支援をしろと言われて来た」

 

「…支援に感謝する。念の為に部隊名、そして名前を聞いても構わないか?」

 

「──あたし達はエキゾチック。そしてあたしはクロウだ。先に名前を名乗るのが礼儀じゃないか?」

 

 鴉のような髪の色──短く纏めたそれもあって耳を彩るピアスの存在をはっきり捉えられた。不快なのか、それとも別の理由か──仮に別の理由があるとすれば彼を()()()()かの如き物言いをしている。

 

 無造作に引っ掛けた上着のポケットから引き抜いた細い棒──それを小さな唇に銜えた彼女の眼前へムーアの片手が差し出された。

 

「──火は要るか?」

 

「…無煙煙草だ。火は要らない」

 

「そうか」

 

 噛み煙草の一種か、紙巻き煙草に酷似したスティック状に成形されたそれからニコチンを摂取するタイプの溶解性煙草の一種だろうか。いずれにせよ火が要らないと言われてしまうと、折角オイルライターを取り出した意味がない。

 

 ボディアーマーのポーチからソフトパックを引き摺り出し、銜えた一本の先端へ火を点けると紫煙を燻らせ、オイルライターの役目を彼は果たさせた。

 

「ムーアだ。宜しく頼む」

 

「…あぁ。()()()、ムーア」

 

 ほとんど半裸に近い格好のニケ──クロウがスティックを銜える唇を僅かに緩めつつ右手を差し出す。

 

 それを見た彼は──本来であれば突撃銃を握る手を離したりはしない。

 

 とはいえ先程、礼儀を問われたばかりだ。突撃銃の握把を左手で握り直し、銜え煙草のままムーアも右手を差し出した。

 

 大小の右手同士が握られ、上下に軽く振られる。

 

 サングラスを掛けた彼の眼差しは伺い知れない。しかしクロウは──何が面白いのか、ムーアを見上げつつ口角を緩めていた。

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