勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
分隊名はエキゾチック。公式には中央諜報管理室へ所属する分隊とのことだが──
「全員がアウターリム出身で、メンバーの全員が1級犯罪に関わってニケになったし、リーダーのクロウに至っては前までエンターヘブンのリーダーだったって噂があるのよ。普通、そんな子達を支援部隊として送る?
ネオンは、またアニスの神経質の発作が起きた、と思っているのかもしれないが、彼女を宥めるように傍らを歩きつつ背中を左手で軽く叩いている分隊指揮官のムーアもシュエンの意図を読み切れずにいる。
「所詮は
「…これじゃラプチャーよりも私達の首の方が心配だよ…」
──散々、喉笛は掻っ切ったが…あぁ、あれもエンターヘブンの連中だったか。
アニスを宥める傍ら、ムーアは埒もないことを思い出していた時──彼の右腕に絡み付く蛇のような細い腕が豊かな胸元へ太い腕を挟み込むかの如く抱き寄せた。
「──そんな酷いこと言わないで〜。私達が悪い奴等なのは確かだけど…更生のチャンスは与えてくれないと〜」
色素の薄い肌を晒したニケ──バイパーはおっとりとした甘えるような声を漏らしながら彼の右腕へ抱き付くとムーアを挟んだ向こう側にいるアニスへ自身の首筋を見るよう指差す。
「…これ見える?首のチョーカー。遠隔操作の爆弾なんだ」
「……趣味の良いアクセサリーだな」
「
「いや、皮肉だが?それと済まないが離れてくれ。銃が撃てないと困る」
「ほら、指揮官様の邪魔しないで。指揮官様から離れなさいよ…!」
また妙な呼び方が増えたことに今更どうこうは言わない彼だが、反対側にいるアニスがムーアをバイパーから引き剥がそうと左腕を抱いて引っ張り始めると流石に眉間へ皺を寄せた。
割りと本気で力を入れているのだろうアニスの腕に引かれる形で彼はバイパーから離されることとなる。──若干、左腕、特に肩の辺りが痛いが大したことはない筈だ。
「──もう…意地悪」
「…それで?そのチョーカーが?」
「ちゃんと話を聞いてくれるんだ?ダーリンは優しいね。──この爆弾、私達全員に仕込まれてるの。そしてボタンはシュエンが持ってる」
生殺与奪を握られている、とバイパーは告げながら彼女自身が所属する分隊の面々へ視線を向ける。
やたらと
おそらくは導爆線のような仕組みだろう。ロープ状の代物だが、導火線と異なるのは芯薬そのものが爆薬である点だ。
軍事利用の側面から見れば、扉の強制解錠や大量の爆薬を同時かつほぼ一斉に起爆したい場合等にも用いられる。
彼女達の場合は──首へ巻き付けて、必要な際は首を
随分と趣味の良いアクセサリーもあったものだ。
「…でもその…アン、チェインド?それを持って来たらアークの為に働いた代償として爆弾を除去してくれるって〜!」
「そうそう!私達、頑張るから!あのラプチャーだか、ロブスターだか知らないけど一掃してあげる!」
無邪気なまま子犬のように飛び跳ねる──なんとも奇抜な設計、意匠の発射器を担いだ小柄なニケ、ジャッカルが嬉々として語る。
「…まぁ頼りにはしている。生憎と見ての通り、こっちの分隊も員数が少ない。戦力がたった4名だからな」
「…ダーリンを
「その通り。俺は人間で、対ラプチャーを前提にした戦闘では
継戦能力も基礎体力も間違いなく彼女達の方が上である。極端な言い方をしよう。
だというのに彼が第一線に立ち、彼女達と肩を並べられているのは──不思議で仕方ないのだが。
カウンターズとエキゾチック──なんとも妙な組み合わせとなった一行はやがてラプチャーの群れと遭遇した。
交戦へ突入したが、やはり北部の寒冷な気候がラプチャー達の部品の駆動へ支障を来たしているのか、他の地域の敵機と比較的すると機動が遅くも感じられる。
いずれにせよ、彼等としては好都合なのだが──
「──やっぱり楽しい〜!いくら撃ちまくってもA.C.P.U.が来ない!」
「──もう…本当に気持ち悪いなぁ…」
──些かエキゾチックの彼女達は撃ち過ぎな気がしないでもない。
「…やめて。ラプチャーは全て破壊されたから。それ以上は弾薬の無駄遣いよ」
「え〜?」
看過出来ないとラピが射撃の中止を促すとジャッカルは不満を露わにするも直ぐに独特な意匠の発射器を肩へ担ぎ直し、引き金から指を離した。
「あ、そう?ごめん♡──でも、あと1発だけ撃つね〜。こいつが私のペディキュアをダメにしたから」
言うが早いか、バイパーが足元に転がっている赤い単眼から光が失われた敵機へ散弾銃の銃口を向けると引き金を引いた。比較的、至近距離からの発砲となり、ラプチャーの機体そのものがバラバラに粉砕されてしまう。
少々、あのラプチャーに同情すら抱きそうな光景だった。
「…混沌のカオスですね」
「ネオン、混沌に混沌を混ぜないでくれ。というか…ペディキュア…分かる物なのか?」
思わずムーアはバイパーが履いている靴を見下ろす。やはり爪先の状態は外から見ても分からない。どうやってペディキュアがダメになったのか分かったのかと彼は埒もない疑問を抱いた。
「…やっぱりアークに帰した方が良かったんじゃない?犯罪者でしょ?テロリストだったって噂もあるし──」
「──
「……なに?」
アニスが指揮官であるムーアへ意見を具申した瞬間、クロウが反応を見せる。短機関銃を両腕にぶら下げた彼女が雪上へ転がる敵機の残骸を蹴り飛ばしつつアニスと、その傍らに立つムーアへ歩み寄った。
「──旧時代には弱小国の独立運動家を卑下する名前として使われていた」
「…或いは国内外に於ける反体制派や反政府主義者、それか無政府主義者、宗教の過激な信徒等へ貼り付けられるレッテルを言うのであれば…まぁその通りだ」
「…へぇ…詳しいんだな」
「一般教養だろう」
気負うこともなくムーアは淡々と述べる。それへクロウは意外な様子を見せた。
「まずそもそもの話として…利害が発生し、対立する個人や団体・組織の行動をテロリズム呼ばわりするのは、関係が険悪という証明に過ぎない。流動的、相対的な呼び方だろうな。将来的には──エンターヘブンの思想が正しかった、と子供達が教えられる可能性はゼロではない」
「柔軟な発想だな。少し意外にも思える。軍人じゃなかったか?」
「職業軍人であることに間違いはない。だが…軍人として言うのであれば、テロリズムにはどうも賛同は難しいな。ついでに個人的なことを言えば、少なくとも俺の趣味ではない」
淡々とした口調を崩さない彼が掛けるサングラス──その下の瞳がどうなっているのかクロウは無性に知りたくなる。目は口ほどに物を言うのだ。
「…その通り。ただ罪のない人達を虐殺して、言い訳を並べてるだけじゃないの?」
「──罪のない人?誰のことだ?」
「あなた達にやられたアークの市民達のことよ」
話が盛り上がって来るが、今の内に不平不満は吐き出させてしまおうと考えたのか、ムーアは暫く傍観するようだ。
その証拠にボディアーマーのポーチから引き摺り出したソフトパックを軽く振り、飛び出た一本の煙草を銜えている。
「──10代、20代の女子供を
オイルライターの蓋が開く音が響き渡る。思わずクロウの視線が彼へ向けられるも──彼は火を点けようとする動きを一瞬だが止めていた。
その姿を目聡く捉えた彼女は確信を抱く。──同類だ、と。
「──アニス。聞かない方が良いわ。…あなたの言う通り、殺人鬼の言い訳なだけだから」
「
煙草の先端を火で炙り、紫煙を燻らせた彼がオイルライターをポーチへ仕舞う最中、無煙煙草の細いスティックを銜えるクロウがムーアを顎でしゃくる。
「──前哨基地で
「──あなた…!!」
クロウが何故、ムーアを指したのか分からなかったアニスだが、その意図を察した途端、彼女は亜麻色の瞳を吊り上げながら詰め寄ろうとする。
──それを制したのはアニスの眼前へ飛び出した彼の片腕だった。
「指揮官様…!」
「…アニス、止めろ」
「でも…!」
「──命令、だ」
「……ッ……了解……」
舌打ちを一発響かせたアニスが後ろへ下がる。それを見送ったムーアはクロウに向き直った。
「部下が失礼した」
「いや、気にしちゃいない」
「それは良かった。──念の為に訂正しておくが、アレは
「あぁ…
「……前進するぞ。エキゾチックが先頭で頼む」
先を歩け、と指示されたクロウは肩を竦め、やがてバイパーやジャッカルを引き連れてカウンターズの前方を進み始めた。
「……
間違いなく彼は、クロウが言うところの
皆さん、覚えておいででしょうか。
第5章第9話の後編でムーアがイングリッドに鼻で笑いながら放った一言。
「…これはこれは……10代から20代の少女や女性へ手術を実施し、ニケへ生まれ変わらせる会社のCEOとは思えない発言だ」