勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第4話

 

 

「──あああ、ありありありがが!!」

 

「──あぁ…うん…分かったから大人しく包まってろ」

 

 ガチガチと歯の根を鳴らすジャッカルへ脱ぎ捨ててから飛び込んだ防寒戦闘服の上着を投げ渡したムーアは纏っていたシャツを脱いだ。外気は氷点下である。早めに着替えなければ低体温症と凍傷待ったなしだ。

 

 ジャッカルが踏み抜いて割れた氷の中へ飛び込む際、邪魔な背嚢やヘルメット、ボディアーマーに上着はその場へ素早く落として救助へ当たったは良いが──水中で彼女を抱えてなんとか引き上げると全身をナイフで突き刺すような寒さを遅れて感じ取っている真っ最中である。

 

 シャツを絞り、水気を切り取ると背嚢から取り出したタオルで上半身の水滴を念入りに拭って行く。

 

「…3分待ってくれ」

 

「──ラジャー」

 

「え!?ちょっ…()()!?」

 

「あ、じゃあ師匠。手伝い──」

 

「恥じらいを持ちなさいよ!指揮官様もね!!」

 

 この流れに覚えがあったラピは頷き、そして顔を赤らめたアニスがその場で回れ右。背中を向けるが、ネオンは彼の着替えを手伝おうと──進み出す寸前、隣のアニスによって無理矢理、背中を向けさせられてしまう。

 

 ──別にそこまで気を遣う必要はないのだが。

 

 ムーアがブーツを脱ぎ、ベルトを緩め、戦闘服のパンツと下着を下ろす最中──彼は二対の視線が向けられていることに気が付くも、別に見られて困る身体でもない為、さっさと着替えを済ませて行った。

 

「──へぇ…ダーリンってば…想像してたより…」

 

 やたら猫撫で声も漏れ聞こえて来たが、気にしないのが一番だ。

 

 やがて予備として持って来た防寒戦闘服へ身を包み、ブーツの靴紐もしっかり結んだ彼はボディアーマーや背嚢を身に付け始める。

 

「──何故、助けた?」

 

「──()()()()()()()()()()のか?」

 

 雪上へ落としていた突撃銃を握り、細部点検を手早く済ませるムーアへクロウが問い掛ける。それに彼は逆に問を返して黙らせようとした──が、それで黙る殊勝な性格の持ち主ではないと改めて思い出したのか溜め息を吐き出した。

 

「…この中で泳げる者はおそらく俺だけだろう。幸いにもニケを担ぎ上げられるだけの筋力は持っている。彼女──ジャッカルをここで失うと戦力が激減する。なら多少の無茶をしても助けた方が良いと判断した。こう言えば満足か?」

 

「こ、ここここんなことををしししてくくれれたた()()はははじっ初め…てて…!!あ、あありありがが…!!」

 

「……礼は良いから少し動いた方が良いぞ」

 

 身体を動かさないと余計に寒くなる──のはニケも同じかは知らないが。彼は巻き直したレッグホルスターから拳銃を引き抜き、スライドを引いて銃身内へ息を吹き掛けると水滴を弾き出した。

 

「ジャッカル。感動することないぞ。──こんなのはアメとムチに過ぎないから。一度、戦闘が始まればお前を弾除けに使う癖に、安全な時にはお前を思い遣るフリをしてくだらない親切を施す偽善だ」

 

「…与えるアメが随分と命懸けだと思うのは俺だけか?」

 

 氷が張るほどの冷水の中へ飛び込んだのだ。下手をすれば心臓に異常を起こしている。まぁ結局はそうはならなかったのだが。

 

「──八つ当たりにも程がありますよね。素直に御礼も言えないんですか?」

 

「──そうよね。酷い扱いをしたら文句を言われて、優しくしてあげても文句を言われる。どの道言われるなら酷い扱いをした方が良くない?」

 

「……いや、別に礼や見返りが欲しくてした訳じゃなし…それに()()()()使()()()は俺の趣味ではないんだが…」

 

 まだそこまで性根は腐っていないのだが──などと彼は考えつつサングラスを掛けると、ヘッドセットやヘルメットを身に付けた。

 

「──指揮官様はそう言うけど…たぶん、やることなすこと全部に文句しか言わないよ」

 

「お前達こそ、そんなに甘くて生きていけるのか?()()指揮官が少し優しくしてくれたからって、仲間にでもなったとでも思ってるようだが──まぁ、皆で死ぬほど苦労している点については仲間と言えるか」

 

「…なるほど、確かに」

 

 そういう捉え方も出来るか、とクロウの言葉を聞いた彼は思わず苦笑を漏らす。ボディアーマーのポーチからソフトパックを取り出して一本を銜えると、アニスが電子ライターを差し出す。

 

 礼を告げて、火を点けて貰うと気管や肺を通して全身へじんわりと熱が広がっていく感覚を覚えた彼は安堵の溜め息と紫煙を吐き出した。

 

「…アークに戻れば()()は喋る鉄屑になり、()()はその鉄屑が立てた功績で皆にチヤホヤされるヒーローになるんだぞ。──それが仲間だというならアークの総司令官とあたしも仲良しの仲間なんだろうな」

 

 生憎と彼はクロウの言う()()()()()()()記憶が皆無だ。しかしエリシオンのCEOや副司令官の一角に目を掛けられ、融通を利かせて貰っているというのがそれに当たるのならば──その通りなのだろう。

 

 それは兎も角として紫煙を燻らせる彼の近くでは亜麻色とリーフグリーンの瞳がクロウへ向かって睨む眼差しを送っている。

 

 果たしてどうするべきか──と悩み始めた矢先、その片割れである弟子が彼を見上げた。

 

「──師匠、ジャケット(上着)を奪いましょうか?」

 

「…ジャッカルに流れ弾を飛ばすな。構わない。──そろそろ前進しよう」

 

「…分かりました」

 

 肩を落とすネオンの背中を彼は軽く左手で叩くと、次いでエキゾチックに先頭へ立つよう促した。

 

 行軍を再開して暫く──主にネオンがクロウへ対しての()()を何度か敢行している。

 

 背後から近付いては何らかの報復を行うもその尽くがクロウに阻止されてしまう。

 

「──脛蹴りぃぃぃ!!」

 

 彼女の脛を狙って蹴りを加えようとしても、クロウが携える短機関銃を用いて一撃を防ぎ、逆にネオンの方が痛がっている様子を捉えながらムーアは溜め息を吐き出した。

 

「銃で防御するなんて卑怯です!」

 

「悪党にとって卑怯さは美徳だ」

 

「…覚えておいて下さいね、本当に復讐しますから…!ヒーローは諦めないのが美徳ですので…!」

 

「──ラプラスでも来たのかな?」

 

「──さぁ?……ん?」

 

 果てしなく続くかに見える雪原を歩き続けている時、不意に足元で微かな振動を感じたムーアが立ち止まる。堆積した雪が分厚い氷となった足元の下からだ。

 

 地震か──いや、違う。

 

「──皆、止まって」

 

 彼と同様に直下から感じられる振動を捉えたラピが分隊、そしてエキゾチックにその旨を伝える。

 

 クロウへ報復(ちょっかい)をかけていたネオンが、アニス、そしてエキゾチックの面々もそれを感じ取る中、彼は指先で携えた突撃銃の安全装置を外した。

 

「──ハイクラスのエネルギー反応。()()、まさかラプチャーなの?」

 

「えぇ、凄く勘の良いニケだこと」

 

「まぁ…褒めてくれてありがとう」

 

「…オペレーターがいないから索敵が遅れがちなのは仕方ないが……」

 

 次第に振動が大きくなる。いや、むしろ──近付いて来ている。

 

 バイパーとアニスの遣り取りを聞き流しながらムーアは安全装置を解除した突撃銃を構えた。その銃口が向けられる先には──表面へ亀裂が入り始める分厚い氷の地面がある。

 

「──エンカウンター!!」

 

 ラピの交戦の宣言が発せられた瞬間、砕けた氷の下からロード級だろうラプチャーが姿を現す。

 

 タイラント級では無かった点は幸いだが、程度の差があるだけで面倒事に変わりはない

 

 飛び出した分厚い氷を砕き、飛び出した敵機へ向けて攻撃が集中する。

 

 ガンガンと装甲へ何発も銃弾が撃ち込まれ、削り取られる最中、続けて擲弾と榴弾が叩き込まれる。

 

 炸裂した擲弾と榴弾の爆煙に飲まれた機体が大きく傾き、やがて地響きを奏でながら雪原へ倒れると、とどめの銃撃が一際激しく鳴り響いた。

 

「──撃ち方待て!!」

 

 彼が命じて間もなく全員が奏でる銃声が鳴り止んだ。場合によっては再び攻撃の必要があることから、()()ではなく、()()である。

 

 視線の先、約50mの位置で倒れたロード級の敵機からは──核の赤い光は失われている。撃破だ。

 

「……はぁ、はぁ……()()()()()?」

 

「「「───!!」」」

 

 ジャッカルが奇襲をやり過ごした安堵もあって思わず呟いた()()。その禁句にカウンターズの彼女達がいち早く反応を示す。

 

「…ジャッカル。戦闘の直後に、終わったの、は──」

 

「──指揮官!!」

 

 ラピが彼の名を呼ぶ。それは()()のニュアンスを多分に孕んだ叫びだ。

 

 途端に彼の背筋がゾクリと粟立つ。

 

 

 ──殺れ

 

 

 脳裏で聞き慣れた声を持つ()()が短く指示する。

 

 その場で背後を振り返り様、彼は突撃銃の銃口を向ける。光学照準器のレティクルへ捉えた1機のラプチャー。引き金を短く引き、3発の短連射を叩き込んだ瞬間──敵機から光線が放たれた。

 

 光芒の一閃が頬の近くを掠め、熱さを感じた矢先、背後からムーアは雪原の上へ押し倒されてしまう。

 

「──っ!?」

 

「──……っ……ふぅ……」

 

 背嚢ごと彼を押し倒した格好のまま誰かが安堵にも似た溜め息を発している。

 

 しかし彼の視線は前方に現れた敵機へ固定されていた。短連射の3発の内の1発が核を撃ち抜いたのだろう。動力を失って雪原へガクンと倒れる姿を認めた。

 

「…冗談じゃない…」

 

 あまり聞き慣れない声音──は、付き合いの短さからだろう。

 

 とはいえ何時間かの付き合いで誰の声かはムーアもはっきりと聞き分けられる。

 

「…庇ってくれて感謝する。そっちは大丈夫か?」

 

「…いや、大丈夫じゃないが。…お前…何をしているんだ」

 

「見て分からないか?…済まないが退いてくれ」

 

 彼女──クロウが彼の上から退けると、続けてムーアも起き上がる。突撃銃を構え直し、周囲を光学照準器越しに探れば──先程のロード級との戦闘中に隠れていた何体かのラプチャーが隙を見て現れたのだろう。機影が認められた。

 

「──掃討するぞ!分隊、俺に続け!!」

 

「──おい、何処へ行く」

 

 分隊の指揮を執りつつ新たに出現した敵機の掃討へ取り掛かろうとした瞬間、彼の腕を強く握って止めたのはクロウだ。

 

()()()指揮官の仕事か?」

 

「少なくとも俺にとってはそうだ」

 

「違う」

 

 クロウは力任せにムーアの腕を引く。その反動を利用して彼の前へ出るとぶら下げていた短機関銃を両手に握った。

 

「指揮官としてお前がやるべきことは──()()()()()()としてニケが人類の利益に反する行動をしないか監視することだ。()ならそれらしい行動をしろ。身の程も知らず、あたし達と同じ立場に立って、あたし達を思うフリは止めろ。──偽善者が」

 

 吐き捨てるような口調を残し、クロウが敵機の掃討へ突っ込む。その後ろ姿を見た彼は舌打ちを響かせた。

 

「もう…なんでアイツは憎まれ口ばっかり叩くかな…!」

 

「後にしろアニス。──掃討するぞ!ラピ!ネオンを連れて右へ行け!」

 

「ラジャー!」

 

 雪原に再び複数の銃声が朗々と響き渡った。幾許かの余韻を残し、降り積もった雪の中へ消えるかのように銃声がひとつひとつ消えていく。

 

 やがて雪原が静寂を取り戻した頃──何体もの敵機の残骸が新たに現れた。

 

 周囲に他の敵機の存在はない──それを確かに認めたラピは弾倉を脱き、残弾の点検を行っているムーアへ歩み寄る。

 

「──クリアです。氷の下から現れたラプチャーは全て片付けました」

 

「──了解。皆、良くやってくれた。戻ろう」

 

 ムーアも集まってきた3名全員に損害がないと認め、元の位置へ向かおうと踵を返す。

 

 やや強張った口調──それを聞いたラピは少しだけ歩調を早め、辿り着いた彼の真横へ寄り添った。

 

「──指揮官。さっきクロウが言ったことは忘れて下さい。アウトローは元々、あんな感じです」

 

 頭ひとつ分は高い位置にある彼の横顔を見上げ、ラピは言葉を重ねる。

 

「…生まれた時から壊れていて…その分、他の人間も壊れるべきだと信じているんです。だからいつも他人の()()を突いて回ります。口でも力でも」

 

「……そうか。だが……彼女の言い分も間違っている訳ではない。地上(ここ)では、俺は最弱の存在だ。キミ達がいなければ、とっくに死んでる。俺一人では何も出来ない」

 

 返された彼の言葉に──ラピは少しだけ顔を俯かせる。()()として数えた時、彼はあくまでも予備のそれだ。本分は分隊の指揮にある。直接の戦闘参加は少なくとも彼の任務には含まれない。それが()()なのだ。

 

「──()()()か」

 

 小さな呟きが真横に寄り添っているのもあり、ラピの聴覚を擽った。嘆息と共に漏れ出た呟き──その意味を噛み締めているかのようにも聞こえてしまう。

 

「──そりゃ…地上は私達の戦場だから…」

 

 ムーアを挟んだ反対側にアニスが、そしてネオンが寄り添う。不意の攻撃を受けた場合に備え、本来なら距離と間隔を取るよう彼は促すべきだが、今ばかりは彼女達の好きなようにさせようと決めたらしい。

 

 サングラス越しにアニスを見下ろすと亜麻色の瞳が向けられていた。

 

「…勿論、指揮官様にとっても地上は戦場かもしれないけど……本当の戦場は()()()なの」

 

 アニスがおもむろに真下の雪原を指差す。正確には──その遥か下に存在する人類最後の砦へ向けて。

 

「アークはあらゆる中傷と謀略が沸き立つ毒蛇の巣窟よ」

 

「……ドブネズミじゃなかったか?」

 

 いつぞやの軍需品製造工場──スノーホワイトから譲られた拳銃弾の解析の為に赴いた地上の道中でアニスが語った比喩を覚えていたらしく、ムーアが苦笑混じりに彼女をからかった。

 

「それは今はどうでもいいでしょ!……とにかく、指揮官様は私達を守ろうと、えっと、その……いっぱい、頑張ってくれてるでしょう…?」

 

「…キミ達の指揮官(上官)だ。多少の無理と無茶、努力はせんと」

 

「…それだけじゃないよ。前哨基地でも私達のこと気にかけてくれてるでしょう?」

 

 指揮官らしくない、とムーアは度々言われる機会が多い。実際、その通りだ。

 

 ラプチャーとの直接戦闘へ身を投じることは──この際、置いておくとしても最も顕著なのはニケへの接し方だ。

 

 ニケを一個の人間、或いは女性として扱う──これは他の指揮官では中々見受けられない行動だ。少なくとも猜疑心の塊であるアニスが、このような気安い態度で接する程度には心開かれている。

 

 

 ──キミ達が()()()()()ではなく、一個の人間らしい待遇を受けられるよう努力することは俺にも出来る。

 

 

 ふとアニスの脳裏へ蘇る記憶に新しいムーアの低い声音で紡がれた言葉。

 

 心が──暖かくなる。

 

「…あんなことも言ってくれたし、あれ以上、私達を思ってくれる人なんて他にいないわ」

 

 彼の言葉に嘘はないのだろう。混じり気なしに、彼という個人は吐露された()()()()に従ってここまで来た。来てしまった。良くも悪くも変わらずに。

 

 その在り様は一歩間違えれば自殺志願者か、狂人の類に他ならない。少なくとも現在のアークの方針には真っ向から対峙する思想だろう。或いは()()か。

 

 本来ならばそれを捨てるよう促さなければならない筈だ。

 

 しかし──その在り様を、どうしようもなく好ましく感じてしまっている自身を自覚しているアニスは、彼の前へ躍り出ると真正面から立ち止まったばかりのムーアを見上げた。

 

「──だから…あのアウトローが何を言おうが気にしないでね…!?胸を張って、我が道を貫くのよ!?」

 

「──そうですよ、師匠。私も傍で一緒に火力(我が道)を貫きますから!」

 

 ──いや、それは。

 

 場に似合わない激励なのではないか、とアニスは思わずネオンを見遣ったが──頭ひとつ分高い位置から、微かな漏れ出る吐息を捉える。

 

 ふっ、と安堵の色が濃い──笑みのそれ。

 

 再び見上げると、彼の口角が僅かに緩んでいた。

 

「……ありがとう」

 

「い、いいよ…当たり前のことを言っただけだし…。──ほ、ほら…早く行こう?」

 

 彼の左手へ両手を伸ばしたアニスが導くように前進を促す。しっかりと加減されたその強さに──ムーアは肩を軽く竦める。

 

 同時に左右から背負った背嚢が軽く叩かれた。

 




Q.闇堕ち√とかってあったりしますか?

A.というよりもこれまで何回もありました。一応は回避に成功しています。

Q.クロウとムーア大尉が手を組んだらどうなりますか?

A.そりゃまぁ人類とアークにとってはカタストロフィの始まりでしょうか?(知らんけど
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