勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
私は勿論、済ませました。
誰に投票したかは………まぁお察し下さい。
目が醒める。
相変わらずのやや狭い視界。右の眼窩へ埋め込まれていた義眼が吹き飛んでしまったと改めて察せられた彼は辟易の溜め息を小さく吐き出す。
仰向けとなって寝ていたのもあり、目が醒めて真っ先に狭くなった視界へ飛び込んで来たのはラプンツェルの寝顔だ。
整った顔立ちだ、とムーアは何気なしに考えつつ上体を起こしてみる。
幸いにも腹部や胸部に鋭い痛みは走らない。鈍く痛む程度には治ってくれたようだ。
とはいえ──煩わしさを感じないと言えば嘘になるのだが。
「──……お目覚めですか……?」
声が掛けられ、彼は視線を室内の隅へ向ける。
突撃銃を抱えながら先程まで眠っていたのだろう。ラピが目元を擦りつつ腰を上げ、彼へ静かに歩み寄ってきた。
「…お加減は?」
「全快とは言い難いが…これなら動いて問題はなさそうだ」
「…本当ですか?」
流石に彼も撃たれ、そして海へ落下した後だ。しかも部下達に迷惑を掛けている真っ最中である。自身の状態の申告に嘘を吐く趣味はない。
紅い瞳でジッと見詰めて来るラピへムーアは肯定の頷きを返した。
「…なら…良かったです」
「…迷惑を掛けて悪かった」
「いえ。…それよりも…ひとつだけ申し上げても宜しいですか?」
「…なんだ?」
改まる様子の彼女へ彼は濃い茶色の隻眼を向ける。眼差しの先では──ラピの眦が徐々に釣り上がる様子が見て取れる。何かしてしまっただろうか。ムーアが内心で少しばかり不安になった時、彼女の整った形の唇が言葉を紡いだ。
「──
ラピが何を指しているのか。それを問い返す程、彼は愚鈍ではない。
クロウに撃たれた際──正確にはその後、自身の命を引き換えに部下達を見逃すよう持ち掛けた取引だろう。口約束、とも思えるが──僅かな時間で彼はクロウと自身は似ていると理解していた。例え、口約束だったとしても彼女は守るだろう。卑怯さは美徳、とクロウはのたまわっていたが──ムーアは賭けに勝った。
彼はそれに満足しているが、ラピは、そしてアニスやネオンもだろうが内心ではいまだに多かれ少なかれ、程度の差こそあれ、ムーアの行動に対する
何故あのようなことをしたのか──その理由は分かっている。実に彼らしいとも思うが、それはそれだ。
彼女達の代表として、分隊のリーダーとして、ラピは放った苦言に怒りを滲ませながらムーアを見据える。
「…済まない」
たった一言が彼が紡いだ返答だ。
それは素直な謝罪なのか、或いは──
おそらくは両方の意味を込めての返答なのだろう。
彼は決して変わらない。
そうあって欲しい、と願ったのはラピ自身である。或いは願いという名の
「…上着を脱いで下さい」
ムーアを促したラピがIFAKのポーチを握りながら彼の眼前へ進み出た。
素肌の上へ纏っていた防寒戦闘服の上着を彼が脱ぐと、彼女は厚い胸板に貼り付けたチェストシールをゆっくり剥がし、胸部に穿たれた傷跡の具合を確かめた。
驚くばかりだが、既に塞がりかけている。
治癒と回復力は常人のそれではないと知ってはいたが──まるでその光景は
チェストシールを剥がし、続いて適切な処置を終えたラピはムーアの顔へ両手を伸ばす。
顔の右半分を覆った包帯がゆっくりと解かれ──彼女の表情が僅かに曇る。
クロウの放った銃弾はムーアの眼窩に嵌められていた人工物質の義眼に当たることで弾道が逸れ、幸いにも彼は落命の危機を乗り越えられた。幸運か悪運か、そのどちらかはこの際どうでも良い。
切れた瞼の傷口も治りかけている。彼が隻眼となった原因、トーカティブとの一戦で突き刺さった破片を引き抜いた時に切れた瞼の傷跡は言われなければ気付かぬ程度に薄くしか残らなかったが──
「…これは…残りますね」
別に構わない、と言いたげに彼は肩を軽く竦めてみせた。
ラピは両手に嵌めていた手袋を脱ぐと、細い指先で彼の窪んだ瞼から眉へ掛けて一直線に続く傷跡をそっと撫でる。
眉の一部も銃弾が肌毎、抉り取ったのだろう。途中で寸断されている眉毛が証明している。
紅い瞳が揺れ動くラピは腰を上げるとムーアの背後へ回り込む。
新しい包帯で再び彼の窪んだ右眼を覆うように頭へ巻き付け、処置を行うと後頭部で結び付けた。
「──終わりました」
「…ありがとう…それと済まない」
感謝と謝罪を同時に告げた彼にラピは言葉を返さなかった。
その代わりに──トンと軽い衝撃がムーアの右肩に走る。
単眼視では上方60度、下方75度、鼻側60度、耳側に100度。これが人間の視界で捉えられる範囲だ。
義眼を失ったムーアは視界が狭まってしまい、それまで目視出来ていた右側の一部が捉え切れない。
その狭くなった世界だが、人間というのは別の器官を用いて失われた世界を取り戻す機能を有しているのだろう。
肌を通してラピの手触りの良い髪とガッデシアムで造られたとは思えない温かく柔らかい肌の感触を感じ取った。
額を右肩に埋めたのだろう、と彼は察した。
「……あまり…心配させないで下さい…」
吐息が素肌に吹き掛けられると同時に普段は玲瓏な声が、今ばかりは弱々しい響きを以て言葉が紡がれる。
同時に彼女の細い両腕が一回りは体格が優れた身体に回され、背後から緩く抱擁を受けた彼は──
「……済まん」
──もう一度だけ謝罪を返し、続けて回された彼女の手へ大きな右手の手の平を重ねた。
体力は概ね回復。負傷した箇所は──まだ完治には及ばないにせよ、動くことに支障はない。
生地の至る所に裂け目が走るボロボロのボディアーマーだが、予備のセラミックプレートを押し込んでみると案外、まだ使用は出来るらしい。
防寒戦闘服の上へそれを着用し、弾薬を込めた弾倉をポーチの中に納めた彼は背嚢を背負いながら家屋の外に出る。
雪に上空から差し込む太陽光が反射して眩しいが、遮るサングラスは無くなっている。我慢するしかないと改めて考えながら、普段とは異なり、首へ通したスリングベルトを
「──指揮官様。本当にもう動いても良いの?もっと休んだ方が良くない?」
「大丈夫だ。ちゃんと動ける」
前進を始め、真っ先に声を掛けてきたのはアニスだ。その亜麻色の瞳が不安の類で動揺しているのをムーアは見逃さず、頷きを返す。
しかしそれで彼女は安心する筈もない。不安と心配が次々に押し寄せて来ているのだろう。なにより彼は右脚をやや引き摺って歩いているのだ。
「…でも…こんなに寒いところなのに…」
「…アニスはどうして
寒々しい空気に包まれる中、アニスが不安を抱く言葉を紡いだ矢先、散弾銃の点検を進めるネオンが会話へ割って入った。
その途端、弾かれたようにアニスがネオンへ顔を向ける。
「──心配しまくりロボットって何よ!私はただ…!指揮官様が撃たれたから…っ!……もういいわ」
「アニス」
「警戒!」
分隊から離れ、単独で前に進み始めるアニスへラピが声を掛けるが、その行動の意味を彼女が返して来るとリーダーも口を閉ざすしかない。
「…どうして急に神経質になっちゃったんでしょう?」
散弾の装填を終えた散弾銃を携えたネオンがラピへ、そして続けてムーアに疑問を投げ掛けた。
「…こう言ってはなんですし、師匠には申し訳ないですけど…こんな風にケガするのも一度や二度のことじゃないですよね?」
「…まぁ…程度で言えば、むしろ軽い方だろう。なにせ普通に動けて、しかも戦える」
「…ですよね」
肩を竦めて見せた彼にネオンも頷きを返す。右脚を膝下から切断、右眼の喪失、そして左腕の欠損を経験しているムーアだ。それらに比べると大した負傷ではないと感じるのは──おそらく感覚が狂ってしまっているのだろうが、いずれにせよアニスが過敏な様子なのはネオンは不思議らしい。
「…そうですね…皆さんの中で最も感受性が豊かだからじゃないでしょうか」
自然にムーアの左隣へ立ったラプンツェルが聖杖を握りながら意見を口にする。
感受性が豊か──この場合、彼女は慣れない状況や環境に加え、ムーアの負傷が原因となり、アニスの神経が過敏となっている可能性を考えたが、ラピはその意見を左右へ頭を振って否定した。
「…それよりは不安になっているからだと思います」
「不安に、ですか?アニスが?」
リーフグリーンの瞳を眼鏡の下で瞬かせながらネオンが問うと、ラピが頷きを返す。
「──アニスはいつも他人を疑って警戒して来たのに…ちょっと油断した隙にまた裏切られて、そのせいで指揮官が命を失いかけたから。…いつもより不安になって、敏感になるのも無理はないと思うわ」
「…アニスのせいではないんだがな」
そして普段にも増して、彼の状態や顔色を伺う様子なのが気になった。
「…彼女は…傷付きやすい性格だ。そしてストレスを溜め込む」
前哨基地へ
暫くしてからやっと気付いてからはムーアも──時々は苦言を呈するが、あまり煩くは言わなくなり、備え付けの冷蔵庫の中身の大半が炭酸水尽くしになろうが受け入れることにした程だ。
現在進行形で過剰なストレスや責任によってアニスが苛まれている可能性は高い。
特に今朝までムーアは身動きも満足に取れなかったのだ。コミュニケーションが不足しているのは否めない。
移動しつつアニスと話をしようと考えた矢先──ムーアは機械仕掛けの左手で握る突撃銃の安全装置を外した。
「──何か来る」
濃い茶色の隻眼が細められ、アニスが向かった方角へ指向された時──亜麻色の髪を持つ人影が駆け足で戻って来る。
「──前方にラプチャー発見!!数は3機!!」
アニスが報告と同時に振り向いた矢先、前方から3筋の光線が飛んで来た。
敵機の存在を捉えたラピ、ネオンが携行する火器へ初弾を装填し、前へ進み出る。それに合わせムーアも突撃銃を握りながら──そして右脚をやや引き摺りながら対処と交戦の為に歩き出した。
しかしその様子を肩越しに振り向いたアニスが鋭い口調で押し止める。
「──指揮官様は下がっていて!!──エンカウンター!!」
交戦の宣言を発した彼女が続けて擲弾を撃ち込む。白銀の雪景色の中に似合わない炸裂と銃声が響き渡った。
──俺も戦えるんだ。
暗に、邪魔だ、と告げられた気がしたムーアは有り体に言えば少し傷付いた。感傷的な性格ではないとは考えているが──これは自身の負傷が彼女達へ負担を強いている事実に対する後ろめたさが原因なのだろう。
視線の先では部下達が戦っている。その背中を見詰めるしか出来ないことが──なにより辛い。
「──ブラザー」
不意にボディアーマーを纏った肩へ手を乗せられた軽い衝撃を彼は感じ取る。
肩越しに振り返れば、ラプンツェルが穏やかな笑みを浮かべていた。
「……あまり御自身を追い詰めないで下さい。誰もあなたを迷惑だなんて思っていませんから」
「…そうだと…良いんだがな」
彼女へ希望を込めた言葉を返すのが精一杯だった。
やがて敵機の全てが撃破されたのだろう。響き渡っていた銃声や擲弾の炸裂が鳴り止む。
急いで彼の下へ駆け戻る部下達の様子を遠目に見たムーアは、まず全員が無事である点を認めて安堵の溜め息を吐き出した。
「…それにしても…ラプンツェルがいてもラプチャーと遭遇するんだな」
「ふふっ。いくら私の髪にジャマー機能があっても移動する複数の人をカバーするには限界がありますから」
肩を竦めて見せるラプンツェルへ彼も致し方ないのだろうと察し、似た仕草を返した。
「──指揮官様、大丈夫?ケガはない?」
駆け戻って来た彼女達の中で真っ先にムーアを心配するのはアニスだ。普段なら──ラピがその役目を負っている頻度が多いというのに今日ばかりは過保護が過ぎる。
「大丈夫だ。問題ない」
「本当に大丈夫なの?嘘じゃないよね?少しでも痛かったら言ってね!そしたら──」
「──アニス」
興奮──いや、焦燥すら感じさせるアニスの口調。それを聞き取ったムーアの右手が持ち上がり、彼女の肩へ手の平が優しく置かれた。
「──本当に大丈夫だ。移動にも問題ない。それに一応は戦える」
なるべく落ち着いた声音で彼はアニスに言い聞かせる。
いつもよりひとつ足りない濃い茶色の瞳。それが真っ直ぐに自身を見詰めていると気付いた彼女は深々と安堵の溜め息を吐き出す。
「…それなら…良かった…」
消え入りそうな声と吐息を漏らしたアニスだが、そこから感じられる不安と焦燥は隠しようがない。
あまり長引かせてはならないと本能的に察したムーアは肩を優しく掴みつつ彼女へ尋ねる。
「…アニス。何がそんなに不安なんだ?」
「え?私が?不安?」
一瞬、呆けた様子のアニスだが、次の瞬間には胸辺りまで両手を翳し、何でもないというジェスチャーなのか左右へ頻りに手を振り始める。
「違うよ〜!なんともないから。ただ…ちょっと神経質になってただけで…。大丈夫だよ、うん!」
「──本当か?嘘は無しだぞ?」
アニスが明るい口調でムーアの疑問を一蹴する。しかしそれなりに長い付き合いだ。
先程、アニスが念入りに尋ねた時と同様の文言で彼が尋ねると──彼女は押し黙り、亜麻色の瞳を一瞬伏せた。
そして左右へ振っていた両手を──まるで何かに縋るかのような仕草でムーアへ伸ばし、彼が纏うボロボロのボディアーマーを緩く摘んだ。
「──指揮官様はさ…本当に…何とも思わないの?」
「…何をだ?」
言わんとする事柄が察せられず、ムーアは問い返す。すると俯いていたアニスが緩慢な動きで顔を上げ──彼に濁りすら見て取れる亜麻色の瞳を向けた。
「──今回は…人類の為じゃなく…
溜まっていた諸々の不安や焦燥──それらをゆっくりと言葉に乗せて吐き出すアニスの亜麻色の瞳からは普段の快活さが消え失せている。
纏うボディアーマー、彼女が摘んでいる破れた箇所の生地が強く握り締められた時、アニスは震える唇を開いた。
「──私達のこと…恨んだり…しないの?」
嗚呼、と彼は内心で納得の溜め息を漏らす。
アニスから漏れ出る不安や焦燥。それらは全てムーアが自身や仲間達へ対しての意識の変化がないか──有り体に言って恨みや敵愾心を抱かないか、という
「──アニス」
まだ痛みは治まらないが、彼は身を屈め、アニスと目線を合わせると彼女の柔らかい頬へ右手の手の平を宛てがう。
「…死にかけていた俺を助けてくれたのもニケだろう?恨みなどしない」
「でも──」
「──火力!!」
聞き覚えがありすぎる声と共に何かを叩く音が盛大に響き渡るのと同時だった。
背中から伝わる衝撃にアニスは思わず前方へ倒れかけてしまう。
咄嗟にムーアが彼女を抱き止めたのだが──
「──ッ!!?」
勢いが付き、飛び込む形に近かったアニスを抱き止めたのがまずかったらしい。胸元へ彼女を抱えた途端──ボディアーマーに無理矢理収めたセラミックプレートがムーアの胸部を容赦なく圧迫する。
胸板に空いた銃創は塞がり掛けているのだが、その内部の肋骨はいまだ治り切っていないのである。
途端に激痛が全身を蝕み、彼は抱き止めたアニスを腕の中から思わず解放すると背中を向けて、深呼吸を繰り返し始める。
「…大丈夫ですかブラザー?」
「…指揮官…?」
「…だ、大…丈夫…」
脂汗が滴り始めた様子のムーアを心配し、ラプンツェルとラピが左右から彼の状態を伺うが──意識は保っているので問題はないのだろう。いや、激痛が走っている為、問題は大有りなのだが。
「なんで急に叩くのよ!!」
「心配しまくりロボットよ!立ち去れ!!これも全て火力が足りないせいです!だから余計な心配をする心配しまくりロボットになっちゃうんですよ!!」
「だから心配しまくりロボットってなに!?」
悶絶の真っ最中である彼の背後ではアニスとネオンの第何次になるか分からない衝突が勃発している。
自身の弟子の独特なネーミングセンスには脱帽するしかない、と痛みが徐々に引き始めた師匠はやっとの思いで姿勢を元に戻すや否や、取り出したソフトパックを振って煙草を銜える。
「それに不安になってなんか……!!」
「…ゲホッ…不安にはなってるだろう?」
「──ッ…指揮官様…」
なんとか姿勢を元に戻したが、表情が強張っている感覚を彼は捉える。とはいえ振り向いた先にいたアニスは余裕がないのか気付く様子がない。
「…クロウはクロウ。アニスはアニス。
──別に恨んじゃいない。
その言葉だけは内心に仕舞い込んだ彼はオイルライターで銜えた煙草へ火を点ける。
「…キミは俺の大切な部下の一人だ。今までも、今も、そしてこれからも。それは絶対に変わらない」
ゆっくりと紫煙を燻らせ、普段と変わらぬ声音のムーアの姿を見ると──不思議なことにアニスの不安や焦燥が霧散する。
思わず──安堵の溜め息が深々と漏れ出た。
「──……ありがとう、指揮官様」
気にするな。そう言わんばかりに彼が肩を軽く竦める。その仕草に僅かな苦笑がアニスの表情へ浮かぶ。
「──だからさっさと元のアニスに戻って下さい!!さっさと
「あぁ、もう!本当にうるさいなぁ!!」
「戻った!師匠!アニスが元に戻りましたよ!」
「まったくもう…ネオンは…」
悪態を吐くアニスだが──これも全て元気付けようとしてくれたことは察している。やや行動は暴力的であったにせよだ。
彼に対する同様の感謝をアニスが抱いた時、ラピはムーアへ目配せする。
痛みも引いたらしい。彼が頷くと、彼女も頷きを返して彼女達に視線を向けた。
「──じゃあ行きましょう。一箇所に長く留まるのは危険です」
「そうだな。…さっきの交戦でラプチャーが寄ってくる可能性もある」
「わぁ…ラピは本当に、何処まで行ってもラピですね」
「そうね…ラピは変わらないわね。まぁ、そこがラピの良いところだけど」
「…同感だ」
「…もう行きますよ。皆も口だけじゃなく、足を動かして」
「はいは──って、ちょっと指揮官様!」
分隊を纏めるリーダーに促され、進み始めようとした瞬間、アニスは被っていた帽子がひょいと奪われたのを察する。
突然の暴挙をしでかしたのはアニスの隣で右脚を少し引き摺りながら歩き出したムーアだ。
右手を伸ばして奪い取った彼女のベレー帽の形を軽く整え、少量の白髪と黒髪が生えた頭へ乗せてみた彼は──違和感が拭えないのか眉間に皺を寄せる。
「…なんか違う」
「それ私の帽子!指揮官様、返してよ!」
「…いや、何も被っていないと落ち着かんから…試しに…」
「指揮官様にその色は似合わないって!ラピの帽子の方が似合うでしょ!」
賑やかな様子のまま歩き始めた四者。背丈も服装も異なる彼と彼女達の後ろ姿を眺める金色の聖女は──微笑みを浮かべつつ呟く。
「…ふふっ。良いですね。やっぱりいいですね…仲間は」
懐かしさが込められた声音。そして遠ざかりつつあるムーアの後ろ姿に勿忘草色の瞳を向けた後、彼女も前へ進み始めた。
それはそうとサクラのイベントストーリーで『テトララインだけ一度もCEOの代替わりがない』という発言がありましたよね
…じゃあマスタングさんは何歳なんだ!!?