勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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度々登場する『テトラライン製の突撃銃』はルピーが使用している外見がAR-15系列っぽい奴になります(とはいえあれは“突撃銃”なのか…?突撃銃ってのはもっと…こう…


第4話

 

 

「──ではこちらにサインを……はい、ありがとうございます」

 

 出撃前日の夜。ムーアの居室のインターフォンが押された。カメラで確認すれば、エリシオン社のバッジを背広の襟へ付けた社員らしき女性が立っている。ニケ──だろうか。

 

 応対するとCEOであるイングリッドから届け物だとか。ODの合成樹脂コンテナが、続けてタッチペンと共に端末が手渡される。端末上へ自身の姓名を綴り、それを返せば慇懃な一礼の後に社員は立ち去った。

 

 さて、困ったのはムーアである。

 

 イングリッドと顔を合わせたのは数日前のシミュレーションルームへ挑む際の一回こっきりだ。交友があるとは世辞にも言えない人物から何が送られて来たのかと思わず警戒してしまう。

 

「…爆発物でも仕掛けて…それはないか」 

 

 中尉如きにエリシオンのCEOがそこまで手の込んだ仕掛けはしないはずだ。

 

 相変わらず広々とした──がらんどうの居室の床へコンテナを下ろし、彼は蓋を開けてみる。

 

 まずエリシオン社の社表が印字された封筒がある。それを摘んで中身を確認すれば手書きの便箋。

 

貴官の任務に役立てば幸いである

 

 酷く端的な短い一文だけが綴られていた。

 

 その封筒が置かれていた下へ目を落とすと──まず視界へ入るのはセラミックプレートが詰まっていない状態のボディアーマーだ。デジタルウッドランドパターンのような迷彩加工がされている。

 

 それを拾い上げて床へ置くとコンテナ内に防弾のセラミックプレートの存在を発見した。これも手に取るとボディアーマーの上へ。

 

 各種ポーチに背嚢、戦闘服、等々といずれもボディアーマーと同様の迷彩となり、ブーツのみが薄茶色の色合いをしている。

 

 こんな贈り物をされるほど自分とイングリッドは仲が良かっただろうか。

 

 首を傾げるムーアだが──眼前に並べられた装備品の全てが妙な懐かしさを覚えてしまう。

 

 手に取るのは始めてである筈なのに不思議なものだ。

 

 コンテナに入っているのはこれで全てだろうか。念の為に底をのぞき込むと──最後の贈り物の存在を発見した。

 

 一本のナイフが合成樹脂の(シース)へ納まっているのだ。拾い上げ、ハンドルを掴むと黒い刃を露わにする。

 

 全長は30cmほど、刃長が18cm程度だと彼は目測した。いわゆるファイティングナイフの一種だろう。

 

「…白兵戦でもしろと?」

 

 これがラプチャーに効くとは思えない。しかし何らかの役に立つと考えてイングリッドは送り付けて来たのだろう。

 

 そう解釈したムーアは明日からの作戦にこれらを使用すると決め、この日は早めに休む事とした。

 

 

 

 

 

「──はい、ありがとうございます。ではお気を付けて」

 

「──送迎ありがとうございます。そちらもお気を付けて」

 

 ニケ管理部へ所属する量産型ニケ達が地上へ上がるエレベーター前へ移動させて来た1台の車両。旧時代の合衆国の国軍やその同盟国等で広く採用されたハンヴィーと酷似した車両がムーアの眼前に停まる。

 

 降り立った彼女達が車内の中に詰め込まれた車載機関銃の弾薬も含めた予備弾薬、携行缶へ入った燃料、糧食の確認を求めた。間違いなく揃っていると認め、昨夜のエリシオンの社員から求められたように端末へ受領のサインを済ませる。

 

 その端末を受け取ったニケが同道した別の車両で戻って行くのを見送ると彼は眼前の車両へ目を向けた。

 

 ──この車両も妙に懐かしさを感じてしまう。

 

 ルーフ上へ設けられた銃座には防盾と共に大口径の重機関銃が据えられている。旧時代のラプチャー侵攻の際にも効果が認められたという事で人類の拠点が地下へ移っても尚も生産が続く重機関銃である。

 

 設計した人物はとうの昔に神の御下へ召されているが、その本人も驚くであろう程の活躍を過去から現在に掛けて続けているのは脅威の一言だ。

 

「…準備しながら待つか」

 

 集合時間とした6時までは30分の余裕がある。左手首の内側へ文字盤が来るように巻いた腕時計を見て時刻を確認した彼はクルマの後部座席側の扉を開き、事前に申請した通りに用意されたテトラライン製の突撃銃をシートから掴み上げた。

 

 その突撃銃は彼の希望通りの換装がされていた。銃本体の上部のレールには高度戦闘光学照準器(ACOG)、それが使用不能となった際の備えとして照星と照門。銃身を覆う被筒(ハンドガード)下部にもフォアグリップが取り付けられたそれである。

 

 突撃銃を吊るす負い紐(スリングベルト)を首から脇下へ通すと取り回しを確認する為、その場で一通りの射撃姿勢を取りながら身体へ馴染ませて行った。

 

 時折、突撃銃が排莢不良を発生させたと想定し、直ぐに右脚へ巻いたホルスターから拳銃を抜く一連の動作も確かめる。──とはいえ目的地に跋扈しているのは拳銃程度で太刀打ち出来る相手ではないのであまり意味のある練習ではないだろう。

 

 突撃銃を吊るしたままヘッドセットを付け、両耳がハウジングへしっかり収まるよう位置を調整すると、その上からイングリッドからの届け物である耳まで覆われるヘルメットを被った。頭部の重量だけで1.5kgはあるのだが、彼は特に煩わしさも感じさせず空弾倉へ太い銃弾を詰め始める。

 

「──あのぉ……?」

 

 ──その光景をずっと眺める他なく、居心地悪いまま佇んでいた人影がやっと口を開いた。

 

 彼と比較すれば小柄な体躯に似合わない大振りの散弾銃を肩から吊るしたセーラー服を思わせるそれを纏う眼鏡を掛けたニケであった。

 

「…その無視しないで頂けると…」

 

「…あぁ、いや…無視していた訳ではなくてな。そちらの分隊も出撃なのか?他の分隊員や指揮官は?」

 

 ガチャガチャと銃弾を弾倉へ詰め、5発毎に弾倉を手の平へ叩き付けて雷管の部分を揃えるムーアは声を掛けられてからやっと反応した。──この作業をすれば射撃中の装填不良が発生する確率が下がるのである。

 

「いえ、実は──」

 

 問われた彼女はムーアへ掻い摘んだ説明をするのだが──その説明に彼は怪訝な表情を浮かべたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「──初めまして。私はネオンです。今回の任務で当分隊へ合流することになりました。よろしくお願いします」

 

「…エリシオンのニケ?」

 

「…これは怪しいね。こんな時に増員だなんて」

 

「指揮官。何か聞いていませんか?」

 

「…俺もついさっき彼女から聞いたばかりでな。何がなんだか…」

 

 6時を迎える10分前に集合したラピとアニスへ挨拶と共に自己紹介をするニケ──ネオンを目にした彼女達は困惑の表情を浮かべている。

 

 ラピは彼へ問うのだが彼も先程、彼女本人から異動の話を聞かされたばかりなのだ。火を点けた煙草を銜えながら肩を竦める他ない。

 

「シフティー。何か聞いていない?」

 

〈──えっと…あっ。たった今、人事異動が発令されました〉

 

 こんな朝早くからオペレーターも御苦労な事だ、などと筋違いの気遣いを彼は心中で漏らしつつ紫煙を燻らせると視線を横に立っているネオンへ向けた。

 

 増員は──まぁ良いとして、このギリギリのタイミングでのこれは違和感があって仕方ない。

 

 この頃、疑り深くなっているのだろうアニスがネオンを見据え、正体を問うと彼女は暫く考え込んだ後──

 

「あっ!スパイだと思います!」

 

「……は?」

 

 笑顔で告げられたのは想像の斜め上へかっ飛びすぎの返答。アニスもどう反応すれば良いのか分からず口を半開きのまま目を点にしてしまう。尚、彼とラピも似たような反応を見せてしまった。

 

「社長…イングリッドさんからの命令はこうでした。“全力で手伝って、全てを報告するように”と。これってスパイですよね!?」

 

 ──スパイってなんだっけ?

 

 彼の脳裏にそのような疑問が生じたのも無理なかろう。

 

「…えっと…まぁ…そうだとは思うけど…」

 

 助けを求めるようにアニスが視線を向けてくるもムーアはそれから逃れようと斜め仰角へ顔を指向し、紫煙を緩く吐き出した。

 

「実は私、ずっとスパイとかやってみたかったんですよ!改めまして……指揮官!宜しくお願いします!スパイ任務、頑張りますね!」

 

「…頑張ってくれ。可愛いスパイさん」

 

 身長差のある彼へ向き直り、仰ぎ見ながら改めて挨拶されてもムーアは気の利いた反応が出来なかった。これでも精一杯であったらしい。

 

「……これ大丈夫なのかな……」

 

「………」

 

「……さぁ、そろそろだ。乗車」

 

 取り敢えず後の話は車内で、と彼は全員へ──予定より1名増えたが、彼女達へ乗車を促す。吸い終わった煙草を携帯灰皿へ放り込んでポケットへ収めると彼は運転席の扉を開けた。

 

「…って、俺が運転するのか…?」

 

 何故か自然と運転席へ座ってしまった事に今更ながら気付くも既に彼女達が助手席、後部座席に座り込み始めている。

 

「てっきり指揮官が運転すると仰るのかと…」

 

「……あぁ……」

 

 少し意外そうにラピが口にすると、彼も納得してしまう。

 

 彼自身、そう言いそうだと感じてしまった

 

 我ながら損な性格をしているのではないかと溜め息を吐き出してムーアは運転手となる。助手席にはアニスが、後部座席へラピとネオンが座り込んだ。

 

 エンジンを掛け、パーキングブレーキを解除。続けてシフトレバーの位置をDへ。

 

 踏み込んでいたフットブレーキを離せば、車体がゆっくりと前進し、エレベーターの中へ収まる。それから間もなくエレベーターが地上に向かって上昇を開始した。

 

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