勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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……この頃、遅くまでの残業が続いておりまして…一週間に1話しか更新出来ず、頂いたご感想すら満足にお返しも出来ずに大変申し訳なく思っております。

今回のイベントのホワイトメモリーにて垣間見えたゴッデス指揮官の背景──いや、まさか傭兵出身者だったとは思いもしませんでした(それならそうと早く


第12章
第1話


 

 

 

 

 

 スペアを貰っておいて良かった。

 

 イングリッドに足を向けて寝られないと、つくづく考えながら半袖のシャツを纏うムーアは洗面台の鏡へ映った自身の右眼の眼窩へと機械仕掛けの義眼を押し込んだ。

 

 負傷した際に脳へ本来は繋がっている視神経は彼の手で半分程が引き千切られている。その代わりを現在、担っているのは小さな接続端子だ。手術で取り付けられたそれが残っている視神経と結ばれているのである。

 

 義眼を嵌め込んだ途端にそれまで狭くて仕方なかった視野が回復する。念の為に彼は上下左右へ視線を向け、異常がないことを認めると安堵の溜め息を吐き出した。

 

「──指揮官様、大丈夫?」

 

「──あぁ、問題ない。ちゃんと見える」

 

 下手をすればまた手術であった可能性が高い。病院嫌いの彼としては助かったの一言だ。

 

 背後から気遣わしげに声を掛けてきたアニスへ異常はないと返しながらムーアは洗面台を離れ、指揮官室の──今や共用スペース一歩手前となりつつある室内へ戻ってきた。

 

「じゃあ、()()何本に見える?」

 

「4本」

 

 我が物顔でソファに腰掛け、炭酸水のボトルを傾けていたアニスが片手の指を立てて彼へ示す。

 

 ──人差し指と中指の2本しか立っていなかった。

 

「──指揮官様、今すぐ病院に行こっか」

 

「──えぇ。指揮官、ただいま手配しますのでお待ち下さい」

 

「……冗談だ。2本だろう?」

 

 ムーアなりに──むしろ隻眼かつ機械仕掛けの義眼を嵌めている彼だからこそ出来る冗談やブラックジョークの類をかましてみたのだが、どうやらウケなかったらしい。

 

 アニスが真剣な表情を浮かべ、続けてラピへ視線を向けると頼りになる分隊のリーダーが自身の携帯端末を取り出した程だ。

 

「もう…本当にびっくりしたんだからね?」

 

「…指揮官。お言葉ですが、笑えない冗談はお控え下さい。アニスが言う通り、本当だと受け取ってしまいます」

 

「………そんなにか?」

 

 冗談は不評であったようだ。ラピとアニスの両名から叱られる形となった彼は溜め息を吐き出すと何気なく顎を右手で擦る。

 

 前哨基地へ帰還して1時間も経っていない。ザラリとした無精髭の感触を手の平に覚えた。

 

「──師匠〜。地上へ行ってる間にお届け物があったみたいです〜」

 

 不意にネオンが小包を携えて指揮官室へ現れた。その両手に携えた小包が彼へ手渡される。

 

 何処の誰からの届け物か──伝票を見下ろすと、依頼主欄にはヤンの綴りを認めた。

 

 商人連合のヤンであろうが、念の為に慎重な手付きでムーアは小包を開けて行く。

 

 その中身は──

 

「……カミソリ?」

 

《──脅威の深剃りを実現!密接に配列された6枚刃が毛穴の奥に潜む髭まで根こそぎシェービング!古い角質も除去して夕方までスベスベの肌が続く!》

 

 何気なくアニスが指揮官室のテレビを点けると同時にCMが流れ始めた。画面へ横目を向けると、その商品と手元にあるヤンからの届け物が同じ物だと気付いた。

 

 新発売、だとCMは謳っているが──何故、こんな物を彼女は届けて来たのか。

 

 ふと小包の中に封筒を認める。それを拾い上げて中身を引き抜くと一枚の便箋が収められていた。

 

「…ふむ…」

 

「…なんて書かれているんですか?」

 

「…あぁ…掻い摘めば…予算確保の一件は覚えてるだろうが…改めての礼らしい」

 

 ネオンが問い掛けてくるとムーアは軽く肩を竦めてみせる。

 

 おそらく取り分としての収益を元手にそれを──手段や方法はいくつか思い付くが、何かしらの遣り方で増やしたのだろう。

 

 種も仕掛けもなく葉巻(220万)を灰へ変えた時はかなり詰められたが、それはそれとして改めての謝礼が送られてきた形だ。

 

 早速、有り難く使わせて貰おう。ちょうど良い具合に無精髭が生え揃っているのだ。剃り心地を確かめる好機である。

 

 ついでに着替えも済ませよう、とムーアはカミソリを片手にクローゼットへ歩み寄ると収納していた衣服を取り出してシャワー室に向かう。

 

 半ば以上、彼も忘れがちだが、この部屋──指揮官室は本来はムーアのプライベートスペースなのだ。どんな格好でいようと構わない──のだが先述の通り、共用スペース一歩手前の有り様である。

 

 この頃は彼も全裸でシャワー室に出入りすることはなくなった。()()()とも言えるのだが。

 

 シャワー室の扉が閉まるとムーアはブーツの固く結んでいた靴紐を緩め、拘束が解かれたかのような解放感を両足から感じつつ纏った半袖のシャツや戦闘服のパンツを脱いでいった。

 

 やがて全ての肌を晒し、義肢や義眼以外の人工物は首から下がる認識票だけの格好となり、カミソリを握ったままシャワーヘッドの真下へ移動すると壁に埋め込まれたパネルをタッチする。

 

 頭上から温水が降り注ぎ、全身に纏わり付く地上での任務で生じた汚れを洗い流す中──彼は何気なく眼前にある鏡で自身の顔を確認する。

 

「……酷い(ツラ)だな」

 

 今回の仕事は色々と盛り沢山だった。いや、盛り沢山でなかった任務の方が珍しいだろう。

 

 黒い無精髭が口周りや顎周りに生え揃い、もみあげと繋がってしまっている。これはこれで野性味が溢れ、少し整えれば見栄え良く──いや、なるにはなるのだろうが彼の場合は強面に拍車が掛かっているだけである。

 

 それはそれとして右眼の瞼から眉へ掛けて生じた負傷は完治した。続けて鏡に映し出された胸板へ視線を移す。心臓を狙って穿たれた銃創の痕跡のみが残り、肌は完全に塞がっている。

 

 右脚に突き刺さった敵弾の破片での負傷は──もう少し治るのに時間は掛かりそうだ。まだ痛みが少しだけ残っている。とはいえ、それだけだ。明日か明後日には走り回れるだろう。

 

「……頑丈で良かった」

 

 シェービングクリームを顎周り、口周りに塗り込みつつ彼は呟いた。

 

 

 

 

 

「──そういえば指揮官様って怪我ばっかりしてるけど…なんか変じゃない?」

 

「──変って…師匠が怪我をしても戦うのをやめない所ですか?今更じゃないですか?」

 

 数日ぶり、とはいえ安心できるスペースで口にする炭酸水は格別だ。

 

 ソファに我が物顔で腰掛けるアニスは何気なく分隊の仲間達へ我等が指揮官であるムーアの奇妙な点を抽象的な表現で問い掛ける。

 

 指揮官室の片隅へいつの間にか設けられていたマガジンラック──()()が持ち込んだそれへ差していた雑誌を引き抜いたネオンがソファに腰掛けながら応じる。

 

 するとアニスは左右へ首を振った。

 

「違う違う。いやまぁ…違くはないけど…。そうじゃなくて、指揮官様って右脚、右眼、左腕も失くす大怪我してるでしょ?」

 

「えぇ、そうですけど…」

 

「…そして入院もしてるじゃない。なのに──お見舞いに来る人とか家族の話って聞いたことある?」

 

 アニスが特に意味もなく問い掛けると──ネオンはリーフグリーンの瞳を細め、眉間へ僅かに皺を寄せて考え込んだ。

 

「…聞き覚えがないですね。そういえば……」

 

「でしょ?…なんでかなぁ、と思って…」

 

「師匠が敢えて伝えていない、とかは?」

 

「…あ〜…なんかありそう…」

 

 ムーアは基本的に自身のことは無頓着な性格だ。如実に現れているのは、やはり任務中に重傷を負ってもそれほど問題視はせず──戦闘へ支障が発生する、等の問題視こそするが知っての通り、義肢が取り付けられれば直ぐに復帰へ向けて物心両面の準備を始める程だ。

 

 なにより入院と言っても2週間足らずで退院する人間である。これまでも長期間に渡って病院の世話とはならず、早々の退院である為に彼も家族や知人の類へ連絡を怠っている可能性をアニスやネオンは抱いた。

 

 

 

 ──指揮官こそ休暇なのですから少し息抜きに出掛けられては?

 

 ──…息抜きか…。

 

 ──はい。例えばご実家に帰省などでしょうか。

 

 ──…実家…。

 

 

 彼女達の他愛もない会話を聞いていたラピは記憶システムの中へ保存されているムーアとの遣り取りを不意に思い出す。

 

 1ヶ月間の休暇を与えられていた時期だった。

 

 その際、彼女が何気なく放った一言に──彼は苦虫を何匹も噛み潰したかの如く、眉間へ深い縦皺を何本も刻み付けていた。

 

 てっきり実家や家族に関する話題はムーアにとっては禁句であり、不快だった──と当時のラピは考えていたが、付き合いが深くなった現在ではその解釈が誤りであったと今更気が付いた。

 

 あれは不快、という表情ではない。

 

 むしろ、なんと言えば良いのか。表現は難しいが、もしかすると──

 

「…記憶を辿っていた…?」

 

 ムーアがどのような家庭環境で育ったのか、どのような少年時代を過ごし、どのような親が、家族が居たのかはラピや彼女達は知らない。彼がその手の話を口にしないのが原因だが──それにしては妙だ。

 

 ふとした拍子に家族のことを思い出し、懐かしむことは人間であれば多々あるだろう。

 

 特にこんな生活と仕事をしていれば尚更だ。

 

 それがムーアの場合、全くと言って良い程に()()()()の話が出ない。

 

 彼のことは信用も信頼もしている。

 

 しかしショウ・ムーアという一個の人間を形作ったバックボーン──その生い立ちが見えて来ない。

 

 それがラピの中で疑問へ変わるのに時間は要らなかった。

 

「──ちょ…!テレビ見て!」

 

「──…これってミシリスの本社ですよね…?」

 

 整った形の眉の根を寄せたラピが物思いに耽っていた矢先、アニスとネオンが驚いた様子で視線をテレビの画面へ向ける。

 

 それに反応したラピも紅い瞳を画面へ差し向けると──映し出されているのは現在の光景なのだろう。

 

 ミシリス本社の前へ多くの人集りが生じ、大きな横断幕を掲げては群衆はコールを挙げている。

 

 曰く、メティスにNIMPHを。

 

 曰く、ニケにNIMPHを。

 

 曰く、ニケに統制を。

 

 曰く、ニケに自由意志とは何事か。

 

 曰く、アーク市民の安全を保証しろ。

 

 彼等、彼女等が大挙して集まり、群衆となった光景は──有り体に言えば迫力があった。

 

「…一体、何が起きてるの…?」

 

「…ここまで集まると…ちょっと怖いくらいですね」

 

「……………」

 

 彼女達が三者三様の反応を見せる中、シャワー室から響いていた水音が鳴り止む。

 

 中継映像がスタジオへ戻り、有識者とやらがコメントを始める頃に指揮官室へ長身の人影が戻って来た。

 

「……久しぶりにすっきりした。剃り心地も最高だった」

 

 生え揃っていた無精髭が綺麗さっぱり無くなったムーアである。

 

 全裸──ではない。戦闘服のパンツやブーツを履き、上体の肌や浮かび上がる隆々とした筋肉を晒し出した格好のまま僅かな白髪と黒髪が混ざった頭をフェイスタオルで拭きながら彼は戻って来た。

 

「……何かあったのか?」

 

 漂う空気が妙だと気付いたのだろう。ムーアが問い掛けると、アニスとネオンが簡潔に説明し、続けて彼の濃い茶色の双眸がテレビの画面へ向けられる。

 

「…なるほどな。ちょうどシュエン会長に聞きたかったこともあった。……連絡してみよう」

 

 特にエキゾチックの件に関しては──と彼は内心で呟いた。

 

 自身の負傷についてはどうでも良いが、部下達(彼女達)を危険に晒した点だけは容認出来ない。

 

 煙草を銜え、火を点けないまま彼は携帯端末を次々にタップする。

 

 どうやらシュエンと遣り取りをしているのだろう。

 

 その彼の眉間へ──次第に深い縦皺が何本も刻まれ始めた。

 

「……前哨基地(こっち)に来るそうだ」

 

 やがてムーアの口から溜め息混じりに告げられる言葉。()()、とは予想するまでもなく、彼女達は揃って訳が分からない様子で首を傾げるしかなかった。

 






ゲーム本編の指揮官もそうですが、生い立ちが空虚なのですよね。ニケ達との面談やキャラストでも()()に関する話題が極端…(いや、記憶がないのはアニスのキャラストでも判明しておりますが
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