勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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いやもう…残業残業で…嫌になります

先日に給料日を迎えましたが、1ヶ月間の残業時間がとんでもないことに……(まぁその分の給料は出ていましたが(手取りでゴニョゴニョ


第3話

 

 

「──入る前にひとつだけ約束して」

 

「──…内容によりますが…」

 

 わざわざ軍服へ着替えたムーアの姿はミシリス本社のビル内にある。上背があり、体格も優れ、強面の彼に軍服というユニフォーム(制服)は良く似合っている。

 

 シュエンの護衛役となるミハラとユニも同乗する高級車のシートへ腰掛け、辿り着いたのはミシリス本社の裏手だ。

 

 正面は知っての通り、デモ隊が占拠しているので出入りが不可能に近い。自身の会社であるのにも関わらず人目を忍んで出入りしなければならないのはシュエンとしては業腹なのだろう。終始、不機嫌さを隠そうともせず脚を組みつつ舌打ちをかましていたのが何よりの証拠だ。

 

 高級車から降り立ち、小柄なシュエンの後を追ってビルの中へ入るとムーアは軍帽を脱いで左脇へ挟んだ。そのままの格好でエレベーターに乗り込み──上階のフロア、その内のひとつの扉の前で立ち止まったシュエンが見上げて来ると彼は訝しみつつ先を促した。

 

「…中に入って、私があの子達に()()言おうがアンタは何も知らないフリをしてちょうだい。そして私の言う通りだと笑って頷きなさい」

 

「難しい注文を仰る。意図的に笑うのは不得意です」

 

 表情筋が上手く動かない類の人間である。意図しての作り笑い──それも話の流れを察すれば、彼女達に気付かれぬよう演じろ、というものだろう。これ以上ない程の無理難題だ。

 

 それをシュエンへ返せば、彼女は盛大な溜め息を吐き出し、上背のあるムーアを再び見上げると呆れた眼差しを向けた。

 

「…()()()()?」

 

「そんなに、です。……それと()()は努々、お忘れなきよう」

 

「…えぇ」

 

 苦虫を噛み潰したシュエンが渋々と頷きを返した。

 

 

 

 

 

 

 

「──……条件をいくつか付けてなら…協力しても構わない」

 

 約1時間前の指揮官室。そのソファへ腰掛けながらムーアは呟くと、ほとんど満足に吸えなかった煙草を卓上灰皿へ押し潰してしまう。

 

「…()()?」

 

 呼び捨てに加えて不遜な物言いは本来ならシュエンを激昂させるに充分だが、この時ばかりは彼女もその余裕すらなかったらしい。

 

 前向きな──しかし消極的でもある返答へ訝しみながら彼女は先を促そうとする。

 

「指揮官様!?」

 

 協力などすべきではない、と否定的な感情が多分に込められた声音でアニスが彼を呼ぶ。しかしムーアは片手を軽く挙げ、彼女を制すると改めてシュエンへ濃い茶色の瞳を向けた。

 

「──アークへラプチャーを引き寄せるなど正気の沙汰ではない。気でも触れたかと思う程だ」

 

「ヤラせだと言った筈よ。大丈夫、問題ない──」

 

「想定内が想定外の事態に変化した瞬間、計画に問題はない、支障はない、と言い切れるのか?」

 

 新しい煙草を銜え、オイルライターの火を点けながらムーアが低い声音で問い掛ける。どういう意味か、とシュエンが視線を向けて無言のまま尋ねると彼は肩を竦める。

 

「作戦や戦争の成否は事前準備で8割から9割が決まるとは言うが、残りの1割や2割は状況によって左右される。それが神の思し召しや采配と言われればそれまでだが…結局は終わってみなければ分からない。博打をやるようなものだ」

 

 決してそうはならないだろう──というのは希望に過ぎない。良くも悪くも現実とは、その希望や願望を軽々と覆してくれる。

 

 それが作戦や計画の最中に発生した場合、成否はどちらに傾くか分かったものではないだろう。いくら事前に準備したところで全てが終わるまでは誰も成否は分からない。分かるとすれば、おそらく彼が大嫌いな神とやらのみだ。

 

「俺は博打の類が苦手でな。まぁ嫌いではないんだが、ジャンケン(RPS)ですらまともに勝った記憶がほとんど無い程だ」

 

 基地要員の量産型ニケ(スタッフ)達とそれを実施する時──大概の場合は自販機のジュースを賭けてのそれだが、大敗したとしても懐が痛くならない程度の員数である時にしか挑まない。リスクを考え、事前に逃げ道を考えているのだ、とムーアは例え話を口にする。

 

「…作戦中、仮に何かしらの不具合やらが発生した際のバックアップは考えているか?」

 

メティス(あの子達)にそんなものは必要ないわ」

 

「…どうだか。バッテリーが切れて行き倒れになっていたからな。必要ない、と言うのは好意的な意味での期待と信頼だと解釈するが…」

 

 紫煙を燻らせながらムーアはシュエンの言葉を鼻で嗤った。その不遜な態度にやっと彼女も蟀谷へ青筋を浮かべる程度には()()が出てきたらしい。

 

「…少なくとも()()()は消耗品ではないのだろう?ミシリス最強の看板を引っ提げる程だ。彼女達が被る可能性が高い損害を、そしてなによりミシリスが想定以上の損失を受けないようリスクは考えるべきだ」

 

「……()()()?」

 

「…仮に、の話だ。──万が一、引き寄せられたラプチャーにタイラント級が数機混ざっていた場合、もしくは交戦中にメティスの誰かが戦闘不能へ陥った場合……どうなると思う?」

 

 幾分かでもシュエンの頭は冷えている。主にムーアの不遜な物言いと態度を目の当たりにして。

 

 その冷えた頭で彼が淡々とした口調で述べた限りなく低いだろう可能性について考えを巡らせ──次第に表情へ陰りが生じる。

 

「──おそらく容易に突破されるだろう。そしてアークは目と鼻の先だ。となればアークが保有する全戦力が出撃するはめとなる。……そして何故、急にラプチャーが大挙して押し寄せて来たのか、と調査が始まるのは確実だ」

 

 ミシリスが──いや、シュエンが独断で計画し、実施したと直ぐに判明するだろう。そうなった場合、果たしてどうなるのかは──

 

「──旧時代の中世よろしく魔女狩りも真っ青な事態となるだろうな。どうなるかは……言う必要はないようで何よりだ」

 

 成功よりも失敗となった際のリスクを第一に考えろ。自分が想像出来るうる限りの地獄と最悪を想定しろ──そのように言われている気がしたのだろう。シュエンが苦虫を噛み潰したかの如く表情を歪ませた。

 

 規模や人員には雲泥の差が生じるが、ムーアもシュエンと同様の立場だ。

 

 前哨基地の司令官を、そして分隊の指揮官を兼任している。部下達を纏め上げ、前哨基地や分隊を運営する立場にある。

 

 その一点に於いて彼と彼女は同類と表現して差し支えはないだろう。

 

「無論、想定できるリスクを無視し、冒険的、投機的な決心や決断が必要な場合も確かに存在するが……今回の作戦目的はあくまでもメティス(彼女達)へ対する批判的な世論を緩和させることであろうと解釈できる。この解釈で合っているか?」

 

 不意に問われたシュエンは頷いた。であれば話は簡単──とは言わないが、正気を疑う作戦を実施する必要は存在しない。

 

「…彼女達がNIMPHが無くとも人類の味方であり続ける、もしくは指揮官の命令に従うという明らかな事実を公表することが目的となる。手段は様々あるだろうが…」

 

「…映像を撮影する方向で調整していたわ」

 

「なるほど。その方が臨場感もあるだろう。アークへラプチャーを引き寄せるまででもない」

 

「……ヒーローとしてメティスを復活させたいの」

 

「アーク市民の心胆を寒からしめて、か?やめておけ。何度も言うが失敗した後の方が問題だ」

 

 負うべきリスクという物も中には存在するが、回避出来るならそれに越したことは無い。半ばまで吸い終えた煙草の灰を卓上灰皿の縁へ叩き付けて落としながらムーアは告げる。

 

「…協力する条件はまさにそれだ。アークから遠く離れた位置で…そうさな。メティスの復帰戦とでも銘打って戦闘の様子を撮影すれば良い。その中で……どうせこの流れだと言い出しっぺの俺が指揮を執るんだろうが、人間の指示へ従う様子を撮影すればメティスへ対する脅威や恐怖といったマイナスのイメージは緩和される筈だ。少なくとも現在のようにビル前でシュプレヒコールの大合唱ぐらいはなくなる」

 

 メティスが侵食を受け、その治療として使われたアンチェインドの副作用──という表現が適切かは微妙だが、事実として彼女達の脳へ埋め込まれていたNIMPH(ナノマシン)は消失してしまった。覆せない事実である。

 

「他には…そうだな。俺の姿はカメラに映さんでくれ。英雄(ヒーロー)なんぞごめんだし、注目を集めたくない。面倒臭いからな。それと、もうひとつ。やるというなら分隊(カウンターズ)も同行させろ」

 

「……は?」

 

「万が一のバックアップだ。後方で支援をする程度で構わない」

 

 心底から面倒臭そうな声音を発しながら彼は条件を更に積み重ねる。これらを承諾するならば()()()()()()()()()()とムーアは言外に語った。

 

 他の適任者は──生憎とシュエンの脳裏には浮かばなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「──()()は守るわ」

 

「──なら良かった。守らなかった場合は……まぁこれは言わなくても良いでしょう」

 

 右眼に裂傷の傷痕が増えたムーアが双眸を細めながら肩を竦め、続けて軍服の胸ポケットを漁り、ソフトパックを取り出した。

 

「…ここは禁煙」

 

「……何処もかしこも禁煙、禁煙で嫌になる……その癖、酒には寛容的なのは意味が分からん」

 

 愛煙家は迫害される人種なのは旧時代末葉から変わらないらしい。煙草や喫煙も立派な人類の文化であろうに、と彼は落胆の溜め息を漏らしながらソフトパックを胸ポケットへ戻す。

 

「さぁ、入るわよ」

 

 1時間程前の不遜な口調や物言いは何処へ行ったのか。シュエンは肩を軽く竦めると彼に先んじて扉の前へ立ち、センサーが反応して横にそれがスライドすると室内へ足を踏み入れた。

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