勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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な、なんとか一話を書き上げられました…最近、命を削ってる気がしないでもない作者です(残業続き


第8話

 

 

 これを不幸か、或いは幸いと見るべきかは判断が別れるところだろう。

 

 オペレーターの真似事を続けていたシュエンからの報告によれば、カウンターズ、そしてメティスの一行が休息を取っている旧時代の防衛施設を目指し、ラプチャーの集団が接近しつつあるという。

 

 その数、ざっと200機。嬉しくもない情報を補足するとしたら敵兵力は増加しつつ進んでいるのだとか。

 

 ──まったく面倒臭いことになったモノだ。

 

 メティス、そしてカウンターズも軽微とはいえ、損傷を負っている。その修復と整備も済ませなければ応戦どころか身動きを満足に取ることも難しい。

 

「…メティス分隊で以前と同様に戦えるのはマクスウェルとドレイクか」

 

 仮にもミシリスが誇る最強分隊の看板を掲げているのだ。相応の戦力として数えて構わないだろう。

 

 火の点いた煙草を銜えるムーアは紫煙を燻らせながら壁へ背嚢を背負ったまま背中を預けつつ床に腰を下ろしていた。

 

 視線を左右へ巡らすと──部屋の隅でラプラスが両膝を立てたまま顔を埋め、その近くにドレイクが仰向けとなって眠っている姿がある。

 

 その反対側には隣り合って床へ腰掛けたアニスとネオンが壁へ背中を預けながら寝入っている様子が見て取れた。

 

 ラピは歩哨として外で警戒に当たっている。

 

 彼女のことだから問題はないと思うが──などと考えていた矢先、不意に部屋の扉が開いた。

 

「──ベビー。まだ起きてたんだ」

 

「──明日のことを考えなきゃならんからな」

 

「──あ、消さなくて良いよ」

 

 皆を起こさぬよう足音を立てず、そして声も潜めながら姿を見せたのはマクスウェルだ。

 

 銜えた煙草を消そうとする彼を制した後、彼女はムーアの右隣に歩み寄り、床へ腰を下ろすと──おもむろに彼の肩へ頭を預けて寄り掛かった。

 

「…どうした?」

 

「…少し…疲れちゃっただけ」

 

「…そうか」

 

 メンタル的な意味での疲労だろうと彼は察しつつ、右手で抱えていた突撃銃を然りげなく左手へ移す。おそらく暴発はないだろうが、念の為である。

 

「…ごめん」

 

「何がだ?ラプラスもそうだが、キミが謝るような()()()()をやった記憶は生憎とないが?」

 

「本気でそう思ってるなら…ベビーは優しいどころか鈍感」

 

「…そうか?」

 

「そうだよ。優しすぎるのも鈍すぎるのも人を傷付けちゃうんだからね」

 

「なるほど。人付き合いが苦手でな。後学の為に覚えておこう」

 

 右肩へ頭を預けたマクスウェルが微かに喉の奥から笑いを漏らし、続けて彼の肩へオレンジ色の髪を、そして左耳に付けたピアスを擦り付ける。ターコイズブルーの瞳を閉じたまま彼女は小さな溜め息を吐き出した。

 

「…本当にごめん。巻き込んじゃって…」

 

「謝るな。俺は俺の意志で今回の作戦に同意したんだ。謝られたら立つ瀬がなくなる」

 

 ──本当に優しいね。

 

 瞳を閉じたまま彼女は大きく深呼吸をひとつ漏らし、おずおずと彼の右手を探ったかと思えば、触れた先にある手を指先で絡める。

 

「…もう少しだけこのままでいさせて。吸い終わるまでで良いから」

 

 マクスウェルの──懇願にも似た言葉へムーアは小さな頷きを無言のまま返す。

 

 器用に彼は左腕へ突撃銃を抱えた格好で纏うボディアーマーのポーチを左手で漁る。

 

 やがて取り出したソフトパックを軽く振り、新しい煙草を銜えて引き抜くや否や、短くなった煙草の火種を移して紫煙を燻らせる。

 

 何本を吸うまで、と明確な基準を言われなかったのだ。ならば喫煙時間が終わるまでと解釈しても良いだろう。

 

 慰めて欲しいのか、それとも寄り掛かりたい気分なのか──いずれにせよ時間が必要だろうと判断したムーアは立て続けに一本、二本と煙草を何本も可能な限り、ゆっくりと吸って紫煙を堪能する。

 

 ちょうど五本目の煙草を銜え、火種を移した矢先のことだ。

 

 再び部屋の扉が不意に開き、見慣れた人影が室内へ滑り込んで来た。

 

「──指揮官。夜分遅くに済みません。宜しいでしょうか?」

 

「──あぁ、ラピ。歩哨の交代か?…俺が交代するから少し待ってくれ」

 

 ──残念。

 

 タイムアップだと察したマクスウェルが名残惜しくムーアへ預けていた頭を起こし、立ち上がる彼の邪魔をしないよう身を引く。

 

 ヘルメットを被り直す彼は頭ひとつ分は低い位置にある優秀な部下を見下ろしながら携えた突撃銃の弾倉を抜き、残弾を確認するが──ラピは頭を左右へ振った。

 

「いえ。実は巡回もしたのですが…その途中で…御同行願えますか?」

 

 何かあったのだろう。或いは何かを見付けたか。

 

 同行を願う彼女へ頷きを返したムーアは横目にマクスウェルを窺う。

 

 その視線に気付いたマクスウェルが僅かな苦笑を顔へ浮かべ、行ってらっしゃいと言わんばかりにヒラヒラと手を軽く振って送り出した。

 

 部屋を抜け出たラピが彼を先導する。埃っぽい廊下に二名分の足音が響く中、彼女は胸の下へ吊るしていたライトを握って点灯する。

 

「足下、気を付けて下さい」

 

「ありがとう」

 

 暗視装置が無くともある程度は夜目は利くが、ここは素直に彼女の厚意をムーアは受け入れる。

 

 やがて廊下の途中にある破砕孔──何らかの攻撃を受けたのだろう大きな穴から屋外へ出る。

 

 携えた突撃銃を握り直す彼を導くラピはやがて立ち止まった。

 

「──こちらです。どうやら弾薬庫のようでして…」

 

 地下へ続く階段が設けられた弾薬庫。その階段を降り、半分ほど開いている分厚い扉の奥へ身を滑り込ませるとラピが握るライトの光が内部を照らし出した。

 

「……随分とまぁ……」

 

 蜘蛛の巣があちこちに張られ、細かい埃が舞う空間の中に規則正しく鎮座するのは155mm──榴弾砲の砲弾だ。先端部には揚弾栓が取り付けられたまま放置されている。おそらくはこの弾薬庫へ保管されまま1世紀以上も待ち惚けを食らっていたのだろう。

 

 いずれの砲弾も経年劣化で表面には錆が浮き上がっている。

 

 その数は見渡しただけでも数十発だろうか。

 

「…耐用年数は超えていますので起爆する危険性は低いかと思いますが念の為に…」

 

「…用心に越したことはないからな。わざわざありが──」

 

「……どうかなさいましたか?」

 

 報告に感謝する旨をムーアは告げようとしたが──途中で口を噤み、訝しむラピへ片手を差し出した。その仕草からライトを貸すように、という意味だと察した彼女がそれを手渡す。

 

 一発の砲弾へ歩み寄り、握ったライトの光で表面を探る。

 

 錆は浮かんでいるが──亀裂等は見受けられない。となれば、と彼は口角を僅かに緩めつつラピへライトを返した。

 

「……ラピ。悪いがマクスウェルを呼んできてくれ」

 

「マクスウェルですか?」

 

「あぁ。今すぐに」

 

 

 

 

 間もなく夜が明ける。

 

 東の空が白み始める中、明るくなりつつある世界で苦笑いの印象が強い声が呟かれた。

 

「──最初はベビーの正気を疑ったけど、なんとかなるものだね」

 

「…生憎と戦闘について言えば、俺はいつでも大真面目なんだが」

 

 知ってる、と言わんばかりに彼へマクスウェルは細い肩を竦めてみせた。

 

 そのムーアは──右肩へ錆が浮かんだ砲弾を担いで運んでいる。弾薬庫から運び出して地上へ並べて置いた約50kgの砲弾を軽々と肩へ担いでいる。

 

 砲弾の先端部──弾薬庫では揚弾栓が取り付けられていたのだが、彼が運搬している砲弾の数々からはそれが取り除かれていた。

 

「…何発かは不発になるかもしれんが…」

 

「正確なスキャンや検査も出来なかったからね。でもまぁ…なんとかなると思うよ」

 

「あぁ、キミの判断を疑う訳がない。信じてる」

 

「…ん。ありがとう」

 

 その時はその時だ、と割り切っているのもあるが協力してくれたマクスウェルの判断をムーアは疑わなかった。それへ彼女は素直な感謝を述べる。

 

 彼が砲弾を所定の位置へ運ぶと、あちこちに放棄された装甲車や戦車へ備え付けられていた錆びたショベルの出番だ。

 

 手分けして地面を掘削し、穴の中へ砲弾を置くとマクスウェルが先端へ急遽だが有り合わせの材料で作り上げた信管を装着する。

 

 信管が間違いなく作動すると認め、掘り起こした土が丁寧に砲弾へ被せられる。敢えて石礫や錆びた車両の破片を混ぜるのも忘れずにである。

 

「でも考えたね。砲弾を地雷にするなんて」

 

「155mm砲弾を地雷に転用…素晴らしい機転だと思います」

 

「…テロリストにでもなった気分だ。まぁこれならロード級もただでは済まないだろう」

 

 第1次ラプチャー侵攻で世界各国の軍隊はラプチャーの攻勢に歯が立たなかった──というのは一般常識だ。戦役の全体を通して見れば確かにその通りなのだろう。しかし一部ではラプチャーの侵攻を食い止めていた事実も存在する。

 

 人類の兵器が役立たなければ現在のアークで1000万の人類が生き残る未来などなかっただろう。

 

 ニケ達が勝利の女神ならば、彼等が埋設した砲弾、それを用いる野砲の数々は戦場の女神だ。

 

 戦場の女神が使う予定だっただろう数十発の砲弾。本来の使用法は異なるのだが──数十発の砲弾は今日、産み出された本懐を遂げる。

 

 時を超え、ラプチャー(ブリキ)共に一発かましてやれるのだ。

 

 時の流れに身を横たえ、ただ朽ちていくだけの身へ与えられた最後の役目である。本懐以外の何物でもない筈だ。

 

 まぁ砲弾にそのような意思がある訳がなく、また無事に起爆する保証もないのだが──などと彼は溜め息を吐き出し、周囲を警戒するラピとマクスウェルを引き連れて砲弾を集積した地点まで戻り始める。

 

 するとまだ何発もの砲弾が置かれた位置に佇む人影を認めた。その背格好と出で立ちを持った人影の名をマクスウェルは訝しみながら呟く。

 

「──ドレイク?」

 

 散弾銃を手にした彼女──ドレイクが瞳を細めながら戻ってきた彼等を出迎える。視線がやがて地面へ並べられた錆び付いた砲弾へ向かい、おもむろに一発のそれを細腕で軽々と抱え上げる。

 

「…これを何処に運べば良い?」

 

「手伝ってくれるのか?」

 

 何をするかは概ね察したのだろう。ドレイクがマクスウェルへ問い掛けると、続けてムーアが逆に問い返す。

 

 その無粋な問いに彼女はフンと鼻をひとつ鳴らした。

 

「…昨日の礼だ。ヴィランがいつまでも貸し借りをそのままにしておくと思うな」

 

 礼とは、とムーアが真意を図りかねて眉間へ縦皺を刻む中、ドレイクの視線は彼の左腕──戦闘服の袖が焼け落ち、炭化した表皮が目立つ義手へ向けられる。

 

 察しろ、と言わんばかりに彼女は一人で歩き出す。その後ろ姿を見送ろうとしたムーアだが──やはり声は掛けておかねばならないと考え直す。

 

「…ドレイク」

 

「──礼なら要らん」

 

「そっちは逆だぞ」

 

 向こうに埋設するのだ、と告げるや否や──ドレイクは進行方向を変え、やや足早に向かい始める。

 

 その姿を認めたマクスウェルが小さく噴き出す中、彼は肩を竦め、また一発の砲弾を担ぎ上げた。

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