勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
月曜日 0800
前哨基地司令部庁舎の舎前である世辞にも広いとは言えない駐車場には基地へ所属するニケ達が集合していた。
「──各隊ごと整列。急いで」
カウンターズ分隊のリーダーを務める彼女は毎週月曜日の朝に実施される全体朝礼でも自然と進行役だ。
前哨基地全体を見渡した時、ニケ達の最先任であろう個体はソルジャーE.G.タイプのイーグルと呼ばれるニケだが、彼女曰く「自分より仕切りが上手いし、経歴も上なのでラピさんに」との理由からラピがその役目を担っている。
それは兎も角として──カウンターズ分隊、そして量産型ニケ達がそれぞれの部隊毎に整列し、後ろ腰へ両手を組んだ。
「──各部隊毎、連絡事項は?」
「──はい」
量産型ニケの一体が駆け出し、彼女達が整列する眼前へ移動するや否や全員に向き直る。
「──朝礼終了後、アルファ分隊で需品倉庫の整理作業を実施します。夕方まで続く見通しですので、手空きの人がいれば支援をお願いします。以上です」
「他に?」
「──はい!ブラボー分隊から!」
交代する形でまた量産型ニケが列から抜け出る。
「──おはようございます。今月分の宿舎のドリンク代は本日までです。まだ払っていない人は本日の1630までお願いします。以上です」
「他に?──無し。では朝礼を実施します。各部隊、気を付け」
「「「──気を付けぇ!!」」」
ラピの玲瓏な声が発した号令で各部隊毎に指示が下る。ザッと音を鳴らし、全員の踵が合わせられ、直立不動の姿勢が取られる中、大股で庁舎の正面玄関から出て来た軍服を纏う長身の青年が彼女達の眼前で立ち止まった。
「──指揮官に敬礼」
「──
「──頭、中!」
「──頭、左!」
挙手の敬礼と頭を受礼者へ向ける敬礼が同時に実施される。彼女達からの敬礼へ青年が挙手の敬礼での答礼を行い、全ニケの一名ずつへ応える形で敬礼しつつ一同を見渡し──やがて頭を正面へ戻すと右腕が下ろされた。
「「「──直れ!!」」」
「──おはよう!」
「──おはようございます!」
「休めぃ!まず不在中は迷惑を掛けて申し訳なかった。そして不在中にも関わらず、全要員が各々の任務を遂行した点に深く感謝を伝えさせてもらう。──土日の特別勤務に就いた者達は御苦労だった。朝礼終了後に外出許可証を交付するので外出申請書を忘れずに持参するように──」
これが週の始まりを告げる朝礼であり、尚且つ青年──ムーアの退院と復帰を全員が周知する運びとなったのは言うまでもない。
「……仕事が思っていたよりも溜まってなかったが…まさか…」
「──指揮官が不在中は皆で手分けして事務仕事もしてましたから」
「ありがとう。──遊んできなさい。帰隊は2250までだ」
「は〜い」
「お土産は白髪染めで良いですか?」
「……そこまで目立ってるか?」
指揮官室に入室した5名の量産型ニケ達──私服姿は見慣れつつあるが、随分と新鮮だ。思い思いの服装や化粧をしていると──顔立ちこそ整っているが、市井の年頃の娘にしか見えないのが不思議である。
外出許可証を交付された彼女達が敬礼と答礼の後に退室するのを見送ると、ムーアは応接用のソファに腰掛けた。
軍服のネクタイを緩め、シャツのボタンを上から二つ外して身軽になる。
新調された義足と義手はいずれも問題ない。それこそ
これなら6日間の入院生活で鈍った身体を鍛え直すのに充分──と考えた矢先、ポケットの中で携帯端末がバイブレーションを起こした。
スラックスのポケットを漁り、引き摺り出した細かい傷が目立つ携帯端末を指紋認証でロック解除。着信を確認すると──ラピからである。
「──届いたか」
司令部のアンダーソンが約束を守ったらしい。大量の弾薬や糧食、燃料と言った各種の補給物資がアークから運び込まれたとの連絡がメッセージで届いていた。
物資の目録を確認して貰う為、指揮官室へ向かう旨も併せて綴られている。それへ了解の返信を送った彼は煙草を銜えるとオイルライターの火を点けた。
ラピが──正確には
分隊のリーダーである彼女がタブレット端末を差し出し、液晶画面に表示された物資の目録を彼は確認していく。
「──師匠、あれはなんですか?今日って何か特別な日ですか?」
「…俺の誕生日」
「──え!?マジ!?本当に!?なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」
「……冗談だ」
ムーアよりも先に前哨基地へ運び込まれた物資のコンテナの数々を見たのだろう。ネオンが落ち着きもなく自身の師へ問い掛けると──彼らしからぬ冗談が飛び出た。
とはいえ、顔色ひとつ変えずに言い放たれては冗談だと気付かなかったのだろう。アニスが目に見えて慌て始めた程だ。
「なんだ…冗談か」
「…まぁ冗談はさておき…あれは全て正規の補給物資だ。アンダーソン閣下からのな」
「はい。それは確認しましたが…この時期にですか?」
「もしかしてあれ?指揮官様の少佐復帰のお祝いか何か?」
「…俺はそこまで閣下と親交がある訳じゃない。──ラピ、ありがとう。確認した」
タッチペンで受領のサインを綴り終えたムーアがタブレット端末をラピへ返す。それを彼女が受け取ったのを認めた彼は新しい煙草をソフトパックから振り出して一本を銜えた。
するとネオンがポケットを漁り、自身のライターを取り出すや否や彼へ火を貸す。ムーアの右手が風除けを作るように翳され、火が灯るとそれで煙草の先端を炙った。
「…例のアンチェインド研究所の調査へ赴く為、長期の活動に備えての補給物資の輸送を申請したんだ。想像していたよりも…随分と量は多いが」
だというのに──何故、ムーアの個人的な生命線である煙草が補給物資の中に入っていないのか。目録の隅まで確認したが、当然ながら物資の一覧には含まれていない。
健康促進云々が原因だろうか。知るかそんなモノ。吸わなきゃやってられないのだ。これは怠慢であろう──という文句は胸の中に仕舞い込んだ。
「…メアリー先生にも禁煙外来を勧められたな…」
「…はい?」
「いや、なんでもない。個人的な話だ」
入院期間中、随分と口酸っぱく主治医、そして担当医となったメアリーから注意を受けていたらしい。煙草が身体や健康に齎す害悪のレクチャーから始まり、終いには病院の禁煙外来を勧めた程だ。小さな親切、大きなお世話──などとは勿論言わないが。
それはそれとして──問題がひとつ浮上する。
これだけの物資をどうやって運搬するか、だ。
「どうにか火力の力で持って行ければ…!」
「到着する前に体力が無くなってしまうんじゃないかしら?」
ネオンなりの意見──と表現出来るかは微妙な線だが、それを述べると直ぐにラピが反論を返す。
分隊のリーダーの意見は尤もだ。
しかし
「…
「お!指揮官様、ナイスアイディア!」
「…とはいえ、積載出来る量は限定されるぞ」
弾薬に食糧、飲用水、燃料、諸々の消耗品に各種スペアタイヤ──ざっと必要な物を挙げるだけで
「…まぁ、直ぐに出発はしない」
「え?そうなの?」
「俺は病み上がり。そしてキミ達もボディの交換と調整を済ませたばかりだ。ここ最近は連続して何度も地上で戦闘ばかりだった。しかも今回は長期の任務になる。少し息抜きと気分転換をしてから出発せんと──」
いくらなんでも立て続けの任務ばかりだった。
体力の方は問題ないのだろうが、メンタルの回復──戦力回復期間を僅かなりとも設け、心身共に万全の状態となってから長期任務へ赴く方が安全だろう。
それを提案していた時、不意にアニスの携帯端末から着信のポップなメロディが鳴り響いた。
「もう、こんな時に──って、社長?」
取り出した携帯端末──最新機種らしいそれの液晶画面に表示された通話をタップした彼女が片耳へ宛がう。
「──はい、もしもし。…げ、元気そうですね…ま、まぁ私の方はボチボチ…」
──外で話して来るね。
一応はブリーフィングの形となるのだろう。その最中に不可抗力とはいえ電話での遣り取りをするなら指揮官室を出て、廊下で済ませようとする気遣いはアニスも有している。
彼女達やムーアへ目配せし、アニスが指揮官室を出ようとするが──
「──え?今ですか?前哨基地ですけど……指揮官様?」
「……俺?」
亜麻色の瞳が困惑を湛えつつ向けられると彼は首を傾げた。
「──Oh!Major Moore!Long time no seeですNe!」
「…マスタング社長、お久しぶりです」
テトララインの本社──その社長室へ通された軍服姿のムーアを部屋の主は両腕を目一杯広げて歓迎の意を示す。
──相変わらず目がチカチカする。
右眼の機械仕掛けの義眼だけでも強烈な光の類をシャットダウン出来る機能は付けられないのだろうか。真剣にそのような埒もないことを考えるムーアは、マスタングが勧める応接用のソファに大企業を束ねるCEOが腰掛けたのを認めてから軍帽を脱ぎつつ座った。
「アニスはどうですKa?」
「元気にしております。分隊や前哨基地のムードメーカーとしても得難い人物ですので、指揮官として、また個人としても大変重宝しています」
本題に入る前の雑談として振られたのはアニス──自社で製造されたニケである彼女の近況についてだ。
彼が返した答えにマスタングは何度も頷きつつ、整えられた薄い髭が生える口元を綻ばせてみせた。
「──実はMajor Moore。Youにいくつかお願いしたいMissionがあるのDESU!」
「…Mission?」
「──That's right!…Youの前哨基地に物資が届いたと思いますがconfirmationしましたKa?」
「確認と受領は済ませております。お待ちを。何故、御存知なのですか?」
彼は疑問を抱くが、それは間を置かずに解消される。
「Meが手配した物資なのですから当然DESU!」
「お骨折り下さり、感謝を申し上げさせて頂きます」
「No!Youはmy girl アニスがお世話になっているcommanderなのですKara!これぐらいしないと“drumstick hits”DESU!」
天罰が当たるほどのことなのだろうか。
いずれにせよ、奇抜な格好をしているというのに──いや、おそらくは大衆の目を引く装いで自社のPRをしているのだろう。好意的に見ればだが。
兎に角、非常にユニークな服装や言動をしているにも関わらず、基本的には道理を弁えているのがなんともチグハグな印象を受けてしまう。
「…私もアニスに世話になっている身です。また優先的に物資の輸送をして頂いたとあっては──内容は分かりませんが、その
「Oh!Good!Very good!Major Moore、宜しくお願いしまSu!──Hm…but……」
「…どうかなさいましたか?」
最初こそ喜色満面の笑みを浮かべていたマスタングだが彼の装い──軍服姿を改めて上から下まで見詰めると、深々と溜め息を吐き出した。
「──そのFashionは頂けませんNe。come follow me」
「…はぁ…」
そこまで良くないのだろうか。
三大企業の一角であるテトララインの本社へ、しかもCEOであるマスタングとの面会に臨む為、前哨基地でラピ達に着装の確認を何度もして貰ったのだが──何が悪かったのだろうか。
いずれにせよ、彼はマスタングがソファから立ち上がると付いてくるよう促された。
仕方なくムーアも腰を上げ、マスタングの後へ続く。
社長室を抜け出た美丈夫が向かったのは同じフロアにある一室だ。
その扉が自動的に開くと──室内には量産型ニケを始め、デザイナーらしき中年男性が首から採寸用のメジャーを下げながら紳士服であるスーツの縫製作業を進めている。
「──あら、社長。なにか御用かしら?今日は素敵な殿方をお連れね」
随分と誇張された気がしないでもない女性語──それを太い声音の中年男性が口にしていると違和感が拭えないが、結局は個人の自由である。
ムーアは気にしないようにした。
「──Yes!彼を!sooooooooo hot!にしてくだSAI!」
「こんな素材を好きにして良いの?ワクワクしちゃうわね」
「…………お手柔らかに」
ここまで来て拒否権は無いだろう。それを察したのか、彼はそう口にするのが精一杯だった。
行くと思っていた皆様、申し訳ありません。