勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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第8話

 

 

 発電所内は比較的、綺麗な状態である。人の手が入っていない為、廊下や部屋には埃や壁から剥離した欠片こそ散らばっているが従業員が長年の不在という点を考慮すれば充分に綺麗だろう。

 

「──クリア」

 

 廊下の曲がり角を曲がる寸前にカッティングパイの要領で少しずつ角の向こう側の死角へ敵影が潜んでいないかの安全確認(クリアリング)を済ませたラピが背後の濡れ鼠となったままの彼へ告げる。

 

 報告へ頷いた彼が突撃銃を構えつつ彼女へ追従すると、その後ろにアニスとネオンも続いた。操作室までの順路はシフティーが逐一、ハウジングの向こうから教えてくれるので有り難い限りである。いちいち立ち止まって現在地を確認する手間が省けるというものだ。

 

 間もなく操作室であることが記された案内表記が廊下を進む彼等の目に入る。

 

 発電所の内部へ潜入してからはラプチャーと会敵はしておらず順調そのものだが、ここまで順調であると妙な警戒心すら抱くのは不思議である。

 

「──っ!前方にラプチャー発見」

 

 ラピの警告に反応したムーアは了解を示すように彼女の肩を軽く叩き、すぐさま設置されている機材の物陰へ隠れた。ラピ自身も彼が身を潜ませた機材の影へ隠れ、アニスとネオンも廊下の反対側に置かれていた何らかの機材の物陰へ向かう。

 

「…当然のように掌握してるわね。こんな地下までどうやって来たんだろう」

 

 物陰から顔を僅かに出して敵の様子を伺ったアニスが眉を顰める。

 

 扉は破壊されたのだろうか。操作室と廊下を隔てていたであろうそれは既に床へ転がっており、室内では紅い単眼のようにも見える(コア)の放つ光がいくつも彼女には見えた。

 

 彼もヘルメットを被った頭をほんの僅かではあるが、ゆっくりと覗かせて敵情の収集を始めるのだが──

 

「…制御盤を操作してる…?」

 

「まさかそんな…SF映画じゃあるまいし…ラプチャーが人間の文明を利用する訳が…」

 

「──アニス。良く見て」

 

 ラピも彼の隣からベレー帽を被った頭をゆっくりと出して操作室の中へ視線を向ける。その先にはラプチャーの群れがいるのが伺えるが、良く目を凝らすと──操作室にいくつも備えられた制御盤へ群がり、その多脚を器用に動かしてはボタンやレバー等を操作している光景が広がっていた。

 

「…マジ?」

 

「こんなことって今までありましたか?」

 

〈これまでは…ありませんでした!〉

 

 念の為、シフティーへ確認を取るネオンだが返ってきた声音には隠し切れない動揺の色が濃い。ラプチャーがこのような行動をするとは全くの想定外であったのだろう。

 

「──指揮官。アークへの帰還を提案致します。“調査”という任務は達成しました」

 

「あぁ、そうだな。静かに戻ろう」

 

 傍らのラピが横目を向けつつ口にする具申へ彼も頷く。これで与えられた任務は完了だ。これ以上、残っていても何の得にもならない。

 

 しかし──放置していて良いのか。という疑問が生じる。ラプチャーが何故、発電所を占領し、その設備を用いて電力を生み出しているのか。その問いに彼の脳裏でひとつの仮説が弾き出される。電力を何らかの理由で使用する為、というそれである。

 

 これまで人間の作った文明の利器に何の興味すら抱いていなかった筈のラプチャーが発電所で設備を操作・制御しているのは妙な話だ。となれば、何らかの理由ないし目的があって然るべきなのだ。

 

「シフティー。後ろのルートを確保──」

 

 一瞬とはいえ彼は思考へ溺れてしまった。故に見逃してしまう。

 

「──気付かれた!!」

 

「──指揮官!私の後ろへ!!」

 

 ラプチャーの一体の紅い単眼が廊下の影へ潜む彼等へ向けられた瞬間、光線が放たれる。その一発目に触発され、続けて他のラプチャーからも何筋もの光線が撃ち出された。

 

 いち早く反応したラピとアニスに遅れ、彼も突撃銃の安全装置を解除しようとした刹那の時だ。

 

 ムーアの視界に敵の放った光線の筋が入る。その行き先を捉えた瞬間、伸ばされた彼の左手はラピの肩を掴み、勢いに任せて彼女諸共、床へ転がろうとした。

 

 しかし一瞬遅かった。

 

 倒れ込む最中、ラピの左腕を光線が破壊したのだ。彼の左手が掴んだ肩とは逆のそれへ命中した光線がガッデシアムの肌を灼き、フレームを溶かして彼女の左腕を肩口から消失させてしまったのだ。

 

「──大丈夫か!?──ッ…!」 

 

 床へ倒れ、彼女の身体が自身へ覆い被さる形となったムーアがそれを受け止めつつラピの様子を観察する。同時に左腕の消失を確認した途端、頭へ痛みが走った。

 

 何故かラピの状態が何かと重なって見えた──しかし痛みが走った頭を左右へ振り、煩わしさを吹き飛ばす。

 

…指…揮…官…

 

「アニス、ネオン!援護しろ!」

 

 光線の熱で灼かれた影響か切断された形となった部分からは触媒()の流出は認められない。それを認めると彼は覆い被さっているラピの身体を床へ下ろして立ち上がる。

 

 突撃銃を構え、光線を放ち続けるラプチャー達に連射で10発ほど叩き込んでから再びその場へ腰を屈めた。

 

 彼女が尚も右手に握っている突撃銃を掴み上げ、スリングベルトを自身の首へ通してぶら下げるとラピの右腕を掴んだ。

 

「──指…揮…官…頭…だけ…

 

 彼が何をしようとしているのか察したラピの唇からは損害の影響か、システムに何らかのエラーが生じたらしく細い声だけ漏れ聞こえる。

 

 何を言いたいのかは彼も概ね察せられるが、それを無視してムーアは彼女の上体を抱き起こすと、胸の下辺りへ自身の首を入れた。

 

 勢いを付けて立ち上がり、ラピの身体を背嚢も背負っている状態で担ぎ上げると右足と右腕を纏めて左手で掴み、搬送(ファイヤーマンズキャリー)の姿勢を取るや否やアニスとネオンへ向かって大声を張り上げる。

 

「──退却するぞ!急げ!!」

 

「了解!シフティー──な、なに!?」

 

 接近してくるラプチャーへ向かって散弾を、擲弾を撃ち込む彼女達へ退く旨を伝えながら彼も突撃銃を右腕で保持しながら腰だめの格好で引き金を引いた。

 

 何体かのラプチャーは破壊され、僅かな間だが時間が稼げたと思った矢先に床の直下から突き上げるような振動が伝わって来る。それに気付いたアニスとネオンが床へ視線を落とした直後、シフティーが切羽詰まった様子で新たな敵接近の警告を発する。

 

〈──タイラント級を感知!識別信号はグレイブディガーで確定です!〉

 

「こんな時にブラックスミスのようなタイラント級か…!」

 

 畜生と続けて彼の口から怨嗟の呟きが漏れる。日頃の行いには気を付けている筈なのだが、何故こうもタイミングが悪いのだろうか。

 

…指揮…官…戦闘…に…支…障が…下…ろし…

 

「──やかましい!黙って担がれてろ!!俺の大切な部下は戦場に二度と置いて行かん!!シフティー!退却ルート!!」

 

 普段の凛々しく、玲瓏な声の持ち主が耳元で言葉をか細く紡ぐのは彼の好む所ではある。あくまでもベッドの中では、の話だ。

 

 それ以外では煩わしいにも程がある。特にこのような状況では。

 

 ラピへ向かって怒鳴った彼は突撃銃へ安全装置を掛けてから手を離し、ポーチへ手を伸ばす。手榴弾を取り出し、彼女の手と足を握った左手を一瞬だけ離してピンを引き抜くと直ぐにそれを敵が密集している操作室へ投げ込んだ。

 

 数秒後に炸裂した手榴弾の破片と爆風が制御盤とラプチャーへ襲い掛かる。敵には一瞬だけ怯ませる程度の効果しかないだろうが、制御盤は火花を散らしてその役目を終えるのに充分過ぎた。

 

「アニス、ネオン!撃ちまくれ!敵を近付けさせるな!シフティー!オペレーター!まだか!?」

 

〈は、はい!当該施設の鉱車は稼働している模様です!線路に沿って外部ヘ出られます!〉

 

「そこしかないんだな!?分かった!案内してくれ!」

 

 唯一の血路はリスクが大きすぎる。仮に鉱車が使用不可能であった場合、全員がここで死に様を晒す可能性が高い。

 

 しかし他に道はないのだろう。それを察した彼がアニスとネオンへ反撃と応射を加えながらの退却を命じる。ムーアの張り上げた大声へ頷いた彼女達はラピを搬送する彼を援護しながら続いた。

 

「──指揮官様!新手が来た!」

 

 銃声と爆発音に引き寄せられたのだろう。駆け出して間もなく背後にラプチャーの群れが迫った。

 

 アニスの叫びに反応し、彼は振り返ると突撃銃の銃口を向けつつ安全装置を解除し、引き金を引いた。

 

 吐き出される銃弾が群れの先頭を破砕し、砕け散る本体を貫通して後続にも浴びせ掛けられるのだが発砲から間もなく、ガチンと音を立てて銃声が鳴り止んだ。

 

再装填(リロード)!」

 

 弾切れになったと彼女達へ宣言し、暗に援護を促しながらムーアは突撃銃を右手から離して最後の手榴弾を取り出すとピンを抜いて放り投げる。

 

 続けてその場へしゃがみ込んで撃ち切った突撃銃を右膝の裏に挟む。スリングベルトが首を絞めるが、気にしている暇はない。

 

 弾倉を外して床へ投げ捨てるとポーチから新しいそれを掴み取って挿入口へ叩き込み、リリースボタンを掌底で軽く叩いて薬室に初弾を送り込んだ。

 

 突撃銃を再び構え直して引き金を引く。腰だめとはいえ曳光弾の描く軌跡を頼りに射撃すれば、概ねの狙いは付けられる。

 

〈──そこの階段です!二階下に鉱車があります!〉

 

「了解!アニス、ぶち込め!ネオンはこっちに来い!先導しろ!援護する!」

 

 ハウジングの奥からシフティーの道案内が響く。それを聞き取った彼はアニスへ立て続けに擲弾を撃ち込むよう命じ、ネオンがその隙に退けるよう敵へ銃撃を加えた。

 

 僅かなりとも時間が稼げたと察し、彼等は急ぎ足で階段を下る。ラプチャーの群れが迫る気配を全身で感じ取りながら階段を下った先に線路の軌条上へ鎮座する鉱車を発見した。

 

 ネオンが二輌の鉱車を牽引する機関車へ一足早く飛び込み、エンジンが掛かるかの点検を始める。

 

「師匠、バッテリーは生きています!」

 

「良し!脱出するぞ!」

 

 爆薬でも設置して追撃を遅らせたいが、それをする暇も惜しい。ラピを担いだ彼は急いで乗車を命じると鉱車へアニスと乗り込んだ。

 

「──指揮官様、ラピは!?」

 

「ラピは大丈夫…じゃないが、生きてるぞ」

 

「良かった…!しっかりしてラピ!」

 

 彼が損傷を受けたラピを鉱車の中へ下ろすのを手伝うアニスが顔色を変えて問い掛ける。退却中は我慢していたのだろうが、やはり彼女の容態は気になっていたらしい。

 

 ネオンが機関車のエンジンを掛け、眼前に口を開いている坑道へ向かって走り出した直後だ。

 

 

 ──激しい揺れが軌条上の機関車や鉱車を揺さぶり始めた瞬間、坑道の壁から何か巨大な物体が飛び出した。

 

 その姿はさながら機械仕掛けのムカデだろう。頭部には地面を掘削する為か数多のギアが回転し、対になったムカデであれば顎肢の部分が左右へ何度も開閉する運動を繰り返している。

 

 ただでは帰さないつもりなのか。

 

 タイラント級グレイブディガーは坑道へその姿を現すと退却する彼等を捉えて追撃を始めた。

 

「──ネオン、飛ばせ!アニス、擲弾を!奴の足を止めろ!」

 

 突撃銃如きで、現在の分隊が持つ火器の投射量で止められる相手だとは思えない。しかし逃げおおせられればこちらの勝ちだ。

 

 彼に命じられるがままにアニスは擲弾発射器を構え、狙いをグレイブディガーが這いながら追撃してくるだろう位置に向けて銃口を向けた。見越し射撃の要領で引き金を引くとコルクの栓を抜いたかのような気の抜けた銃声が鳴り響き、撃ち出された擲弾が彼女の予想通りの位置へ弾着する。

 

 擲弾の炸裂と同時に坑道の礫岩が砕け、それが爆風へ乗ってグレイブディガーに襲い掛かる。図らずも擲弾の破片に加え、礫岩が散弾となって浴びせ掛けられた形だ。

 

「こいつ、全身が坑道掘削機か何かか…!?」

 

 怯んだのか、煩わしいのかグレイブディガーが頭部を持ち上げながら一瞬だけ追撃を緩める。

 

 その瞬間に見えた巨体の下部も巨大なドリルで構成されているように彼には映った。坑道を掘削する為だけにでも作られたのだろうか。

 

 ブラックスミスは幾分か生物的な外見も含まれていたが──それが原因で彼の第一印象は「キモい」に集約された訳であるが、このグレイブディガーからは生物の気配が微塵も感じられない。

 

 無機質な機械という印象を抱く彼は先のタイラント級を撃破した時と同様に構えた突撃銃で銃撃を加えながら弱点を探すのだが──

 

「何処にある…!」

 

 ──あの赤い単眼が見えない。

 

 再び突撃銃の弾倉が弾切れとなった時だ。

 

「──ヤバい!指揮官様、伏せて!!」

 

 グレイブディガーが唸りを上げて回転する無数のギアが生えた顎肢を鉱車に目掛けて振り下ろして来た。

 

 アニスの警告が鼓膜を震わせた彼が反射的に身を屈めるか否かの瞬間、彼女が擲弾を放つ。

 

 弾頭が至近で炸裂したからか爆発音まで大きく聞こえる。その炸裂の影響もあってか巨体の進行方向が僅かに逸れ、顎肢は最後尾に連結されていた無人の鉱車を粉砕するに留まった。

 

 目と鼻の先でガリガリと回転する無数のギアで金属で造られた鉱車が削られ、粉砕される。アニスの目には粉砕機へ掛けられるゴミのようにも映った。

 

 一方のムーアは身を屈めつつ傍らで力なく鉱車へ凭れ掛かるラピが腰へ巻き付ける弾帯のポーチから手榴弾を抜き取った。追加の手榴弾は何発か背嚢にあるが、それを引き摺り出している暇はない。

 

 安全装置のトリガーを握り込み、ピンを引き抜く。身体を起こしつつ握ったそれを砲丸投げの要領で突き出すように投げ込んだのは──目と鼻の先で鉱車を粉砕する頭部の無数のギアだ。

 

「──アニス、伏せろ!」

 

 これで致命的な損害を与えられるとは思っていない。ただ怯めば構わないと考えて投げ込んだそれが頭部へ辿り着くとギアに噛み付かれ、弾殻へ亀裂を生じさせた時だ。

 

 粉砕される寸前、炸薬へ点火された手榴弾が無数の破片を飛散させながら爆風を生じさせる。その瞬間、無数のギアが破片となって弾け飛び、坑道の壁や鉱車へ襲い掛かった。

 

「──ッ!」

 

 その一部が鉱車へ衝突し、砕けた車体の破片がムーアの左腕へ突き刺さる。一瞬の強い痛みが走るが、歯を食い縛って耐えつつ身を起こすと巨体へ再び銃撃を加える。

 

 その銃撃が決定打となったのか、それとも既に限界を迎えていたのかは分からない。だが、頭部を覆っていた無数のギア、そしてムカデの前肢を思わせる両側の部位が砕け散り、奥から巨大なドリルが姿を現す。

 

 あれが本体か、と彼が本能的に察せられたのは回転するドリルの上部に紅い単眼を思わせる核の部分を発見したからである。

 

「──アニス!」

 

「──分かってる!」

 

「──師匠!私も!」

 

 機関車を動かしていたネオンも散弾銃を片手に鉱車へ飛び込んできた。

 

 彼女達も何処を狙えば良いのか言わずとも察したらしく、突撃銃、擲弾発射器、そして散弾銃の三重奏が坑道へ響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈──タイラント級グレイブディガーの沈黙を確認!撃破しました!!〉

 

 ハウジングの向こうで興奮気味のシフティーが報告するまでもなく、彼等の目には核を撃ち抜かれ、坑道の中で息絶えた巨体の姿が次第に遠ざかる様子が見て取れた。

 

 大きく溜め息を吐き出した彼が鉱車の床へ腰を下ろして、ちょうど弾切れとなった弾倉を交換している時、アニスが近寄って来る。

 

「──指揮官様…それ…」

 

 なんのことだ、と彼は問う前に亜麻色の視線が向かう先を確認した。その視線を追うと──左腕の上腕に突き刺さった金属の破片がある。ボディアーマーから露出している箇所なので突き刺さるのは仕方ない。もぎ取られなかっただけ有り難いだろう。

 

「…済まんが抜いてくれないか?」

 

「分かった」

 

 やや強張った様子のアニスが頷き、彼の真横へ腰を下ろすと彼女自身が携帯するポーチを取り出した。

 

 とはいえまずは破片を抜こうとするのだが──割りと深く刺さっている上に、指先で摘める程に余裕のある部分が体外へ露出していないのだ。

 

 血で滑ってしまうらしく悪戦苦闘する様子を見たムーアはおもむろにボディアーマーの脇へ吊るしていたナイフを鞘から抜き、手の内でひっくり返すとハンドルをアニスへ差し出した。

 

「…え、でも…」

 

「…アニス。これは()()()()だ。良いな?」

 

 ニケは人間を傷付けてはならない。そう造られた彼女達である。アニスでさえも一瞬、受け取るのを躊躇する程に骨身にまで染み込んでいる。

 

 それを察してか、それとも躊躇する彼女の背中を押す為か、ムーアが()()()()を念押しするとアニスが小さく頷いた。

 

「…良い子だ。やってくれ」

 

「うん…。──行くよ?──痛い?」

 

「大丈夫だ。続けてくれ。──アニス。帰りの車内でまたあの曲を流してくれないか」

 

「──分かった。良いよ。…帰りは煙草吸って大丈夫だから…」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 言葉少なに二人が会話する最中──彼等が脱出したばかりの発電所内では異常が発生していた。

 

 ムーアが操作室に投げ込んだ一発の手榴弾。それによって大半の機器は破壊されたのだが、一部は生きていたのである。

 

 本来であれば異常を感知した場合は自動的にシステムが非常停止する仕組みであった筈──なのだが、何の因果だろうか。

 

 石炭を燃焼させるボイラーから発生した水蒸気をタービンへ送るパイプ内で急激に圧力が上昇していたのである。

 

〈──もうすぐで外に辿り着きます!ラプチャーも集まって来るでしょうから兎に角、走って下さい!〉

 

「あぁ、分かった。無事にクルマまで辿り着いて──ッ!」

 

 間もなく鉱車が停車する地点であると聞かされた彼は左腕の上腕に包帯を巻き付けられた状態のままラピを再び担ぎ上げた。

 

 停車と同時に下車して駆け出そうと準備をしていた最中──坑道の奥から爆発音が響き渡ったのだ。

 

「……え?なに?」

 

「撃破したグレイブディガーが爆発したんでしょうか?」

 

 それにしては遠くから爆発音が響いた気がする。彼女達が、そして彼も首を傾げる中、ハウジングの向こうでシフティーが悲鳴を上げる。

 

〈──は、発電所の建屋が吹き飛んじゃいました!これは…水蒸気爆発…?〉

 

「──え?」

 

 軌条を進む鉱車に揺られる中、シフティーが報告する内容に彼は一瞬呆気に取られる。

 

 ──吹き飛んだって何が?

 

 そう言わんばかりの表情を浮かべていた彼だが、鉱車が停車するとラピを担いだまま下車し、アニスやネオンと共に駆け出した。

 

 坑道を抜け、日差しが降り注ぐ日向へ出た時、おもむろに背後に視線を向けると──遥か先に見える発電所の影が歪な形に変貌していると気付いてしまう。

 

「…そういえば師匠。…操作室に手榴弾を…」

 

「…え?俺、なんかやっちゃったか?」

 

 俺が悪いのか、とムーアは彼女達へ視線を送るのだが、二人共揃って顔を逸したのは言うまでもない。

 





副題を付けるとすれば安直に「俺なんかやっちゃいました!?」

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