勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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拙作の投稿が始まって既に1年が過ぎました。ここまでお付き合い下さっている皆様に改めて感謝を申し上げます。


第2話

 

 

 

 

 

「──指揮官が負傷しました!!」

 

 だから前に出るな、と言っていたのだが。

 

 常日頃から口酸っぱく注意していたにも関わらず()()である。

 

「──大丈夫だ…!ちょっと貫通しただけ…!」

 

「──そのまま動くな!衛生兵(メディック)!こっちだ、急げ!!」

 

 カーキ色の軍服と外套──それを纏った()()()は傍目に見ても重傷だ。しかし彼は気丈に、或いは痩せ我慢だろう。健気にも立ち上がろうとする寸前、迷彩が刻まれた戦闘服を纏う青年が駆け寄り、身を起こすのを制しつつ自身の部下を急いで呼び付けた。

 

「──()()か!?なんでボディアーマーを付けないんだ!」

 

「──動き…難いだろう…!」

 

「──それで腹に風穴を空けたら世話ないな!」

 

 分厚いプレートを何枚も重ね、常人なら身動きすらままならぬ装備品を装具したまま数kmを全力疾走で駆け抜けられるような()()()と一緒にするな──地面へ転がるティアドロップ(サングラス)の傍らへ横たわる指揮官の瞳が無言のまま反論を述べるが、青年は肩を竦めるだけである。

 

 駆け付けた衛生兵──の筈だが、明らかに専門は戦闘職だろう体格を有する兵士が手際良く指揮官が纏う軍服をメディックシザーで切り裂き、負傷した箇所の確認を行う。

 

「──ッ…ウッ…!」

 

「──どんな具合だ?」

 

「──見ての通りです。()()()()()()()()

 

 青年と負傷兵が指揮官の容態を確認する背後では()()()が不安げな様子を露わにしている。

 

「──()()、どうするの?」

 

「──後送するしかありませんよ、()()殿()

 

「──ダメだ…!まだ──ッ!?」

 

「──あぁ、失礼。育ちが悪いもので」

 

「──お前達…いつもそれを言うが…免罪符にはならんからな…!」

 

 衛生兵が滅菌包装を破き、包帯を指揮官の腹部へ巻き付ける。その際、しっかりと力を加えながら縛着したからか端正な顔立ちが激痛に歪み、堪らず吠えてしまう。

 

 それだけ吠えられるなら上等──と青年は携行するスリングベルトで吊るされた突撃銃を身体の前面に移動させ、その場へしゃがみ込んだ。

 

「──輸送機を呼んでくれ。至急だ」

 

「──もう要請してますよ。到着まで5分程度です」

 

「──気が利くな。移動するぞ」

 

「──ま、待て…ゆっくり…ッ!?…ち、くしょう…!こ、この…ゴリラが…!優しく出来ないのか…!?」

 

「──悪いな。俺が優しくするのは女性のみだ。それと俺はゴリラほどメンタルは弱くない。衛生兵、ロリポップ(鎮痛剤)を──」

 

「──要らない…余計に具合が悪くなる…!!」

 

 モルヒネの比ではない効果を発揮する鎮痛剤は痛みを緩和させてくれるものの強力すぎる弊害か意識が朦朧となりがちだ。

 

 上背があり、体重も相応にある成人男性を軽々と肩へ担ぎ上げた青年が良く響き渡る低い声を張り上げた。

 

「──ここが切所だ!ブリキ共を一機も通すな!残さずスクラップにしてやれ!」

 

「──了解!小隊長の命令が聞こえたな!小隊、前へ!行くぞクソ野郎共!前だ!前に出ろ!ここの通行料は一等高ぇと教えてやれ!」

 

 野太い蛮声が揃って唱和された。

 

 長身かつ大柄の兵士達──いずれも男性、それも人間である者達が統制された武装と統制の取れた動きのまま前進する。

 

 各々が大振りの突撃銃を、機関銃や無反動砲を携えたまま駆け出す様子は圧巻の一言だ。

 

「──相変わらず…凄まじいな…!」

 

「──あまり喋るな。悪化するぞ」

 

「──喋っていないと…気を…失いそうだ…!」

 

 ヘルメットを被る青年としては黙ってくれていた方が有り難いのだが、本人がそう言うのであれば兎や角言う権利はない。ひとまず輸送機が到着するであろう後方へ向けて駆け出す。なるべく負傷者が苦しまぬよう衝撃が走らないよう注意しながらだ。

 

「──人間を超越した存在…!最強の兵士…か…!」

 

「──人間と言ってくれるとは嬉しいな。嬉しくて涙が出そうだ」

 

「──何処から…どう見ても…人間だろう…!」

 

「──人間の皮を被った化け物、と専らの評判だがな」

 

 愛用の整髪剤で整えた髪は乱れ、苦痛のあまりに脂汗を垂れ流し──不様な格好であるが、双眸だけは爛々と輝かせつつ尚も喋り続ける指揮官へ青年は呆れた溜め息を隠せない。

 

「──その負傷でそこまで喋れるなら上等だ。傭兵の意地か?」

 

「──違う…!本当は…みっともなく泣き喚いてのたうち回りたいが…なんとか耐えているだけだ…!」

 

「──ますます上等だ」

 

 腹に風穴が空いているというのに気丈なことだ。

 

 鼻を鳴らした青年へ担がれたまま呼吸を乱す指揮官は歯を食い縛り続けながらも吐き出し続ける言葉の数々を止める気配がない。

 

「──本音を言えば…お前達が…羨ましい…!彼女達と肩を並べて…戦える…!」

 

「──あまり買い被らんでくれ。一杯一杯なんだ。…まぁ、俺達のファン、だと言うなら有り難く誉め言葉として受け取ろう」

 

「──是非…そうしてくれ…!」

 

「──冗談のつもりだったんだが…」

 

 まさか本当に()()()だったとは知らなかった──なんとも言えない表情を浮かべる青年が視線をやや仰角へ向ける。

 

 上空に一機の機影が見えた。要請したという輸送機だろう。

 

 機体が降下し、強烈なダウンウォッシュが襲い掛かる。

 

 土埃が吹き上がる中、着陸した機体の後部に設けられたランプが開き、そこを慌ただしく駆け下りて来た衛生兵達が急いで担架を広げる。

 

「──そこに寝かせて!」

 

「──これは…酷いな…飛空艇の設備では…直ぐに野戦病院へお連れします!」

 

「──手術室を空けておくよう要請してくれ!」

 

 指揮官の身体が担架に寝かされる。容態を確認した衛生兵の表情が曇るも、それは一瞬のことだ。務めを果たさんと再び動き始めた者達へ後を託そうと青年は突撃銃を握り直す。

 

「──待て…待ってくれ…!」

 

 そのまま踵を返し、戦場へ戻ろうとする青年が纏うボディアーマーを掴んだ男の手が彼の動きを止めた。

 

「──どうした?」

 

「──勝手な願いだとは分かっているが…頼む!彼女達を…指揮してくれ…!」

 

「──生憎と俺は預かった小隊を指揮するので手一杯だ。復帰したら自分で指揮を執れ」

 

 それまでは彼女が指揮官の代行を務めてくれるはず──青年が脳裏に浮かんだ言葉を紡ごうとする刹那、死にかけの筈の指揮官が苦悶の表情を浮かべ、彼へ懇願する。

 

「──頼む…!頼めるのは…お前しかいないんだ…!」

 

「──頼まないでくれると嬉しいんだが…」

 

 酷く面倒臭そうな表情──如実に拒絶を表しても指揮官は怯む様子がない。死にかけであるというのに彼は掴んだ青年のボディアーマーを離そうとしない。

 

 いつまでも搬送に手間取っていては仕方ない。

 

 となれば──この頑固な男と口約束を結ぶしかないのだろう。

 

 青年の信条上、あまり好ましいとは言えないが、背に腹は代えられない。

 

 彼は深々と溜め息を吐き出した。

 

「──考慮はする。代行で現在の状況が終了するまで指揮を執っても構わない。ただし、今後も指揮を執るなら上層部の許可がいる」

 

「──言質…取ったぞ…!」

 

「──なんでも構わんから大人しく搬送されてしまえ。治る傷も治らんぞ」

 

「──頼んだ…!」

 

 脂汗を顔面へ浮かべる指揮官はやっと安心したのだろう。苦悶に満ちていた表情が心無しか穏やかとなり、やがて気を失ったのか瞳を閉じて全身から力が抜け落ちる。

 

 意識が途絶えた指揮官を衛生兵達が急ぎ機内へ運び込む。それを見届けることなく青年は突撃銃を握り直すと、戦場へ戻る為、勢い良く駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 ガリガリと地面へ線が走る度に鈍い音が響く。

 

 続けて同様の物音が響いた。

 

 また続けて地面を引っ掻く音が。

 

 ──ニヒリスターはウィングミサイルを射出した後、120m上空で低速飛行中。

 

 ──誘導方式、飛翔速度は?

 

 甲高い金属音はオイルライターの蓋を開けたそれだ。

 

 続けてホイールとフリントが擦れ、火花を散らす音が鳴る。

 

 長身の二人の指揮官──装いはカーキ色の詰襟の軍服と黒い外套、薄茶色が主体の戦闘服と異なるが、いずれも倒壊した家屋の瓦礫へ腰掛けつつ拾った木の枝を使って地面へ文字や記号を綴っている。

 

 互いに無言──時折、溜め息のような吐息が漏れるが、それ以外は唇が然程動かない。

 

 ──潜伏(アンブッシュ)していたラプチャーの群れが出現。戦闘に乱入。

 

 ──彼女達に目標を任せ、俺が仕留める。何機かは撃ち漏らすだろうが牽制は可能。

 

 ──可能なのか?

 

 ──出来ないとでも?

 

 ──…正解にしておこう。次だ。

 

 フッと軽く鼻が鳴り、微かに口角が緩む。

 

 普段から冷ややかな印象を受けるアイスブルーの瞳は心無し──

 

「──楽しそうね」

 

「──何が楽しいんだか。()()()()()とず〜っと睨めっこしながら落書きしてるだけじゃないの?」

 

 魔女が微笑ましいと言わんばかりに肩を竦める横では小柄な──しかし地上最強の盾の担い手が小憎たらさを隠すことなく肩越しに背後を振り返った。

 

 相変わらず互いに無言──それも数時間だ。

 

 双方が指揮を執る部隊と分隊、そして派手な装いのニケが周囲を警戒する中、尚も忙しなく互いが握る枝が地面を引っ掻いては文字や記号が刻み付けられていく。

 

 口頭で実施される指揮力の試験──と聞いていたのだが。

 

「……ねぇ。ラピ、ネオン。あの二人…何してるの?」

 

「…砂盤を使ってのシミュレーション…かしらね」

 

「…って、なんですか?」

 

「…今度、調べてみて」

 

 現在は科学技術の発展で廃れてしまったが、地面や机上に砂や土を用いて地形を作成、必要ならば建物や車輌の模型まで配置する──戦場となる地域を縮小ではあるが、眼前に作り出すジオラマと言えば良いだろうか。

 

 本格的なそれは等高線から地形の高低を正確に割り出し、再現するのだが、彼等は大雑把に地面へ土を盛り、模型の代わりに石や瓦礫の破片を置いている始末だ。

 

「…あの石…誰ですかね?」

 

「ラプチャーじゃない?なんか形が不格好だし」

 

「…さぁ…どうだろう」

 

 するとエデンの指揮官──ヨハンが握る枝が動く。不格好な形の石を枝の先で弾き飛ばしたのだ。途端にアークの指揮官──ムーアは煙草の紫煙を燻らせつつ眉間へ深い縦皺を刻んだ。

 

「…私達の誰か、だったみたいですよ」

 

「マジかぁ…」

 

 あの不格好な形の石が分隊に所属する誰かである可能性を見出してしまい、ネオンとアニスは片や溜め息を吐き、片や空を仰ぎ見た。

 

 仲間達が思い思いの格好で嘆く様子を横目に捉えた後、ラピの紅い瞳が彼等へ向けられる。

 

「──…楽しそう、ね」

 

 微かに、それこそ気付かぬ程度に、彼の口角が緩んでいた。

 

 

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