勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─   作:一般指揮官

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久しぶりの投稿で大変申し訳ありません。

今回の一周年記念のイベント、皆様は如何だったでしょうか。まさかラストが……

心残りは…ミニゲームをする時間がほとんど作れなかったことでしょうか……(拘束時間が長すぎて…!

そして宣伝なのですが、拙作に含まれるアークガーディアン作戦の過去話を修整、加筆したお話を【Fragmented Memory】というタイトルで投稿しておりますので興味がございましたら……


第3話

 

 

「──ふむ…」

 

 エデンの指揮官は眼前で煙草の紫煙を燻らせるアークの指揮官──()()()()()()()()を見据えつつ整った形の自身の顎を軽く擦る。

 

「──100戦51敗30引き分け19勝」

 

「──散々な結果だ。酷いとしか言えん。負けるのは大嫌いだが、こうも酷いと言い訳のしようがない」

 

「──かもしれんな」

 

 喉の奥で低く唸りを上げる()()は結果に不服らしい。結果に不服──というよりも自身の体たらくに失望しているが正しいのだろう。

 

 実際、前半は負け続けだった。後半は引き分けが続き、最終的には──

 

「──無視できない犠牲と損害を出してしまった」

 

「──そうだな。それは揺るがない事実だ」

 

 ──しかし敢えて厳しい条件を課してのシミュレーションを実施したが、勝ちは得ていた。

 

 これを()()()()()()()すべきか。珍しく彼──ヨハンは悩んでしまう。

 

「お待ち下さい指揮官──あ、いえ。ヨハン指揮官」

 

 アイスブルーの瞳を細めるヨハンへドロシーが声を掛けた拍子だ。この場には()()()が2名も存在する。

 

 ほぼ同時に色違いの瞳が向けられ、彼女が改めて呼び掛ければ、濃い茶色のそれから送られる視線が逸れた。

 

「差し出がましいようですが…これなら悪くない結果なのでは?もし全てを指揮官基準で判断したら、この試験に合格できる人はいない筈です」

 

「……100戦中、たったの19勝でも、か?」

 

「…これが悪くない結果、だと?」

 

 再び色違いの瞳がドロシーへ揃って視線を送る。

 

 どちらも声音や言葉のニュアンスは異なるが、双方ともに()()の意味が込められていた。

 

 それに彼女は自信を以て頷きを見せる。

 

「──はい。特に最後の19回は連勝でしたよ」

 

 途端にヨハンと()()──ムーアが揃って眉間を寄せて皺を刻んだ。

 

 仮想での戦闘に勝利したのが100戦中19回。これを僅か、たった、と評価するのは簡単だ。

 

 しかし──と彼は内心で逡巡し、冷やな印象を余人へ抱かせてならないアイスブルーの瞳を細め、値踏みの視線をアークの指揮官へ注いだ矢先のこと。

 

「──あの〜どうしてそこまで少佐を作戦から外したいのかは分からないけど!」

 

 不意にツカツカとヒールの音を響かせつつ彼等へ歩み寄って来たパピヨンが声へ非難を混ぜながら上背のあるエデンの指揮官を見上げた。

 

「少佐もアークでは()()()()()なのよ?三大企業のCEOも、中央政府のえら〜い人達も皆、少佐に注目してるんだからね!?」

 

 ──そうなのか?知らなかった。

 

 思わずムーアが内心で驚く。尤も()()()()()()、というのは、警戒している、の意味も多分に含まれているのだろうが。

 

「何様のつもりか知らないけど、そんな人をここまで冷遇するなんて酷くない!?」

 

 ──冷遇、されているのか?

 

 微かに首を傾げつつムーアがソフトパックを振り、銜えた煙草へオイルライターの火を点けた。紫煙を燻らせ、ひとまずはパピヨンへ落ち着くよう促そうとした瞬間、今度は別の非難──或いは擁護の声が上がる。

 

「そうですよ!師匠はこう見えて、副司令官直属なんですからね!」

 

「そうそう。アークのライジングスターなんだから」

 

 ──ライジングスター(新星)とやらになった覚えは生憎とないのだが。

 

 ネオンとアニスの援護射撃──パピヨンを含めて彼女達は彼を擁護するつもりであった。

 

 しかし不意にアイスブルーの瞳が冷ややかに細められたかと思えば、その場で踵を返して何処かへ向かって歩き始めた。

 

「──ノア、イサベル、ハラン。私が戻るまで現在地を確保しておいてくれ」

 

 やや早足、そして矢継ぎ早に部下達の名を呼び、指示を出したヨハンの姿が荒れ果てた街角を曲がって消えるや否や、部隊の参謀役であるイサベルが深い溜め息を漏らし、続けて()()()()を加えた者達へ鋭い視線を投げ掛ける。

 

「──あなた達、今のは失言ね。指揮官はアークからやってきたもの全てを軽蔑してるのよ」

 

「……軽蔑?…ふむ…ということは…アークの内情を知っている、と解釈出来るな」

 

「──ッ…!」

 

 煙草を銜えたムーアが紫煙を燻らせながら僅かに無精髭が生え始めた顎を手袋で包まれた左手で擦る。

 

 まさか今の短い言葉だけで、とイサベルは双眸を見開きつつ反射的に上背のある彼を見上げた。

 

「…()()()()()()()()()()()()()、だったか」

 

 紫煙を緩く吐き出した彼が呟くのは──酒とチェスに誘われた際、ヨハンが漏らした一言である。

 

 あの発言は()()()()()()()()()の口からは決して出ない。

 

 となれば──

 

「──うーん…こっちも説得しようとしてるのに…逆効果だったわね…ごめん」

 

「…いや、気にするな。キミのせいではない。気遣いは嬉しく思う」

 

 パピヨンが意気消沈した様子で謝罪するも、彼は左右にヘルメットを被った頭を振った。

 

 すると同意する声が上がる。

 

「──そうですよ。皆さんのせいではありません」

 

 穏やかな高い声──ドロシーが武装を展開し、純白の天使さながらの格好でムーアの言葉へ頷いた。

 

「まだ遠くまでは行っていない筈です。私が説得してみます」

 

 

 

 

 

 

 新星、と持て囃されたのは果たしていつのことだったか。

 

 

 第二次地上奪還作戦──敗北こそ喫したが、戦役で活躍し、士官学校の創設、少数精鋭によるゲリラ戦術の導入と確立、あの日々は二度と戻って来ない。

 

 全てはあの日──アークのエレベーターに侵入したラプチャーの侵攻を防ごうとした戦闘で指揮を執った副司令官のミスの責任を押し付けられ、更生館に収容された瞬間、それまで積み重ねてきた全てが崩壊したのだ。

 

 細めていたアイスブルーの瞳を閉じ、深い溜め息を寂れた街角で漏らした、かつての()()()()()()()は背後から迫ってくる足音を捉えた。

 

「──指揮官。本当にあの方を作戦から排除するおつもりですか?」

 

「──そうだ」

 

 聞き慣れた声──問い質すそれに彼は背を向けたまま頷きを見せる。

 

「…何故ですか?」

 

「……あの男は、私に似ている」

 

 外見は間違いなく異なる。似ている、というのは──

 

「…いずれ自分の理想と現実の姿の違いに藻掻き苦しみ、やがて真実を知って全てに絶望する瞬間が必ずやって来る。かつての私と同じだ」

 

 同族嫌悪、にも似た感情だとは彼も理解している。勿論、これがアークの指揮官を作戦から排除しようとする根幹の理由ではない。

 

「…どう評価すべきか分からなくなった。おそらく…いや、間違いなく優秀なのだろう。頭の回転は早い。応用力もある。…ニケ達との関係も、良好の筈だ」

 

 指揮を執ったニケ達がどのような感情を抱いていたのかは、今では知る由もないが──まず間違いなくその点では彼に軍配が上がるだろう。

 

「…仮に作戦が失敗した場合、或いはあの男が死ぬ可能性があるとしたら……」

 

「損失、とお思いですか?」

 

 ドロシーの静かな問い掛け──ヨハンは何も返せなかった。それが図星であると聡い彼女が見抜けぬ訳もない。

 

「…でしたら、アークへ帰らせない、帰りたくない、と思わせてみては?」

 

 柳眉が怪訝な様子で寄り、浅く縦皺が刻まれる。外套を纏った肩越しに振り向いた指揮官へ純白の天使が薄い笑みを浮かべたまま形の良い唇を開いた。

 

「…或いは…弾除け、と取られるかもしれませんが…」

 

 ニヒリスターが認識、感知できる信号を意図的に発する。

 

 好戦的なヘレティックだ。わざわざ出迎えてくれるのは目に見えている。

 

 偵察や斥候──この際だ。理由や口実はなんだって構わない。何かしらの理由を付けてカウンターズや彼を先行させ、ニヒリスターと接触、交戦させる。

 

 まず間違いなくカウンターズは苦戦を強いられる筈だ。

 

 攻撃を加えても自己修復を延々と続けるニヒリスターに対し、分隊の損害や損傷が重なる一方の状況にムーアもアンチェインド使用を考え始めるだろう。

 

「──あの方がアンチェインドを撃ち込み、苦しんで暴れるニヒリスターを応援とし駆け付けた我々が制圧すれば良いのです。そうすればあの方やカウンターズの救世主となれるのではないでしょうか」

 

「…お前…」

 

 アイスブルーの双眸が大きく見開かれる。

 

「…最初からそのつもりで、彼等を連れて来たのか…?」

 

 嬉々と──籠絡を語る様子は外見とは釣り合わない。悪怯れもせず、思惑を白状した彼女へ指揮官が身体ごと向き直ると、ドロシーは小首を可憐に傾げてみせた。

 

「…勿論です。アンチェインドを()()()()対価として、便利に使える戦力が手に入れば──しかも指揮官も認める…あぁ、いえ、()()()()()()()()()()()()()()()()、でしたか?そのような方が我々の側に付いてくれるかもしれないのですよ?悪くはない取引だとは思いませんか?」

 

 冷静沈着を旨とする男が言葉を失う。

 

 やっと絞り出したのは──

 

「──…吐き気がするな」

 

 人間を思惑通りに転がし、籠絡し、手駒とする。やがて使い道がなくなり、もしくは飽きてしまえば捨ててしまえば良い──そのような考えすら受け取ってしまう。

 

 それではまるで──

 

「──何故ですか?私のやり方が…指揮官がアークで経験したことと似ているから?あ、そういえば…」

 

 純白の天使──アメシストの瞳が濁り、口角が次第に緩む。可憐とは真逆の悪意すら感じられる形に歪んだ唇は生理的な嫌悪感すら()()()()()()()()()()()へ抱かせた。

 

「不本意ながら、指揮官のトラウマを刺激してしまいましたね。あら…本当にごめんなさいね?」

 

 この純白の天使──の皮を被った怪物が過去にどのような出来事に見舞われたのかをヨハンは全てを知っている訳ではない。

 

 しかし薄々と感じ取れる人類へ、アークへ対する悪意ある執着心は察して余りある。

 

 ねっとりと絡み付くようなアメシストから注がれる視線から逃れようとヨハンは元来た道を戻り始めた。その背後に続き出した()()へ彼はせめてもの意趣返しを込めて声を掛ける。

 

「……アイツはお前のような怪物を見てもニケに対する態度を変えようとしないのだろうか」

 

「──えぇ、きっと。そんな方だと思います。()()()()()を知っていますから。ふふっ…」

 

 

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