勝利の女神:NIKKE ─The Last Kiss─ 作:一般指揮官
ご感想を頂くのは素直に嬉しいのですが、意味不明、或いは文章の解読と意味の咀嚼や解釈が困難極まる場合、大変申し訳ありませんがユーザーブロックさせて頂きます。また、失礼とは存じますが返信も控えさせて頂きます。
日本語が脆弱な書き手の私でも読み解ける優しい文章でのご感想を頂ければ幸いに存じます。
空挺扉の真横へ取り付けられたランプが赤く点灯。それを認めた瞬間、
「──降下用意!!」
発動機の爆音が轟き、搭乗員が開放した扉から吹き込む風で機内は途端に騒々しくなる。
「──ふざけやがって!空軍の連中、昼寝でもしてやがったのか!」
「──まだブリキ共が生き残ってるじゃねぇか!」
乗り込んだ
「──3番機被弾!」
「──あぁ、クソがッ!」
──真横を飛んでいた僚機に直撃弾。
火達磨と化した機体が紅蓮の炎と黒煙の尾を夜空に引きつつ地上へ落下する光景を横目に男は声を張り上げた。
「──環掛けッ!」
腰を上げた数十名の兵士達が機内へ張られたワイヤーへ落下傘の開傘紐──
全員のフックが掛けられると続いて大声が張り上げられ、手振りも用いて指示が飛ぶ。
「──装具点検!」
主傘、予備傘、胸帯、股帯、装着帯、武装──身に付けるありとあらゆる装具を兵士達は点検する。これが降下前の最後の点検だ。それぞれが互いに目視や手で触れ、一切の遅滞なく、そして容赦なく点検を済ませて行った。
「──我が戦友達、我が兄弟達よ!どんな大軍よりもお前達を頼りにしている!」
「「「oohrah!!」」」
「──地べたを惨めに這い蹲っている哀れなブリキ共に教えてやれ!俺達は血も涙もない
「「「oohrah!!」」」
「──今日という日をそのスカスカの脳味噌に刻み付けておけ!今日は死ぬには最高の日であり、今日こそが記念すべき人類の反撃が始まった日であると!」
「「「oohrah!!」」」
「──準備は良いな!さぁ行くぞ──」
空挺扉の前へ立ち、唸りを上げる発動機や吹き荒びつつ機内へ流れ込んで来る風の音に負けじと声を張り上げていた男の頭が吹き飛んだ。
対空砲火、空中で炸裂する砲弾の破片が機体を貫通したのだろう。
バンッと弾けた頭部。白い脳漿や頭皮と短い髪が張り付いたままの肉片が機内へ飛び散り、力を失った男がそのまま機外に放り出される。
「──俺が臨時に指揮を執る!この位置まで前へ!!」
3等軍曹──その階級章が縫い付けられた戦闘服を纏う長身かつ大柄の下士官が声を張り上げる。列の先頭に立っていた彼は、代わって空挺扉の前へ立ち、身振り手振りも混ぜて兵士達を数歩前進させ、赤々と点灯するランプを睨んだ。
今か。
まだか。
もうすぐか。
──ボンとランプが赤から緑に変わる。
「──降下!!」
「──何故、知っている?」
対面へ腰掛ける青年の双眸が警戒を宿して細められた。
警戒心も跳ね上がっているのだろう。飛空艇へ設けられた彼女──ドロシーの居室で青年は部屋の主に身構えた。
「……そう警戒なさらないで下さい。私の出自は御存知では?」
随伴部隊を率いる者として
それを仄めかすと青年──上着の長袖を綺麗に折って腕まくりし、みっしりと自前の筋肉が詰め込まれている日焼けした太い両腕を曝す彼は苦虫を何匹か纏めて噛み潰したかの如く顔を顰めた。
「…なるほど。忘れていた。キミは
「…お嬢様はやめて下さい」
「あぁ、失礼した。──関係者だったのか?」
「そういう訳ではなかったようです。ただ…人間であった頃、耳にしていたのを覚えていただけです」
外見、立ち居振る舞いも含めて
とはいえ、青年は彼女が度々、レッドフードから暇さえあれば
「…
皮肉を混ぜながらでしかコミュニケーションが取れないのだろうか。それなりの付き合いではあるが、こうも自然な流れで皮肉を吐かれることはこれまで経験した彼女の人間関係では──いや、割と近しい人物から度々受けていた、とドロシーは思い至り、小さな溜め息を漏らしつつ眼前で煙草のソフトパックを胸ポケットから取り出した青年を認める。
二度目の溜め息だった。ドロシーが手繰り寄せたリモコンを操作し、居室の空調機能を起動させた。
「──あぁ、済まんな」
悪怯れもせず、口にされた詫びと礼へ彼女は肩を軽く竦めるだけだ。
年季が入ったオイルライターの上蓋が特徴的な金属音を響かせながら開き、やがてホイールを回して火が灯った。
「──下士官上がりの少尉だから生憎と学は無いが…今世紀は前世紀の人類が思い描いていた平和で理想的な未来とは異なった筈だ」
銜えた煙草の先端が炙られ、火が点いた。再び金属音が響き、オイルライターが胸ポケットへ──綱が巻き付いた錨、鷲、地球儀で構成された図柄で小さな刺繍が刻まれたそれの中へオイルライターが仕舞われる。
「──キミの記憶にあるか、それともおそらくは知識で持っているかもしれんが…テロの頻発、それに伴って紛争や戦争もあちこちで勃発。そして気候変動、温暖化での海面上昇…前世紀の人類が思い描いた理想の世界とは真逆の方向へ歴史の舵は切られた。あぁ、いや…技術力や科学力は発展したか…軌道エレベーターなんて造ったからな」
どうやら質問には答えてくれるらしい。尤も紫煙を燻らせての一服がてら、だが。
「…それが計画にどのような関係が?」
「──LIC」
「…確か…
ドロシーが思い至った言葉を紡ぐと眼前の青年は小さく頷き、肯定を示しつつ取り出した携帯灰皿へ溜まった灰を叩き落とした。
「本来の意味は戦争と平和状態との中間にあたる緩やかな紛争状態を指す概念や定義──だが、市街戦、ゲリラ戦を指す言葉にもなっているな。この場合は後者だ」
「…後者?」
「…軍隊とは金食い虫だ。際限なく国庫を食い潰す。むしろ消費活動しか出来ない組織だ。戦時になれば尚更」
その軍隊に所属する人間であろうに、随分と達観した物言いである。
「資源、人材、その他諸々を際限なく消費し、国家を痩せ細させる原因──そこで何処かの誰かが考えた。数百の兵隊を投入して作戦を遂行させるよりも、個人が相応の戦力を有する兵隊であったならコストは減るのではないか、と」
「…はい?」
「…切っ掛けや動機がなんだったのかは俺も正確には知らん。正直、あまり興味がない。まぁどうだって良い話だ。…戦場での苦痛やストレス、疲労を緩和に耐性の増強。義肢や機械的な装置の埋め込み等による体力、回復力、認知力、知覚力、精神力の強化──を最初は試みたが、そこまで大きな成果は得られなかったとは聞いている」
それは生命倫理に問題があるのでは──と、ニケであるドロシーが他人事のように考え込む姿を認め、青年が微かに吹き出す。
あまりにも失礼な態度だ。アメシストの双眸が不快に細められるのも無理からぬことである。
「済まない。…美人は思い悩む姿だけでも絵になると感じただけだ」
「…お世辞は結構です」
「生憎と世辞は苦手なんだがな」
肩を竦め、慣れた手付きで携帯灰皿へトントンと溜まった灰を叩き落とす青年だが──そこでふと彼女は素朴な疑問を抱く。
果たして眼前の
「…いきなりで申し訳ありません。失念したのかもしれませんが…おいくつでしたか?」
「いくつに見える?──冗談だ」
再びからかって煙に巻こうとしているのだろうか。ドロシーの美しい表情が険しくなれば、彼も素直に自身の年齢を答えた。
──20歳だ、と。
「…もっと年長かと」
「そんなに老けているか?…まぁ貫禄がある、と好意的に捉えよう」
銜えた煙草が短くなる。最後の一口を名残惜しく口腔と肺で堪能し、唇の端を窄めて緩く吐き出した彼が煙草を携帯灰皿へ投げ込んだ。
「となりますと…入隊してまだ数年なのですか?」
人類が生身で対抗できる存在ではない筈の敵──ラプチャー、青年やその指揮下にある彼等は
自殺行為、自殺志願者もかくやと言った戦い方だ。しかし著しい戦果を挙げているのはドロシーを始めとしてリリーバイス達も周知の通り。
青年は20歳だと言う。となれば彼等──人類で編制された部隊を構成する彼等もおそらくは同年代。その若さで良くぞ対ラプチャー戦闘に関する戦術、それを可能とするだけの肉体を練り上げたと感心すら覚えた。
だが、ドロシーに対し、青年は緩々と頭を左右へ振って予想を否定する。
「…違うのですか?」
「軍歴は20年だよ」
「…はい?」
冗談も休み休み言って欲しい、と彼女は不快な様子で眉間へ浅く皺を刻む。しかし彼は表情を崩さず、からかうこともなくあっさりと口にした。
「本当の話だ。軍歴は20年。勿論、公的な記録は残されてはいないが」
それが事実だとすれば、乳飲み子の頃から軍隊で生活していた──という荒唐無稽にも程がある話だ。
また煙に巻こうとしているのだろう。大体、乳児へ軍事教練を実施するような軍隊の類が何処に存在するというのか──
「──お待ち下さい。
ほんの数分前に青年が漏らした一言の真意を彼女は尋ねる。
尋ねられた側は、二本目の煙草を銜え、オイルライターの火を点けて紫煙を燻らせながら小さな溜め息を吐き出した。
「その結果がキミの前にいる、とだけ言っておく」
「…それは…」
「…俺とキミが、もう少し親しくなったら教えよう。…機密を話して良いのかは分からんが…この期に及んで隠す必要もないだろうからな」
そうやっていつもはぐらかすのだ──と、ドロシーが不満げに頬を軽く膨らませ、僅かながらそっぽを向く。
幼さすら感じられる様子と態度は新鮮である。紫煙を漏らしつつ彼が喉を鳴らして小さな笑い声を上げ──やがてそれを収めると溜め息を吐き出した。
「──まぁ、少しだけ教えるとすれば…俺達は
「…呪い…?」
この御時世に非科学的な表現もあったものだ。そっぽを向いていたアメシストの瞳が対面へ向けられ、それを認めた彼がほんの少しだけ首肯する。
「──自然の摂理、もしくは神に逆らった罰。…好きでこんな形の生を受けた訳じゃないんだがな」
隠しようのない諦念が混ざった低い声を彼女は忘れられそうになかった。